「銀河英雄伝説(銀英伝)」の名言・台詞まとめ

原作小説「銀河英雄伝説(銀英伝)」の名言・台詞をまとめていきます。

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目次

→銀河英雄伝説(1巻)
→銀河英雄伝説(2巻)
→銀河英雄伝説(3巻)
→銀河英雄伝説(4巻)
→銀河英雄伝説(5巻)
→銀河英雄伝説(6巻)
→銀河英雄伝説(7巻)
→銀河英雄伝説(8巻)
→銀河英雄伝説(9巻)
→銀河英雄伝説(10巻)

 

銀河英雄伝説1巻

→1巻(第三章)
→1巻(第五章)
→1巻(第七章)
→1巻(第九章)

序章 銀河系史概略

「…私は前面の有能な敵、光背の無能な味方、この両者と同時に闘わなくてはならなかった」
「しかも私自身ですら全面的には当てにならなかった」(ウッド提督)

 

社会生活や文化は頽廃の一途をたどった。
人々はよるべき価値観を見失い、麻薬と酒と性的乱交と神秘主義にふけった。(歴史)

 

犯罪が激増し、それに反比例して検挙率は低下した。
生命を軽視し、モラルも嘲笑する傾向は深まるいっぽうだった。(歴史)

 

人類社会の病状は抜本的な治療を必要とする段階に達しているとの、
彼らの認識に誤りはなかった。(歴史)

 

しかし彼らの大部分は、その病を治癒する手段として、
忍耐と根気を必要とする長期療法ではなく、

 

副作用をともなう即効薬を嚥むことを選んだのである。
それは「独裁」という名の劇薬であった。

 

かくしてルドルフ・フォン・ゴールデンバウムの登場する土壌がはぐくまれた。(歴史)

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「民主政治においては失政は不適格な為政者を選んだ民衆自身の責任だが」
「専制政治においてはそうではない」(D・シンクレア、歴史学者)

 

「民衆は自己反省より」
「気楽かつ無責任に為政者の悪口を言える境遇を好むものだ」(シンクレア)

 

「宇宙の摂理は弱肉強食であり、適者生存、優勝劣敗である」(ルドルフ・フォン・ゴールデンバウム)

 

「何でこんな苦労をしなければいけないのか」(ユースフ・トパロウル)

 

「できることと、できないことがある」(ヤン・ウェンリー)

 

第一章 永遠の夜のなかで

「老将(おいぼれ)どもが青くなっているだろう…」
「いや、赤くかな」(ラインハルト・フォン・ローエングラム)

 

「卿の能弁は認める。しかしその主張を認めるわけにはいかぬ」
「撤退など思いもよらぬことだ」(ラインハルト)

 

「吾々が敵より圧倒的に有利な態勢にあるからだ」(ラインハルト)

 

「わが軍は敵に対し、兵力の集中と機動性の両点において優位に立っている」
「これを勝利の条件と言わずして何と呼ぶか!」(ラインハルト)

 

「吾々は包囲の危機にあるのではない」
「敵を各個撃破する好機にあるのだ」(ラインハルト)

 

こいつは無能なだけでなく低能だ。(ラインハルト)

 

「翌日には卿はその目で実績を確認することになるだろう」(ラインハルト)

 

「ジークフリードなんて、俗な名だ」
「でもキルヒアイスって姓はいいな」(ラインハルト)

 

「とても詩的だ」
「だから僕は君のこと、姓で呼ぶことにする」(ラインハルト)

 

「ジーク、弟と仲良くしてやってね」(アンネローゼ・フォン・グリューネワルト)

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「ルドルフに可能だったことが、おれには不可能だと思うか?」(ラインハルト)

 

「ですが、まだ包囲網が完成されたわけではありません」(ヤン)

 

「民衆はどうして(ルドルフに)だまされたんだろう?」(ヤン)
「民衆が楽をしたがったからさ」(ヤン・タイロン)

 

「ひとつ狂うとすべてが狂うものだな」(ヤン)

 

「心配いりません。司令官が帝国軍の注意を引きつけてくれます」
「レーダー透過装置などつけず、太陽風に乗って悠々と脱出できますよ」(ヤン)

 

「要するに3,4000年前から戦いの本質というものは変化していない」
戦場に着くまでは補給が、着いてからは指揮官の質が、勝敗を左右する」(ヤン)

 

硬直した固定観念ほど危険なものはない。(ヤン)

 

第二章 アスターテ会戦

「無能者め、反応が遅い!」(ラインハルト)

 

「おそらく無益でしょう」
「いまから行っても、どうせ間に合いません」(ヤン)

 

「では結局、(このまま個別に助けに行けば)三艦隊いずれもが」
「敵の各個撃破戦法の好餌になってしまいます」(ヤン)

 

「(勝利によって)少しは態度も変わったな、彼も」(ラインハルト)
「ええ、変わらざるをえないでしょう」(ジークフリード・キルヒアイス)

 

「心配するな。私の命令に従えば助かる」
「生還したい者は落着いて私の指示に従ってほしい」(ヤン)

 

「わが部隊は現在のところ負けているが、要は最後の瞬間に勝っていればいいのだ」(ヤン)

 

「心配ない、(作戦の連絡は)複数の通信回路を使って」
「各艦に戦術コンピューターのC4回路を開くよう、それだけを告げればよい」(ヤン)

 

「それだけなら、傍受したところで敵には判断できないだろう」
「無用になっていればよかったのだがね」(ヤン)

 

「頭をかいてごまかすさ」(ヤン)

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「どうやら勝ったな」(ラインハルト)
「どうやら、うまく行きそうだな」(ヤン)

 

「冗談ではない」
「おれに低能になれと言うのか、敵の第四艦隊司令官以上の?」(ラインハルト)

 

「では前進するしかありませんね」(キルヒアイス)

 

「これ以上戦っても、双方とも損害が増すばかりです」
「戦略的に何の意味もありません」(キルヒアイス)

 

「くやしいとお思いですか?」(キルヒアイス)

 

「そんなことはもないが、もう少し勝ちたかったな」
「画竜点睛を欠いたのが残念だ」(ラインハルト)

 

「二倍の敵に三方から包囲されながら、各個撃破戦法で二個艦隊を全滅させ」
「最後の敵には後背に回りこまれながら互角に闘ったのです」(キルヒアイス)

 

「充分ではありませんか」
「これ以上をお望みになるのは、いささか欲が深いというものです」(キルヒアイス)

 

第三章 帝国の残照

「…帝国が勝った、ただし勝ちすぎはしなかったと」
「そういうわけだな、ボルテック」(アドリアン・ルビンスキー)

 

「そう満足してもいられんぞ、ボルテック」(ルビンスキー)

 

「その結果がもたらされたのは偶然であって、そうなるように吾々が努力したからではない」
「将来も幸運ばかりをあてにしてはいられんだろう」(ルビンスキー)

 

「情報の収集分析を一段と活発にして、切札の数を増やしておくべきだろうな」(ルビンスキー)

 

「こいつはたしか、百年以上も昔に、『ダゴンの殲滅戦』で同盟軍が使った陣形じゃないか」
「夢よもう一度というわけか、進歩のない奴らだ」(ルビンスキー)

 

「机上の作戦はいつだって完璧に決まっとるさ」
「だが実戦は相手あってのものだからな」(ルビンスキー)

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「専門家が素人に遅れを取る場合が、往々にしてある」
「長所より短所を、好機より危機を見てしまうからだ」(ルビンスキー)

 

「どんな組織でも機械でも、運用するのはしょせん、人間だ」
「上位に立つ者の才幹と器量しだいで、虎が猫にもなりその逆にもなる」(ルビンスキー)

 

「虎の牙がどちらを向くか、これもまた猛獣使いしだいだ」
「くわしく人がらを知っておくにしくはない」(ルビンスキー)

 

「もし私がルドルフ大帝の時代に生まれていたら」
「『劣悪遺伝子排除法』に引っかかって処分されていたでしょうな」(パウル・フォン・オーベルシュタイン)

 

「貴官はよい上官をお持ちだ、キルヒアイス大佐」
「よい上官とは部下の才幹を生かせる人をいうのです」(オーベルシュタイン)

 

「現在の帝国軍にはいたって少ない」
「だがローエングラム伯は違う」(オーベルシュタイン)

 

「お若いに似ず、たいしたお方ですな」
「門閥意識ばかり強い大貴族どもには理解しがたいでしょうが…」(オーベルシュタイン)

 

「キルヒアイス、明日姉上に会う、お前も来るだろう」
「何をいまさら、遠慮する。おれたちは家族だぞ」(ラインハルト)

 

「コーヒーを淹れましょう」
「それと巴旦杏(ケルシー)のケーキもね」(アンネローゼ)

 

「手作りだからあなたがたの口に合うかどうかわからないけど」
「食べていってちょうだい」(アンネローゼ)

 

「口を合わせますよ」(ラインハルト)

 

「ジーク、あなたはもっと自分を評価すべきですよ」
「弟には才能があります。多分、他の誰にもない才能が」(アンネローゼ)

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「でも、弟はあなたほどおとなではありません」(アンネローゼ)

 

「自分の脚の速さにおぼれて断崖から転落する羚羊のような、そんなところがあります」
「これは弟が生まれたときから知っているわたしだから言えることです」(アンネローゼ)

 

「どうか、ジーク、お願いします」
「ラインハルトが断崖から足を踏みはずすことのないよう見守ってやって」(アンネローゼ)

 

「もしそんなきざしが見えたら叱ってやって。弟はあなたの忠告なら受け容れるでしょう」
もしあなたの言うこともきかなくなったら…そのときは弟も終わりです」(アンネローゼ)

 

「どんなに才能があったとしても」
「それにともなう器量がなかったのだと自ら証明することになるでしょう」(アンネローゼ)

 

「私にできることでしたら、何でもいたします」
「アンネローゼさま」(キルヒアイス)

 

「ラインハルトさまに対する私の忠誠心を信じて下さい」
「決してアンネローゼさまのお心に背くことは致しません」(キルヒアイス)

 

「ありがとう、ジーク」
「ごめんなさいね、無理なことばかりお願いして」(アンネローゼ)

 

「でもあなた以外に頼る人はわたしにはいません」
「どうかゆるして下さいね」(アンネローゼ)

 

私はあなたたちに頼ってほしいのです。(キルヒアイス)

 

10年前、貴女に「弟と仲良くしてやって」と言われた瞬間から、
ずっとそうなのです…。(キルヒアイス)

 

人はなぜ、自分にとってもっとも必要なとき、
それにふさわしい年齢でいることができないのだろう。(キルヒアイス)

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第四章 第一三艦隊誕生

「まだ完全に目が覚めていないようだなアスターテの英雄は」
「おれの前に立っている人物さ」(アレックス・キャゼルヌ)

 

「電子新聞を見る間もなかったらしいが」
「ジャーナリズムはこぞってそう書き立てているぞ」(キャゼルヌ)

 

「敗軍の将ですよ、私は」(ヤン)

 

「そう、同盟軍は敗れた。よって英雄をぜひとも必要とするんだ」
「大勝利ならあえてそれを必要とせんがね」(キャゼルヌ)

 

「(負けたのは)首脳部の作戦指揮がまずかったからさ」(ヤン)

 

「わたしはジェシカ・エドワーズと申します」
「アスターテ会戦で戦死した第六艦隊幕僚ジャン・ロベール・ラップの婚約者です」(ジェシカ・エドワーズ)

 

「いいえ、婚約者でした」(ジェシカ)

 

「ありがとうございます」
「わたしはただ、委員長にひとつ質問を聞いていただきたくて参ったのです」(ジェシカ)

 

「あなたはいま、どこにいます?」(ジェシカ)

 

「わたしは婚約者を犠牲に捧げました」
「国民に犠牲の必要を説くあなたのご家族はどこにいます?」(ジェシカ)

 

「あなたの演説には一点の非もありません」
「でもご自分がそれを実行なさっているの?」(ジェシカ)

 

「行こう」
「ここはあなた(ジェシカ)のいるべき場所ではないと思う…」(ヤン)

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本来、名将と愚将との間に道義上の優劣はない。
愚将が味方を100万人殺すとき、名将は敵を100万人殺す。(ヤン)

 

その差があるだけで、殺されても殺さないという絶対的平和主義の見地からすれば、
どちらも大量殺人者であることに差はないのだ。(ヤン)

 

「有史以来初めて、お前さんの家が清潔になったじゃないか」
「親が無能ならその分、子供がしっかりするというのは真実らしいな」(キャゼルヌ)

 

「生意気言うな、子供のくせに」
「子供ってのはな、大人を喰物にして成長するもんだ」(ヤン)

 

「(軍人は)嫌いだよ」
「(理由は)決まってる。他に能がなかったからだ」(ヤン)

 

「どうしてまた!」
「内心で反対でも、立って拍手してみせれば無事にすむことじゃありませんか」(ユリアン・ミンツ)

 

「他人には表面しか見えないんですからね」(ユリアン)

 

「いえ、かえって(掃除の)邪魔になりますから」
「そうだ、そこのテーブルの上にでも乗っていて下さい」(ユリアン)

 

「ユリアン、今夜の事件は多分笑い話ですむだろう」
「だが近い将来、それではすまなくなるかもしれない」(ヤン)

 

「どうも少しずつ悪い時代になってきているようだ」(ヤン)

 

「准将、僕、色々とよけいなこと申し上げたりしますけど」
「そんなこと気になさらないで下さい」(ユリアン)

 

「正しいとお考えになる道を歩んでいただきたいんです」
「誰よりも准将が正しいと僕、信じてます」(ユリアン)

 

「(昇進は)負けたからでしょう」(ヤン)

 

「やれやれ、君はむかしと少しも変わらんな。温和な表情で辛辣な台詞を吐く」
「士官学校時代からそうだった」(シドニー・シトレ)

 

「やたらと恩賞を与えるのは窮迫している証拠だと古代の兵書にあります」
「敗北から目をそらせる必要があるからだそうです」(ヤン)

 

「少数をもって多数を破るのは、一見、華麗ではありますが」
「用兵の常道から外れており、戦術ではなく奇術の範疇に属するものです」(ヤン)

 

「それと知らないローエングラム伯とは思えません」
「次は圧倒的な大軍を率いて攻めて来るでしょう」(ヤン)

 

「ボタン戦争と称された一時代」
「レーダーと電子工学が奇形的に発達していた一時代をはぶいて」
「戦場における用兵にはつねに一定の法則がありました」(ヤン)

 

「兵力を集中すること」
「その兵力を高速で移動させること、この両者です」(ヤン)

 

これを要約すればただ一言、『むだな兵力を作るな』です」(ヤン)

 

「君にできなければ、他の誰にも不可能だろうと考えておるよ」(シトレ)

 

「もし君が新艦隊を率いてイゼルローン要塞の攻略という偉業を成しとげれば…」(シトレ)

 

「君個人に対する好悪の念はどうあれ」
「トリューニヒト国防委員長も君の才幹を認めざるをえんことだろうな」(シトレ)

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第五章 イゼルローン攻略

「(方法は)秘密です」
「こういうことはもったいぶった方がありがたみが出ますから」(ヤン)

 

「フェザーンの紅茶は美味いでしょうかね」(ヤン)
「毒気で味つけしてあるだろうよ」(キャゼルヌ)

 

「予定通り事が運ぶことは、めったにありませんよ」
「といって予定をたてないわけにも行きませんしね」(ヤン)

 

「後日、恥入るようなことがなければよいがな」(アレクサンドル・ビュコック)

 

「お前さんたちは大樹の苗木を見て」
「それが高くないと笑う愚を犯しているかもしれんのだぞ」(ビュコック)

 

「フレデリカ・グリーンヒル中尉です」
「今度、ヤン少将の副官を拝命しました」(フレデリカ・グリーンヒル)

 

「4000光年を24日。悪くないな」
「第13艦隊には(艦隊運用の)名人がいるから」(ヤン)

 

「なに、心配ない。もともと半個艦隊でイゼルローンを陥せというのが無理難題なんだ」
「(失敗して)恥をかくのはシトレ本部長と私さ」(ヤン)

 

「(イゼルローン要塞攻略に)どうしてそう自信満々なんだ?」(ヤン)
「八年前、エル・ファシルのときも、提督は成功なさいましたもの」(フレデリカ)

 

「でも、あのとき提督は」
「ひとりの女の子の心に絶対的な信頼を植えつけることに成功なさいました」(フレデリカ)

 

「わたしはそのとき母と一緒にエル・ファシルにいたのです」
「母の実家がそこにありましたから」(フレデリカ)

 

「食事する暇もろくになくて」
「サンドイッチをかじりながら脱出行の指揮をとっていた若い中尉さんの姿を」
「わたしははっきり憶えています」(フレデリカ)

 

「でもそのサンドイッチを咽喉に詰まらせたとき」
「紙コップにコーヒーを入れて持ってきた14歳の女の子のことなど」(フレデリカ)

 

「中尉さんのほうはとっくに忘れおいででしょうね」
「そのコーヒーを飲んで生命が助かった後で何と言ったか、も」(フレデリカ)

 

「コーヒーは嫌いだから紅茶にしてくれたほうがよかった──って」(フレデリカ)

 

「そうか、謝る」
「しかし、君の記憶力はもっと有益な方面に生かすべきだね」(ヤン)

 

「先回りして言うとね、大佐、こいつはまともな作戦じゃない」
「詭計、いや小細工に属するものだ」(ヤン)

 

「しかし難攻不落のイゼルローン要塞を占領するには、これしかないと思う」
「これでだめなら、私の能力のおよぶところじゃない」(ヤン)

 

「堅牢な要塞に拠るほど、人は油断するもの」
「成功の可能性は大いにあります。ただし…」(ワルター・フォン・シェーンコップ)

 

「私が噂通り七人目の裏切者になったとしたら、事はすべて水泡に帰します」
「そうなったらどうしますか?」(シェーンコップ)

 

「貴官を信用しないかぎり、この計画そのものが成立しない」
「だから信用する。こいつは大前提なんだ」(ヤン)

 

「恒久平和なんて人類の歴史上なかった。だから私はそんなもの望みはしない」
「だが何十年かの平和で豊かな時代は存在できた」(ヤン)

 

「吾々が次の世代に何か遺産を託さなくてはならないとするなら」
「やはり平和が一番だ」(ヤン)

 

「要するに私の希望は、たかだかこのさき何十年かの平和なんだ」
「だがそれでも、その十分ノ一の期間の戦乱に勝ること幾万倍だと思う」(ヤン)

 

「私の家に14歳の男の子がいるが、その子が戦場に引き出されるのを見たくない」
「そういうことだ」(ヤン)

 

「失礼ながら、提督、あなたはよほどの正直ものか」
「でなければルドルフ大帝以来の詭弁家ですな」(シェーンコップ)

 

「とにかく期待以上の返答はいただいた。この上は私も微力をつくすとしましょう」
「永遠ならざる平和のために」(シェーンコップ)

 

「お待ち下さい、閣下」
「では申し上げます。これは罠だと思われます」(オーベルシュタイン)

 

「そうです。艦隊をイゼルローンから引き離すための」
「出てはなりません。動かず状況を見るべきです」(オーベルシュタイン)

 

「お見知りおき願おう」
「薔薇の騎士(ローゼンリッター)連隊のシェーンコップ大佐だ」(シェーンコップ)

 

「両手が塞がっているので、メイクアップを落としての挨拶はいたしかねる」(シェーンコップ)

 

「こううまくいくとは、正直なところ思わなかった」
「IDカードまでちゃんと偽造して来たのに、調べもせんのだからな…」(シェーンコップ)

 

「どんな厳重なシステムも、運用する人間しだいという、いい教訓だ」(シェーンコップ)

 

「司令官閣下は、過大評価されるのが迷惑そうだぜ」(シェーンコップ)

 

「お待ち下さい」
「これは罠です。帰還しないほうがよろしいかと存じます」(オーベルシュタイン)

 

「怒気あって真の勇気なき小人め、語るにたらん」(オーベルシュタイン)

 

「こいつは戦闘と呼べるものではありませんな、閣下」
「一方的な虐殺です」(シェーンコップ)

 

「…そう、その通りだな」
「帝国軍の悪いまねを吾々がすることはない」(ヤン)

 

「大佐、彼らに降伏を勧告してみてくれ」
「それが嫌なら逃げるように、追撃はしない、と」(ヤン)

 

「武人の心だって?」
こんな奴がいるから戦争が絶えないのだ。(ヤン)

 

「砲手! 敵の旗艦を識別できるか。集中的にそれを狙え!」
「これが最後の砲撃だ。旗艦を失えば、残りの連中は逃げるだろう」(ヤン)

 

「同盟本国に連絡してくれ」
「何とか終わった、もう一度やれと言われてもできない、とね」(ヤン)

 

「後を頼む。私は空いた部屋で寝るから」
「とにかく疲れた」(ヤン)

 

「どいつもこいつも全然、わかっていやしないのさ」
「魔術だの奇術だの、人の苦労も知らないで言いたいことを言うんだからな」(ヤン)

 

「私は古代からの用兵術を応用したんだ」
「敵の主力とその本拠地を分断して個別に攻略する方法さ」(ヤン)

 

「それにちょっとスパイスを効かせただけで、魔術なんぞ使ってはいないんだが」
「うっかりおだてに乗ったりしたら」(ヤン)

 

「今度は素手でたったひとり、帝国首都を占領して来い」
「なんて言われかねない」(ヤン)

 

「賞められるのは勝っている期間だけさ。戦い続けていれば、いつかは負ける」
「そのときどう掌が返るか、他人事ならおもしろいがね」(ヤン)

 

第六章 それぞれの星

「おかしな議論だな、キルヒアイス」
「帝国領土は寸土といえども外敵に侵されてはならぬものだそうだ」(ラインハルト)

 

「叛乱軍がいつから対等の外部勢力になったのだ?」
「現実を見ないから矛盾をきたすことになるのさ」(ラインハルト)

 

皇帝に忠誠をつくせ、とは論外なことを言われるものだ。(キルヒアイス)

 

彼が忠誠をつくす対象を、彼の前から拉致し、
現在なお独占しているのは皇帝フリードリヒ四世その人ではないか。(キルヒアイス)

 

自分が戦っているのは、
帝国のためでも、帝室のためでも、皇帝のためでもない。(キルヒアイス)

 

「まず、お人払いをお願いします」
「そう、キルヒアイス中将がおられる。ですからお人払いをと願っています」(オーベルシュタイン)

 

「それ(聞かせるか聞かせないか)はむろん、閣下のご自由に」(オーベルシュタイン)

 

「ですが閣下、覇業を成就されるには」
「さまざまな異なるタイプの人材が必要でしょう」(オーベルシュタイン)

 

「AにはAに向いた話、BにはBにふさわしい任務」
「というものがあると思いますが…」(オーベルシュタイン)

 

「おわかりになりますか」
「私は憎んでいるのです」(オーベルシュタイン)

 

「ルドルフ大帝と彼の子孫と彼の産み出したすべてのものを…」
「ゴールデンバウム朝銀河帝国そのものをね」(オーベルシュタイン)

 

「銀河帝国、いや、ゴールデンバウム王朝は滅びるべきです」
「可能であれば私自身の手で滅ぼしてやりたい」(オーベルシュタイン)

 

「ですが、私にはその力量がありません」
「私にできることは新たな覇者の登場に協力すること、ただそれだけです」(オーベルシュタイン)

 

「しょせん、あなたもこの程度の人か…」
「けっこう、キルヒアイス中将ひとりを腹心と頼んで、あなたの狭い道をお征きなさい」(オーベルシュタイン)

 

「キルヒアイス中将、私を撃てるか」
「私はこの通り丸腰だ。それでも撃てるか?」(オーベルシュタイン)

 

「撃てんだろう。貴官はそういう男だ」
「尊敬に値するが、それだけでは覇業をなすに充分とは言えんのだ」(オーベルシュタイン)

 

「光には影がしたがう…」
「しかしお若いローエングラム伯にはまだご理解いただけぬか」(オーベルシュタイン)

 

「よかろう、卿を貴族どもから買う」(ラインハルト)

 

「余が、アンネローゼの弟に地位と権力を与えすぎるというのであろう」
「よいではないか」(フリードリヒ四世)

 

「人類の創成とともにゴールデンバウム王朝があったわけではない」
「不死の人間がおらぬと同様、不滅の国家もない」(フリードリヒ四世)

 

「余の代で銀河帝国が絶えて悪い道理がなかろう」
「どうせ滅びるなら…せいぜい華麗に滅びるがよいのだ…」(フリードリヒ四世)

 

「そうだな…おれはあの男に友情や忠誠心を期待してはいない」(ラインハルト)

 

「あの男はおれを利用しようとしているだけだ」
「自分自身の目的を果たすためにな」(ラインハルト)

 

「…だから、おれも奴の頭脳を利用する」
「奴の動機などどうでもいいさ」(ラインハルト)

 

奴ひとり御しえないで宇宙の覇権を望むなんて不可能だと思わないか」(ラインハルト)

 

「そう(情報があった訳)ではない。単にいま、思いついたというだけだ」
「しかしあらゆる可能性を吟味するにしくはない」(ルビンスキー)

 

正義の戦争か。
莫大な流血、国家の破産、国民の窮乏。(ジョアン・レベロ)

 

正義を実現させるのにそれらの犠牲が不可欠であるとするなら、
正義とは貪欲な神に似ている。(レベロ)

 

次々といけにえを要求して飽くことを知らない。(レベロ)

 

「吾々にはそんな権利はない」
「政権の維持を目的として無益な出兵を行うなど」
「そんな権利を吾々は与えられてはいない…」(レベロ)

 

「私は愛国者だ」
「だがこれはつねに主戦論に立つことを意味するものではない」(ヨブ・トリューニヒト)

 

「私がこの出兵に反対であったことを銘記しておいていただこう」(トリューニヒト)

 

「まじめな話、私は提督のような人には軍に残っていただきたいですな」
「あなたは状況判断が的確だし、運もいい」(シェーンコップ)

 

「あなたの下にいれば武勲が立たないまでも、生き残れる可能性が高そうだ」(シェーンコップ)

 

「私は自分の人生の終幕を老衰死ということに決めているのです」(シェーンコップ)

 

150年ほど生きて、よぼよぼになり、孫や曾孫どもが」
やっかい払いできると嬉し泣きするのを聴きながら、くたばるつもりでして…」(シェーンコップ)

 

「壮烈な戦死など趣味ではありませんでね」
「ぜひ私をそれまで生き延びさせて下さい」(シェーンコップ)

 

傍にいるこの少年が、彼と同じ星を見上げる必要はいささかもない。
人は自分だけの星をつかむべきなのだ。たとえどのような兇星であっても…。(ヤン)

 

第七章 幕間狂言

「(情人は)ダース単位でないと数えられんな」(ルビンスキー)

 

軍事的勝利は麻薬に似ている。(世論)

 

イゼルローン占領という甘美な麻薬は、
人々の心に潜む好戦的幻覚を一挙に花開かせてしまったようであった。(世論)

 

「何しろ三ヶ月後に統一選挙がある」
「ここしばらく、対内的に不祥事が続いたからな」(キャゼルヌ)

 

「勝つためには外界に市民の注意をそらす必要がある」
「それで今度の遠征さ」(キャゼルヌ)

 

「吾々は軍人である以上、赴けと命令があれば、どこへでも赴く」(ウランフ)

 

「まして、暴虐なゴールデンバウム王朝の本拠地を突く、というのであれば」
「喜んで出征しよう」(ウランフ)

 

「だがいうまでもなく、雄図と無謀はイコールではない」(ウランフ)

 

「周到な準備が欠かせないが」
「まず、この遠征の戦略上の目的が奈辺にあるかをうかがいたいと思う」(ウランフ)

 

「もうすこし具体的に言ってもらえんかな」
「あまりに抽象的すぎる」(ウランフ)

 

「要するに、行き当たりばったりということではないのかな」(ビュコック)

 

「勝敗は結局、相対的なもので…」
「彼が犯した以上の失敗を我々が犯せば、彼が勝って我々が敗れる道理です」(ヤン)

 

「貴官の意見に賛同せず慎重論を唱えたからといって」
利敵行為呼ばわりするのが節度ある発言と言えるか」(ビュコック)

 

「私も甘かったよ」
「イゼルローンを手に入れれば、以後、戦火は遠のくと考えていたのだからな」
「ところが現実はこうだ」(シトレ)

 

「結局、私は自分自身の計算に足をすくわれたということかな」(シトレ)

 

「イゼルローンが陥落しなければ」
「主戦派もこれほど危険な賭けに出ることはなかったかもしれん」(シトレ)

 

「いまは辞められんよ。だが、この遠征が終わったら辞職せざるをえん」
「失敗しても成功してもな」(シトレ)

 

「この際だから言ってしまうが」
「私は、今度の遠征が最小限の犠牲で失敗してくれるよう望んでいる」(シトレ)

 

「惨敗すれば、むろん多くの血が無用に流れる」
「かといって、勝てばどうなるだろう」(シトレ)

 

「主戦派はつけあがり、理性によるものにせよ政略によるものにせよ」
「政府や市民のコントロールを受けつけなくなるのは明らかだ」(シトレ)

 

「そして暴走し、ついには谷底へ転落するだろう」(シトレ)

 

「勝ってはならないときに勝ったがため、究極的な敗北に追いこまれた国家は歴史上」
「無数にある。君なら知っているはずだがな」(シトレ)

 

「君はときどき、鈍感になるな」
「ライバルとは他の誰でもない、君のことだ」(シトレ)

 

「この際、君が自分自身をどう評価しているかは関係ない」(シトレ)

 

「フォークの思案と、彼が目的のためにどういう手段をとったか」
「ということが問題なんだ」(シトレ)

 

「私は権力や武力を軽蔑しているわけではないのです」
「いや、じつは怖いのです」(ヤン)

 

「権力や武力を手に入れたとき、ほとんどの人間が醜く変わるという例を」
「私はいくつも知っています」(ヤン)

 

「そして自分は変わらないという自信が持てないのです」(ヤン)

 

「私もこれでいろいろと苦労もしてきたのだ」
「自分だけ苦労して他人がのんびり気楽に暮らすのを見るのは、愉快な気分じゃない」(シトレ)

 

「君にも才能相応の苦労をしてもらわんと」
「第一、不公平と言うものだ」(シトレ)

 

「国務尚書よりの内命があって、この軍事的脅威に対し」
「私が防御、迎撃の任に当たることになった」(ラインハルト)

 

「両日中に勅命が下るだろう」
「武人として名誉のきわみである。卿らの善戦を希望する」(ラインハルト)

 

「要するに他の部隊がすべて皇宮の飾り人形、まるで頼りにならないからだ」
「昇進と勲章を手に入れるいい機会だぞ」(ラインハルト)

 

第八章 死線

「では手短かに申し上げます。閣下、わが軍は危機に直面しております」
「それも重大な危機に」(キャゼルヌ)

 

「ええ、たしかに(本国から)送ってくるでしょう」
「しかし、それらの物資がイゼルローンにまでは届いたとして、その先どうなりますか」(キャゼルヌ)

 

「敵の作戦が、わが軍に補給上の過大な負担をかけることにある」
「ということです!」(キャゼルヌ)

 

ヤン、頼むから生きて還れよ。
死ぬにはばかばかしすぎる戦いだ。(キャゼルヌ)

 

「(民衆を助けるのは)吾々がルドルフにならないためにさ」(ヤン)

 

「(食糧は)あと一週間分をあますのみだ」(ウランフ)

 

「それまでに補給がなかったら占領地から強制的に挑発──」
「いや、言葉を飾ってもしかたないな、略奪するしかない」(ウランフ)

 

「解放軍が聞いて呆れる」
「もっとも略奪するものがあれば、の話だがな」(ウランフ)

 

「(撤退は)余力のあるうちにです」
「敵はわが軍の補給を絶って、吾々が飢えるのを待っています」(ヤン)

 

「それは何のためでしょう」
「おそらく全面的な攻勢です。敵は地の利をえており、補給線も短くてすむ」(ヤン)

 

「だが、へたに後退すればかえって敵の攻勢を誘うことになりはせんか」
「とすればやぶへびもいいところだぞ」(ウランフ)

 

「反撃の準備は充分に整える、それは大前提です」(ヤン)

 

「いまならそれが可能ですが、兵が飢えてからでは遅い」
「その前に整然と後退するしかありません」(ヤン)

 

「まったくみごとだ、ローエングラム伯」(ヤン)

 

自分にはここまで徹底的にはやれない。
やれば勝てるとわかっていてもやれないだろう。(ヤン)

 

それがローエングラム伯と自分の差であり、自分が彼を恐れる理由でもあるのだ。(ヤン)

 

──この差が、いつか重大な結果を招くことになるかもしれない…。(ヤン)

 

「私は総司令官閣下に面談を求めたのだ。貴官に会いたいと言った覚えはないぞ」
「作戦参謀ごときが、呼ばれもせんのにでしゃばるな!」(ビュコック)

 

「そもそも、貴官らがこのような無謀な出兵案を立てなければすんだことだ」
「いますこし責任を自覚したらどうか」(ビュコック)

 

「そうか、では代わってやる。私はイゼルローンに帰還する」
「貴官が代わって前線に来るがいい」(ビュコック)

 

「不可能を言いたてるのは貴官のほうだ」
「それも安全な場所から動かずにな」(ビュコック)

 

「大言壮語を聞くのに飽きただけだ」
「貴官は自己の才能を示すのに、弁舌ではなく実績をもってすべきだろう」(ビュコック)

 

「他人に命令するようなことが自分にできるかどうか、やってみせたらどうだ」(ビュコック)

 

「彼のヒステリーを治めるために、3000万もの兵士が死地に立たねばならんというのか?」
「上等な話じゃないかね。感涙の海で溺死してしまいそうだな」(ビュコック)

 

「チョコレートを欲しがって泣き喚く幼児と同じていどのメンタリティーしか持たん奴が」
「3000万将兵の軍師だなどと知ったら、帝国軍の連中が踊り出すだろうて」(ビュコック)

 

「総司令官は昼寝中です」(ドワイト・グリーンヒル)

 

「敵襲以外は起こすな、とのことですので、提督の要望は起床後にお伝えします」
「どうかそれまでお待ちを」(グリーンヒル)

 

「…よろしい、よくわかりました」(ビュコック)

 

「このうえは、前線指揮官として、部下の生命に対する義務を遂行するまでです」
「お手数をおかけした」(ビュコック)

 

「総司令官がお目ざめの節は、よい夢をごらんになれたか」
「ビュコックが気にしていた、とお伝え願いましょう」(ビュコック)

 

「勝つためだ、キルヒアイス」(ラインハルト)

 

「わが補給部隊は被占領地の奪還と同時に、住民に食糧を供与する」(ラインハルト)

 

「叛乱軍の侵攻に対抗するためとはいえ、陛下の臣民に飢餓状態を強いたのは」
「わが軍の本意ではなかった」(ラインハルト)

 

「またこれは、辺境の住民に、帝国こそが統治の能力と責任を持つことを」
「事実によって知らしめるうえでも必要な処置である」(ラインハルト)

 

「勝利はすでに確定している」
「このうえはそれを完全なものにせねばならぬ」(ラインハルト)

 

「叛乱軍の身のほど知らずどもを生かして還すな」
「その条件は充分にととのっているのだ」(ラインハルト)

 

「卿らの上に大神オーディンの恩寵あらんことを」
「乾杯(プロージット)!」(ラインハルト)

 

「五機は撃墜して来るからな、シャンペンを冷やしておけよ」
「不粋な奴だ」(オリビエ・ポプラン)

 

「何たるざまだ!」
「あのていどの敵に、何をてまどっているか」(カール・グスタフ・ケンプ)

 

「後方から半包囲の態勢をとって艦砲の射程内に追いこめ!」(ケンプ)

 

「機銃の照準が9度から12度も狂っていたぞ!」
「ちゃんと整備しているのか、この給料盗人が!」(ポプラン)

 

「ああ、やってやる」
「おれはな、いままでの戦闘で、きさまより上等な帝国人を何人殺したか知れないんだ」(ポプラン)

 

「きさまなんか片手で充分、ハンディつきでやってやらあ!」(ポプラン)

 

「撃てばあたるぞ!」(フリッツ・ヨーゼフ・ビッテンフェルト)

 

「不名誉な二者択一(降伏か逃亡)だな、ええ?」
「降伏は性に合わん。逃げるとしよう、全艦隊に命令を伝えろ」(ウランフ)

 

「よし、全艦隊、逃げろ!」(ヤン)

 

「つけこむ隙も逃げ出す隙もない」(ヤン)

 

「ローエングラム伯は優秀な部下を持っているようだ」
「けれん味のない、いい用兵をする…」(ヤン)

 

「当然、わが軍もアムリッツァに集結する」
「敵がアムリッツァを墓所としたいのであれば、その希望をかねてやろうではないか」(ラインハルト)

 

第九章 アムリッツァ

「いずれにせよ、総司令部の奴らめ、前線へ出て来てみればいいのだ」
「将兵の苦労がすこしはわかるだろう」(ビュコック)

 

「お酒がすぎると、ユリアン坊やに言われませんでした?」(フレデリカ)
「しかし、そこまで心配してもらう理由はないぞ」(ヤン)

 

「酒量が増えたと言ったって、これでやっと人並みだ」
「身体をそこねるまでには、たっぷり1000光年はあるさ」(ヤン)

 

「中尉、聞いての通りだ」
「生き残れたら、余生は栄養に心がけることにするよ」(ヤン)

 

ローエングラム伯の配下には何と人材が多いことか。
味方にもウランフやボロディンがいれば、せめて互角の戦いが挑めたであろうけれど…。(ヤン)

 

「閣下、新たな敵が二時方向に出現しました」(フレデリカ)
「へえ、そいつは一大事」(ヤン)

 

「進め! 進め!」
「勝利の女神はお前らに下着をちらつかせているんだぞ!」(ビッテンフェルト)

 

「どうやら勝ったな」(ラインハルト)
「どうも負けたらしいな」(ヤン)

 

「ビッテンフェルトは失敗した。ワルキューレを出すのが早すぎたのだ」
「敵の砲撃の好餌になってしまったではないか」(ラインハルト)

 

「彼の手で勝利を決定的にしたかったのでしょうが…」(オーベルシュタイン)

 

「私が魔法の壺でも持っていて」
「そこから艦隊が湧き出て来るとでも奴は思っているのか!?」(ラインハルト)

 

「ビッテンフェルトに伝えろ」
「総司令部に余剰兵力はない」(ラインハルト)

 

「他の戦線から兵力を回せば、全戦線のバランスが崩れる」
「現有兵力をもって部署を死守し、武人としての職責をまっとうせよ、と」(ラインハルト)

 

冷厳だが正しい処置だ。
ただ、万人に対してひとしくこのような処置がとれるか。(オーベルシュタイン)

 

覇者に聖域があってはならないのだが…。(オーベルシュタイン)

 

「キルヒアイスはまだ来ないか?」
「心配などしていない。確認しただけだ」(ラインハルト)

 

「そうだな、逃げるにはまだ早いだろう」(ヤン)

 

「10万隻の追撃戦ははじめて見るな」(ラインハルト)

 

「いや、やめておく」
「この段階で私がしゃしゃり出たら、部下の武勲を横どりするのかと言われるだろう」(ラインハルト)

 

「キルヒアイス提督でも誰でもよろしいが、ビッテンフェルト提督を援護させるべきです」
「敵の指揮官は包囲のもっとも弱い部分を狙って、一挙に突破をはかりますぞ」(オーベルシュタイン)

 

「現在ではわが軍の兵力に余裕があるのですから」
「先刻とは違ってそうなさるべきです」(オーベルシュタイン)

 

「そうしよう。それにしてもビッテンフェルトめ」
「あいつひとりの失敗で、いつまでも祟られる!」(ラインハルト)

 

「どうして、たいした奴がいるな、叛乱軍にも」(ウォルフガング・ミッターマイヤー)
「ああ、今度会うときが楽しみだ」(オスカー・フォン・ロイエンタール)

 

「信賞必罰は武門のよって立つところだ」
「帝国首都(オーディン)に帰還ししだい、卿の責任を問うことにする」(ラインハルト)

 

「卿の艦隊はキルヒアイス提督の指揮下におく」
「卿自身は自室において謹慎せよ」(ラインハルト)

 

「有能な男だが…ローエングラム伯との仲をあまり特権的に考えられては困るな」
「覇者は、私情と無縁であるべきなのだ」(オーベルシュタイン)

 

「閣下、怒っておられるのですか?」
「私がお訊きしているのは、何に対して怒っておられるのか、ということなのです」(キルヒアイス)

 

「では、ラインハルトさま」
「あなたが怒っておられるのは、ビッテンフェルトの失敗に対してですか?」(キルヒアイス)

 

「私にはそうは思えません」(キルヒアイス)

 

「ラインハルトさま、あなたのお怒りは、ほんとうはあなた自身に向けられています」
「ヤン提督に名を成さしめたご自身に」(キルヒアイス)

 

「ビッテンフェルトは、そのとばっちりを受けているにすぎません」(キルヒアイス)

 

「ヤン提督に名を成さしめたことが、それほどくやしいのですか」(キルヒアイス)
「くやしいさ、決まっている!」(ラインハルト)

 

「アスターテのときは我慢できた」
「だが、二度も続けば充分だ!」(ラインハルト)

 

「奴はなぜ、いつもおれが完全に勝とうというとき現れて」
「おれの邪魔をするのだ!?」(ラインハルト)

 

「彼には彼の不満がありましょう」
「なぜ、自分は事の最初からローエングラム伯と対局できないのかと」(キルヒアイス)

 

「ラインハルトさま、道は平坦でないことをおわきまえ下さい」
「至高の座にお登りになるには、困難があって当然ではございませんか」(キルヒアイス)

 

「覇道の障害となるのはヤン提督だけではありません」
「それをおひとりで排除できると、そうお考えですか」(キルヒアイス)

 

「ひとつの失敗をもって多くの功績を無視なさるようでは」
「人心をえることはできません」(キルヒアイス)

 

「ラインハルトさまはすでに、前面にヤン提督、後背に門閥貴族と」
「ふたつの強敵を抱えておいでです」(キルヒアイス)

 

「このうえ、部下のなかにまで敵をお作りになりますな」(キルヒアイス)

 

「…おれは宇宙を手に入れることができると思うか?」(ラインハルト)
「ラインハルトさま以外の何者に、それがかないましょう」(キルヒアイス)

 

「中尉…私は少し歴史を学んだ」
「それで知ったのだが、人間の社会には思想の潮流が二つあるんだ」(ヤン)

 

「生命以上の価値が存在する、という説と」
「生命に優るものはない、という説とだ」(ヤン)

 

「人は戦いを始めるとき前者を口実にし、戦いをやめるとき後者を理由にする」
「それを何百年、何千年も続けて来た…」(ヤン)

 

「このさき、何千年もそうなんだろうか」(ヤン)

 

「いや、人類全体なんてどうでもいい」
「私はぜんたい、流した血の量に値するだけの何かをやれるんだろうか」(ヤン)

 

「…ローエングラム伯は、もしかして第二のルドルフになりたいのだろうか…」(ヤン)

 

第十章 新たなる序章

「皇帝が死んだ? 心臓疾患だと…自然死か」
「あの男にはもったいない」(ラインハルト)

 

あと五年、否、二年長く生きていれば、
犯した罪悪にふさわしい死にざまをさせてやったのに。(ラインハルト)

 

「閣下。皇帝は後継者を定めぬまま死にました」(オーベルシュタイン)

 

「何を驚く? 私が忠誠を誓うのは、ローエングラム帝国元帥閣下にたいしてのみだ」
「たとえ皇帝であろうと敬語など用いるに値せぬ」(オーベルシュタイン)

 

「皇帝の三人の孫をめぐって、帝位継承の抗争が生じることは明らかです」
「どのように定まろうと、それは一時のこと」(オーベルシュタイン)

 

「遅かれ早かれ、血を見ずにはすみますまい」(オーベルシュタイン)

 

「なるほど。では、せいぜい高く売りつけてやるか」(ラインハルト)

 

「幼友達というのはけっこう、有能な副将もよろしいでしょう」
「しかし、その両者が同一人というのは危険です」(オーベルシュタイン)

 

「そもそも副司令長官をおく必要はないので」
「キルヒアイス提督を他者と同列におくべきではありませんか」(オーベルシュタイン)

 

「出すぎるな、オーベルシュタイン」
「もう決めたことだ」(ラインハルト)

 

「さて、誰が勝ち残るかな」
「帝国か、同盟か、地球か…それともおれか…」(ルビンスキー)

 

「案ずるな、キルヒアイス」
「おれに考えがある」(ラインハルト)

 

「ヤン・ウェンリーがどれほど用兵の妙を誇ろうとも」
「イゼルローンから出て来れなくする策がな」(ラインハルト)

 

「他人に言えるようなことじゃないよ」
「まったく、人間は勝つことだけ考えていると、際限なく卑しくなるものだな」(ヤン)

 

「私には(射撃)の才能がないらしい」
「努力する気もないんで、今では同盟軍で一番へたなんじゃないかな」(ヤン)

 

「司令官が自ら銃をとって自分を守らなければならないようでは戦いは負けさ」
「そんなはめにならないことだけを私は考えている」(ヤン)

 

「そうですね、ええ、僕が守ってさしあげます」(ユリアン)

 

銀河英雄伝説2巻

→2巻(第三章)
→2巻(第五章)
→2巻(第七章)
→2巻(第九章)

第一章 嵐の前

「ユリアンの唯一の欠点は…ヤンを崇拝していることだ」
「まったく、悪い趣味だ」(キャゼルヌ)

 

「あれがなければ、おれの娘を嫁にやってもいいんだが」(キャゼルヌ)

 

「もし私が銃を持っていて、撃ったとしてだ、命中すると思うか?」
「じゃ、持っていてもしかたがない」(ヤン)

 

「用心しても、だめなときはだめさ」(ヤン)

 

「地位が上がるにつれて、発想が不純になっていくのがよくわかるよ」(ヤン)

 

「ご自分でわかっておいでなら、それに流されることもないでしょう」
「無用なトラブルが生じないなら、それでいいではありませんか」(ユリアン)

 

「それより、地位が上がるにつれて、お酒の量が増えているのが、僕は心配です」
「すこしひかえてください」(ユリアン)

 

「おたがいに食わせるのが大変だからな」(キャゼルヌ)

 

「しかし、じつのところ笑いごとじゃない」
「食わせるのが大変、という言葉には重要な示唆がある」(ヤン)

 

「捕虜を食わせるどころではない、という事態がくるのだろう」(ヤン)

 

「つまり、ローエングラム侯ラインハルトが、門閥貴族連合との武力抗争に」
「いよいよ乗りだす決意をかためた、と見てよいと思う」(ヤン)

 

「形式というのは必要かもしれないが」
「ばかばかしいことでもありますね、ヤン提督」(キルヒアイス)

 

「あの二時間で、一生分の忍耐心を費いはたしたような気がするよ」(ヤン)

 

どの時代にも狂信者の種はつきない。
それにしても、これはひどすぎる。(ヤン)

 

老衰した辺境の一惑星をうばいかえすために、何百万人もの血を流してよい、
という発想はどこからくるのであろう。(ヤン)

 

「イゼルローンでは周囲みな先生ですよ」(ユリアン)

 

「皆さん、楽しくやってください」(ヤン、二秒スピーチ)

 

「やれやれ、こんなふうにこんな場所で人目をさけて話さなければならんとは」
「不便なことだな」(ビュコック)

 

「(不便?) 私はけっこう楽しみましたよ。士官学校時代を思い出しますね」
「門限破りの方法に、ない知恵をしぼったものです」(ヤン)

 

「ちかいうちにこの国でクーデターがおこる可能性があります」(ヤン)

 

「成功しなくてもよいのです、ローエングラム侯にとっては」
「彼にしてみれば、同盟軍を分裂させること自体に意義があるんですから」(ヤン)

 

「(クーデターが)発生すれば、鎮圧するのに大兵力と時間を必要としますし、傷も残ります」
「ですが、未然に防げば、憲兵の一個中隊で、ことはすみますから」(ヤン)

 

「理想を失い、腐敗の極みに達した衆愚政治を、吾々の手で浄化しなくてはならない」
「これは正義の戦いであり、国家の再建に避けては通れない関門なのだ」(クーデター派)

 

第二章 発火点

「役にたたせるさ、キルヒアイス」
「でなければ、この男、生きている価値もない」(ラインハルト)

 

「その(失敗した)ときは死んでしまえ!」(ラインハルト)

 

「いまのお前に、生きる価値があると思っているのか」
「お前は卑怯者だ」(ラインハルト)

 

「守るべき民間人も、指揮すべき兵も捨てて逃亡した恥知らずだ」
「誰ひとりお前を弁護しはしない」(ラインハルト)

 

「そんなになっても、まだ生命が惜しいか?」(ラインハルト)

 

「平和か。平和というのはな、キルヒアイス」
無能が最大の悪徳とされないような幸福な時代を指していうのだ」
「貴族どもを見ろ」(ラインハルト)

 

そう、これこそが現実なのだ。
では現実を変えなければならない。(ラインハルト)

 

「貴族を恐れる必要はない、と、僕も思います」
「でも、貴族たちには注意すべきです」(キルヒアイス)

 

「貴族どもが右往左往している。どちらに味方すれば有利かと、ない知恵をしぼってな」
「近来の名喜劇だ」(ラインハルト)

 

「ハッピーエンドで終わらなければ、喜劇とは言えないでしょうな」(オーベルシュタイン)

 

「貴族どもを、ほんとうに追いつめる必要はないのだ」
追いつめられる、と、奴らに信じこませればそれでいい」(ラインハルト)

 

「それはたのもしいことですわね──銀河帝国の運命とマリーンドルフ家の未来が」
「たいしたことではないとおっしゃるのは」(ヒルデガルド・フォン・マリーンドルフ、通称:ヒルダ)

 

「貴族たちのほとんどが目をそらしている事実があります」
「人間が生まれれば必ず死ぬように、国家にも死が訪れるということです」(ヒルダ)

 

「地球というちっぽけな惑星の表面に文明が誕生して以来」
「滅びなかった国家はひとつもありません」(ヒルダ)

 

「銀河帝国──ゴールデンバウム王朝だけが、どうして例外でありえるでしょう」(ヒルダ)

 

「マリーンドルフ家は勝者に──ローエングラム侯につくべきだ、と、わたしは思います」
「忠誠の証に領地と人質をさしだしても」(ヒルダ)

 

「本人が希んだら?」
「ええ、わたしが参ります」(ヒルダ)

 

「わたし、お父さまに感謝しています」
「おもしろい時代にわたしを生んでくださったと思って」(ヒルダ)

 

「わたしに歴史を動かすことはできませんけど」
「歴史がどう動くか、そのなかで人々がどのように生きて死んでゆくか」(ヒルダ)

 

「それを確かめることができるんですもの」(ヒルダ)

 

「お父さま、心配なさらないで。マリーンドルフ家はわたしが守ります」
「どんなことをしても。なにがあっても」(ヒルダ)

 

「お前にまかせよう」
「どんな結果になろうと、私は悔やまないよ」(フランツ・フォン・マリーンドルフ)

 

「マリーンドルフ家のためにお前が犠牲になる必要はない」(マリーンドルフ伯)

 

「むしろ、マリーンドルフ家を道具にして、お前の生きる途を拡げることを考えなさい」
「いいね」(マリーンドルフ伯)

 

「今度の内戦に際して、マリーンドルフ家はローエングラム侯にお味方させていただきます」
「明日にでもおこるブラウンシュヴァイク公との」(ヒルダ)

 

「自主的に(保証書を)求める者にはおだしくださいますよう」
それ以外の者にはあえて必要ないと存じます」(ヒルダ)

 

「では非才の身ながら、お引き受けいたします」
「しかしながら、次の点を諸侯には承知しておいていただきたい」(ウィリバルト・ヨアヒム・フォン・メルカッツ)

 

「こと実戦に関するかぎり、私に全権が委ねられ、指揮系統が一元化されること」(メルカッツ)

 

「それにともなって、どれほど地位身分の高いかたであっても」
「私の命令に従っていただき」(メルカッツ)

 

「命令に背けば軍規によって処罰されるということ」
「これを認めていただかねばなりませんが」(メルカッツ)

 

「閣下は連合軍の総司令官になられ」
「ふたつの条件も盟主らに承知させたのでしょう?」(ベルンハルト・フォン・シュナイダー)

 

「大軍をひきいて強敵と戦うのは武人の本懐、と、私などは思いますのに」
「なぜそのように重苦しい表情をなさるのですか」(シュナイダー)

 

「少佐、卿はまだ若いな」
「なるほど、ブラウンシュヴァイク公らはたしかにわしのだした条件をのんだ」(メルカッツ)

 

「しかし、それは口だけのことだ」
「すぐになんやかやと作戦に介入してくるだろう」(メルカッツ)

 

「また、軍法によって彼らを裁こうとしても、素直には従いはすまい」
「そのうちローエングラム侯ラインハルトよりわしのほうを憎むようになるさ」(メルカッツ)

 

「特権は人の精神を腐敗させる最悪の毒だ」
「彼ら大貴族は、何十世代にもわたって、それに浸りきっている」(メルカッツ)

 

「自分を正当化し、他人を責めることは、彼らの本能になっているのだ」(メルカッツ)

 

「失礼しました。私が求めておりますのは、元帥閣下」
「時代が変化しているという認識を、すべての人が持つことです」(ビッテンフェルト)

 

「あなたを放置しておけば」
「今日このような事態になることが明白だったからです」(アルツール・フォン・シュトライト)

 

「わが主君に決断力さえあれば、現在、手錠をかけられていたのは」
「私ではなくあなただったでしょう」(シュトライト)

 

「ブラウンシュヴァイク公爵家のみならず、ゴールデンバウム王朝にとっても」
「まことに惜しむべきことです」(シュトライト)

 

「忠誠心というものは」
「その価値を理解できる人物に対して捧げられるものでしょう」(アントン・フェルナー)

 

「人を見る目のない主君に忠誠をつくすなど、宝石を泥のなかへ放りこむようなもの」
「社会にとっての損失だとお考えになりませんか」(フェルナー)

 

「もうすぐだ、キルヒアイス」
「もうすぐ、宇宙はおれたちのものになる」(ラインハルト)

 

第三章 ヤン艦隊出動

「あの若いのは、わしだけそんな愚行に加わらんと信じたのさ」
「とすれば、わしとしても信頼に応えねばなるまいて」(ビュコック)

 

「君はなにか誤解しているのではないか」
「私の権限は手順を守らせるところにあるので、手順を破るところにはない」(クブルスリー)

 

「これはわしがやった(兼任した)ほうがましだったかな」(ビュコック)

 

「いや、彼女の言うことは正しい」
「人間が年齢の順に死んでゆくのが、まともな社会というものだ」(ビュコック)

 

「わしのような老兵が生き残って、少年たちが死ぬような社会は、どこか狂っとる」
「誰もそれを指摘しなければ、狂いがますます大きくなる」(ビュコック)

 

「彼女のような存在は社会には必要なのさ」
「まあ、あんなに弁舌のたっしゃな女性を嫁さんにしようとは思わんがな」(ビュコック)

 

「戦わずに降伏させることを考えてみよう」
「そのほうが第一、楽だ」(ヤン)

 

「兵士は楽でしょうけど、司令官は苦労ですね」(ユリアン)

 

「ところが、世の中の半分以上は」
「兵士を多く死なせる司令官ほど苦労をしていると考えるのさ」(ヤン)

 

「武力を持った貴官らが腐敗したとき、誰がどうやってそれを粛清するのだ?」(ビュコック)

 

「紳士的だと? 人類が地上を這いまわっていたころから、今日に至るまで」
「暴力でルールを破るような者を紳士とは呼ばんのだよ」(ビュコック)

 

「そう呼んでほしければ、せっかく手に入れた権力だ」
「失わないうちに新しい辞書でも作らせることだな」(ビュコック)

 

「歴史は貴官になにも答えんかもしれんよ、グリーンヒル大将」(ビュコック)

 

「君がいてくれないと困る」
「私はものおぼえが悪いし、メカにも弱いし、有能な副官が必要なんだ」(ヤン)

 

「…はい、つとめさせていただきます、閣下」(フレデリカ)

 

「さあてね、私にもじつはよくわからんのです」
「なにしろあなたは矛盾の塊だから」(シェーンコップ)

 

「あなたほど戦争の愚劣さを嫌っている人間はいませんが」
「同時にあなたほどの戦争の名人はいない。そうでしょう?」(シェーンコップ)

