原作小説「銀河英雄伝説4巻(アニメ2期中編相当)」の名言・台詞をまとめていきます。
銀河英雄伝説4巻
第一章 雷鳴
「帝国の歴史家どもは、ルドルフ大帝の怒号を雷にたとえているが」
「ご存じだろう、フロイライン・マリーンドルフ」(ラインハルト・フォン・ローエングラム)
「なかなか巧みな比喩だ」
「雷というやつは…要するにエネルギーの浪費だ」(ラインハルト)
「巨大な熱と光と音を持っているが、ただ荒れ狂うだけで」
「何ひとつ他を益するものはない」(ラインハルト)
「まさにルドルフにふさわしい」
「おれはちがう。おれはそうはならない」(ラインハルト)
「ランズベルク伯は、わたしの知るかぎりでは、かなりのロマンチストでしたわ」
「おっしゃるとおりです」(ヒルデガルド・フォン・マリーンドルフ、通称:ヒルダ)
「ランズベルク伯がもどってきた理由は、もっと深刻で」
「彼にとっては危険を冒す価値のあるものでしょう」(ヒルダ)
「行動的ロマンチストをもっとも昂揚させるのは、歴史が示すように」
「強者に対するテロリズムです」(ヒルダ)
「ランズベルク伯にとっては、これは誘拐ではありません」
「幼少の主君を敵の手から救出する忠臣の行為です」(ヒルダ)
「何の抵抗もなく、それどころか喜々として実行するでしょう」(ヒルダ)
「結局、またしてもフェザーンの黒狐か」
「奴はけっして自分では踊らない」(ラインハルト)
「カーテンの陰で笛を吹くだけだ」
「踊らされるへぼ詩人こそ、いい面の皮だな」(ラインハルト)
「わたしには、護衛をしてもらう必要も資格もありません」
「フロイライン」(アンネローゼ・フォン・グリューネワルト)
「…古いことをお話ししましょう」
「わたしとラインハルトの父が、わずかな資産を費いはたして」(アンネローゼ)
「とうとう屋敷も手放し、下町の小さな家に移ったのは12年前のことです」
「何もかもなくしたように見えましたけど、あたらしく得たものもありました」(アンネローゼ)
「ラインハルトが生まれてはじめて持った友人は」
「燃えるような赤毛と感じのいい笑顔を持った背の高い少年でした」(アンネローゼ)
「その少年にわたしは言ったのです」
「──ジーク、弟と仲よくしてやってね、と…」(アンネローゼ)
「赤毛の少年は約束を守ってくれました」(アンネローゼ)
「いえ、それどころか、わたしが望んでいた以上のこと」
「他の誰にもできないことをやってくれたのです」(アンネローゼ)
「わたしが、ジークフリード・キルヒアイスの人生と生命と」
「そしてそれ以外のすべてまでも奪ってしまったのです」(アンネローゼ)
「彼は亡くなり、わたしは生きながらえています」
「わたしは罪の深い女です…」(アンネローゼ)
「死んだ人のことばかりでなく、生きている人のことも、どうかお考えください」
「伯爵夫人、あなたがお見捨てになったら、ローエングラム公は救われません」(ヒルダ)
「キルヒアイス提督は、死ぬには若すぎる年齢でした」
「ローエングラム公も、精神的に死ぬには若すぎる年齢だと、お思いになりませんか?」(ヒルダ)
「…お礼を申しあげなくてはいけませんね、フロイライン」
「弟のことをそんなにも思いやってくださってありがとう」(アンネローゼ)
「フロイライン・マリーンドルフ、あなたのご裁量におまかせします」(アンネローゼ)
「この山荘を出るつもりはありませんが」
「それ以外のことはどうぞあなたのよろしいようになさってください」(アンネローゼ)
「アンネローゼと呼んでくださいね、これから」(アンネローゼ)
「はい、では、わたしのこともヒルダとお呼びください」(ヒルダ)
「あなたの他にもアンネローゼさまをお守りしたい人がいるということを認めてあげて」(ヒルダ)
「これは困った。一流の戯曲が一流の劇として完成を見るには」
「一流の俳優が必要だそうだが、卿の演技はいささか見えすいていて興をそぐな」(ラインハルト)
「弁務官、フェザーンが私と盟約を結びたいというなら」
「さらにひとつ提供してもらわねばならぬものがある」(ラインハルト)
「言わずと知れたことだ。フェザーン回廊の自由航行権だ」
「それを帝国軍に対して提供しろと言っているのだ」(ラインハルト)
「卿らが真に望むのは、帝国軍がイゼルローン回廊に無数の死屍をならべることか」
「ありうることだな」(ラインハルト)
「両勢力ともだおれの後に、フェザーンひとり漁夫の利を占める、か」(ラインハルト)
「三つの勢力のうちふたつが合体するとして」
「その一方が必ずフェザーンだなどとは思わぬほうがよいのではないか」(ラインハルト)
第二章 迷路
「いまでさえ厳重すぎるほどの警備をしているわけでもないのだ」(ラインハルト)
「宇宙には、あのイゼルローン要塞を無血占領するほどの男もいるといいうのに」
「たかだが皇帝ひとり誘拐することもできぬ輩と手を組めるか」(ラインハルト)
「(警備責任者の)モルト中将は古風な男です」(パウル・フォン・オーベルシュタイン)
「皇帝を誘拐されたとあれば、たとえ閣下がお赦しになっても」
「ご好意に甘んずるをいさぎよしとしますまい」(オーベルシュタイン)
「閣下、お耳よごしながらひとつだけ申しあげておきます」
「一本の木もひきぬかず、一個の石もよけずに、密林に道を開くことはできませんぞ」(オーベルシュタイン)
