原作小説「銀河英雄伝説(アニメ2期後編相当)」の名言・台詞をまとめていきます。
銀河英雄伝説5巻
第一章 寒波到る
「若い連中は元気があっていい」(ウォルフガング・ミッターマイヤー)
「私も若いですが、あれほどの元気はありませんよ」(ナイトハルト・ミュラー)
「(ビュコック提督)は老練な男だ」
「卿とおれと、それにロイエンタールとビッテンフェルト…」(ミッターマイヤー)
「四人の軍歴をあわせても、あの老人ひとりにおよばない」
「呼吸する軍事博物館だな」(ミッターマイヤー)
「もし同盟軍に充分な兵力があり」
「人的あるいは物的な損害を意に介する必要がなければ」(ミッターマイヤー)
「彼らはフェザーン回廊の同盟軍の出口に縦深陣をしき」
「正面からの決戦を挑んでくるものと思われます」(ミッターマイヤー)
「ですが、今回、この方法をとるには」
「同盟軍の兵力はすでに少なくなっているはずです」(ミッターマイヤー)
「一戦して敗れれば後はなく、彼らの首都にいたるまで」
「広大な領土が無防備にさらけ出されることになりましょう」(ミッターマイヤー)
「そなれば彼らとしては、最初の戦いが最後になり、降伏以外に道はなくなります」
「正面決戦をしたくともやれないでしょう」(ミッターマイヤー)
「(彼らは)三年ほど前のアムリッツァの会戦を」
「ほぼ攻守ところを変えて再現することになります」(ミッターマイヤー)
「したがって、軍列をいたずらに長くすれば敵の思惑に乗ることになりましょう」
「ですが、小官としてはそこにこそわが軍の勝機があると考えます」(ミッターマイヤー)
「卿の狙いは、双頭の蛇だな」(ラインハルト・フォン・ローエングラム)
「ミッターマイヤー提督のお考えに、小官も賛同します」
「ただ、同盟軍の作戦行動が一糸も乱れないものにはなりえないかもしれません」(ミュラー)
「敵の姿を見てその場で戦わないのは卑怯だ」
「などと考える近視眼の低能が、どこにもいるからな」(ラインハルト)
「そうなれば吾々としては重畳きわまりないことです」(ミュラー)
「ずるずると彼らを引きずりこみ、戦略目的のないまま消耗戦に追い込めば」
「いやでも勝利の女神はとりすがってきます」(ミュラー)
「だが、それ(消耗戦)では興がなさすぎる」
「ぜひ敵に秩序ある行動を望みたいものだ…」(ラインハルト)
自分は、敵が存在しないという状態に耐えうるだろうか。(ラインハルト)
「国防委員長の守護天使が、突然、勤労意欲にめざめたらしいな」
「そうならないよりも、けっこうなことだて」(アレクサンドル・ビュコック)
「そして、帝国の専制主義と同盟の軍事独裁政権とが、宇宙の覇権を賭けて戦うのかね…?」
「救いようがないと思わんか」(ビュコック)
「わしに誇りがあるとすれば、民主共和政において軍人であったということだ」(ビュコック)
「わしは、帝国の非民主的な政治体制に対抗するという口実で」
「同盟の体制が非民主化することを容認する気はない」(ビュコック)
「同盟は独裁国となって存在するより、民主国家として滅びるべきだろう」(ビュコック)
「わしはかなり過激なことを言っておるようだな」(ビュコック)
「だが、実際、建国の理念と市民の生命とが守られないなら」
「国家それ自体に生存すべき理由などありはせんのだよ」(ビュコック)
「で、わしとしては、建国の理念」
「つまり民主政治と、市民の生命を守るために戦おうと思っておるのさ」(ビュコック)
「多少時間がたったパンでも、ちょっと湯気にあてると」
「けっこうおいしく食べられるものです」(チュン・ウー・チェン)
「イゼルローン要塞にいるヤン・ウェンリー提督を呼びもどしてはいかがでしょうか」(チェン)
「ヤン提督の智略と、彼の艦隊の兵力とは、わが軍にとってきわめて貴重なものですが」
「このような状況下で彼をイゼルローンにとどめておくのは」(チェン)
「焼きたてのパンを冷蔵庫のなかで堅くしてしまうようなものです」(チェン)
「ヤン提督なら、(脱出は)何とかするでしょう」
「彼がいなければ、純軍事的に吾々はきわめて不利です」(チェン)
「いえ、司令長官閣下、具体的な命令は必要ありません」
「ヤンに訓令すればよいのです」(チェン)
「責任は宇宙艦隊司令部全体でとる、最善と信じる方策をとるように──とね」
「おそらくヤンはイゼルローン要塞を守ることにこだわらないでしょう」(チェン)
「絵具を砂糖水にとかして甘い絵を描こうとした無能者どもには当然の末路だ」(ベルンハルト・フォン・シュナイダー)
「…さて、これで広間までは通してもらえたわけだ」(ミッターマイヤー)
「問題は食堂にたどりつけるかどうかだが」
「いざテーブルについても、出されるのは毒酒かもしれんな」(ミッターマイヤー)
第二章 ヤン提督の箱舟隊
「世のなかは、やってもだめなことばかり」
「どうせだめなら酒飲んで寝よか」(ヤン・ウェンリー)
「持つべきものは話のわかる上司だね」
「くえない親父さんだ…給料分以上に働かせようっていうんだな」(ヤン)
「イゼルローン要塞を放棄する」(ヤン)
「閣下のご意向に異存はありませんが、できればいますこしご説明いただけませんか」(ムライ)
「ですが、イゼルローンにこもって抗戦し」
「その戦果をもって帝国と和平の交渉にのぞむということはできませんか」(ムライ)
「そのときは、帝国側の講和の条件として」
「イゼルローン要塞返還の件が持ち出されること疑いないね」(ヤン)
「そして同盟としてはその条件を呑まざるをえないだろう」(ヤン)
「結局のところ、イゼルローンは失われる」
「だとすれば、その前にくれてやっても大差はないさ」(ヤン)
「しかし、ひとたび手に入れたものを」
「みすみす敵の手に引きわたすとは無念な話ではありませんか」(フョードル・パトリチェフ)
「…せっかく費用と人手をかけて要塞をつくりながら」
「他人にそれを奪われた帝国軍のほうが、よほど無念だっただろうね」(ヤン)
「それにしても、心理的効果というやつがあるでしょう」(ムライ)
「ヤン提督が帝国軍に追われてイゼルローン要塞を放棄したとなれば」
「同盟市民の受ける衝撃は大きいですぞ」(ムライ)
「戦わずして敗北感にさいなまれ、戦意を失うかもしれませんぞ」
「そうなれば後日の再戦などとうていおぼつかなくなります」(ムライ)
「そのあたりを、ご一考ください」(ムライ)
「私も参謀長のご意見に賛同しますね」(ワルター・フォン・シェーンコップ)
「どうせなら、政府首脳たちが血相変えて、イゼルローンなんぞ捨てて助けに来い」
「とわめきたててから腰をあげたほうがいいでしょう」(シェーンコップ)
「恩知らずの連中だが、今度こそ閣下の存在がいかにありがたいものか」
「思い知るでしょうよ」(シェーンコップ)
「それでは遅い。帝国軍に対する勝機を失ってしまう」(ヤン)