 

「私はベストよりベターを選びたいんだ」
「いまの同盟の権力がだめだってことはたしかにわかっている」(ヤン)

 

「だけど、救国軍事会議とやらのスローガンを君も見たろう」
「あの連中は、いまの連中よりひどいじゃないか」(ヤン)

 

「どうです、形式などどうでもいい」
「独裁者として民主政治の実践面を守るというのは」(シェーンコップ)

 

「独裁者ヤン・ウェンリーか」
「どう考えても柄じゃないね」(ヤン)

 

「そもそも軍人というのが、あたなの柄じゃありませんよ」
「それでもこのうえなくうまくやっているんだ」(シェーンコップ)

 

「独裁者だってけっこううまくこなせるでしょう」(シェーンコップ)

 

「ヤン・ウェンリー提督は、勝算のない戦いはなさいません」(ユリアン)

 

「お前に、スポークスマンとしての才能まであるとは思わなかったよ」(ヤン)
「でも、僕が言ったのは、はったりじゃなくて事実ですよ」(ユリアン)

 

「私はだめだな。自由惑星同盟に、いささか深くかかわりすぎた」
「給料をだしてくれる相手にはそれなりの義理をはたさないとな」(ヤン)

 

「最終的にはハイネセンへ」(ヤン)

 

第四章 流血の宇宙

「奴らにふさわしい名称があるぞ。賊軍というのだ」
「公文書にはそう記録しろ、賊軍とな、いいか」(ラインハルト)

 

「シュターデン教官は、知識は豊富でしたが」
「事実と理論が対立するときは理論を優先させる傾向がある人でした」(ミッターマイヤー)

 

「私たち生徒は、理屈だおれのシュターデンと悪口を言っていたものです」(ミッターマイヤー)

 

「そろそろいいだろう」
「シュターデン教官に旧年の恩返しをするとしようか」(ミッターマイヤー)

 

「気の毒にな」
「いい人間は長生きしないよ、とくにこんなご時勢にはな」(ボリス・コーネフ)

 

「一対一でオフレッサーと出会ったら」
「卿はどうする?」(ロイエンタール)

「すっ飛んでにげるね」(ミッターマイヤー)

 

「同感だ。あれは人をなぐり殺すために生まれてきたような男だからな」(ロイエンタール)

 

「オフレッサーは勇者だ」
「ただし、石器時代のな」(ラインハルト)

 

「(オフレッサーは)生かしたまま捕らえていただきたいのです」
「閣下のお役にたててごらんにいれましょう」(オーベルシュタイン)

 

「彼の意思など問題ではありません」(オーベルシュタイン)

 

「最高司令官のおっしゃるとおり、奴は石器時代の勇者だ」
「二万年ばかり、生まれてくるのが遅かったな」(ロイエンタール)

 

「おかげで二万年後のおれたちが苦労することになる」(ミッターマイヤー)

 

「おれたちふたりは大将だ。オフレッサーの化物は上級大将」
「つりあいがとれていていいだろうが」(ミッターマイヤー)

 

「猛獣を捕えるには罠が必要と思ったが、みごとにかかったな」
「きさま以外の奴はかかるはずもない、けちな罠だが」(ロイエンタール)

 

「ほめられたと思っておこう」(ロイエンタール)

 

「そううらめしそうな表情をしなさんな…私だって明日はどうなるか知れないんだ」
「今日のうちに死ねたことを、天上(ヴァルハラ)で感謝すべきかもしれんぞ」(アンスバッハ)

 

第五章 ドーリア星域の会戦

「未来のヤン・ウェンリーがいるかもしれないさ」(ヤン)

 

「平和な時代なら、まだ私は無名のままさ」
「歴史学者の卵で、まだひよこにすらなっていないだろう」(ヤン)

 

「ヤン・ウェンリーとかいう奴は、ずいぶんと偉い奴らしいな」
「あんたと同姓同名で、たいへんな差だ」(ヤン)

 

「まあ、これくらいの役得がないとね」(シェーンコップ)

 

「やった! わかったぞ!」
「そうさ、勝つんだ。ヤン・ウェンリーは勝算のない戦いはしない、そうだろ?」(ヤン)

 

「喜んでくれ、作戦が決まったぞ」
「どうやら勝てそうだ」(ヤン)

 

「もうすぐ戦いが始まる」
「ろくでもない戦いだが、それだけに勝たなくては意味がない」(ヤン)

 

「勝つための計算はしてあるから、無理をせず、気楽にやってくれ」
「かかっているものは、たかだか国家の存亡だ」(ヤン)

 

「個人の自由と権利に比べれば、たいした価値のあるものじゃない…」
「それでは、みんな、そろそろ始めるとしようか」(ヤン)

 

「こいつはいい、どちらを向いても敵ばかりだ。狙いをつける必要もないくらいだぞ」
「やってやれ、撃ちまくるんだ!」(グエン・バン・ヒュー)

 

「人生の主食は酒と女、戦争はまあ三時のおやつだな」(ポプラン)

 

「死ぬ覚悟があれば、どんな愚かなこと」
「どんなひどいことをやってもいいというの?」(ジェシカ)

 

「暴力によって自ら信じる正義を他人に強制する種類の人間がいるわ」(ジェシカ)

 

「大なるものは銀河帝国の始祖ルドルフ・フォン・ゴールデンバウムから」
「小は大佐、あなたに至るまで…」(ジェシカ)

 

「一瞬でも、本気にならなかったと言えますか」(ユリアン)

 

「ヤン提督を殺せば歴史に名が残る──たとえ悪名であっても」
「その誘惑に駆られなかったと言えますか」(ユリアン)

 

「バグダッシュはきちんとした計算のできる男だ」
「私が勝ちつづけているかぎり、裏切ったりはしないさ」(ヤン)

 

「さしあたっては、それで充分だ。それに…」
「なるべく、お前に人殺しはさせたくないよ」(ヤン)

 

第六章 勇気と忠誠

「決戦はキフォイザー星域ということになるでしょう」
「その際、私は本隊として800隻をひきいます」(キルヒアイス)

 

「要するに烏合の衆です」
「恐れるべき何物もありません」(キルヒアイス)

 

「忠誠心ですか。美しいひびきの言葉です」
「しかし、つごうのよいときに濫用されているようです」(コンラート・リンザー)

 

「今度の内戦は、忠誠心というものの価値について」
「みんなが考えるよい機会を与えたと思いますよ」(リンザー)

 

「ある種の人間は、部下に忠誠心を要求する資格がないのだ、という実例を」
「何万人もの人間が目撃したわけですからね」(リンザー)

 

「よし、ここは後退だ。多大の犠牲を払ってまで、死守する価値はない」
「奪回するのはローエングラム侯にやっていただこう」(ロイエンタール)

 

「メルカッツ提督は、閣下がお生まれになる以前から軍人として名声のあった人です」
「彼に自由な手腕をふるわせては、事態がいささか面倒になるでしょうな」(オーベルシュタイン)

 

「自由な手腕か。そこが問題だ」
「メルカッツにそうさせるだけの器量が、ブラウンシュヴァイク公にあるとも思えないな」(ラインハルト)

 

「御意。メルカッツ提督を相手にするより」
「その背後にいて彼を悩ませる輩をこそ相手にするべきでありましょう」(オーベルシュタイン)

 

「貴族のばか息子どもが、穴のなかにひっこんでいれば長生きできるものを」
「わざわざ宇宙の塵となるためにでてくるとはな」(ミッターマイヤー)

 

「見たか、ばか息子ども。戦いとはこういうふうにやるものだ」
「きさまらの猿にも劣る頭で、憶えておけるかぎり憶えておけ」(ミッターマイヤー)

 

「生死は問わぬ」
「ブラウンシュヴァイク公を私の前へつれてこい」(ラインハルト)

 

成功した者は、一兵卒でも提督に昇進させてやるぞ」
「それに賞金もだ。機会をつかめ」(ラインハルト)

 

「あまり怒るな。ブラウンシュヴァイク公は病人なのだ」
「精神面のな」(メルカッツ)

 

「その病気を育てたのは、いつかもいったが、500年におよぶ貴族の特権の伝統だ」
「公爵は、むしろその被害者なのだ」(メルカッツ)

 

「100年前ならあれで通じたのだがな」
「不運な人だ」(メルカッツ)

 

「なるほど、ブラウンシュヴァイク公は不運な人かもしれない」
「だが、その人に未来を託せねばならない人々は、もっと不運ではないのか…」(シュナイダー)

 

特権を持つ者は、それを持たない人々の全存在、全人格を容易に否定することができる。

 

「ゴールデンバウム王朝も、これで終わった」
自らの手足を切りとって、どうして立っていることができるだろう」(アンスバッハ)

 

「いっそ、血迷ったブラウンシュヴァイク公に」
「この残虐な攻撃を実行させるべきです」(オーベルシュタイン)

 

「そのありさまを撮影して、大貴族どもの非人道性の証とすれば」
「彼らの支配下にある民衆や、平民出身の兵士たちが離反することは疑いありません」(オーベルシュタイン)

 

「阻止するより、そのほうが効果があります」(オーベルシュタイン)

 

「200万人を見殺しにするのか。なかには女子供も多くいるだろうに」(ラインハルト)
「この内戦が長びけば、より多くの死者がでるでしょう」(オーベルシュタイン)

 

帝国250億人民のためです、閣下」
「そして、より迅速な覇権確立のために」(オーベルシュタイン)

 

「この映像を帝国全土に流すのです」
「貴族どもと吾々のどちらに正義があるか、幼児でも理解するでしょう」(オーベルシュタイン)

 

「貴族どもは自分で自分の首を絞めたのです」(オーベルシュタイン)

 

「(別の方法は)あったかもしれませんが」
「私の知恵では他の方法は見つけることができませんでした」(オーベルシュタイン)

 

「おっしゃるとおり、いまさら言ってもしかたのないこと」
「このうえは、状況を最大限に利用すべきです」(オーベルシュタイン)

 

「ラインハルトさまには、もうすぐお目にかかれる」
「そのとき真偽のほどを直接確認すればいい」(キルヒアイス)

 

だが、確かめてどうする。虚報であれば、それでよい。
しかし、もし真実だったらどうするのか。(キルヒアイス)

 

第七章 誰がための勝利

「人間は誰でも身の安全をはかるものだ」(ヤン)

 

「この私だって、もっと責任の軽い立場にいれば」
「形勢の有利なほうに味方しよう、と思ったかもしれない」(ヤン)

 

「まして他人なら、なおさらのことさ」(ヤン)

 

「信念で勝てるのなら、これほど楽なことはない」
「誰だって勝ちたいんだから」(ヤン)

 

「(惑星ハイネセンを初めて攻撃するのは)なんと、このヤン・ウェンリーなのさ」(ヤン)

 

「オーディンか? そちらはお前にまかせるよ」
「私はハイネセンだけでたくさんだ」(ヤン)

 

「さっさと引退して、あこがれの年金生活にはいりたいものさ」(ヤン)

 

「心配ない、グリーンヒル大尉」
「『アルテミスの首飾り』を破壊するのに、一隻の戦艦もひとりの人命も」
「犠牲にしないことを約束するよ」(ヤン)

 

「専制とはどういうことだ? 市民から選ばれない為政者が」
「権力と暴力によって市民の自由をうばい、支配しようとすることだろう」(ヤン)

 

「それはつまり、ハイネセンにおいて現に貴官たちがやっていることだ」
「貴官たちこそが専制者だ。そうではないか」(ヤン)

 

「政治の腐敗とは、政治家が賄賂をとることじゃない」
「それは個人の腐敗であるにすぎない」(ヤン)

 

「政治家が賄賂をとってもそれを批判することが出来ない状態を」
「政治の腐敗というんだ」(ヤン)

 

「人それぞれの正義さ」(ヤン)

 

「…そうか、また老人が生き残ってしまったか」(ビュコック)

 

「一時間、いえ、二時間だけいただけますか」
「わたしは、自分が立ちなおれることを知っていますけど」(フレデリカ)

 

「でも、いますぐはだめです」
「ですから…」(フレデリカ)

 

第八章 黄金樹は倒れた

「ラインハルトさまが、その計画を知りながら、政略的な理由で黙認した」
「と申す者がおります」(キルヒアイス)

 

「事実ですか」(キルヒアイス)
「…そうだ」(ラインハルト)

 

「ラインハルトさまが覇権をお求めになるのは」
「現在の帝国──ゴールデンバウム王朝に存在しえない公正さに拠ってこそ」
「意味があると私は考えていました」(キルヒアイス)

 

「大貴族たちが滅亡するのは、いわば歴史の必然」
「500年来のつけを清算するのですから、流血もやむをえないことです」(キルヒアイス)

 

「ですが、民衆を犠牲になさってはいけません」
「新しい体制は、解放された民衆を基盤として確立されるのです」(キルヒアイス)

 

「その民衆を犠牲にするのは」
「ご自分の足もとの土を掘りくずすようなものではありませんか」(キルヒアイス)

 

「相手が大貴族どもであれば、ことは対等な権力闘争」
「どんな策をお使いになっても恥じることはありません」(キルヒアイス)

 

「ですが、民衆を犠牲になされば、手は血に汚れ、どのような美辞麗句をもってしても」
「その汚れを洗い落とすことはできないでしょう」(キルヒアイス)

 

「ラインハルトさまともあろうかたが、一時の利益のために」
「なぜご自分をおとしめられるのですか」(キルヒアイス)

 

「お前はいったい、おれのなんだ?」(ラインハルト)
「私は閣下の忠実な部下です、ローエングラム侯」(キルヒアイス)

 

「…あなたにとって、もっともたいせつなものがなんであるかを」
「いつも忘れないようにしてください」(アンネローゼ)

 

「ときには、それがわずらわしく思えることもあるでしょうけど」
「失ってから後悔するより、失われないうちにその貴重さを理解してほしいの」(アンネローゼ)

 

「なんでもジークに相談して、彼の意見を聞くのよ」
「それでは、帰る日を楽しみにしています。また逢う日まで」(アンネローゼ)

 

「全宇宙が私の敵になっても、キルヒアイスは私に味方するだろう」
「実際、いままでずっとそうだった」(ラインハルト)

 

「だから私も彼に酬いてきたのだ」
「そのどこが悪いのか」(ラインハルト)

 

「閣下、私はなにもキルヒアイス提督を粛清しろとか追放しろとか」
「申しあげているのではありません」(オーベルシュタイン)

 

「ロイエンタール、ミッターマイヤーらと同列に置き」
「部下の一員として待遇なさるように、と、ご忠告申しあげているのです」(オーベルシュタイン)

 

「組織にナンバー2は必要ありません」
「無能なら無能なりに、有能なら有能なりに、組織をそこねます」(オーベルシュタイン)

 

「ナンバー1に対する部下の忠誠心は、代替のきくものであってはなりません」(オーベルシュタイン)

 

「頭の切れる男だ。それは認める」
「だが、どうも平地に乱をおこす癖があるな」(ロイエンタール)

 

「いままでうまく運んでいたものを、理屈に合わないからといって」
「むりにあらためることはない」(ロイエンタール)

 

「ことに人間どうしの関係をな」(ロイエンタール)

 

「要塞の利を生かして、敵に出血を強い」
「長期戦にもちこんで状況の変化を待つべきであるのに」(アーダルベルト・フォン・ファーレンハイト)

 

「いま出戦してなんの意味があるか」
「ただ敗北を早めるだけではないか」(ファーレンハイト)

 

「そもそも、公と小官とは、同志であって主従ではない」(ファーレンハイト)

 

「身分に上下はあっても、同じ銀河帝国の廷臣であり」
「ローエングラム侯の専横に対してゴールデンバウム王朝を守護したてまつる」(ファーレンハイト)

 

「その目的で結ばれた仲であるはずだ」
「小官は軍事の専門家として、最悪の結果をもたらすことのないよう忠告している」(ファーレンハイト)

 

「それなのに、命令がましくご自分の意思を押しつけるとは」
「ブラウンシュヴァイク公はなにを勘ちがいされたか」(ファーレンハイト)

 

「ばかばかしい、相手になるな。敗残兵と殺し合いをしても意味のないことだ」
「勝手に咆えさせておけ」(ロイエンタール)

 

「フロイライン・マリーンドルフが言ったものだ」(ラインハルト)

 

「貴族の士官に対する平民兵士の反感が、私の勝因のひとつになるだろう、とな」
「みごとに的中したな」(ラインハルト)

 

「正直なところ、今年じゅうに終わるとは思っていませんでしたが」
「案外、早く決着がついたものです」(オーベルシュタイン)

 

「もっとも、賊軍にかぎってのことですが」(オーベルシュタイン)

 

「おそらくこうなるだろうと想像はしていた」
「そして、そのとおりになってしまった」(メルカッツ)

 

「わしにできたのは、ほんのすこし、この日がくるのを延ばすことだけだったな」(メルカッツ)

 

「わしは40年以上も、彼ら(同盟)と戦いつづけてきた」
「部下を数多く殺され、同じほどに彼らも殺した」(メルカッツ)

 

「そのわしが、彼らが受け容れるだろうか」(メルカッツ)
「高名なヤン・ウェンリー提督を頼りましょう」(シュナイダー)

 

「いささか風変わりですが、寛容な人物だ、と聞いております」
「だめでもともとではありませんか」(シュナイダー)

 

「もしだめなら、そのときは私もおともいたします」(シュナイダー)

 

「ローエングラム侯がきらいではありませんが、私の上官は提督おひとりと決めております」
「どうぞ、閣下、ご決心ください」(シュナイダー)

 

「黄金樹(ゴールデンバウム)はこれで事実上たおれた」
「後にくるのが、緑の森(グリューネワルト)ということに、さて、なるかな」(アンスバッハ)

 

「大貴族どもの、あんなみじめな姿を見ようとは想像もしなかった」
「これは新しい時代のはじまりといってよいのかな」(ミッターマイヤー)

 

「すくなくとも、旧い時代の終わりであることはたしかだな」(ロイエンタール)

 

「奴らの時代は終わった」
「これからは、おれたちの時代なのだ」(ロイエンタール)

 

第九章 さらば、遠き日

特権意識を持ってはいけない。
下の者が上の者に対等の関係を求めてはならないのだろう。(キルヒアイス)

 

しばらくは耐えよう。
ラインハルトさまなら、一時の迷いや誤りはあっても、いずれわかってくださる。(キルヒアイス)

 

いままで11年間、ずっとそうだったではないか。
いままで?(キルヒアイス)

 

いままではたしかにそうだったし、それは永遠のものと信じていた。
だが、それはうぬぼれであったかもしれない…。(キルヒアイス)

 

「私は帝国の軍人です」
「閣下が帝国の軍権をにぎられたうえは、つつしんでしたがいましょう」(ファーレンハイト)

 

「いささか遠まわりしたような気がしますが」
「これからはそれをとりもどしたいものです」(ファーレンハイト)

 

「ラインハルトさま…ご無事で」
「もう私はラインハルトさまのお役にたてそうにありません…お許しください」(キルヒアイス)

 

「ラインハルトさま…」
「宇宙を手にお入れください」(キルヒアイス)

 

「それと、アンネローゼさまにお伝えください」
「ジークは昔の誓いを守ったと…」(キルヒアイス)

 

「いやだ。おれはそんなこと伝えない」
「お前の口から伝えるんだ。お前自身で」(ラインハルト)

 

「おれは伝えたりしないぞ」
「いいか、いっしょに姉上のところへ行くんだ」(ラインハルト)

 

「嘘をつくな、ミッターマイヤー。卿は嘘をついている」
「キルヒアイスが、私を置いて先に死ぬわけはないんだ」(ラインハルト)

 

「だが正直なところ、侯にあれほどもろいところがおありとは思わなかった」(ナイトハルト・ミュラー)

 

「おれや卿が死んでも、ああおなりではあるまいよ」
「ジークフリード・キルヒアイスは特別だ──特別だった」(ミッターマイヤー)

 

「侯は、いわば自分自身の半分を失われたのだ」
「それも、ご自分のミスで」(ミッターマイヤー)

 

「ローエングラム侯には立ちなおっていただく」
「立ちなおっていただかねばならぬ」(ロイエンタール)

 

「さもないと、吾々全員」
「銀河の深淵に向かって滅亡の歌を合唱することになるぞ」(ロイエンタール)

 

「オーベルシュタインもふくめて」
「吾々はローエングラム号という名の宇宙船に乗っているのだ」(ロイエンタール)

 

「自分自身を救うために、船を救わねばならぬ」(ロイエンタール)

 

「もしオーベルシュタインが、この危機に乗じて、自分ひとりの利益を図るというなら」
「こちらも相応の報復手段をとるだけのことだ」(ロイエンタール)

 

「卿らの討議も、長いわりに、なかなか結論がでないようだな」(オーベルシュタイン)

 

「なにしろわが軍には目下ナンバー1、ナンバー2がおらず、まとめ役を欠くのでな」(ロイエンタール)

 

「卿を敵にまわしたくはないものだ」
「勝てるはずがないからな」(ミッターマイヤー)

 

権力はそれを獲得した手段によってではなく、
それをいかに行使したかによって正当化される。

 

「帝国の権威か。昔はそういうものもあったようだな」
「だが、結局、実力あっての権威だ。権威あっての実力ではない」(ミッターマイヤー)

 

「軍隊は湧いてくるものじゃないわ」
「ローエングラム侯の軍隊以外に、これほどの人数がいるはずないでしょう」(ヒルダ)

 

「活気に満ちた時代が来そうね」
「もっとも、少々騒がしいけど、沈滞しているよりはるかにましだわ」(ヒルダ)

 

「(グリューネワルト伯爵夫人に)お会いください」
「閣下、私はあなたをまだ見離してはいません」(オーベルシュタイン)

 

「ご自分をお責めになるだけで」
「私に責任を押しつけようとなさらないのはごりっぱです」(オーベルシュタイン)

 

「ですが、これ以上過去ばかりをごらんになって、未来に立ち向かおうとなさらないなら」
「あなたもそれまでのかただ」(オーベルシュタイン)

 

「宇宙は他人の手に落ちるでしょう」
「キルヒアイス提督がヴァルハラで情けなく思うことでしょうな」(オーベルシュタイン)

 

「かわいそうなラインハルト…」
「あなたはもう失うべきものを持たなくなってしまったわね、ラインハルト」(アンネローゼ)

 

「そう、わたしたちはおたがいの他に、もうなにも持たなくなってしまった…」(アンネローゼ)

 

「ラインハルト、わたしはシュワルツェンの館をでます」
「どこかに小さな家をいただけるかしら」(アンネローゼ)

 

「そして、当分はおたがいに会わないようにしましょう」(アンネローゼ)

 

「わたしはあなたの傍にいないほうがいいのです」
「生きかたがちがうのだから…」(アンネローゼ)

 

「わたしには過去があるだけ」
「でもあなたには未来があるわ」(アンネローゼ)

 

「疲れたら、わたしのところへいらっしゃい」
「でも、まだあなたは疲れてはいけません」(アンネローゼ)

 

「わかりました」
「姉上がそうおっしゃるなら、お望みのとおりにします」(ラインハルト)

 

「そして、宇宙を手に入れてからお迎えにあがります」
「でも、お別れの前に教えてください」(ラインハルト)

 

「姉上はキルヒアイスを…愛していらしたのですか?」(ラインハルト)

 

「帝国宰相たるかたを死刑にはできまい」
「自殺をお勧めせよ。苦しまずにすむ方法でな」(ラインハルト)

 

「(一族の)女子供は辺境に流刑。10歳以上の男子は、すべて死刑」(ラインハルト)
「…御意。9歳以下はよろしいのですか」(ロイエンタール)

 

「私が幼年学校にはいったのは10歳のときだった」
「その年齢までは半人前と言っていいだろう。だから助命する」(ラインハルト)

 

「もし、成長して私を討とうとするなら、それもよい」
「実力のない覇者が打倒されるのは当然のことだからな」(ラインハルト)

 

「卿らも同様だ」
「私を倒すだけの自信と覚悟があるなら、いつでも挑んできてかまわないぞ」(ラインハルト)

 

「私はいままで多くの血を流してきた」
「これからもそうなるだろう」(ラインハルト)

 

「リヒテンラーデ一族の血が数滴、それに加わったところでなんの変化があるか」(ラインハルト)

 

人間は死ぬ。恒星にも寿命がある。宇宙そのものですら、いつかは存在をやめる。
国家だけが永遠であるわけがない。(ヤン)

 

巨大な犠牲なくしては存続できないような国家なら、
さっさと滅びてしまって、いっこうにかまうものか…。(ヤン)

 

正論を吐く人間はたしかにりっぱであろう。
だが、信じてもいない正論を吐く人間は、はたしてどうなのか。(ヤン)

 

「今日は危なかった」
トリューニヒトと会ったとき、嫌悪感がますばかりだったが、ふと思ったんだ」(ヤン)

 

「こんな男に正当な権力を与える民主主義とはなんなのか」
「こんな男を支持しつづける民衆とはなんなのか、とね」(ヤン)

 

「我に返って、ぞっとした」(ヤン)

 

「昔のルドルフ・フォン・ゴールデンバウムや、この前クーデターを起こした連中は」
「そう思いつづけて、あげくにこれを救うのは自分しかいないと確信したにちがいない」(ヤン)

 

「まったく、逆説的だが、ルドルフを悪逆な専制者にしたのは」
「全人類に対する彼の責任感と使命感なんだ」(ヤン)

 

「なにをあわてている」
「世の中には、あわてたり叫んだりするにたるようなものは、なにひとつないぞ」(ヤン)

 

「無礼な! なにを言うか。メルカッツ閣下は捕虜ではない」
「自由意志によって亡命していらしたのだ」(シュナイダー)

 

「客人として遇するのが礼儀だろう」
「それとも、自由惑星同盟には、礼儀などというものは存在しないのか」(シュナイダー)

 

「私はおだてに弱いんでね」(ヤン)

 

「わが友」(キルヒアイスの墓碑名)

 

銀河英雄伝説3巻

→3巻(第三章)
→3巻(第五章)
→3巻(第七章)
→3巻(第九章)

第一章 初陣

「抵抗できない部下をなぐるような男が、軍人として賞賛に値するというなら」
「軍人とは人類の恥部そのものだな」(ヤン)

 

「そんな軍人は必要ない」
「すくなくとも、私にはね」(ヤン)

 

「なぜトリグラフを旗艦になさらなかったのですか?」
「あれは旗艦にふさわしい風格を持っていると思うのですが…」(ムライ)

 

「たしかにトリグラフはみばえのいい艦だ」
「だからこそ旗艦にしなかったのさ」(ヤン)

 

「自分がそれに乗ったら、その美しさを観賞するわけにいかないじゃないか…」(ヤン)

 

「まったく、何てことだ」
「おれはボーイスカウトを指揮して敵と戦わねばならんのか」(ダスティ・アッテンボロー)

 

「彼ら(新兵)にも戦ってもらう。特等席で戦争ゲームを見物させてやる余裕はない」
「出動させろ」(アッテンボロー)

 

新兵たちのうち幾人が、イゼルローン要塞内の宿舎のベッドに帰ることができるだろう。
せめて救援が来るまで、被害を最小限にくいとめるしかない。(アッテンボロー)

 

「勝つ」ことより「負けない」ことを方針として採用する。(アッテンボロー)

 

「安全だと思ったから送り出したんだがなあ…」(ヤン)
「きっと無事に還ってきますわ。才能も運も豊かな子ですから」(フレデリカ)

 

「一度も死んだことのない奴が、死についてえらそうに語るのを信用するのかい?」(ヤン)

 

「増援なさるのであれば、緊急に」
「しかも最大限の兵力をもってなさるがよろしいと小官は考えます」(メルカッツ)

 

「…それによって敵に反撃不可能な一撃を加え、味方を収容して」
「すみやかに撤収するのです」(メルカッツ)

 

「兵力の逐次投入は、この際、かえって収拾の機会を減少させ」
「なしくずしに戦火の拡大をまねくだろう」(ヤン)

 

「全艦隊をもって急行し、敵の増援が来る前に一戦して撤退する」(ヤン)

 

「ユリシーズの武運にあやかりたいものだな」
「みんな、かっこうが悪くてもいい、生き残れよ!」(アッテンボロー)

 

「敵は戦意を喪失して逃走にうつっております。追撃しますか?」(フレデリカ)
「いいさ、逃してやろう」(ヤン)

 

「こいつはおどろいた。天禀というやつだな」
「おれの初陣だってこんなにはでじゃなかった」(シェーンコップ)

 

「この将来、どれほど伸びるか、末おそろしい気さえする…」(シェーンコップ)
「なに、単に一生分の好運をまとめて費いはたしただけだろう」(ヤン)

 

「これで戦いを甘く見るようになったら、かえって本人のためにならない」
「真の器量が問われるのはこれからだ」(ヤン)

 

第二章 はばたく禿鷹(ガイエ)

「百戦して百勝というわけにもいくまい」
「いちいち陳謝は無用である」(ラインハルト)

 

「体制に対する民衆の信頼をえるには、ふたつのものがあればよい」
公平な裁判と、同じく公平な税制度。ただそれだけだ」(ラインハルト)

 

「いいか、ミッターマイヤー、よく聞け」
「お前は結婚なんかしたがな、女という生物は男を裏切るために生を享けたんだぞ」(ロイエンタール)

 

「昨日は酒の勢いでつまらんことを言った」
「忘れてくれ」(ロイエンタール)

 

「何のことだ、まるで憶えてない」(ミッターマイヤー)
「…ふん、そうか、それならいい」(ロイエンタール)

 

「滅びるべき男だったのだ」
「ことさら、おれが滅ぼしたのではない」(ラインハルト)

 

「ふむ、私の犬に見えるか」
「そうか、私の犬に見えるのか」(オーベルシュタイン)

 

「ふん、われらが参謀長どのは、人間には嫌われても犬には好かれるわけか」
「犬どうし気が合うのだろう」(ビッテンフェルト)

 

「ビッテンフェルトはたしかに強い」
「おれと奴が戦場で相まみえるとしたら、戦いが始まったとき、優勢なのは奴だろう」(ロイエンタール)

 

「だが、戦いが終わったとき、立っているのはおれさ」(ロイエンタール)

 

簒奪が世襲より悪いなどと、誰が定めたのか。(ラインハルト)

 

第三章 細い一本の糸

「あいつ(ヤン)は首から下は非必要な男だ」(キャゼルヌ)

 

「傷ついてるんです」
「独身の間はお兄ちゃまと呼ばれたい、と思っているんですがね」(ヤン)

 

「とんだ贅沢だ」
「30歳を過ぎて独身だなんて、許しがたい反社会的行為だと思わんか」(キャゼルヌ)

 

「生涯、独身で社会に貢献した人物はいくらでもいますよ」
「4、500人リストアップしてみましょうか」(ヤン)

 

「おれは、家庭を持った上に社会に貢献した人間を、もっと多く知っているよ」(キャゼルヌ)

 

「…ヤン、お前さんは組織人としては保身に無関心すぎる」
「そいつはこの際、美点ではなくて欠点だぞ」(キャゼルヌ)

 

「ですが、ただでさえ忙しいんですよ。そんなことまで考えていたら…」
「昼寝をする暇もなくなってしまう」(ヤン)

 

「暇のあるなしじゃないだろう」
「お前さんは、嫌なんだ」(キャゼルヌ)

 

「それについて考える必要を充分に承知しているくせに、考えたくない」
「と、そういうことだろう」(キャゼルヌ)

 

「それほど潔癖な人間じゃありませんよ、私は」
「めんどうくさいんです。ほんとうに、ただそれだけです」(ヤン)

 

「おれがこんなことを言うのもな」
「われらが敬愛する元首、トリューニヒト閣下のことが気になるからだ」(キャゼルヌ)

 

「奴には理想も経綸もないが、打算と陰謀は充分にあるだろう」
「笑ってくれてかまわんが、じつのところ、最近、おれは奴が少々こわいのだ」(キャゼルヌ)

 

「詭弁と美辞麗句だけが売り物の二流の政治屋だと思っていたが」
「このごろ何やら妖怪じみたものを感じる」(キャゼルヌ)

 

「とんでもないことを平気でやらかすのじゃないか、と、その危惧が強まる一方さ」
「何と言うか、そう、悪魔と契約を結びでもしたような印象だ」(キャゼルヌ)

 

「志を継ぐのは、べつに血を分けた息子である必要はないでしょう…」
「志があれば、の話ですがね」(ヤン)

 

「お前さんの保護者は昨日のことはよく知っている」
「明日のこともよく見える」(キャゼルヌ)

 

「ところが、そういう人間はえてして今日の食事のことはよく知らない」
「わかるな?」(キャゼルヌ)

 

「まあ、そう心配しないでください」
「私だって何も考えていないわけじゃありません」(ヤン)

 

「ミスター・トリューニヒトのおもちゃになるのはごめんですし」
「安定した老後を迎えたいですからね」(ヤン)

 

「ローエングラム公にしてもオーベルシュタインにしても」
「全知全能というわけではありません」(ルビンスキー)

 

「乗じる隙はありますし、なければつくることもできるでしょう」(ルビンスキー)

 

「権力にしろ機能にしろ、集中すればするほど」
「小さな部分を制することによって全体を支配することができますからな」(ルビンスキー)

 

「同盟の権力者たちは」
「同盟それ自体を内部から崩壊させる腐食剤として使えます」(ルビンスキー)

 

「およそ、国内が強固であるのに」
「外敵の攻撃のみで滅亡した国家というものはありませんからな」(ルビンスキー)

 

「まったくだ」
「狂信的な教条主義者というやつは冬眠からさめたばかりの熊よりあつかいにくい」(ルビンスキー)

 

「現在は無意味に見えても、後になって使途のでてくる駒があるものだ」
「預金にしても債権にしても、長期になるほど利率がよいだろう?」(ルビンスキー)

 

「石油が地層に形成されてから、ものの役に立つようになるまで何億年もかかる」(ルビンスキー)

 

「それに比べれば、人間は、いくら晩成でも、半世紀もたてば結果が出るものだ」
「あせることはない」(ルビンスキー)

 

「人間の心理と行動はチェスの駒よりはるかに複雑だ」
「それを自分の思いどおりにするには、より単純化させればよい」(ルビンスキー)

 

「相手をある状況に追いこみ、行動の自由をうばい、選択肢をすくなくするのだ」(ルビンスキー)

 

第四章 失われたもの

「そうです。これがフェザーンのやりかたです」
「必要とあらば権道を用います」(ルパート・ケッセルリンク)

 

「軽蔑なさってけっこう」
「ただし、勝者に対する敗者の軽蔑ほどむなしいものは世にすくないと私は思いますがね」(ケッセルリンク)

 

「勝っている間は、そう思えるでしょうな」(レオポルド・シューマッハ)

 

武力とは政治的・外交的敗北をつぐなう最後の手段であり、
発動しないところにこそ価値があるのだ。(ヒルダ)

 

「(要塞のワープは)成功してほしいものですわね」
「失敗すれば、あたら有能な提督を失うことになります」(ヒルダ)

 

「それで死ぬとしたら、ケンプもそれまでの男だ」
「永らえたところで、たいして役にたつまい」(ラインハルト)

 

「あくまで茶飲み話です」
「そんな目をなさるとこわいですわ」(ヒルダ)

 

「国家、組織、団体──どう言ってもよいのですけど」
「人間の集団が結束するのに、どうしても必要なものがあります」(ヒルダ)

 

「敵ですわ」(ヒルダ)

 

「心配ない、フロイライン。私も幼児殺害者になるのはいやだ」
「皇帝は殺さぬ」(ラインハルト)

 

「あなたが言ったように、私には敵が必要だ」
「そして私としては、敵より寛大で、なるべく正しくありたいと思っているのだから…」(ラインハルト)

 

「(ワープは)必ず成功させてごらんにいれます」(ケンプ)

 

「父さんはな、これから遠くの宇宙まで悪い奴を退治しに行くのだ」
「ふたりとも男の子だ。母さんを守って、いい子でいるんだぞ」(ケンプ)

 

「あたりまえだ、帰ってくるさ」
「おれがいままで戦場に出て帰ってこなかったことがあるか」(ケンプ)

 

「たとえ、戦術上の新理論を発見したからといって、出兵を主張するなど」
「本末転倒もはなはだしい」(ミッターマイヤー)

 

「主君に無名の師をすすめるなど、臣下として恥ずべきことではないか」(ミッターマイヤー)

 

「自由惑星同盟はいずれ滅ぼさねばならないが、今度の出兵は無益で無用のものだ」
「いたずらに兵を動かし、武力に驕るのは、国家として健康なありようじゃない」(ミッターマイヤー)

 

「ジークフリード・キルヒアイスが生きていれば」
「きっとローエングラム公をお諌めしただろうな」(ミッターマイヤー)

 

「どう思う、金髪の孺子とやらを?」(ミッターマイヤー)
「昔からよく言う──虎の児と猫を見誤るなかれ、とな」(ロイエンタール)

 

「あれは多分、虎のほうだろう」
「皇帝の寵妃の弟だからといって、わざと負けてやる義理は敵にはないからな」(ロイエンタール)

 

「巨大な象を一頭殺すのと、一万匹のねずみを殺しつくすのと、どちらが困難か」
「後者に決まっている」(ロイエンタール)

 

「集団戦の意義も知らぬ低能に、何ができるものか」(ロイエンタール)

 

「失うべからざるものを失った後、人は変わらざるをえんのだろうよ」(ロイエンタール)

 

「ただし(劇的なのは)、あくまで成功すれば、の話だがな」(ロイエンタール)

 

「ガイエスブルクに行ってみる」
「しばらくひとりになりたい。誰もはいってきてはならん」(ラインハルト)

 

お前は誓いを守った。
だから、おれもお前に対する誓いを守る。(ラインハルト)

 

どんなことをしてでも、宇宙を手に入れる。
そして姉上を迎えに行く。(ラインハルト)

 

だが、おれは寒いのだ、キルヒアイス。
お前と姉上がいない世界には、温かい光が欠けている。(ラインハルト)

 

時のページを逆にめくって、12年前のあのころにもどれたら、
そしてもう一度やりなおすことができたら。(ラインハルト)

 

おれにとって世界はもうすこし明るく温かいものでありうるのだろうが…。(ラインハルト)

 

「現在の同盟の権力者どもにふさわしいやりかただな」(ルビンスキー)

 

「口に民主主義をとなえながら、事実上、法律や規則を無視し、空洞化させてゆく」
「姑息で、しかも危険なやりかただ」(ルビンスキー)

 

「権力者自らが法を尊重しないのだから、社会全体の規範がゆるむ」
「末期症状だ」(ルビンスキー)

 

第五章 査問会

「軍法会議はともかく、査問会などというものは」
「同盟憲章にも、同盟軍基本法にも規定がありません」(フレデリカ)

 

「超法規的存在ってやつかな」(ヤン)
「つまり恣意的なもので、法的根拠を持たないということですわ」(フレデリカ)

 

「とは言っても、国防委員長が私に出頭命令を出すこと自体は」
「りっぱに法的根拠を持つからな」(ヤン)

 

「虚栄と背徳の都へ、赴かざるをえないらしいよ」(ヤン)

 

「警護隊をつれておいでになりますか? 私が指揮をとりますが…」
「(ひとりなら)知勇兼備の私でいかがです」(シェーンコップ)

 

「(マシュンゴなら)首都に残っている柔弱な連中なら」
「片手で一個小隊はかたづけるでしょうよ」(シェーンコップ)

 

「私なら一個中隊ですな」(シェーンコップ)

 

何十年かに一度出るかどうかという偉人に変革をゆだねること自体、
民主政治の原則に反する。(ヤン)

 

英雄や偉人が存在する必要をなくすための制度が民主共和制であるのだが、
いつ理想は現実に対して勝者となれるのだろうか。(ヤン)

 

「将兵の生命より無人の衛星が惜しいとおっしゃるなら」
「私の判断は誤っていたことになりますが…」(ヤン)

 

「それが非難に値するということであれば、甘んじてお受けしますが」
「それにはより完成度の高い代案を示していただかないことには」(ヤン)

 

「私自身はともかく、生命がけで戦った部下たちが納得しないでしょう」(ヤン)

 

「あれは私には珍しく見識のある発言だったと思います」(ヤン)

 

「国家が細胞分裂して個人になるのではなく」
「主体的な意志を持った個人が集まって国家を構成するものである以上」(ヤン)

 

「どちらが主でどちらが従であるか、民主社会にとっては自明の理でしょう」(ヤン)

 

「そうでしょうか」
「人間は国家がなくても生きられますが、人間なくして国家は存立しえません」(ヤン)

 

「無用な誤解とは、どういうものか、具体的に教えていただけませんか」(ヤン)

 

何か証拠があっての深刻な疑惑ならともかく」
「無用の誤解などという正体不明のものに対して備える必要を、小官は感じません」(ヤン)

 

「それでは、ひとつ、お願いがあるのですが」
「模範解答の表があったら、見せていただけませんか」(ヤン)

 

「あなたがたが、どういう答えを期待しておいでか知っておきたいんです」(ヤン)

 

「ヤン提督の副官として、上司との面会を要求します」
「提督はどこにおいでですか」(フレデリカ)

 

「わかりました。査問会とは非公開の精神的拷問をさして言うのですね」(フレデリカ)

 

「ちがうとおっしゃるのなら、査問会の公開、弁護人の同席」
「及び被査問者との面会をかさねて要求します」(フレデリカ)

 

「軍法会議には該当いたしません」
「国家機密保護法には、査問会なるものの規定はございませんし」(フレデリカ)

 

「したがって、その内情を公開したところで、犯罪を構成することはありえません」(フレデリカ)

 

「どうしてもヤン提督の人権を無視して秘密の査問会を強行なさるのでしたら」
「こちらも可能なかぎりの手段をとらせていただきます」(フレデリカ)

 

第六章 武器なき戦い

「新しい技術と言うわけでもない。スケールを大きくしただけのことだろう」
「それも、どちらかというと、あいた口がふさがらないという類だ」(シェーンコップ)

 

「だが意表を突かれたこと、敵の兵力が膨大なものであること、これは確かだ」
「しかもヤン司令官は不在」(キャゼルヌ)

 

「留守番の吾々だけで、すくなくとも当面は敵をささえなくてはならない」(キャゼルヌ)

 

「要塞砲と要塞砲の撃ちあいか…?」(キャゼルヌ)
「さぞ盛大な花火でしょうな」(シェーンコップ)

 

「至急、ヤン提督に首都からもどっていただかねばなりませんな」(フョードル・パトリチェフ)

 

「ざっと計算して、吾々は最低でも四週間、敵の攻撃をささえなくてはならない」
「しかも、この期間は、長くなることはあっても短くなることはないだろう」(キャゼルヌ)

 

「楽しい未来図ですな」(パトリチェフ)

 

「もしイゼルローン要塞が失われたらどうなると思う?」
「ローエングラム公のひきいる大軍が回廊から同盟領へなだれこんでくるぞ」(ムライ)

 

「そうなれば同盟は──」(ムライ)

 

「閣下にこのことをお話しするかどうか、じつはずいぶん迷いました」(フレデリカ)

 

「ヤン提督を窮状からお救いするのに、助力をいただければありがたいのですけど」
「悪くしますと、軍部と政府との対立ということになりかねませんし…」(フレデリカ)

 

「もっともな心配だ」
「だが、同時に無用の心配でもあるな」(ビュコック)

 

「というのは、軍部全体が一丸となって政府と対立するなど」
「もはやありえんことだからだよ、大尉」(ビュコック)

 

「二派! ふむ、二派にはちがいない」
「圧倒的多数派と少数派とを、同列に並べてよいものならな」(ビュコック)

 

「むろん、わしは少数派さ」
「自慢にもならんことだがね」(ビュコック)

 

「なに、べつに困ってはおらんよ。いまいましいだけだ」
「ごそごそとうるさくてな」(ビュコック)

 

「じつは、この部屋にも盗聴器が隠されておるかもしれんのだ」
「確率は9割以上だろうな」(ビュコック)

 

「それを知っていてこういう話をしたのはな、いまさら旗色をごまかすこともできんし」
「盗聴の記録が法律上の証拠になることもないからだ」(ビュコック)

 

「逆にこちらが、盗聴による人権侵害を訴えることもできる」
「政府に同盟憲章を尊重する気があれば、だがね」(ビュコック)

 

「政府は民主主義のたてまえを公然と踏みにじることはできません」
「いざというとき、武器に使えると思います」(フレデリカ)

 

「訪ねてきておいて、いまさらそんなこと(迷惑)を気にせんでいい」
「わしはあの若いのが好きだしな」(ビュコック)

 

「ああ、このことを本人に言ってはいかんよ」
「若い者はすぐいい気になるからな」(ビュコック)

 

「ほんとうに感謝いたします」
「お人柄に甘えて申しあげますと、わたくしもビュコック閣下が好きですわ」(フレデリカ)

 

「大尉、これが民主主義の総本山の現状だよ」
「まだ雨はふりはじめてはおらんが、雲の厚さたるやたいへんなものだ」(ビュコック)

 

「どうも加速度的に悪くなっとる」
「天候を回復させるのは容易なことじゃないぞ」(ビュコック)

 

「わしらは仲間というわけだ」
「世代はちがってもな」(ビュコック)

 

「すばらしいご意見です」
「戦争で生命を落としたり肉親を失ったりしたことのない人であれば」
「信じたくなるかもしれませんね」(ヤン)

 

「まして、戦争を利用して、他人の犠牲の上に自らの利益をきずこうとする人々にとっては」
「魅力的な考えでしょう」(ヤン)

 

「ありもしない祖国愛をあると見せかけて他人をあざむくような人々にとってもね」(ヤン)

 

「あなたがたが、口で言うほどに祖国の防衛や犠牲心が必要だとお思いなら」
「他人にどうしろこうしろと命令する前に、自分たちで実行なさったらいかがですか」(ヤン)

 

「人間の行為のなかで、何がもっとも卑劣で恥知らずか」(ヤン)

 

「それは、権力を持った人間、権力に媚を売る人間が、安全な場所に隠れて戦争を賛美し」
「他人には愛国心や犠牲精神を強制して戦場へ送り出すことです」(ヤン)

 

「宇宙を平和にするためには、帝国と無益な戦いをつづけるより」
「まずその種の悪質な寄生虫を駆除することから始めるべきではありませんか」(ヤン)

 

「いっそ退場を命じていただけませんか」
「はっきり申しあげますがね、見るに耐えないし、聞くに耐えませんよ」(ヤン)

 

「料金を払っていないといっても、忍耐には限度が…」(ヤン)

 

「わかりました。イゼルローンにもどりましょう」
「あそこには私の部下や友人がいますから」(ヤン)

 

「そうだ、たいせつなことを忘れていた」(ヤン)

 

「帝国軍が侵攻してくる時機をわざわざ選んで」
「小官をイゼルローンからお呼びになった件に関しては」(ヤン)

 

「いずれ責任のある説明をしていただけるものと期待しております」(ヤン)

 

「むろん、イゼルローンが陥落せずにすめば、の話ですが」
「では失礼…」(ヤン)

 

「目上? 政治家とは、それほどえらいものかね」
「私たちは社会の生産に何ら寄与しているわけではない」(ホワン・ルイ)

 

「市民が納める税金を、公正にかつ効率よく再分配するという任務を託されて」
「給料をもらってそれに従事しているだけの存在だ」(ホワン)

 

「私たちはよく言っても社会機構の寄生虫でしかないのさ」(ホワン)

 

「ありがとう、大尉、何と言うか、その、お礼の言いようもない」(ヤン)
「副官として当然のことをしたまでです、閣下。でも、お役に立ててうれしく思います…」(フレデリカ)

 

「さてと、イゼルローンに帰るとしても、手ぶらというわけにはいくまい」
「いろいろ準備しなきゃならんが、その前にみんなで昼食としよう」(ビュコック)

 

「吾々が食事をしている間くらい、イゼルローンは保ちこたえるだろうさ」(ビュコック)

 

「いま国民が政治に信頼を失いつつあるとき」
「実力と人望を兼ねそなえた高級軍人がいっぽうには存在する」(レベロ)

 

「つまり君のことだがね、ヤン提督」(レベロ)

 

「これは民主共和政体にとって危険きわまる状態だ」
「独裁政治の芽を育てるための温室とさえ言ってもよい」(レベロ)

 

「まかりまちがえば、ヤン提督」
「君が第二のルドルフ・フォン・ゴールデンバウムになる未来の歴史さえ」
「仮定することが可能なのだ」(レベロ)

 

「…ちょっと待ってください。レベロ閣下、私は権力者になる気はありません」
「その気があるなら、昨年のクーデターの際にいくらでも機会はありました」(ヤン)

 

「人間とは変わるものだ。私は、500年前」
「ルドルフ大帝が最初から専制者となる野望を抱いていたのかどうか、疑っている」(レベロ)

 

「権力を手に入れるまでの彼は、いささか独善的であっても理想と信念に燃える改革志向者」
「それ以上ではなかったかもしれない」(レベロ)

 

「それが権力を得て一変した」
「全面的な自己肯定から自己神格化へのハイウェイを暴走したのだ」(レベロ)

 

「私も権力を手に入れたら変質するだろう、と、お考えなんですか」(ヤン)
「私にはわからん。ただ祈るだけだ」(レベロ)

 

「君が自分の身を守るためにルドルフの道をたどらざるをえなくなる」
「そういう日が来ないことを」(レベロ)

 

「ローエングラム公ラインハルト自身ならともかく」
「彼の部下にまで負けてはたまらないからな…」(ヤン)

 

「何にしても、わが同盟政府には」
「両手をしばっておいて戦いを強いる癖がおありだから、困ったものですよ」(ヤン)

 

「おっしゃるとおりです。何と言ってもイゼルローンは私の家ですからね」
「じゃあ、大尉、わが家に帰るとしようか」(ヤン)

 

第七章 要塞対要塞

「あのときは全員が不安でした」
「何しろヤン提督がおいでになりませんでしたから…」(ユリアン)

 

「でも、逆に言うと、ヤン提督がお帰りになるまで保ちこたえられれば助かる」
「という考えがあって、それが救いでもありました」(ユリアン)

 

「防御に専念するのはけっこうですが、あまりに消極的だと」
「かえって敵の疑惑を招くことになりませんか」(アッテンボロー)

 

「それはそれで、ヤン司令官の策略かもしれないと敵に思わせることもできるさ」(シェーンコップ)

 

「その(バレた)ときは、苦労して占領したイゼルローンが」
「また帝国のものになるだけのことだな」(シェーンコップ)

 

「叛乱軍、いや、同盟軍の諸君」
「小官は銀河帝国ガイエスブルク派遣部隊総司令官ケンプ大将です」(ケンプ)

 

「戦火を交えるにあたり、卿らに一言あいさつをしたいと思ったのです」(ケンプ)

 

「できれば降伏していただきたいが、そうもいかんでしょう」
「卿らの武運を祈ります…」(ケンプ)

 

「…そうだね、べつに偉そうに見える人ではなかったね」
「多勢の、威風堂々とした軍人たちの間にまじると、まるで目立たなかった」(ユリアン)

 

「だけど、その多勢のなかにいないとなると、いないということがすぐわかる」
「そういう人だったよ…」(ユリアン)

 

「(返信が無く)いささか残念だな」
「ヤン・ウェンリーという男の顔を見てみたかったが、やはり武人は武人らしく」
「実力であいさつすべきか」(ケンプ)

 

「しかし、いまの(敵主砲の破壊力)を見たろう」
「双方で主砲を撃ちあえば共倒れになってしまうぞ」(キャゼルヌ)

 

「そう、このまま要塞主砲どうしで撃ちあえば、共倒れということにもなる」
「その恐怖を敵に教えれば、敵もうかつに主砲は撃てなくなるでしょう」(シェーンコップ)

 

「双方、手づまりになれば、つまり時間をかせぐこともできる」
「いま弱みを見せるわけにはいきません」(シェーンコップ)

 

「敵もどうして、打つ策が早い!」
「白兵戦の用意をしろ。大至急だ。おれが直接、指揮をとる」(シェーンコップ)

 

「すこし運動してくるだけです、すぐもどりますよ」(シェーンコップ)

 

「何とか追い帰しましたがね。どうです、さっきも言いましたが」
「今度はこちらから工兵と歩兵を送りこんでみたら」(シェーンコップ)

 

「いや、やはりそれはだめだ」
「貴官は敵の工兵を数人、捕虜にした。それとは逆の事態が生じたらどうする」(ムライ)

 

「わが軍の兵士が敵の捕虜になり、自白剤なり拷問なりによって」
「ヤン提督が不在であることをしゃべてしまったら…」(ムライ)

 

「それにしても、第一撃は大技、第二撃は小技」
「第三撃はどんな手段で来ることやら…」(シェーンコップ)

 

「ヤン・ウェンリーか。あの男は逃げ上手でな一昨年」
「アムリッツァ会戦に先だつ戦闘で、まんまと逃げられたことがある」(ケンプ)

 

「奴は勝っているくせに逃げ出したのだ。奇妙な男だ」(ケンプ)

 

「奇妙な男ですか…それだけに、どんな奇策を使ってくるか」
「容易に判断しかねますな」(ミュラー)

 

「それを待っていることはない」
「先手先手を打つとしよう」(ケンプ)

 

「一秒ごとにヤン提督はイゼルローンへ近づいている」
「その分、吾々も勝利へと近づいているのだ」(パトリチェフ)

 

「そうなれば(要塞内に突入できれば)、イゼルローン要塞と回廊は、吾々のものだ」(ミュラー)

 

「坊や、こいつは人生の──いや、生命そのものの香りさ」
「いまにわかるようになる…」(ポプラン)

 

「ウイスキー、ウォッカ、ラム、アップルジャック、シェリー、コニャック」
「各中隊そろっているな」(ポプラン)

 

「いいか、柄にもないことを考えるな」
「国を守ろうなんて、よけいなことを考えるな!」(ポプラン)

 

「片思いの、きれいなあの娘のことだけを考えろ」
「生きてあの娘の笑顔を見たいと願え」(ポプラン)

 

「そうすりゃ嫉み深い神さまにはきらわれても、気のいい悪魔が守ってくれる」
「わかったか!」(ポプラン)

 

「コーヒーを一杯たのむ」
「砂糖はスプーンに半分、ミルクはいらない。すこし薄めにな」(シェーンコップ)

 

「生涯最後のコーヒーかもしれんのだ、うまいやつを頼むぞ」(シェーンコップ)

 

「コーヒーの味に注文をつける余裕があるうちは、まだ大丈夫だな」(キャゼルヌ)
「まあね、女とコーヒーについては、死んでも妥協したくありませんでね」(シェーンコップ)

 

「司令官代理! 私に艦隊の指揮権を一時お貸し願いたい」
「もうすこし状況を楽にできると思うのですが」(メルカッツ)

 

「自分はヤン提督を支持する」
「したがって、ヤン提督の支持するメルカッツ提督を支持するであろう」(アッテンボロー)

 

「この回廊は、やがて名を変えるだろう。ガイエスブルク回廊とな」
「それとも、ケンプ=ミュラー回廊という名になる、ということもありうるぞ」(ケンプ)

 

「ミュラーは何をしているのだ」
「決断すべきときに迷うから、あんなことになるのだ」(ケンプ)

 

「卿は善戦はした。だが、単にそれだけのことだ」
「何の実りもなかった」(ケンプ)

 

「しかし、そんなことがありうるだろうか」
「あの恐るべき男が要塞にいないなどと…」(ミュラー)

 

「卿はあの要塞を、味方の血を一滴も流すことなく陥落させることができるか?」
「誰ひとり想像もできなかった方法で」(ミュラー)

 

「では、やはり、ヤン・ウェンリーは恐るべき人物だ」
「すぐれた敵には、相応の敬意を払おうじゃないか、少佐」(ミュラー)

 

「そうすることは、吾々にとってけっして恥にはならんだろうよ」(ミュラー)

 

まったく、それにしてもヤン・ウェンリーという男は、
いればいたで、いなければいないで、どれほど帝国軍を悩ませることだろう。(ミュラー)

 

「魔術師ヤン」とはよく言ったものだ…。(ミュラー)

 

「索敵と警戒の網を、回廊全体に張りめぐらせ」
「ヤン・ウェンリーの帰途を待って彼を捕えるのだ」(ミュラー)

 

「そうすれば、イゼルローンどころか同盟軍そのものが瓦解し」
「最終的な勝利は吾々の手に帰するだろう」(ミュラー)

 

「卿の言うことは正しい。副司令官は総司令官の意にしたがうべきだ」
「わかった、我を捨てよう。先刻の命令は撤回する」(ミュラー)