「ときとして閣下は、ごく初歩的なことをお忘れになるように、小官には思われます」(オーベルシュタイン)
「人類の歴史がはじまって以来、敵だけでなく味方の大量の屍体の上にこそ」
「すべての英雄は玉座をきずいてきたのです」(オーベルシュタイン)
「白い手の王者など存在しませんし、部下たる者もそれは承知しております」(オーベルシュタイン)
「ときには死を与えることが忠誠に酬いる道となることもあるのだ」
「と、お考えいただきたいものです」(オーベルシュタイン)
「では、卿も、私のためには自分の血を流すこともいとわぬというのか」(ラインハルト)
「必要とあらば…」(オーベルシュタイン)
「よかろう。その赤ん坊に玉座をくれてやろう」(ラインハルト)
「子供の玩具としては多少おもしろみに欠けるが」
「そういう玩具を持っている赤ん坊が宇宙にひとりぐらいいてもいい」(ラインハルト)
「ふたりは多すぎるがな」(ラインハルト)
第三章 矢は放たれた
「フェザーンを手玉にとろうとお考えなのですか」(ヒルダ)
「奴らのほうが私を手玉にとろうとしたのだ」(ラインハルト)
「いずれ判明することだ。犯人がつかまれば、ケスラーが告白させる」
「つかまらなければ、奴ら自身が得々として自分たちの功を誇るだろう」(オスカー・フォン・ロイエンタール)
「皇帝が自分たちの手中にあることを公にしなければ」
「そもそも誘拐の目的が達せられないのだからな」(ロイエンタール)
「第二の、と言わず、自由惑星同盟の存在を、このさい考慮に入れるべきだろう」
「門閥貴族の残党どもと共和主義者では水と油に見えるが」(オーベルシュタイン)
「ローエングラム公が覇権を確立するのを妨害する、というただそれだけの目的のために」
「野合しないとは言いきれぬからな」(オーベルシュタイン)
「犯人どもが自由惑星同盟に逃げこめば、たしかに、そう簡単には攻撃できぬ」(オーベルシュタイン)
「もし、自由惑星同盟と称する叛徒どもが、この不逞なくわだてに荷担しているとすれば」
「奴らには必ず負債を支払わせる」(ラインハルト)
「奴らは一時の欲にかられて大局をあやまったと」
「後悔に打ちひしがれることになるだろう」(ラインハルト)
「遠からず空前の出兵があるかもしれんな」(ウォルフガング・ミッターマイヤー)
第四章 銀河帝国正統政府
「おれの趣味は、ポプランほど悪くないよ」(ワルター・フォン・シェーンコップ)
「緊急だったら重大に決まっているだろう」(ヤン・ウェンリー)
「吾々は、流浪の少年皇帝を助けて、悪の権化である簒奪者と戦う正義の騎士というわけだ」
「たいしたものさ。立体TVドラマの主役がはれるぜ」(オリビエ・ポプラン)
「だいたい何だっておれたちが」
「ゴールデンバウム王家を守るために血を流さねばならんのだ!?」(ポプラン)
「ひいじいさんの代からいままで100年以上も戦いつづけてきたのは」
「ゴールデンバウム王家を打倒し全銀河系に自由と民主主義を回復させるためだったんだろうが」(ポプラン)
「しかし、これで平和が到来するとすれば、政策の変更もやむをえない」(イワン・コーネフ)
「平和が来るなら、それもよかろうさ」(ポプラン)
「だが、ゴールデンバウム家との間に平和が来ても」
「ローエングラム公との間はどうなるんだ?」(ポプラン)
「やっこさんにしてみれば、愉快な道理がない」
「怒り狂って攻めてくること疑いないぜ」(ポプラン)
「だからといって、皇帝を追い返すわけにいくまい」(コーネフ)
「そもそも、皇帝といっても7歳の子供だ」
「人道上、助けないわけにもいかんだろう」(コーネフ)
「人道だと? ゴールデンバウム家の奴らが」
「人道なんぞ主張する権利を持っているとでも言うのか」(ポプラン)
「ルドルフとその子孫どもが、何百億人の民衆を殺したか」
「歴史の教科書を読みかえしてみるんだな」(ポプラン)
「先祖の罪だ。あの子供の罪ではない」(コーネフ)
「お前さんは正論家だな。いちいち言うことがもっともだ」(ポプラン)
「それほどでもないが…」(コーネフ)
「謙遜するな! おれは皮肉を言ってるんだ!」(ポプラン)
「たった7歳の子供が、自由意志で亡命などするわけがない」
「救出とか脱出とか言うが、まあ誘拐されたと見るべきだろう」(アレックス・キャゼルヌ)
「忠臣と自称する連中によってな」(キャゼルヌ)
「議長の名演説をお聞きになったでしょう」
「あれだけ大きなことを言ったら、内心で返したくとも返せるわけがない」(シェーンコップ)
「まあ仲よくするのだったら、一世紀はやく手をつないでおくべきでしたな」(シェーンコップ)
「どだい、相手が実効的な権力を失って逃げだしてきてから仲よくしようなんて」
「間の抜けた話じゃありませんか」(シェーンコップ)
「分裂した敵の一方と手を結ぶ」
「マキャベリズムとしてはそれでいいんだ」(ヤン)
「ただ、それをやるには、時機もあれば実力も必要だが」
「今度の場合、どちらの条件も欠いているからな」(ヤン)
「首都では騎士症候群が蔓延しているらしい」
「暴虐かつ悪辣な簒奪者の手から、幼い皇帝を守って正義のために戦おう」
「というわけさ」(キャゼルヌ)
「ゴールデンバウム家の専制権力を復活させるのが正義ですか」(シェーンコップ)
「ビュコック提督にならって言えば、あたらしい辞書が必要ですな」
「反対する者はいないのですか」(シェーンコップ)