「ほう、勝機!? すると、勝てると思ってはいらっしゃるのですか」(シェーンコップ)
「シェーンコップ少将の言いたいことはわかる」(ヤン)
「吾々は戦略的にきわめて不利な立場にあるし」
「戦術レベルでの勝利が戦略レベルの敗北をつぐないえないというのは軍事上の常識だ」(ヤン)
「だが、今回、たったひとつ、逆転のトライを決める機会がある」
「ローエングラム公は独身だ。そこがこの際はねらいさ」(ヤン)
「何か大胆な作戦がおありなのでしょう、閣下?」(フレデリカ・グリーンヒル)
「うん、まあ、なるべく期待にそいたいと思っているけどね」(ヤン)
「あれでも一所懸命にやってるのよ」
「何もしない人たちがとやかく言う資格はないわ」(フレデリカ)
「市民を守る義務があるのに、それを忘れて自分たちの安全のみ謀るような輩には」
「相応の報いがあって然るべきです」(シェーンコップ)
「逃げこんできたところを一網打尽にして、ローエングラム公にくれてやってもよし」
「市民に対する背信の罪を問うて、罰をくれてやってもいいでしょう」(シェーンコップ)
「そのあとは、あなたが名実ともに頂点に立てばいい」
「イゼルローン共和国というのも、そう悪い考えではないように思えます」(シェーンコップ)
「私にとっては政治権力というやつは下水処理場のようなものさ」(ヤン)
「なければ社会上、困る。だが、そこにすみついた者には腐臭がこびりつく」
「近づきたくもないね」(ヤン)
「独裁者を支持するのも民衆なら、反抗して自由と解放を求めるのも民衆です」(シェーンコップ)
「民衆の多数が民主主義ではなく独裁を望んだとしたら」
「そのパラドックスをどう整合させるのか」(シェーンコップ)
「その疑問には、誰も解答できないだろうね」(ヤン)
「だけど…人類が火を発見してから100万年」
「近代民主主義が成立してから2000年たらずだ」(ヤン)
「結論を出すには早すぎると思う」(ヤン)
「目前の急務があるわけだから、まずそれをかたづけよう」
「夕食の用意ができてもいないのに、明日の朝食について論じてもはじまらない」(ヤン)
「必要なものを必要な間だけ借りた」
「必要がなくなったから返すだけのことさ」(ヤン)
「また必要になったら?」(シェーンコップ)
「また借りるさ。その間、帝国にあずかってもらう。利子がつかないのが残念だが」(ヤン)
「要塞とか人妻とかいうものは、そう簡単に借りられないものですがね」(シェーンコップ)
「貸してくださいと頼めば、当然、拒絶されるだろうな」(ヤン)
「ひっかけるしかないでしょう」(シェーンコップ)
「相手はロイエンタールだ。帝国軍の双璧のひとりだ。ひっかけがいがあるというものさ」(ヤン)
「力ずくで奪取できるものなら」
「イゼルローン要塞の所有者はこれまで五、六回は変わっていてよいはずだ」(オスカー・フォン・ロイエンタール)
「だが、唯一それをやってのけた者は」
「いまイゼルローンにいる、あのペテン師だけだ」(ロイエンタール)
「おもしろい意見だが、もっとも激しく踊る者がもっとも激しく疲れると言うではないか」(ロイエンタール)
「死守したところで意味はあるまい」
「すでに帝国軍がフェザーン回廊から同盟領内へ侵攻しようとしているのだ」(ロイエンタール)
「イゼルローン回廊のみが軍事行動の対象であった時代には、要塞の存在に意味があった」
「だが、いまや時代は変わったのだ」(ロイエンタール)
「要塞を固守するだけでは戦況に何ら寄与しない」(ロイエンタール)
「何を考えているにせよ、準備に専念させてやることもなかろう」(ロイエンタール)
「…つまり、いやがらせの攻撃をする、と?」(コルネリアス・ルッツ)
「露骨すぎるな、その表現は」
「あらゆる布石を惜しまぬ、ということにしておこうか」(ロイエンタール)
「…急に忙しくなりやがった」
「超過勤務はおれの主義に反するんだがな」(オリビエ・ポプラン)
「ハイネセンにもどれたら、必ずパイロットの労働組合を結成してやるぞ」(ポプラン)
「兵士の過重労働をなくすために生涯をかけてやるんだ」
「見ている、管理者どもめ」(ポプラン)
「お前さんは女に生涯をかけているのじゃなかったのか」(イワン・コーネフ)
「子供がこづかいをほしがってるのじゃあるまいし、だめはないでしょう」
「兵士の士気にもかかわってきます」(ダスティ・アッテンボロー)
「どうか再戦の許可をいただきたく存じます」(アッテンボロー)
「かなり楽をして敵に勝てる方法を考えつきました」
「ためさせていただけませんか」(アッテンボロー)
「あまり悪い知恵をつけないでくれよ、大尉」
「それでなくてさえ面倒なことが多いんだから」(ヤン)
「はい、出すぎました、申し訳ございません」(フレデリカ)
「なにしろヤン・ウェンリーのことです」
「どのように巧妙な罠をしかけているやら」(ハンス・エドアルド・ベルゲングリューン)
「ヤン・ウェンリーも大したものだ」
「歴戦の勇者をして影に恐怖せしむ、か」(ロイエンタール)
「怒るな。おれとて奴の詭計がこわいのだ」(ロイエンタール)
「むざむざイゼルローンを奪われたシュトックハウゼンの後継者になるのは」
「ぞっとしないしな」(ロイエンタール)
「レンネンカンプにしてやられるくらいなら」
「ヤン・ウェンリーの智略の井戸もかれたということだな」(ロイエンタール)
「だが、誰にとって不幸かは知らんが、まだ水脈がとだえたとは思えん」(ロイエンタール)
「レンネンカンプの用兵ぶりを拝見し」
「かつ彼の手腕に期待しようではないか、ん?」(ロイエンタール)
「なぜ追う必要があるのだ。奴の逃亡を見送れば」
「吾吾は労せずしてイゼルローン要塞を手に入れることができるものを」(ロイエンタール)
「それだけでも充分な勝利だとは思わんか、ベルゲングリューン」(ロイエンタール)
「病に対抗するには全員が共同であたるべきだ」
「わが艦隊だけが感染の危険をおかすことはないと思うが」(ロイエンタール)
「知っているか、ベルゲングリューン、こういう諺がある」
「野に獣がいなくなれば猟犬は無用になる、だから猟犬は獣を狩りつくすのを避ける…」(ロイエンタール)
「戦略および戦術の最上なるものは、敵を喜ばせながら罠にかけることだろうね」(ヤン)
「智謀だなんて、そんな上等なものじゃないさ。悪知恵だよ、これは」
「まあ、やられたほうはさぞ腹が立つだろうがね」(ヤン)
「…それに、罠をかけた結果が必ず生かされるとはかぎらない」
「吾々は二度とイゼルローンを必要としなくなるかもしれないしね」(ヤン)
「きっと役に立ちますわ」
「イゼルローン要塞は私たちの…ヤン艦隊全員の家ですもの」(フレデリカ)
「いつか帰る日が来ます」
「そのとき、必ず、閣下の布石が生きてきますわ」(フレデリカ)