 

第八章 帰還

「いよいよ、年寄りひとり孤立無援さ」(ビュコック)
「私がいますよ」(ヤン)

 

「ローエングラム公は皇帝を殺すでしょうか」(フレデリカ)
「いや、殺さないと思うね」(ヤン)

 

「歴史上、簒奪者は数かぎりなくいる」
「王朝の創始者なんて、侵略者でなければ簒奪者だものね」(ヤン)

 

「だけど、すべての簒奪者がそのあと先君を殺したかというと、けっしてそうじゃない」
「貴族として優遇した例がいくらでもある」(ヤン)

 

「しかし、その場合、旧王朝が新王朝を倒して復古した例は絶無だ」(ヤン)

 

何百年かにひとり出現するかどうか、という英雄や偉人の権力を制限する不利益より、
凡庸な人間に強大すぎる権力を持たせないようにする利益のほうがまさる。(ヤン)

 

それが民主主義の原則である。(ヤン)

 

「奇襲? 私は最初からそんなものする気はなかったよ」
「帝国軍が吾々を見つけてくれて、じつは安心しているんだが…」(ヤン)

 

「つまり、帝国軍の指揮官は、敵の援軍を、というのは吾々のことだけどね」
「発見して選択に迫られることになる。彼はさぞ迷うだろう」(ヤン)

 

「このままイゼルローン要塞を攻撃しつづけて、吾々の攻撃に背を向けるか」
「その逆に吾々と戦って、イゼルローンに後ろを見せるか」(ヤン)

 

「兵力を両方向に分散して二正面作戦をとるか」
「時差をつけて各個撃破するという賭に出るか」(ヤン)

 

「勝算なしと見て退去するか…」
「まあ、追いこまれたわけだ。これだけでも吾々が有利になったんだよ」(ヤン)

 

「私としては、ぜひ五番目の選択を彼にしてほしいね」
「そうすると、犠牲者が出ないし、第一、楽でいい」(ヤン)

 

「わが軍、有利」(ケンプ、ラインハルトへの報告)

 

「そこ(ケンプの感情)まで卿が心配する必要はない」
「第一、ケンプが功績をたてているならともかく、そうとはかぎらないではないか」(ラインハルト)

 

「戦線をむやみに拡大するな」
「それ以外のことは卿らの善処にゆだねる」(ラインハルト)

 

「ローエングラム公は、どういうおつもりかな」
「戦闘が膠着状態におちいっているなら、吾々の赴く理由は充分にある」(ロイエンタール)

 

「ケンプが勝っていれば、吾々が赴く必要はない」
「彼が負けていれば、いまさら赴いても遅きに失する」(ロイエンタール)

 

「いずれにせよ、吾々は宰相閣下のご命令をうけたのだ」
「最善をつくすとしよう」(ミッターマイヤー)

 

「さしあたり、戦場へ着くそうそう、戦わねばならぬという状況であったとき」
「どうするかだ。後はよかろう」(ミッターマイヤー)

 

「ケンプはもうすこしやると思っていたが、どうやら敵を苦しめたというあたりが」
「彼の限界のようだな」(ラインハルト)

 

「目的はイゼルローンを無力化することにあるのだ」
「必ずしも攻略、占拠する必要はない」(ラインハルト)

 

「極端なことを言えば、要塞に要塞をぶつけて破壊してしまってもよかったのだ」(ラインハルト)

 

「ですが、ケンプはガイエスブルク要塞を拠点として」
「正面から堂々と敵に挑戦したそうです」(オーベルシュタイン)

 

「だから限界だと言っている」(ラインハルト)

 

「あのような男でも、何か役に立つかもしれません」
「武力だけで宇宙を手に入れるのは困難です」(オーベルシュタイン)

 

「駒はより多くおそろえになったほうがよろしいかと存じます」
「たとえ汚れた駒でも…」(オーベルシュタイン)

 

「誤解するな、オーベルシュタイン」
「私は宇宙を盗みたいのではない。奪いたいのだ」(ラインハルト)

 

「これが権力をにぎるということか」
「おれの周囲には、おれを理解しようとしない奴ばかり残る」(ラインハルト)

 

「それとも、やはり、おれ自身の罪か…」(ラインハルト)

 

「吾々に、それほど時間はないんだ」(ヤン)

 

「これまでは時間が味方してくれたけど、これからはそうではないということですか?」
「閣下が敵の指揮官なら、とうにイゼルローンを陥していらっしゃったでしょうね」(フレデリカ)

 

「そうだね。私だったら、要塞に要塞をぶつけただろうね」
「どかんと一発、相撃ち。それでおしまいさ」(ヤン)

 

「何もかもなくなった後に、別の要塞を運んでくれば、それでいい」(ヤン)

 

「もし帝国軍がその策できたら、どうにも対策はなかったが」
「帝国軍の指揮官は発想の転換ができなかったみたいだ」(ヤン)

 

「もっとも、それですでにやられていたら、むろん対策はないんだが」
「これからその策で来る、ということであれば、ひとつだけ方法はあるけどね」(ヤン)

 

「イゼルローン要塞が外から陥ちることは、けっしてないように思えるのですけど…」(フレデリカ)

 

「さて、それはどうかな」(ヤン)

 

「(敵の援軍か、それとも罠か?)両方かもしれません」
「ヤン提督の援軍はたしかに近くに来ています」(ユリアン)

 

「帝国軍はそれを知って、逆に罠に利用しようとしているんじゃないでしょうか」
「帝国軍の動きが不自然すぎます」(ユリアン)

 

「…なるほど、坊やがおれやポプランの弟子であるという以前に」
「ヤン提督の一番弟子であるということがよくわかった」(シェーンコップ)

 

「そういうことであれば、話はむずかしくない」
「吾々は、彼らに封じこめられたふりをすればよいのです」(メルカッツ)

 

「そして彼らが反転したとき、突出してその後背を撃つ」
「救援軍との呼吸が合えば、理想的な挟撃戦が展開できるでしょう」(メルカッツ)

 

「ユリアンくんには、戦艦ヒューベリオンに同乗してもらおう」
「艦橋にな」(メルカッツ)

 

「戦争を登山にたとえるなら…登るべき山をさだめるのが政治だ」
「どのようなルートを使って登るかをさだめ、準備をするのが戦略だ」(ユースフ)

 

「そして、与えられたルートを効率よく登るのが戦術の仕事だ…」(ユースフ)

 

「敵が縦深陣をしいて、吾々をそのなかに引きずりこもうとしている可能性はないのか?」
「では、奴らの意図は時間かせぎだ」(ケンプ)

 

「イゼルローンから艦隊が突出するのを待って、前後から挟撃する気だろう」
「こざかしい、その策にのるか」(ケンプ)

 

「退却するな! 退却してはならん」
「あと一歩だ。あと一歩で銀河系宇宙が吾々のものになるんだぞ!」(ケンプ)

 

「そうだ、あれがあった…まだ最後の手段がある」
「あれを使って、イゼルローン要塞を破壊するのだ」(ケンプ)

 

「艦隊戦では負けたが、まだ完全に敗れたわけではないぞ」
「ガイエスブルク要塞だ」(ケンプ)

 

「あのうすらでかい役たたずを、イゼルローン要塞にぶつけてしまうのだ」
「そうすれば、イゼルローン要塞とて、ひとたまりもない」(ケンプ)

 

「気づいたな…だが、遅かった」(ヤン)

 

「全員、退去せよ」
「おれはもう助からん。これを見ろ」(ケンプ)

 

「(不死身?) いい台詞だ。私の墓碑銘はそいつにしてもらおう」
「で、全治にはどのくらいだ」(ミュラー)

 

「ミュラーに詫びておいてくれ」(ケンプ、ミュラーへの伝言)

 

「大神オーディンも照覧あれ。ケンプ提督の復讐は必ずする」
「ヤン・ウェンリーの首を、この手につかんでやるぞ」(ミュラー)

 

「いまはだめだ。おれには力がない。奴とは差がありすぎる…」
「だが、見ていろ、何年か将来を!」(ミュラー)

 

「わが軍は敗れたが、司令部は健在である」
「司令部は卿ら将兵の全員を、生きて故郷へ帰すことを約束する」(ミュラー)

 

「誇りと秩序を守り、整然として帰途につこうではないか…」(ミュラー)

 

「ケンプが死んだか──卿は後方へ赴いてローエングラム公に復命するがいい」
「ケンプの復讐戦はおれたちにまかせろ」(ミッターマイヤー)

 

「最大戦速で前進をつづけろ」
「ミュラーを追ってきた敵の先頭集団に逆撃を加える」(ミッターマイヤー)

 

「急襲して一撃、然る後に離脱する」
「それ以上の戦いは、この際、無意味だ」(ミッターマイヤー)

 

「そうか、ケンプは死んだか」(ロイエンタール)

 

勝因のない勝利はあっても、敗因のない敗北はない。
敗れるべくしてケンプは敗れたのだ。同情の余地はない。(ロイエンタール)

 

第九章 決意と野心

「ケンプの讐だ」
「一艦も余さず、屠ってしまえ」(ミッターマイヤー)

 

「主砲、斉射三連!」(ロイエンタール)

 

「こいつら、ほんとうにヤン・ウェンリーの部下か」
「アムリッツァで戦ったときは、こんなものではなかったぞ」(ミッターマイヤー)

 

「ヤン・ウェンリーご自身のおでましらしいな」
「どうする? 卿は戦いたかろう」(ロイエンタール)

 

「まあな。だが、いま戦っても意味はない」(ミッターマイヤー)

 

「大軍どころか要塞まで動かして数千光年の征旅をくわだてたというのに」
「ことごとく挫折して」(ミッターマイヤー)

 

「ひとりヤン・ウェンリーに名をなさしめたのみか」
「やれやれだな」(ミッターマイヤー)

 

「まあ百戦して百勝というわけにもいくまい」
「こいつはローエングラム公のおっしゃりようだがな」(ロイエンタール)

 

「ヤン・ウェンリーの首は、いずれ卿とおれとでいただくことにするさ」(ロイエンタール)

 

「これが名将の戦いぶりというものだ」
「明確に目的を持ち、それを達成したら執着せずに離脱する」
「ああでなくてはな」(ヤン)

 

「小官こと、閣下より大命をおおせつかりながら」
「任務を果たすことかなわず、主将たるケンプ提督をお救いすることもできず」(ミュラー)

 

「多くの兵を失い、敵をして勝ち誇らせました」(ミュラー)

 

「この罪、万死に値しますが、おめおめと生きて還りましたのは」
「事の次第を閣下にお報せし、お裁きを待とうと愚行したからであります」(ミュラー)

 

「敗戦の罪はすべて小官にありますれば」
「部下たちにはどうか寛大なご処置をたわまりたく」(ミュラー)

 

「卿に罪はない。一度の敗戦は、一度の勝利でつぐなえばよいのだ」
「遠路の征旅、ご苦労であった」(ラインハルト)

 

「私はすでにケンプ提督を失った」
「この上、卿まで失うことはできぬ」(ラインハルト)

 

「傷が全快するまで静養せよ」
「しかる後に、現役復帰を命じるであろう」(ラインハルト)

 

「…そうだな、ミュラーのような男は得がたい存在だ」
「無益な戦いで死なせるような愚行はやめよう」(ラインハルト)

 

「それでいいだろう、キルヒアイス?」(ラインハルト)

 

「奪ったにせよ、きずいたにせよ、最初の者は称賛を受ける資格がある」
「それは当然だ」(ラインハルト)

 

「…だが、自分の実力や努力によることなく」
「単に相続によって権力や富や名誉を手に入れた者が」
「何を主張する権利を持っているというのだ?」(ラインハルト)

 

「奴らには、実力ある者に対して慈悲を乞う道が許されるだけだ」
「おとなしく歴史の波に消えていくことこそ、唯一の選択だ」(ラインハルト)

 

「血統による王朝などという存在自体がおぞましいと私は思う」(ラインハルト)

 

「権力は一代かぎりのもので、それは譲られるべきものではない」
「奪われるものだ」(ラインハルト)

 

「すると、宰相閣下は、ご自分の地位や権力を」
「お子さまにお継がせにはならないのですね」(ヒルダ)

 

「私の跡を継ぐのは、私と同じか、それ以上の能力を持つ人間だ」
「そして、それは、何も私が死んだ後とはかぎらない…」(ラインハルト)

 

「…私を背後から刺し殺して、それですべてが手にはいると思う人間は」
「実行してみればいいんだ」(ラインハルト)

 

「ただし、失敗したらどんな結果がもたらされるか」
「その点には充分な想像力をはたらかせてもらおう」(ラインハルト)

 

自分はオーベルシュタインを相手どって闘うことになるかもしれない。
避けることのできない闘いなら、闘って、そして勝たなくてはならない。(ヒルダ)

 

「決意はりっぱだけどね、ヒルデガルド・フォン・マリーンドルフ…」
「勝算はあるの? 決意だけで勝てるものなら、誰も苦労しないわよ」(ヒルダ)

 

「そうね、彼の姉君グリューネワルト伯爵夫人に」
「お目にかかる機会をつくることでしょうね」(ヒルダ)

 

「ああ、それにしても、キルヒアイス提督が健在なら」
「わたしなどがでしゃばる必要はないのだけど」(ヒルダ)

 

「聞いてくれ、ミッターマイヤー」
「貴族どもを打倒し、自由惑星同盟を滅ぼし、宇宙を手に入れるのは」(ロイエンタール)

 

「ローエングラム公とおれたちとの共通の目的であり、共通の作業だと」
「おれは以前には思っていたが…」(ロイエンタール)

 

「このごろ、おれは思うのだ」
「部下とは、あのかたにとって便利な使い捨ての道具にすぎないのかもしれないとな」(ロイエンタール)

 

「本心だったさ、あのときはな」(ロイエンタール)

 

「だが、おれは生まれたときから正しい判断と選択のみをかさねて」
「今日にいたったわけではない」(ロイエンタール)

 

「いまはそうではないが、いつかその選択を後悔するようなときがくるかもしれない」(ロイエンタール)

 

「めったなことは口にしないほうがいいぞ」
「オーベルシュタインの耳にでもはいったら、粛清の対象にもされかねん」(ミッターマイヤー)

 

「ローエングラム公は一代の英雄だ」
「おれたちはあのかたの手足になって動き、それ相応の恩賞をいただけばいい」(ミッターマイヤー)

 

「おれはそう思っているがね」(ミッターマイヤー)

 

「ふん、またしても、おれとしたことが…」(ロイエンタール)

 

あたらしい時代とは、あたらしい不和をもたらす時代ということなのであろうか。(ミッターマイヤー)

 

「ああ、何にもいいことのない人生だった…いやな仕事は押しつけられるし」
「恋人はいないし、せめて酒でも飲もうとすれば叱られるし…」(ヤン)

 

「風邪ぐらいで気分を出さないでください!」(ユリアン)

 

「ヤン提督…」
「ぼく、正式な軍人になりたいんです」(ユリアン)

 

「はい、自由と平等を守る軍人になりたいんです」
「侵略や圧政の手先になるような軍人ではなくて、市民の権利を守るための軍人にです」(ユリアン)

 

「なあ、ユリアン。あんまり柄にない話をしたくはないんだが」
「お前が軍人になるというのなら、忘れてほしくないことがある」(ヤン)

 

軍隊は暴力機関であり、暴力には二種類あるってことだ」
「支配し、抑圧するための暴力と、解放の手段としての暴力だ」(ヤン)

 

「国家の軍隊というやつは…本質的に、前者の組織なんだ」
「残念なことだが、歴史がそれを証明している」(ヤン)

 

「ルドルフ大帝を剣によって倒すことはできなかった」
「だが、吾々は彼の人類社会に対する罪業を知っている」(ヤン)

 

「それはペンの力だ」
「ペンは何百年も前の独裁者や何千年も昔の暴君を告発することができる」(ヤン)

 

「剣をたずさえて歴史の流れを遡行することはできないが」
「ペンならそれができるんだ」(ヤン)

 

「人類の歴史がこれからも続くとすれば」
「過去というやつは無限に積みかさねられてゆく」(ヤン)

 

「歴史とは過去の記録というだけでなく」
「文明が現在まで継続しているという証明でもあるんだ」(ヤン)

 

「現在の文明は、過去の歴史の集積の上に立っている」
「…だから私は歴史家になりたかったんだ」(ヤン)

 

「それが最初のボタンをかけまちがえたばかりに、このありさまだものなあ」(ヤン)

 

「まあ、なかなか思いどおりにはいかないものさ」
「自分の人生も他人の人生も…」(ヤン)

 

銀河英雄伝説4巻

→4巻(第三章)
→4巻(第五章)
→4巻(第七章)
→4巻(第九章)

第一章 雷鳴

「帝国の歴史家どもは、ルドルフ大帝の怒号を雷にたとえているが」
「ご存じだろう、フロイライン・マリーンドルフ」(ラインハルト)

 

「なかなか巧みな比喩だ」
「雷というやつは…要するにエネルギーの浪費だ」(ラインハルト)

 

「巨大な熱と光と音を持っているが、ただ荒れ狂うだけで」
「何ひとつ他を益するものはない」(ラインハルト)

 

「まさにルドルフにふさわしい」
「おれはちがう。おれはそうはならない」(ラインハルト)

 

「ランズベルク伯は、わたしの知るかぎりでは、かなりのロマンチストでしたわ」
「おっしゃるとおりです」(ヒルダ)

 

「ランズベルク伯がもどってきた理由は、もっと深刻で」
「彼にとっては危険を冒す価値のあるものでしょう」(ヒルダ)

 

「行動的ロマンチストをもっとも昂揚させるのは、歴史が示すように」
「強者に対するテロリズムです」(ヒルダ)

 

「ランズベルク伯にとっては、これは誘拐ではありません」
「幼少の主君を敵の手から救出する忠臣の行為です」(ヒルダ)

 

「何の抵抗もなく、それどころか喜々として実行するでしょう」(ヒルダ)

 

「結局、またしてもフェザーンの黒狐か」
「奴はけっして自分では踊らない」(ラインハルト)

 

「カーテンの陰で笛を吹くだけだ」
「踊らされるへぼ詩人こそ、いい面の皮だな」(ラインハルト)

 

「わたしには、護衛をしてもらう必要も資格もありません」
「フロイライン」(アンネローゼ)

 

「…古いことをお話ししましょう」
「わたしとラインハルトの父が、わずかな資産を費いはたして」(アンネローゼ)

 

「とうとう屋敷も手放し、下町の小さな家に移ったのは12年前のことです」
「何もかもなくしたように見えましたけど、あたらしく得たものもありました」(アンネローゼ)

 

「ラインハルトが生まれてはじめて持った友人は」
「燃えるような赤毛と感じのいい笑顔を持った背の高い少年でした」(アンネローゼ)

 

「その少年にわたしは言ったのです」
「──ジーク、弟と仲よくしてやってね、と…」(アンネローゼ)

 

「赤毛の少年は約束を守ってくれました」(アンネローゼ)

 

「いえ、それどころか、わたしが望んでいた以上のこと」
「他の誰にもできないことをやってくれたのです」(アンネローゼ)

 

「わたしが、ジークフリード・キルヒアイスの人生と生命と」
「そしてそれ以外のすべてまでも奪ってしまったのです」(アンネローゼ)

 

「彼は亡くなり、わたしは生きながらえています」
「わたしは罪の深い女です…」(アンネローゼ)

 

「死んだ人のことばかりでなく、生きている人のことも、どうかお考えください」
「伯爵夫人、あなたがお見捨てになったら、ローエングラム公は救われません」(ヒルダ)

 

「キルヒアイス提督は、死ぬには若すぎる年齢でした」
「ローエングラム公も、精神的に死ぬには若すぎる年齢だと、お思いになりませんか?」(ヒルダ)

 

「…お礼を申しあげなくてはいけませんね、フロイライン」
「弟のことをそんなにも思いやってくださってありがとう」(アンネローゼ)

 

「フロイライン・マリーンドルフ、あなたのご裁量におまかせします」(アンネローゼ)

 

「この山荘を出るつもりはありませんが」
「それ以外のことはどうぞあなたのよろしいようになさってください」(アンネローゼ)

 

「アンネローゼと呼んでくださいね、これから」(アンネローゼ)
「はい、では、わたしのこともヒルダとお呼びください」(ヒルダ)

 

「あなたの他にもアンネローゼさまをお守りしたい人がいるということを認めてあげて」(ヒルダ)

 

「これは困った。一流の戯曲が一流の劇として完成を見るには」
「一流の俳優が必要だそうだが、卿の演技はいささか見えすいていて興をそぐな」(ラインハルト)

 

「弁務官、フェザーンが私と盟約を結びたいというなら」
「さらにひとつ提供してもらわねばならぬものがある」(ラインハルト)

 

「言わずと知れたことだ。フェザーン回廊の自由航行権だ」
「それを帝国軍に対して提供しろと言っているのだ」(ラインハルト)

 

「卿らが真に望むのは、帝国軍がイゼルローン回廊に無数の死屍をならべることか」
「ありうることだな」(ラインハルト)

 

「両勢力ともだおれの後に、フェザーンひとり漁夫の利を占める、か」(ラインハルト)

 

「三つの勢力のうちふたつが合体するとして」
その一方が必ずフェザーンだなどとは思わぬほうがよいのではないか」(ラインハルト)

 

第二章 迷路

「いまでさえ厳重すぎるほどの警備をしているわけでもないのだ」(ラインハルト)

 

「宇宙には、あのイゼルローン要塞を無血占領するほどの男もいるといいうのに」
「たかだが皇帝ひとり誘拐することもできぬ輩と手を組めるか」(ラインハルト)

 

「(警備責任者の)モルト中将は古風な男です」(オーベルシュタイン)

 

「皇帝を誘拐されたとあれば、たとえ閣下がお赦しになっても」
「ご好意に甘んずるをいさぎよしとしますまい」(オーベルシュタイン)

 

「閣下、お耳よごしながらひとつだけ申しあげておきます」
一本の木もひきぬかず、一個の石もよけずに、密林に道を開くことはできませんぞ」(オーベルシュタイン)

 

「ときとして閣下は、ごく初歩的なことをお忘れになるように、小官には思われます」(オーベルシュタイン)

 

「人類の歴史がはじまって以来、敵だけでなく味方の大量の屍体の上にこそ」
「すべての英雄は玉座をきずいてきたのです」(オーベルシュタイン)

 

「白い手の王者など存在しませんし、部下たる者もそれは承知しております」(オーベルシュタイン)

 

「ときには死を与えることが忠誠に酬いる道となることもあるのだ」
「と、お考えいただきたいものです」(オーベルシュタイン)

 

「では、卿も、私のためには自分の血を流すこともいとわぬというのか」(ラインハルト)
「必要とあらば…」(オーベルシュタイン)

 

「よかろう。その赤ん坊に玉座をくれてやろう」(ラインハルト)

 

「子供の玩具としては多少おもしろみに欠けるが」
「そういう玩具を持っている赤ん坊が宇宙にひとりぐらいいてもいい」(ラインハルト)

 

「ふたりは多すぎるがな」(ラインハルト)

 

第三章 矢は放たれた

「フェザーンを手玉にとろうとお考えなのですか」(ヒルダ)
「奴らのほうが私を手玉にとろうとしたのだ」(ラインハルト)

 

「いずれ判明することだ。犯人がつかまれば、ケスラーが告白させる」
「つかまらなければ、奴ら自身が得々として自分たちの功を誇るだろう」(ロイエンタール)

 

「皇帝が自分たちの手中にあることを公にしなければ」
「そもそも誘拐の目的が達せられないのだからな」(ロイエンタール)

 

「第二の、と言わず、自由惑星同盟の存在を、このさい考慮に入れるべきだろう」
「門閥貴族の残党どもと共和主義者では水と油に見えるが」(オーベルシュタイン)

 

「ローエングラム公が覇権を確立するのを妨害する、というただそれだけの目的のために」
「野合しないとは言いきれぬからな」(オーベルシュタイン)

 

「犯人どもが自由惑星同盟に逃げこめば、たしかに、そう簡単には攻撃できぬ」(オーベルシュタイン)

 

「もし、自由惑星同盟と称する叛徒どもが、この不逞なくわだてに荷担しているとすれば」
「奴らには必ず負債を支払わせる」(ラインハルト)

 

「奴らは一時の欲にかられて大局をあやまったと」
「後悔に打ちひしがれることになるだろう」(ラインハルト)

 

「遠からず空前の出兵があるかもしれんな」(ミッターマイヤー)

 

第四章 銀河帝国正統政府

「おれの趣味は、ポプランほど悪くないよ」(シェーンコップ)

 

「緊急だったら重大に決まっているだろう」(ヤン)

 

「吾々は、流浪の少年皇帝を助けて、悪の権化である簒奪者と戦う正義の騎士というわけだ」
「たいしたものさ。立体TVドラマの主役がはれるぜ」(ポプラン)

 

「だいたい何だっておれたちが」
「ゴールデンバウム王家を守るために血を流さねばならんのだ!?」(ポプラン)

 

「ひいじいさんの代からいままで100年以上も戦いつづけてきたのは」
「ゴールデンバウム王家を打倒し全銀河系に自由と民主主義を回復させるためだったんだろうが」(ポプラン)

 

「しかし、これで平和が到来するとすれば、政策の変更もやむをえない」(イワン・コーネフ)
「平和が来るなら、それもよかろうさ」(ポプラン)

 

「だが、ゴールデンバウム家との間に平和が来ても」
「ローエングラム公との間はどうなるんだ?」(ポプラン)

 

「やっこさんにしてみれば、愉快な道理がない」
「怒り狂って攻めてくること疑いないぜ」(ポプラン)

 

「だからといって、皇帝を追い返すわけにいくまい」(コーネフ)

 

「そもそも、皇帝といっても7歳の子供だ」
「人道上、助けないわけにもいかんだろう」(コーネフ)

 

「人道だと? ゴールデンバウム家の奴らが」
「人道なんぞ主張する権利を持っているとでも言うのか」(ポプラン)

 

「ルドルフとその子孫どもが、何百億人の民衆を殺したか」
「歴史の教科書を読みかえしてみるんだな」(ポプラン)

 

「先祖の罪だ。あの子供の罪ではない」(コーネフ)
「お前さんは正論家だな。いちいち言うことがもっともだ」(ポプラン)

 

「それほどでもないが…」(コーネフ)
「謙遜するな! おれは皮肉を言ってるんだ!」(ポプラン)

 

「たった7歳の子供が、自由意志で亡命などするわけがない」
「救出とか脱出とか言うが、まあ誘拐されたと見るべきだろう」(キャゼルヌ)

 

「忠臣と自称する連中によってな」(キャゼルヌ)

 

「議長の名演説をお聞きになったでしょう」
「あれだけ大きなことを言ったら、内心で返したくとも返せるわけがない」(シェーンコップ)

 

「まあ仲よくするのだったら、一世紀はやく手をつないでおくべきでしたな」(シェーンコップ)

 

「どだい、相手が実効的な権力を失って逃げだしてきてから仲よくしようなんて」
「間の抜けた話じゃありませんか」(シェーンコップ)

 

「分裂した敵の一方と手を結ぶ」
「マキャベリズムとしてはそれでいいんだ」(ヤン)

 

「ただ、それをやるには、時機もあれば実力も必要だが」
「今度の場合、どちらの条件も欠いているからな」(ヤン)

 

「首都では騎士症候群が蔓延しているらしい」
「暴虐かつ悪辣な簒奪者の手から、幼い皇帝を守って正義のために戦おう」
「というわけさ」(キャゼルヌ)

 

「ゴールデンバウム家の専制権力を復活させるのが正義ですか」(シェーンコップ)

 

「ビュコック提督にならって言えば、あたらしい辞書が必要ですな」
「反対する者はいないのですか」(シェーンコップ)

 

「慎重論もないではないが、口を開いただけで非人道派よばわりされてしまう」
「7歳の子供、というだけで、おおかたは思考停止してしまうからな」(キャゼルヌ)

 

「17、8の美少女だったら、熱狂の度はもっと上がるでしょうな」
「だいたい民衆は王子さまとか王女さまとかが大好きですから」(シェーンコップ)

 

「昔から童話では王子や王女が正義で、大臣が悪と相場が決まっているからな」
「だが童話と同じレベルで政治を判断されたらこまる」(キャゼルヌ)

 

だが、いずれにしても、同盟政府は責任をとらねばなるまい。
原因ではなく結果に対して…。(ヤン)

 

盗賊に三種類ある、とは、誰が言ったことであっただろうか。
暴力によって盗む者、知恵によって盗む者、権力と法によって盗む者…。(ヤン)

 

ローエングラム公によって大貴族支配体制の軛から解放された帝国250億の民衆は、
最悪の盗賊と手を組んだ同盟を許すことはないであろう。(ヤン)

 

当然のことである。(ヤン)

 

やはり、かつて想像したように、自分は銀河帝国の「国民軍」と戦うことになるのだろうか。
そのとき、正義はむしろ彼らのがわにあるのではないのか…。(ヤン)

 

「…私はレムシャイド伯と必ずしも一致した見解を持っていません」(メルカッツ)

 

「皇帝陛下に対する忠誠心は彼に劣らぬつもりですが、私としては」
「陛下に一市民として波瀾のない生活を送っていただきたいと思っています」(メルカッツ)

 

「亡命政権などつくったところで」
「ローエングラム公の覇権をくつがえすことは不可能です」(メルカッツ)

 

彼は民衆を味方にしています」
「彼らの支持を受けるだけのことをしているからです」(メルカッツ)

 

「私が理解に苦しむのは…幼い陛下を保護すべき人々が」
「かえって陛下を政争と戦争の渦中におこうとしているかに見えることです」(メルカッツ)

 

「亡命政権をつくるなら、自分たちだけでつくればよい」
「未だ判断力も具えておいでではない陛下を巻きこむことはないはずです」(メルカッツ)

 

「考えてみれば、需要と供給がみごとに一致したのですな」
「ローエングラム公の権力基盤は民衆にあり、彼はもはや皇帝の権威を必要としない」(シェーンコップ)

 

「一方、レムシャイド伯とやらは、実体のないものとはいえ」
「亡命政権において主導権をにぎるために、廃物利用をしなくてはならない立場です」(シェーンコップ)

 

「メルカッツ提督のご見識はわかりました」
「ですが、私としては、閣下ご自身がどう選択し」
「どう行動なさるかをうかがいたいのです」(ムライ)

 

「ムライ少将…組織のなかにいる者が」
「自分自身のつごうだけで身を処することができたらさぞいいだろうと思うよ」(ヤン)

 

「私だって、政府の首脳部には、言いたいことが山ほどあるんだ」
「とくに腹だたしいのは、勝手に彼らが決めたことを、無理に押しつけてくることさ」(ヤン)

 

「思うのは自由だが、言うのは必ずしも自由じゃないのさ」(ヤン)

 

「なるほど、言論の自由は思想の自由よりテリトリーが狭いというわけですか」
「自由惑星同盟の自由とは、どちらに由来するのですかな」(シェーンコップ)

 

「自由の国か。私は6歳の時に祖父母につれられてこの自由の国に亡命してきたんですよ」
「もう28年も前になりますがね、よく憶えています」(シェーンコップ)

 

「針を撃ちこんでくるような風の寒さと」
「亡命者をこじきあつかいする入国管理官の、卑むような目つきをね」(シェーンコップ)

 

「たぶん、死ぬまで忘れんでしょうな」(シェーンコップ)

 

「つまり、私は一度、祖国を喪失した男です」
「一度が二度になったところで、いまさら驚きも嘆きもしませんよ」(シェーンコップ)

 

「人間の想像力など、たかのしれたものだな」(メルカッツ)

 

「まさかこういう運命が私のために席を用意していようとは」
「つい一年前には考えつきもしなかった」(メルカッツ)

 

「正統政府の軍務尚書と言えば、外聞はよいですが」
「実情としては、閣下の指揮なさる一兵も存在しないではありませんか」(シュナイダー)

 

「それでも、ヤン提督の艦隊を、一時ながらあずかって指揮なさいました」
「今度はそれすら望めません」(シュナイダー)

 

「虚名があるのみで、1グラムの実もありはしない…」(シュナイダー)
「だが、皇帝陛下がおわす…」(メルカッツ)

 

「私はここに宣告する」
「不法かつ卑劣な手段によって幼年の皇帝を誘拐し、歴史を逆流させ」(ラインハルト)

 

「ひとたび確立された人民の権利を強奪しようとはかる門閥貴族の残党どもは」
「その悪業にふさわしい報いを受けることとなろう」(ラインハルト)

 

「彼らと野合し、宇宙の平和と秩序に不逞な挑戦をたくらむ自由惑星同盟の野心家たちも」
「同様の運命をまぬがれることはない」(ラインハルト)

 

「誤った選択は、正しい懲罰によってこそ矯正されるべきである」
「罪人に必要なものは交渉でも説得でもない」(ラインハルト)

 

「彼らにはそれを理解する能力も意思もないのだ」
「ただ力のみが、彼らの蒙を啓かせるだろう」(ラインハルト)

 

「今後、どれほど多量の血が失われることになろうとも」
「責任は、あげて愚劣な誘拐犯と共犯者とにあることを銘記せよ…」(ラインハルト)

 

「またイゼルローンが最前線になりますかな」
「迷惑なことだ」(シェーンコップ)

 

「この要塞があると思うから、政府首脳は平気で愚行を犯す」
「いささか考えものですな」(シェーンコップ)

 

第五章 ひとつの出発

「ヤン・ウェンリーの独裁者としての資質か。こいつは興味深い命題だな」
「まあ、ちょっと無理だろうな」(ホワン)

 

「ヤン・ウェンリーという青年は、なかなかうまいカクテルだが」
「独裁者になるための成分には欠けていると私は見る」(ホワン)

 

「むろん、知性や道徳性の問題じゃない」
「自己の無謬に対する確信と、権力への恋愛感情」
「このふたつが彼には欠けている」(ホワン)

 

「あの査問会にかぎって言えば、彼は傑出した戦術家だったよ」
「しかし戦略家とは言えないな」(ホワン)

 

「戦略家なら、後日のためにどんな愚劣な連中でも味方につけようと考えるだろう」(ホワン)

 

「ところが、わが好青年ヤン・ウェンリーくんは…」
「豚に向かって、お前は豚だ、と言ってのけたわけだ」(ホワン)

 

「人間としては、あれでいい」
「怒るべき場合に怒ってこそ、人間は尊厳をたもつことができる」(ホワン)

 

「ところがここに悲しむべき過去の事例がいくつも横たわっているのさ」(ホワン)

 

「人間としての尊厳と、政略上の成功とが」
「往々にして等価で交換される、というね…」(ホワン)

 

「さしあたり、私の結論。ヤン・ウェンリーは独裁者にはなれんよ」
「すくなくとも本人にその意思はない」(ホワン)

 

腐敗した民主政治と清潔な独裁政治のいずれをとるか、
これは人類社会における最も解答困難な命題であるかもしれない。

 

「ことわってください、こんな命令(フェザーン着任)」(ユリアン)

 

「そういうことでしたら、ぼくは軍属にもどります」
「だったら命令にしたがわなくてもいいんでしょう?」(ユリアン)

 

「わかりました」
「駐在武官としてフェザーンに赴任します」(ユリアン)

 

「でも、統合作戦本部の命令だからじゃありません」
「ヤン・ウェンリー提督のご命令だからです」(ユリアン)

 

「ご用がそれだけでしたら、さがらせていただいてよろしいでしょうか、閣下」(ユリアン)

 

「ユリアンの気持はわかりますわ」
「閣下にとって必要のない人間と思われたのではないか」
「と、きっとそう感じたんです」(フレデリカ)

 

「必要がないなんて、そんなことがあるわけないだろう」(ヤン)

 

「必要がなくなったから傍に置かないとか、必要だから傍にいさせるとか」
「そういうものじゃなくて…」(ヤン)

 

「必要がなくても傍にいさせる、いや」
「必要というのは役に立つとか立たないとかいう次元のものじゃなくてだね…」(ヤン)

 

「話しあう必要があるな」(ヤン)

 

「お前をフェザーンにやるのは、何よりもそれが軍命令だからだが、私自身としても」
「信頼できる人間にフェザーンの内情を見てきてもらいたいという気持があるんだ」(ヤン)

 

「それでも、やはり、行くのはいやかな」(ヤン)

 

「誰でも、帝国軍はイゼルローン回廊から侵入してくるものと考えている」
「そんな規則や法則があるわけでもないのにな」(ヤン)

 

「ローエングラム公にとって、もっとも有効な戦略は」
「一軍をもってイゼルローンを包囲する一方で」
「他の軍をもってフェザーン回廊を突破することだ」(ヤン)

 

「彼にはそれだけの兵力があるし、そうすればイゼルローンは路傍の小石も同様」
「孤立して何の意味もない存在になる」(ヤン)

 

「現在の状況は古来から固定しているものと吾々は誤解しがちだ」(ヤン)

 

「だけど、考えてもごらん」
「銀河帝国なんて代物は500年前には存在しなかった」(ヤン)

 

「自由惑星同盟の歴史はその半分の長さだし」
「フェザーンにいたっては一世紀そこそこの歳月を経ただけだ」(ヤン)

 

「ぼくがフェザーンに行って、すこしでも彼らの政策や政略について探ることができたら」
「それに、帝国軍の行動についても知ることができたら」(ユリアン)

 

「それは閣下のお役に立てますね?」
「だったら、ぼく、喜んでフェザーンへ行きます」(ユリアン)

 

「このままいくと、吾々はどうやらローエングラム公ラインハルトと」
「死活を賭けて戦わなくてはならないらしい」(ヤン)

 

「ところでユリアン、ローエングラム公は、はたして悪の権化なんだろうか」(ヤン)

 

「そりゃそうさ」
「悪の権化なんて立体TVのドラマのなかにしか存在しない」(ヤン)

 

「悪というなら、こんど自由惑星同盟は帝国の旧体制派と手を組んだ」(ヤン)

 

「すくなくとも現象面においては、歴史の流れを加速させるがわでなく」
「その流れを逆転させるがわに与したということだ」(ヤン)

 

「後世の歴史は、吾々を善ではなく悪の陣営として色分けするかもしれない」
「そういう観点も歴史にはあるということさ」(ヤン)

 

「絶対的な善と完全な悪が存在する、という考えは」
「おそらく人間の精神をかぎりなく荒廃させるだろう」(ヤン)

 

「自分が善であり、対立者が悪だとみなしたとき、そこには協調も思いやりも生まれない」
「自分を優越化し、相手を敗北させ支配しようとする欲望が正当化されるだけだ。(ヤン)

 

人間は、自分が悪であるという認識に耐えられるほど強くはない。(ヤン)

 

人間が最も強く、最も残酷に、最も無慈悲になりうるのは、
自分の正しさを確信したときだ。(ヤン)

 

「ユリアン、ノアの洪水の伝説を知っているだろう?」
あのときノア一族以外の人類を抹殺したのは、悪魔ではなく神だ」(ヤン)

 

「これにかぎらず、一神教の神話伝説は、悪魔でなく神こそが」
「恐怖と暴力によって人類を支配しようとする事実を証明している」
「と言ってもいいほどさ」(ヤン)

 

「だから、ユリアン、お前がフェザーンにいって」
「彼らの正義と私たちの正義との差を目のあたりに見ることができるとしたら」(ヤン)

 

「それは、たぶんお前にとってマイナスにはならないはずだ」(ヤン)

 

「それに比較すれば、国家の興亡など大した意義はない」
「ほんとうだよ、これは」(ヤン)

 

「どれほど非現実的な人間でも、本気で不老不死を信じたりはしないのに」
「こと国家となると」(ヤン)

 

「永遠にして不滅のものだと思いこんでいるあほうな奴らがけっこう多いのは」
「不思議なことだと思わないか」(ヤン)

 

「国家なんてものは単なる道具にすぎないんだ」
「そのことさえ忘れなければ、たぶん正気をたもてるだろう」(ヤン)

 

「キャゼルヌ先輩はひとつだけいいことをしてくれたよ」
「お前を私のところへつれてきてくれたことさ」(ヤン)

 

「よくもまあ、ユリアンを手放す気になったな」
「思いきりがよすぎるのじゃないか」(キャゼルヌ)

 

「りっぱな意見だが、お前さん」
「ユリアンがいなくてきちんと生活していけるのかね」(キャゼルヌ)

 

「グリーンヒル大尉もそうだけど、どうして誰も彼も」
「ユリアンがいないと私が生活無能力者になってしまうと思うんです」(ヤン)

 

「それが事実だからさ」(キャゼルヌ)

 

軍事が政治の不毛をおぎなうことはできない。(ヤン)

 

それは歴史上の事実であり、
政治の水準において劣悪な国家が最終的な軍事的成功をおさめた例はない。(ヤン)

 

「酒は人類の友だぞ。友人を見捨てられるか」(ヤン)
「人間はそう思っていても、酒のほうはどうでしょうね」(ユリアン)

 

「誰だって正確な情報がほしいに決まっているだろうが」
「鏡の左右をとりちがえるような奴に、正確な自画像が描けるか」(キャゼルヌ)

 

「もう一年、イゼルローンにいるべきだったぜ、お前さん」
「やりのこしたことが多いだろう」(ポプラン)

 

「そうさ。スパルタニアンの操縦なんぞより」
「もっと楽しいことを教えてやったのにな」(ポプラン)

 

「おれは17のときに最初の敵機と最初の女を墜としたんだ」
「以後、戦果をかさねて、いまじゃどちらも三桁の数字にのせている」(ポプラン)

 

「まあ、いまだから言うが、私の任務はヤン提督の引き立て役だったんだ」(ムライ)

 

「いや、そんな表情をしなくていい」
「べつに卑下したり不平を鳴らしたりしているわけではないんだから…」(ムライ)

 

「ヤン提督は、指揮官としての資質と参謀としての才能と、両方を兼備する珍しい人だ」(ムライ)

 

「あの人にとって参謀が必要だとすれば、それは他人がどう考えているか」
「それを知って作戦の参考にするためだけのことさ」(ムライ)

 

「だから私としては、エル・ファシルの英雄に参謀として望まれたとき」
「自分のはたすべき役割は何か、と考えて、すぐには結論を出せなかった」(ムライ)

 

「それが出たのは、イゼルローン陥落以後だ」(ムライ)

 

「で、私は役割をわきまえて、ことさら常識論を唱えたり」
「メルカッツ提督に一線をひいて対応したりしたわけさ」(ムライ)

 

「鼻もちならなく見えた点もあろうが、わかってもらえるかな」(ムライ)

 

「そう、なぜかな。あまり論理的ではない言いかたになるが」
「君には、他人を信頼させる何かがある、ということだろうかな」(ムライ)

 

「おそらくヤン提督も他の連中も、君にはいろいろなことを話していると思う」(ムライ)

 

「そういうところを、君は大事にしていくことだ」
「きっと今後の財産になるだろう」(ムライ)

 

「そうだな、士官学校の一年生だったとき、門限破りをやって塀を乗りこえたら」
「当番のヤン・ウェンリーという上級生が見て見ぬふりをしてくれたよ」(アッテンボロー)

 

「ご心配なく、ユリアンの銃や格闘技の技倆は、閣下より上ですよ」(シェーンコップ)

 

「いや、困るんだ。感心すればいいのか」
「私より上というていどなら大したことはない、と不安がればいいのか…」(ヤン)

 

「では言いなおしましょう。閣下よりはるかに上です」
「充分に自分自身を守れます。これで安心しましたか」(シェーンコップ)

 

「いいか、ユリアン、誰の人生でもない、お前の人生だ」
「まず自分自身のために生きることを考えるんだ」(ヤン)

 

「(ユリアン)行ってしまいましたわね」(フレデリカ)
「うん…つぎに会うときは、もうすこし背が伸びているだろうな」(ヤン)

 

第六章 作戦名「神々の黄昏」

「病院のベッドと抱きあって眠るのには、もう飽きましたのでね」(ミュラー)

 

「(一億人・100万隻体制)まあ、量的には可能だろう」
「だが、有機的に運用するとなれば、また話はべつだ」(ロイエンタール)

 

「第一、補給の問題がある」
「一億人を食わせるのは、容易なことではないからな」(ロイエンタール)

 

「考えるのは簡単だが、実行するのはな」(ミッターマイヤー)

 

「女ってやつは、雷が鳴ったり風が荒れたりしたとき」
「何だって枕にだきついたりするんだ?」(ロイエンタール)

 

「だったらおれに抱きつけばよかろうに、どうして枕に抱きつく」
「枕が助けてくれると思っているわけか、あれは?」(ロイエンタール)

 

「ロイエンタール提督が資源を独占しているから」
「私などには美い女がまわってきませんよ」(ミュラー)

 

「私の腹案を、まず述べておく」
「それは、過去のようにイゼルローン回廊の攻略にこだわらず」
「もうひとつの回廊を侵攻ルートとすることだ」(ラインハルト)

 

「つまりフェザーン回廊を通過して、同盟領に侵攻する」
「フェザーンは政治的、軍事的な中立を放棄し、吾々の陣営に帰属することになる」(ラインハルト)

 

「つまり、彼は祖国を売るというのですか?」(ビッテンフェルト)

 

「口は重宝だな」
「親を売るにも友人を裏切るにも、理由のつけようはあるものだ」(ビッテンフェルト)

 

「小官としては、才覚豊富なフェザーン人を無条件で信じる気にはなれませんな」(ロイエンタール)

 

「フェザーン回廊を通過して同盟領へ侵攻したとしてです」
「その後、彼らが豹変して回廊を封鎖したら、吾吾は敵中にあって孤軍となってしまう」(ロイエンタール)

 

「補給も通信も意にまかせず、むろん敵地の地理を知ることもできません」
「いささか危険度が大きいのではありませんか」(ロイエンタール)

 

「ロイエンタール上級大将のご心配はもっともだが」
「フェザーンがそのような卑劣な手段に出たときは」
「武力をもって教訓をたれればよいではないか」(ビッテンフェルト)

 

「反転したところへ後背から同盟軍が攻撃してきたらどうなる?」(ロイエンタール)

 

「不利はまぬがれんぞ」
「敗れるとは思わんが、犠牲は無視できないものになるだろう」(ロイエンタール)

 

「はたして、うまくいきますかな」(ロイエンタール)
「うまくいかせたいものだ」(ラインハルト)
「…そうありたいですな」(ロイエンタール)

 

「…作戦名は『神々の黄昏(ラグナロック)』」(ラインハルト)

 

「器量がありすぎてもこまりますが、不平派の連中をねじ伏せるていどの力量がなければ」
「わが軍の足を引っぱることにもなりましょう」(オーベルシュタイン)

 

「そのていどの力量は奴に期待してもよかろう」(ラインハルト)

 

「もし力量がなければないで、奴は自分の地位と権力を守るため」
「不平派の弾圧に狂奔しなくてはなるまい」(ラインハルト)

 

「当然ながら憎悪と反感は奴の一身に集中する」(ラインハルト)

 

「それが限界に達する寸前に奴を私の手で処断すれば」
「私としては効率よく古道具を処理できるというわけだ」(ラインハルト)

 

「しかもリアクションなしにな」(ラインハルト)

 

「自由惑星同盟との間に、和平と共存の道はないものでしょうか」(ヒルダ)

 

「ない。彼らのほうでそれを閉ざした」(ラインハルト)

 

「私のやりかたを悪辣だと思うか?」(ラインハルト)
「わたしが否定したら、閣下は喜んでくださるのでしょうか」(ヒルダ)

 

「だが、姉に嫌われても、私はもうもどれない」
私がここで覇道を退いたら、誰が宇宙に統一と秩序を回復する?」(ラインハルト)

 

「自由惑星同盟の身のほど知らずや、旧体制の反動家どもに」
「人類の未来をゆだねるのか」(ラインハルト)

 

「秘密警察というものは、なるほど権力者いとっては便利なものかもしれんが」
「ただ存在するというだけで憎悪の対象になる」(オーベルシュタイン)

 

「ひとたび解体した社会秩序維持局を復活させるわけにはいかん」
「開明政策の後退として非難されることにもなろうしな」(オーベルシュタイン)

 

「名称も、何か他のものを考えねばなるまい」
「古い酒を新しい皮袋に、だな」(オーベルシュタイン)

 

「征服者として憎悪されるのはかまわんが」
「略奪者として軽蔑されるのは愉快じゃないな」(ミッターマイヤー)

 

「イゼルローンはハードウェアの点から言っただけでも難攻不落だ」
「しかもそこには同盟軍最高の智将がいる」(ルビンスキー)

 

「まあ安心したいところだろう、凡庸な政治屋どもとしては」(ルビンスキー)

 

「しかし、その安心感が、同盟首脳部の健全な判断力を奪い」
「最悪の選択をさせてしまう結果につながった」(ルビンスキー)

 

「過去の成功が現在の誤断をまねき、未来そのものを奪いさる」
「よい例証というべきだ」(ルビンスキー)

 

「16歳のときに、ローエングラム公はすでに武勲をたて、少佐の階級をえていた」
「ユリアン・ミンツの歩みは、それにすこし遅れているだけだ」(ルビンスキー)

 

「(七光)かもしれんが、たしかに功績はたてている」
「私としては、虎の児を猫と見誤る愚は犯したくないな」(ルビンスキー)

 

第七章 駐在武官ミンツ少尉

「敵が攻めてきますよ!」
「寝こみを奇襲されて負けたりしたら、後世の歴史家にばかにされますよ」(ユリアン)

 

「敵だってまだ寝てるさ、後世の歴史家なんて、まだ生まれてもいないよ」
「おやすみ、せめて夢のなかでは平和を…」(ヤン)

 

「何の、一日ごとに地獄の門に近づいとるよ」
「ルドルフ皇帝が坩堝のなかで煮られとる姿を見るのが楽しみだて」(ビュコック)

 

「ぼくの歓心を買うことが」
「どうしてトリューニヒト議長の心証をよくすることになるのですか?」(ユリアン)

 

「ぼくはヤン・ウェンリー派です。トリューニヒト派ではありませんけど…」
「迷惑です!」(ユリアン)

 

「だろうと思うが、そう大声を出さんでいい」
「わしやヤン提督の悪いところを模倣することはないさ」(ビュコック)

 

「ヤン提督は将来がよく見えるが、残念ながら手足がともなわない」(ビュコック)

 

「むろん、それは彼のせいではない」
「彼には、そこまで能動的に行動する権限がないのだからな」(ビュコック)

 

「制度か…制度のせいにするのは、わしとしてはつらいな」
「わしは自分が民主制共和国の軍人であることを長いこと誇りにしてきた」(ビュコック)

 

「そう、君と同じくらいの年齢に二等兵になって以来、ずっとな…」(ビュコック)

 

「民主制共和国が、軍人の権限を制限するのは正しい、と、わしは思う」
「軍人は戦場以外で権力や権限をふるうべきではない」(ビュコック)

 

「また、軍隊が政府や社会の批判を受けずに肥大化し、国家のなかの国家と化するようでは」
「民主政治は健全でありえんだろう」(ビュコック)

 

「民主主義の制度はまちがっておらん」
「問題は、制度と、それをささえる精神が乖離していることだ」(ビュコック)

 

「現在のところ、建前の存在が本音の堕落をようやくふせいでいるが」
「さて、それもいつまでもつか…」(ビュコック)

 

「(銀河帝国正統政府には)タキシードを着た腐肉獣(ハイエナ)どもがうようよいるのさ」
「国民のいない政府、兵士のいない軍隊でも、地位や称号はほしいらしい」(シュナイダー)

 

「閣僚がよく6、7人ですんだと感心するくらいのものだ」
「ユリアン、君も帝国軍にはせ参じたら少佐はかたいところだぞ」(シュナイダー)

 

「あんな連中を糾合して、ラインハルト・フォン・ローエングラム公のような」
「政戦両略の天才に拮抗しようというのだからな」(シュナイダー)

 

「気宇がよほど壮大なのか、精神の骨格が蜜づけのチョコレートででもできているのか」
「たぶん後者だろうが、巻きこまれるほうは迷惑な話だ」(シュナイダー)

 

「…まあ、唯一、救いがあるとすれば、ローエングラム公は天才だが」
「歴史上、天才が凡人に敗れた例はすくなくないということだ」(シュナイダー)

 

「だが、最初から奇蹟を望んでいるようでは、勝利など、とうていおぼつかないな」(シュナイダー)

 

「ヤン提督はそのころ中尉でね、黒ベレーも板につかなくて」
「いかにも駆け出しという感じだったわ」(フレデリカ)

 

「わたしはつくづく思ったの」(フレデリカ)

 

「こんなに頼りなげで、とっぽい感じで、軍服姿のままソファーで眠って」
「朝起きたら顔も洗わず」(フレデリカ)

 

「ひとりごとを言いながらバターもつけないパンをかじるような男の人」
「わたしが好きになってあげなきゃ、誰も好きになってくれないだろうって…」(フレデリカ)

 

「わたしは英雄だの名将だのを好きになったのじゃないのよ」
「でも、ひょっとしたら、天才的な先物買いの才能があったのかもしれないわね」(フレデリカ)

 

「いえ、ヤン・ウェンリーは変わらないわ」
「変わるのは周囲であって、あの人自身はすこしもね」(フレデリカ)

 

「血を流す者、流させる者、流れた血を飲んでふとる者…いろいろだね」(ユリアン)

 

「ヤンは将来のことが、ときとして見えすぎる」(キャゼルヌ)

 

「ところで、売るといえば…フェザーン回廊を」
「ひいてはフェザーンの自治権を帝国軍に売りわたそうとする動きがあると聞いて」
「心配しているのですが…」(ユリアン)

 

「誰が決めたんですか」
「人間がさだめた規則なら、人間の手で破ることもできると思います」(ユリアン)

 

「帝国のラインハルト・フォン・ローエングラム公爵のやりかたが」
「万事、旧習にのっとったものとは、ぼくには思えませんし」(ユリアン)

 

「今上の皇帝が祖国を捨てて亡命したという前例も、ぼくは知りません」(ユリアン)

 

「あのローエングラム公なら、勝つため、征服するためなら」
「伝統や不文律など平然と破ってのけるんじゃないでしょうか」(ユリアン)

 

「そうでないと保証できるかたはいらっしゃらないと思います」(ユリアン)

 

「もっとも、ローエングラム公がそんな野望をいだいても」
「フェザーンのかたたちがみすみす誇りを売りわたすとは思いませんけど」(ユリアン)

 

「だとしても(知ってても)、あの男(ヤン)には何もできまい」(ルビンスキー)

 

第八章 鎮魂曲への招待

「なるほど、フェザーンはたしかに同盟に対して資本を投下しておりますな」(ビュコック)

 

「しかし、それは、同盟の諸惑星、鉱山、土地、企業などに対してであって」
「同盟政府に対してではありますまい」(ビュコック)

 

「フェザーン人としては、投下した資本の安全さえ保障されるなら」
「同盟の国家機構が崩壊したところで、単に天井が破れたていどのこと」(ビュコック)

 

「それほど痛痒を感じるとも思えませんな」(ビュコック)

 

「それとも、フェザーンが」
「同盟政府に対して資本投下をおこなっているという事実でもありますかな」(ビュコック)

 

「どうも、これからユリシーズを哨戒行動につけさせないほうがいいようですな」
「あの艦が哨戒に出るたびに敵をつれてくる」(ムライ)

 

「まあ、ものは考えようさ、ユリシーズを哨戒に出したときは」
「通常より一レベル高い警戒態勢をしくことにすれば、かえって効率的だろう」(ヤン)

 

まったく、世のなかには、未発に終わる計画や構想がどれほど多く存在することか。
ひとつの事実は、それに1000倍する可能性の屍の上に生き残っている。(ヤン)

 

「(小揺るぎなど)するわけがない。だが、はでにやるのも今回の任務のうちだ」
「せいぜい目を楽しませてもらうとしようか」(ロイエンタール)

 

(ヤンは)智将と聞くが、意外に陣頭の猛将という一面があるのだろうか。
(戦場に出てくれば)一挙に勝敗を決することができるかもしれない。(ロイエンタール)

 

ロイエンタールのような一流、あるいはそれ以上の有能な将帥の足もとをすくうには、
むしろ二流の詭計をしかけて虚をつくべきではないか。(ヤン)

 

「雑魚にかまうな、目的は敵の司令官だ」
「艦橋をさがせ」(シェーンコップ)

 

「ロイエンタール提督?」(シェーンコップ)
「そうだ。同盟の猟犬か?」(ロイエンタール)

 