「慎重論もないではないが、口を開いただけで非人道派よばわりされてしまう」
「7歳の子供、というだけで、おおかたは思考停止してしまうからな」(キャゼルヌ)
「17、8の美少女だったら、熱狂の度はもっと上がるでしょうな」
「だいたい民衆は王子さまとか王女さまとかが大好きですから」(シェーンコップ)
「昔から童話では王子や王女が正義で、大臣が悪と相場が決まっているからな」
「だが童話と同じレベルで政治を判断されたらこまる」(キャゼルヌ)
だが、いずれにしても、同盟政府は責任をとらねばなるまい。
原因ではなく結果に対して…。(ヤン)
盗賊に三種類ある、とは、誰が言ったことであっただろうか。
暴力によって盗む者、知恵によって盗む者、権力と法によって盗む者…。(ヤン)
ローエングラム公によって大貴族支配体制の軛から解放された帝国250億の民衆は、
最悪の盗賊と手を組んだ同盟を許すことはないであろう。(ヤン)
当然のことである。(ヤン)
やはり、かつて想像したように、自分は銀河帝国の「国民軍」と戦うことになるのだろうか。
そのとき、正義はむしろ彼らのがわにあるのではないのか…。(ヤン)
「…私はレムシャイド伯と必ずしも一致した見解を持っていません」(ウィリバルト・ヨアヒム・フォン・メルカッツ)
「皇帝陛下に対する忠誠心は彼に劣らぬつもりですが、私としては」
「陛下に一市民として波瀾のない生活を送っていただきたいと思っています」(メルカッツ)
「亡命政権などつくったところで」
「ローエングラム公の覇権をくつがえすことは不可能です」(メルカッツ)
「彼は民衆を味方にしています」
「彼らの支持を受けるだけのことをしているからです」(メルカッツ)
「私が理解に苦しむのは…幼い陛下を保護すべき人々が」
「かえって陛下を政争と戦争の渦中におこうとしているかに見えることです」(メルカッツ)
「亡命政権をつくるなら、自分たちだけでつくればよい」
「未だ判断力も具えておいでではない陛下を巻きこむことはないはずです」(メルカッツ)
「考えてみれば、需要と供給がみごとに一致したのですな」
「ローエングラム公の権力基盤は民衆にあり、彼はもはや皇帝の権威を必要としない」(シェーンコップ)
「一方、レムシャイド伯とやらは、実体のないものとはいえ」
「亡命政権において主導権をにぎるために、廃物利用をしなくてはならない立場です」(シェーンコップ)
「メルカッツ提督のご見識はわかりました」
「ですが、私としては、閣下ご自身がどう選択し」
「どう行動なさるかをうかがいたいのです」(ムライ)
「ムライ少将…組織のなかにいる者が」
「自分自身のつごうだけで身を処することができたらさぞいいだろうと思うよ」(ヤン)
「私だって、政府の首脳部には、言いたいことが山ほどあるんだ」
「とくに腹だたしいのは、勝手に彼らが決めたことを、無理に押しつけてくることさ」(ヤン)
「思うのは自由だが、言うのは必ずしも自由じゃないのさ」(ヤン)
「なるほど、言論の自由は思想の自由よりテリトリーが狭いというわけですか」
「自由惑星同盟の自由とは、どちらに由来するのですかな」(シェーンコップ)
「自由の国か。私は6歳の時に祖父母につれられてこの自由の国に亡命してきたんですよ」
「もう28年も前になりますがね、よく憶えています」(シェーンコップ)
「針を撃ちこんでくるような風の寒さと」
「亡命者をこじきあつかいする入国管理官の、卑むような目つきをね」(シェーンコップ)
「たぶん、死ぬまで忘れんでしょうな」(シェーンコップ)
「つまり、私は一度、祖国を喪失した男です」
「一度が二度になったところで、いまさら驚きも嘆きもしませんよ」(シェーンコップ)
「人間の想像力など、たかのしれたものだな」(メルカッツ)
「まさかこういう運命が私のために席を用意していようとは」
「つい一年前には考えつきもしなかった」(メルカッツ)
「正統政府の軍務尚書と言えば、外聞はよいですが」
「実情としては、閣下の指揮なさる一兵も存在しないではありませんか」(ベルンハルト・フォン・シュナイダー)
「それでも、ヤン提督の艦隊を、一時ながらあずかって指揮なさいました」
「今度はそれすら望めません」(シュナイダー)
「虚名があるのみで、1グラムの実もありはしない…」(シュナイダー)
「だが、皇帝陛下がおわす…」(メルカッツ)
「私はここに宣告する」
「不法かつ卑劣な手段によって幼年の皇帝を誘拐し、歴史を逆流させ」(ラインハルト)
「ひとたび確立された人民の権利を強奪しようとはかる門閥貴族の残党どもは」
「その悪業にふさわしい報いを受けることとなろう」(ラインハルト)
「彼らと野合し、宇宙の平和と秩序に不逞な挑戦をたくらむ自由惑星同盟の野心家たちも」
「同様の運命をまぬがれることはない」(ラインハルト)
「誤った選択は、正しい懲罰によってこそ矯正されるべきである」
「罪人に必要なものは交渉でも説得でもない」(ラインハルト)
「彼らにはそれを理解する能力も意思もないのだ」
「ただ力のみが、彼らの蒙を啓かせるだろう」(ラインハルト)
「今後、どれほど多量の血が失われることになろうとも」
「責任は、あげて愚劣な誘拐犯と共犯者とにあることを銘記せよ…」(ラインハルト)
「またイゼルローンが最前線になりますかな」
「迷惑なことだ」(シェーンコップ)
「この要塞があると思うから、政府首脳は平気で愚行を犯す」