「さらば、イゼルローン。おれがもどってくるまで浮気するなよ」
「お前はほんとうに虚空の女王だ。お前ほど佳い女はいなかった」(ポプラン)
「ならばお前も国を奪ってみろ」(ロイエンタール)
第三章 自由の宇宙を求めて
「来て、見て、なすことなく去った、か…」(ユリアン・ミンツ)
「テロリズムと神秘主義が歴史を建設的な方向へ動かしたことはない」(ヤン)
「彼を処罰したら、誰がヤン艦隊を指揮統率するのだ?」(ラインハルト)
「安全な場所で書類の決裁ばかりやっていたような輩が司令官として乗り込んでも」
「兵士たちがおさまらんだろう」(ラインハルト)
「おそらく彼は、同盟が勝利をえる唯一の方法をとるため」
「麾下の兵力を自由に行動させたかったのだ」(ラインハルト)
「わからぬか。戦場で私を倒すことだ」(ラインハルト)
「ヤン提督の狙いを見ぬいておいでなのに」
「やはりご自身で陣頭にお立ちになりますの?」(ヒルデガルド・フォン・マリーンドルフ、通称:ヒルダ)
「フロイライン・マリーンドルフ、私は覇者たろうと志してきたし」
「それを実現するためにひとつの掟を自分自身に科してきた」(ラインハルト)
「つまり、自ら陣頭に立つことだ」(ラインハルト)
「かつて戦って倒してきた能なしの大貴族どもと私が異なる点はそこにある」
「兵士たちが私を支持する理由もだ」(ラインハルト)
「あえて申し上げますけど、閣下」
「どうか無益な戦闘はさけて帝都オーディンにお帰りください」(ヒルダ)
「フェザーン回廊はミッターマイヤー提督に、イゼルローン回廊はロイエンタール提督に」
「それぞれおまかせになれば、一定の戦果はあがるでしょう」(ヒルダ)
「閣下は後方にあって、彼らのもたらした果実を賞味なさればよろしいかと存じます」(ヒルダ)
「フロイライン、私は戦いたいのだ」(ラインハルト)
「フロイライン、どうせ宇宙をこの手につかむなら」
「手袋ごしにではなく、素手によってでありたいと思うのだ」(ラインハルト)
「お前は歌手としても踊り手としてもなかなかのものだったが」
「演技者としては見るべきところが昔からなかったな」(アドリアン・ルビンスキー)
「あれは大してセンスのある観客じゃなかった」(ルビンスキー)
「俳優の演技を観察するより」
「自分自身のつむぎだした幻想を俳優に投影させて酔ってしまう性質だったからな」(ルビンスキー)
「わかっているとも。私にかぎらず」
「人間というものは自分以下のレベルのものは理解できるようになっているのでな」(ルビンスキー)
第四章 双頭の蛇
「わが軍は彼らの挨拶に対し、相応の礼をもってむくいるとしよう」
「双頭の蛇の陣形によって…」(ラインハルト)
「ご自分で先陣を指揮なさるとおっしゃいますか」
「危険です」(ミュラー)
「同盟軍の力は衰微していますが、それだけにかえって窮鼠と化す可能性があります」
「どうか閣下には、後方で吾らの戦いを督戦していただきたく存じます」(ミュラー)
「この陣形には後方などというものはないのだ、ミュラー」
「あるのはふたつめの頭だ」(ラインハルト)
「私は勝つためにここへ来たのだ、ミッターマイヤー」
「そして勝つには戦わなくてはならないし、戦うからには安全な場所にいる気はない」(ラインハルト)
「やはり、あのかたはまず戦士なのだ」
「戦いの結果としての勝利にこそ、意義を見出すかたなのだ」(ミッターマイヤー)
「生まれながらの支配者なら、収穫の方法にこだわりはすまい…」(ミッターマイヤー)
「エミール、勝利を願ってくれたお前のために、私は勝とう」
「だから、お前は生きて還って、家族に伝えるのだ」(ラインハルト)
「ラインハルト・フォン・ローエングラムをランテマリオの戦いで勝たせたのは自分だ」
「とな」(ラインハルト)
「これ(元帥昇進)は生きて帰るなということかな、特進の前わたしということで…」(ビュコック)
「いや、単なる自暴自棄でしょう」(チェン)
「帝国軍の陣形は、いわゆる双頭の蛇ではありませんか」(スーン・スールズカリッター)
「だとすれば、中央突破をはかるのは敵の望むところ」
「危険が大きすぎると小官には思われます」(スール)
「おそらく、いや、疑いなく貴官の言うとおりだろう」
「だが、もはや他にとるべき戦法はない」(ビュコック)
「敵の陣形を逆用して中央を突破し、各個に撃破するしかあるまい」(ビュコック)
「それにしても、ローエングラム公は天才の名に恥じませんな」(スール)
「つねに吾々の先手をとり、吾々を戦略的に追いつめてから」
「実戦をしかけてくるのですから…」(スール)
「だからヤン・ウェンリーなどが、彼の天才を高く評価するのだ」(ビュコック)
「知っているかね、スール少佐、わしは彼から聞いたことがある」
「自分が帝国に生まれていたら、喜んで彼の旗のもとへ駆けつけたろう、とな」(ビュコック)
「(危険な発言?) どうしてかね、わしもまったく同感だよ」(ビュコック)
「このとおり老いぼれで、たいして才能もないから」
「先方が使ってくれるとはかぎらんが」(ビュコック)
「同盟軍と吾々と、どちらのために席をあけて待っているか」
「地獄に訊いてみたいものだな」(ミッターマイヤー)
「同盟軍のあれは勇猛ではなく狂躁というのだ」
「ミッターマイヤーは闘牛士だ」(ラインハルト)
「猛牛に押しまくられているかに見えて、じつはその力を温存し、勝機をねらっている」
「だが…」(ラインハルト)
「案外、本気で攻勢に辟易しているのかもしれんな」
「そろそろ私も動くことにしようか…」(ラインハルト)
「前進をやめろ。後退して陣形を再編するのだ」
「貴官ら、もう充分殺したではないか」(ビュコック)
「なかなか楽には勝てぬものだ」
「老人はしぶとい。メルカッツもうそうだったが」(ラインハルト)
「…やはり使わざるをえないか」
「ビッテンフェルトに連絡せよ」(ラインハルト)
「卿の出番だ」
「黒色槍騎兵の槍先に敵の総司令官の軍用ベレーをかかげて私のところへ持ってこい、と」(ラインハルト)
「計算しろ!」
「帝国軍の進撃速度と、エネルギーの流れの速度をだ」(チェン)
「奴らは流されている」
「計算すれば、こちらへ渡ってくる宙点が推定できるはずだ」(チェン)
「これまでだな」
「かくて陽は沈み一将功ならずして万骨は枯る、か…」(ビュコック)
「自殺はいけません。司令長官閣下」
「メルカッツ提督も敗戦の後、生命を永らえたではありませんか」(チェン)
「宇宙艦隊が消失した以上、司令長官だけ生きていても詮ないことだ」
「そう思わんかね、貴官は?」(ビュコック)
「まだ宇宙艦隊は消失してしまってはおりません」
「ヤン・ウェンリー艦隊はなお健在です」(チェン)
「一隻でも艦艇が残っているかぎり」
「司令長官には生きてこそ責任をとっていただかなくてはならんのです」(チェン)