「私はワルター・フォン・シェーンコップだ」
「死ぬまでの短い間、憶えておいていただこう」(シェーンコップ)

 

「おれとしたことが、功をあせって敵のペースに乗せられてしまった」
「旗艦に陸戦部隊の侵入を許すとは、間の抜けた話だ」(ロイエンタール)

 

「べつに卿の責任ではない。おれが熱くなりすぎたのだ」
「すこし頭を冷やして出なおすとしよう」(ロイエンタール)

 

「いま一歩というところでしたが、大魚は逸しました」
「旗艦への侵入をはたしたことで、まあ0点ではないというところですか」(シェーンコップ)

 

「そいつは惜しかった」(ヤン)

 

「もっとも、先方でもそう思っているかもしれません」
「なかなかいい技倆をしていたし、私の攻撃も再三かわされました」(シェーンコップ)

 

「歴史を変えそこなったということかな」(ヤン)

 

「いくらでも、優秀な敵というのはいるものだな」(キャゼルヌ)

 

「あのまま、しつこく攻撃をつづけてくれればよかったのだが」
「さすがに帝国軍の双璧とも言われる男はちがう」(ヤン)

 

「期待はずれのことを言わんでください」
「私は、いつかも言いましたが」(シェーンコップ)

 

「あなたはラインハルト・フォン・ローエングラムにだって勝てると思っているのですから」
「その部下ごときに勝てなくてどうします」(シェーンコップ)

 

「君が思いこむのは自由だが」
「主観的な自信が客観的な結果をみちびき出すとはかぎらないよ」(ヤン)

 

「こんなつまらん戦いははじめてだ」(ポプラン)
「どうも敵のやりようが解せないな。あいつら、遊んでいるのじゃないか」(コーネフ)

 

「まじめに戦争やるような奴より、遊びでやるような奴のほうが」
「おれは好きだがね」(ポプラン)

 

「おれはお前さんの嗜好を問題にしているのじゃない」
「帝国軍の思惑が気になるんだ」(コーネフ)

 

「おれはそれほどうぬぼれちゃいないよ。量をこなしているだけだからな」
「博愛主義ってやつは、このさい減点の対象になるんでね」(ポプラン)

 

「はじまりましたわね」(ヒルダ)
「そうだ、終わりのはじまりだ、フロイライン」(ラインハルト)

 

第九章 フェザーン占領

「吾々の赴くところはイゼルローン回廊にあらず」
「フェザーン回廊である」(ミッターマイヤー)

 

「最終的な吾々の目的は、むろん」
「フェザーン占領にとどまるものではない」(ミッターマイヤー)

 

「フェザーンを後方基地として、回廊を通過し」
「自由惑星同盟を僭称する叛徒どもを制圧して」(ミッターマイヤー)

 

「数世紀にわたる人類社会の分裂抗争に終止符をうつこと」
「それこそが出兵の目的なのだ」(ミッターマイヤー)

 

「吾々はただ戦い征服するためにここにあるのではなく」
「歴史のページをめくるためにここにあるのだ」(ミッターマイヤー)

 

「私の時代が終わったということを、君が保証してくれるというわけかね」(ルビンスキー)

 

「君はローエングラム公と同意見でもあるのだな」
「私はボルテックより馭しがたいという一点で」
「光栄に思うべきなのだろうな」(ルビンスキー)

 

「なるほどな、機会が到来したとたんに牙をむいたか」
「まあ、機を見るに敏、と言えんこともないが、すこしあざとすぎはしないかね」(ルビンスキー)

 

「…私をすこし甘く見すぎたようだな、ルパート」(ルビンスキー)

 

「だからお前は甘いというのだ」
「ドミニクがお前の味方だと、ほんとうに信じていたのか」(ルビンスキー)

 

「お前は私に悪いところが似すぎたな」(ルビンスキー)

 

「もうすこし覇気と欲がすくなかったら」
「いずれ私の地位や権力を譲られんこともなかったろう」(ルビンスキー)

 

「お前は何でも知っていたが」
「ただ、時機を待つということだけを知らなかったな」(ルビンスキー)

 

「自由惑星同盟のトリューニヒト議長は」
「クーデターのとき、それが終わるまで安全に隠れておったそうだ」(ルビンスキー)

 

「吾々も、ひとつ、そのひそみにならうとしようか」(ルビンスキー)

 

「ウォルフガング・ミッターマイヤーに二言があると思うなよ」(ミッターマイヤー)

 

「帝国軍の栄誉に傷をつけた奴には、相応の報いをくれてやる」
「肝に銘じておけ」(ミッターマイヤー)

 

「何にしても、戦わぬとは肩がこることさ」(ミッターマイヤー)

 

「完璧に、とはなかなかいかぬものだ」
卿にできなかったとあれば、他の何びとにも不可能だろう」
「謝罪の必要はない」(ラインハルト)

 

「(ルビンスキーは)現在の時点では敗北を認めたのだと思います」(ヒルダ)

 

「だから身を隠し、その一方で」
「どうせボルテック弁務官ではフェザーンがおさまらないと見こしているのでしょう」(ヒルダ)

 

「彼がみじめに失敗したとき自分の出番がふたたびある、と思っているのですわ」
「ローエングラム公とフェザーン市民と、どちらのがわに望まれるにしても…」(ヒルダ)

 

「そうだ、これがほしかったのだ」
行こうか、キルヒアイス、おれとお前の宇宙を手に入れるために」(ラインハルト)

 

銀河英雄伝説5巻

→5巻(第三章)
→5巻(第五章)
→5巻(第七章)
→5巻(第九章)

第一章 寒波到る

「若い連中は元気があっていい」(ミッターマイヤー)
「私も若いですが、あれほどの元気はありませんよ」(ミュラー)

 

「(ビュコック提督)は老練な男だ」
「卿とおれと、それにロイエンタールとビッテンフェルト…」(ミッターマイヤー)

 

「四人の軍歴をあわせても、あの老人ひとりにおよばない」
「呼吸する軍事博物館だな」(ミッターマイヤー)

 

「もし同盟軍に充分な兵力があり」
「人的あるいは物的な損害を意に介する必要がなければ」(ミッターマイヤー)

 

「彼らはフェザーン回廊の同盟軍の出口に縦深陣をしき」
「正面からの決戦を挑んでくるものと思われます」(ミッターマイヤー)

 

「ですが、今回、この方法をとるには」
「同盟軍の兵力はすでに少なくなっているはずです」(ミッターマイヤー)

 

「一戦して敗れれば後はなく、彼らの首都にいたるまで」
「広大な領土が無防備にさらけ出されることになりましょう」(ミッターマイヤー)

 

「そなれば彼らとしては、最初の戦いが最後になり、降伏以外に道はなくなります」
「正面決戦をしたくともやれないでしょう」(ミッターマイヤー)

 

「(彼らは)三年ほど前のアムリッツァの会戦を」
ほぼ攻守ところを変えて再現することになります」(ミッターマイヤー)

 

「したがって、軍列をいたずらに長くすれば敵の思惑に乗ることになりましょう」
「ですが、小官としてはそこにこそわが軍の勝機があると考えます」(ミッターマイヤー)

 

「卿の狙いは、双頭の蛇だな」(ラインハルト)

 

「ミッターマイヤー提督のお考えに、小官も賛同します」
「ただ、同盟軍の作戦行動が一糸も乱れないものにはなりえないかもしれません」(ミュラー)

 

「敵の姿を見てその場で戦わないのは卑怯だ」
「などと考える近視眼の低能が、どこにもいるからな」(ラインハルト)

 

「そうなれば吾々としては重畳きわまりないことです」(ミュラー)

 

「ずるずると彼らを引きずりこみ、戦略目的のないまま消耗戦に追い込めば」
「いやでも勝利の女神はとりすがってきます」(ミュラー)

 

「だが、それ(消耗戦)では興がなさすぎる」
「ぜひ敵に秩序ある行動を望みたいものだ…」(ラインハルト)

 

自分は、敵が存在しないという状態に耐えうるだろうか。(ラインハルト)

 

「国防委員長の守護天使が、突然、勤労意欲にめざめたらしいな」
「そうならないよりも、けっこうなことだて」(アレクサンドル・ビュコック)

 

「そして、帝国の専制主義と同盟の軍事独裁政権とが、宇宙の覇権を賭けて戦うのかね…?」
「救いようがないと思わんか」(ビュコック)

 

「わしに誇りがあるとすれば、民主共和政において軍人であったということだ」(ビュコック)

 

「わしは、帝国の非民主的な政治体制に対抗するという口実で」
「同盟の体制が非民主化することを容認する気はない」(ビュコック)

 

「同盟は独裁国となって存在するより、民主国家として滅びるべきだろう」(ビュコック)

 

「わしはかなり過激なことを言っておるようだな」(ビュコック)

 

「だが、実際、建国の理念と市民の生命とが守られないなら」
「国家それ自体に生存すべき理由などありはせんのだよ」(ビュコック)

 

「で、わしとしては、建国の理念」
「つまり民主政治と、市民の生命を守るために戦おうと思っておるのさ」(ビュコック)

 

「多少時間がたったパンでも、ちょっと湯気にあてると」
「けっこうおいしく食べられるものです」(チュン・ウー・チェン)

 

「イゼルローン要塞にいるヤン・ウェンリー提督を呼びもどしてはいかがでしょうか」(チェン)

 

「ヤン提督の智略と、彼の艦隊の兵力とは、わが軍にとってきわめて貴重なものですが」
「このような状況下で彼をイゼルローンにとどめておくのは」(チェン)

 

「焼きたてのパンを冷蔵庫のなかで堅くしてしまうようなものです」(チェン)

 

「ヤン提督なら、(脱出は)何とかするでしょう」
「彼がいなければ、純軍事的に吾々はきわめて不利です」(チェン)

 

「いえ、司令長官閣下、具体的な命令は必要ありません」
「ヤンに訓令すればよいのです」(チェン)

 

「責任は宇宙艦隊司令部全体でとる、最善と信じる方策をとるように──とね」
「おそらくヤンはイゼルローン要塞を守ることにこだわらないでしょう」(チェン)

 

「絵具を砂糖水にとかして甘い絵を描こうとした無能者どもには当然の末路だ」(シュナイダー)

 

「…さて、これで広間までは通してもらえたわけだ」(ミッターマイヤー)

 

「問題は食堂にたどりつけるかどうかだが」
「いざテーブルについても、出されるのは毒酒かもしれんな」(ミッターマイヤー)

 

第二章 ヤン提督の箱舟隊

「世のなかは、やってもだめなことばかり」
「どうせだめなら酒飲んで寝よか」(ヤン)

 

「持つべきものは話のわかる上司だね」
くえない親父さんだ…給料分以上に働かせようっていうんだな」(ヤン)

 

「イゼルローン要塞を放棄する」(ヤン)
「閣下のご意向に異存はありませんが、できればいますこしご説明いただけませんか」(ムライ)

 

「ですが、イゼルローンにこもって抗戦し」
「その戦果をもって帝国と和平の交渉にのぞむということはできませんか」(ムライ)

 

「そのときは、帝国側の講和の条件として」
「イゼルローン要塞返還の件が持ち出されること疑いないね」(ヤン)

 

「そして同盟としてはその条件を呑まざるをえないだろう」(ヤン)

 

「結局のところ、イゼルローンは失われる」
「だとすれば、その前にくれてやっても大差はないさ」(ヤン)

 

「しかし、ひとたび手に入れたものを」
「みすみす敵の手に引きわたすとは無念な話ではありませんか」(パトリチェフ)

 

「…せっかく費用と人手をかけて要塞をつくりながら」
「他人にそれを奪われた帝国軍のほうが、よほど無念だっただろうね」(ヤン)

 

「それにしても、心理的効果というやつがあるでしょう」(ムライ)

 

「ヤン提督が帝国軍に追われてイゼルローン要塞を放棄したとなれば」
「同盟市民の受ける衝撃は大きいですぞ」(ムライ)

 

「戦わずして敗北感にさいなまれ、戦意を失うかもしれませんぞ」
「そうなれば後日の再戦などとうていおぼつかなくなります」(ムライ)

 

「そのあたりを、ご一考ください」(ムライ)
「私も参謀長のご意見に賛同しますね」(シェーンコップ)

 

「どうせなら、政府首脳たちが血相変えて、イゼルローンなんぞ捨てて助けに来い」
「とわめきたててから腰をあげたほうがいいでしょう」(シェーンコップ)

 

「恩知らずの連中だが、今度こそ閣下の存在がいかにありがたいものか」
「思い知るでしょうよ」(シェーンコップ)

 

「それでは遅い。帝国軍に対する勝機を失ってしまう」(ヤン)
「ほう、勝機!? すると、勝てると思ってはいらっしゃるのですか」(シェーンコップ)

 

「シェーンコップ少将の言いたいことはわかる」(ヤン)

 

「吾々は戦略的にきわめて不利な立場にあるし」
「戦術レベルでの勝利が戦略レベルの敗北をつぐないえないというのは軍事上の常識だ」(ヤン)

 

「だが、今回、たったひとつ、逆転のトライを決める機会がある」
「ローエングラム公は独身だ。そこがこの際はねらいさ」(ヤン)

 

「何か大胆な作戦がおありなのでしょう、閣下?」(フレデリカ)
「うん、まあ、なるべく期待にそいたいと思っているけどね」(ヤン)

 

「あれでも一所懸命にやってるのよ」
「何もしない人たちがとやかく言う資格はないわ」(フレデリカ)

 

「市民を守る義務があるのに、それを忘れて自分たちの安全のみ謀るような輩には」
「相応の報いがあって然るべきです」(シェーンコップ)

 

「逃げこんできたところを一網打尽にして、ローエングラム公にくれてやってもよし」
「市民に対する背信の罪を問うて、罰をくれてやってもいいでしょう」(シェーンコップ)

 

「そのあとは、あなたが名実ともに頂点に立てばいい」
「イゼルローン共和国というのも、そう悪い考えではないように思えます」(シェーンコップ)

 

「私にとっては政治権力というやつは下水処理場のようなものさ」(ヤン)

 

「なければ社会上、困る。だが、そこにすみついた者には腐臭がこびりつく」
「近づきたくもないね」(ヤン)

 

「独裁者を支持するのも民衆なら、反抗して自由と解放を求めるのも民衆です」(シェーンコップ)

 

「民衆の多数が民主主義ではなく独裁を望んだとしたら」
「そのパラドックスをどう整合させるのか」(シェーンコップ)

 

「その疑問には、誰も解答できないだろうね」(ヤン)

 

「だけど…人類が火を発見してから100万年」
「近代民主主義が成立してから2000年たらずだ」(ヤン)

 

「結論を出すには早すぎると思う」(ヤン)

 

「目前の急務があるわけだから、まずそれをかたづけよう」
「夕食の用意ができてもいないのに、明日の朝食について論じてもはじまらない」(ヤン)

 

「必要なものを必要な間だけ借りた」
「必要がなくなったから返すだけのことさ」(ヤン)

 

「また必要になったら?」(シェーンコップ)
「また借りるさ。その間、帝国にあずかってもらう。利子がつかないのが残念だが」(ヤン)

 

「要塞とか人妻とかいうものは、そう簡単に借りられないものですがね」(シェーンコップ)
「貸してくださいと頼めば、当然、拒絶されるだろうな」(ヤン)

 

「ひっかけるしかないでしょう」(シェーンコップ)
「相手はロイエンタールだ。帝国軍の双璧のひとりだ。ひっかけがいがあるというものさ」(ヤン)

 

「力ずくで奪取できるものなら」
「イゼルローン要塞の所有者はこれまで五、六回は変わっていてよいはずだ」(ロイエンタール)

 

「だが、唯一それをやってのけた者は」
「いまイゼルローンにいる、あのペテン師だけだ」(ロイエンタール)

 

「おもしろい意見だが、もっとも激しく踊る者がもっとも激しく疲れると言うではないか」(ロイエンタール)

 

「死守したところで意味はあるまい」
「すでに帝国軍がフェザーン回廊から同盟領内へ侵攻しようとしているのだ」(ロイエンタール)

 

「イゼルローン回廊のみが軍事行動の対象であった時代には、要塞の存在に意味があった」
「だが、いまや時代は変わったのだ」(ロイエンタール)

 

「要塞を固守するだけでは戦況に何ら寄与しない」(ロイエンタール)

 

「何を考えているにせよ、準備に専念させてやることもなかろう」(ロイエンタール)
「…つまり、いやがらせの攻撃をする、と?」(コルネリアス・ルッツ)

 

「露骨すぎるな、その表現は」
「あらゆる布石を惜しまぬ、ということにしておこうか」(ロイエンタール)

 

「…急に忙しくなりやがった」
「超過勤務はおれの主義に反するんだがな」(ポプラン)

 

「ハイネセンにもどれたら、必ずパイロットの労働組合を結成してやるぞ」(ポプラン)

 

「兵士の過重労働をなくすために生涯をかけてやるんだ」
「見ている、管理者どもめ」(ポプラン)

 

「お前さんは女に生涯をかけているのじゃなかったのか」(コーネフ)

 

「子供がこづかいをほしがってるのじゃあるまいし、だめはないでしょう」
「兵士の士気にもかかわってきます」(アッテンボロー)

 

「どうか再戦の許可をいただきたく存じます」(アッテンボロー)

 

「かなり楽をして敵に勝てる方法を考えつきました」
「ためさせていただけませんか」(アッテンボロー)

 

「あまり悪い知恵をつけないでくれよ、大尉」
「それでなくてさえ面倒なことが多いんだから」(ヤン)

 

「はい、出すぎました、申し訳ございません」(フレデリカ)

 

「なにしろヤン・ウェンリーのことです」
「どのように巧妙な罠をしかけているやら」(ハンス・エドアルド・ベルゲングリューン)

 

「ヤン・ウェンリーも大したものだ」
「歴戦の勇者をして影に恐怖せしむ、か」(ロイエンタール)

 

「怒るな。おれとて奴の詭計がこわいのだ」(ロイエンタール)

 

「むざむざイゼルローンを奪われたシュトックハウゼンの後継者になるのは」
「ぞっとしないしな」(ロイエンタール)

 

「レンネンカンプにしてやられるくらいなら」
「ヤン・ウェンリーの智略の井戸もかれたということだな」(ロイエンタール)

 

「だが、誰にとって不幸かは知らんが、まだ水脈がとだえたとは思えん」(ロイエンタール)

 

「レンネンカンプの用兵ぶりを拝見し」
「かつ彼の手腕に期待しようではないか、ん?」(ロイエンタール)

 

「なぜ追う必要があるのだ。奴の逃亡を見送れば」
「吾吾は労せずしてイゼルローン要塞を手に入れることができるものを」(ロイエンタール)

 

「それだけでも充分な勝利だとは思わんか、ベルゲングリューン」(ロイエンタール)

 

「病に対抗するには全員が共同であたるべきだ」
「わが艦隊だけが感染の危険をおかすことはないと思うが」(ロイエンタール)

 

「知っているか、ベルゲングリューン、こういう諺がある」
「野に獣がいなくなれば猟犬は無用になる、だから猟犬は獣を狩りつくすのを避ける…」(ロイエンタール)

 

「戦略および戦術の最上なるものは、敵を喜ばせながら罠にかけることだろうね」(ヤン)

 

「智謀だなんて、そんな上等なものじゃないさ。悪知恵だよ、これは」
「まあ、やられたほうはさぞ腹が立つだろうがね」(ヤン)

 

「…それに、罠をかけた結果が必ず生かされるとはかぎらない」
「吾々は二度とイゼルローンを必要としなくなるかもしれないしね」(ヤン)

 

「きっと役に立ちますわ」
「イゼルローン要塞は私たちの…ヤン艦隊全員の家ですもの」(フレデリカ)

 

「いつか帰る日が来ます」
「そのとき、必ず、閣下の布石が生きてきますわ」(フレデリカ)

 

「さらば、イゼルローン。おれがもどってくるまで浮気するなよ」
「お前はほんとうに虚空の女王だ。お前ほど佳い女はいなかった」(ポプラン)

 

「ならばお前も国を奪ってみろ」(ロイエンタール)

 

第三章 自由の宇宙を求めて

「来て、見て、なすことなく去った、か…」(ユリアン)

 

「テロリズムと神秘主義が歴史を建設的な方向へ動かしたことはない」(ヤン)

 

「彼を処罰したら、誰がヤン艦隊を指揮統率するのだ?」(ラインハルト)

 

「安全な場所で書類の決裁ばかりやっていたような輩が司令官として乗り込んでも」
「兵士たちがおさまらんだろう」(ラインハルト)

 

「おそらく彼は、同盟が勝利をえる唯一の方法をとるため」
「麾下の兵力を自由に行動させたかったのだ」(ラインハルト)

 

「わからぬか。戦場で私を倒すことだ」(ラインハルト)

 

「ヤン提督の狙いを見ぬいておいでなのに」
「やはりご自身で陣頭にお立ちになりますの?」(ヒルダ)

 

「フロイライン・マリーンドルフ、私は覇者たろうと志してきたし」
「それを実現するためにひとつの掟を自分自身に科してきた」(ラインハルト)

 

「つまり、自ら陣頭に立つことだ」(ラインハルト)

 

「かつて戦って倒してきた能なしの大貴族どもと私が異なる点はそこにある」
「兵士たちが私を支持する理由もだ」(ラインハルト)

 

「あえて申し上げますけど、閣下」
「どうか無益な戦闘はさけて帝都オーディンにお帰りください」(ヒルダ)

 

「フェザーン回廊はミッターマイヤー提督に、イゼルローン回廊はロイエンタール提督に」
「それぞれおまかせになれば、一定の戦果はあがるでしょう」(ヒルダ)

 

「閣下は後方にあって、彼らのもたらした果実を賞味なさればよろしいかと存じます」(ヒルダ)

 

「フロイライン、私は戦いたいのだ」(ラインハルト)

 

「フロイライン、どうせ宇宙をこの手につかむなら」
「手袋ごしにではなく、素手によってでありたいと思うのだ」(ラインハルト)

 

「お前は歌手としても踊り手としてもなかなかのものだったが」
「演技者としては見るべきところが昔からなかったな」(ルビンスキー)

 

「あれは大してセンスのある観客じゃなかった」(ルビンスキー)

 

「俳優の演技を観察するより」
「自分自身のつむぎだした幻想を俳優に投影させて酔ってしまう性質だったからな」(ルビンスキー)

 

「わかっているとも。私にかぎらず」
「人間というものは自分以下のレベルのものは理解できるようになっているのでな」(ルビンスキー)

 

第四章 双頭の蛇

「わが軍は彼らの挨拶に対し、相応の礼をもってむくいるとしよう」
双頭の蛇の陣形によって…」(ラインハルト)

 

「ご自分で先陣を指揮なさるとおっしゃいますか」
「危険です」(ミュラー)

 

「同盟軍の力は衰微していますが、それだけにかえって窮鼠と化す可能性があります」
「どうか閣下には、後方で吾らの戦いを督戦していただきたく存じます」(ミュラー)

 

「この陣形には後方などというものはないのだ、ミュラー」
「あるのはふたつめの頭だ」(ラインハルト)

 

「私は勝つためにここへ来たのだ、ミッターマイヤー」
そして勝つには戦わなくてはならないし、戦うからには安全な場所にいる気はない」(ラインハルト)

 

「やはり、あのかたはまず戦士なのだ」
「戦いの結果としての勝利にこそ、意義を見出すかたなのだ」(ミッターマイヤー)

 

「生まれながらの支配者なら、収穫の方法にこだわりはすまい…」(ミッターマイヤー)

 

「エミール、勝利を願ってくれたお前のために、私は勝とう」
だから、お前は生きて還って、家族に伝えるのだ」(ラインハルト)

 

ラインハルト・フォン・ローエングラムをランテマリオの戦いで勝たせたのは自分だ」
とな」(ラインハルト)

 

「これ(元帥昇進)は生きて帰るなということかな、特進の前わたしということで…」(ビュコック)

 

「いや、単なる自暴自棄でしょう」(チェン)

 

「帝国軍の陣形は、いわゆる双頭の蛇ではありませんか」(スーン・スールズカリッター)

 

「だとすれば、中央突破をはかるのは敵の望むところ」
「危険が大きすぎると小官には思われます」(スール)

 

「おそらく、いや、疑いなく貴官の言うとおりだろう」
「だが、もはや他にとるべき戦法はない」(ビュコック)

 

「敵の陣形を逆用して中央を突破し、各個に撃破するしかあるまい」(ビュコック)

 

「それにしても、ローエングラム公は天才の名に恥じませんな」(スール)

 

「つねに吾々の先手をとり、吾々を戦略的に追いつめてから」
「実戦をしかけてくるのですから…」(スール)

 

「だからヤン・ウェンリーなどが、彼の天才を高く評価するのだ」(ビュコック)

 

「知っているかね、スール少佐、わしは彼から聞いたことがある」
「自分が帝国に生まれていたら、喜んで彼の旗のもとへ駆けつけたろう、とな」(ビュコック)

 

「(危険な発言?) どうしてかね、わしもまったく同感だよ」(ビュコック)

 

「このとおり老いぼれで、たいして才能もないから」
「先方が使ってくれるとはかぎらんが」(ビュコック)

 

「同盟軍と吾々と、どちらのために席をあけて待っているか」
「地獄に訊いてみたいものだな」(ミッターマイヤー)

 

「同盟軍のあれは勇猛ではなく狂躁というのだ」
「ミッターマイヤーは闘牛士だ」(ラインハルト)

 

「猛牛に押しまくられているかに見えて、じつはその力を温存し、勝機をねらっている」
「だが…」(ラインハルト)

 

「案外、本気で攻勢に辟易しているのかもしれんな」
「そろそろ私も動くことにしようか…」(ラインハルト)

 

「前進をやめろ。後退して陣形を再編するのだ」
「貴官ら、もう充分殺したではないか」(ビュコック)

 

「なかなか楽には勝てぬものだ」
「老人はしぶとい。メルカッツもうそうだったが」(ラインハルト)

 

「…やはり使わざるをえないか」
ビッテンフェルトに連絡せよ」(ラインハルト)

 

「卿の出番だ」
黒色槍騎兵の槍先に敵の総司令官の軍用ベレーをかかげて私のところへ持ってこい、と」(ラインハルト)

 

「計算しろ!」
「帝国軍の進撃速度と、エネルギーの流れの速度をだ」(チェン)

 

「奴らは流されている」
「計算すれば、こちらへ渡ってくる宙点が推定できるはずだ」(チェン)

 

「これまでだな」
「かくて陽は沈み一将功ならずして万骨は枯る、か…」(ビュコック)

 

「自殺はいけません。司令長官閣下」
「メルカッツ提督も敗戦の後、生命を永らえたではありませんか」(チェン)

 

「宇宙艦隊が消失した以上、司令長官だけ生きていても詮ないことだ」
「そう思わんかね、貴官は?」(ビュコック)

 

「まだ宇宙艦隊は消失してしまってはおりません」
「ヤン・ウェンリー艦隊はなお健在です」(チェン)

 

「一隻でも艦艇が残っているかぎり」
「司令長官には生きてこそ責任をとっていただかなくてはならんのです」(チェン)

 

「この敗戦に対して、死ぬ以外に責任をとる途があると貴官は言うのかね?」(ビュコック)

 

「自殺なさるのは、味方に対する責任をとることにしかなりません」
「私が問題にしているのは、敵に、そう、勝利した敵に対しての責任のとりようです」(チェン)

 

「わしは敵の銃口のために、この老体を残しておかねばならんというわけだな」(ビュコック)

 

「閣下と私、それにドーソン元帥」
「制服軍人組から三名ぐらいは軍事裁判の被告が必要でしょう」(チェン)

 

「このあたりで、累が他におよぶのをくいとめねばなりません」
「同盟の未来のために、ヤン・ウェンリーなどには生きていてもらわねばならないのです」(チェン)

 

「何を恐れるか!」
「この期におよんで同盟軍の新規兵力が出てきたところで、各個撃破するまでのことだ」(ラインハルト)

 

「うろたえるな! 秩序をたもって後退せよ」(ラインハルト)

 

「万が一、フェザーン方面への道が閉ざされたら、このままバーラト星系へ直進し」
「同盟の死期を早めてやるだけのことだ」(ラインハルト)

 

「そしてイゼルローン回廊を通って帝国へ凱旋する」
それですむではないか」(ラインハルト)

 

「醜態をお見せしました。面目ございません」
「勝ちながらこうも乱れるとは、いささか勝ち慣れて逆境に弱くなりましたようで…」(ミッターマイヤー)

 

「あんな小細工を効果的にやってのけるのは、あのペテン師以外おるまい」(ラインハルト)

 

個人が勝算のない戦いに挑むのは趣味の問題だが、
部下をひきいる指揮官がそれをやるのは最低の悪徳である。(ヤン)

 

「それにしても半日遅かった」
「やきがまわったとは、こういうことを指すのかな」(ヤン)

 

「あぶない、あぶない」(ヤン)

 

自分がこうしていれば事態を変えることができた、と思いこむのは、
自己過信というべきではないか。(ヤン)

 

今回はこれで充分と言わねばなるまい。(ヤン)

 

最悪の場合、ビュコックらが完全に潰滅させられた後、
のこのこ戦場にあらわれて各個撃破の標的となる醜態をさらすという可能性もあったのだ。(ヤン)

 

「むざむざ生き残ってしまったよ、部下を死なせて、不甲斐ないことだ」(ビュコック)
「何をおっしゃいます。生きて復讐戦の指揮をとっていただかなくてはこまります」(ヤン)

 

「攻撃なさらぬよう願います。吾々は帝国軍ではありません」
「こちらは自由惑星同盟フェザーン駐在武官ユリアン・ミンツ少尉です」(ユリアン)

 

「この艦は帝国軍より奪取したもので、搭乗者はすべて帝国と反対の立場に立つものです」
「同盟首都ハイネセンへの航行を許可ねがいます」(ユリアン)

 

「敵の駆逐艦を奪った?」
「案外、手の早い野郎だったんだな」(ポプラン)

 

「どうも天敵というものがいるらしいな」(ラインハルト)

 

キルヒアイス、お前がいてくれたら」
「ヤン・ウェンリーなどに白昼の横行などさせぬものを…」(ラインハルト)

 

第五章 暁闇

「(元帥を)返上するほど無欲にもなれないからもらっておくが」
「いまさら大してありがたくもないな」(ヤン)

 

「まあ、ビュコック提督のおすそわけと思うことにしようか」(ヤン)

 

「民主主義の成果を守るために微力をつくすつもりです」(ヤン)

 

「さしあたり、負けた後のことだけを考えておいていただきましょう」
「勝ったら、しばらくは安心できるはずです」(ヤン)

 

「その後、平和外交をおこなうなり軍備を再建するなり、それは政治家の領分で」
「軍人の口出しすることではありません」(ヤン)

 

「約束して勝てるものなら、いくらでも約束したいのですが…」(ヤン)

 

「もし戦術レベルでの勝利によって戦略レベルの劣勢をおぎなうことが可能であるとすれば」
「方法はただひとつです」(ヤン)

 

「その方法とは、ラインハルト・フォン・ローエングラム公を戦場で倒すことです」(ヤン)

 

「ラインハルト・フォン・ローエングラム公は独身です」
「私のねらいはそこになんです」(ヤン)

 

「彼らを何らかの方法で分散させ、各個撃破をかさねていけば」
「鋭気と覇気に富むローエングラム公のことです」(ヤン)

 

「私を討伐するために自ら出馬してくるでしょう」
「その機会をつくらねばなりません」(ヤン)

 

「それが唯一の勝機です」
「まあ戦略や戦術というより心理学の問題ですがね、こいつは」(ヤン)

 

「まあ、ミッターマイヤーとロイエンタールのふたりは、なるべく避けて通るとしよう」
「彼らにこだわっていては全体の効率が悪くなる」(ヤン)

 

「元帥閣下は、おつかれでいらっしゃいますし、軍の機密にわずかでも関することは」
「いっさいお話しできません」(フレデリカ)

 

「もしわが軍を勝たせたいとお考えなら」
「どうかご理解の上、おひきとりいただきたく存じます」(フレデリカ)

 

「ぼくの、いや、私の使用した戦術は、今後も同盟軍が侵略者と戦う際して」
「きわめて有効であると信じます」(ユリアン)

 

「したがって、彼らとの決戦を前にその内容についてくわしくお話しすることは」
「利敵行為に属すると思われます。どうかご容赦ください」(ユリアン)

 

「お帰りなさい、ユリアン、あなたもいまやちょっとした英雄ね」(フレデリカ)

 

「ありがとう。でも、提督は、ぼくが帰ってきたことはとても喜んでくださるけど」
「英雄に祭りあげられていることは喜んでいらっしゃらないと思いますね」(ユリアン)

 

「もしかして、それを嫉妬だと思う、ユリアン?」(フレデリカ)
「…まさか、そんなこと、考えたこともありません」(ユリアン)

 

「だったらいいの」
「もしあなたがそう考えているとしたら、思いきり引っぱたいてあげたわ」(フレデリカ)

 

「こう、背中と腕を伸ばしてね」
「わたしは子供のころ手が早いことで有名だったんだから」(フレデリカ)

 

「そりゃあ軍隊にはいってからは、おしとやかに、猫の毛皮を三、四枚着こんでいたもの…」
「なかなかの努力だったのよ、これは」(フレデリカ)

 

「やあ、ユリアン、見てくれよ」
「わが心のごとく、かつ現今の世情のごとし、さ」(ヤン)

 

「当然だろう」
「せっかくの年金も、同盟政府が存続しないことにはもらいようがない」(ヤン)

 

「したがって、私は、老後の安定のために帝国軍と戦うわけだ」
「首尾一貫、りっぱなものさ」(ヤン)

 

「帝国軍の駆逐艦を、どんな魔法を使って乗っとったんだ?」
「軍事機密とはいっても、私になら教えてくれるだろう?」(ヤン)

 

「からかわないでください」
「提督がイゼルローン要塞を奪取なさったときの方法を応用しただけですよ」(ユリアン)

 

「ふむ、応用か。特許をとっておくべきだったかな」
「年金プラス特許料で…」(ヤン)

 

「待ってください、まだ完走のチャンスはあります」(ユリアン)

 

「なに、(イゼルローンに)罠をしかけはしたがね、ごく簡単なことさ」(ヤン)
「それは、ほとんどぺてんですね。成功したら、帝国軍はさぞ腹がたつだろうなあ」(ユリアン)

 

「お人が悪いですよ」(ユリアン)
「けっこう、最高の賛辞だ」(ヤン)

 

「老化の第一現象は、固有名詞を思い出せないことからはじまるんですってね」(ユリアン)

 

「それは正論だ」
「だが、正しい認識から正しい行動が生み落とされるとはかぎらないからね」(ヤン)

 

「ユリアン、吾々はチグリス・ユーフラテスのほとりにはじめて都市を築いた人々とくらべて、それほど精神的に豊かになったわけではない」(ヤン)

 

だが、よしあしは別として、知識は増え、手足は伸びた」
「いまさら揺籠(ゆりかご)にもどることはできない」(ヤン)

 

「これが成功したとしても、それが歴史に対してどのような意義を持つのか」
「私には疑問なんだ」(ヤン)

 

「つまり、ラインハルト・フォン・ローエングラム公を武力によって倒し」
「帝国軍を分裂させることは、さしあたり自由惑星同盟にとっては有益だ」(ヤン)

 

「だが、人類全体にとってはどうだろう」
「帝国の民衆にとっては、あきらかにマイナスだ」(ヤン)

 

「強力な改革の指導者を失い、その後は政治的分裂」
「悪くすれば、いやほぼ確実に内乱がおきるだろう。民衆はその犠牲になる」(ヤン)

 

「まったくひどい話さ」
「こうまでして、同盟の目先の安泰を求めなきゃならんのかな」(ヤン)

 

「ユリアン、戦っている相手国の民衆なんてどうなってもいい」
「などという考え方だけはしないでくれ」(ヤン)

 

「いや、あやまることはないさ。ただ、国家というサングラスをかけて事象をながめると」
「視野がせまくなるし遠くも見えなくなる」(ヤン)

 

「できるだけ、敵味方にこだわらない考えかたをしてほしいんだ、お前には」(ヤン)

 

「すこしだけ熱があるわね。寝ていたければそうなさい」
どうせすぐにあきて起き出したくなるのだから、ラインハルトは…」(アンネローゼ)

 

「案ずるな、エミール」
「能力が同じであれば運が勝敗を左右する」(ラインハルト)

 

「私は自分自身の運の他に、友人からも運をもらった」
「その友人は運だけでなく、生命も未来も私にくれたのだ」(ラインハルト)

 

「私はふたり分の運を背負っている」
「だからヤン・ウェンリーなどに負けはせぬ。案ずるな」(ラインハルト)

 

第六章 連戦

「補給路をねらうのは、敵としては当然の戦法である」(ラインハルト)

 

「わざわざその点を注意したにもかかわらず、また、高言にもかかわらず」
「油断から貴重な物資をそこなうとは、弁解の余地なし。自らを裁け」(ラインハルト)

 

「これまで確たる方針をたてずにいた私にも責任はあるが」
「一時的な侵攻と寇掠をこととするならともかく」(ラインハルト)

 

「征服を永久のものとするためには慎重を期せねばならない」
「敵の組織的な武力は、これを徹底的に排除すべきであると考える」(ラインハルト)

 

「いよいよ、『ぼやきのユースフ』二世ですね」(ユリアン)

 

「後背(に敵)というと、どのていどの距離だ? 時間的距離でいい」
「では二時間で敵を破り、一時間で逃げ出すとしようか」(ヤン)

 

「ミスター・レンネンか」
「敵が射程距離にはいる直前に、主砲を三連斉射」(ヤン)

 

「その後、ライガール星系方面へ逃走すること」
「ただし、ゆっくりと、しかも整然と」(ヤン)

 

「これでまた私を憎む未亡人や孤児が何十万人かできたわけだ」
「すべてを背おいこむのは、ちと私の肩には重いな」(ヤン)

 

「地獄へ一回堕ちただけですむものやら…」(ヤン)

 

「提督が地獄へいらっしゃるなら、ぼくもおともします」
「すくなくとも、寂しくはありませんよ」(ユリアン)

 

「ばかなことを言うんじゃない」
「お前には天国へ行ってもらって、釣糸で私を地獄からつりあげてもらうつもりなんだ」(ヤン)

 

「せいぜい善行をつんでおいてほしいな」(ヤン)

 

「…ヤン艦隊に所属していたら、生命がダース単位であってもたりやしない」
「一日に二艦隊と連戦するのだからな」(ポプラン)

 

「お前さんの場合、一ダースの生命のひとつごとに一ダースの女が必要だし」
「何かとたいへんだな」(コーネフ)

 

「そいつはすこしちがうな」
「おれの生命のひとつごとに、一ダースの女がおれを必要としているんだ」(ポプラン)

 

「なに、お前さんがいなくなれば」
「彼女らはべつの男にべつの美点を見つけるだけのことだよ」(コーネフ)

 

「卿らにはよい勉強になっただろう」
「卿らのレベルでは測ることのできない相手がいるのだ」(ラインハルト)

 

「私が卿らに現在の地位をなぜ与えたか、それをよく考えて一から出なおせ」(ラインハルト)

 

「奴の戦術はまったくみごととしか言いようがない」(ロイエンタール)

 

「しかし、まさかヤン・ウェンリーが戦術レベルでの勝利を蓄積させて」
「戦略レベルでの勝利に直結させようとしているとも思えないがな」(ロイエンタール)

 

「どういうつもりでいるのか」(ロイエンタール)

 

「すると、戦術レベルでの勝利にヤン・ウェンリーは固執しているように見えるが」
「これすべてローエングラム公を自分の前に引き出して正面決戦をしいるための下準備というわけか」(ロイエンタール)

 

「ローエングラム公がお倒れになれば、吾々は指導者を失い、忠誠の対象を失う」(ミッターマイヤー)

 

「これ以上、誰のために戦うのかということになる」
「敵としては願ってもないことだ」(ミッターマイヤー)

 

「誰をもって後継者となすか、それもさだまってもないことだ」(ロイエンタール)
「誰が後継者になってもローエングラム公ほど絶対の支持はえられんだろう」(ミッターマイヤー)

 

「ワインやビールならまだしも、肉やパンの配給がとどこおりはじめると」
「兵士たちの士気に影響するぞ」(ロイエンタール)

 

「古来、飢えた軍隊が勝利をえた例はないからな」(ロイエンタール)
「やはり、飢える前に戦わざるをえないか」(ミッターマイヤー)

 

「吾々がフェザーンでえた情報によりますと、同盟軍は国内に84ヶ所の補給基地」
「および物資集積所をもうけております」(アウグスト・ザムエル・ワーレン)

 

「わが軍が補給部隊を攻撃されたからには、目には目をもって応じ」
「彼らの補給基地を襲い、できれば物資を強奪してきたいと思いますが」(ワーレン)

 

「うちの艦隊は逃げる演技ばかりうまくなって…」(ムライ)

 

「未練がましいことだ」
「まあ、貴重な物資をうばわれては無理もないか…」(ワーレン)

 

「…人間なにかとりえがあるものだ」(シェーンコップ)

 

「ローエングラム公の怒りと矜持も、そろそろ臨界点に達しただろう」
「物資も長期戦をささえるほどの量はない」(ヤン)

 

「近日中に、全軍をあげて大攻勢に出てくるはずだ」
「おそらく、これまでにない苛烈な意志と壮大な戦法をもって…」(ヤン)

 

「まいったな、同盟領それ自体が奴の基地になっているというわけか」(ファーレンハイト)

 

「…一個艦隊。わずか一個艦隊で、わが軍を翻弄している!」
「奴が好きなときに好きな場所に出現することができるにしてもだ」(ミッターマイヤー)

 

「二年前、リップシュタット戦役で門閥貴族のどら息子どもと戦ったとき」
「奴らみたいに無能な輩はいないと思った」(ミッターマイヤー)

 

「だが、とんでもない誤りだった」(ミッターマイヤー)

 

「ヤン・ウェンリーがいかに智謀の主といっても」
「たかが一個艦隊にしてやられるおれたちの醜態を見ろよ」(ミッターマイヤー)

 

「いっそ84ヶ所の補給基地ことごとくを占拠ないし破壊すればよい」
「そうすればヤン艦隊は飢えて動けなくなろう」(ファーレンハイト)

 

「机上の空論だ」
「全軍をあげて動けばガンダルヴァ星系のわが軍根拠地が空になる」(ロイエンタール)

 

「84ヶ所のことごとくを制しようとしても、それは兵力分散の愚を犯すだけのことだ」(ロイエンタール)

 

「現にいままでヤンにしてやられたのは、すべて、各個撃破をもってではないか」(ロイエンタール)

 

「追ったところで奴は逃げるだけという点を指摘しているのだ」
「いたずらに動けば奴にしかける機会を与えるだけだ」(ロイエンタール)

 

「だから、ヤン・ウェンリーを誘い出す」
「罠にかけて奴を誘い出し、包囲撃滅する」(ロイエンタール)

 

「これしかないだろう」
「問題は、どのような餌で奴をつりあげるか、だ」(ロイエンタール)

 

「とにかく、ヤン・ウェンリー艦隊の主力さえたたけば」
「同盟軍はただ辞書の上の存在でしかなくなるはずです」(ミュラー)

 

「彼を倒さねば吾々に最終的な勝利はない」(ミュラー)

 

「ばかか、きさまは」
「その調子で行動パターンが読みとれるまで待っていたら」(ビッテンフェルト)

 

「何年かかるか知れたものではない」
「それともすべての補給基地をヤン・ウェンリーが食いつぶすまで待つか」(ビッテンフェルト)

 

「ヤン・ウェンリーがさかりのついた猫のように動きまわろうと」
「そんなものは放っておいて敵の首都を直撃すればいいのだ」(ビッテンフェルト)

 

「そして吾々の大部分は本国へ引きあげる」
「すると無傷のヤン・ウェンリーがいずこかの補給基地から出てきて」(ミッターマイヤー)

 

「首都を奪回し、同盟を再建するだろう」
「それを倒すために、また遠征しなくてはならん」(ミッターマイヤー)

 

「卿らはヤン・ウェンリーを恐れること、子羊が狼を恐れるごとしだな」
「後世の冷笑をどうするつもりだ」(ビッテンフェルト)

 

「おれが恐れるのはヤン・ウェンリー一個人ではなく、本国と前線との距離だ」
「それを理解できぬと言うのであれば、卿と語ることは何もない」(ミッターマイヤー)

 

「全提督を招集せよ。作戦をさだめた」(ラインハルト)

 

「一ヶ月を出でずして、ヤン・ウェンリーの艦隊は宇宙から消滅するだろう」
「楽しみにしていることだ」(ラインハルト)

 

「卿らに問う! 宇宙の深淵をこえ、一万数千光年の征旅をなしてきたのは何のためだ」
「ひとりヤン・ウェンリーに名をなさしめるためか」(ラインハルト)

 

「武人としての卿らの矜持は、羽をはやして何処へか逃げおおせでもしたか?」(ラインハルト)

 

「閣下の常勝の令名をそこない、罪の大なるを胆に銘じております」
「ですが、いえ、だからこそ、あえて申しあげます」(ワーレン)

 

「あらたなる勝利によって敗北をつぐなうことをお許しいただきたい、と」(ワーレン)
「期待しよう。だが、そろそろ私自身が出てらちをあけたいのでな」(ラインハルト)

 

「わかるな? これは擬態だ」
「他の者にも、それぞれ艦隊をひきいて私のもとから離れてもらう」(ラインハルト)

 

「私が孤立したと見れば、ヤン・ウェンリーは洞窟から野原へ出てくるだろう」
「網をはって、そこを撃つのだ」(ラインハルト)

 

「すると、閣下はご自身が囮になり」
「直属の艦隊のみでヤン・ウェンリーの攻勢に対処なさるおつもりですか」(ミュラー)

 

「それはあまりに危険すぎます」
「どうか私だけでも、前衛としておそばに残ることをお許しください」(ミュラー)

 

「無用な心配だ」
「私が同数の兵力ではヤン・ウェンリーに勝てぬとでも思うか、ミュラー」(ラインハルト)

 

「その点を心配してはおりませんが」
「名将とはいえヤン・ウェンリーは一介の艦隊司令官にすぎません」(ミッターマイヤー)

 

「閣下おん自ら互角の立場で勝負をなさるにはおよびますまい」
「どうかご自重を願います」(ミッターマイヤー)

 

「なるほど、卿の弁舌は傾聴に値するが」
「情報によればヤン・ウェンリーはこのほど元帥に昇進したそうだ」(ラインハルト)

 

「私も帝国元帥であるからには、彼と同格といって大過あるまい」(ラインハルト)

 

「その点(対策)は考えている」
ひとつ卿らの不安をはらってやるとしようか」(ラインハルト)

 

「見るがいい」
「薄い紙でも、数十枚をかさねれば、ワインをすべて吸いとってしまう」(ラインハルト)

 

「私はヤン・ウェンリーの鋭鋒に対するに、この戦法をもってするつもりだ」
「彼の兵力は私の防御陣のすべてを突破することはかなわぬ」(ラインハルト)

 

「そして、彼の進撃がとまったとき、卿らは反転した艦隊をもって彼を包囲し」
「その兵力を殲滅し、私の前に彼をつれてくるのだ」(ラインハルト)

 

「生死は問わぬ」
「彼の姿を自由惑星同盟の為政者どもにしめし、彼らに城下の盟を誓わせよう」(ラインハルト)

 

「ヤン艦隊などに目もくれず、惑星ハイネセンを陥し、同盟政府を降伏させるのです」(ヒルダ)

 

「そして彼らをしてヤン・ウェンリーに無益な抗戦をやめるよう命令させれば」
「戦わずして征服の目的を達せられましょうに」(ヒルダ)

 

「そして私は純軍事的にはヤン・ウェンリーに対して敗者の位置に立つことになるな」(ラインハルト)

 

「いや、だめだ、フロイライン」
「私は誰に対しても負けるわけにはいかない」(ラインハルト)

 

「私に対する人望も信仰も、私が不敗であることに由来する」
「私は聖者の徳によって兵士や民衆の支持を受けているわけではないのだからな」(ラインハルト)

 

「ではお望みのままに」
「わたしも旗艦に乗っておともいたしますから」(ヒルダ)

 

「いや、フロイライン・マリーンドルフ、あなたは戦場の勇者ではない」
「また、それはあなたにとってごくわずかの不名誉にもならぬ」(ラインハルト)

 

「ガンダルヴァに残って吉報を待っていてもらおう」(ラインハルト)

 

「今度の戦いは先日のそれの比ではない」
「観戦の余裕はなかろう」(ラインハルト)

 

「あなたに万一のことでもあれば、ご父君のマリーンドルフ伯に申しわけのしようがない」(ラインハルト)

 

「エミールよ、それはちがう」
「名将というものは退くべき時機と逃げる方法とをわきまえた者にのみ与えられる呼称だ」(ラインハルト)

 

「進むことと闘うことしか知らぬ猛獣は、猟師のひきたて役にしかなれぬ」(ラインハルト)

 

「(私も)逃げる必要があれば逃げる」
「必要がなかっただけだ」(ラインハルト)

 

「エミール、私に学ぼうと思うな」
「私の模倣は誰にもできぬ。かえって有害になる」(ラインハルト)

 

「だが、ヤン・ウェンリーのような男に学べば」
すくなくとも愚将にはならずにすむだろう」(ラインハルト)

 

「私には他の生きかたはできないのだ」(ラインハルト)

 

「いや、もしかしたらできたのかもしれないが」
「子供のころにこの道を歩むようにさだまったのだ」(ラインハルト)

 

「私は奪われたものをとりかえすために歩みはじめた」
「だが…」(ラインハルト)

 

「もう寝なさい」
「子供には夢を見る時間が必要だ」(ラインハルト)

 

「お前が望んだことだ。望みどおりにしてやったからには」
「私の前に出てくるんだろうな、奇跡のヤン」(ラインハルト)

 

「全軍が反転してヤン・ウェンリーを包囲殲滅する、か…」
「みとごな戦略ではある」(ロイエンタール)

 

「だが、反転してこなかったときはどうなるのだ?」(ロイエンタール)

 

第七章 バーミリオン

「私はここにいても、何のお役にも立てんでしょう」
「伯爵閣下のためにも、皇帝陛下のおんためにも」(メルカッツ)

 

「むしろヤン提督に協力して」
「ローエングラム公を打倒することに最後の可能性を見出したいのです」(メルカッツ)

 

「閣下には、そのための行動の許可をいただきたいと思っているのですが…」(メルカッツ)

 

「これが帝国正統政府の全員です」
「どこまでも閣下のおともをすると申しております」(シュナイダー)

 

「何だっておっしゃっても、あれはルイ・マシュンゴ少尉ですわ」
「むろんユリアンがいるからでしょう、りっぱな護衛役ですわ」(フレデリカ)

 

「(ローエングラム公は)おそろしい男だな」
「(勝率は)五割もあるかな…?」(ヤン)

 

「勝たねばならない、か…」
「それにしても、えらいことだ。誰かかわってくれないものかな」(ヤン)

 

「お前にむけて閉ざすドアは私は持っていないよ」
「はいりなさい」(ヤン)

 

「やれやれ、ふつうは年少者が突進を主張して」
「年長者がそれを抑えるがわにまわるものだが、どうも逆になってるようだな」(ヤン)

 

「私がローエングラム公に負けると思うのかい?」(ヤン)
「そんな言いかたで口封じなさるのは卑怯です」(ユリアン)

 

「なあ、ユリアン、私は勝算のない戦いをしないことをモットーにしてきた」
「今度もけっしてそのモットーにそむいているわけではないんだ」(ヤン)

 

「勝算はおありなんですね?」(ユリアン)
「正直なところ、多くはない」(ヤン)

 

「これは唯一の機会なんだ」
「ローエングラム公は私のねらいを正確に読みとった上で、私に誘いをかけてきている」(ヤン)

 

「純粋に打算だけで考えれば、私の存在など無視して首都ハイネセンを衝いてもよいのだ」
「いや、そちらのほうがおそらく効率的だろう」(ヤン)

 

「なのに彼はそうせず、いわば私の非礼な挑戦を受けてくれたわけだ」(ヤン)

 

「その意気に感じて、こちらも堂々と正面から戦うということなのですか」(ユリアン)
「いや、私はそれほどロマンチストじゃないよ」(ヤン)

 

「私がいま考えているのは」
「ローエングラム公のロマンチシズムとプライドを利用していかに彼に勝つか」
「ただそれだけさ」(ヤン)

 

「じつはもっと楽をして勝ちたいんだが」
「これが今回は最大限、楽な道なんだからしかたない」(ヤン)

 

「とにかく無理をなさってはだめですよ」(ユリアン)
「大丈夫だよ。無理するのは私の趣味じゃない。心配してくれてありがとう」(ヤン)

 

「ハイネセンやイゼルローンでならともかく、こんなところで自由行動と言われてもな」(オリビエ・ポプラン)

 

「まあいい、おれは一夜の情熱のお相手をみつくろうことにするが」
「お前さんはどうする?」(ポプラン)

 

「部屋で寝ている」(コーネフ)

 

「くだらんことを堂々と言う奴だな」
「ジョークだったらくだらんし、事実だったらいっそうくだらん」(ポプラン)

 

「お前さんはジョークのほうが好きだからな」(コーネフ)
「ジョークだけでは生きられないが、ジョークなしでは生きたくないね、おれは」(ポプラン)

 

「お前さんは存在自体がジョークだろうが」(コーネフ)

 

「…このところ悪意の表現にみがきがかかったのとちがうか、コーネフさん」(ポプラン)
「いやいや、もてない男の嫉妬にすぎませんよ、気にしないでください、ポプランさん」(コーネフ)

 

「大尉…少佐…ミス・グリーンヒル……フレデリカ」(ヤン)
「はい。11年間の時間を、ようやくとりもどせたような気がしますわ」(フレデリカ)

 

「元帥がわたしのファースト・ネームを呼んでくださったのは」
「エル・ファシル星系で生命を救ってくださったとき以来です」(フレデリカ)

 

「憶えていらっしゃいます?」(フレデリカ)

 

「フレデリカ、この戦いが終わったら…」(ヤン)

 

「私は君より七歳も年上だし、何というか、その、生活人として欠けたところがあるし」
「その他にも欠点だらけだし」(ヤン)

 

「いろいろと顧みてもこんなことを申しこむ資格があるかどうか疑問だし」
「いかにも地位利用をしているみたいだし」(ヤン)

 

「目の前に戦闘をひかえてこんな場合にこんなことを申しこむのは不謹慎だろうし…」
「だけど言わなくて後悔するよりは言って後悔するほうがいい…」(ヤン)

 

「ああ、こまったものだな、さっきから自分のつごうばっかり言ってる」
「要するに…要するに、結婚してほしいんだ」(ヤン)

 

「ふたりの年金をあわせたら、老後も、食べるにはこまらないと思いますわ」
「それに…」(フレデリカ)

 

「わたしの両親は八歳ちがいでした。そのことをもっと早く申しあげておくべきでしたわ」
「そうしたら…」(フレデリカ)

 

「あの、どうかなさいましたか」(フレデリカ)
「…返事をまだしてもらってないんだが、どうなんだろう」(ヤン)

 

「え!? イエスです、閣下。イエスですわ、閣下、ええ、喜んで…」(フレデリカ)
「ありがとう。何と言うか…何と言ったらいいのか…何と言うべきか…」(ヤン)

 

「…そうか、とうとうヤンの奴、なけなしの勇気を総動員したか」
「まあ基本的にはめでたいことだ。ひとつ乾杯といこうか」(キャゼルヌ)

 

「そりゃヤンにはめでたいさ。何とあいつに嫁さんのなりてがあったんだからな」
「それも特上のな」(キャゼルヌ)

 

「グリーンヒル少佐にしても、まあ物好きの極致ながら好きな相手と結婚できるわけで」
「まことにめでたい」(キャゼルヌ)

 

「なにしろ、葬式はひとりでできるが結婚式はふたりでないとできないしなあ」(キャゼルヌ)

 

「それで、どうして、基本的に、なんて留保をつけるんです?」(ユリアン)
「それは、お前さんが乾杯の前に一杯あけてしまった、その理由さ」(キャゼルヌ)

 

「ミス・グリーンヒルのこと、あこがれていたんだろう、お前さん」(キャゼルヌ)

 

「ぼくは、おふたりを祝福してるんです!」
「ほんとうです、おふたりともぼくは大好きだし、これはもう当然の結果で…」(ユリアン)

 