「いささか考えものですな」(シェーンコップ)
第五章 ひとつの出発
「ヤン・ウェンリーの独裁者としての資質か。こいつは興味深い命題だな」
「まあ、ちょっと無理だろうな」(ホワン・ルイ)
「ヤン・ウェンリーという青年は、なかなかうまいカクテルだが」
「独裁者になるための成分には欠けていると私は見る」(ホワン)
「むろん、知性や道徳性の問題じゃない」
「自己の無謬に対する確信と、権力への恋愛感情」
「このふたつが彼には欠けている」(ホワン)
「あの査問会にかぎって言えば、彼は傑出した戦術家だったよ」
「しかし戦略家とは言えないな」(ホワン)
「戦略家なら、後日のためにどんな愚劣な連中でも味方につけようと考えるだろう」(ホワン)
「ところが、わが好青年ヤン・ウェンリーくんは…」
「豚に向かって、お前は豚だ、と言ってのけたわけだ」(ホワン)
「人間としては、あれでいい」
「怒るべき場合に怒ってこそ、人間は尊厳をたもつことができる」(ホワン)
「ところがここに悲しむべき過去の事例がいくつも横たわっているのさ」(ホワン)
「人間としての尊厳と、政略上の成功とが」
「往々にして等価で交換される、というね…」(ホワン)
「さしあたり、私の結論。ヤン・ウェンリーは独裁者にはなれんよ」
「すくなくとも本人にその意思はない」(ホワン)
腐敗した民主政治と清潔な独裁政治のいずれをとるか、
これは人類社会における最も解答困難な命題であるかもしれない。
「ことわってください、こんな命令(フェザーン着任)」(ユリアン・ミンツ)
「そういうことでしたら、ぼくは軍属にもどります」
「だったら命令にしたがわなくてもいいんでしょう?」(ユリアン)
「わかりました」
「駐在武官としてフェザーンに赴任します」(ユリアン)
「でも、統合作戦本部の命令だからじゃありません」
「ヤン・ウェンリー提督のご命令だからです」(ユリアン)
「ご用がそれだけでしたら、さがらせていただいてよろしいでしょうか、閣下」(ユリアン)
「ユリアンの気持はわかりますわ」
「閣下にとって必要のない人間と思われたのではないか」
「と、きっとそう感じたんです」(フレデリカ・グリーンヒル)
「必要がないなんて、そんなことがあるわけないだろう」(ヤン)
「必要がなくなったから傍に置かないとか、必要だから傍にいさせるとか」
「そういうものじゃなくて…」(ヤン)
「必要がなくても傍にいさせる、いや」
「必要というのは役に立つとか立たないとかいう次元のものじゃなくてだね…」(ヤン)
「話しあう必要があるな」(ヤン)
「お前をフェザーンにやるのは、何よりもそれが軍命令だからだが、私自身としても」
「信頼できる人間にフェザーンの内情を見てきてもらいたいという気持があるんだ」(ヤン)
「それでも、やはり、行くのはいやかな」(ヤン)
「誰でも、帝国軍はイゼルローン回廊から侵入してくるものと考えている」
「そんな規則や法則があるわけでもないのにな」(ヤン)
「ローエングラム公にとって、もっとも有効な戦略は」
「一軍をもってイゼルローンを包囲する一方で」
「他の軍をもってフェザーン回廊を突破することだ」(ヤン)
「彼にはそれだけの兵力があるし、そうすればイゼルローンは路傍の小石も同様」
「孤立して何の意味もない存在になる」(ヤン)
「現在の状況は古来から固定しているものと吾々は誤解しがちだ」(ヤン)
「だけど、考えてもごらん」
「銀河帝国なんて代物は500年前には存在しなかった」(ヤン)
「自由惑星同盟の歴史はその半分の長さだし」
「フェザーンにいたっては一世紀そこそこの歳月を経ただけだ」(ヤン)
「ぼくがフェザーンに行って、すこしでも彼らの政策や政略について探ることができたら」
「それに、帝国軍の行動についても知ることができたら」(ユリアン)
「それは閣下のお役に立てますね?」
「だったら、ぼく、喜んでフェザーンへ行きます」(ユリアン)
「このままいくと、吾々はどうやらローエングラム公ラインハルトと」
「死活を賭けて戦わなくてはならないらしい」(ヤン)
「ところでユリアン、ローエングラム公は、はたして悪の権化なんだろうか」(ヤン)
「そりゃそうさ」
「悪の権化なんて立体TVのドラマのなかにしか存在しない」(ヤン)
「悪というなら、こんど自由惑星同盟は帝国の旧体制派と手を組んだ」(ヤン)
「すくなくとも現象面においては、歴史の流れを加速させるがわでなく」
「その流れを逆転させるがわに与したということだ」(ヤン)
「後世の歴史は、吾々を善ではなく悪の陣営として色分けするかもしれない」
「そういう観点も歴史にはあるということさ」(ヤン)
「絶対的な善と完全な悪が存在する、という考えは」
「おそらく人間の精神をかぎりなく荒廃させるだろう」(ヤン)
「自分が善であり、対立者が悪だとみなしたとき、そこには協調も思いやりも生まれない」
「自分を優越化し、相手を敗北させ支配しようとする欲望が正当化されるだけだ。(ヤン)
人間は、自分が悪であるという認識に耐えられるほど強くはない。(ヤン)
人間が最も強く、最も残酷に、最も無慈悲になりうるのは、
自分の正しさを確信したときだ。(ヤン)
「ユリアン、ノアの洪水の伝説を知っているだろう?」
「あのときノア一族以外の人類を抹殺したのは、悪魔ではなく神だ」(ヤン)
「これにかぎらず、一神教の神話伝説は、悪魔でなく神こそが」