「この敗戦に対して、死ぬ以外に責任をとる途があると貴官は言うのかね?」(ビュコック)
「自殺なさるのは、味方に対する責任をとることにしかなりません」
「私が問題にしているのは、敵に、そう、勝利した敵に対しての責任のとりようです」(チェン)
「わしは敵の銃口のために、この老体を残しておかねばならんというわけだな」(ビュコック)
「閣下と私、それにドーソン元帥」
「制服軍人組から三名ぐらいは軍事裁判の被告が必要でしょう」(チェン)
「このあたりで、累が他におよぶのをくいとめねばなりません」
「同盟の未来のために、ヤン・ウェンリーなどには生きていてもらわねばならないのです」(チェン)
「何を恐れるか!」
「この期におよんで同盟軍の新規兵力が出てきたところで、各個撃破するまでのことだ」(ラインハルト)
「うろたえるな! 秩序をたもって後退せよ」(ラインハルト)
「万が一、フェザーン方面への道が閉ざされたら、このままバーラト星系へ直進し」
「同盟の死期を早めてやるだけのことだ」(ラインハルト)
「そしてイゼルローン回廊を通って帝国へ凱旋する」
「それですむではないか」(ラインハルト)
「醜態をお見せしました。面目ございません」
「勝ちながらこうも乱れるとは、いささか勝ち慣れて逆境に弱くなりましたようで…」(ミッターマイヤー)
「あんな小細工を効果的にやってのけるのは、あのペテン師以外おるまい」(ラインハルト)
個人が勝算のない戦いに挑むのは趣味の問題だが、
部下をひきいる指揮官がそれをやるのは最低の悪徳である。(ヤン)
「それにしても半日遅かった」
「やきがまわったとは、こういうことを指すのかな」(ヤン)
「あぶない、あぶない」(ヤン)
自分がこうしていれば事態を変えることができた、と思いこむのは、
自己過信というべきではないか。(ヤン)
今回はこれで充分と言わねばなるまい。(ヤン)
最悪の場合、ビュコックらが完全に潰滅させられた後、
のこのこ戦場にあらわれて各個撃破の標的となる醜態をさらすという可能性もあったのだ。(ヤン)
「むざむざ生き残ってしまったよ、部下を死なせて、不甲斐ないことだ」(ビュコック)
「何をおっしゃいます。生きて復讐戦の指揮をとっていただかなくてはこまります」(ヤン)
「攻撃なさらぬよう願います。吾々は帝国軍ではありません」
「こちらは自由惑星同盟フェザーン駐在武官ユリアン・ミンツ少尉です」(ユリアン)
「この艦は帝国軍より奪取したもので、搭乗者はすべて帝国と反対の立場に立つものです」
「同盟首都ハイネセンへの航行を許可ねがいます」(ユリアン)
「敵の駆逐艦を奪った?」
「案外、手の早い野郎だったんだな」(ポプラン)
「どうも天敵というものがいるらしいな」(ラインハルト)
「キルヒアイス、お前がいてくれたら」
「ヤン・ウェンリーなどに白昼の横行などさせぬものを…」(ラインハルト)
第五章 暁闇
「(元帥を)返上するほど無欲にもなれないからもらっておくが」
「いまさら大してありがたくもないな」(ヤン)
「まあ、ビュコック提督のおすそわけと思うことにしようか」(ヤン)
「民主主義の成果を守るために微力をつくすつもりです」(ヤン)
「さしあたり、負けた後のことだけを考えておいていただきましょう」
「勝ったら、しばらくは安心できるはずです」(ヤン)
「その後、平和外交をおこなうなり軍備を再建するなり、それは政治家の領分で」
「軍人の口出しすることではありません」(ヤン)
「約束して勝てるものなら、いくらでも約束したいのですが…」(ヤン)
「もし戦術レベルでの勝利によって戦略レベルの劣勢をおぎなうことが可能であるとすれば」
「方法はただひとつです」(ヤン)
「その方法とは、ラインハルト・フォン・ローエングラム公を戦場で倒すことです」(ヤン)
「ラインハルト・フォン・ローエングラム公は独身です」
「私のねらいはそこになんです」(ヤン)
「彼らを何らかの方法で分散させ、各個撃破をかさねていけば」
「鋭気と覇気に富むローエングラム公のことです」(ヤン)
「私を討伐するために自ら出馬してくるでしょう」
「その機会をつくらねばなりません」(ヤン)
「それが唯一の勝機です」
「まあ戦略や戦術というより心理学の問題ですがね、こいつは」(ヤン)
「まあ、ミッターマイヤーとロイエンタールのふたりは、なるべく避けて通るとしよう」
「彼らにこだわっていては全体の効率が悪くなる」(ヤン)
「元帥閣下は、おつかれでいらっしゃいますし、軍の機密にわずかでも関することは」
「いっさいお話しできません」(フレデリカ)
「もしわが軍を勝たせたいとお考えなら」
「どうかご理解の上、おひきとりいただきたく存じます」(フレデリカ)
「ぼくの、いや、私の使用した戦術は、今後も同盟軍が侵略者と戦う際して」
「きわめて有効であると信じます」(ユリアン)
「したがって、彼らとの決戦を前にその内容についてくわしくお話しすることは」
「利敵行為に属すると思われます。どうかご容赦ください」(ユリアン)
「お帰りなさい、ユリアン、あなたもいまやちょっとした英雄ね」(フレデリカ)
「ありがとう。でも、提督は、ぼくが帰ってきたことはとても喜んでくださるけど」
「英雄に祭りあげられていることは喜んでいらっしゃらないと思いますね」(ユリアン)
「もしかして、それを嫉妬だと思う、ユリアン?」(フレデリカ)
「…まさか、そんなこと、考えたこともありません」(ユリアン)
「だったらいいの」
「もしあなたがそう考えているとしたら、思いきり引っぱたいてあげたわ」(フレデリカ)
「こう、背中と腕を伸ばしてね」
「わたしは子供のころ手が早いことで有名だったんだから」(フレデリカ)
「そりゃあ軍隊にはいってからは、おしとやかに、猫の毛皮を三、四枚着こんでいたもの…」
「なかなかの努力だったのよ、これは」(フレデリカ)
「やあ、ユリアン、見てくれよ」
「わが心のごとく、かつ現今の世情のごとし、さ」(ヤン)
「当然だろう」
「せっかくの年金も、同盟政府が存続しないことにはもらいようがない」(ヤン)
「したがって、私は、老後の安定のために帝国軍と戦うわけだ」
「首尾一貫、りっぱなものさ」(ヤン)
「帝国軍の駆逐艦を、どんな魔法を使って乗っとったんだ?」
「軍事機密とはいっても、私になら教えてくれるだろう?」(ヤン)
「からかわないでください」
「提督がイゼルローン要塞を奪取なさったときの方法を応用しただけですよ」(ユリアン)
「ふむ、応用か。特許をとっておくべきだったかな」
「年金プラス特許料で…」(ヤン)
「待ってください、まだ完走のチャンスはあります」(ユリアン)
「なに、(イゼルローンに)罠をしかけはしたがね、ごく簡単なことさ」(ヤン)
「それは、ほとんどぺてんですね。成功したら、帝国軍はさぞ腹がたつだろうなあ」(ユリアン)