「こいつはおせっかいと承知で言うんだがな、恋愛にかぎらず」
「人の心のメカニズムは数学じゃとけない。方程式などたちやしないんだ」(キャゼルヌ)

 

「お前さんの場合はあこがれですむ段階だから」
「まあ、きれいな想い出というやつで消化される」(キャゼルヌ)

 

「ところがもっと深刻になると、ひとつのものに対する愛情が」
「他のものへの愛情も尊敬も失わせてしまう」(キャゼルヌ)

 

「善悪の問題じゃない」
「どうしようもなく、そうなってしまうんだ」(キャゼルヌ)

 

「正直、そうなってはちょっとこまると思っていた」
「お前さんは頭もいい、性格もまずりっぱなものだ」(キャゼルヌ)

 

「だが、そんなものとかかわりなく、火ってやつは燃えあがるものでね」(キャゼルヌ)

 

「ふむ、まあ、わかるのはいいことさ、たとえ頭のなかだけでもな」(キャゼルヌ)

 

「しかし、あのふたりは結婚しても提督とか少佐とかよびあうのかな」(キャゼルヌ)

 

「いや、おれの家内も、結婚した当初は、おれをキャゼルヌ大尉と呼んでいたものさ」
「呼ばれるたびについ敬礼したくなったね」(キャゼルヌ)

 

「新婚生活の邪魔をする気はありませんよ」
「ええと、何と言ったかな、馬にけられて死ぬってやつ、ぼくはいやですからね」(ユリアン)

 

「すぐに戦闘が開始されるわけではない」
「いまは緊張をほぐしておいたほうが、かえってよいだろう」(ラインハルト)

 

「三時間ほど自由にすごさせてやれ」
「飲酒も許可する」(ラインハルト)

 

「ローエングラム公は、いまさら言うまでもないが比類ない天才だ」
「正面から同兵力で戦ったら、まず勝算はすくない」(ヤン)

 

「かもしれませんな」
「ですが、あなただってそう悪くない」(シェーンコップ)

 

「今年にはいってからも、帝国軍の名だたる用兵巧者をたてつづけに三人」
「手玉にとったではありませんか」(シェーンコップ)

 

「あれは運がよかったのさ」
「それだけではないが、とにかく運がよかった」(ヤン)

 

「勝てると思うかい、中将」(ヤン)
「あなたに、ほんとうに勝つ気があればね」(シェーンコップ)

 

「私は心の底から勝ちたいと思っているんだがね」(ヤン)

 

「いけませんな」
「ご自分で信じてもいらっしゃらないことを他人に信じさせようとなさっては」(シェーンコップ)

 

「あなたが勝つことだけを目的にする単純な職業軍人であるか」
「力量に対する自覚もなしに権力だけを欲する凡俗な野心家であるか」(シェーンコップ)

 

「どちらかなら私としても煽動する甲斐があるんですがね」(シェーンコップ)

 

「ついでに自分自身の正義を信じて疑わない信念と責任感の人であれば」
「いくらでもけしかけられる」(シェーンコップ)

 

「ところがあなたは、戦っている最中でさえ」
「自分の正義を全面的に信じてはいない人ですからな」(シェーンコップ)

 

「信念なんぞないくせに、戦えば必ず勝つ」
「唯心的な精神主義者から見れば許しがたい存在でしょうな、こまった人だ」(シェーンコップ)

 

「…私は最悪の民主政治でも最良の専制政治にまさると思っている」(ヤン)

 

「それにしても、最悪の専制は、破局の後に最善の民主政治を生むことがあるのに」
「最悪の民主政治が破局の後に最善の専制を生んだことは一度もないのは奇妙なことだ」(ヤン)

 

「それぞれの部署において対応せよ! 何のために中級指揮官がいるのか」
「何もかも私がしなくてはならないのか!?」(ラインハルト)

 

「そんなことは敵と相談してやってくれ」
「こちらには何の選択権もないんだから」(ヤン)

 

「たいした勇者だ。声は遠くにとどくのに、目は近くのものしか見えない」
「忌避すべき輩ですな」(オーベルシュタイン)

 

第八章 死闘

「何とまあ、まずい戦いをしたことか」(ヤン)

 

「もっと兵力があればなあ」
「あと1万隻、いや、5000隻、いやいや、3000隻でいい」
「そうすれば…」(ヤン)

 

「突進!」
「薄すぎる…すぐつぎの敵がくるぞ」(ヤン)

 

「また出てきやがった。いったい何重の防御網をしいているんだ?」
「大昔のペチコートじゃあるまし」(マリノ)

 

「まるでパイの皮をむくようだ」
「後から後から、つぎの防御陣があらわれる」(メルカッツ)

 

「際限がありませんな」(ムライ)

 

「閣下、ローエングラム公が何をしようとしているのか、わかったような気がします」(ユリアン・ミンツ)

 

「表現は正確にすることだ。ローエングラム公が何を考えているかということと」
「何をやっているかということ、この両者の間には一光年からの距離があるよ」(ヤン)

 

「はい、でもこの場合は一光日の距離もないと思います」(ユリアン)

 

「ローエングラム公がねらっているのは、わが軍に消耗をしいることです」
「それも物的にだけでなく心理的にもです」(ユリアン)

 

「ことさら、ひとつの陣が突破されるとつぎの陣があらわれるのは、その証拠です」(ユリアン)

 

「彼らは前方からやってくるのではありません」(ユリアン)

 

「それでしたらセンサーに捕捉されるはずですし」
「ローエングラム公が戦況を把握するのもむずかしくなります」(ユリアン)

 

「思うに、わが軍とローエングラム公との間には、本来、何者も存在しません」
「敵の兵力はむしろ、左右に薄いカードのように配置されていると思います」(ユリアン)

 

「つまり、彼らは左右からスライドして、わが軍の前方にあらわれてくるんです」
「これを何とかすれば、ローエングラム公の本営を直撃できるのではないでしょうか」(ユリアン)

 

「ウイスキー、ラム、ウォッカ、アップルジャック、各中隊、そろっているな」
「敵に飲まれるなよ。逆に飲みこんでやれ」(ポプラン)

 

「おれに対抗する気か?」
「半世紀ばかり早いと思うがね」(ポプラン)

 

「こいつは撃墜した数のうちにははいらんだろうな」
「コーネフとの撃墜競争に負けてしまうぞ」(ポプラン)

 

「おい、お前さんたちの隊長はどうした?」
「おれ以上に不景気な面を見てやりたいんだがな」(ポプラン)

 

「おれはいま、まわりくどい説明をゆっくり聞く気になれんのだ」
「お前さんたちの隊長はどうした」(ポプラン)

 

「何機がかりでやられた?」
「何機がかりでやられたと訊いているんだ」(ポプラン)

 

「イワン・コーネフが一騎打でやられるはずはない」
「帝国軍は何機がかりでコーネフを袋だたきにしたんだ?」(ポプラン)

 

「…なるほどな。コーネフの野郎をかたづけるのに、帝国軍は巡航艦が必要だったか」
「だとしたら、おれのときには戦艦が半ダースは必要だな」(ポプラン)

 

「ローエングラム公の戦術は」
「極端なまでの縦深陣によってわが軍の消耗をはかることにある」
「ミンツ中尉のしてきしたとおりだ」(ヤン)

 

「このまま前進するのは愚劣というものだが、停滞すれば時間をかせがれて」
「やはり彼の術中に陥ることになるだろう」(ヤン)

 

「したがって、敵の重厚きわまる布陣をいかにくずすか、唯一の勝機がそににある」(ヤン)

 

「故意に見せつけるような動きからすると、囮のように見えますが」
「案外、それこそが主力部隊かもしれませんな」(オーベルシュタイン)

 

「いずれにせよ、こちらが兵力を分けるのは愚策というものです」
「ご決断を、閣下」(オーベルシュタイン)

 

「全軍を左翼方面へ振りむけよ。囮と見せて実兵力を動かすのが敵の作戦と思われる」
「正面に立ちはだかって、奴らの鼻面をたたきのめせ」(ラインハルト)

 

「してやられたか…勝ちづつけて、勝ちつづけて、最後になって負けるのか」
「キルヒアイス、おれはここまでしかこれない男だったのか」(ラインハルト)

 

「閣下、すでにシャトルの用意ができております」
「どうか脱出のご決意を…」(シュトライト)

 

「出すぎたまねをするな。私は必要のないとき逃亡する戦法を誰からも学ばなかった」
「卑怯者が最後の勝者となった例があるか」(ラインハルト)

 

「あえて申しあげます」
「ここで戦場を離脱なさっても、敗北を意味するものではありません」(シュトライト)

 

「諸提督の艦隊を糾合なさり、あらためて復讐戦をいどめばよろしいではありませんか」(シュトライト)

 

「ここでヤン・ウェンリーに殺されるとしたら、私はそのていどの男だ」
「何が宇宙の覇者か」(ラインハルト)

 

「私に敗死した奴らが、天上や地獄で私を嘲笑することだろう」
「卿らは私を笑い者にしたいのか」(ラインハルト)

 

「一個艦隊の加勢がついたくらいで逃げ出すほど」
「うちの司令官は負けっぷりはよくないはずだがな」(アッテンボロー)

 

「『奇跡のヤン』のお手なみをまた拝見したいものだ」(アッテンボロー)

 

「こいつはとんだ権威主義におちいっていたかな」
「ミュラーを無視していたとは…」(ヤン)

 

「良将だな」
「よく判断し、よく戦い、よく主君を救う、か」(ヤン)

 

「吾に余剰兵力なし。そこで戦死せよ」
「言いたいことがあればいずれヴァルハラで聞く」(ラインハルト)

 

「では、他の艦に司令部をうつす」
「もっとも近い距離にいる戦艦は何か」(ミュラー)

 

「運がよいのか、悪いのか」(ミュラー)

 

第九章 急転

「司令官! お話があります」(シェーンコップ)
「君の言いたいことはわかっているつもりだ。だから何も言わないでくれ」(ヤン)

 

「さあ、政府の命令など無視して、全面攻撃を命令なさい」
「そうすれば、あなたはみっつのものを手に入れることができる」(シェーンコップ)

 

「ラインハルト・フォン・ローエングラム公の生命と、宇宙と、未来の歴史とをね」
「決心なさい!」(シェーンコップ)

 

「あなたはこのまま前進するだけで歴史の本道を歩むことになるんだ」(シェーンコップ)

 

「…うん、その策もあるね」
「だけど私のサイズにあった服じゃなさそうだ」(ヤン)

 

「ええ、『疾風ウォルフ』の快足をもってしても」
「ローエングラム公を救うのにまにあわないでしょう」(ヒルダ)

 

「じつは、わたしは一度ローエングラム公にこの提案をして拒否されました」
「戦って勝つことにこそ意味がある、と」(ヒルダ)

 

「それは正しい価値観だと思いますが、負ければすべてが無に帰してしまいます」(ヒルダ)

 

「はい、今回このまま事態が推移すれば」
「ローエングラム公は生涯最初で最後のご経験をなさることになるでしょう」(ヒルダ)

 

「いまひとつ問題があります」
「ヤン・ウェンリーが政府からの停戦命令にしたがうかどうか、ということです」(ミッターマイヤー)

 

「彼にしてみれば目前に勝利の果実がみのっているのに」
「なぜその実を捨てて停戦しなくてはならないのか」(ミッターマイヤー)

 

「それを無視したほうが、彼のえるものは、はるかに大きいのではありませんか」(ミッターマイヤー)

 

「それはわたしも考えました。ですけど」
「やはりヤン・ウェンリーへの停戦命令は有効であろうとの結論に達したのです」(ヒルダ)

 

「もし彼が武力と軍事的才能を背景に権力をにぎろうとするなら」
「これまでに幾度も機会がありました」(ヒルダ)

 

「でも、彼はその機会のすべてを見のがし、辺境守備の一軍人に甘んじてきたのです」(ヒルダ)

 

「おそらくヤン・ウェンリーは、権力より貴重なものがあるということを」
「理念でなく、皮膚で感じている人物なのではないかと思います」(ヒルダ)

 

「それは賞賛すべき気質とは思いますけど」
「卑劣を承知で、この際は利用するしかありません」(ヒルダ)

 

「わかりました。フロイライン・マリーンドルフ、あなたの策にしたがいましょう」
「どうも、他に策がなさそうだ」(ミッターマイヤー)

 

「ですが、私ひとりでというわけにはまいりません」
「他に誰か、僚友の同行を求めたいのです」(ミッターマイヤー)

 

「明敏なあなたには、おそらく理由がおわかりでしょう」(ミッターマイヤー)

 

「隣の星系にいて連絡もとりやすく、力量も信頼に値する男です」
「オスカー・フォン・ロイエンタールです」(ミッターマイヤー)

 

「ロイエンタール提督はどうお考えでしょう」
「もしかして、帝国軍どうしが相撃つことになるのではありませんか?」(カール・エドワルド・バイエルライン)

 

「…卿は意外に文学的想像力が豊かだな」(ミッターマイヤー)

 

「ロイエンタールはおれの友人だし」
「おれはものわかりの悪い男と10年も友人づきあいできるほど温和な人間ではない」(ミッターマイヤー)

 

「卿が想像の翼をはばたかせるのは自由だが」
「無用な誤解をまねくがごとき言動はつつしめよ」(ミッターマイヤー)

 

「つねに敵の奇襲にそなえるのは、武人として当然のことではないか」
「ここは敵国のただなかであって、故郷の小学校の裏庭ではないぞ」(バイエルライン)

 

「教師の目をぬすんで午睡を楽しんでいるようなわけにはいかんのだ」(バイエルライン)

 

「権力者というものは、一般市民の家が炎上したところで眉ひとつ動かしませんが」
「政府関係の建物が破壊されると血の気を失うものです」(ミッターマイヤー)

 

「まあ私も平民出身ですから…」(ミッターマイヤー)

 

「なるほど、『アルテミスの首飾り』があれば、この惑星だけはたしかに守れたでしょう」
「しかし他の星系はどうなります?」(ビュコック)

 

「この惑星、そしてあなたがたの権力さえ無事なら」
「他の星系がどれほど戦禍をこうむろうと」
「平然として戦争をつづけるというわけですかな」(ビュコック)

 

「要するに、同盟は命数を費いはたしたのです」(ビュコック)

 

「政治家は権力をもてあそび」
「軍人はアムリッツァに見られるように投機的な冒険にのめりこんだ」(ビュコック)

 

「民主主義を口にとなえながら、それを維持する努力をおこたった」
「いや、市民すら、政治を一部の政治業者にゆだね、それに参加しようとしなかった」(ビュコック)

 

「専制政治が倒れるのは君主と重臣の罪だが、民主主義が倒れるのは全市民の責任だ」(ビュコック)

 

「あなたを合法的に権力の座から追う機会は何度もあったのに」
「自らその権利と責任を放棄し」
「無能で腐敗した政治家に自分たち自身を売りわたしたのだ」(ビュコック)

 

「そう、演説すべきときはすでに終わった」
「もはや行動のときだ」(ビュコック)

 

「よろしいかな、トリューニヒト議長」
「わしは力ずくでもあなたをとめてみせますぞ」(ビュコック)

 

「フロイライン・マリーンドルフ、あなたの智謀は一個艦隊の武力にまさる」
「どうか今後もローエングラム公のためによき智謀を発揮していただきたいものです」(ミッターマイヤー)

 

「正直に申して、ここまでうまくいくとは思いませんでしたな」
「おみごとです」(ロイエンタール)

 

「まったく、同盟の権力者どもが自己の生命をものともせず」
「要求を拒否したらどうしようかと私も内心思っておりましたよ」(ミッターマイヤー)

 

「こんなことを言うのも妙なものですが、なさけない権力者どもですな」(ミッターマイヤー)

 

「一億人が一世紀間、努力をつづけて築きあげたものを」
「たったひとりが一日でこわしてしまうことができるのですわ」(ヒルダ)

 

「国が亡びるときとは、こういうものですかな」(ミッターマイヤー)

 

「ゴールデンバウム朝銀河帝国、自由惑星同盟、そしてフェザーン」(ロイエンタール)

 

「吾々は、宇宙を分割支配した三大勢力が」
「みっつながら滅亡するのを目のあたりにしたわけです」(ロイエンタール)

 

「後世の歴史家がさぞうらやましがるでしょう」
「トゥルナイゼン中将の表現を借りれば、ですが」(ロイエンタール)

 

「お気持ちはよくわかります」
「でも、そんなことをしたら、悪い前例が歴史に残ります」(ユリアン)

 

「軍司令官が自分自身の判断をよりどころにして政府の命令を無視することが許されるなら」
「民主政治はもっとも重要なこと」(ユリアン)

 

「国民の代表が軍事力をコントロールするという機能をはたせなくなります」
「ヤン提督に、そんな前例をつくれると思いますか」(ユリアン)

 

「そんなこと(民衆の虐殺)は、むろん許されません」(ユリアン)

 

「そんな非人道的な、軍人という以前に人間としての尊厳さを問われるようなときには」
「まず人間であらねばならないと思います」(ユリアン)

 

「そのときは政府の命令であってもそむかなくてはいけないでしょう」(ユリアン)

 

「でも、だからこそ」
「それ以外の場合には、民主国家の軍人としてまず行動しなくてはならないときには」
「政府の命令にしたがうべきだと思います」(ユリアン)

 

「でなければたとえ人道のために起ったとしても」
「恣意によるものだとそしられるでしょう」(ユリアン)

 

「ヤン提督には何よりもまず政治的野心がない」
「政治の才能もないかもしれない」(シェーンコップ)

 

「だが、ヨブ・トリューニヒトのように国家を私物化し、政治をアクセサリーにし」
「自分に期待した市民を裏切るようなまねは、ヤン提督にはできんだろう」(シェーンコップ)

 

「ヤン提督の能力は、歴史上の大政治家たちに比較するば、とるにたりないかもしれんが」
「この際、比較の対照はヨブ・トリューニヒトひとりでいいんだ」(シェーンコップ)

 

「銀河帝国は和平の代償として、ヤン提督の生命を要求するかもしれない」
「政府がそれに応じてヤン提督に死を命じたら、そのときはどうする?」(シェーンコップ)

 

「唯々諾々としてそれにしたがうのか」(シェーンコップ)
「そんなことはさせません、絶対に」(ユリアン)

 

「それは提督の問題です。これはぼくの問題です」
「ぼくはローエングラム公に屈伏した政府の命令になどしたがう気はありません」(ユリアン)

 

「ぼくがしたがうのはヤン提督だたおひとりの命令です」(ユリアン)

 

「提督が停戦を受けいれられたから、ぼくも受けいれねばならないんです」
「でもそれ以外のことはべつです」(ユリアン)

 

「ユリアン、失礼な言種だが、お前さんはおとなになったな」
「おれもお前さんに見習って受けいれるべきは受けいれるとしよう」(シェーンコップ)

 

「だが、どうしても譲れないところがある」
「それもまたお前さんの言うとおりだがな」(シェーンコップ)

 

「停戦はしかたありますまい」
「政府の決定ですから」(シュナイダー)

 

「ですが、もし、あなたがた自由惑星同盟が」
「自己保身のためにメルカッツ提督を犠牲の羊に供しようと考えているなら」(シュナイダー)

 

「私はそんなエゴイズムを甘受する気はありませんぞ」(シュナイダー)

 

「私には未来を予知することはできません」(ヤン)

 

「ですが、シュナイダー中佐が言ったように」
「同盟政府があなたを帝国軍にさしだして媚を売ることは充分に考えられます」(ヤン)

 

「私は同盟の人間で、政府の愚行につきあわねばなりません」
「ですが、あなたにそんな義務はない」(ヤン)

 

「沈みかけた船から退去していただかねば、私がこまります」(ヤン)

 

「ありがたいお話です、ヤン提督。ですが、あなたが残って責任をおとりになるのに」
「私だけが逃亡して身の安全をはかれるとお思いですか」(メルカッツ)

 

「そうおっしゃると思っていまいた。ですがメルカッツ提督」
「私はあなたに楽をしていただこうとは思ってないのです」(ヤン)

 

「もっと不埒なことを考えているので、後日のために、同盟軍の一部」
「それももっとも濃いエキスを保存していただこうと思っているのですよ」(ヤン)

 

「つまり、大昔のロビンフットの伝説でいえば」
「『動くシャーウッドの森』をひきいていただきたいのです」(ヤン)

 

「その話、乗った」
「自由惑星同盟の自由とは、自主独立ということだ」(ポプラン)

 

「帝国の属領になりさがった同盟に、おれは何の未練もない」
「自尊心のない女に魅力がないのと同じでね」(ポプラン)

 

「軍閥化の第一歩だな、国家や政府でなく個人に忠誠を誓うというのは」
「こまったものだ」(キャゼルヌ)

 

「私は残る。というより残らざるをえん。将官が大量に消えては帝国軍の疑惑を招くだろう」
「ヤン司令官とともに処置を待つさ」(キャゼルヌ)

 

「私は亡命してきたとき、あなたにすべての未来をゆだねた」
「そうしろと言われるなら、喜んであなたのご希望にそいましょう」(メルカッツ)

 

「他人がこんなことをしたら、あほうにちがいないと私も思うだろう」
「だけど、私は結局こんな生きかたしかできないんだ」(ヤン)

 

「かえって、私の好きな連中に迷惑をしいるとわかりきっているのになあ…」(ヤン)
「わたしにはわかりません。あなたのなさることが正しいのかどうか」(フレデリカ)

 

「でも、わたしにわかっていることがあります」
「あなたのなさることが、わたしはどうしようもなく好きだということです」(フレデリカ)

 

「…私は勝利をゆずられたというわけか」
なさけない話だな」(ラインハルト)

 

「私は本来、自分のものでない勝利をゆずってもらったのか」
まるで乞食のように…」(ラインハルト)

 

第十章 「皇帝ばんざい!」

「四万隻の敵艦にかこまれて紅茶を飲むのは、けっこう乙な気分だな」(ヤン)

 

「貴官が銀河系の私たちと同じがわに生まれておいでであれば」
私はあなたのもとへ用兵を学びにうかがったでしょう」(ミュラー)

 

そうならなかったことが残念です」(ミュラー)

 

「恐縮です。私はあなたにこそ、銀河系のこちらに生まれていただきたかった」
「そうであれば私はいまごろ家で昼寝をしていられたでしょうに」(ヤン)

 

「卿にはぜひ一度会ってみたい、と、長いこと思っていた」
「ようやく望みがかなったというわけだ」(ラインハルト)

 

「どうだ、私につかえないか」
「卿は元帥号を授与されたそうだが、私も卿に与えるに帝国元帥の称号をもってしよう」(ラインハルト)

 

「今日では、こちらのほうがより実質的なものであるはずだが」(ラインハルト)

 

「身にあまる光栄ですが、辞退させていただきます」
「私はおそらく閣下のお役に立てないと思いますので…」(ヤン)

 

「私が帝国に生を享けていれば、閣下のお誘いを受けずとも」
「すすんで閣下の麾下にはせ参じていたことでしょう」(ヤン)

 

「ですが、私は帝国人とはちがう水を飲んで育ちました」
「飲みなれぬ水を飲むと身体をこわすおそれがあると聞きます」(ヤン)

 

「卿の忠誠心は民主主義の上にのみある、と、そういうことなのだな」
「それほど民主主義とはよいものかな」(ラインハルト)

 

「銀河連邦の民主共和政は」
「ルドルフ・フォン・ゴールデンバウムという醜悪な奇形児を生んだではないか」(ラインハルト)

 

「それに卿の愛してやまぬ──ことと思うが──自由惑星同盟を私の手に売りわたしたのは」
「同盟の国民多数が自らの意志によって選出した元首だ」(ラインハルト)

 

「民主共和政とは」
「人民が自由意志によって自分たち自身の制度と精神をおとしめる政体のことか」(ラインハルト)

 

「失礼ですが、閣下のおっしゃりようは」
「火事の原因になるという理由で、火そのものを否定なさるもののように思われます」(ヤン)

 

「私は(専制政治を)否定できます」
「人民を害する権利は、人民自身にしかないからです」(ヤン)

 

「正義は絶対ではなく、ひとつでさえないというのだな」
「それが卿の信念というわけか」(ラインハルト)

 

「これは私がそう思っているだけで、あるいは宇宙には唯一無二の真理が存在し」
「それを解明する連立方程式があるのかもしれませんが」(ヤン)

 

「それにとどくほど私の手は長くないのです」(ヤン)

 

「私は真理など必要としなかった」
「自分の望むところのものを自由にする力だけが必要だった」(ラインハルト)

 

「逆にいえば、きらいな奴の命令をきかずにすむだけの力がな」(ラインハルト)

 

「私には友人がいた」
「その友人とふたりで、宇宙を手に入れることを誓約しあったとき」
「同時にこうも誓ったものだ」(ラインハルト)

 

「卑劣な大貴族どものまねはすまい」
「必ず陣頭に立って戦い、勝利をえよう、と…」(ラインハルト)

 

「私はその友人のために、いつでも犠牲になるつもりだった」
「だが、実際に、犠牲なったのは、いつも彼のほうだった」(ラインハルト)

 

「私はそれに甘えて、甘えきって」
「ついには彼の生命まで私のために失わせてしまった…」(ラインハルト)

 

「その友人がいま生きていたら」
「私は生きた卿ではなく、卿の死体と対面していたはずだ」(ラインハルト)

 

「ヤン提督、私は復讐者ではない。帝国の大貴族どもにとってはそうだったが」
「卿らに対しては互角の敵手であったと思っている」(ラインハルト)

 

「軍事の最高責任者たる統合作戦本部長を収監するのはやむをえないが」
「戦火がおさまって後、無用な血を流すのは私の好むところではない」(ラインハルト)

 

「ところで、卿を自由の身にしたら、卿は今後どうするか」(ラインハルト)
「退役します」(ヤン)

 

「同盟を形式の上でも完全に滅亡させ」
「直接支配下におくことは時期尚早との意見が多うございます」(オーベルシュタイン)

 

「私も賛成です」
「ですが、同盟の財政をさらに悪化させる処置はとっておくべきかと存じます」(オーベルシュタイン)

 

「何しろ、軍事支出が激減する分、財政は健全化するものですから」
「何も彼らをして第二のフェザーンたらしめる必要はありますまい」(オーベルシュタイン)

 

「首に縄をかけられて、爪先だけは床についているといったところだね」
「レベロも大変だろうな」(ホワン)

 

「私は地上で最大の権力をえたはずなのに、会いたくもない男と会わねばならないのか」(ラインハルト)

 

「フロイライン・マリーンドルフ、私は心の狭い男だ」
あなたに生命を救ってもらったとわかっているのに、いまは礼を言う気になれぬ」(ラインハルト)

 

「すこし時を貸してくれ」(ラインハルト)
「こちらこそ、出すぎたまねをいたしまして」(ヒルダ)

 

「どんなお叱りをうけても当然のところですのに」
「そんな風におっしゃられては赤面の至りです」(ヒルダ)

 

「ただ、ご寛容に甘えまして、お願いいたします」(ヒルダ)

 

「ミッターマイヤー、ロイエンタール、おふたかたの功績に対しましては」
「どうか充分に酬いてやってくださいますよう」(ヒルダ)

 

「ロイエンタールは猛禽だ。遠方に置いておいては危険きわまりない」
「あんな男は目のとどく場所で鎖につないでおくべきなのだ」(オーベルシュタイン)

 

「どこへでも行くがいい。滅びるべきときに滅びそこねたものは」
「国でも人でも、みじめに朽ちはてていくだけだ」(ラインハルト)

 

「ゴールデンバウム家再興の夢を見たいというのであれば」
「いつまでもベッドにもぐりこんで現実を見なければよい」(ラインハルト)

 

「そんな奴らに、なぜこちらが真剣につきあわねばならぬ」(ラインハルト)

 

銀河英雄伝説6巻

→6巻(第三章)
→6巻(第五章)
→6巻(第七章)

序章 地球衰亡の記録

「軍隊とは一国内における最強の暴力組織である」

 

「当時、地球には資源が欠けていた。そして地球人には想像力が欠けていた」
「とくに後者こそが、事態の悪化を招来した原因であることには、異論の余地がない」(歴史家)

 

「…この時期、精神面における地球の衰退は、すでに深いものとなっていた」
「公正さに背いても既得権を確保したい、と望み」(歴史家)

 

「反対者を抑圧することによってその確保を絶対のものとしようとする精神のどこに」
「向上と進歩への余地が残されているのであろうか」(歴史家)

 

第一章 キュンメル事件

「陛下にご結婚をすすめられたとか」
「どのようなお考えでかな」(オーベルシュタイン)

 

「なるほど、で、皇紀候補者の筆頭は、国務尚書のご令嬢ですかな」
「国務尚書は良識家でいらっしゃる」(オーベルシュタイン)

 

「軍務尚書は、お父さまとわたしとで」
「陛下をたぶらかして国政を壟断することがないよう警告したのでしょう」(ヒルダ)

 

「そう本心から心配しているかどうかはともかくとして、いちおうはね」(ヒルダ)

 

「人間の数だけ誤解の種があるというからな」(マリーンドルフ伯)

 

「予はゴールデンバウム王朝時代の先例をことごとく踏襲する気はない」(ラインハルト)

 

「用心すれば死なずにすむのか?」(ラインハルト)

 

病気になれば、その影武者が私のかわりに病原菌を引きうけてくれるとでもいうのか」
「二度とらちもないことを言うな」(ラインハルト)

 

「…皇帝にとって、一身の安全をはかるなどということは」
「冷笑の種でしかならぬようであった」(エルネスト・メックリンガー)

 

「それが自信であるのか、過信であるのか、あるいは哲学的な諦観であるのか」
「余人の理解のおよぶところではない…」(メックリンガー)

 

「ここで卿のために殺されるなら、予の命数もそれまでだ」
「惜しむべき何物もない」(ラインハルト)

 

「ケスラー、卿が生命をねらわれたとする」
犯人をとらえたとして、犯人が所持している凶器を卿は処罰するか?」(ラインハルト)

 

「ただちに地球教徒どもを尋問し、ことの真相を明らかにし、処罰を与えます」(ウルリッヒ・ケスラー)

 

お前とともに、強大な敵と戦うのは楽しかった。(ラインハルト)

 

だが、自分がもっとも強大な存在になってしまった今、
おれはときどき自分自身を撃ちくだいてしまいたくなる。(ラインハルト)

 

世のなかは、もっと強大な敵に満ちていてよいはずなのに。(ラインハルト)

 

第二章 ある年金生活者の肖像

「仕事をせずに金銭をもらうと思えば忸怩たるものがある」
「しかし、もはや人殺しをせずに金銭がもらえると考えれば」(ヤン)

 

「むしろ人間としての正しいありかたを回復しえたと言うべきで」
「あるいはけっこうめでたいことかもしれぬ」(ヤン)

 

「そいつはお前さんが悪い」
「現役のときに結婚しておけば、軍服姿ですんだのさ、おれみたいにな」(キャゼルヌ)

 

「お前さん、いまにしてみると、まだしも軍服のほうが似あっていたんだな」(キャゼルヌ)

 

「せっかく軍隊という牢獄から脱出しながら」
「結婚というべつの牢獄に志願してはいるとは、あなたも物ずきな人ですな」(シェーンコップ)

 

「独身生活10年でさとりえぬことが、一週間の結婚生活でさとれるものさ」
「よき哲学者の誕生を期待しよう」(キャゼルヌ)

 

「ですが、私が思うに、ヤン先輩の生涯最大の戦果は、今度の花嫁ですよ」
「これこそ奇蹟の名にふさわしい」(アッテンボロー)

 

「本来なら先輩なんぞのところへ降嫁する女性じゃありませんからな」(アッテンボロー)

 

「提督、よくこんな人たちをひきいて勝ってこられましたね」
「裏切者ぞろいじゃありませんか」(ユリアン)

 

「私の人格は、かくて陶冶されたのさ」(ヤン)

 

「任命の時点では、この人事は決して最悪のものではなかった」
ただ、結果として最悪になっただけである」(メックリンガー)

 

「そしてこの人事によって何びとも幸福をえることができなかった」(メックリンガー)

 

「同盟の奴らが私を害せると思うならやってみるがいい」
「私は不死身ではないが、私の死は同盟にとっても、滅亡を意味するのだ」(ヘルムート・レンネンカンプ)

 

「いいかげんにしてくれんかな」
「私みたいに平和で無害な人間にいやがらせをして何が楽しいんだか訊いてみたいものだよ」
「まったく」(ヤン)

 

「だから大いになまけていてくださいね」(フレデリカ)

 

「誰しも給料に対しては相応の忠誠心をしめさなくてはなりませんからね。私もそうでした」
「あれは紙でなくじつは鎖でできていて人をしばるのですよ」(ヤン)

 

「レンネンカンプという人は規律の信徒であるらしい」
「規律に反するものは善でも認めないし、規律どおりであれば悪でも肯定するんだろう」(ヤン)

 

「つまりレンネンカンプという人をお嫌いなんですね」(フレデリカ)
「嫌いじゃない、気にくわないだけだ」(ヤン)

 

「だからレンネンカンプの野郎を…」
「レンネンカンプ氏にご退場いただくのはいいが、問題は後任だ」(ヤン)

 

「無責任で物欲が強く」
「皇帝の目がとどかないのをいいことに小悪にふけるような佞臣タイプの人物が」
「こちらにとっては、いちばん利用しやすい」(ヤン)

 

「だが、皇帝ラインハルトはいままでのところ、そんな人物をひとりも登用していない」(ヤン)

 

「吾々は敵の堕落を歓迎し、それどころか促進すらしなくてはならない」
「情けない話じゃないか」(ヤン)

 

「政治とか軍事とかが悪魔の管轄に属することだとよくわかるよ」
「で、それを見て神は楽しむんだろうな」(ヤン)

 

「…この人選が失敗したことで、皇帝は責任を負わねばならないであろうか」
「私はそうは思わない」(メックリンガー)

 

「皇帝がレンネンカンプのこだわりに気づかなかったのは」
「皇帝自身がヤン・ウェンリーに対してこだわりを持っていなかったからである」(メックリンガー)

 

「皇帝はたしかに全能ではなかった」(メックリンガー)

 

「だが、天体望遠鏡が顕微鏡の機能を併有していなかったとして非難するがごときは」
「私の採らざるところである…」(メックリンガー)

 

「わたし、サンドイッチだけは得意なんです」
「いえ、それだけじゃないけど、他には、クレープとか、ハンバーガーとか…」(フレデリカ)

 

「でもおかげで盗難の心配はありませんわ」(オルタンス・キャゼルヌ)

 

「公費で家の見張りをしてくれるんですもの、ありがたいことじゃありませんか」
「お茶でも出してあげましょうか」(オルタンス)

 

「いいじゃありませんか」
「あのご夫婦にはね、小市民的家庭なんて舞台は狭すぎるんですよ」(オルタンス)

 

「だいたい地面に足をつけてるのが誤りなのね」
「まあ遠からず、いるべき場所へ飛びたっていくでしょう」(オルタンス)

 

「あら、わたしは予言しているんじゃありませんよ」
「わたしは知っているんですよ」(オルタンス)

 

「わたし、もっともっと料理をおぼえようと思うんです」(フレデリカ)

 

「まず肉料理をひととおりおぼえて、つぎに魚料理、それから卵料理」
「ご迷惑でしょうけどよろしくお願いします」(フレデリカ)

 

「りっぱな心がけよ、フレデリカさん、でもね」
「そう系統だてて分野別に修得しようなんて肩ひじはらないほがいいわ」(オルタンス)

 

「それに、並行して亭主をしつけるのもたいせつなことよ」
「甘やかすとつけあがりますからね」(オルタンス)

 

「冗談もほどほどにしておおきなさい」
「あなたにはあんまりユーモアのセンスがないんだから」(オルタンス)

 

「気がつかないうちに、笑ってすませる線をこえてしまうんですよ」
「度がすぎると嫌われますよ」(オルタンス)

 

「父さんは負けたんじゃないぞ」
「ここで引きさがって女房の顔をたてるのが家庭の平和をたもつもとだ」(キャゼルヌ)

 

「お前たちにも、いまにわかるさ」(キャゼルヌ)

 

「これ以上、働いてたまるか」
「私は頭を使った。身体はべつの誰かに使ってほしいね」(ヤン)

 

「信念とは、あやまちや愚行を正当化するための化粧であるにすぎない」
「化粧が厚いほど、その下の顔はみにくい」(ヤン)

 

「信念のために人を殺すのは、金銭のために人を殺すより下等なことである」(ヤン)

 

「なぜなら、金銭は万人に共通の価値を有するが」
「信念の価値は当人にしか通用しないからである」(ヤン)

 

「ほしいと思うのは、身体がそれを求めているからだ」
「だからほしいものをすなおに食べたり飲んだりするのが、いちばん健康にいいんだよ」(ヤン)

 

第三章 訪問者

「運命は年老いた魔女のように意地の悪い顔をしている」(ヤン)

 

圧倒的な武力とは、人間のもつ本能の最悪の部分と共鳴して、その濫用をうながす。

 

「ヤン提督はお心のうちをすべては語ってくださいませんが」
「あのまま隠者として一生を終わられるとは思えません」(ユリアン)

 

終わりたいとは考えているだろうな。(ユリアン)

 

「野に火を放つのに、わざわざ雨季を選んでする必要はない」
「いずれかならず乾季がくるのだから」(ヤン)

 

「(レンネンカンプは)優秀な、そう優秀といってよい軍人だ」
「上には忠実だし、部下には公平だ」(メルカッツ)

 

「だが、軍隊から一歩でも外にある風景が見えないかもしれない」(メルカッツ)

 

「これは予測というより願望になるが、何もおきてほしくないものだ」
「現在までことが多すぎたからな」(メルカッツ)

 

「それに、吾々としても準備すべきことが残っている」(メルカッツ)

 

「いたずらに帝国に反旗をひるがえしても」
「一日のあせりが二日の退歩につながることを思えば…」(メルカッツ)

 

「メモなんてとる必要はないんだ」
「忘れるということは、当人にとって重要でない、ということだ」(ヤン)

 

「世のなかには、いやでも憶えていることと、忘れてかまわないことしかない」
「だからメモなんていらない」(ヤン)

 

「ところで地球には女がいるかな」(ポプラン)

 

「おっと、おれが言っているのは生物学上の女のことじゃない」
成熟した、男の価値のわかる、いい女のことだ」(ポプラン)

 

「こいつは、第二のオリビエ・ポプランは無理でも」
「第二のイワン・コーネフにはなれるかもしれん」(ポプラン)

 

「なかなか美形だろう。言っておくが、おれは手を出していないぞ」
「15歳ではまだおれの守備範囲外だ」(ポプラン)

 

「酒と女はな、うまくなるには醸成期間が必要なんだ」
「カリンももう二年もすればな」(ポプラン)

 

「カーテローゼの愛称さ」
「どうだ、生意気ざかりの年齢どうし、話があうと思うんだが」(ポプラン)

 

「問題にさせるんだ。時間もつくるんだよ」
「お前さん、せっかくいい顔に生まれついたのに、資源を死蔵することはない」(ポプラン)

 

「ヤン提督みたく、ぼけっとすわっていたら美女がむこうから近づいてくるなんて例は」
「100万にひとつもありはせんのだからな」(ポプラン)

 

「私の役割は、これらの戦力を維持し、温存して後日にそなえることだ」(メルカッツ)

 

「後日の太陽は、私ではなく」
「もっと若くて過去の陰翳を引きずっていない人物のために昇るだろう」(メルカッツ)

 

「パターンこそ永遠の真理なんだ」
「知らんのか」(ポプラン)

 

「それにしても…おれが思うに、地球教とやら称する連中が愛しているのは」
「地球という惑星それ自体ではないな」(ポプラン)

 

「奴らは地球をだしにして、自分たちの先祖が持っていた特権を回復したいだけだ」(ポプラン)

 

「ほんとうに地球そのものを愛していたなら」
「戦争や権力闘争に巻きこまれるようなことをするものか」(ポプラン)

 

第四章 過去、現在、未来

「迂遠なことを言うな。地球教とやらの逆意はすでに明らかであるのに」
「いまさら何を調査し内偵する必要があるか」(ラインハルト)

 

「奴らの信仰する神以外には何の権威も認めぬし、それどころか奴らにとっての権威を」
「暴力をもって他者に押しつけることをためらわぬ、という結論になる」(ラインハルト)

 

「あらたな秩序と共存することもかなわぬというのであれば」
「奴らの信仰に殉じさせてやるのが、最大の慈悲というものだろう」(ラインハルト)

 

「陛下のお言葉どおり、地球教徒との共存は望めません」(ビッテンフェルト)

 

「この際、叛徒には相応の報いをくれて」
「新王朝の威光と意思を内外にしめすべきでありましょう」(ビッテンフェルト)

 

「どうかその任は臣におまかせいただきたく存じます」(ビッテンフェルト)

 

「辺境の一惑星を威圧するのに、黒色槍騎兵を動かしたとあっては」
「帝国軍が鼎の軽重をとわれそうだな」(ラインハルト)

 

「今回はひかえよ、ビッテンフェルト」(ラインハルト)

 

「オーベルシュタイン家が断絶したところで、世人は嘆きますまい」
「ですが、ローエングラム王家はさにあらず」(オーベルシュタイン)

 

「王朝が公正と安定をもたらすかぎりにおいては、人民はその存続する保障を血統に求め」
「陛下のご成婚と皇嗣のご誕生を祝福いたしましょう」(オーベルシュタイン)

 

「だが結婚すれば子が生まれる」
「皇太子とは忌むべきナンバー2とは言えないかな」(ラインハルト)

 

「それはよろしいのです」
「王朝の存続を制度的にも保障するものですから」(オーベルシュタイン)

 

「烏合の衆は、結束のために英雄を必要とする」
同盟の過激派、原理派がヤン・ウェンリーを偶像視するのは無理からぬことだ」(オーベルシュタイン)

 

「ヨブ・トリューニヒトという男は、稀代の商人として名を残すだろうよ」(ロイエンタール)

 

「そうだな、売る点にかけては奴は優秀な商人だ」
「だが買うほうはだめだな」(ミッターマイヤー)

 

「奴が買うのは軽蔑と警戒心だ。誰が奴を尊敬する?」
「奴は自分自身の人格を切り売りしているだけだ」(ミッターマイヤー)

 

「奴は生きるに際して他人の尊敬や愛情など必要とせぬよ」
「そして、そういう輩ほど、根の張りようは深く、茎は太い」(ロイエンタール)

 

「寄生木とはそういうものだろう」(ロイエンタール)

 

「昔は知らなかった。いまは知っている」
「そうだ。おれが教えた」(ロイエンタール)

 

「無益なこととわかるまでは、おれも正常だ。その後がどうもゆがんでいる」
「ゆがんでいる。わかっているのだ…」(ロイエンタール)

 

「そんな生活のどこに正義がある?」
「貴族とは制度化された盗賊のことだ」(ロイエンタール)

 

「この世でもっとも醜悪で卑劣なことはな」
「実力も才能もないくせに相続によって政治権力を手にすることだ」(ロイエンタール)

 

「それにくらべれば、簒奪は一万倍もましな行為だ」(ロイエンタール)

 

「すくなくとも、権力を手に入れるための努力はしているし」
「本来、それが自分のものでないことも知っているのだからな」(ロイエンタール)

 

「皇帝はおれより9歳も若いのに、自らの力で全宇宙を手に入れた」(ロイエンタール)

 

「おれはゴールデンバウムの皇室や大貴族どもに反感をいだきながら」
「王朝それ自体をくつがえそうというまでの気概を持つことはできなかった」(ロイエンタール)

 

「あの方におれがおよばぬ所以だ」(ロイエンタール)

 

第五章 混乱、錯乱、惑乱

「噂が事実をつくったのだ。あるいは、不特定多数の無意識の集合体が」
「時の流れに干渉したと言うべきであろうか」(メックリンガー)

 

「同盟内の反帝国強硬派を激発させるためには」
「まずヤン・ウェンリーが無実で逮捕されることが必要なのだ」(オーベルシュタイン)

 

「それでこそ反帝国派を怒らせ、暴走させることができる」
「多少の強引さも、ときにはよかろう」(オーベルシュタイン)

 

「気になるなら卿から直接、陛下にうかがってみればよい」
「ヤン・ウェンリーを抹殺したいと思うのですが、陛下のお考えはいかがでしょうか、と」(オーベルシュタイン)

 

「犬には犬の餌、猫には猫の餌が必要なものだ」
「道を切りひらく者とそれを舗装する者とが同一人であらねばならぬこともなかろう」(オーベルシュタイン)

 

「現在でも、その考えは変わらぬ」(オーベルシュタイン)

 

「だが、手をつかねて傍観していれば、目的の上からは退歩するとあれば」
「次善として積極策をとらざるをえんではないか」(オーベルシュタイン)

 

「レンネンカンプは生きていても元帥にはなれん男だ」
「だが殉職すれば元帥に特進できよう」(オーベルシュタイン)

 

「何も生きてあることだけが国家に報いる途ではない」(オーベルシュタイン)

 

「世のなかには達眼の士がいるものだ」
「ちゃんとわかっている」(ヤン)

 

「そのとおり、私はなまけ心で寝ているのじゃなくて」
「人類の未来に思いをはせているのだ」(ヤン)

 

「戦争の90パーセントまでは、後世の人々があきれるような愚かな理由でおこった」
「残る10パーセントは、当時の人々でさえあきれるような、より愚かな理由でおこった」(ヤン)

 

「心配しなくてもいいよ」
「何の罪やら見当もつかないが、まさか裁判なしで死刑にもしないだろう」(ヤン)

 

「ここは民主主義国家だ」
「すくなくとも政治家たちはそう言っている」(ヤン)

 

「そういつも、いつまでも」
「おとなしく言いなりになっていると思ったら、大まちがいよ」(フレデリカ)

 

「一方的になぐりつづけていても、いつか手が痛くなるわ」
「見ていてごらんなさい」(フレデリカ)

 

「ほう、もしかして私は何らの証拠もなく、風聞によって逮捕されたのですか」(ヤン)

 

「退役してからのほうが重要人物あつかいでね」
「名誉なことだ」(アッテンボロー)

 

「この罠の悪辣さは」
「罠と知りつつしたがうより他に対応のしようがないという点にあると見るべきだろう」(シェーンコップ)

 

「専制政治だの民主政治だの、着ている服はちがっても、権力者の本質は変わらない」
「戦争をはじめた責任には口をぬぐって、戦争を終わらせた功績ばかり振りかざす輩だ」(シェーンコップ)

 

「自分たち以外の人間を犠牲にしておいて、そら涙を流してみせるのが」
「奴らのもっとも得意な演技なんだからな」(シェーンコップ)

 

「あの連中は、吾々が政府に対する造反の相談をしているのではないか」
「と、うたがっている」(シェーンコップ)

 

「というより、期待している」
「だとしたら、期待に応えてやるのが俳優の義務だろうよ」(シェーンコップ)

 

「おれは独身だし、後顧の憂いはない」
「身軽なものさ」(アッテンボロー)

 

「その当時、つまり19、20歳のころの乱行ぶりを思い出すと…」(シェーンコップ)

 

「いやいや、その当時に帰りたくなる」
「あのころは女という存在がじつに新鮮に見えた」(シェーンコップ)

 

「おれは命令するのは好きだが、命令されるのはきらいでね」(シェーンコップ)

 

「法にしたがうのは市民として当然のことだ」(ヤン)

 

「だが、国家が自らさだめた法に背いて個人の権利を侵そうとしたとき」
「それに盲従するのは市民としてはむしろ罪悪だ」(ヤン)

 

「なぜなら民主国家の市民には、国家の侵す犯罪や誤謬に対して異議を申したて」
「批判し、抵抗する権利と義務があるからだよ」(ヤン)

 

「自分自身の正当な権利が侵害されたときにすら闘いえない者が」
「他人の権利のために闘いうるはずがない」(ヤン)

 

第六章 聖地

「警戒が厳重だとすれば、侵入をこころみたとき、相応のリアクションがあるでしょう」
そこで何かきっかけがつかめるかもしれない」(ユリアン)

 

「地球は逃げはせぬし、奴らを地球の外へ逃しもせぬ」
「衛星軌道に達するまでに、よい思案をねっておけ」(ワーレン)

 

「秘蔵の410年ものの白ワインを商品に出すぞ」(ワーレン)

 

「私は卿の哲学を知りたいのではない。卿に暗殺を指令した者の名を知りたい」
「いずれ地球教の関係者だろうが、この艦内にいるのか?」(ワーレン)

 

「どうせしゃべるまい」
「狂信者とはそういうものだ」(ワーレン)

 

「だめだめ、半世紀前は女でした、という骨董品ばかりさ」(ポプラン)

 

「おれもな、女だけで苦労したわけじゃないからな」
青春の苦悩ってやつの、おれは歩く博物館なんだぜ」(ポプラン)

 

「サイオキシン○薬のケチャップづけを食わされたからだよ、行商人野郎!」(ポプラン)

 

「おれもやめたい」
「だけど人生はままならぬものでな」(ポプラン)

 

「おとなになるってことは、やりたいこととやらねばならぬことを区別することさ」
「ではごきげんよう」(ポプラン)

 

「どうも男の服はぬがせにくい」
「第一、ぬがせ甲斐がない」(ポプラン)

 

「ものごとって奴は、最初のうちはなかなかうまく運ばないものでな…」
「だいたいは、もっとひどくなる」(ポプラン)

 

第七章 コンバット・プレイ

「第一に騒ぎを大きくすること」
「第二に、大きくした騒ぎを制御すること」(アッテンボロー)

 

「おれたちが迫ってもイエスと言わんかもしれんが」
「奥さんがすすめれば、おのずと異なるさ」(シェーンコップ)

 

「第一、ノーと言って獄中で死んだところで、誰ひとり救われん」(シェーンコップ)

 

「花園は盗賊に荒らされるものだし、美しい花は独占してよいものではないさ」(シェーンコップ)

 

「あら、ありがとうございます」
「でも、わたしは独占されたいと思ってるんですけど」(フレデリカ)

 

「あの人の軍服です」
「結局、あの人にはどんな礼服よりもこれが似あうと思って…」(フレデリカ)

 

「おれも独身主義を放棄しようかな」(アッテンボロー)

 

「一個人の人権を守るために国家の総力をあげるのが民主国というものでしょう」(シェーンコップ)

 

「まして、ヤン・ウェンリーが」
「あなたたちのために貢献してきた過去を思ってもごらんなさい」(シェーンコップ)

 

「なるほど、あなたは良心的でいられる範囲では良心的な政治家らしい」(シェーンコップ)

 

「だが、結局のところ、あなたたち権力者はいつでも切り捨てるがわに立つ」
「手足を切りとるのは、たしかに痛いでしょう」(シェーンコップ)

 

「ですが、切り捨てられる手足から見れば」
「結局のところどんな涙も自己陶酔にすぎませんよ」(シェーンコップ)

 

「自分は国のため私情を殺して筋をとおした、自分は何とかわいそうで」
「しかもりっぱな男なんだ、というわけですな」(シェーンコップ)

 

「『泣いて馬謖を斬る』か、ふん。自分が犠牲にならずにすむなら」
「いくらだってうれし涙が出ようってものでしょうな」(シェーンコップ)

 

「ヤン・ウェンリーという男には悲劇の英雄などという役柄は似あわない」(シェーンコップ)

 

「観客としてはシナリオの変更を要求したいわけですよ」
「場合によっては力ずくでね」(シェーンコップ)

 

「あの当時、対立しあうどの陣営がもっとも事態を把握しえていたか」
「自分にはわからない」(アッテンボロー)

 

「ハイネセン全土が沸騰し、たちこめる蒸気のなかで」
「何も見えぬままに人々は走りまわり、無意味な衝突をくりかえしていたようだ」(アッテンボロー)

 

「生命のさしいれ、ありがとう」
「ああ、ああ、せっかくの美人が台なしだ」
「ほら、泣きやんで…」(ヤン)

 

「超過勤務、ご苦労さま」(ヤン)

 

「長生きするにしても、おもしろい人生でなくては意味がありませんからな」
「あなたをお助けするゆえんです」(シェーンコップ)

 

「吾々は薔薇の騎士連隊(ローゼンリッター)だ」
「それと知ってなお闘うというのなら、遺言書をしたためて来い」(ライナー・ブルームハルト)

 

「すぐに役立つようにしてやる」
「何ならきさらま自身の血で、吾々が代筆してやるぞ」(ブルームハルト)

 

「あなたのように、つねに命令を受け法にしばられてきた人間が」
「そういった桎梏を逃れたとき、どう考え、どう行動するか」(シェーンコップ)

 

「私には大いに興味がありましてね」
「お気にめしませんか?」(シェーンコップ)

 

「君は以前から私をけしかけてきたな。権力を私の手でつかむべきだ、と」
「もし権力をにぎったとして、その後私の人格が一変したらどうする?」(ヤン)

 

「それで変わるとしたら、あなたもそれまでの人だ」(シェーンコップ)

 

「歴史はくりかえし、単なる歴史年表上の人物がひとり」
「後世の中学生にとって頭痛の種にくわわるだけでしょうよ」(シェーンコップ)

 

「まあ、とやかく味を云々する前に、食べてみたらどうです」(シェーンコップ)

 

「ヤン提督、あなたにはすくなくともあなたを救出するために戦った連中に応える責任があります」(アッテンボロー)

 

「もはや同盟政府に何の借りもないでしょう」
「自分の財布で勝負に出るときですよ」(アッテンボロー)

 

「君たちは楽観的すぎる」
「帝国と同盟を相手にして生き残れると思っているところが度しがたい」(ヤン)

 

「明日は葬式自動車に乗っているかもしれんのに」(ヤン)

 

「まあそれもいいでしょう」
「不老不死でいられるわけではないし、死ぬのだったら納得して死にたい」(シェーンコップ)

 

「帝国の奴隷のそのまた奴隷として死ぬより、反逆者ヤン提督の幕僚として死ぬほうを」
「すくなくとも私の子孫は喜ぶでしょうよ」(シェーンコップ)

 

「こいつはピクニックだったのか」(アッテンボロー)
「ちがうね、ピクニックってやつは、もっとまじめにやるものだ」(シェーンコップ)

 

「要するに、自由惑星同盟政府が存在するかぎり」
「私や私の友人たちに安寧の日はおとずれないというわけですか」(ヤン)

 

「だとすると、私もエゴイズムの使徒になるしかありませんね」
「必要とあれば私の属していた国家を、二束三文で帝国に売りわたすかもしれませんよ」(ヤン)

 

「けっこうな論理ですな」
「国家が個人を売るのはよいが、その逆は許されないとおっしゃる」(シェーンコップ)

 

「無用な心配をするな。おれは150歳まで生きる予定なんだ。あと115年ある」
「こんな場所で死にはせんよ」(シェーンコップ)

 

「さっさと行け!」
「砂時計の砂粒は、この際ダイヤモンドより貴重だ」(シェーンコップ)

 

「死人にメイクアップするなんて最初で最後の経験でしょうね」
「もうすこし美男子だと、化粧のさせがいがあるのだけど」(フレデリカ)

 

「わたし、後悔もしてないし、あなたに対して怒ってもいません」
「結婚してからたった二ヶ月たらずだったけど、それは楽しかったし」(フレデリカ)

 

「これからもあなたといるかぎり、退屈な人生を送らないですみそうですもの」
「どうか期待させてくださいね、あなた」(フレデリカ)

 

「エンターテイメントとしての夫婦生活か」(ヤン)

 

不本意な死にかたをしいられることと、不本意な生きかたを強制されることと、
どちらがまだしも幸福の支配領域に近いと言えるのだろうか…。(ヤン)

 

第八章 休暇は終りぬ

「人徳? ふん、奴はまだ修行中さ」
「恋愛の10や20やらなくて、一人前といえるものか」(ポプラン)

 

「謀略によって国が立つか!」
「信義によってこそ国が立つ」(ミッターマイヤー)

 

「すくなくとも、そう志向するのでなければ」
「何をもって兵士や民衆に新王朝の存立する意義を説くのか」(ミッターマイヤー)

 

「敵ながらヤン・ウェンリーは名将と呼ぶに値する」(ミッターマイヤー)

 

「それを礼節をもって遇せず、密告と謀略によって除くなど」
「後世にどう弁解するつもりだ」(ミッターマイヤー)

 

「リヒテンラーデ公の粛清は互角の闘争だった」
「一歩遅れていれば、処刑場の羊となっていたのは吾々のほうだ」(ロイエンタール)

 

「先手を打っただけのこと、恥じる必要はない」
「だが今度の件はどうか」(ロイエンタール)