「恐怖と暴力によって人類を支配しようとする事実を証明している」
「と言ってもいいほどさ」(ヤン)
「だから、ユリアン、お前がフェザーンにいって」
「彼らの正義と私たちの正義との差を目のあたりに見ることができるとしたら」(ヤン)
「それは、たぶんお前にとってマイナスにはならないはずだ」(ヤン)
「それに比較すれば、国家の興亡など大した意義はない」
「ほんとうだよ、これは」(ヤン)
「どれほど非現実的な人間でも、本気で不老不死を信じたりはしないのに」
「こと国家となると」(ヤン)
「永遠にして不滅のものだと思いこんでいるあほうな奴らがけっこう多いのは」
「不思議なことだと思わないか」(ヤン)
「国家なんてものは単なる道具にすぎないんだ」
「そのことさえ忘れなければ、たぶん正気をたもてるだろう」(ヤン)
「キャゼルヌ先輩はひとつだけいいことをしてくれたよ」
「お前を私のところへつれてきてくれたことさ」(ヤン)
「よくもまあ、ユリアンを手放す気になったな」
「思いきりがよすぎるのじゃないか」(キャゼルヌ)
「りっぱな意見だが、お前さん」
「ユリアンがいなくてきちんと生活していけるのかね」(キャゼルヌ)
「グリーンヒル大尉もそうだけど、どうして誰も彼も」
「ユリアンがいないと私が生活無能力者になってしまうと思うんです」(ヤン)
「それが事実だからさ」(キャゼルヌ)
軍事が政治の不毛をおぎなうことはできない。(ヤン)
それは歴史上の事実であり、
政治の水準において劣悪な国家が最終的な軍事的成功をおさめた例はない。(ヤン)
「酒は人類の友だぞ。友人を見捨てられるか」(ヤン)
「人間はそう思っていても、酒のほうはどうでしょうね」(ユリアン)
「誰だって正確な情報がほしいに決まっているだろうが」
「鏡の左右をとりちがえるような奴に、正確な自画像が描けるか」(キャゼルヌ)
「もう一年、イゼルローンにいるべきだったぜ、お前さん」
「やりのこしたことが多いだろう」(ポプラン)
「そうさ。スパルタニアンの操縦なんぞより」
「もっと楽しいことを教えてやったのにな」(ポプラン)
「おれは17のときに最初の敵機と最初の女を墜としたんだ」
「以後、戦果をかさねて、いまじゃどちらも三桁の数字にのせている」(ポプラン)
「まあ、いまだから言うが、私の任務はヤン提督の引き立て役だったんだ」(ムライ)
「いや、そんな表情をしなくていい」
「べつに卑下したり不平を鳴らしたりしているわけではないんだから…」(ムライ)
「ヤン提督は、指揮官としての資質と参謀としての才能と、両方を兼備する珍しい人だ」(ムライ)
「あの人にとって参謀が必要だとすれば、それは他人がどう考えているか」
「それを知って作戦の参考にするためだけのことさ」(ムライ)
「だから私としては、エル・ファシルの英雄に参謀として望まれたとき」
「自分のはたすべき役割は何か、と考えて、すぐには結論を出せなかった」(ムライ)
「それが出たのは、イゼルローン陥落以後だ」(ムライ)
「で、私は役割をわきまえて、ことさら常識論を唱えたり」
「メルカッツ提督に一線をひいて対応したりしたわけさ」(ムライ)
「鼻もちならなく見えた点もあろうが、わかってもらえるかな」(ムライ)
「そう、なぜかな。あまり論理的ではない言いかたになるが」
「君には、他人を信頼させる何かがある、ということだろうかな」(ムライ)
「おそらくヤン提督も他の連中も、君にはいろいろなことを話していると思う」(ムライ)
「そういうところを、君は大事にしていくことだ」
「きっと今後の財産になるだろう」(ムライ)
「そうだな、士官学校の一年生だったとき、門限破りをやって塀を乗りこえたら」
「当番のヤン・ウェンリーという上級生が見て見ぬふりをしてくれたよ」(ダスティ・アッテンボロー)
「ご心配なく、ユリアンの銃や格闘技の技倆は、閣下より上ですよ」(シェーンコップ)
「いや、困るんだ。感心すればいいのか」
「私より上というていどなら大したことはない、と不安がればいいのか…」(ヤン)
「では言いなおしましょう。閣下よりはるかに上です」
「充分に自分自身を守れます。これで安心しましたか」(シェーンコップ)
「いいか、ユリアン、誰の人生でもない、お前の人生だ」
「まず自分自身のために生きることを考えるんだ」(ヤン)
「(ユリアン)行ってしまいましたわね」(フレデリカ)
「うん…つぎに会うときは、もうすこし背が伸びているだろうな」(ヤン)
第六章 作戦名「神々の黄昏」
「病院のベッドと抱きあって眠るのには、もう飽きましたのでね」(ナイトハルト・ミュラー)
「(一億人・100万隻体制)まあ、量的には可能だろう」
「だが、有機的に運用するとなれば、また話はべつだ」(ロイエンタール)
「第一、補給の問題がある」
「一億人を食わせるのは、容易なことではないからな」(ロイエンタール)
「考えるのは簡単だが、実行するのはな」(ミッターマイヤー)
「女ってやつは、雷が鳴ったり風が荒れたりしたとき」
「何だって枕にだきついたりするんだ?」(ロイエンタール)
「だったらおれに抱きつけばよかろうに、どうして枕に抱きつく」
「枕が助けてくれると思っているわけか、あれは?」(ロイエンタール)
「ロイエンタール提督が資源を独占しているから」
「私などには美い女がまわってきませんよ」(ミュラー)
「私の腹案を、まず述べておく」
「それは、過去のようにイゼルローン回廊の攻略にこだわらず」