「お人が悪いですよ」(ユリアン)
「けっこう、最高の賛辞だ」(ヤン)
「老化の第一現象は、固有名詞を思い出せないことからはじまるんですってね」(ユリアン)
「それは正論だ」
「だが、正しい認識から正しい行動が生み落とされるとはかぎらないからね」(ヤン)
「ユリアン、吾々はチグリス・ユーフラテスのほとりにはじめて都市を築いた人々とくらべて、それほど精神的に豊かになったわけではない」(ヤン)
「だが、よしあしは別として、知識は増え、手足は伸びた」
「いまさら揺籠(ゆりかご)にもどることはできない」(ヤン)
「これが成功したとしても、それが歴史に対してどのような意義を持つのか」
「私には疑問なんだ」(ヤン)
「つまり、ラインハルト・フォン・ローエングラム公を武力によって倒し」
「帝国軍を分裂させることは、さしあたり自由惑星同盟にとっては有益だ」(ヤン)
「だが、人類全体にとってはどうだろう」
「帝国の民衆にとっては、あきらかにマイナスだ」(ヤン)
「強力な改革の指導者を失い、その後は政治的分裂」
「悪くすれば、いやほぼ確実に内乱がおきるだろう。民衆はその犠牲になる」(ヤン)
「まったくひどい話さ」
「こうまでして、同盟の目先の安泰を求めなきゃならんのかな」(ヤン)
「ユリアン、戦っている相手国の民衆なんてどうなってもいい」
「などという考え方だけはしないでくれ」(ヤン)
「いや、あやまることはないさ。ただ、国家というサングラスをかけて事象をながめると」
「視野がせまくなるし遠くも見えなくなる」(ヤン)
「できるだけ、敵味方にこだわらない考えかたをしてほしいんだ、お前には」(ヤン)
「すこしだけ熱があるわね。寝ていたければそうなさい」
「どうせすぐにあきて起き出したくなるのだから、ラインハルトは…」(アンネローゼ・フォン・グリューネワルト)
「案ずるな、エミール」
「能力が同じであれば運が勝敗を左右する」(ラインハルト)
「私は自分自身の運の他に、友人からも運をもらった」
「その友人は運だけでなく、生命も未来も私にくれたのだ」(ラインハルト)
「私はふたり分の運を背負っている」
「だからヤン・ウェンリーなどに負けはせぬ。案ずるな」(ラインハルト)
第六章 連戦
「補給路をねらうのは、敵としては当然の戦法である」(ラインハルト)
「わざわざその点を注意したにもかかわらず、また、高言にもかかわらず」
「油断から貴重な物資をそこなうとは、弁解の余地なし。自らを裁け」(ラインハルト)
「これまで確たる方針をたてずにいた私にも責任はあるが」
「一時的な侵攻と寇掠をこととするならともかく」(ラインハルト)
「征服を永久のものとするためには慎重を期せねばならない」
「敵の組織的な武力は、これを徹底的に排除すべきであると考える」(ラインハルト)
「いよいよ、『ぼやきのユースフ』二世ですね」(ユリアン)
「後背(に敵)というと、どのていどの距離だ? 時間的距離でいい」
「では二時間で敵を破り、一時間で逃げ出すとしようか」(ヤン)
「ミスター・レンネンか」
「敵が射程距離にはいる直前に、主砲を三連斉射」(ヤン)
「その後、ライガール星系方面へ逃走すること」
「ただし、ゆっくりと、しかも整然と」(ヤン)
「これでまた私を憎む未亡人や孤児が何十万人かできたわけだ」
「すべてを背おいこむのは、ちと私の肩には重いな」(ヤン)
「地獄へ一回堕ちただけですむものやら…」(ヤン)
「提督が地獄へいらっしゃるなら、ぼくもおともします」
「すくなくとも、寂しくはありませんよ」(ユリアン)
「ばかなことを言うんじゃない」
「お前には天国へ行ってもらって、釣糸で私を地獄からつりあげてもらうつもりなんだ」(ヤン)
「せいぜい善行をつんでおいてほしいな」(ヤン)
「…ヤン艦隊に所属していたら、生命がダース単位であってもたりやしない」
「一日に二艦隊と連戦するのだからな」(ポプラン)
「お前さんの場合、一ダースの生命のひとつごとに一ダースの女が必要だし」
「何かとたいへんだな」(コーネフ)
「そいつはすこしちがうな」
「おれの生命のひとつごとに、一ダースの女がおれを必要としているんだ」(ポプラン)
「なに、お前さんがいなくなれば」
「彼女らはべつの男にべつの美点を見つけるだけのことだよ」(コーネフ)
「卿らにはよい勉強になっただろう」
「卿らのレベルでは測ることのできない相手がいるのだ」(ラインハルト)
「私が卿らに現在の地位をなぜ与えたか、それをよく考えて一から出なおせ」(ラインハルト)
「奴の戦術はまったくみごととしか言いようがない」(ロイエンタール)
「しかし、まさかヤン・ウェンリーが戦術レベルでの勝利を蓄積させて」
「戦略レベルでの勝利に直結させようとしているとも思えないがな」(ロイエンタール)
「どういうつもりでいるのか」(ロイエンタール)
「すると、戦術レベルでの勝利にヤン・ウェンリーは固執しているように見えるが」
「これすべてローエングラム公を自分の前に引き出して正面決戦をしいるための下準備というわけか」(ロイエンタール)
「ローエングラム公がお倒れになれば、吾々は指導者を失い、忠誠の対象を失う」(ミッターマイヤー)
「これ以上、誰のために戦うのかということになる」
「敵としては願ってもないことだ」(ミッターマイヤー)
「誰をもって後継者となすか、それもさだまってもないことだ」(ロイエンタール)
「誰が後継者になってもローエングラム公ほど絶対の支持はえられんだろう」(ミッターマイヤー)
「ワインやビールならまだしも、肉やパンの配給がとどこおりはじめると」
「兵士たちの士気に影響するぞ」(ロイエンタール)
「古来、飢えた軍隊が勝利をえた例はないからな」(ロイエンタール)
「やはり、飢える前に戦わざるをえないか」(ミッターマイヤー)
「吾々がフェザーンでえた情報によりますと、同盟軍は国内に84ヶ所の補給基地」
「および物資集積所をもうけております」(アウグスト・ザムエル・ワーレン)
「わが軍が補給部隊を攻撃されたからには、目には目をもって応じ」
「彼らの補給基地を襲い、できれば物資を強奪してきたいと思いますが」(ワーレン)
「うちの艦隊は逃げる演技ばかりうまくなって…」(ムライ)
「未練がましいことだ」
「まあ、貴重な物資をうばわれては無理もないか…」(ワーレン)
「…人間なにかとりえがあるものだ」(シェーンコップ)
「ローエングラム公の怒りと矜持も、そろそろ臨界点に達しただろう」
「物資も長期戦をささえるほどの量はない」(ヤン)
「近日中に、全軍をあげて大攻勢に出てくるはずだ」
「おそらく、これまでにない苛烈な意志と壮大な戦法をもって…」(ヤン)
「まいったな、同盟領それ自体が奴の基地になっているというわけか」(アーダルベルト・フォン・ファーレンハイト)