 

「退役して平凡な市民生活を送っている一軍人を」
「無実の罪によっておとしいれようとしているではないか」(ロイエンタール)

 

「保身をはかる同盟の恥知らずどもの犯罪に、なぜ吾々が与せねばならぬ?」
「軍務尚書はいかなる哲学のもとに、かかる醜行を肯定なさるのか」(ロイエンタール)

 

「ヤン・ウェンリーと同盟政府との仲が修復しがたいとすれば」
「かえって彼と吾々帝国軍との間に、よしみが結ばれるかもしれぬ」(メックリンガー)

 

「彼に、いたずらな軍事行動に出ぬよう呼びかけておいて」
「早急に、調査官を派遣し、解明にあたるべきだろう」(メックリンガー)

 

「この事実を犯罪と言わず、罰せずして、帝国と陛下の威信がたもたれようか」(オーベルシュタイン)

 

「だまれ! 下種!」(ロイエンタール)

 

「きさまは司令長官の正論を封じるに、自らの見識ではなく」
「皇帝陛下の御名をもってしようというのか」(ロイエンタール)

 

「虎の威を借るやせ狐めが!」(ロイエンタール)

 

「そもそもきさはま内務省の一局長にすぎぬ身でありながら、何のゆえをもって」
「上級大将以上の者しか出席を許されぬこの会議にでかい面をならべているのだ」(ロイエンタール)

 

「あまつさえ、元帥どうしの討論に割りこむとは、増長もきわまる」
「いますぐ出て行け!」(ロイエンタール)

 

「それとも自分の足で出ていくのはいやか」(ロイエンタール)

 

「嫌われるのはかまわぬが、足を引っぱられてはこまる」(オーベルシュタイン)

 

「ロイエンタールは建国の功臣、皇帝陛下の信頼も、レンネンカンプとは比較にならぬ」(オーベルシュタイン)

 

「証拠なしに他者をおとしめるの愚は」
「レンネンカンプという反面教師によって卿も学んだであろう」(オーベルシュタイン)

 

「レンネンカンプを登用したのは予の誤りであった」
「わずか100日も地位をまっとうすることがかなわぬとはな」(ラインハルト)

 

「予が鎖を持ち、それにつながれていてこそ能力を発揮しうる者もいるということか…」(ラインハルト)

 

「それとも、おれは内心で期待していたのだろうか」
「レンネンカンプが失敗することを…」(ラインハルト)

 

「この方はあまりに早く頂点をきわめられたかもしれない」(ヒルダ)

 

「いや、それとも、五世紀昔に生まれて」
「ルドルフ大帝のように巨大で全否定の対象となりうるような敵手と出会えばよかったのかもしれない…」(ヒルダ)

 

「それにしても、陛下の誤りは」
「レンネンカンプではなくオーベルシュタインを用いたことだ」(ミッターマイヤー)

 

「奴め、自分では忠臣のつもりかもしれんが、このままだと」
「奴と波長のあわぬ人材をつぎつぎと排除して、ついには王朝の土台にひびを入れるぞ」(ミッターマイヤー)

 

「そうだな、おれもそう思う。ことに気になるのは」
「皇帝陛下とオーベルシュタインの間に、このごろ亀裂が見られることだ」(ロイエンタール)

 

「もし奴と波長が合わなくなっったときどうなるか…」(ロイエンタール)

 

「おれがいなくて、ヤンの奴がやっていけるはずがないだろう」(キャゼルヌ)

 

「彼の言うとおりだ」
「私には民主共和政の旗手たる資格などありはせん」(メルカッツ)

 

「なにしろ私はつい二、三年前まで専制国家の軍人として」
「共和国の軍隊と戦っていたのだからな」(メルカッツ)

 

「これがいまにして民主共和政を自らの旗幟にしては、後世から言われるだろう」
「何と節操のない男か、と」(メルカッツ)

 

「後世の評価はおくとしても、実際、ヤン提督でなくては民主共和派の将兵を糾合できぬ」
「それゆえ同盟政府も味方ながら彼を恐れるのだろうな…」(メルカッツ)

 

「ヤン・ウェンリーという名優には、自己の限界をきわめてもらいたい」
「どうも本人に名優の自覚がなさそうで、舞台に追いあげるほうがひと苦労だがな」(シェーンコップ)

 

「おれは30にもならぬ青二才で閣下などと呼ばれるようになったのです」
「ヤン提督の麾下にいたおかげ、あるいはそのせいです」(アッテンボロー)

 

「責任はとっていただかないとね」(アッテンボロー)

 

「反乱部隊などとごたいそうに呼ばれているが」
「おれの見るところ、家出息子の集団にすぎんね」(キャゼルヌ)

 

「二ヶ月、たった二ヶ月!」
「予定どおりならあと五年は働かないで生活できるはずだったのになあ…」(ヤン)

 

銀河英雄伝説7巻

→7巻(第三章)
→7巻(第五章)
→7巻(第七章)
→7巻(第九章)

第一章 黄金獅子旗の下に

「人材を集めるのは重要だが、その人物が信頼に値するかどうか」
「見きわめる責任を吾々はおうているのではないか」(オーベルシュタイン)

 

「陛下のもとにつどう者は、ことごとく卿の審問を受けねばならぬというわけか」(ロイエンタール)

 

「けっこうなことだが、審問者自身が公正にして陛下に忠実であることを」
「誰が確認するのか」(ロイエンタール)

 

「帝国の兵権は、制度としてはともかく、実質は卿ら両名の手中にある」
「私が公正を欠くと見られるときには、卿らには私を排除する手段があろう」(オーベルシュタイン)

 

「軍務尚書は何やら誤解しておられる」
「兵権の所在についてだ」(ロイエンタール)

 

「われらがローエングラム王朝においては」
「兵権はすべて皇帝ラインハルト陛下の掌握したもうところ」(ロイエンタール)

 

「私にしてもミッターマイヤー司令長官にしても、陛下の単なる代理人にすぎぬ」(ロイエンタール)

 

「これは意外なことだ。卿の論法を用いるなら、私が陛下に対して公正であるか否かを」
「卿が気に病む必要など最初からあるまい」(オーベルシュタイン)

 

「私の公正さは、ただ陛下のみが判断なさることではないか」(オーベルシュタイン)

 

「軍務尚書と舌戦をまじえるのはおれの役だと思っていたが」
「このところ卿に出番をとられつづけだな」(ミッターマイヤー)

 

「皮肉を言わんでくれ、ミッターマイヤー」
「おとなげなかったと自分でもわかっている」(ロイエンタール)

 

「皇帝は自らの生命と生涯によって自らを表現した」
「彼は詩人であった。言葉を必要としない詩人であったのだ」(メックリンガー)

 

「去年のワインのまずさをなげくより、今年植える葡萄の種について研究しよう」
「そのほうが効率的だ」(ローエングラム)

 

「予はむしろこの際、ヤン・ウェンリーと同盟政府との間隙を利用し」
「あの異才を予の麾下にまねきたいと思っている。軍務尚書の考えはどうか」(ラインハルト)

 

「それもよろしいでしょう」
「ただ、その上は、ヤン・ウェンリーをして自由惑星同盟の命脈をたたせること」
「これが条件となるやに思えますが」(オーベルシュタイン)

 

「かりにヤン・ウェンリーが陛下の御前にひざを屈したとして」
「どのような地位職責をもって彼におむくいになりますか」(オーベルシュタイン)

 

「むくいること過小であれば彼が不満でしょうし」
「過大であれば他者の不安をよびましょう」(オーベルシュタイン)

 

「それにしても、ヤン・ウェンリーひとりを容れることもできない民主政治とは」
なんと偏狭なものではないか」(ラインハルト)

 

「陛下、問題は制度よりむしろそれを運用する人間にありましょう」(ミッターマイヤー)

 

「陛下の英才がゴールデンバウム王朝の容れるところとならなかった」
「つい先日の例をお考えください」(ミッターマイヤー)

 

「帝国全軍が出撃して、一刀に乱麻をたってやってもよいが」
「せっかく共和主義者どもが踊り狂っているのだ」(ラインハルト)

 

「いましばらく、奴らが踊り疲れるまで高みの見物を決めこんでもよかろう」(ラインハルト)

 

…どうか、皇帝よ、私に反抗の隙をあたえないでいただきたい。(ロイエンタール)

 

私はあなたを歴史の舵手に選び、あなたを擁立し、あなたの軍旗を誇らかにあおいできた。
そのことを後悔させないでほしい。(ロイエンタール)

 

あなたはつねに私の前をあゆみ、しかも光輝にみちているべきだ。
消極や安定などがあなたの光源になりえるのか。(ロイエンタール)

 

比類なき覇気と行動力こそあなたの真価であるものを…。(ロイエンタール)

 

「次官の職責は尚書につぐものだ」(ラインハルト)

 

「卿の才幹がシルヴァーベルヒをしのぐものであれば」
「彼ではなく卿を尚書に任じたであろう」(ラインハルト)

 

「卿は恭謙にして自分自身を知る」
「それでよし」(ラインハルト)

 

「陛下は敵を欲しておられる」
「戦うために生まれていらした方であるのに、戦いが終わるのがあまりに早すぎた…」(ミュラー)

 

「陛下がフェザーンにうつられることはよいが、私はすこし軍制改革が不安だ」
「軍事力は中央集権でよい」(メックリンガー)

 

「軍管区のそれぞれに兵権を与えれば、ひとたび中央の統制力がおとろえたとき」
「割拠の原因となるではないか」(メックリンガー)

 

「なるほど、意思はあるかもしれんが、能力の欠如は明らかではないか」(ビッテンフェルト)

 

「ヤン・ウェンリーはいまどこにいる? レンネンカンプはどこへ行った?」
「この疑問がすなわち、奴らの限界をしめしていると思うが」(ビッテンフェルト)

 

「いっそヤン・ウェンリーに、反皇帝勢力を糾合統一させてしまえばよい」
「しかる後にヤンを処断すれば、一撃で火山脈は絶ちきれる」(ビッテンフェルト)

 

「熔岩がいくら流れ出ようと、冷えきって無力になるだけではないか」(ビッテンフェルト)

 

「結婚? おれにはまともな家庭など持つ意思もないし、その資格もない」
「誰よりも卿はそのことを知っているはずではないか」(ロイエンタール)

 

「どんな形であれ、出口をつくることだ。卿は迷路の奥へ奥へとはいりこんでいる」
「おれにはそうとしか見えぬ」(ミッターマイヤー)

 

「心配するな、ミッターマイヤー。いちおうおれも武門の男だ」
「滅びるなら剣に滅びる。女に滅んだりはせぬよ」(ロイエンタール)

 

「陛下がこれまで常勝を誇られたゆえんは、歴史を動かしていらしたことにあります」
「今回にかぎり、御手をつかねて歴史に動かされるのをお待ちになるのですか」(ビッテンフェルト)

 

「ビッテンフェルトの言やよし。予は考えすぎた」
「大義名分の最大にして至高なるものは、宇宙の統一である」(ラインハルト)

 

「予に居城など必要ない。予のあるところがすなわち銀河帝国の王城だ」
「当分は戦艦ブリュンヒルトが玉座の置きどころとなろう」(ラインハルト)

 

「さあ、祝杯をあげるために同盟首都まで出かけるとしようか」(ビッテンフェルト)

 

第二章 すべての旗に背いて

「宇宙はひとつの劇場であり、歴史は作者なき戯曲である」(ヤン)

 

「最高指導者は文民でなくてはならない。軍人が支配する民主共和制など存在しない」
「私が指導者なんかになってはいけないんだ」(ヤン)

 

「あなたと皇帝ラインハルトとの差というものを考えたことがありますか、元帥」
「いや、才能の差ではありません、覇気の差です」(シェーンコップ)

 

「皇帝ラインハルトは、運命が彼にことわりなく傍を通過しようとすれば」
「その襟首を力ずくでつかんで、彼にしたがわせようとします」(シェーンコップ)

 

「よかれあしかれ、それが彼の身上です」
「ところがあなたときたら…」(シェーンコップ)

 

「さあてね、両手に贈物をかかえたところにナイフを突き出されたら」
「よけようがないからね」(ヤン)

 

「まあやめておきましょう。シェーンコップ中将をお義父さんと呼ぶのは」
「どうもあまり楽しい未来の夢に結びつきませんから」(アッテンボロー)

 

「…しかし、もしキャゼルヌの娘とシェーンコップの娘がユリアンをとりあって争うということになると観物だな」(ヤン)

 

「不肖の父親どうし、どうはりあうやら」(ヤン)
「そうね、どちらが勝っても、ヤン家にはすてきな親戚ができることになりますわね」(フレデリカ)

 

「ユリアン、お前さんは何でもよくできるがな、注意しろよ」(ポプラン)

 

「戦略戦術はヤン・ウェンリーにおよばず」
「白兵戦技はワルター・フォン・シェーンコップにおよばず」(ポプラン)

 

「空戦技術はオリビエ・ポプランにおよばず、なんてことになったら」
「器用貧乏ということばの生きた見本になってしまうからな」(ポプラン)

 

「だからな、ユリアン、せめて色事ぐらいはおれを上まわるよう努力しろや」(ポプラン)

 

「私はあいつ(トリューニヒト)のシェークスピア劇風の演説を聞くと」
「心にジンマシンができるんだよ」(ヤン)

 

「残念ですね」
「身体にジンマシンができるなら有給休暇がとれるのに」(ユリアン)

 

「代理の字をとるのは、ヤン・ウェンリーがわが軍に復帰したときにしましょう」
「彼以外に司令長官をつとめうる者はいません」(チェン)

 

「ヤン・ウェンリーと戦えとおっしゃるなら、私は戦います」
「勝算などありませんけどね」(チェン)

 

「第一、兵士たちがあの常勝提督と戦うことを欲するとお思いですか」
「武器を持ったまま彼の陣営へ走りこむのがおちですよ」(チェン)

 

「私が問題にしているのは兵士たちの心情です」
「あなたの見解ではありません」(チェン)

 

「一時の利益のためには国家の功労者も売る」
「直後にはひるがえって、予の代理人を売る」(ラインハルト)

 

「共和政体の矜持とその存在意義はどこへいったのか」
「もはや現時点においての不正義は、このような政体の存続を認めることにある」(ラインハルト)

 

「バーラトの和約の精神はすでに瀆された」
「これをただすには実力をもってするしかない」(ラインハルト)

 

「わしはヤン提督とちがって、50年以上も同盟政府から給料をもらってきた」
「いまさら知らぬ顔を決めこむわけにもいかんでな」(ビュコック)

 

「ふむ、残念だな。30歳以下の未成年は、今回、同行することはできんよ」
「これはおとなだけの宴会なのでな」(ビュコック)

 

「いいかね、スール少佐、貴官には重要な任務を与える」
「おろそかに考えてはいかんよ」(ビュコック)

 

「ヤン・ウェンリー提督のもとへおもむけ、そして伝えてくれ」(ビュコック)

 

「司令長官の仇を討とうなどと考えてはいかん」
「貴官には貴官にしかなしえぬ課題があるはずだ、とな」(ビュコック)

 

「いや、こんな伝言を託してもむだになるかもしれんがな」(ビュコック)

 

「わしとしては50も年下のひよっこに二度も負けるとは思えんしな」
「あくまでも、万が一、不覚をとった場合のことだ」(ビュコック)

 

「30歳以下の者はつれていかないとおっしゃったそうですね」
「私は38歳です、同行させていただく資格があると思いますが…」(チェン)

 

「あまり先輩面が多いと、若い者はもてあましますよ」
「ヤン提督にはキャゼルヌひとりで充分でしょう」(チェン)

 

「…皇帝ラインハルトは、貴官やわしを戦争犯罪人として処断しなかった」
「個人的には恩義すらあるが、あえてそれに背こう」(ビュコック)

 

「こんなだらしない国に、若い者はこだわる必要もないが、わしはもう充分に生きた」(ビュコック)

 

「イゼルローンに帰るか…」(ヤン)

 

第三章 「神々の黄昏」ふたたび

「フロイライン・マリーンドルフは、ものごとの道理をよくわきまえている」
密告などを予が喜ぶものと思っている輩には、よい教訓になったろう」(ラインハルト)

 

「他人を非難しおとしいれることで自己の栄達をはかろうとする風潮に」
「先制の一撃を加えていただきたいのですけど」(ヒルダ)

 

「この策がおそらく成功した後で陛下の後味がお悪くなりましょう」
「正面から同盟軍を撃砕することを、お望みなのでしょうから」(ヒルダ)

 

「フロイライン・マリーンドルフは、人の心を映す銀の鏡を持っているようだな」(ラインハルト)

 

「ですけど、あたしたちが策を弄せずとも、崩壊に直面して人心の動揺するところ」
「かならず、こちらの求めもしない商品を売りつけにくる者がいるでしょう」(ヒルダ)

 

「あれ(エミール)がいるもので、予は身辺に不自由せずにすむ」
「いい医者になるだろう、たとえ技術が完璧でなくとも患者が喜んで生命を託すような…」(ラインハルト)

 

「予には弟がいないから」(ラインハルト)

 

「皇帝の本領は果断速行にある」
「座して変化を待つのは、考えてみれば皇帝にふさわしくない」(オーベルシュタイン)

 

「ひとつ卿に問うが、もしここにいる提督たちのひとりが同盟首都に使者としておもむき」
「卿らの元首を侮辱したとする」(ミッターマイヤー)

 

「死をもってその罪をあがなわせようと望む者が、いま同盟軍の幹部にいるだろうか」(ミッターマイヤー)

 

「では、ヤン・ウェンリーの部下はどうだ」
「生命をかけて上官を救出したが」(ミッターマイヤー)

 

「わが皇帝は、大なりといえど同盟政府を恐れず」
小なりといえどもヤン・ウェンリー一党を恐れたもう」(ミッターマイヤー)

 

そのゆえんを、卿自身が明らかにしたわけだな」(ミッターマイヤー)

 

「そのときは、おれもろとも惑星ハイネセンを吹きとばせ」
「積年の混乱は、大半がそれで一掃される」(カール・ロベルト・シュタインメッツ)

 

「どうかお考えいただきたいものです」
「長年にわたって、ビュコック元帥はあなたと親交がありました」(チェン)

 

「なのに、なぜあなたと会おうとしないのか」(チェン)

 

「元首の座につかれる以前のあなたをあまりに御存知だからだ」
「とお思いになりませんか」(チェン)

 

「ビュコック元帥が変わったのではありません」
「それはお認めくださるでしょう」(チェン)

 

「わざわざこのような書類をつくる必要があるのですか」
「形式も度がすぎるように小官には思われますが」(ムライ)

 

「わからないかね?」
「むろんジョークだよ」(チェン)

 

「ジョークとおっしゃるなら、それでけっこうですが」
「帝国軍に対して戦力を糾合せねばならないときに」(ムライ)

 

「このだけの艦艇と物資をさいたのでは」
「帝国軍の侵攻に対処しえないのではありませんか」(ムライ)

 

「どうせ糾合しても対処しえないよ」(チェン)

 

「ムライ中将、本心をいつわっている余裕はない」
「時間を浪費することなく、最善の道を行くとしよう」(エドウィン・フィッシャー)

 

「ランテマリオ会戦で敗れたとき、わしは死ぬべき身だった」(ビュコック)

 

「貴官に説得されて半年ほど永らえることになったが」
「結局のところ命日が移動するだけのことだな」(ビュコック)

 

「いや、おかげで多少は女房孝行ができたか」(ビュコック)

 

「ヤン・ウェンリーは何かと欠点の多い男ですが」
「何者も非難しえない美点をひとつ持っています」(チェン)

 

「それは、民主国家の軍隊が存在する意義は民間人の生命を守ることにある」
「という建前を本気で信じこんでいて」(チェン)

 

「しかもそれを一度ならず実行しているということです」(チェン)

 

「ヤンが敗北するとしたら」
それはラインハルト・フォン・ローエングラムの偉大な天才によってではない」(ビュコック)

 

「それはヤン自身の、理想へのこだわりによってだろう」(ビュコック)

 

第四章 解放・革命・謀略その他

「おい、資金がないぞ」
「これからどうするか決めてくれ」(キャゼルヌ)

 

「なに、いったん借りれば、こちらのものだ」
「フェザーン人は利にさとい」(キャゼルヌ)

 

「おれたちに皇帝ラインハルトを打倒する可能性ありとみなせば」
「かならず将来にそなえて投資してくる」(キャゼルヌ)

 

「そしてひとたび投資すれば、それをむだにしないためにも」
「つづけて投資せざるをえない」(キャゼルヌ)

 

「先に投資した資金、それ自体が双方のつながりを増大させる最初の一滴になる」(キャゼルヌ)

 

「美人局の成功は、女性の魅力しだいだな」(キャゼルヌ)

 

「鷹と雀では視点がちがう」
「金貨の一枚は、億万長者にとってとるにたりないが、貧乏人には生死にかかわるさ」(ヤン)

 

「このていどでうんざりしないでくださいよ、ヤン提督」
「将来もっと高い山が出てくるにきまってるんですからね」(アッテンボロー)

 

「全人類の数が400億人、そのうち半数が女」(ポプラン)

 

「うち半数が年齢制限にひっかかり、さらにまた半数が容姿で落第するとしても」
「50億人は恋愛の対象になりますからな」(ポプラン)

 

「一秒でも惜しんでいられません」(ポプラン)

 

「性格の良い女はアッテンボロー提督にまかせますよ」
「おれは性格が悪いほうの半分を引きうけてあげますからね」(ポプラン)

 

「いいか、ポプラン中佐、心得ちがいをするなよ」
おれたちは伊達や酔狂でこういう革命をやっているんだからな」(アッテンボロー)

 

「せいぜい精励なさることですね」
「閣下の世代で決着がつかなかったら、ユリアンの世代が苦労することになるんですから」(フレデリカ)

 

「いずれ必ず枯れるからといって、種をまかずにいれば草もはえようがない」
「どうせ空腹になるからといって、食事をしないわけにもいかない」(ヤン)

 

「ユリアンはもうすこしむほん気を持つべきだ」
「むほん気は独立独歩の源だからな」(コーネフ)

 

第五章 蕩児たちの帰宅

「イゼルローン要塞は逃げやしないが、新年の乾杯はいましかできないからな」(ポプラン)

 

「美人か?」
「美人だったら、おれの娘だ。そうでなかったら同姓同名の別人だ」(シェーンコップ)

 

「平和になったら──退屈きわまるが」
「おれは善良な青少年相手に人生相談室でも開くとしようかと思ってる」(ポプラン)

 

「人徳あらたかなせいか、おれは年少者に信用があるんでね」(ポプラン)

 

「おれに言わせれば、問題はカリンが不幸なことじゃない」
自分は不幸だとカリンが思いこんでいることさ」(ポプラン)

 

「智者は智におぼれる」
「ヤン・ウェンリーのカレンダーも残りすくないぞ」(ルッツ)

 

「いつものことさ、やるしかない」(ポプラン)

 

「不愉快だな、どうも」
何がって、地球といいここといい、床に足をつけて闘うことに慣らされてしまった」(ポプラン)

 

こんなに不愉快なことがまたとあるか」(ポプラン)

 

「まさに神算鬼謀というべきだな」(メルカッツ)

 

「ぼくたちはヤン・ウェンリーに頼りきっていた」
「彼が不敗であることはむろんのこと、不死であるとすら信じていた」(ユリアン)

 

第六章 マル・アデッタ星域の会戦

「同盟軍にせよ、政府から離反した諸部隊にせよ」
「ヤン・ウェンリーあるところ勝利ありととなえています」(ヒルダ)

 

「それを裏がえせば、ヤンなきところに勝利なし、ということになるでしょう」(ヒルダ)

 

「ヤンがいない場所で戦略上の処置をかさね、彼を奔命につかれさせ」
「抗戦を断念させてはいかがでしょうか」(ヒルダ)

 

「フロイライン・マリーンドルフは」
「予をどうしてもヤン・ウェンリーと戦わせたくないようだ」(ラインハルト)

 

「比類なく聡明なフロイラインでも錯覚することがあるとみえる」
「もしヤン・ウェンリーに敗北することがなければ、予は不老不死でいられるのだろうか」(ラインハルト)

 

「ヤン・ウェンリー一個人に対する復仇など、どうかお考えなさいますな」
「陛下は遠からず全宇宙をお手になさいます」(ヒルダ)

 

「ヤン・ウェンリーはそれをはばむことはできないでしょう」(ヒルダ)

 

「陛下が最終的に勝利なさるゆえんです」
「誰が勝利を盗んだなどと申しますでしょうか」(ヒルダ)

 

「ヤン・ウェンリーは言うまい」
「だが、彼の部下たちがそう主張するにきまっている」(ラインハルト)

 

「老いてなお気骨ある者は賞すべきかな」(ナイトハルト・ミュラー)

 

「言うは易し、だ」
「卿らのいう白髪の老将に、卿らこそ手玉にとられるなよ」(ロイエンタール)

 

「卿の進言は誤っていない」
だが、歴戦の老提督がおそらくは死を賭しての挑戦、受けねば非礼にあたろう」(ラインハルト)

 

他にも理由がないわけではないが、予と予の軍隊にとってはそれで充分のはずだ」(ラインハルト)

 

「この一戦に意味があるとすれば、理性の面ではなく感情の面においてだな」
「老いた獅子と若い獅子とが、ともに戦いを望んでいる」(ロイエンタール)

 

「名誉がそれに色どりをそえることになろうが、結局のところ」
「抜かれた剣は血ぬられずして鞘におさまるものではないさ」(ロイエンタール)

 

「おれにはわかる。卿にもわかっているはずだ」
「歴史というやつは、人間同様、眠りからさめるとき咽喉をかわかしている」(ロイエンタール)

 

「ゴールデンバウム王朝はすでに滅びた」
「自由惑星同盟も今日までは生きながらえたが、明日には滅びる」(ロイエンタール)

 

「歴史は大量の血を飲みほしたがっている」(ロイエンタール)

 

「だが、おれは思うのだ」
「歴史が血を飲みあきたとしても、それは量だけのこと」(ロイエンタール)

 

「質的にはどうかな」
「犠牲は高貴なほど、残忍な神に喜ばれるものだし…」(ロイエンタール)

 

「いずれにしても、この戦いは儀式というべきだ」
「自由惑星同盟の葬列にたむけるためのな」(ロイエンタール)

 

「この形式を踏まねば、生者も死者も、滅亡の事実を受けいれることはできぬだろう」(ロイエンタール)

 

「やはり戦う以上は納得のいく戦いをしたいのでな」(ビュコック)

 

「それにしても、わし自身はともかく、多くの者を死なせることになるな」
「いまさらではないが罪深いことだ」(ビュコック)

 

「考えてみると、わしは多分、幸福者だろう」(ビュコック)

 

「人生の最後に、ラインハルト・フォン・ローエングラムとヤン・ウェンリーという」
「ふたりの比類なく偉大な用兵家に出会うことができた」(ビュコック)

 

「そして、ふたりのうちいずれかが傷つき倒れる光景を見ないですむのだからな」(ビュコック)

 

「あの老人を殺したくないものだな、バイエルライン」
「敵ながら敬愛に値するじいさんだ」(ミッターマイヤー)

 

「同盟軍め、楽しませてくれるではないか」(ラインハルト)

 

「皇帝を守りまいらせよ!」(ミュラー)

 

「あれはあれでよい。ビッテンフェルトが自重に度をすごすようなことがあれば」
黒色槍騎兵の長所をかえって殺ぐことになろう」(ラインハルト)

 

「敗敵に手をさしのべるのは勝者の器量をしめすもの」
「それを受けいれぬ敗者こそが狭量なのですから」(ヒルダ)

 

「わしはあなたの才能と器量を高く評価しているつもりだ」(ビュコック)

 

「孫を持つなら、あなたのような人物を持ちたいものだ」
「だが、あなたの臣下にはなれん」(ビュコック)

 

「ヤン・ウェンリーも、あなたの友人にはなれるが、やはり臣下にはなれん」
「他人ごとだが保証してもよいくらいさ」(ビュコック)

 

「なぜなら、えらそうに言わせてもらえば、民主主義とは対等の友人をつくる思想であって」
「主従をつくる思想ではないからだ」(ビュコック)

 

「わしはよい友人がほしいし、誰かにとってよい友人でありたいと思う」
「だが、よい主君もよい臣下も持ちたいとは思わない」(ビュコック)

 

「だからこそ、あなたとわしは同じ旗をあおぐことはできなかったのだ」
「ご好意には感謝するが、いまさらあなたにこの老体は必要あるまい」(ビュコック)

 

「…民主主義に乾杯!」(ビュコック)

 

「他人に何がわかる…」(ラインハルト)

 

「お前は予などよりずっと気宇が大きいな。予には銀河系だけで充分だ」
「他の星雲はお前が征服するといい」(ラインハルト)

 

第七章 冬バラ園の勅令

「してやられたか、またしてもあの男に」(ミッターマイヤー)

 

「これは相互に独立した個人プレイが競作した結果であるにすぎません」(ヒルダ)

 

「銀河帝国の名将ことごとくヤン・ウェンリーのためのひきたて役となるか」(ロイエンタール)

 

「吾ら10万光年の征旅をおそれざるも」
「ヤン・ウェンリーの頭蓋骨の内容物をおそれざるあたわず──というわけだ」(ミッターマイヤー)

 

「あの男に吾らと同数、あるいはそれ以上の兵力があったら」
「運命の女神はあちらに媚を売ったかもしれんな」(ミッターマイヤー)

 

「…ジークフリード・キルヒアイスが生きていたら」
「こんな形でイゼルローンをふたたび失うことはなかったかもしれんな」(ロイエンタール)

 

「そのとおりだ。キルヒアイスが生きていたら」
「あのオーベルシュタインがしたり顔で軍務を専断することもなかったろうよ」(ミッターマイヤー)

 

「陛下、お急ぎになることはありません」
「堂々として同盟首都にお近づきあれば、その圧力のみで同盟政府は潰えましょう」(ヒルダ)

 

「黒色槍騎兵に退却の二字なし」(ビッテンフェルト)

 

「不満か」
「卿の忠誠心は貴重だが、度をすぎればそれが予をルドルフにするぞ」(ラインハルト)

 

「卿らのためにさく時間は、予には貴重すぎる。ひとつだけ聞いておこう」
卿らがことをおこなったとき、卿らの羞恥心はどの方角をむいていたのか」(ラインハルト)

 

「前王朝ならいざ知らず、ローエングラム王朝には裏切者を保護すべき法はない」
「無益な哀願をするな」(ファーレンハイト)

 

「…フロイラインの予言したとおりだった」
「腐肉を食う輩は、自分の嗜好で他人を量るものらしいな」(ラインハルト)

 

「たぶん人間は自分で考えているよりもはるかに卑劣なことができるのだと思います」
「平和で順境にあれば、そんな自分自身を再発見せずにすむのでしょうけど…」(ヒルダ)

 

「…奴らが下水の汚泥とすれば、マル・アデッタで死んだ老人はまさに新雪だったな」(ラインハルト)

 

「不死鳥は灰のなかからこそよみがえる」
「生焼けでは再生をえることはできぬ」(ラインハルト)

 

「あの老人は、そのことを知っていたのだ」
「奴らを処断して、ヴァルハラであの老人にわびさせよう」(ラインハルト)

 

「りっぱな男たちだ。そのような男たちが中堅以下の地位にとどまっているようだからこそ」
同盟は滅びたのだ」(ラインハルト)

 

「その者たちに危害を加えてはならぬ」
「さしあたり従順な者たちだけを登用して政務を担当させよ」(ラインハルト)

 

第八章 前途遼遠

「吉報はひとりでしか来ないが、兇報は友人をつれて来る」(キャゼルヌ)

 

「ピクニックが研修旅行になってしまった」(アッテンボロー)

 

「おれたちは武人を天職と思っているのだ」(ビッテンフェルト)

 

「ヤン・ウェンリー一党のように」
「他にやることがなくて戦争ごっこや革命ごっこをやっているのと事情がちがうぞ」
「無原則なことをするな」(ビッテンフェルト)

 

「何が智将だ」
「私は救いがたい低能だ」(ヤン)

 

「司令長官のお人がらからいって、こうなる可能性は小さくなかったのに」
「それを予測もできなかった」(ヤン)

 

「まったくそうさ、ばかな連中だ」(キャゼルヌ)

 

「ひとりの例外もなくね」
「わたしが後方勤務本部長の令夫人になりそこなったのは、どなたのせいだったかしら」(オルタンス)

 

「当然です。あなたが自分ひとり地位を守って友人を見すてるような人なら」
「わたしはとうに離婚していましたよ」(オルタンス)

 

「自分の夫が友情にうすい人間だったなんて子供に言わなきゃならないのは」
「女として恥ですからね」(オルタンス)

 

「さあ、あなた、ヤンご夫妻をお呼びしてくださいな」
「生きている人間は、死んだ人の分まできちんと食べなきゃなりませんからね」(オルタンス)

 

「ビュコック元帥は同盟軍なんぞにはもったいないみごとな爺さんだった」
「過去形を使わなきゃならないのが残念だがね」(ポプラン)

 

「悼むのは自然かつ当然としても、そろそろ、真の慰霊法を考えるべきさ」
「帝国軍と戦って勝つ」(ポプラン)

 

「ノウハウはわれらが元帥どのが考えるさ」
「それしか特長がないんだからな」(ポプラン)

 

皇帝ラインハルトには多くの忠実な臣下がいる。
メルカッツにもせめて自分ひとりぐらいいてもいいではないか…。(シュナイダー)

 

「非常の時である」
「非常の策を用いてしかるべし」(シェーンコップ)

 

「信念など有害無益のものだと他人にはお説教しておきながら、ご本人の頑固なこと」
「言行不一致とはこのことだな」(シェーンコップ)

 

「愛してもいない女を抱くには、人生は短すぎるだろうな」
「愛してもいない男に抱かれるにも、人生は短すぎるだろうよ」(シェーンコップ)

 

「閣下、わたしに生命をくださったことには感謝しています」(カーテローゼ・フォン・クロイツェル、通称:カリン)

 

「でも、育てていただいたご恩はありませんし」
「閣下を敬愛すべき理由もわたしの裡には見出せません」(カリン)

 

「ご忠告にしたがって、はっきり申しあげておきます」(カリン)

 

「シェーンコップ中将、すこしまじめに言いますと」
「あの娘は自分自身で感情をもてあましているし」
「それを的確に表現する術も知らんのです」(ポプラン)

 

「年長者のがわが、出口へさそってやるべきだと、おれは思いますね」
「出すぎたことを言って申しわけありませんが」(ポプラン)

 

「いや、今年は記憶と記念に残すべき年だ」
「おれの知るかぎり、はじめて良識的なことを言ったな。お前さんは」(シェーンコップ)

 

「それはまあ、娘が父親の罪をせおうこともなかろうしね」(ポプラン)

 

「おれのことを不良中年だと言ってまわっているそうだが、おれはまだ中年じゃない」(シェーンコップ)

 

「…まあ、何にせよ、カリン、不幸を商品にするのは、うちの艦隊の気風にあわないし」
「お前さんにも似あわんぜ」(ポプラン)

 

「たとえ気にいらない奴でもいつまでも生きているわけはなし…」(ポプラン)

 

「イワン・コーネフの野郎なんか、おれを裏ぎりやがった」
「殺されても死なない奴だと思いこませておいてな」(ポプラン)

 

「順当にいけば、シェーンコップの不良中年は、お前さんより20年早くくたばる」
「墓石と仲なおりしたって意味があるまい」(ポプラン)

 

「それでは彼らは自分自身の処刑命令書にサインしたことになる」
「皇帝ラインハルトは彼らの醜行をけっして赦さないだろうよ」(ヤン)

 

「陰謀やテロリズムでは、結局のところ歴史の流れを逆行させることはできない」
「だが、停滞させることはできる」(ヤン)

 

「地球教にせよ、アドリアン・ルビンスキーにせよ」
「そんなことをさせるわけにはいかない」(ヤン)

 

「ユリアン、吾々は軍人だ」
「そして民主共和政体とは、しばしば銃口から生まれる」(ヤン)

 

「軍事力は民主政治を産み落としながら、その功績を誇ることは許されない」(ヤン)

 

「それは不公正なことではない」
「なぜなら民主主義とは力を持った者の自制にこそ真髄があるからだ」(ヤン)

 

「強者の自制を法律と機構によって制度化したのが民主主義なのだ」
「そして軍隊が自制しなければ、誰にも自制の必要などない」(ヤン)

 

「自分たち自身を基本的には否定する政治体制のために戦う」
「その矛盾した構造を、民主主義の軍隊は受容しなくてはならない」(ヤン)

 

「軍隊が政府に要求してよいのは、せいぜい年金と有給休暇をよこせ、というくらいさ」
「つまり労働者としての権利。それ以上はけっして許されない」(ヤン)

 

第九章 祭りの前

「パウル・フォン・オーベルシュタインという人は」
「しばしば辛辣かつ無慈悲な策謀を弄して他者を粛清し」(メックリンガー)

 

「しかも弁解も説明もしないので」
「明快さと率直さを愛する武人型の諸将にきらわれたのは無理もない」(メックリンガー)

 

「ただ彼は私益をはかって策謀を弄したことはなく」
「すくなくとも主観的には国家と主君に無私の忠誠をささげていた」(メックリンガー)

 

「軍務尚書としての管理能力、職務に対する忠実度もきわめてすぐれていた」(メックリンガー)

 

「おそらく、最大の問題点は、主君に対する忠誠心と表裏一体化した」
「彼の猜疑心であったであろう」(メックリンガー)

 

「賢しげに忠告するな」
「おれには1ミクロンの後ろ暗いところもない」(ミッターマイヤー)

 

「陛下の廷臣どうし、年来の友人どうしが会って何が悪い。誰をはばかる」
「そこをどけ、バイエルライン」(ミッターマイヤー)

 

「おれは帝国元帥の称号を陛下よりたまわり」
「帝国宇宙艦隊司令長官という過分な地位もいただいた」(ミッターマイヤー)

 

「だが、どれほど高位につこうとも、友人と会うことすらままならぬのでは」
「一庶民にもおとるではないか」(ミッターマイヤー)

 

「自分ことオスカー・フォン・ロイエンタールが武力と権力にまかせて略奪暴行をこととし」
「人民を害しているなどと噂されるのであれば」(ロイエンタール)

 

「これは自分にとって最大の恥辱である」
「反逆して帝座をねらうと言われるのは、むしろ乱世の武人にとって誇りとするところ」(ロイエンタール)

 

「…しかしながら皇帝ラインハルト陛下が先王朝において元帥府を開設されて以来」
「自分は一日の例外もなく陛下が覇業をなされるに微力をつくしてきた」(ロイエンタール)

 

「その点についていささかも心にやましいところはない」(ロイエンタール)

 

「笑うべきは、自分を誹謗する者の正体である」
「内務省内国安全保障局長ラングとは何者か」(ロイエンタール)

 

「先年、上級大将以上の武官のみが出席を許される会議において」
「資格もなく出席しあまつさえ発言までもなした不心得者だ」(ロイエンタール)

 

「そのとき自分に退室を命じられて不満をいだき」
「私情をもって不当な告発をなしたのであろう」(ロイエンタール)

 

「その間の事情にご留意いただきたい」(ロイエンタール)

 

「ミッターマイヤー、そのくらいにしておけ」
「卿の口は大軍を叱咤するためにあるもの」
「他人を非難するのは似合わぬ」(ラインハルト)

 

「そちら(祝福)は完全な嘘偽です」
「あの女が妊娠したことを私は存じませんでした」(ロイエンタール)

 

「存じていれば…即座に堕胎させておりました」
「この点、うたがう余地はございません」(ロイエンタール)

 

「私には人の親となる資格がないからです、陛下」(ロイエンタール)

 

「私を失望させるなよ」
「卿の任務は国内の敵を監視して王朝を安泰せしめるにある」(オーベルシュタイン)

 

私怨をもって建国の元勲を誣告し、かえって王朝の基礎を弱めたりしては」
不忠のはなはだしいものになろう。こころえておくことだ」(オーベルシュタイン)

 

「だが、歴史は無数の実例をもって吾々に教示する」(メックリンガー)

 

「能力も識見もない単なる陰謀家が、しばしば、自分よりはるかに有能な」
「あるいは偉大な人物を底なし沼につきおとし」(メックリンガー)

 

「その相手だけでなく時代そのものの可能性を沈めさってしまうことを…」(メックリンガー)

 

「ヤン・ウェンリーが魔術を弄するまで、イゼルローン要塞は難攻不落だったはずだ」(メックリンガー)

 

「ところが彼は、要塞をまるでフライング・ボールのボールのように簡単に所有権を変えるものにしてしまったのだ」(メックリンガー)

 

「あれを芸術というなら、まさにあれ以上のものはない」(メックリンガー)

 

「ここに宣言する。予はヤン・ウェンリーを予の前にひざまずかせぬかぎり」
「オーディンはおろかフェザーンへも帰らぬことを…」(ラインハルト)

 

「たしかに修復したかに見えるな」
「だが、皇帝がロイエンタールに与えた地位と戦力は、一臣下には巨大すぎるものだ」(ルビンスキー)

 

「すくなくとも軍務尚書オーベルシュタインなどはそう思うだろう」
「亀裂は隠れただけで、けっして消えてはいない」(ルビンスキー)

 

「金髪の孺子も、前進と上昇だけが奴の人生でないとさとるだろう」(ルビンスキー)

 

「奴の権勢は拡大の一方で空洞化しつつある」
「奴は膨張する風船の上に立っているのだ」(ルビンスキー)

 

「高く評価してもらってうれしいが、あれは偶然だ」
「あまり各処に火を放ちすぎると、消火する前に自分自身が焼死することになる」(ルビンスキー)

 

「だが、ひとたび発生した火災だ」
「できれば有効に利用したいものだな」(ルビンスキー)

 

「どうだ、ドミニク、ひとつ私の子供を産んでみないか」(ルビンスキー)
「あなたに殺させるために? ごめんこうむるわ」(ドミニク・サン・ピエール)

 

「…そうではない、ドミニク」
「私を殺させるためにさ」(ルビンスキー)

 

「…予は呪われた生まれつきかもしれない」
「平和よりも戦いを好むのだ」(ラインハルト)

 

「流血によってしか人生をいろどりえなくなっている」
「あるいは他にやりようがあるのかもしれないのにな」(ラインハルト)

 

銀河英雄伝説8巻

→8巻(第三章)
→8巻(第五章)
→8巻(第七章)
→8巻(第九章)

第一章 風は回廊へ

「ハイネセンが真に同盟人の敬慕に値する男なら、予の処置を是とするだろう」
巨大な像など、まともな人間に耐えられるものではない」(ラインハルト)

 

「ヤン・ウェンリーがいかに希謀を誇ろうとも」
「この期におよんで軍事上の選択肢はふたつしかありえない」(ラインハルト)

 

「進んで戦うか、退いて守るか、だ」
「彼がどう選択し、どう予をしとめようとするか、大いに興味がある」(ラインハルト)

 

「あのオーベルシュタインよりはやく死んでたまるか」
「おれは奴の葬儀のときに、心にもない弔事を読んで心の中で舌を出してやる」(ルッツ)

 

「それが楽しみで、今日まで戦死せずにきたのだからな」(ルッツ)

 

「名将の器量が他の条件に規制されるとは気の毒なことだな」(ラインハルト)

 

「フロイライン、予が休息するとしたら」
「ヤン・ウェンリーに対する負債を、まず完済せねばならぬ」(ラインハルト)

 

「彼を屈伏させ、宇宙の統一をはたしてから、予にとってはすべてがはじまるのだ」(ラインハルト)

 

「あのオーベルシュタインは死ななかったか」
「奴が人間であると証明する、せっかくの好機であったのにな」(ミッターマイヤー)

 

「まあルッツが軽傷であったのはせめてもの救いだが」(ミッターマイヤー)

 

「単に可能性の問題として言うのだが、歩く毒薬のオーベルシュタインめが」
「何らかの魂胆で一件をしくんだのだとしも、おれはおどろかぬ」(ロイエンタール)

 

「だとするときっと二幕めがあるぞ」(ロイエンタール)

 

「長いようで短い戦いだったが、いずれにせよ、これで決着がつくさ」(ミッターマイヤー)
「吾々にとって望ましい決着であってほしいものだな、願わくば」(ロイエンタール)

 

「陛下に無能者と呼ばれるのには、おれは耐えられる」
「だが卑劣漢と非難されては、今日まで生命がけで陛下におつかえしてきた意味がない」(ビッテンフェルト)

 

第二章 春の嵐

「ビッテンフェルト提督には、喧嘩を高値で売りつける才能があるようですわね」
「同盟に生まれて政治家になっていればよかったのに」(フレデリカ)

 

「…昔日の一個艦隊にもおよばぬ寡兵で、宇宙の9割を相手に戦争をやろうというのだ」
「恐怖と緊張の極、発狂しても不思議ではなかった」(アッテンボロー)

 

「だが発狂した者は誰もいなかった。なぜなら…」(アッテンボロー)
「全員、最初から発狂していたようなものだからである」(ポプラン)

 

「おれはシェーンコップ中将みたいに悪いことは何もしていない」
「それなのに何だって30歳にならなくてはならんのだ」(アッテンボロー)

 

「おれとしては、何も悪いことをできなかったような甲斐性なしに」
「30歳になってもらいたくないね」(シェーンコップ)

 

「…しかし、結局、皇帝の名を借りんことには、歓呼の台詞ひとつつくれんか」
「おもしろくもない、おれたちは言語的寄生虫とでもいうべきかもしれんな」(アッテンボロー)

 

民主共和政治の建前──言論の自由のおかげである。
政治上の建前というものは尊重されるべきであろう。(ヤン)

 

それは権力者の暴走を阻止する最大の武器であり、弱者の甲冑であるのだから。(ヤン)

 

「皇帝ラインハルトは、私と戦うことを欲しているらしいよ」
「その期待を裏切るような所業をしたら、彼は私を永久に赦さないだろうな」(ヤン)

 

「運命というならまだしも、宿命というのは、じつに嫌なことばだね」
「二重の意味で人間を侮辱している」(ヤン)

 

ひとつには、状況を分析する思考を停止させ」
「もうひとつには、人間の自由意志を価値の低いものとみなしてしまう」(ヤン)

 

「宿命の対決なんてないんだよ、ユリアン」
「どんな状況のなかにあっても結局は当人が選択したことだ」(ヤン)

 

「半数が味方になってくれたら大したものさ」(ヤン)

 

「この世で一番、強い台詞さ。どんな正論も雄弁も、この一言にはかなわない」
「つまりな、『それがどうした』、というんだ」(アッテンボロー)

 

「伊達と酔狂でやってるんだ」
「いまさらまじめになっても帝国軍のまじめさにはかなわんよ」(アッテンボロー)

 

「犬はかみつく、猫はひっかく」
「それぞれに適した喧嘩のやりかたがあるさ」(アッテンボロー)

 

「何でもできる人たちが周囲にいるから、何かと教わっているだけだよ」(ユリアン)

 

「あら、ユリアンはもともと無器用な子ですよ」(オルタンス)

 

「それは勉強はよくできるし、習ったこと学んだことはよくこなすけど」
「自分の生きかたを守って他の楽な道に目もむけないというのは」(オルタンス)

 

「器用な人間の生きかたじゃありませんよ」
「ヤンさんの側にいて影響を受ければ、そうなってしまうでしょうね」(オルタンス)

 

「あなた、めずらしくいいことをしたから後悔なさってるんですか?」(オルタンス)

 

「洗練された文章を、相手がそのまま理解できるとはかぎるまい」(アッテンボロー)

 

「ビッテンフェルト提督が売りつけてきた商品に」
「付加価値をつけて送りかえしてやるだけのことさ」(アッテンボロー)

 

「辛くなる? 冗談じゃない、それじゃまるで普段が甘いみたいじゃないか」(ポプラン)

 

「もしビッテンフェルト、ファーレンハイトの両艦隊だけでも」
「各個撃破の対象にすることができたら」(メルカッツ)

 

「多少なりと戦力格差を縮小することがかないましょう」
「やってみる価値はあるかもしれませんな」(メルカッツ)

 

「その策を使うにしても、相手が黒色槍騎兵であれば」
「撒餌を持った手を肘から喰いちぎられる恐れがありますな」(ムライ)

 

「すみません、おさわがせして」(ユリアン)

 

「何だか今日はいろんなことがあって、自分が未熟な人間だってことを思い知らされて」
「それでつい大声を出して発散させたくなったんです」(ユリアン)

 

「いや、お前はべつに未熟じゃないよ」
「いわばまあ半熟だな」(ヤン)

 

「キャゼルヌ中将がなげいていたよ」
「おれには息子と酒を飲みかわす楽しみがない、とね」(ヤン)

 

「善良な後輩を長い間いびってきた応報だろうさ、いい気味だ」(ヤン)

 

「おとなになるということは、自分の酒量をわきまえることさ」(ヤン)

 

狂信者に必要なものはありのままの事実ではなく、
彼の好みの色に塗りたてた幻想である。(ド・ヴィリエ)

 

第三章 常勝と不敗と

「ヤン・ウェンリーも戦いを欲するか」(ラインハルト)

 

「ヤン・ウェンリーの真の偉大さは、正確な予測にあるのではなく」
「彼の予測の範囲においてのみ、敵に行動あるいは選択させる点にある」(メックリンガー)

 

「銀河帝国の歴戦の名将たちは」
「つねに彼によって彼の用意した舞台の上で踊らされたのである」(メックリンガー)

 

「罠ということは卿に教わるまでもない」
おれが問題にしているのは、何を目的としての罠かということだ」(ビッテンフェルト)

 

「帝国軍は不世出の皇帝と多くの名将を擁している彼ら全員にとって」
「イゼルローン回廊はせますぎる」(ヤン)

 

「吾々の活路は、そのせまさにある」
「せいぜい利用させてもらうとしよう」(ヤン)

 

「謝意はいずれ形でしめしてくださいよ」(アッテンボロー)

 

「こちらは両艦隊あわせて三万隻」
敵軍をことごとく葬って、なお一万隻はあまるではないか」(ビッテンフェルト)

 

「大軍に区々たる用兵など必要ない。攻勢あるのみ」
「ひたすら前進し、攻撃せよ」(ファーレンハイト)

 

「メルカッツ提督が──?」
「よろしい、本懐である」(ファーレンハイト)

 

「恐るべきはヤン・ウェンリーという男の智略だ」
「それと承知していながら、ついに奴の術中にはまるとは、おれの武勲の鉱脈もつきたか」(ファーレンハイト)

 

「世の中を甘く見ることさ」(ポプラン)

 

「見栄をはるのは、けっこうなことだ」
「最初は大きすぎる服でも、成長すれば身体にあうようになる」
「勇気も同じことだ」(ポプラン)

 

「…と、人生相談係のポプラン氏は無責任にのたもうた」
「しょせん他人の人生である」(ポプラン)

 

「よし、行け、カリン」
「教えたことの62.4パーセントばかり実行すれば、お前さんは生き残れる」(ポプラン)

 

「カーテローゼ・フォン・クロイツェル、しゃっきりしなさい!」
あまりぶざまな姿を見せると、あいつに笑われるわよ」(カリン)

 

「おてんば娘に乾杯…!」(シェーンコップ)

 

「おれは皇帝ラインハルト陛下にもおとらぬ貧乏貴族の家に生まれて」
「食うために軍人になったのだ」(ファーレンハイト)

 

「何度も無能な上官や盟主にめぐりあったが」
「最後にこの上なく偉大な皇帝につかえることができた」(ファーレンハイト)

 

「けっこう幸運な人生と言うべきだろう」
「順番が逆だったら目もあてられぬ…」(ファーレンハイト)

 

「何をしている、さっさと脱出しないか」
「さっさと行くのだ」(ファーレンハイト)

 

「アーダルベルト・フォン・ファーレンハイトが戦死するときに子供を道づれにした」
「と言われては、ヴァルハラに行ってから、おれの席が狭くなる」(ファーレンハイト)

 

「わかった、形見をやる…」
「お前の生命だ。生きて皇帝にお目にかかれ」
「死ぬなよ、いいか…」(ファーレンハイト)

 

「ビッテンフェルト!」
「卿らしい失敗だな」(ラインハルト)

 

「罠の存在を予期しながら、あえてそこに踏みこみ、それを噛み破ろうとこころみて」
「はたせなかったか」(ラインハルト)

 

「万骨かれて一将の功ならなかったわけだ」(ラインハルト)

 

「とがめているのではない」
「卿らしからぬ失敗をするよりは、よほどよい」(ラインハルト)

 

「この上は、卿らしい働きで失地を回復せよ」
「ファーレンハイト元帥も、それをこそ望むであろう」(ラインハルト)

 

「予も、これまでにない覚悟でヤン・ウェンリーに対するつもりだ」
「卿の力を予に貸せ」(ラインハルト)

 

「勝利か死か、ですか、わが皇帝(マイン・カイザー)」(ロイエンタール)
「ちがうな。勝利か死か、ではない。勝利か、より完全な勝利か、だ」(ラインハルト)

 

第四章 万華鏡

「わが軍は緒戦においてひとまず勝利をえましたが」
「これは帝国軍の基本戦略に何らかの影響を与えるでしょうか」(ムライ)

 

「いや、べつに大した影響はないだろうね」
「今回はアムリッツァやバーミリオンのときとはちがう」(ヤン)

 

「私が根性悪く穴にひそんでいるものだから」
「皇帝といえども戦場をほしいままに設定するわけにいかないのさ」(ヤン)

 

「もし、卿の作戦をもってしても勝利をえられぬときは」
「予があらためてヤンの希謀に対抗する手段を考えよう」(ラインハルト)

 

「疾風ウォルフに合格点をいただけるとは光栄だ」
「おれにも宇宙艦隊の平参謀ぐらいはつとまりそうだな」(ロイエンタール)

 

「いや、だめだな、卿におれの幕僚はつとまらんよ」
「おれは皇帝とちがって、有能な部下に嫉妬するタイプなのでな」(ミッターマイヤー)

 

「疾風ウォルフはご謙遜だ」
「全宇宙でおれに勝ちうる用兵家といえば」(ロイエンタール)

 

「わが皇帝と、ヤン・ウェンリーと、メルカッツと、それに卿とがいるだけなのにな」
「──そのうちふたりと戦わずにすむのは幸運なことだ」(ロイエンタール)

 

「皇帝のおでましだ。花束の用意はいいか」
「撃て!」(アッテンボロー)

 

「元帥だの宇宙艦隊司令長官だのと顕職にまつりあげられている間に」
「おれも戦闘指揮の感覚がにぶったとみえる」(ミッターマイヤー)

 

「味方がついてこれないような作戦をたてるとはな」(ミッターマイヤー)

 

「魔術師め、バイエルラインをもてあそんだか」
「まだまだ役者がちがうな」(ミッターマイヤー)

 

「さすがに疾風ウォルフだ」
「あの用兵は奇をてらわないが、凡将のよくするところではない」(ヤン)

 

「フロイライン・マリーンドルフ」
「あなたを第二代の大本営幕僚総監に任命する」(ラインハルト)

 

「シュタインメッツに代わって予を補佐してほしい」
「ああ、わかっている」(ラインハルト)

 

「たしかにあなたは一兵を指揮したこともない」
「だが、兵士を指揮するのは前線の提督たちで、彼らを指揮するのは予だ」(ラインハルト)

 

「あなたは予に助言してくれればそれでよい」
「誰が皇帝の人事に異をとなえるというのだ」(ラインハルト)

 

「これだ、これでなくてはな」
「ヤン・ウェンリーが猛攻に出てくることはわかっていた」(ラインハルト)

 

「バーミリオン会戦のときもそうだったが、予と直接対決しないかぎり」
「予を打倒することはかなわないのだから」(ラインハルト)

 

「一生分の勤勉さを、あなたはここで費いはたしてしまいそうですな、ヤン提督」(シェーンコップ)

 

「ああ、その指揮官は鉄壁ミュラーにちがいないよ」
「異名にふさわしく、主君を守ろうとしているのだ」(ヤン)

 

「彼を部下に持ったという一事だけで」
「皇帝ラインハルトの名は後世に伝えられるだろうな」(ヤン)

 

「つまりは、人は人にしたがうのであって」
「理念や制度にしたがうのではないということかな」(ヤン)

 

「前後、左右、上下、いずれの方角を見ても味方の艦影で埋まっている」
「にもかかわらず、わが軍が劣勢であるのはどういうわけだ」(フォルカー・アクセル・フォン・ビューロー)