「もうひとつの回廊を侵攻ルートとすることだ」(ラインハルト)
「つまりフェザーン回廊を通過して、同盟領に侵攻する」
「フェザーンは政治的、軍事的な中立を放棄し、吾々の陣営に帰属することになる」(ラインハルト)
「つまり、彼は祖国を売るというのですか?」(フリッツ・ヨーゼフ・ビッテンフェルト)
「口は重宝だな」
「親を売るにも友人を裏切るにも、理由のつけようはあるものだ」(ビッテンフェルト)
「小官としては、才覚豊富なフェザーン人を無条件で信じる気にはなれませんな」(ロイエンタール)
「フェザーン回廊を通過して同盟領へ侵攻したとしてです」
「その後、彼らが豹変して回廊を封鎖したら、吾吾は敵中にあって孤軍となってしまう」(ロイエンタール)
「補給も通信も意にまかせず、むろん敵地の地理を知ることもできません」
「いささか危険度が大きいのではありませんか」(ロイエンタール)
「ロイエンタール上級大将のご心配はもっともだが」
「フェザーンがそのような卑劣な手段に出たときは」
「武力をもって教訓をたれればよいではないか」(ビッテンフェルト)
「反転したところへ後背から同盟軍が攻撃してきたらどうなる?」(ロイエンタール)
「不利はまぬがれんぞ」
「敗れるとは思わんが、犠牲は無視できないものになるだろう」(ロイエンタール)
「はたして、うまくいきますかな」(ロイエンタール)
「うまくいかせたいものだ」(ラインハルト)
「…そうありたいですな」(ロイエンタール)
「…作戦名は『神々の黄昏(ラグナロック)』」(ラインハルト)
「器量がありすぎてもこまりますが、不平派の連中をねじ伏せるていどの力量がなければ」
「わが軍の足を引っぱることにもなりましょう」(オーベルシュタイン)
「そのていどの力量は奴に期待してもよかろう」(ラインハルト)
「もし力量がなければないで、奴は自分の地位と権力を守るため」
「不平派の弾圧に狂奔しなくてはなるまい」(ラインハルト)
「当然ながら憎悪と反感は奴の一身に集中する」(ラインハルト)
「それが限界に達する寸前に奴を私の手で処断すれば」
「私としては効率よく古道具を処理できるというわけだ」(ラインハルト)
「しかもリアクションなしにな」(ラインハルト)
「自由惑星同盟との間に、和平と共存の道はないものでしょうか」(ヒルダ)
「ない。彼らのほうでそれを閉ざした」(ラインハルト)
「私のやりかたを悪辣だと思うか?」(ラインハルト)
「わたしが否定したら、閣下は喜んでくださるのでしょうか」(ヒルダ)
「だが、姉に嫌われても、私はもうもどれない」
「私がここで覇道を退いたら、誰が宇宙に統一と秩序を回復する?」(ラインハルト)
「自由惑星同盟の身のほど知らずや、旧体制の反動家どもに」
「人類の未来をゆだねるのか」(ラインハルト)
「秘密警察というものは、なるほど権力者いとっては便利なものかもしれんが」
「ただ存在するというだけで憎悪の対象になる」(オーベルシュタイン)
「ひとたび解体した社会秩序維持局を復活させるわけにはいかん」
「開明政策の後退として非難されることにもなろうしな」(オーベルシュタイン)
「名称も、何か他のものを考えねばなるまい」
「古い酒を新しい皮袋に、だな」(オーベルシュタイン)
「征服者として憎悪されるのはかまわんが」
「略奪者として軽蔑されるのは愉快じゃないな」(ミッターマイヤー)
「イゼルローンはハードウェアの点から言っただけでも難攻不落だ」
「しかもそこには同盟軍最高の智将がいる」(アドリアン・ルビンスキー)
「まあ安心したいところだろう、凡庸な政治屋どもとしては」(ルビンスキー)
「しかし、その安心感が、同盟首脳部の健全な判断力を奪い」
「最悪の選択をさせてしまう結果につながった」(ルビンスキー)
「過去の成功が現在の誤断をまねき、未来そのものを奪いさる」
「よい例証というべきだ」(ルビンスキー)
「16歳のときに、ローエングラム公はすでに武勲をたて、少佐の階級をえていた」
「ユリアン・ミンツの歩みは、それにすこし遅れているだけだ」(ルビンスキー)
「(七光)かもしれんが、たしかに功績はたてている」
「私としては、虎の児を猫と見誤る愚は犯したくないな」(ルビンスキー)
第七章 駐在武官ミンツ少尉
「敵が攻めてきますよ!」
「寝こみを奇襲されて負けたりしたら、後世の歴史家にばかにされますよ」(ユリアン)
「敵だってまだ寝てるさ、後世の歴史家なんて、まだ生まれてもいないよ」
「おやすみ、せめて夢のなかでは平和を…」(ヤン)
「何の、一日ごとに地獄の門に近づいとるよ」
「ルドルフ皇帝が坩堝のなかで煮られとる姿を見るのが楽しみだて」(アレクサンドル・ビュコック)
「ぼくの歓心を買うことが」
「どうしてトリューニヒト議長の心証をよくすることになるのですか?」(ユリアン)
「ぼくはヤン・ウェンリー派です。トリューニヒト派ではありませんけど…」
「迷惑です!」(ユリアン)
「だろうと思うが、そう大声を出さんでいい」
「わしやヤン提督の悪いところを模倣することはないさ」(ビュコック)
「ヤン提督は将来がよく見えるが、残念ながら手足がともなわない」(ビュコック)
「むろん、それは彼のせいではない」
「彼には、そこまで能動的に行動する権限がないのだからな」(ビュコック)
「制度か…制度のせいにするのは、わしとしてはつらいな」