「…一個艦隊。わずか一個艦隊で、わが軍を翻弄している!」
「奴が好きなときに好きな場所に出現することができるにしてもだ」(ミッターマイヤー)
「二年前、リップシュタット戦役で門閥貴族のどら息子どもと戦ったとき」
「奴らみたいに無能な輩はいないと思った」(ミッターマイヤー)
「だが、とんでもない誤りだった」(ミッターマイヤー)
「ヤン・ウェンリーがいかに智謀の主といっても」
「たかが一個艦隊にしてやられるおれたちの醜態を見ろよ」(ミッターマイヤー)
「いっそ84ヶ所の補給基地ことごとくを占拠ないし破壊すればよい」
「そうすればヤン艦隊は飢えて動けなくなろう」(ファーレンハイト)
「机上の空論だ」
「全軍をあげて動けばガンダルヴァ星系のわが軍根拠地が空になる」(ロイエンタール)
「84ヶ所のことごとくを制しようとしても、それは兵力分散の愚を犯すだけのことだ」(ロイエンタール)
「現にいままでヤンにしてやられたのは、すべて、各個撃破をもってではないか」(ロイエンタール)
「追ったところで奴は逃げるだけという点を指摘しているのだ」
「いたずらに動けば奴にしかける機会を与えるだけだ」(ロイエンタール)
「だから、ヤン・ウェンリーを誘い出す」
「罠にかけて奴を誘い出し、包囲撃滅する」(ロイエンタール)
「これしかないだろう」
「問題は、どのような餌で奴をつりあげるか、だ」(ロイエンタール)
「とにかく、ヤン・ウェンリー艦隊の主力さえたたけば」
「同盟軍はただ辞書の上の存在でしかなくなるはずです」(ミュラー)
「彼を倒さねば吾々に最終的な勝利はない」(ミュラー)
「ばかか、きさまは」
「その調子で行動パターンが読みとれるまで待っていたら」(フリッツ・ヨーゼフ・ビッテンフェルト)
「何年かかるか知れたものではない」
「それともすべての補給基地をヤン・ウェンリーが食いつぶすまで待つか」(ビッテンフェルト)
「ヤン・ウェンリーがさかりのついた猫のように動きまわろうと」
「そんなものは放っておいて敵の首都を直撃すればいいのだ」(ビッテンフェルト)
「そして吾々の大部分は本国へ引きあげる」
「すると無傷のヤン・ウェンリーがいずこかの補給基地から出てきて」(ミッターマイヤー)
「首都を奪回し、同盟を再建するだろう」
「それを倒すために、また遠征しなくてはならん」(ミッターマイヤー)
「卿らはヤン・ウェンリーを恐れること、子羊が狼を恐れるごとしだな」
「後世の冷笑をどうするつもりだ」(ビッテンフェルト)
「おれが恐れるのはヤン・ウェンリー一個人ではなく、本国と前線との距離だ」
「それを理解できぬと言うのであれば、卿と語ることは何もない」(ミッターマイヤー)
「全提督を招集せよ。作戦をさだめた」(ラインハルト)
「一ヶ月を出でずして、ヤン・ウェンリーの艦隊は宇宙から消滅するだろう」
「楽しみにしていることだ」(ラインハルト)
「卿らに問う! 宇宙の深淵をこえ、一万数千光年の征旅をなしてきたのは何のためだ」
「ひとりヤン・ウェンリーに名をなさしめるためか」(ラインハルト)
「武人としての卿らの矜持は、羽をはやして何処へか逃げおおせでもしたか?」(ラインハルト)
「閣下の常勝の令名をそこない、罪の大なるを胆に銘じております」
「ですが、いえ、だからこそ、あえて申しあげます」(ワーレン)
「あらたなる勝利によって敗北をつぐなうことをお許しいただきたい、と」(ワーレン)
「期待しよう。だが、そろそろ私自身が出てらちをあけたいのでな」(ラインハルト)
「わかるな? これは擬態だ」
「他の者にも、それぞれ艦隊をひきいて私のもとから離れてもらう」(ラインハルト)
「私が孤立したと見れば、ヤン・ウェンリーは洞窟から野原へ出てくるだろう」
「網をはって、そこを撃つのだ」(ラインハルト)
「すると、閣下はご自身が囮になり」
「直属の艦隊のみでヤン・ウェンリーの攻勢に対処なさるおつもりですか」(ミュラー)
「それはあまりに危険すぎます」
「どうか私だけでも、前衛としておそばに残ることをお許しください」(ミュラー)
「無用な心配だ」
「私が同数の兵力ではヤン・ウェンリーに勝てぬとでも思うか、ミュラー」(ラインハルト)
「その点を心配してはおりませんが」
「名将とはいえヤン・ウェンリーは一介の艦隊司令官にすぎません」(ミッターマイヤー)
「閣下おん自ら互角の立場で勝負をなさるにはおよびますまい」
「どうかご自重を願います」(ミッターマイヤー)
「なるほど、卿の弁舌は傾聴に値するが」
「情報によればヤン・ウェンリーはこのほど元帥に昇進したそうだ」(ラインハルト)
「私も帝国元帥であるからには、彼と同格といって大過あるまい」(ラインハルト)
「その点(対策)は考えている」
「ひとつ卿らの不安をはらってやるとしようか」(ラインハルト)
「見るがいい」
「薄い紙でも、数十枚をかさねれば、ワインをすべて吸いとってしまう」(ラインハルト)
「私はヤン・ウェンリーの鋭鋒に対するに、この戦法をもってするつもりだ」
「彼の兵力は私の防御陣のすべてを突破することはかなわぬ」(ラインハルト)
「そして、彼の進撃がとまったとき、卿らは反転した艦隊をもって彼を包囲し」
「その兵力を殲滅し、私の前に彼をつれてくるのだ」(ラインハルト)
「生死は問わぬ」
「彼の姿を自由惑星同盟の為政者どもにしめし、彼らに城下の盟を誓わせよう」(ラインハルト)
「ヤン艦隊などに目もくれず、惑星ハイネセンを陥し、同盟政府を降伏させるのです」(ヒルダ)
「そして彼らをしてヤン・ウェンリーに無益な抗戦をやめるよう命令させれば」
「戦わずして征服の目的を達せられましょうに」(ヒルダ)
「そして私は純軍事的にはヤン・ウェンリーに対して敗者の位置に立つことになるな」(ラインハルト)
「いや、だめだ、フロイライン」
「私は誰に対しても負けるわけにはいかない」(ラインハルト)
「私に対する人望も信仰も、私が不敗であることに由来する」
「私は聖者の徳によって兵士や民衆の支持を受けているわけではないのだからな」(ラインハルト)
「ではお望みのままに」
「わたしも旗艦に乗っておともいたしますから」(ヒルダ)
「いや、フロイライン・マリーンドルフ、あなたは戦場の勇者ではない」
「また、それはあなたにとってごくわずかの不名誉にもならぬ」(ラインハルト)
「ガンダルヴァに残って吉報を待っていてもらおう」(ラインハルト)
「今度の戦いは先日のそれの比ではない」
「観戦の余裕はなかろう」(ラインハルト)
「あなたに万一のことでもあれば、ご父君のマリーンドルフ伯に申しわけのしようがない」(ラインハルト)
「エミールよ、それはちがう」
「名将というものは退くべき時機と逃げる方法とをわきまえた者にのみ与えられる呼称だ」(ラインハルト)