 

「小官は悪運強く、なお現世に足をとどめたり」
「敵の砲火は、ヴァルハラの門扉を撃ち破るあたわず…」(ミッターマイヤー)

 

「予はこれまで戦うにあたって、受け身となってよき結果を報われたことは一度もなかった」
「それを忘れたとき、軍神は予の怠惰を罰したもうた」(ラインハルト)

 

「今回、いまだ勝利をえられぬゆえんである」(ラインハルト)

 

「ヤン・ウェンリーは狭隘な回廊の地形を利し、わが軍に縦隊列を強いて」
「わが軍の多数に対抗している」(ラインハルト)

 

「予はそれに対し、巧緻をもって報おうとしたが、これは誤りであった」(ラインハルト)

 

「正面から力をもって彼の抵抗を撃砕し、彼をふたたび起つあたわざらしめることこそ」
「予と予の軍隊の赴くべき道であろう」(ラインハルト)

 

「心配するな、死地にはいりこんだのは帝国軍のほうだ」
「退路を封じこんで袋だたきにしてやれ」(アッテンボロー)

 

「吾々は宇宙を征服しうるも、一個人を征服するあたわざるか」(ミッターマイヤー)

 

「まいったな、うちの生きた航路図が、死んだ航路図になってしまった」
「これからはうっかり森へハイキングにもいけんぞ」(アッテンボロー)

 

第五章 魔術師、還らず

「脳細胞がミルク粥になってて、考えごとどころじゃない」
「とにかく、すこし寝ませてくれ」(ヤン)

 

「ベッドがほしい、女つきでなくていい」(ポプラン)

 

「無限の未来より一夜の睡眠がほしい心境だ」(メルカッツ)

 

「今敵軍に攻撃されたらどうする気だ」
「しかしまあ眠るのも死ぬのも似たようなものか…」(シュナイダー)

 

「やれやれ、こいつら全員をめざめさせるには」
「キスしてくれる王女さまが100万人ぐらい必要だな」(キャゼルヌ)

 

「助力が必要なら、キャゼルヌ中将」
「婦人兵にかぎって小生ひとりで全員を眠りの園から呼びもどしてさしあげようか」(シェーンコップ)

 

「最初は皇帝をイゼルローン回廊に引きずりこむ」
「つぎに会談のテーブルに引きずりだす」(ヤン)

 

「事態をうまく運ぶために、皇帝の両足に銀のスケートでもはかせたいところだな」(ヤン)

 

「かっこうよく死ぬのは、ビュコック爺さんに先をこされてしまったからな」
「後追い心中をしても誰もほめちゃくれない」(アッテンボロー)

 

「したたかに生き残っていい目を見なきゃ損さ」(アッテンボロー)

 

「その(謀殺の)可能性は薄いと思う」
「理由は、皇帝の為人だ」(シェーンコップ)

 

「あのプライドの高い金髪の坊やが、お得意の戦争で勝てないからといって」
「謀殺という手段に訴えるとは想像しにくいな」(シェーンコップ)

 

「ヤン・ウェンリーは宇宙のすべてを欲しているのではないと思います」(ヒルダ)

 

「あえて申しあげますが、譲歩が必要であるとすれば」
「それをなさる権利と責任は陛下のほうにおありです」(ヒルダ)

 

「宇宙の支配者に対してそうも歯に衣を着せない人間は、生者ではあなただけだな」
「フロイライン」(ラインハルト)

 

「あなたの勇気と率直さは賞賛に値するが」
「予がいつもそれを喜ぶと思ってもらってはこまる」(ラインハルト)

 

「キルヒアイスが諌めにきたのだ」(ラインハルト)

 

「キルヒアイスが言ったのだ、これ以上ヤン・ウェンリーと争うのはおよしください、と」
「あいつは死んでまでおれに意見する…」(ラインハルト)

 

「…わかったよ、キルヒアイス、お前はいつもそうだ」(ラインハルト)

 

「おれよりたった二ヶ月早く生まれただけなのに」
「年上ぶって、いつもおれの喧嘩をとめるのさ」(ラインハルト)

 

「現在のおれは、お前より年上なんだぞ、お前は年をとらないからな」
「だけど、わかった。ヤン・ウェンリーと話しあってみよう」(ラインハルト)

 

「あくまで話しあってみるだけだ」
「決裂しないとは約束できないぞ」(ラインハルト)

 

「皇帝がヤンと交渉なさったところで、どうせ決裂するに決まっている」
「そうなったら即座に再戦だ」(ビッテンフェルト)

 

「(人質の)使者として他に候補者なき場合は、臣がその任にあたりましょう」(オーベルシュタイン)

 

「あのオーベルシュタインと無理心中などという死にかたをさせられたのでは」
「ヤン・ウェンリーも浮かがれんだろうよ」(ミッターマイヤー)

 

「第一、奴が使者となってヤンのもとへ赴いたところで、ヤンが信用するものか」(ミッターマイヤー)

 

「いや、いっそ奴のやりたいようにさせてやればよいのさ」(ロイエンタール)

 

「ただし、オーベルシュタインがヤンの一党に殺害された後」
「おれたちが奴の復讐をしてやる義務もないはずだ」(ロイエンタール)

 

「そのとおりだ、ヤン・ウェンリーよりもむしろあのオーベルシュタインがいなければ」
「宇宙は平和、ローエングラム王朝は安泰、万事めでたしめでたしだな」(ミッターマイヤー)

 

「作戦をたてるだけでは勝てない」
「それを完全に実行する能力が艦隊になくては、どうしようもない」(ヤン)

 

「ここで会談の申しいれを拒否して」
「短時日のうちに再戦することになっては自殺行為だよ」(ヤン)

 

「まあ、いいだろう」
「皇帝から会談を申しこませたことは、吾々の実質的な勝利を意味する」(キャゼルヌ)

 

「それに、会談が成功するとはかぎらないにしても、その間に時間はかせげるわけだ」(キャゼルヌ)

 

「フェザーンや旧同盟領で帝国軍に対するゲリラ活動でもおきてくれれば」
「吾々の立場はさらに有利になる。過剰な期待は禁物だがな」(キャゼルヌ)

 

「ブルームハルトは護衛役」
「スールはビュコック爺さんの代理人として選ばれたのさ」(ポプラン)

 

「パトリチェフ中将?」
「あれは引きたて役、それ以外に何があるというんだ」(ポプラン)

 

「フレデリカ、ちょっと宇宙一の美男子に会ってくるよ、二週間ぐらいで還ってくる」(ヤン)

 

「気をつけていってらしてね。あ、ちょっと、髪が乱れてるわ」
「だめです、宇宙で二番めの美男子にお会いになるんだから」(フレデリカ)

 

「誰もが平和を望んでいた。自分たちの主導権下における平和を」
「共通の目的が、それぞれの勝利を要求したのである」(歴史家)

 

「アンドリュー・フォークは最初から燃やされるためにつくられた藁人形にすぎぬ」
「功はわが教団の忠良なる信徒に帰する」(ド・ヴィリエ)

 

「なぜフォークのごとき無能者の異教徒に」
「宇宙最高の智将を抹殺するという名誉を与えてやらねばならぬ?」(ド・ヴィリエ)

 

「予はヤン・ウェンリーに手を差しだすつもりだが、ひとたびそれを拒まれたときには」
「ふたたび握手を求めるつもりはない」(ラインハルト)

 

「(フォークは)秀才だったのですが」
「現実が彼のほうに歩みよってくれなかったのですな」(パトリチェフ)

 

「方程式や公式で解決できる問題なら、手ぎわよくかたづけたにちがいありませんが」
「教本のない世界では生きられなかったらしい」(パトリチェフ)

 

「よせよ、痛いじゃないかね」(パトリチェフ)

 

ここまで来たのだから、希望は通じる。
努力はきっと報われる!(ユリアン)

 

「ごめん、フレデリカ」
「ごめん、ユリアン」
「ごめん、みんな…」(ヤン)

 

第六章 祭りの後

「赦してください、赦してください。ぼくは役たたずだ」
「一番肝腎なときに提督のお役にたてなかった…」(ユリアン)

 

「提督、イゼルローンへ帰りましょう」
「あそこがぼくたち皆の家ですから。家に帰りましょう…」(ユリアン)

 

「生きるということは、他人の死を見ることだ」(ヤン)

 

「戦争やテロリズムは何よりも」
「いい人間を無益に死なせるからこそ否定されねばならない」(ヤン)

 

あの人が言っていたのは、いつも正しかった。(ユリアン)

 

だけど、いくら正しいことばを残しても、
当人が死んでしまったら何にもならないではないか!(ユリアン)

 

「無事ですか、ヤン提督は?」
「あの人は要領が悪いですからね、ちゃんと逃げていてくれればいいんですが…」(ブルームハルト)

 

「…よかった。あの人が生きていないと」
「これから将来、おもしろくないですからね…」(ブルームハルト)

 

「…おい、よせよ、ここは演劇学校の練習場じゃない」
「悲劇の舞台げいこなんぞやりたくもないぜ…」(シェーンコップ)

 

「詮索は後だ。犯人の正体がわかれば、いまはそれで充分だろう」
「いずれ奴らの踏んだ地面まで、まとめて火葬場の炉のなかに放りこんでやる」(シェーンコップ)

 

「きらいな奴に好かれようとは思わない」
「理解したくない人に理解される必要もない」(ヤン)

 

「おれはこんな気分を味わうために、帝国から亡命してきたんじゃない」
「まさか国を捨てた報いじゃあるまいな」(シェーンコップ)

 

「だとしたら、どうせのこと、国を捨てるより滅ぼしておいたほうが」
「後顧の憂いがなかったかもしれんて」(シェーンコップ)

 

「だが、まあ、過去はともかく問題はこれからだ」(シェーンコップ)

 

「そうだ。ヤン・ウェンリーは死んだ。耳をふさぐな!」
「ヤン提督は死んだ。死んでしまった!」(シェーンコップ)

 

「それも皇帝ラインハルト以外の手にかかってな」
「最後まで意表をついてくれたよ! 感心なんぞしてやらんがね」(シェーンコップ)

 

「これから、ですか? そんなこと、考えることもできません」
「ヤン提督がいなくなったのに…」(ユリアン)

 

「ああ、おれもそう思わないではなかった。それがいいかもしれん」
「こういうとき、男はだらしなくていけない」(シェーンコップ)

 

「なあ、ユリアン」
「もともとヤンの奴は順当にいけばお前さんより15年早く死ぬ予定になっていたんだ」(キャゼルヌ)

 

「だがなあ、ヤンはおれより6歳若かったんだぜ」
「おれがあいつを送らなきゃならないなんて、順序が逆じゃないか」(キャゼルヌ)

 

「ユリアン、これはあなたの責任であり義務ですよ」
「あなたはヤンご夫妻の家族だったんですからね」(オルタンス)

 

「あなた以外の誰が話すというの」
「もし話さなかったら、話したとき以上に後悔するわよ」(オルタンス)

 

「あの人が死んだのね…?」(フレデリカ)

 

「だって、あなたがそんなに言いづらそうにすることは、他に考えられないわ」
「そう、やっぱりあの人が死んだの…」(フレデリカ)

 

「…ユリアン、あなたが虚言家だったらよかったわ」
「そうしたらあなたの報告を信じなくてすむのにね」(フレデリカ)

 

「あの人はね、こんな死にかたをする人じゃないのよ」
「あの人にはあの人らしい死にかたがあったのに」(フレデリカ)

 

…戦乱が一世紀以上も過去のことになった平和な時代、ひとりの老人が生きている。(フレデリカ)

 

かつては名声を有した軍人だったというが、それを実見した証人たちもすくなくなり、
当人も誇らしげに武勲を語ることはない。(フレデリカ)

 

若い家族たちに七割の愛情と三割の粗略さで遇されながら、年金生活を送っている。(フレデリカ)

 

サンルームに大きな揺り椅子を置いて、食事に呼ばれないかぎり、
まるで椅子の一部になってしまったように静かに本を読んでいる。(フレデリカ)

 

毎日毎日、時がとまったように。(フレデリカ)

 

ある日、外で遊んでいた孫娘が、サンルームの入口からなかにボールを放りこんでしまう。
ボールは老人の足もとに転々とする。(フレデリカ)

 

いつもは緩慢な動作でボールをひろってくれる祖父が、孫の声を無視したように動かない。(フレデリカ)

 

駆けよってボールをひろいあげた孫娘は、下方から祖父の顔を覗きこんで苦情を言いかけ、
説明しがたい何かを感じる。(フレデリカ)

 

「お祖父ちゃん…?」
返答はなく、老人は眠りに落ちたような顔を、陽光が斜めから照らしている。(フレデリカ)

 

孫娘はボールを抱いたまま、居間へ駆けこんで大声で報告する。
「パパ、ママ、お祖父ちゃんが変なの!」(フレデリカ)

 

その声が遠ざかっていくなかで、老人はなお揺り椅子にすわっている。
永遠の静謐さが老人の顔を潮のように満たしはじめる…。(フレデリカ)

 

そんな死にかたこそがヤン・ウェンリーにはふさわしい。(フレデリカ)

 

「でも、かえってあの人らしいかもしれないわ」(フレデリカ)

 

「ヴァルハラが実在するとしたら、あの人」
「ビュコック元帥にお目にかかって頭の下げっぱなしでしょうね」(フレデリカ)

 

「元帥から後事を託されたのに」
「半年もたたないうちにのこのこ後をついていって仲間になりたがるんだもの…」(フレデリカ)

 

「お願い、ユリアン、しばらくひとりにしておいて」
「もうすこし落着いたら、あの人に会いに行くから…」(フレデリカ)

 

「人間は主義だの思想だののためには戦わないんだよ!」
「主義や思想を体現した人のために戦うんだ」(アッテンボロー)

 

「革命のために戦うのではなくて、革命家のために戦うんだ」(アッテンボロー)

 

「おれたちは、どのみち死せるヤン提督を奉じて戦うことになるが」
「その場合でも、この世に提督の代理をつとめる人間が必要だ」(アッテンボロー)

 

「ユリアン、いいか、政治における形式や法制というものは」
「二代めから拘束力を持つのだぜ」(キャゼルヌ)

 

「初代はそれを定める立場にある」(キャゼルヌ)

 

「いいさ、脱落したい者には脱落させよう。数が力と言いきれるような状態ではないからな」
「少数でもとにかく核を確立しておかんことには…」(キャゼルヌ)

 

「あたりまえよ、ユリアン、ヤン・ウェンリーみたいなことは誰にもできないわ」
「いえ、(才能ではなく)個性の差よ、ユリアン」(フレデリカ)

 

「あなたはあなたにしかできないことをやればいい」
「ヤン・ウェンリーの模倣をすることはないわ」(フレデリカ)

 

「歴史上にヤン・ウェンリーがただひとりしかいないのと同様」
「ユリアン・ミンツもただひとりなのだから」(フレデリカ)

 

「わたしはあの人と12年間つきあったわ」
「最初の8年間は単にファンとして、つぎの3年間は副官として」(フレデリカ)

 

「つぎの1年間は妻として」
「そしてこれから、未亡人としての何年か何十年間かがはじまる」(フレデリカ)

 

「月日を自分で培わねばならないとしたら、わたしはあの人の築いた土台に」
「埃以外のものを1ミリでもいいから積みあげたいわ」(フレデリカ)

 

「りっぱですって? わたしはりっぱなんかじゃないわ」
「真実を言うとね、わたしは民主主義なんか滅びてもいいの」(フレデリカ)

 

「全宇宙が原子に還元したってかまわない」
「あの人が、わたしの傍で半分眠りながら本を読んでいてくれたら…」(フレデリカ)

 

「なぜユリアンのような亜麻色の髪の孺子に兵権をゆだねるかって?」
「おれたちにとって必要なのは過去の日記ではなくて未来のカレンダーだからさ」(アッテンボロー)

 

「ユリアン、私はヤン艦隊における最後の任務をこれからはたすつもりだ」
「君の許可をもらいたいのだが」(ムライ)

 

「不平分子や動揺した連中をひきつれて、イゼルローンを出ていく」(ムライ)

 

「いや、むしろ私がいないほうがいいのだよ。もう私がいて君の役に立つことは何もない」
「引退させてくれんものかね」(ムライ)

 

「それに、フィッシャーやパトリチェフもいなくなった」
「疲れもしたし寂しくもなったよ」(ムライ)

 

「私はヤン提督の麾下にいたおかげで、才能や実績以上の地位をえた」
「ありがたい、と思っている」(ムライ)

 

「いま私が離脱を公表すれば、動揺している連中は私のもとに集まってくる」
「ムライのような幹部でさえ離脱するのだから、という自己正当化ができるからな」(ムライ)

 

「私がいないほうが、貴官らにとってはよかろう」
「羽を伸ばすことができて」(ムライ)

 

「否定はしませんよ」
「ですが、酒を飲む楽しみの半分は禁酒令を破ることにあるのでね」(アッテンボロー)

 

「世間はきっとあんたのことを悪く言いますよ」
「損な役まわりをなさるものだ」(アッテンボロー)

 

「なに、私は耐えるだけですむ」
「君らと同行する苦労にくらべればささやかなものさ」(ムライ)

 

「あなたがたが出て行かれるのを、ぼくは制めはしません」
「ですから、あなたがたも気持よく出発なさってください」(ユリアン)

 

「何も今日までのあなたがた自身を否定なさる必要はないでしょう」(ユリアン)

 

「わしはいままで何度か考えたことがあった」(メルカッツ)

 

「あのとき、リップシュタット戦役でラインハルト・フォン・ローエングラムに」
「敗北したとき、死んでいたほうがよかったかもしれないと…」(メルカッツ)

 

「だが、いまはそうは思わん」
「60歳近くまで、わしは失敗を恐れる生きかたをしてきた」(メルカッツ)

 

「そうではない生きかたもあることが、ようやくわかってきたのでな」
「それを教えてくれた人たちに、恩なり借りなり、返さねばなるまい」(メルカッツ)

 

第七章 失意の凱旋

「あなたから凶報を聞いたことは幾度もあるが、今回はきわめつけだ」
それほど予を失望させる権利が、あなたにあるのか?」(ラインハルト)

 

誰も彼も、敵も味方も、皆、予をおいて行ってしまう!」
なぜ予のために生きつづけないのか!」(ラインハルト)

 

「予には敵が必要なのだ」(ラインハルト)

 

「予はあの男に、予以外の者に斃される権利などを与えたおぼえはない」
「あの男はバーミリオンでもイゼルローン回廊でも、予を勝たせなかった」(ラインハルト)

 

「予の貴重な将帥を幾人も斃した」
「そのあげくに、予以外の者の手にかかったというのか!」(ラインハルト)

 

「いや、フロイラインにはつねに予の傍にいてもらわねばこまる」
「フロイラインは予の幕僚総監なのだからな」(ラインハルト)

 

「ヤン・ウェンリーを斃す権利は、宇宙でただひとり、わが皇帝の御手に帰するものだ」
「たとえ大神オーディンであろうとも、それを侵すことはかなわぬ」(ロイエンタール)

 

「そうか、そいつは気の毒だ」
「この将来、(後継者は)苦労が多いことだろうな」(ミッターマイヤー)

 

「わが皇帝よ、あなたは私に過分な地位と権力を与えてくださるが」
「何を望んでおられるのか」(ロイエンタール)

 

「私が単に忠実で有益な覇道の歯車であれば、それでいいのか」(ロイエンタール)

 

「卿にはわかっているはずだ、ミッターマイヤー」
「昨日正しかった戦略が今日も正しいとはかぎらぬ」(ロイエンタール)

 

「生まれてきた子に罪はない、か」(ロイエンタール)
「さあな、子を持たぬおれにはわからぬ」(ミッターマイヤー)

 

「いないほうがいいさ、背かれる心配がないからな。だが、もうよそう」
「見たこともない赤ん坊のために、おれたちが争う理由などないさ」(ロイエンタール)

 

「何かこう、宇宙の半分が空虚になってしまったような気がします」(バイエルライン)

 

「ヤン・ウェンリーはわが皇帝と帝国にとって憎むべき敵ではありましたが」
「偉大な用兵家であったことはたしかです」(バイエルライン)

 

「昼が昼らしくあるためには夜を必要とするように」
「わが軍にはあの男が必要だったのではないでしょうか」(バイエルライン)

 

「おれは卿に用兵術は教えたつもりだ」
だがな、いいか、恋人の探しかたと冗談口のたたきかたは自分で勉強しろ」
「自習自得もたまにはよしだ」(ミッターマイヤー)

 

「ああ、そうか、フロイラインを帝国宰相にでもしないかぎり」
「予の(政治的)相談には応じてくれぬのだな」(ラインハルト)

 

「貴族制度などというものは、老人がいずれ墓にはいるように」
「歴史博物館のなかにしか残らなくなるさ」(ミッターマイヤー)

 

「ひとりの貴族が死んで一万人の平民が救われるなら」
「それが予にとっての正義というものだ」(ラインハルト)

 

「餓死するのがいやなら働け」
「平民たちは500年間そうしてきたのだからな」(ラインハルト)

 

「もし予が死んで血族なきときは、予の臣下でも他の何者でもよい」
「実力ある者が自らを帝位にでも王位にでもつけばよかろう」(ラインハルト)

 

「もともと予はそう思っていた」(ラインハルト)

 

「予が全宇宙を征服したからといって」
「予の子孫が実力も名望もなくそれを継承すべき理由はあるまい」(ラインハルト)

 

第八章 遷都令

「オスカー・フォン・ロイエンタール元帥は、軍人としては偉大であり」
「行政官としては有能であった」(メックリンガー)

 

「なぜよりによって三者のうちロイエンタールを、とは」
「後日になってこそ言いうる疑問である…」(メックリンガー)

 

「ヤン未亡人は美しい女性でしたよ」(ミュラー)

 

「このままでは、わが帝国は一酷吏の跋扈するところになってしまう」
「大げさかもしれぬが、毒草は芽のうちに摘むべきだろう」(ルッツ)

 

「あいつは小物だ。その証拠に、実物より大きく映る鏡を見せれば喜ぶ」
「私は奴のほしがる鏡をしめしてやっただけさ」(ルビンスキー)

 

「キルヒアイスの墓がオーディンにある」(ラインハルト)

 

「予が予のつごうで政庁と大本営を遷したからといって」
「故人の眠る場所をほしいままに動かすわけにはいくまい」(ラインハルト)

 

「予はいずれオーディンに還る。だが、その時期はまだ予の掌中にはない」
「還る日までに、すませておかねばならぬことが数多くあるはずだから」(ラインハルト)

 

「フェザーンは近く正式に銀河帝国の首都となる」
「名実ともに宇宙の中心となるのだ」(オーベルシュタイン)

 

「市井の庶民といえども、転居のときにはあらかじめ掃除をするものだろう」
「フェザーンにかぎらず、帝国全土を陛下の御為、清潔にする必要があると卿は思わぬか」(オーベルシュタイン)

 

「虫が食った柱だからといって切り倒せば、家そのものが崩壊してしまうこともあるだろう」
「大と小とを問わず、ことごとく危険人物なるものを粛清し終えた後に、何が残るか」(フェルナー)

 

「軍務尚書自身が倒れた柱の下に敷かれるかもしれんな」(フェルナー)

 

第九章 八月の新政府

「皇帝ラインハルトは、ええかっこをするのが好きだからな」
「ヤン提督が生きている間でさえそうだった」(シェーンコップ)

 

「まして彼が亡きいま、おれたちみたいな小物を相手に」
「こざかしい策略など使う気にはなるまいよ」(シェーンコップ)

 

「生前、あの人はミュラー提督をよく賞めていたわ」
「彼が来てくれたと聞けば喜ぶでしょう。ぜひ会わせてあげたいわ」(フレデリカ)

 

「あなたにお目にかかれて、うれしく思います」
「あなたのご主人は、わが軍にとって最強の、そして最良の敵でした」(ミュラー)

 

「ミュラー提督、このような仮定を申しあげることをお赦しください」(ユリアン)

 

「もし、あなたがたの敬愛なさる皇帝ラインハルトが亡くなったとしたら」
「あなたがたは仰ぐ旗をお変えになりますか?」(ユリアン)

 

「どうせ必要以上のものは置いておけない」
「持っていって自由に費ってもらったほうがいいですよ」(ユリアン)

 

「給料や退職金を出せるわけでもないのですから」(ユリアン)

 

「いまイゼルローンが安泰でいられるのは、皮肉なことに」
「その戦略的価値を失ってしまったからです」(ユリアン)

 

「価値が回復されるとき、つまり帝国に分裂が生じるとき」
「イゼルローンにとって転機がおとずれるでしょう」(ユリアン)

 

「どのみち、急速に事態が変わるとは思っていません」(ユリアン)

 

「国父アーレ・ハイネセンの長征一万光年は50年がかりでした」
「それぐらいの歳月は覚悟しておきましょうよ」(ユリアン)

 

「何と言われてもかまいませんよ」
「成功さえすればね」(ユリアン)

 

「まあ、いいさ。トリューニヒトの能力と知識だけを活用すればよい」
「奴の人格的影響を受ける必要はないだろう」(ロイエンタール)

 

「戦略は正しいから勝つのだが、戦術は勝つから正しいのだ」(ヤン)

 

「だから、まっとうな頭脳を持った軍人なら」
「戦術的勝利によって戦略的劣勢を挽回しようとは思わない」(ヤン)

 

「いや、正確には、そういった要素を計算に入れて戦争を始めたりはしないだろうよ」(ヤン)

 

「戦術は戦略に従属し、戦略は政治に、政治は経済に従属するというわけさ」(ヤン)

 

「ひがんではいけませんな、アッテンボロー提督」
「女に関しては1の下は0。コンマいくつなんてのはないんですから」(ポプラン)

 

銀河英雄伝説9巻

→9巻(第三章)
→9巻(第五章)
→9巻(第七章)
→9巻(第九章)

第一章 辺境にて

「ぼくは君が考えているような、えらい男ではないよ」
ただヤン提督のおそばにいさせてもらって」(ユリアン)

 

「それで、ずっと勝利者のがわに身をおくことができたんだ」
「運がよかっただけだよ」(ユリアン)

 

「じつをいうとね、ヤン提督が生きてらしたころは」
「それほど偉大な人だとも思ってなかったのよ」(カリン)

 

「でも、亡くなってから、すこしだけわかったような気がする」(カリン)

 

「提督の息吹を、わたしたちは直接、感じているけど」
「その息吹はきっと時がたつほど大きくなって、歴史を吹きぬけていくんでしょうね…」(カリン)

 

「歴史とは、人類全体が共有する記憶のことだ、と思うんだよ、ユリアン」(ヤン)

 

「思いだすのもいやなことがあるだろうけど」
「無視したり忘れたりしてはいけないのじゃないかな」(ヤン)

 

「よく60万人以上も残ったものさ」
「物ずきの種はつきないものだ」(アッテンボロー)

 

「あんな不覚悟なやつに、いてもらう必要はない」(アッテンボロー)

 

「立体TVの三文ドラマだったら、視聴者が泣きわめけば」
「死んだ主人公が生きかえるだろう」(アッテンボロー)

 

「だが、おれたちが生きているのは、それほどつごうのいい世界じゃない」
「失われた生命は、けっして帰ってこない世界」(アッテンボロー)

 

それだけに、生命というものがかけがえのない存在である世界に」
「おれたちは生きているんだからな」(アッテンボロー)

 

「だまってろ! 青二才!」
「何だっておれがヤン・ウェンリー以外のやつの命令をきかなくちゃならない?」(ポプラン)

 

「おれには自分に命令を与える相手を、自分で選ぶ権利があるはずだ」
「それが民主主義ってものじゃないか、ええ?」(ポプラン)

 

「器量をためされているのは、ユリアンだけじゃない」
「おれたち全員が、歴史に問われている」(アッテンボロー)

 

「ヤン・ウェンリーを失ったおれたちが」
「なお希望と統一と計画性とを失わずにいられるかどうか、ということをな」(アッテンボロー)

 

「死んでからも働かせるのかい、と、あなたはおっしゃりたいでしょうね」
「でも、あなたがご健在なら、わたしたちがこんな責任を課せられることもなかったのよ」(フレデリカ)

 

「あなたのせいなのよ、ヤン・ウェンリー、全部あなたのせい」
「わたしが軍人になったのも」(フレデリカ)

 

「帝国軍が軍事拠点としてつくったイゼルローンが」
「いつのまにか民主主義の最後の砦になってしまったのも」(フレデリカ)

 

「皆がいつまでもそこにいのこって、祭りの夢を追いつづけているのも」
「ご自分の責任を自覚なさったら、さっさと生きかえっていらっしゃい」(フレデリカ)

 

「生きかえっていらっしゃい」
「自然の法則に反したって、一度だけなら、赦してあげる」(フレデリカ)

 

「そうなったら、今度は、わたしが死ぬまでは死なせてあげないから」(フレデリカ)

 

「自分がこれまで死なせてきた人間の数を考えると、ほんとうに怖いよ」
「一回死んだぐらいでは、償えないだろうね」(ヤン)

 

「世のなかって、けっこう不均衡にできているんだとう思う」(ヤン)

 

「わたしは、たしかにあなたを失いました」
「でも、最初からあなたがいなかったことに比べたら、わたしはずっと幸福です」(フレデリカ)

 

「あなたは何百万人もの人を殺したかもしれないけど」
「すくなくともわたしだけは幸福にしてくださったのよ」(フレデリカ)

 

「ミンツ中尉、どうして黙ってるの? あんたは、不当に非難されているのよ」
「あたしだったら、平手打の二ダースぐらい、こいつにくれてやるわ」(カリン)

 

「あんたは、あんたを信頼し支持してくれている人たちのために」
「自分自身の正当な権利を守るべきではないの?」(カリン)

 

「もう一度言ってみろ」
「暗殺された人間は、戦死した人間より格が下だとでもいうのか」(ユリアン)

 

「さて、この際、あんたのほうはわずかな想像力をはたらかせればいいのさ」(ポプラン)

 

「あんたより年齢がずっと若くて、ずっと重い責任を負わされた相手を」
「口ぎたなくののしるような人間が、周囲の目に美しく見えるかどうか」(ポプラン)

 

「ヤン・ウェンリーの語調を借りれば、こういうことになるかな」
「歴史はどう語るか」(シェーンコップ)

 

「ユリアン・ミンツはヤン・ウェンリーの弟子だった」
「ヤン・ウェンリーはユリアン・ミンツの師だった」
「さて、どちらになるものやら」(シェーンコップ)

 

「はっきりわかっているのは、これだけだ」
「おれたちは、全員そろって、あきらめが悪い人間だということさ」(キャゼルヌ)

 

「ヤン提督の生前はお祭りの準備にいそがしかった」
死後は、残っていた宿題をかたづけるのに骨をおった」(アッテンボロー)

 

第二章 夏の終わりのバラ

「あまり元気ではないよ。エヴァの料理を長いこと食べられなかったからな」
「味覚の水準が低下してしまった」(ミッターマイヤー)

 

「皇帝をお怨みするにはあたらぬ」
「ヴェスターラントに対する熱核攻撃を黙認するよう、皇帝に進言したのは私だ」(オーベルシュタイン)

 

「卿は皇帝ではなく、私をねらうべきであったな」
「妨害する者もすくなく、ことは成就したであろうに」(オーベルシュタイン)

 

「もうヴェスターラントでひとりも殺してはならぬ」
「いいか、彼を殺してはならんぞ」
「処置はおってさだめるゆえ…」(ラインハルト)

 

「あの男の言ったとおりだ」
「予は人殺しで、しかも卑怯者だ」(ラインハルト)

 

「とめようと思えばとめられたのに、予はそうしなかったのだ」
「愚劣なブラウンシュヴァイク公は自らすすんで悪をおかした」(ラインハルト)

 

「そして予は、彼の悪に乗じて、自分が利益を独占した」(ラインハルト)

 

「わかっているのだ。予は卑劣漢だということは」
「予は、皇帝の地位はともかく、兵士たちの歓呼には値しない人間なのだ」(ラインハルト)

 

「陛下は、罪を犯されたとしても、その報いをすでに受けておいでだ」
「と、わたしは思います」(ヒルダ)

 

「そして、それを基調に、政治と社会を大きく改革なさいました」
「罪があり報いがあって、最後に成果が残ったのだ、と思います」(ヒルダ)

 

「どうかご自分を卑下なさいませんよう」
「改革によって救われた民衆はたしかに存在するのですから」(ヒルダ)

 

「フロイライン」
「帰らないでほしい。ここにいてくれ」(ラインハルト)

 

「今夜は、ひとりでいることに耐えられそうにないのだ」
「たのむ、予をひとりにしないでくれ」(ラインハルト)

 

「…はい、陛下、おおせにしたがいます」(ヒルダ)

 

「…お父さま、わたし立てない」(ヒルダ)

 

「もし、フロイライン・マリーンドルフに、その、あのようなことをして」
「責任をとらなかったとしたら」(ラインハルト)

 

「予は、ゴールデンバウム王朝の淫蕩な皇帝どもと同類になってしまう」
「予は、予は、やつらと同類になる気はないのだ」(ラインハルト)

 

「陛下、責任をお感じになる必要はございません」
「私の娘は、自分の意思によって陛下のお相手をつとめたはずでございます」(マリーンドルフ伯)

 

「一夜のことを武器として陛下のご一生をしばるようなことは、あの娘はいたしません」(マリーンドルフ伯)

 

「西暦の17世紀に、北方の流星王と呼ばれる小国の王がいたそうだよ」
「15歳で即位し、しばしば隣国の大軍を破り、軍事的天才として知られた」(マリーンドルフ伯)

 

「30代で死ぬまで、異性であれ同性であれ、ついに肉欲と縁がなかったそうだ」(マリーンドルフ伯)

 

「異常な才能というものは、一方で、どこかそれに応じた欠落を要求するものらしい」
「ラインハルト陛下を見ていると、そう思う」(マリーンドルフ伯)

 

「まあ君主としては、逆の方向へ異常でないだけよいのだがね」(マリーンドルフ伯)

 

「(愛してるかは)わからないわ、わたし。尊敬はしています」
「でも男として、女として、愛しているかどうか、わたし、自信がありません」(ヒルダ)

 

「やれやれ、何もラインハルト陛下にかぎったことではないようだね」(マリーンドルフ伯)

 

「私の自慢の娘も、ときには考えることより感じることのほうを」
「重んじてくれればよいと思うのだがな」(マリーンドルフ伯)

 

「いつも、ではなく、ときには、だがね」(マリーンドルフ伯)

 

人間は、自分より欲望の強い人間を理解することはできても、
自分より欲望の弱い人間を理解することは至難であるから。

 

「偉人だの英雄だのの伝記を、子供たちに教えるなんて、愚劣なことだ」
「善良な人間に、異常者をみならえというも同じだからね」(ヤン)

 

第三章 鳴動

熱狂する群衆のなかで理性を堅持しえる者は、絶対的少数派である。

 

「おれはいい部下を持ったものだ」
「武器を持たぬ民衆に発砲するなど、
勇気と義侠心のない人間には」
「とうてできぬことだからな」(ロイエンタール)

 

「侵略者の善政など、しょせん偽善にすぎぬ、か。そのとおりだな」
「それにしても、どう事態をおさめるか…」(ロイエンタール)

 

「私は単なる(集会の)一参加者にすぎない」
「だが、参加したこと自体が罪と言われれば、甘んじて受けよう」(シトレ)

 

「(責任者は)知らない」
「知っていても、申しあげるわけにはいかない」(シトレ)

 

「釈放されれば、私は今度こそ自分の主導によって」
「あなたがたの不法な支配に対する抗議の運動をおこすことになるだろう」(シトレ)

 

「唯一、私の後悔は、自分が大勢に流されてしまったことだ」(シトレ)

 

「そうなさるべきですな。それが、あなたにとっての正義であり道徳であるのだから」
「あなた個人には何ら怨恨は感じない」(シトレ)

 

「偉大な敵将と戦うのは武人の栄誉だが、民衆を弾圧するのは犬の仕事にすぎぬ」(ロイエンタール)

 

「ヤン・ウェンリー元帥、卿は中道に倒れて、あるいは幸福だったのではないか」(ロイエンタール)

 

「平和な世の武人など、鎖につながれた番犬にすぎぬ」
「怠惰と無為のなかで、ゆっくりと腐敗していくだけではないか」(ロイエンタール)

 

「平和の無為に耐えうる者だけが、最終的な勝者たりうる」(ヤン)

 

「ロイエンタール元帥は猛禽だ」
「籠のなかに安住して平和の歌をさえずりつつ一生をすごせる男ではない」(オーベルシュタイン)

 

「陰気で消極的なビッテンフェルト、女気なしのロイエンタール」
「饒舌なアイゼナッハ、浮気者のミッターマイヤー」(ラインハルト)

 

「無教養で粗野なメックリンガー、いたけだかなミュラー」
「皆、彼ららしくない」(ラインハルト)

 

「人それぞれ個性というものがある」(ラインハルト)

 

「ロイエンタールが法を犯したとか、相手をだましたとかいうならともかく」
「色恋ざたで一方だけを被告席に着かせるわけにもいくまい」(ラインハルト)

 

「キルヒアイスがいなくなったとき、もうこれで失うものは何もないと思ったのに…」(ラインハルト)

 

「智と勇との均衡がとれているという一点において評するなら」
「あの当時、オスカー・フォン・ロイエンタールが」(メックリンガー)

 

「敵と味方をあわせても随一の存在であったと思われる」(メックリンガー)

 

「100の興味が集まれば、事実のひとつぐらいにはなるだろうな」
「とくに、力のある者がそれを望めば、証拠など必要ない」(ロイエンタール)

 

「卿らの憎む、いや、憎んだ専制政治では、とくにな」(ロイエンタール)

 

「ことばで伝わらないものが、たしかにある」
「だけど、それはことばを使いつくした人だけが言えることだ」(ヤン)

 

「正しい判断は、正しい情報と正しい分析の上に、はじめて成立する」(ヤン)

 

「何かを憎悪することのできない人間に、何かを愛することができるはずがない」(ヤン)

 

「生き残っていただかないと、こまるところでした」(ユリアン)

 

「(スール)少佐が健在でいらっしゃるから」
「ぼくたちは、どうにか自分たちをなぐさめることができるんです」(ユリアン)

 

「どうせトリューニヒトの野郎、よからぬことをたくらんでいるに決まってるんだ」
「おれとしては、もう、せめて皇帝にだけは、小物に害されたりしてほしくないんだよ」(アッテンボロー)

 

「もっとも、おれたちだって小物だがな」(アッテンボロー)

 

「まあトリューニヒトの狐野郎が何をしかけても」
「噂に聞くオーベルシュタイン元帥の相手は荷が重いだろうて」(アッテンボロー)

 

「クロイツェル伍長がおれのことをどう思うか」
「それは彼女の問題であって、おれの問題ではないね」(シェーンコップ)

 

「おれが彼女をどう思っているか、ということなら」
「それこそおれの問題だがね」(シェーンコップ)

 

「美人をきらったことは、おれは一度もないよ」
「まして、生気のいい美人をね」(シェーンコップ)

 

「いまにして思うのだけど、ジェシカ・エドワーズ女史が生きてらしたら」
「いいお友だちになれたかもしれないわね」(フレデリカ)

 

「シェーンコップ中将は、卑怯の二文字とは縁がない人よ、と、そう言っただけよ」
「事実ですものね」(フレデリカ)

 

「父親には父親の夜の生活があるものよ」
「第一、家庭団欒の似あう人じゃないわね」(オルタンス)

 

「(彼女たちは)よくもまあ、あんなしょうもないゲームに熱中できるもんだ」
「…しかし、まあ、笑声のほうが、泣声よりずっとましではあるがね」(キャゼルヌ)

 

第四章 発芽

「…皇帝が美貌であったがゆえに、多情であったにちがいない、多情であるべきだ」
「と決めつける者は、好色な醜男の存在を、どう説明するのであろうか」(メックリンガー)

 

「そもそも皇帝はご自身が卓れた芸術品でいらっしゃるのだから」
「わざとらしい芸術に興味をいだかれる必要はないのだ」(ミッターマイヤー)

 

「統治者は芸術に対しては金銭だけ出していればよい」
「目も口も出す必要はない」(ミッターマイヤー)

 

「統治者の好みに媚びることで大家面する、えせ芸術家どもを生みだすだけではないか」(ミッターマイヤー)

 

「今夜、私は、聴いてもわかるはずのない前衛音楽とやらを」
「皇帝のおともで拝聴せねばならないのですよ」(ミュラー)

 

「いっそ戦争なり内乱のほうが、はるかにましです」(ミュラー)

 

「ロイエンタールが予を暗殺などするはずがない」
「予も彼を疑ったりせぬ。恐れもせぬ」(ラインハルト)

 

「卿らはくだらぬ世迷言にたぶらかされて、予と重臣との間を裂くつもりか」(ラインハルト)

 

「ロイエンタール元帥と取っくみあいになる、とでもいうのなら」
「陛下は卿をおつれになるだろうよ」(ルッツ)

 

「だが、今回は平和な旅でなければ困るからな」(ルッツ)

 

「ラングごとき小人の佞言にたぶらかされるような陛下ではない」(ロイエンタール)

 

「現に、この春にも、奴はおれを貧弱な罠におとしこもうとして」
「みじめに失敗したではないか」(ロイエンタール)

 

「わが皇帝がオーベルシュタインやラングごときの木偶になりさがるとすれば」
興ざめもいいところだな」(ロイエンタール)

 

第五章 ウルヴァシー事件

「旧い世代からの無理解は、若い変革者の背負う宿命だ」
「ともに起って、彼らを過去の追憶のなかへ追いやってしまおうぜ、諸君」(ポプラン)

 

「独身主義のほうが、おれを返上しそうにないよ」
「おれも長年、やつと交際してきたのでね、捨てるに忍びなくてね」(アッテンボロー)

 

「指導者に対する悪口を、公然と言えないような社会は開かれた社会とは言えない」(ユリアン)

 

「帝国の人民は、20世代近くにわたって、統治されること、支配されることに慣れてきた」
「彼らにとって政治とは、何かをされること、何かをしてもらうことだった」(ユリアン)

 

「だから、これまでよりずっとよいことをしてくれるローエングラム支配体制を」
「支持するのは当然だ」(ユリアン)

 

「ローエングラム王朝が時の風化作用のなかで自壊への坂道を下りはじめる」
「そのときこそ民主共和制が意味を持ちはじめるのではないだろうか」(ユリアン)

 

「ユリアン・ミンツは作曲家ではなく演奏家だった」
「作家ではなく翻訳家だった」(アッテンボロー)

 

「彼はそうありたいと望んで、もっとも優秀な演奏家に、また翻訳家になったのである」
「彼は出典を隠したことは一度もなかった」(アッテンボロー)

 

「剽窃よばわりされる筋合はまったくない」
「演奏されずに人々を感動させる名曲などというものはないのだ」(アッテンボロー)

 

「陛下には危険を避ける義務がおありです。小官らに誹謗の罪があれば」
後刻つぐないますゆえ、いまは御身の安全だけをお考えください」(ミュラー)

 

「無用の心配をするな、エミール」
「予はいますこし見栄えのする場所で死ぬように決めている」(ラインハルト)

 

「皇帝の墓所はウルヴァシーなどというのは、ひびきがよくない」(ラインハルト)

 

「仮にロイエンタールが叛したとすれば、その計画は、分子がもれる隙もなかろう」
「いまごろは、予も卿らも自由の身ではあるまい。そうではないか…?」(ラインハルト)

 

「新領土において、総督たるロイエンタール元帥には」
「陛下のご安全を保障する責任がありましょう」(ルッツ)

 

「にもかかわらず、この現実、彼が批判に値せぬとは残念ながら思えません」(ルッツ)

 

「撃つがいい。ラインハルト・フォン・ローエングラムはただひとりで」
それを殺す者もひとりしか歴史には残らないのだからな」(ラインハルト)

 

「そのひとりに誰がなる?」(ラインハルト)

 

「ひとりだからよかったが、また新手が来るのは目に見えている。おれが残って奴らを防ぐ」
「卿は陛下を守護したてまつってブリュンヒルトに乗れ」(ルッツ)

 

「おいおい、いちおうおれは卿より5歳ばかり年長なのだぞ、ばかはないだろう」
「年長者の責任をはたすだけのことだ」(ルッツ)

 

「卿には卿にしかはたしえぬ責任をはたせ。いれ以上、形式論を聞かせてくれるなよ」
「そんなことをしたら、謝礼として左腕を撃ちぬいてやるからな」(ルッツ)

 

「予は、卿を、死後に元帥にするがごときを望まぬ」
「いくら遅れてもかまわぬ、後から必ず来いよ」(ラインハルト)

 

「もとより、小官は生きて元帥杖を手にするつもりでございます」
「おそれながら、陛下とは建国の労苦をともにさせていただきました」(ルッツ)

 

「ぜひ今後の安楽と栄華をも、わかちあたえていただきたいと存じますので」(ルッツ)

 

「せっかくの機会だぞ。ローエングラム王朝の上級大将が、どのような死にかたをするか」
「卿らが死ぬにせよ、生き残るにせよ、見とどけていったらどうだ?」(ルッツ)

 

「わが皇帝、あなたの御手から元帥杖をいただくお約束でしたが」
「かなわぬことのようです」(ルッツ)

 

「お叱りはヴァルハラでいただきますが、どうかそれが遠い未来のことであるように…」(ルッツ)

 

「聞いてのとおりだ、ベルゲングリューン」
「おれはローエングラム王朝における最初の叛逆者ということになったらしい」(ロイエンタール)

 

「皇帝に頭を下げるのはかまわぬ」
「いや、臣下としてはそれが当然のことだ。だが…」(ロイエンタール)

 

「反逆者になるのは、いっこうにかまわん」
「だが、反逆者にしたてあげられるのは、ごめんこうむりたいものだな」(ロイエンタール)

 

「たとえ事実と異なっても、いっこうにかまわん」
「おれがそう思いたがっているのだから、そう思わせてくれ」(ロイエンタール)

 

「ヤン・ウェンリーのような用兵の芸術家にならともかく、奴ごときの手で鎖をはめられて」
「おめおめと余生を送るのでは、この身があわれすぎるな…」(ロイエンタール)

 

自分たちは、戦いおえた後、黄金の首輪をはめられた犬となって宮廷に列し、
宝石づくりの檻のなかで酒色と惰眠をむさぼりつつ、老残の身を養うべきなのか。(ロイエンタール)

 

そういう境遇に甘んじて、平和と安逸のなかですこしずつ腐っていくべきなのだろうか。(ロイエンタール)

 

「少年時代が幸福に思えるとしたら」
「それは、自分自身の正体を知らずにいることができるからだ」(ロイエンタール)

 

「ミッターマイヤー、卿ともう一度、酒をくみかわしたかったな」
「おれは自分自身の手で、その資格をそこねてしまったが…」(ロイエンタール)

 

わが友、蜂蜜色の髪をした「疾風ウォルフ」よ、卿はきっとおれのために身命を賭して、
皇帝に弁護してくれるだろう。(ロイエンタール)

 

だが、卿の善意を上まわる悪意が、皇帝とおれとに働きかけている。
おれは自分の矜持のため、戦わざるをえまい。(ロイエンタール)

 

戦うからには、おれは全知全能をつくす。勝利をえるために、最大限に努力する。
そうでなくては、皇帝に対して礼を失することになろう…。(ロイエンタール)

 

「民主共和政治とやらの迂遠さは、しばしば民衆をいらだたせる」(ロイエンタール)

 

「迅速さという一点で、やつらを満足させれば」
「民主共和制とやらにこだわることもあるまい…」(ロイエンタール)

 

「おどろくことはない。おれが欲するのは、帝国の支配権だ」
「旧同盟領など、民主共和主義者の残党どもに、くれてやる」(ロイエンタール)

 

「いずれにしても、軍事上の不利を自ら招くことはないからな」
「策は打っておくとしよう」(ロイエンタール)

 

「もし奴らが望むなら、民主政治の裏ぎり者」
「ヨブ・トリューニヒトの生身なり首なりを付録につけてやってもよい」(ロイエンタール)

 

「そのことを忘れずにな」(ロイエンタール)

 

「思うに、ロイエンタールは、地位が高まり、舞台が広がるのに応じて」
「力量を充実させていく男です」(メルカッツ)

 

「リップシュタット戦役以前は、経験の差で」
「彼に負けるとは、私は思っていませんでしたな」(メルカッツ)

 

「当然、彼が皇帝ラインハルトにおよぶはずもないと考えていました」
「ですが、二正面作戦を避け、補給の限界を待てば、活路があるかもしれませんな」(メルカッツ)

 

第六章 叛逆は英雄の特権

「ルッツを帝国元帥に叙する」
「彼はいやがるだろうが、約束を破った者に対する、これは罰だ…」(ラインハルト)

 

「そのようなたわごとは、今年の霜と同じく、春先に消えてしまったと思っていたが」
「そうではなかったらしいな」(ミッターマイヤー)

 

「きさまも夏に雪を降らせて喜ぶ輩か」(ミッターマイヤー)

 

「卿を残した理由は、諒解していよう。ロイエンタールは当代の名将だ」
彼に勝利しうる者は、帝国全軍にただ二名、予と卿しかおらぬ」(ラインハルト)

 

「ゆえに、卿を残した」
「意味はわかろう?」(ラインハルト)

 

「…おれは、ロイエンタールのやつに負けてやりたい」
「いや、こいつはうぬぼれもいいところだな」(ミッターマイヤー)

 

「全知全能をあげても、おれはロイエンタールに勝てはしないだろうに」(ミッターマイヤー)

 

「皇帝の御手を汚してはならんのだ」(ミッターマイヤー)

 

「ロイエンタールとおれと、双方が斃れても、銀河帝国は存続しうる」(ミッターマイヤー)

 

「だが皇帝に万一のことがあれば」
「せっかく招来した統一と平和は、一朝にして潰えるだろう」(ミッターマイヤー)

 

「勝てぬとしても、負けるわけにはいかんのだ」(ミッターマイヤー)

 

「オーベルシュタインはいい」
「だが、いまひとり、奴は、奴だけは赦せぬ」(ミッターマイヤー)

 

「おれは出陣にさきだって、陛下のおんために、害虫を駆除してさしあげねばなるまい」(ミッターマイヤー)

 

「いずれにしても、生前の地位など、これから将先の卿には無要のものだろう」
「いいか、そこをうごくなよ、おれが行くまで」(ミッターマイヤー)

 

「ラングの非道をただすには、法をもってする」
「でなければ、ローエングラム王朝の、よって立つ礎が崩れますぞ」(ケスラー)

 

「重臣中の重臣、宿将中の宿将であるあなたに」
「そのことがおわかりにならぬはずはありますまい」(ケスラー)

 

「わが皇帝に敗れるにせよ、滅びるにせよ」
「せめて全力をつくして後のことでありたいものだ」(ロイエンタール)

 

「戦うからには勝利を望むべきだ。最初から負けることを考えてどうする」
「それとも、敗北を、滅亡をお前は望んでいるのか」(ロイエンタール)

 

「度しがたいな、吾ながら…」(ロイエンタール)

 

「いつ予がオーベルシュタインやラングごときに国政の壟断を許したか!」(ラインハルト)

 

「かりにロイエンタールの言うとおりだとしたら」
「そもそも彼が新領土総督になりうる道理がないではないか」(ラインハルト)

 

「叛逆を正当化するために、そこまで予を貶める必要があるのか!」(ラインハルト)

 

「…フロイラインに言われるまでもない」
「ラングとやらが小人であることは、予も承知している」(ラインハルト)

 

「だが鼠一匹、倉庫の穀物を食い荒らすとしても、被害は知れたものだし」
「そのていどの棲息を許しえないようでは、銀河帝国も狭すぎるではないか」(ラインハルト)

 

「…ルッツはよく予を見すてずにいてくれたものだ」
「それどころか、生命を擲って予を救ってくれた」(ラインハルト)

 

「予は愚かだった」
「小人の権利を守って、有能な忠臣に不満と不安をいだかせていたとはな」(ラインハルト)

 

「あなた、ウォルフ、わたしはロイエンタール元帥を敬愛しています」
「それは、あの方があなたの親友でいらっしゃるから」(エヴァンゼリン・ミッターマイヤー)

 

「でも、あの方があなたの敵におなりなら」
「わたしは無条件で、あの方を憎むことができます」(エヴァンゼリン)

 

「心配しなくてもいいよ、エヴァ」
「第一、まだ、かならず戦うことになるとは決まっていないからね」(ミッターマイヤー)

 

「陛下はラング内務次官を逮捕なさったし」
「それでロイエンタールの気もすむかもしれないのだからね」(ミッターマイヤー)

 

「だから、祈るとしたら、戦わずにすむように、と、そう祈ってほしいな」
「ぜひそうしておくれ、エヴァ」(ミッターマイヤー)

 

第七章 剣に生き…

「いや、ワーレン提督、お気づかいは必要ない」(ミッターマイヤー)

 

「ロイエンタール元帥とおれとの友誼は、つまるところ私事であって」
「公務の重さと比較はできないからな」(ミッターマイヤー)

 

「ロイエンタールがひざを折る相手は、宇宙にただひとり」
「わが皇帝ラインハルト陛下があるのみだろう」(ミッターマイヤー)

 

「それに先だって軍務尚書にひざを折るということが、彼には耐えられないにちがいない」
「おれだっていやではあるが…」(ミッターマイヤー)

 

「予に問題があるのではない。ロイエンタールのほうにこそ、卿は問うべきだ」
「いや、すぎたことについてではない。これからのことだ」(ラインハルト)

 

「ひとたび叛旗をかかげ、戦い終わって後、予に頭をさげて助命を請う気があるかどうか」
「そのことを卿はロイエンタールに問うべきなのだ。そうではないか?」(ラインハルト)

 

「だが、ロイエンタールを討って、それでおれの心は安らぎをえるのだろうか」(ラインハルト)

 

「奴が頭をさげさえすればよいではないか。そうすれば、あえて奴を討つ必要はない」
「ロイエンタールのほうにこそ、この事態により大きな責任がある」(ラインハルト)

 

「おれに頭をさげるのが、それほど嫌か」(ラインハルト)

 

「ヤン・ウェンリーの後継者が」
「単に目前の混乱を利用しようとする小策士であるにすぎないなら」(ラインハルト)

 

「ロイエンタールに加担するであろうよ」
「いずれにしても奴ら自身が決めることだ」(ラインハルト)

 

「ミッターマイヤー、おれも卿と戦いたくはない」
「だが、あえておれは卿と戦う」(ロイエンタール)

 

「なぜかと問うか?」
「戦って卿を斃さぬかぎり、皇帝はおれと戦ってくださらぬだろうからだ」(ロイエンタール)

 

「おれは自分が何のためにこの世に生を亨けたか、長いことわからなかった」
「知恵なき身の悲しさだ。だが、いまにしてようやく得心がいく」(ロイエンタール)

 

「おれは皇帝と戦い、それによって充足感をえるために」
「生きてきたのではなかったのか、と」(ロイエンタール)

 

「疾風ウォルフの約束には、万金の値があるな」
「いや、だめだ、ミッターマイヤー」(ロイエンタール)

 

「卿の身は、おれの存在などと引きかえてよいものではない。卿はつねに正道をゆく」
「おれにはできぬことだ。おれにできることは…」(ロイエンタール)

 

「酔っているな、卿は」
「酒にではない、血の色をした夢に酔っている」(ミッターマイヤー)

 

「夢は醒める。さめた後どうなる?」
「卿は言ったな、皇帝と戦うことで充足感をえたいと」(ミッターマイヤー)

 

「では戦って勝った後、どうするのだ」
「皇帝がいなくなった後、どうやって卿は心の飢えを耕すつもりだ?」(ミッターマイヤー)

 

「夢かもしれんが、いずれにしてもおれの夢の話だ。卿の夢ではない」
「どうやら接点も見出しえないようだし、もう無益な長話はやめよう」(ロイエンタール)

 

「…さらばだ、ミッターマイヤー、おれが言うのはおかしいが、皇帝を頼む」
「これはおれの本心だ」(ロイエンタール)

 

「ロイエンタールの大ばか野郎!」(ミッターマイヤー)

 

「ロイエンタールの弱点は、信頼すべき副司令官が存在しないことにある」
「作戦を立案する点において問題などないが、それを実行できるかどうかだ」(ミッターマイヤー)

 

「移動も展開も、何という迅速さだ」
「だが、惜しいことに、陣容が薄い」(ロイエンタール)

 