「わしは自分が民主制共和国の軍人であることを長いこと誇りにしてきた」(ビュコック)
「そう、君と同じくらいの年齢に二等兵になって以来、ずっとな…」(ビュコック)
「民主制共和国が、軍人の権限を制限するのは正しい、と、わしは思う」
「軍人は戦場以外で権力や権限をふるうべきではない」(ビュコック)
「また、軍隊が政府や社会の批判を受けずに肥大化し、国家のなかの国家と化するようでは」
「民主政治は健全でありえんだろう」(ビュコック)
「民主主義の制度はまちがっておらん」
「問題は、制度と、それをささえる精神が乖離していることだ」(ビュコック)
「現在のところ、建前の存在が本音の堕落をようやくふせいでいるが」
「さて、それもいつまでもつか…」(ビュコック)
「(銀河帝国正統政府には)タキシードを着た腐肉獣(ハイエナ)どもがうようよいるのさ」
「国民のいない政府、兵士のいない軍隊でも、地位や称号はほしいらしい」(シュナイダー)
「閣僚がよく6、7人ですんだと感心するくらいのものだ」
「ユリアン、君も帝国軍にはせ参じたら少佐はかたいところだぞ」(シュナイダー)
「あんな連中を糾合して、ラインハルト・フォン・ローエングラム公のような」
「政戦両略の天才に拮抗しようというのだからな」(シュナイダー)
「気宇がよほど壮大なのか、精神の骨格が蜜づけのチョコレートででもできているのか」
「たぶん後者だろうが、巻きこまれるほうは迷惑な話だ」(シュナイダー)
「…まあ、唯一、救いがあるとすれば、ローエングラム公は天才だが」
「歴史上、天才が凡人に敗れた例はすくなくないということだ」(シュナイダー)
「だが、最初から奇蹟を望んでいるようでは、勝利など、とうていおぼつかないな」(シュナイダー)
「ヤン提督はそのころ中尉でね、黒ベレーも板につかなくて」
「いかにも駆け出しという感じだったわ」(フレデリカ)
「わたしはつくづく思ったの」(フレデリカ)
「こんなに頼りなげで、とっぽい感じで、軍服姿のままソファーで眠って」
「朝起きたら顔も洗わず」(フレデリカ)
「ひとりごとを言いながらバターもつけないパンをかじるような男の人」
「わたしが好きになってあげなきゃ、誰も好きになってくれないだろうって…」(フレデリカ)
「わたしは英雄だの名将だのを好きになったのじゃないのよ」
「でも、ひょっとしたら、天才的な先物買いの才能があったのかもしれないわね」(フレデリカ)
「いえ、ヤン・ウェンリーは変わらないわ」
「変わるのは周囲であって、あの人自身はすこしもね」(フレデリカ)
「血を流す者、流させる者、流れた血を飲んでふとる者…いろいろだね」(ユリアン)
「ヤンは将来のことが、ときとして見えすぎる」(キャゼルヌ)
「ところで、売るといえば…フェザーン回廊を」
「ひいてはフェザーンの自治権を帝国軍に売りわたそうとする動きがあると聞いて」
「心配しているのですが…」(ユリアン)
「誰が決めたんですか」
「人間がさだめた規則なら、人間の手で破ることもできると思います」(ユリアン)
「帝国のラインハルト・フォン・ローエングラム公爵のやりかたが」
「万事、旧習にのっとったものとは、ぼくには思えませんし」(ユリアン)
「今上の皇帝が祖国を捨てて亡命したという前例も、ぼくは知りません」(ユリアン)
「あのローエングラム公なら、勝つため、征服するためなら」
「伝統や不文律など平然と破ってのけるんじゃないでしょうか」(ユリアン)
「そうでないと保証できるかたはいらっしゃらないと思います」(ユリアン)
「もっとも、ローエングラム公がそんな野望をいだいても」
「フェザーンのかたたちがみすみす誇りを売りわたすとは思いませんけど」(ユリアン)
「だとしても(知ってても)、あの男(ヤン)には何もできまい」(ルビンスキー)
第八章 鎮魂曲への招待
「なるほど、フェザーンはたしかに同盟に対して資本を投下しておりますな」(ビュコック)
「しかし、それは、同盟の諸惑星、鉱山、土地、企業などに対してであって」
「同盟政府に対してではありますまい」(ビュコック)
「フェザーン人としては、投下した資本の安全さえ保障されるなら」
「同盟の国家機構が崩壊したところで、単に天井が破れたていどのこと」(ビュコック)
「それほど痛痒を感じるとも思えませんな」(ビュコック)
「それとも、フェザーンが」
「同盟政府に対して資本投下をおこなっているという事実でもありますかな」(ビュコック)
「どうも、これからユリシーズを哨戒行動につけさせないほうがいいようですな」
「あの艦が哨戒に出るたびに敵をつれてくる」(ムライ)
「まあ、ものは考えようさ、ユリシーズを哨戒に出したときは」
「通常より一レベル高い警戒態勢をしくことにすれば、かえって効率的だろう」(ヤン)
まったく、世のなかには、未発に終わる計画や構想がどれほど多く存在することか。
ひとつの事実は、それに1000倍する可能性の屍の上に生き残っている。(ヤン)
「(小揺るぎなど)するわけがない。だが、はでにやるのも今回の任務のうちだ」
「せいぜい目を楽しませてもらうとしようか」(ロイエンタール)
(ヤンは)智将と聞くが、意外に陣頭の猛将という一面があるのだろうか。
(戦場に出てくれば)一挙に勝敗を決することができるかもしれない。(ロイエンタール)
ロイエンタールのような一流、あるいはそれ以上の有能な将帥の足もとをすくうには、