「進むことと闘うことしか知らぬ猛獣は、猟師のひきたて役にしかなれぬ」(ラインハルト)
「(私も)逃げる必要があれば逃げる」
「必要がなかっただけだ」(ラインハルト)
「エミール、私に学ぼうと思うな」
「私の模倣は誰にもできぬ。かえって有害になる」(ラインハルト)
「だが、ヤン・ウェンリーのような男に学べば」
「すくなくとも愚将にはならずにすむだろう」(ラインハルト)
「私には他の生きかたはできないのだ」(ラインハルト)
「いや、もしかしたらできたのかもしれないが」
「子供のころにこの道を歩むようにさだまったのだ」(ラインハルト)
「私は奪われたものをとりかえすために歩みはじめた」
「だが…」(ラインハルト)
「もう寝なさい」
「子供には夢を見る時間が必要だ」(ラインハルト)
「お前が望んだことだ。望みどおりにしてやったからには」
「私の前に出てくるんだろうな、奇跡のヤン」(ラインハルト)
「全軍が反転してヤン・ウェンリーを包囲殲滅する、か…」
「みとごな戦略ではある」(ロイエンタール)
「だが、反転してこなかったときはどうなるのだ?」(ロイエンタール)
第七章 バーミリオン
「私はここにいても、何のお役にも立てんでしょう」
「伯爵閣下のためにも、皇帝陛下のおんためにも」(ウィリバルト・ヨアヒム・フォン・メルカッツ)
「むしろヤン提督に協力して」
「ローエングラム公を打倒することに最後の可能性を見出したいのです」(メルカッツ)
「閣下には、そのための行動の許可をいただきたいと思っているのですが…」(メルカッツ)
「これが帝国正統政府の全員です」
「どこまでも閣下のおともをすると申しております」(シュナイダー)
「何だっておっしゃっても、あれはルイ・マシュンゴ少尉ですわ」
「むろんユリアンがいるからでしょう、りっぱな護衛役ですわ」(フレデリカ)
「(ローエングラム公は)おそろしい男だな」
「(勝率は)五割もあるかな…?」(ヤン)
「勝たねばならない、か…」
「それにしても、えらいことだ。誰かかわってくれないものかな」(ヤン)
「お前にむけて閉ざすドアは私は持っていないよ」
「はいりなさい」(ヤン)
「やれやれ、ふつうは年少者が突進を主張して」
「年長者がそれを抑えるがわにまわるものだが、どうも逆になってるようだな」(ヤン)
「私がローエングラム公に負けると思うのかい?」(ヤン)
「そんな言いかたで口封じなさるのは卑怯です」(ユリアン)
「なあ、ユリアン、私は勝算のない戦いをしないことをモットーにしてきた」
「今度もけっしてそのモットーにそむいているわけではないんだ」(ヤン)
「勝算はおありなんですね?」(ユリアン)
「正直なところ、多くはない」(ヤン)
「これは唯一の機会なんだ」
「ローエングラム公は私のねらいを正確に読みとった上で、私に誘いをかけてきている」(ヤン)
「純粋に打算だけで考えれば、私の存在など無視して首都ハイネセンを衝いてもよいのだ」
「いや、そちらのほうがおそらく効率的だろう」(ヤン)
「なのに彼はそうせず、いわば私の非礼な挑戦を受けてくれたわけだ」(ヤン)
「その意気に感じて、こちらも堂々と正面から戦うということなのですか」(ユリアン)
「いや、私はそれほどロマンチストじゃないよ」(ヤン)
「私がいま考えているのは」
「ローエングラム公のロマンチシズムとプライドを利用していかに彼に勝つか」
「ただそれだけさ」(ヤン)
「じつはもっと楽をして勝ちたいんだが」
「これが今回は最大限、楽な道なんだからしかたない」(ヤン)
「とにかく無理をなさってはだめですよ」(ユリアン)
「大丈夫だよ。無理するのは私の趣味じゃない。心配してくれてありがとう」(ヤン)
「ハイネセンやイゼルローンでならともかく、こんなところで自由行動と言われてもな」(オリビエ・ポプラン)
「まあいい、おれは一夜の情熱のお相手をみつくろうことにするが」
「お前さんはどうする?」(ポプラン)
「部屋で寝ている」(コーネフ)
「くだらんことを堂々と言う奴だな」
「ジョークだったらくだらんし、事実だったらいっそうくだらん」(ポプラン)
「お前さんはジョークのほうが好きだからな」(コーネフ)
「ジョークだけでは生きられないが、ジョークなしでは生きたくないね、おれは」(ポプラン)
「お前さんは存在自体がジョークだろうが」(コーネフ)
「…このところ悪意の表現にみがきがかかったのとちがうか、コーネフさん」(ポプラン)
「いやいや、もてない男の嫉妬にすぎませんよ、気にしないでください、ポプランさん」(コーネフ)
「大尉…少佐…ミス・グリーンヒル……フレデリカ」(ヤン)
「はい。11年間の時間を、ようやくとりもどせたような気がしますわ」(フレデリカ)
「元帥がわたしのファースト・ネームを呼んでくださったのは」
「エル・ファシル星系で生命を救ってくださったとき以来です」(フレデリカ)
「憶えていらっしゃいます?」(フレデリカ)
「フレデリカ、この戦いが終わったら…」(ヤン)
「私は君より七歳も年上だし、何というか、その、生活人として欠けたところがあるし」
「その他にも欠点だらけだし」(ヤン)
「いろいろと顧みてもこんなことを申しこむ資格があるかどうか疑問だし」
「いかにも地位利用をしているみたいだし」(ヤン)
「目の前に戦闘をひかえてこんな場合にこんなことを申しこむのは不謹慎だろうし…」
「だけど言わなくて後悔するよりは言って後悔するほうがいい…」(ヤン)
「ああ、こまったものだな、さっきから自分のつごうばっかり言ってる」
「要するに…要するに、結婚してほしいんだ」(ヤン)
「ふたりの年金をあわせたら、老後も、食べるにはこまらないと思いますわ」
「それに…」(フレデリカ)
「わたしの両親は八歳ちがいでした。そのことをもっと早く申しあげておくべきでしたわ」
「そうしたら…」(フレデリカ)
「あの、どうかなさいましたか」(フレデリカ)
「…返事をまだしてもらってないんだが、どうなんだろう」(ヤン)
「え!? イエスです、閣下。イエスですわ、閣下、ええ、喜んで…」(フレデリカ)
「ありがとう。何と言うか…何と言ったらいいのか…何と言うべきか…」(ヤン)
「…そうか、とうとうヤンの奴、なけなしの勇気を総動員したか」
「まあ基本的にはめでたいことだ。ひとつ乾杯といこうか」(アレックス・キャゼルヌ)
「そりゃヤンにはめでたいさ。何とあいつに嫁さんのなりてがあったんだからな」
「それも特上のな」(キャゼルヌ)
「グリーンヒル少佐にしても、まあ物好きの極致ながら好きな相手と結婚できるわけで」
「まことにめでたい」(キャゼルヌ)
「なにしろ、葬式はひとりでできるが結婚式はふたりでないとできないしなあ」(キャゼルヌ)
「それで、どうして、基本的に、なんて留保をつけるんです?」(ユリアン)
「それは、お前さんが乾杯の前に一杯あけてしまった、その理由さ」(キャゼルヌ)