「むりもない」
「ミッターマイヤーの快足に、凡人がついてこれるものではないからな」(ロイエンタール)

 

「前進、力戦、敢闘、奮励」
「突撃だ! ミッターマイヤーに朝食を摂る時間をつくってやろう」(ビッテンフェルト)

 

「醜態を見せるな! 帝国軍どうし戦うのは、リップシュタット戦役で経験ずみではないか」
「いまさら何をうろたえる!?」(ビッテンフェルト)

 

「青二才に、用兵の何たるかを教えてやるとしようか」(ロイエンタール)

 

「現にしてやられつつあるところだ。完了形で言うのは早すぎる」
「この後に逆接の接続詞をつづけたいものだな」(ミッターマイヤー)

 

「ロイエンタールが完璧だとしても、部下どもはそうではない」
「そのあたりに活路が開けるだろう」(ミッターマイヤー)

 

「退くな! 退くなと言っておるだろうが!」
「退く奴は、かまわん、王虎(ケーニヒス・ティーゲル)の主砲で吹きとばしてやれ」(ビッテンフェルト)

 

「卑怯者として生きのびるより、はるかに武人の本懐だろうよ!」(ビッテンフェルト)

 

「ヤン・ウェンリーがいかに苦心したか、ようやくわかったような気がする」
「その真の偉大さもな」(ロイエンタール)

 

「一度失ったものを、もう一度失っても、べつに不自由はせんよ」(ワーレン)

 

「さて、これで悪運を切り離したぞ」
「恐れるべきものは、怯懦のみだ」(ワーレン)

 

「そうだな、なるべく早く頼むよ」
「腰が落ちついてしまうと、つい若い連中のやることに口を出したくなる」
「もう私の席はここにはないのにな」(ムライ)

 

「拒否するか、そうだろうな」
「何、私は君たちに条件を伝えるだけだ。交渉を成立させる責任はないのでね」(ムライ)

 

「じつは、ユリアン、君に謝罪しなくてはならんな」
「私は君が目前の利にとらわれて判断を誤るのではないか、と思ったのだ」(ムライ)

 

「だから、出しゃばりでも、制止せねばならんと考えたのだ」(ムライ)

 

「だが、私などの心配は無用だったな」
「君はやはりヤン提督の一番弟子だった」(ムライ)

 

「ユリアン、ひとつおれをムライ中将といっしょにハイネセンに行かせろよ」(シェーンコップ)

 

「主目的はそれだが、ついでにやっておきたいことがあるのでな」
「つまり、左手にロイエンタール元帥の首…」(シェーンコップ)

 

「そして右足の下に、ヨブ・トリューニヒトの首。右手に戦斧」
「この姿で記念写真を撮影して、ジャーナリズムに売りこんでやりたいのでね」(シェーンコップ)

 

「死ぬのがこわくて生きていられるか」(ポプラン)

 

「さすがに当代の名将だ。戦いつつ後退し、しかもまったく混乱がない」
「戦術の教科書にも、これほどみごとな例は載っていないだろう」(ワーレン)

 

第八章 剣に斃れ

「不幸な内戦は、いま唯一のささやかな幸福を吾々にもたらそうとしている」
「つまり、終結するのだ」(メックリンガー)

 

「終結がないよりまし、というていどのものではあるが…」(メックリンガー)

 

「こちらの要請に応じて通してくれるというのだ、通してもらうほうがいい」(メックリンガー)

 

「ありがたいことに、ヤン・ウェンリーは、もののわかった後継者を遺してくれたようだな」
「先方にはべつの思案があるだろうが、それは将来のこととしておいてよかろう」(メックリンガー)

 

「用心すれば雷神のハンマーが無力化できるのかね?」(メックリンガー)

 

「だとしたら、いくらでも用心するが」
「もはや吾々にはそのような権利はないのだ、と私は思っている…」(メックリンガー)

 

「いっそ帝国軍が撃ってこないものかな」
「そうすれば、雷神のハンマーで、やさしく頭をなでてやるのに」(アッテンボロー)

 

「贅沢は言わない、ちょっと花火見物をしたい」
「はでになったらそれでもいいけどな」(ポプラン)

 

「要するに敵も味方もセンチメンタリストの集まりだってことだな」
「イゼルローンは聖なる墓、か」(シェーンコップ)

 

「(展望は)そんなところです」
「でも、平坦な道だと思っているわけではありません」(ユリアン)

 

「いうなれば、宇宙はひとつの劇場だよ」(ヤン)

 

「騒ぐな、負傷したのはおれだ、卿ではない」(ロイエンタール)

 

「放っておけ」
「ここで生き残ったほうが、奴にはかえって不運だ」(ロイエンタール)

 

「皇帝も、ミッターマイヤーも、あのような輩を赦しておくものか」(ロイエンタール)

 

「手術は好きじゃないな」(ロイエンタール)

 

「いや、好き嫌い以上の問題だ、軍医」
「おれにはパジャマを着て病院のベッドで死ぬのは似あわない」
「そう思わんか?」(ロイエンタール)

 

「心配するな。それより、軍服とシャツの着がえを持ってきてくれ」
自分の血の匂いというやつは、五分も嗅いでいると飽きるものでな」(ロイエンタール)

 

「どのみち、おれたちの人生録は、どのページをめくっても、血文字で書かれているのさ」
「いまさら人道主義の厚化粧をやっても、血の色は消せんよ」(ビッテンフェルト)

 

「思うに、ウルヴァシーで皇帝陛下に危害を加えようとした首謀者は」
「ロイエンタール元帥ではあるまい」(メックリンガー)

 

「第一に、彼の為人にそぐわぬ」
「第二に、彼の能力にふさわしくない」(メックリンガー)

 

「…ふたりの人間の野心を、同時代に共存させるには」
「どうやら銀河系は狭すぎるらしい…」(メックリンガー)

 

「裏ぎりによって勝つことなど、皇帝がお望みになると思うか!」
「…いや、そう思ったからこそ、卿はロイエンタール元帥を裏ぎったのだな」(メックリンガー)

 

「ねずみの知恵は、獅子の心を測ることはできぬ」
「卿もついに、獅子の友となりえぬ男だったか」(メックリンガー)

 

「ミュラーが旗艦を棄てて賞賛されたのは、激戦の渦中で指揮をつづけたからだ」(ロイエンタール)

 

「敗れて逃げる身が、旗艦までも棄てたとあっては」
「オスカー・フォン・ロイエンタールの名は臆病者の代名詞になるだろうよ」(ロイエンタール)

 

「そうか、案外、世のなかにはばかが多いな」(ロイエンタール)

 

「きさまが民主共和政治を愚弄しようと、国家を喰いつぶそうと、市民をたぶらかそうと」
「そんなことは、おれの関知するところではない。だが…」(ロイエンタール)

 

「だが、その穢らわしい舌で、皇帝の尊厳に汚物をなすりつけることは赦さん」(ロイエンタール)

 

「おれはきさまごときに侮辱されるような方におつかえしていたのではないし」
「背いたのでもない」(ロイエンタール)

 

「どこまでも不愉快な奴だったな」
おれが生涯の最後に殺した人間が武器を持っていなかったとは…」(ロイエンタール)

 

不名誉な所業を、おれにさせてくれたものだ」(ロイエンタール)

 

「じゃまをせんでほしいな」
「おれは死ぬのではなく、死んでいく」(ロイエンタール)

 

「その過程を、けっこう楽しんでいるところだ」
「おれの最後の楽しみをさまたげんでくれ」(ロイエンタール)

 

「もうすこしだけ待っているがいい。望みがかなう」
「どうせなら、おれも、女性の望みをかなえてやりたい」(ロイエンタール)

 

「古代の、えらそうな奴がえらそうに言ったことばがある」(ロイエンタール)

 

「死ぬにあたって、幼い子供を託しえるような友人を持つことがかなえば」
「人生最上の幸福だ、と…」(ロイエンタール)

 

「ウォルフガング・ミッターマイヤーに会って、その子の将来を頼むがいい」
「それがその子にとっては最良の人生を保障することになる」(ロイエンタール)

 

「遅いじゃないか、ミッターマイヤー…」
「卿が来るまで生きているつもりだったのに、まにあわないじゃないか」(ロイエンタール)

 

「疾風ウォルフなどという、たいそうなあだ名に恥ずかしいだろう…」(ロイエンタール)

 

第九章 終わりなき鎮魂曲

「表面的には互角に見えるかもしれないが、おれにはワーレンとビッテンフェルトがいた」
「ロイエンタールには誰もいなかった」(ミッターマイヤー)

 

「いずれが勝者の名に値するか、論議の余地もない」(ミッターマイヤー)

 

「キルヒアイス元帥も亡くなった。ロイエンタール元帥も」
「ヴァルハラへおもむいて、おふたりに挨拶する以外、もはや楽しみはない」(ベルゲングリューン)

 

「皇帝陛下にお伝えしてくれ」
「忠臣名将をあいついで失われ、さぞご寂寥のことでしょう、と」
つぎはミッターマイヤー元帥の番ですか、と」(ベルゲングリューン)

 

「功に報いるに罰をもってして、王朝の繁栄があるとお思いなら」
「これからもそうなさい、と」(ベルゲングリューン)

 

「あれを見たか。おれは一生、この光景を忘れられないだろう」
「疾風ウォルフが泣いているぜ…」(バイエルライン)

 

「おれ自身が戦ってこそ、ロイエンタールを満足させてやれたのだろうか…」(ラインハルト)

 

「卿がこれまで犯罪容疑者をどのように遇してきたか、記憶があるとすれば」
「あまり強情をはらぬほうがよいとわかるだろう」(ケスラー)

 

「卿が独占してきた効果的な尋問法を、卿自身の上にためしてもよいのだぞ」(ケスラー)

 

「それにしても、私も口数が多くなったものだ」(オーベルシュタイン)

 

「卿は死ぬな。卿がいなくなれば、帝国全軍に」
「用兵の何たるかを身をもって教える者がいなくなる」(ラインハルト)

 

「予も貴重な戦友を失う」
「これは命令だ、死ぬなよ」(ラインハルト)

 

「ロイエンタール元帥のお子さんをミッターマイヤー元帥がお育てになるのですもの」
「どれほどの名将が誕生しますことか」(ヒルダ)

 

「あなたは帝国軍の至宝でいらっしゃいます」(ヒルダ)

 

「陛下のご身辺が寂しくなってまいりましたけども、どうぞ元帥には」
「今後もかわることなく、陛下をお守りいただけるよう、お願いします」(ヒルダ)

 

「私は、故人となったジークフリード・キルヒアイスにも」
「オスカー・フォン・ロイエンタールにも、遠くおよばず、才とぼしき身です」(ミッターマイヤー)

 

「たまたま生き残っただけで、過分の呼称をいただくのは心ぐるしいかぎりですが」
「お約束させていただきましょう」(ミッターマイヤー)

 

「彼らの分まで皇帝におつかえいたします」
「たとえ皇帝が何をなさろうとも、私の忠誠心は不変であることを誓約いたします」(ミッターマイヤー)

 

「風邪などひいたらたいへんです、陛下」
「お腹の子供にさわりますから」(ヒルダ)

 

「はい、陛下、お受けいたします」
「わたしでよければ…」(ヒルダ)

 

「フロイライン・マリーンドルフ、いえ、ヒルダさん」
「弟を好きになってくださって、ありがとうございます」(アンネローゼ)

 

「あなたのような方が、弟のそばにいてくださって、弟は幸福です」
「どうかラインハルトのことをよろしくお願いしますわね」(アンネローゼ)

 

「私の指揮で、何百万人という将兵が死んでいったよ」
「死にたくなんてなかったろうに」(ヤン)

 

「誰だって平和で豊かな人生を送りたかったろうに」
「私だってそうだったさ」(ヤン)

 

「惜しむべき人間が死なずにすむなら」
「戦争もそれほど悪いものじゃないかもしれないけどね…」(ヤン)

 

「あの人は、仲間うちのお祭り騒ぎをきらったことは一度もありませんでした」
「むしろあの人のために、にぎやかにやってくださるよう、お願いします」(フレデリカ)

 

銀河英雄伝説10巻

→10巻(第三章)
→10巻(第五章)
→10巻(第七章)
→10巻(第九章)

第一章 皇紀誕生

「なあ、エヴァンゼリン、おれに政治家がつとまると思うかい」(ミッターマイヤー)

 

「どういうおつもりでおっしゃってるのか、わかりませんけど」
「ウォルフ、あなたは公明正大な方ですわ」(エヴァンゼリン)

 

「それは政治家でなくても、りっぱな資質だと思いますけど」(エヴァンゼリン)

 

「わたしには、お願いすることしかできないのです」(アンネローゼ)

 

「その結果、弟に献身してくれた人を不幸にしてしまいましたが」
「ヒルダさんは幸福になってくださいね」(アンネローゼ)

 

「フロイライン・マリーンドルフ…」
「いや、もうこの呼びかたはおかしいな」(ラインハルト)

 

「あなたと予とは結婚するのだし」
「そうなれば、あなたはもうフロイラインではない」(ラインハルト)

 

「これから、あなたをヒルダと呼ぶことにする」
「だから、あなたも予を陛下などと呼ばず、ラインハルトと呼んでほしい」(ラインハルト)

 

「はい、陛下」(ヒルダ)
「ラインハルト」(ラインハルト)
「はい、ラインハルト…さま」(ヒルダ)

 

「おれの本心を言うとな、ミュラー提督」
「皇帝は結婚式の花婿としては、おそれおおいことながら、ただの美青年にすぎぬ」(ビッテンフェルト)

 

「だが、全軍の先頭に立つ大元帥としては、まことに、神々しいほどの御方だ」(ビッテンフェルト)

 

「吉事は延期できるが、兇事はそうはいかぬ」(オーベルシュタイン)

 

「まして国家の安寧にかかわりあること、陛下のご裁断がどう下るかはともかく」
「お耳に入れぬわけにはいかぬ」(オーベルシュタイン)

 

「筋がちがう。一方の罪を明らかにするため、他方の罪を免じるというのでは」
「そもそも法の公正がたもてないではないか」(ケスラー)

 

「イゼルローンを撃つべし!」
「あれこそ新帝国の統一と平和を阻害する、最大の要因ではないか」(ビッテンフェルト)

 

「ルビンスキーなどが蠢動するのも、つまるところ」
「イゼルローンの武力を頼りにしているからだ」(ビッテンフェルト)

 

「フロイライン、いや、ヒルダ」
「予には支配者としての義務があって、それをはたさねばならぬ」(ラインハルト)

 

「すぐに予が親征することはないが、身重のあなたを遺して征旅に発つ可能性は大いにある」
「赦してもらえるだろうか」(ラインハルト)

 

「どうぞ、陛下の御意に」(ヒルダ)

 

第二章 動乱への誘い

政治的な要望と軍事的な欲求とは、しばしば背馳する。

 

「ユリアン、あんたを司令官として認めたときに、皆、決断してるのよ」
あんたの判断と決定に、全面的にしたがうって」(カリン)

 

「それが嫌な連中は、出ていってしまったじゃないの」
「いま、遠慮なしにあんたが決断することこそ、期待にこたえる唯一の道じゃないかしら」(カリン)

 

「善政の基本というやつは、人民を飢えさせないことだぞ、ユリアン」
「餓死してしまえば、多少の政治的な自由など、何の意味もないからな」(キャゼルヌ)

 

「帝国の経済官僚たちは、さぞ青くなっているだろうよ」
「もしこれが帝国本土まで波及したら、と」(キャゼルヌ)

 

「ユリアン、陰謀だけで歴史が動くことはありえないよ」
「いつだって陰謀はたくらまれているだろうが、いつだって成功するとはかぎらない」(ヤン)

 

「負けるけんかは嫌いだ」(アッテンボロー)

 

「一戦まじえましょう、帝国軍と」(ユリアン)

 

「そうか、それもいいさ。おれたちは変化を待っていた」
「いま変化がおこった」(シェーンコップ)

 

「これに乗じて、変化の幅を大きくするのも、りっぱな戦略だ」(シェーンコップ)

 

「時きたるというわけだ」
「果物にも、戦いにも、女にも、熟れごろがあるものさ」(ポプラン)

 

「ぼくは皇帝ラインハルトという人の為人について、ずいぶん考えてみました」
「そして、考えついたことがあります」(ユリアン)

 

「その(戦いを嗜む)点です」
「これはぼくが考えているだけで、かならずしも唯一の正解とはいえないかもしれません」(ユリアン)

 

「ですが、こう考えたからこそ、ぼくは帝国との戦いを決意したんです」(ユリアン)

 

「巨像が薄氷を踏むようなものだ」(メルカッツ)

 

敵をして、その希望がかなえられるかのように錯覚させる。(ヤン)

 

さらに、それ以外の選択肢が存在しないかのように、彼らを心理的に追いこみ、
しかもそれに気づかせない。(ヤン)

 

「私もこのごろ、ようやく艦艇の動かしかたに、すこし自信が持てるようになりました」
「平和になったら、えらそうに本など書いてみましょうか」(フィッシャー)

 

「アッテンボロー提督にばかり印税をかせがせることもありますまいし」(フィッシャー)

 

「イゼルローンの捨犬だと。言ってくれるじゃないか」
「おれたちを何だと思ってるんだ、奴らは」(アッテンボロー)

 

「宇宙の恥さらし。平和と統一の敵」
「血迷った叛逆者」(ポプラン)

 

「首に縄をかけて白刃の上でダンスしている血まみれのピエロ」
「明日の死を考えもしない楽天主義の純粋培養物…」(ポプラン)

 

「おれには自虐趣味はありませんが」
「ええ、あなたたちの悪口ですよ」(ポプラン)

 

「ま、いずれにしても明日、死ぬことができるのは」
「今日、生きのびることができるやつだけさ」(アッテンボロー)

 

「逃げだせ、逃げてくれ」(ユリアン)

 

「同情するふりをしてもらわなくて結構だ」
エキジビジョン・ゲームは二流俳優にまかせて、名優は皇帝陛下御前興行に出演するさ」(シェーンコップ)

 

「むろん、惑星ハイネセン奪還作戦に決まっている」
「そう遠くのことでもあるまい」(シェーンコップ)

 

第三章 コズミック・モザイク

「皇紀の忠告はもっともだが、寝台の端に蚊が一匹ひそんでいては、安眠もできかねる」
「戦いは共和主義者どもが望んだことだ、望みをかなえてやろうではないか」(ラインハルト)

 

「能ある者が味方ばかりでは、戦う身としてはりあいがなさすぎる」
「まして、ヤン・ウェンリーを失って、宇宙は寂寥を禁じえぬところだ」(ミッターマイヤー)

 

「メルカッツ健在と聞けば、おれはむしろうれしさを感じる」(ミッターマイヤー)

 

「皇紀ヒルデガルド、皇帝はあなたのものです」
「あなたひとりのものです」(アンネローゼ)

 

「どうかお離しにならないよう」
「そして見捨てないでやって下さいましね」(アンネローゼ)

 

「お心づかい、ほんとうに感謝します」
「でも、弟がわたしのものだったのは、ずっと昔のことです」(アンネローゼ)

 

「三年半前、弟は、わたしに見離されたと思ったかもしれません」
「いえ、きっとそう思ったでしょう」(アンネローゼ)

 

「わたしは弟が慰めを欲していることを、むろん知っていました」
「でも、同時に、別のこともわかっていたのです」(アンネローゼ)

 

「ね、ヒルダさん、おわかりいただけるでしょうか」
「弟は、過去をわたしと共有しています」(アンネローゼ)

 

「でも、弟の未来は、あなたと共有されるものです」
「いえ、あなたたちと…」(アンネローゼ)

 

「何でおれが、オーベルシュタインの指揮を戦場で受けねばならんのだ」
「おれは自分の失敗には責任をとるが、奴の失敗まで引き受ける気はないぞ」(ビッテンフェルト)

 

「奴は軍務省のデスクの前で生きてきたのだから」
「死ぬときもデスクの前で死ねばいいのさ」(ビッテンフェルト)

 

「もしジークフリード・キルヒアイスが生きていれば」
「こんな不愉快な人事とも無縁でいられたろうよ」(ビッテンフェルト)

 

「いい奴ほど早く死ぬ」(ビッテンフェルト)

 

「カリン、この前はおめでとう」
「戦果にではなくて、生還したことによ」(フレデリカ)

 

「あたしだって子供です。自分でもよくわかってます」
「他人に言われると癪だけど、自分ではわかってるんです」(カリン)

 

「たとえば、こうよ。あなたが大きくなったとき、男の人に」
「わたしはあのことを知ってるわよ、と言っておやりなさい」(オルタンス)

 

みんな必ずぎくりとするでしょう」
「これが母さんの予言よ」(オルタンス)

 

「地球には、ぼくの心を惹くものは何もなかった」
「あそこにあるのは過去であって未来ではないと思った」(ユリアン)

 

「未来が存在する場所は、すくなくとも地球ではなくて…」(ユリアン)

 

「切札がなくても勝負しなけりゃならんときがあるんだ。今年がそのときだ」
「お前はどう思っているか知らんが…」(ルビンスキー)

 

「たしかに、あんたは衰弱しているわね」
「そんな陳腐な台詞を吐く人間じゃなかったのに、表現力が貧しくなったわ」(ドミニク)

 

「以前はもうすこし気のきいたことが言えた人なのにね」(ドミニク)

 

「あんたが死んだ後、あんたが皇帝ラインハルトに対してどうふるまったか、戦ったのか」
「それとも足をすくおうとしただけか、他人が決めてくれるわ」(ドミニク)

 

「そして、あんたは、その評価に抗議することもできないのよ」(ドミニク)

 

「死ぬことなど、すこしも恐くはない」
「だが、オーベルシュタインの巻きぞえになるのは、ごめんこうむる」(ビッテンフェルト)

 

「奴と同行してヴァルハラへ行くことにでもなったら」
「おれは奴をワルキューレの車から突き落としてやるからな」(ビッテンフェルト)

 

「ビッテンフェルト家には、代々の家訓がある、他人をほめるときは大きな声で」
「悪口をいうときはより大きな声で、というのだ」(ビッテンフェルト)

 

「民主共和主義者とかいう奴らには、言いたいことを言わせておけばいいのさ」
「どうせ口で言っていることの1パーセントも実行できるわけではないからな」(ビッテンフェルト)

 

「うかがおう、ビッテンフェルト提督、ただし手みじかに、かつ理論的に願いたい」(オーベルシュタイン)

 

「噂にもとづいて批判されるとは心外だ」
「そう(事実ではないと)は言っておらぬ」(オーベルシュタイン)

 

「軍事的浪漫主義者の血なまぐさい夢想は、このさい無益だ」
「100万の将兵の生命をあらたに害うより」(オーベルシュタイン)

 

「1万たらずの政治犯を無血開城の具にするほうが」
「いくらかでもましな選択と信じる次第である」(オーベルシュタイン)

 

「実績なき者の大言壮語を、戦略の基幹にすえるわけにはいかぬ」
もはや武力のみで事態の解決をはかる段階ではない」(オーベルシュタイン)

 

「皇帝ラインハルト陛下のおんもとにあって、戦場を往来し」
「陛下のおんために雄敵のことごとくを斃してきた吾らだ」(ビッテンフェルト)

 

「何をもって実績なしと方言するか」(ビッテンフェルト)
「卿らの実績とやらは、よく知っている」(オーベルシュタイン)

 

「卿ら三名あわせて、ヤン・ウェンリーただひとりに」
「幾度、勝利の美酒を飲ませるに至ったか。私だけでなく敵軍も…」(オーベルシュタイン)

 

「ミュラー提督らしからぬ不見識だ。黒色槍騎兵は帝国軍の一部隊」
「ビッテンフェルト提督の私兵ではあるまい」(オーベルシュタイン)

 

「その皇帝の誇りが、イゼルローン回廊に数百万将兵の白骨を朽ちさせる結果を生んだ」(オーベルシュタイン)

 

「一昨年、ヤン・ウェンリーがハイネセンを脱してイゼルローンに拠ったとき」
「この策を用いていれば、数百万の人命が害われずにすんだのだ」(オーベルシュタイン)

 

「帝国は皇帝の私物ではなく、帝国軍は皇帝の私兵ではない」(オーベルシュタイン)

 

「皇帝が個人的な誇りのために、将兵を無為に死なせてよいという法がどこにある」
「それでは、ゴールデンバウム王朝の時代と、何ら異ならぬではないか」(オーベルシュタイン)

 

軍務尚書の主張は、おそらく正しい、
だが、その正しさゆえに、人々の憎悪を買うことになるだろう。(フェルナー)

 

第四章 平和へ、流血経由

「予は誤ったようだ。オーベルシュタインは、いついかなる状況においても」
「公人としての責務を優先させる」(ラインハルト)

 

「そのあらわれかたこそが、他者に憎悪されるものであったのにな」(ラインハルト)

 

「皇紀、予はオーベルシュタインを好いたことは、一度もないのだ」(ラインハルト)

 

それなのに、顧みると」
「もっとも多く、あの男の進言にしたがってきたような気がする」(ラインハルト)

 

「あの男は、いつも反論の余地を与えぬほど、正論を主張するからだ」(ラインハルト)

 

「彼女たち(宮廷の美女)は、皮膚はまことに美しいが」
「頭蓋骨のなかみはクリームバターでできている」(ラインハルト)

 

「おれはケーキを相手に恋愛するつもりはない」(ラインハルト)

 

「ビッテンフェルトには、すぎた部下たちだな」
「上官が無謀でも、よい部下は育つと見える」(ワーレン)

 

「毒なんぞ、とうに免疫になっておるさ」
「おれはオーベルシュタインの奴と何年もつきあってきたからな」(ビッテンフェルト)

 

「オーベルシュタインに私心がないことは認める」
「認めてやってもいい」(ビッテンフェルト)

 

「だが、奴は自分に私心がないことを知って、それを最大の武器にしていやがる」
「おれが気にくわんのは、その点だ」(ビッテンフェルト)

 

「おれはべつにイゼルローンの奴らを気にかけているわけではない」
「オーベルシュタインの毒蛇めに、わが世の春を謳歌させたくないだけだ」(ビッテンフェルト)

 

「第一、イゼルローンは、おれ自身の手で粉砕してやらねば、気がすまぬ」(ビッテンフェルト)

 

「要するに、皇帝の影に頭をさげると思えば腹もたたん」
「オーベルシュタインを人間と思うから腹がたつのだ」(ビッテンフェルト)

 

第五章 昏迷の惑星

「昂揚感をともなった緊張に、ときとして恐怖や楽観の微成分が混入する」
「吾々の精神状態は、初演をひかえた舞台俳優たちのそれに似ていたかもしれない」(アッテンボロー)

 

「苛酷な舞台であることは承知している」(アッテンボロー)

 

「ひとたび退場すれば、復活はありえないし」
「脚本家や演出家は姿を隠して、俳優の疑問に応えようとしない」(アッテンボロー)

 

「それでも、救いがたい精神状態が、吾々を舞台へと誘ってやまなかったのだ」(アッテンボロー)

 

「ご好意はありがたいのですけど、女性だからという理由で免責されるのは」
「わたしは不本意です」(フレデリカ)

 

「わたしはイゼルローン共和政府の主席ということにしていただいてますし」
「わたしがハイネセンに赴かなければ、軍務尚書は納得しないでしょう」(フレデリカ)

 

「独身者だけの楽しいパーティーに、妻帯者をまぜるわけにはいかんからね」(シェーンコップ)

 

「危険から逃げた、見さかいもなく不美人に手を出した、と言われたのでは」
「オリビエ・ポプラン一生の名おれだ。おれはついていくからな」(ポプラン)

 

「おめでたいですかね。ヤン先輩が大佐、おれが少佐、これじゃ将来の同盟軍は」
「天国じゃなく地獄の方角へ、一輪車で全力疾走ってことになりそうですが」(アッテンボロー)

 

「ジグソー・パズルを完成させるにしても、片がもともと不足しているのさ」(ポプラン)

 

「彼らが信じたくないなら、信じる必要はないのです」
「吾々は、ただ事実を話すだけで、解釈の自由は先方にあります」(ユリアン)

 

「…皇帝の衰弱が目に見えるものであったら、私たちはむろんそれに気づいたであろう」(エルネスト・メックリンガー)

 

「だが、皇帝の美と精彩は、すくなくとも表面上は、いささかの衰えも見せていなかった」
「私たちも、皇帝の病臥にいつのまにか慣らされていたようであった」(メックリンガー)

 

「ビッテンフェルトが怒ることはない」(ラインハルト)

 

「予自身も、ヤン・ウェンリーに対して戦術上の勝利をおさめることが」
「ついに叶わなかったのだからな」(ラインハルト)

 

「予はそれを残念には思うが、恥じてはおらぬ」
「ビッテンフェルトは恥じているのか?」(ラインハルト)

 

「(拒絶したら)いかがする?」
「そのときは奴らこそが、流血と混乱に対する責任を負うことになろうよ」(ラインハルト)

 

「おれが思うにだ、季節の変わり目には、かならず嵐があるものだ」
「それも、変わったと思いこんだ後に、大きな奴がな」(ビッテンフェルト)

 

第六章 柊館炎上

「…ラインハルト・フォン・ローエングラムは」
「深刻な意味で、民主共和主義にとっての敵対者である」(ユリアン)

 

「これは、彼が残忍で愚劣な支配者であるからではなく」
「まさにその反対の存在だからである」(ユリアン)

 

「それらが非民主的な手段によるものであったことは、この際、問題にならない」
「帝国の民衆は、民主的な手つづきなど欲していなかったからである」(ユリアン)

 

「これから家を改造しようなどと言ったら」
「ラインハルトは、よけいなことをしなくてもいい、と答えるでしょう」(アンネローゼ)

 

「改造してからそのことを告げたら、そうか、の一言ですみますよ」
「ラインハルトは、光年以下の単位のできごとには興味がないですから」(アンネローゼ)

 

「おさがりなさい、この方は銀河帝国の皇紀陛下でいらっしゃいますよ」(アンネローゼ)

 

「悪魔が妖怪につかまったら、人間としては共倒れを望むだけだ」
ルビンスキーも存外だらしない」(ビッテンフェルト)

 

「卿ら、どうやら休息の時間は終わったらしいぞ」(ミッターマイヤー)

 

「いまの報告によると、イゼルローン軍のほぼ全部隊が回廊を出て」
「ハイネセン方面へ向かいつつあると」(ミッターマイヤー)

 

「王手詰み(チェックメイト)」(エルンスト・フォン・アイゼナッハ)

 

第七章 深紅の星路

「戦術レベルにおける偶然は、戦略レベルにおける必然の、余光の破片であるにすぎない」(ヤン)

 

「皇帝ラインハルトは、自分の理想と野心、さらには愛憎のために」
「自らを焚いて悔いることのない人だ」(ヤン)

 

「そして、それだけに、敵に対してすらそれを要求する」(ヤン)

 

「皇帝ラインハルトが」
「亡くなった友人のジークフリード・キルヒアイスを愛惜してやまぬのはそのためだ」(ヤン)

 

「そして、われらが元首ヨブ・トリューニヒト氏を軽蔑するのも、そのためだろうね」(ヤン)

 

「吾々がイゼルローンに拠り、大きな兵力を有しているかぎり」
「皇帝ラインハルトはともかく、帝国政府や軍の不安を消すことはできないだろうね」(ヤン)

 

「いつか彼らではなく、吾々自身にとってイゼルローンは重い荷物になるだろう」(ヤン)

 

「イゼルローンに固執しては、結局のところ」
「かえって政治的、戦略的な選択の幅をせばめてしまう」
「そういうことだ」(ヤン)

 

「後世の歴史家って人種は、流される血の量を、効率という価値基準で計測しますからね」(ユリアン)

 

「たとえ宇宙が統一されるまでに、さらに1億人が死んだとしても」
「彼らはこう言うでしょうよ」(ユリアン)

 

「たった1億人しか死なずに、宇宙の統一は完成された、大いなる偉業だ、とね」(ユリアン)

 

「彼らが兵をもって挑んでくるのであれば、こちらにそれを回避すべき理由はない」
「もともと、そのためにこそ親征してきたのだ」(ラインハルト)

 

「かのヤン・ウェンリーは、勝算がなければ戦わぬ男だった」
「ゆえに予の尊敬に値したのだが、彼の後継者はどうかな」(ラインハルト)

 

「戦わずして後悔するより、戦って後悔する」(ラインハルト)

 

「未熟だが、見るべきものがある」(ラインハルト)

 

「戦うにあたり、卿らにあらためて言っておこう」(ラインハルト)

 

「ゴールデンバウム王朝の過去はいざ知らず、ローエングラム王朝あるかぎり」
「銀河帝国の軍隊は、皇帝がかならず陣頭に立つ」(ラインハルト)

 

「予の息子もだ。ローエングラム王朝の皇帝は、兵士たちの背中に隠れて」
「安全な宮廷から戦争を指揮することはせぬ」(ラインハルト)

 

「卿らに誓約しよう、卑怯者がローエングラム王朝において至尊の座を占めることは」
「けっしてない、と…」(ラインハルト)

 

「ビッテンフェルトの猪突家め」
「いつのまにやら辞書に慎重とか用心とかいう単語を書き加えたらしいぜ」
「いまさら秀才ぶってどうする気だ」(アッテンボロー)

 

「どうした、予の顔に、呪いの影でもうつっているか」(ラインハルト)

 

「ブラウンシュヴァイク公をはじめ」
「何億人の呪いが集中しているやらわからぬ身だからな」(ラインハルト)

 

「失礼しました」
「陛下がどこかべつの宇宙に思いをはせておられるように見えましたので…」(メックリンガー)

 

「あえて奇策を弄する必要はない」
「間断ない攻撃を連続させて、敵を消耗させよ」(ラインハルト)

 

「冗談の一言は、血の一滴」(ポプラン)

 

「相手の予測が的中するか、願望がかなえられるか、そう錯覚させることが」
「罠の成功率を高くするんだよ」(ヤン)

 

「落とし穴の上に金貨を置いておくのさ」(ヤン)

 

「軍医どの」
「もはや原因不明ですむとは思わないでいただこう」(メックリンガー)

 

「皇帝のご病名をたしかめ、最善の治療をほどこしていただく」
「よろしいな?」(メックリンガー)

 

「おわかりかな、軍医どの、卿には地位にともなう責任があるということだ」
「何もなしえぬというなら、いっかいの町医者も同じこと」(メックリンガー)

 

「期待にこたえていただけるだろうな?」
「失礼、軍医どの、すこし興奮してしまったようだ」(メックリンガー)

 

「何を騒ぐか。皇帝がご逝去あそばしたわけではない」
「ここで節度を失えば、後日、皇帝よりお叱りをこうむることになるぞ」(ミッターマイヤー)

 

「おい、ロイエンタール、どうしたらいいと思う」(ミッターマイヤー)

 

「おれに重大な責任を押しつけて、自分はヴァルハラで美酒の杯を片手に見物だなどと」
「虫がいいではないか」(ミッターマイヤー)

 

「このえせ詩人野郎!」
「いつからオーベルシュタインの作った曲にあわせてピアノを弾くようになりやがった!?」(ビッテンフェルト)

 

「猪に聴かせるには、胡狼(ジャッカル)が作った曲でたくさんだ」(メックリンガー)

 

「二年前のイゼルローン攻防戦のとき」
「オスカー・フォン・ロイエンタール元帥を生かして還したのは残念のきわみだが」(シェーンコップ)

 

「かわりに銀河帝国皇帝ラインハルト・フォン・ローエングラムの首がとれるなら」
「採算は大きな黒字になるだろうな」(シェーンコップ)

 

「いまのままでも、負けない戦いをすることはできるでしょうな」
「帝国軍の動きは、奇妙に鈍い」(メルカッツ)

 

「後退しても、追撃をかけてはこないような印象です」(メルカッツ)

 

「だが、これでイゼルローンにもどっても、さらに戦力は減少して」
「つぎの戦いでは、現状よりもっと苦しくなるでしょうな」(メルカッツ)

 

「決まった」
「かの美しきブリュンヒルトに乗りこんで、皇帝の首をあげてやろう」(シェーンコップ)

 

「ぼくも同行するか、でなければ作戦自体を裁可しないかです」
「ぼくの目的は、皇帝ラインハルトと談判することで、殺害することではありません」(ユリアン)

 

「そこのところを、まちがえないでください」(ユリアン)

 

「…OK、ユリアン、先に皇帝と対面したほうが、やりたいようにやるさ」(シェーンコップ)

 

礼儀正しく話しかけるか、あの豪奢な黄金色の頭に、戦斧を振りおろして」
「大きな紅玉に変えるか」(シェーンコップ)

 

「ぼくは必ず生きて還るつもりですが、帝国軍にも言分があるでしょう」
「ぼくが帝国軍の貪欲な胃袋におさまってしまったときには…」(ユリアン)

 

「そのときにそなえ、アッテンボロー中将を、つぎの革命軍司令官に指名します」
「当然ながら、提督には、ユリシーズに残留していただきますので、よろしく」(ユリアン)

 

「いや、屍体はひとつでいい。ラインハルト・フォン・ローエングラムの屍体だけでな」
「この世でもっとも美しく貴重な屍体ではあるが…」(シェーンコップ)

 

「ユリアン、気をつけるのよ」
「あんたって優等生のくせに要領の悪いところがあるから、皆が放っておけないんだわ」(カリン)

 

「とめないわよ。女にとめられて言うことをきくような男」
「いざというとき、自分の家族だって守れるはずないじゃない」(カリン)

 

「ワルター・フォン・シェーンコップから離れないようにするのね」(カリン)

 

「地面や床に足がついているかぎり、あれほど頼りになる男はいないって」
「母が言ってたわ」(カリン)

 

「美人に頼られては、いやとは言えないね」
「さて、カリン、おれにもひとつ頼みがあるんだがな」(シェーンコップ)

 

「恋愛は大いにやるべきだが、子供を産むのは、20歳をすぎてからにしてくれ」
「おれは30代で祖父さんになる気はないからな」(シェーンコップ)

 

第八章 美姫は血を欲す

「医師たちを責めるな。予も模範的な患者ではなかった」
「医師たちにとって、あつかいにくかったことだろう」(ラインハルト)

 

「医師にかかって必ず助かるものなら、病気で死ぬ者はおるまい」
もともと期待してはいなかった。責めるな」(ラインハルト)

 

「で、あとどれくらいの間、予は生きていられるのだ?」
「それすらわからぬのか」(ラインハルト)

 

「待て! 卿らふたりとも、介入することを許さぬ」
「このまま放置しておけ」(ラインハルト)

 

「ヤン・ウェンリーの精神的な遺産を継承したと称するほどの男なら」
「先人に智はおよばずとも、勇においていささかは非凡なところがあろう」(ラインハルト)

 

「ヤンの後継者の名は何といったか」(ラインハルト)

 

「そのミンツなる者が、予の兵士たちの抵抗を排して、予のもとに至りえたならば」
すくなくともその勇を認め、対等の立場で要求を受諾してやってもよい」(ラインハルト)

 

「それとも、いわゆる専制君主の慈悲や、その臣下の協力がなければ」
「ここへ至る力もないというのでは、何を要求する資格もあるまい」(ラインハルト)

 

「すべて、その者が姿を予の前にあらわしてからのことだ」(ラインハルト)

 

「おのれ、何という狡猾な」
「よし、こうなったら、他の叛乱軍どもを、せめておれの手で潰滅させてくれる」(ビッテンフェルト)

 

「共和主義者どもが勝ち誇ってブリュンヒルトから出てきても」
「奴らが帰る家をなくしてくれるぞ」(ビッテンフェルト)

 

「皇帝ラインハルトとの戦いで死ねるのだ」
「せっかく満足して死にかけている人間を、いまさら呼びもどさんでくれんかね」(メルカッツ)

 

「またこの先、いつこういう機会が来るかわからん」(メルカッツ)

 

「なに、そうなげくような人生でもあるまい」
「何と言ったかな、そう、伊達と酔狂で、皇帝ラインハルトと戦えたのだからな」(メルカッツ)

 

「卿にも苦労をかけたが、これからは自由に身を処してくれ…」(メルカッツ)

 

「ユリアン、ここはおれたちが防ぐ」
「お前さんは皇帝に会え」(シェーンコップ)

 

会って話あうなり、敬意をこめて首をはねとばすなり」
「お前さんの判断で歴史を創るんだ」(シェーンコップ)

 

「事の軽重を誤るなよ、ユリアン」
「お前さんは皇帝に会って、対等の交渉をおこなうのが責務」(シェーンコップ)

 

「おれたちはそのために環境をととのえるのが役目だ」(シェーンコップ)

 

「おれはたったひとつだけ、ヤン提督に文句を言ってやりたいことがあるんだ」(シェーンコップ)

 

「昨年、ブルームハルトが生命がけで提督を守ったのに、提督は逃げきれずに死んじまった」
「あれだけは、いくら奇蹟のヤンでも、どじが過ぎたな」(シェーンコップ)

 

「ポプラン、マシュンゴ、ユリアンといっしょに行け」
「三人いっしょなら、どうにか一人前に闘えるだろうからな」(シェーンコップ)

 

「わかりました。後でまたお会いしましょう。かならず生きて…」(ユリアン)
「むろん、そのつもりさ」(シェーンコップ)

 

「ものわかりの悪い父親になって、娘の結婚をじゃまするという楽しみができたからな」
「さあ、さっさと行ってしまえよ、時間がない」(シェーンコップ)

 

「あのとき三分間長く闘っていたら、ロイエンタール提督の首は、おれのものだったさ」(シェーンコップ)

 

「そうしたら盾の表面に」
「あの金銀妖瞳(ヘテロクロミア)を宝石のように飾ってやったのにな」(シェーンコップ)

 

「敵ながら、賞揚するにたる男だ。だが、それにしても、味方も腑甲斐ない」
「いっそ、おれが迎撃の指揮をとろうか」(ミッターマイヤー)

 

「銀河帝国の皇帝ともあろう者が、客人に会うのに、服装をととのえぬわけにはいくまい」
「たとえ招かれざる客であってもな」(ラインハルト)

 

「若いの、名を聞いておこうか」
「なに、ワルター・フォン・シェーンコップに傷を負わせた奴の名を」
「知っておきたかっただけさ」(シェーンコップ)

 

「さて、誰が名誉を背負うのだ?」
ワルター・フォン・シェーンコップが生涯で最後に殺した相手」
「という名誉をな」(シェーンコップ)

 

「ワルター・フォン・シェーンコップ、37歳、死に臨んで言い残せり」
わが墓碑に銘は要らじ、ただ美女の涙のみ、わが魂を安らげん、と」(シェーンコップ)

 

「フライング・ボールの反則王を甘く見るなよ、マネキン野郎が…」(ポプラン)

 

「来させろ」
「まだその男は、予のもとに到着していないぞ」(ラインハルト)

 

「陛下がお望みとあれば、平和と共存を。そうでないときは…」
「そうでないものを」(ユリアン)

 

「すくなくとも、一方的な服従を申しこむために、ここに参上したのではありません」(ユリアン)

 

「ローエングラム王朝が、病み疲れ、衰えたとき」
「それを治癒するために必要な療法を、陛下に教えてさしあげます」
「虚心にお聞きください」(ユリアン)

 

「そうしていただければ、きっとわかっていただけます」
「ヤン・ウェンリーが陛下に何を望んでいたか…」(ユリアン)

 

「大言を吐く奴だ。予に教えてやると?」
「それにしても予の前にたどりついて気絶したのは、これでふたりめだな、ミュラー」(ラインハルト)

 

「医師を呼んでやれ」
「予には無用のものだが、この者には役だとう」(ラインハルト)

 

「それと、ミッターマイヤー、この者の大言に免じて、戦闘をやめさせよ」
「ここまで生き残った者たちには、最後まで生き残る資格があろうから」(ラインハルト)

 

「私は宇宙艦隊司令長官ミッターマイヤー元帥である」
「皇帝陛下のご命令を伝える」(ミッターマイヤー)

 

「戦うのをやめよ」
「和平こそが陛下の御意である」(ミッターマイヤー)

 

第九章 黄金獅子旗に光なし

「ユリアン、あなたはずるかったわね」
「ヤン提督が、あの人が生きていたら、きっとあなたを叱ったわ」(フレデリカ)

 

「ああ、まかせておいていただこう、ヤン夫人」
「帝国軍が指先で埃をさがしてもけちのつけようがないほど、完璧に整理してやるさ」(キャゼルヌ)

 

「ありがとう、あなた、わたしの人生を豊かにしてくださって」(フレデリカ)

 

「おれはうっかり死ぬこともできなくなってしまったぜ」(ポプラン)

 

「地獄へ行ったらワルター・フォン・シェーンコップがでかい面で」
「魔女どもを侍らせているかと思うと、行く気になれやせん」(ポプラン)

 

「オリビエ・ポプラン、宇宙暦771年15月36日生まれ、801年6月1日」
「美女たちの涙の湖で溺死、享年29歳」(ポプラン)

 

「ちゃんと自分で墓碑銘まで撰したのに、死文になってしまって残念ですよ」(ポプラン)

 

「何よ、5回や6回殺されたってすぐに復活するような表情してたくせに」
「何で死んじゃうのよ。あいつに復讐してやるつもりだったのに」(カリン)

 

「そうよ。わたしの産んだ赤ん坊を目の前に突きつけて」
「あんたの孫よ、お祖父ちゃん、と言ってやるつもりだったのに」(カリン)

 

「それがあの不良中年には、一番効果的な復讐だったのに…」(カリン)

 

「ね、わたしのこと好き?」
「もしそうだったら、黙ってうなずいたりしないで、はっきりおっしゃい」(カリン)

「好きだよ」(ユリアン)

 

「民主主義って、すてきね」
「だって、伍長が中尉さんに命令できるんだもの」
「専制政治だったら、こうはいかないわ」(カリン)

 

「しかし何だな、人間、いや人間の集団という奴は、話しあえば解決できるていどのことに」
何億リットルもの血をながさなきゃならないのかな」(アッテンボロー)

 

「さあな、おれには論評する資格はない」
なにしろおれは伊達と酔狂で血を流してきた張本人のひとりだからな」(アッテンボロー)

 

「なぜだ」
「なぜオーベルシュタインの野郎が死なないで、皇帝が亡くなるんだ!?」(ビッテンフェルト)

 

「この宇宙には正義も真実もないのか」
「大神オーディンは、貢物をむさぼるだけの役たたずか!」(ビッテンフェルト)

 

「キルヒアイス、ロイエンタール」
「それにケンプ、レンネンカンプ、ファーレンハイト、シュタインメッツ、ルッツ…」
「頼む」(ミッターマイヤー)

 

「頼むから、まだ皇帝をヴァルハラへおつれしないでくれ」
「皇帝はまだ現世にこそ必要な御方なのだ」(ミッターマイヤー)

 

「時代のひとつが終わったということだな」(ムライ)

 

「ささやかなものであったが」
「君や私にとって、イゼルローン時代というやつは、たしかにあった」(ムライ)

 

「私などにとっては最後のおつとめだったが」
「君らにとってはつぎの時代へのステップであってほしいな」(ムライ)

 

「卿とは、たしか地球で会ったことがあるな」
「それとも記憶ちがいかな」(ワーレン)

 

「なに、謝罪される筋のものでもない。人それぞれ、立場があってのことだ」
「それにしても、おたがい、ずいぶん多くの知人を失ったものだな」(ワーレン)

 

「ヘル・ミンツ、卿と私とはどちらが幸福なのだろうか」(ミュラー)

 

「卿らはヤン・ウェンリー元帥が亡くなるまで、そのことを知らなかった」
「吾々は、陛下が亡くなるについて、心の準備をする期間が与えられた」(ミュラー)

 

「だが、卿らは哀しみがスタート地点から始まったのに」
「吾々はまずゴールを迎えて」(ミュラー)

 

「それからまた心の飢えをみたすために出発しなくてはならない」
「生き残った者は…」(ミュラー)

 

「ハイネセンで死なねばならないとしたら、ここで死ぬ」
「避難民のように逃げまどうのはいやだ」(ラインハルト)

 

「何をおっしゃるのです」
「フェザーンでは皇紀と皇子が、陛下のお帰りをお待ちになっていらっしゃいます」(ビッテンフェルト)

 

「ご無事でおつれするのが、臣下としての責務なれば、失礼つかまつる」(ビッテンフェルト)

 

「皇帝の身命が無事であったのは、ビッテンフェルトの功績であったが」(メックリンガー)

 

「彼が芸術、ことに美術造形にまったく興味がなかったからこそ」
「すべてが迅速に処理されたのであった」(メックリンガー)

 

「もし美術品の焼失を懸念したら、万事が遅滞して重大な結果を生じたであろう」
「まことに幸運というべきである…」(メックリンガー)

 

「まず、陛下、憲法をおつくりください。つぎに議会をお開きください」
「それで形がととのいます。立憲政治という器が」(ユリアン)

 

「酒はよい味を出すまでに時間がかかります」(ユリアン)

 

「立憲政治に似あう人材がそろい」
「それをもっともよく運営するまでには日数が必要でしょう」(ユリアン)

 

「卿が目的とするところは、いささかちがうだろう」
「銀河帝国という器に、立憲政治という酒をそそぐつもりではないのか」(ラインハルト)

 

「そうなれば、民主思想とやらが、銀河帝国を乗っとってしまうことになるかもしれぬな」(ラインハルト)

 

「予はフェザーンに帰る。予を待っていてくれる者たちが幾人かいるのでな」
「最後の旅をする価値があるだろう」(ラインハルト)

 

「卿もフェザーンへ来るがいい」
「そのほうがよい」(ラインハルト)

 

「予よりもむしろつぎの支配者に、卿の抱負と識見を語っておくべきだろう」
「皇紀は予よりはるかに政治家としての識見に富む」(ラインハルト)

 

「具体的なことは、むしろ彼女と話しあうがよいだろう」(ラインハルト)

 

「これはもう、最後まで何か変事がつきまとうぞ」
「音もなく終幕とはいくまい」(アッテンボロー)

 

「とにかく、おれはユリアンにくっついてフェザーンまで行く」
「こうなれば最後の幕まで見とどけてやるさ」(アッテンボロー)

 

「まさか。留守番は子供のころからきらいでね」(ポプラン)

 

「聞くところでは、ムライのおっさんは楽隠居してしまう気らしいが」
「おれたちはそうもいくまい」(アッテンボロー)

 

「幕がおりて、劇場の収支が黒字になったことを確認するまでは」
「ユリアンにつきあおうや」(アッテンボロー)

 

「メルカッツ提督は旅を終えられた」
「そのことを、ご遺族の方たちにお伝えして、おれの旅も終わる」
「またいつか会おう」(シュナイダー)

 

第十章 夢、見果てたり

「予と卿とで、すべてのことを定めてしまっては」
「後の世代の人間がやるべきことがなくなってしまう」(ラインハルト)

 

「そうなれば、よけいなことをしてくれた、と、恨まれるだろう」(ラインハルト)

 

「おれはもう、ヤン・ウェンリーの下で服従心と忍耐心を費いはたした」(ポプラン)

 

「これから先、死ぬまで、誰にも頭を下げる気はないし」
「誰の家につながれるのも、ごめんこうむりたいね」(ポプラン)

 

「全宇宙を征服なさった覇王が、地上に足どめされ、病室に閉じこめられている」
「おいたわしいかぎりだ」(ケスラー)

 

「きさまひとり喚くな!」
「いつもきさまが逆上するものだから、他の者が迷惑するではないか」(ワーレン)

 

「おれたちは、きさまの鎮静剤ではないぞ!」(ワーレン)

 

「皇帝ご自身が身心の苦痛に耐えていらっしゃる」
「吾々7人がかりで耐えられぬはずがなかろう」(ミッターマイヤー)

 

「なさけない臣下を持ったものだ、と、皇帝がお歎きになるぞ」(ミッターマイヤー)

 

ヤン提督、ぼくはあなたの代理として、
この時代に冠絶した巨大な個性の終焉をたしかめます。(ユリアン)

 

提督が来世においでなら、どうかぼくの目を通して、
歴史の重大な瞬間を確認して下さい…。(ユリアン)

 

「夢を見ていました、姉上…」
「…いえ、もう充分に見ました。誰も見たことのない夢を、充分すぎるほど」(ラインハルト)

 

「姉上、いろいろとありがとうございました」
「姉上、このペンダントを…」(ラインハルト)

 

「もう私には必要がなくなりました」
「姉上に差しあげます」(ラインハルト)

 

「そして…キルヒアイスもお返しします」
「ずっとお借りしっぱなしで、申しわけありませんでした」(ラインハルト)

 

「うろたえるな」
「火災や爆発事故をおこして陽動するのは、地球教徒どもの常套手段だ」(ケスラー)

 

「奴らの狙いは皇帝ご一家以外にはない」
「仮皇宮の守りをのみ心がけよ」(ケスラー)

 

「私が奴らをおびきよせたのだ」(オーベルシュタイン)

 

「陛下のご病状は回復にむかい、ご健康となられた暁には」
「地球教の信仰対象たる地球そのものを破壊なさるであろう、と」(オーベルシュタイン)

 

「それを阻止するために奴らは軽挙に出てきたのだ」(オーベルシュタイン)

 

「皇帝はもはやご逝去をまぬがれぬ」
「だがローエングラム王朝はつづく」(オーベルシュタイン)

 

「王朝の将来にそなえ、地球教の狂信者どもを根絶する」
「そのために陛下にご協力いただいただけのことだ」(オーベルシュタイン)

 

「ぼくたちは、地球教徒に感謝しなくてはならないのかもしれない」(ユリアン)

 

「地球教徒に対する共通の憎悪によって」
「銀河帝国と民主主義が共存の道を見出すことができたのだから…」(ユリアン)

 

「こんな場所でこんなことをするなんて、つい50日前には想像もしなかった」
「生きてると退屈しないでいいな」(ポプラン)

 

「勘ちがいしないでほしいな」
「ぼくは、ローエングラム王朝の将来に何の責任もない」(ユリアン)

 

「ぼくがきさまを殺すのは、ヤン・ウェンリーの讐だからだ」
「そう言ったのが、聴こえなかったのか」(ユリアン)

 

「それに…パトリチェフ少将の讐。ブルームハルト中佐の讐。他のたくさんの人たちの讐だ」
「きさまひとりの生命でつぐなえるものか!」(ユリアン)

 

「主演俳優ひとりで、あまりはりきらんでくれ」
「おれたちの出番がなかったじゃないか」(アッテンボロー)

 

「助からぬものを助けるふりをするのは」
「偽善であるだけでなく、技術と労力の浪費だ」(オーベルシュタイン)

 

「ラーベナルトに伝えてもらいたい」
「私の遺言状はデスクの三番めの抽斗にはいっているから、遺漏なく執行すること」(オーベルシュタイン)

 

「それと、犬にはちゃんと鶏肉をやってくれ」
「もう先が長くないから好きなようにさせてやるように」
「それだけだ」(オーベルシュタイン)

 

「帝国などというものは、強い者がそれを支配すればよい」
だが、この子に、対等の友人をひとり残してやりたいと思ってな」(ラインハルト)

 

「皇紀、あなたなら、予より賢明に、宇宙を統治していけるだろう」
「立憲体制に移行するなら、それもよし」(ラインハルト)

 

「いずれにしても、生ある者のなかで」
「もっとも強大で賢明な者が宇宙を支配すればよいのだ」(ラインハルト)

 

「もしアレクサンデル・ジークフリードがその力量を持たぬなら」
「ローエングラム王朝など、あえて存続させる要はない」(ラインハルト)

 

「すべて、あなたの思うとおりにやってくれれば」
「それ以上、望むことはない…」(ラインハルト)

 

「宇宙を手に入れたら…みんなで…」(ラインハルト)

 

「皇帝は病死なさったのではありません」
「皇帝は命数を費いはたして亡くなったのです」(ヒルダ)

 

「病に斃れたのではありません」
「どうかそのことを、皆さん、忘れないでいただきとう存じます」(ヒルダ)

 

「星が落ちたよ、カリン」(ユリアン)

 

「ぼくの予定表に(政治家)はないね」
「軍人になって専制主義の帝国と戦う、そしてその任務がおわったら…」(ユリアン)

 

「いいか、早死するんじゃないぞ」
「何十年かたって、おたがいに老人になったら再会しよう」(ポプラン)

 

「そして、おれたちをおいてきぼりにして死んじまった奴らの悪口を言いあおうぜ」(ポプラン)

 

「見えるか、フェリックス、あの星々が…」(ミッターマイヤー)

 

最後まで読んで頂きありがとうございました。

 
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