むしろ二流の詭計をしかけて虚をつくべきではないか。(ヤン)
「雑魚にかまうな、目的は敵の司令官だ」
「艦橋をさがせ」(シェーンコップ)
「ロイエンタール提督?」(シェーンコップ)
「そうだ。同盟の猟犬か?」(ロイエンタール)
「私はワルター・フォン・シェーンコップだ」
「死ぬまでの短い間、憶えておいていただこう」(シェーンコップ)
「おれとしたことが、功をあせって敵のペースに乗せられてしまった」
「旗艦に陸戦部隊の侵入を許すとは、間の抜けた話だ」(ロイエンタール)
「べつに卿の責任ではない。おれが熱くなりすぎたのだ」
「すこし頭を冷やして出なおすとしよう」(ロイエンタール)
「いま一歩というところでしたが、大魚は逸しました」
「旗艦への侵入をはたしたことで、まあ0点ではないというところですか」(シェーンコップ)
「そいつは惜しかった」(ヤン)
「もっとも、先方でもそう思っているかもしれません」
「なかなかいい技倆をしていたし、私の攻撃も再三かわされました」(シェーンコップ)
「歴史を変えそこなったということかな」(ヤン)
「いくらでも、優秀な敵というのはいるものだな」(キャゼルヌ)
「あのまま、しつこく攻撃をつづけてくれればよかったのだが」
「さすがに帝国軍の双璧とも言われる男はちがう」(ヤン)
「期待はずれのことを言わんでください」
「私は、いつかも言いましたが」(シェーンコップ)
「あなたはラインハルト・フォン・ローエングラムにだって勝てると思っているのですから」
「その部下ごときに勝てなくてどうします」(シェーンコップ)
「君が思いこむのは自由だが」
「主観的な自信が客観的な結果をみちびき出すとはかぎらないよ」(ヤン)
「こんなつまらん戦いははじめてだ」(ポプラン)
「どうも敵のやりようが解せないな。あいつら、遊んでいるのじゃないか」(コーネフ)
「まじめに戦争やるような奴より、遊びでやるような奴のほうが」
「おれは好きだがね」(ポプラン)
「おれはお前さんの嗜好を問題にしているのじゃない」
「帝国軍の思惑が気になるんだ」(コーネフ)
「おれはそれほどうぬぼれちゃいないよ。量をこなしているだけだからな」
「博愛主義ってやつは、このさい減点の対象になるんでね」(ポプラン)
「はじまりましたわね」(ヒルダ)
「そうだ、終わりのはじまりだ、フロイライン」(ラインハルト)
第九章 フェザーン占領
「吾々の赴くところはイゼルローン回廊にあらず」
「フェザーン回廊である」(ミッターマイヤー)
「最終的な吾々の目的は、むろん」
「フェザーン占領にとどまるものではない」(ミッターマイヤー)
「フェザーンを後方基地として、回廊を通過し」
「自由惑星同盟を僭称する叛徒どもを制圧して」(ミッターマイヤー)
「数世紀にわたる人類社会の分裂抗争に終止符をうつこと」
「それこそが出兵の目的なのだ」(ミッターマイヤー)
「吾々はただ戦い征服するためにここにあるのではなく」
「歴史のページをめくるためにここにあるのだ」(ミッターマイヤー)
「私の時代が終わったということを、君が保証してくれるというわけかね」(ルビンスキー)
「君はローエングラム公と同意見でもあるのだな」
「私はボルテックより馭しがたいという一点で」
「光栄に思うべきなのだろうな」(ルビンスキー)
「なるほどな、機会が到来したとたんに牙をむいたか」
「まあ、機を見るに敏、と言えんこともないが、すこしあざとすぎはしないかね」(ルビンスキー)
「…私をすこし甘く見すぎたようだな、ルパート」(ルビンスキー)
「だからお前は甘いというのだ」
「ドミニクがお前の味方だと、ほんとうに信じていたのか」(ルビンスキー)
「お前は私に悪いところが似すぎたな」(ルビンスキー)
「もうすこし覇気と欲がすくなかったら」
「いずれ私の地位や権力を譲られんこともなかったろう」(ルビンスキー)
「お前は何でも知っていたが」
「ただ、時機を待つということだけを知らなかったな」(ルビンスキー)
「自由惑星同盟のトリューニヒト議長は」
「クーデターのとき、それが終わるまで安全に隠れておったそうだ」(ルビンスキー)
「吾々も、ひとつ、そのひそみにならうとしようか」(ルビンスキー)
「ウォルフガング・ミッターマイヤーに二言があると思うなよ」(ミッターマイヤー)
「帝国軍の栄誉に傷をつけた奴には、相応の報いをくれてやる」
「肝に銘じておけ」(ミッターマイヤー)
「何にしても、戦わぬとは肩がこることさ」(ミッターマイヤー)
「完璧に、とはなかなかいかぬものだ」
「卿にできなかったとあれば、他の何びとにも不可能だろう」
「謝罪の必要はない」(ラインハルト)
「(ルビンスキーは)現在の時点では敗北を認めたのだと思います」(ヒルダ)
「だから身を隠し、その一方で」
「どうせボルテック弁務官ではフェザーンがおさまらないと見こしているのでしょう」(ヒルダ)
「彼がみじめに失敗したとき自分の出番がふたたびある、と思っているのですわ」
「ローエングラム公とフェザーン市民と、どちらのがわに望まれるにしても…」(ヒルダ)
「そうだ、これがほしかったのだ」
「行こうか、キルヒアイス、おれとお前の宇宙を手に入れるために」(ラインハルト)
最後まで読んで頂きありがとうございました。
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