「ミス・グリーンヒルのこと、あこがれていたんだろう、お前さん」(キャゼルヌ)
「ぼくは、おふたりを祝福してるんです!」
「ほんとうです、おふたりともぼくは大好きだし、これはもう当然の結果で…」(ユリアン)
「こいつはおせっかいと承知で言うんだがな、恋愛にかぎらず」
「人の心のメカニズムは数学じゃとけない。方程式などたちやしないんだ」(キャゼルヌ)
「お前さんの場合はあこがれですむ段階だから」
「まあ、きれいな想い出というやつで消化される」(キャゼルヌ)
「ところがもっと深刻になると、ひとつのものに対する愛情が」
「他のものへの愛情も尊敬も失わせてしまう」(キャゼルヌ)
「善悪の問題じゃない」
「どうしようもなく、そうなってしまうんだ」(キャゼルヌ)
「正直、そうなってはちょっとこまると思っていた」
「お前さんは頭もいい、性格もまずりっぱなものだ」(キャゼルヌ)
「だが、そんなものとかかわりなく、火ってやつは燃えあがるものでね」(キャゼルヌ)
「ふむ、まあ、わかるのはいいことさ、たとえ頭のなかだけでもな」(キャゼルヌ)
「しかし、あのふたりは結婚しても提督とか少佐とかよびあうのかな」(キャゼルヌ)
「いや、おれの家内も、結婚した当初は、おれをキャゼルヌ大尉と呼んでいたものさ」
「呼ばれるたびについ敬礼したくなったね」(キャゼルヌ)
「新婚生活の邪魔をする気はありませんよ」
「ええと、何と言ったかな、馬にけられて死ぬってやつ、ぼくはいやですからね」(ユリアン)
「すぐに戦闘が開始されるわけではない」
「いまは緊張をほぐしておいたほうが、かえってよいだろう」(ラインハルト)
「三時間ほど自由にすごさせてやれ」
「飲酒も許可する」(ラインハルト)
「ローエングラム公は、いまさら言うまでもないが比類ない天才だ」
「正面から同兵力で戦ったら、まず勝算はすくない」(ヤン)
「かもしれませんな」
「ですが、あなただってそう悪くない」(シェーンコップ)
「今年にはいってからも、帝国軍の名だたる用兵巧者をたてつづけに三人」
「手玉にとったではありませんか」(シェーンコップ)
「あれは運がよかったのさ」
「それだけではないが、とにかく運がよかった」(ヤン)
「勝てると思うかい、中将」(ヤン)
「あなたに、ほんとうに勝つ気があればね」(シェーンコップ)
「私は心の底から勝ちたいと思っているんだがね」(ヤン)
「いけませんな」
「ご自分で信じてもいらっしゃらないことを他人に信じさせようとなさっては」(シェーンコップ)
「あなたが勝つことだけを目的にする単純な職業軍人であるか」
「力量に対する自覚もなしに権力だけを欲する凡俗な野心家であるか」(シェーンコップ)
「どちらかなら私としても煽動する甲斐があるんですがね」(シェーンコップ)
「ついでに自分自身の正義を信じて疑わない信念と責任感の人であれば」
「いくらでもけしかけられる」(シェーンコップ)
「ところがあなたは、戦っている最中でさえ」
「自分の正義を全面的に信じてはいない人ですからな」(シェーンコップ)
「信念なんぞないくせに、戦えば必ず勝つ」
「唯心的な精神主義者から見れば許しがたい存在でしょうな、こまった人だ」(シェーンコップ)
「…私は最悪の民主政治でも最良の専制政治にまさると思っている」(ヤン)
「それにしても、最悪の専制は、破局の後に最善の民主政治を生むことがあるのに」
「最悪の民主政治が破局の後に最善の専制を生んだことは一度もないのは奇妙なことだ」(ヤン)
「それぞれの部署において対応せよ! 何のために中級指揮官がいるのか」
「何もかも私がしなくてはならないのか!?」(ラインハルト)
「そんなことは敵と相談してやってくれ」
「こちらには何の選択権もないんだから」(ヤン)
「たいした勇者だ。声は遠くにとどくのに、目は近くのものしか見えない」
「忌避すべき輩ですな」(パウル・フォン・オーベルシュタイン)
第八章 死闘
「何とまあ、まずい戦いをしたことか」(ヤン)
「もっと兵力があればなあ」
「あと1万隻、いや、5000隻、いやいや、3000隻でいい」
「そうすれば…」(ヤン)
「突進!」
「薄すぎる…すぐつぎの敵がくるぞ」(ヤン)
「また出てきやがった。いったい何重の防御網をしいているんだ?」
「大昔のペチコートじゃあるまし」(マリノ)
「まるでパイの皮をむくようだ」
「後から後から、つぎの防御陣があらわれる」(メルカッツ)
「際限がありませんな」(ムライ)
「閣下、ローエングラム公が何をしようとしているのか、わかったような気がします」(ユリアン・ミンツ)
「表現は正確にすることだ。ローエングラム公が何を考えているかということと」
「何をやっているかということ、この両者の間には一光年からの距離があるよ」(ヤン)
「はい、でもこの場合は一光日の距離もないと思います」(ユリアン)
「ローエングラム公がねらっているのは、わが軍に消耗をしいることです」
「それも物的にだけでなく心理的にもです」(ユリアン)
「ことさら、ひとつの陣が突破されるとつぎの陣があらわれるのは、その証拠です」(ユリアン)
「彼らは前方からやってくるのではありません」(ユリアン)
「それでしたらセンサーに捕捉されるはずですし」
「ローエングラム公が戦況を把握するのもむずかしくなります」(ユリアン)
「思うに、わが軍とローエングラム公との間には、本来、何者も存在しません」
「敵の兵力はむしろ、左右に薄いカードのように配置されていると思います」(ユリアン)
「つまり、彼らは左右からスライドして、わが軍の前方にあらわれてくるんです」
「これを何とかすれば、ローエングラム公の本営を直撃できるのではないでしょうか」(ユリアン)
「ウイスキー、ラム、ウォッカ、アップルジャック、各中隊、そろっているな」
「敵に飲まれるなよ。逆に飲みこんでやれ」(ポプラン)
「おれに対抗する気か?」
「半世紀ばかり早いと思うがね」(ポプラン)
「こいつは撃墜した数のうちにははいらんだろうな」
「コーネフとの撃墜競争に負けてしまうぞ」(ポプラン)
「おい、お前さんたちの隊長はどうした?」
「おれ以上に不景気な面を見てやりたいんだがな」(ポプラン)
「おれはいま、まわりくどい説明をゆっくり聞く気になれんのだ」
「お前さんたちの隊長はどうした」(ポプラン)
「何機がかりでやられた?」
「何機がかりでやられたと訊いているんだ」(ポプラン)
「イワン・コーネフが一騎打でやられるはずはない」
「帝国軍は何機がかりでコーネフを袋だたきにしたんだ?」(ポプラン)
「…なるほどな。コーネフの野郎をかたづけるのに、帝国軍は巡航艦が必要だったか」
「だとしたら、おれのときには戦艦が半ダースは必要だな」(ポプラン)
「ローエングラム公の戦術は」
「極端なまでの縦深陣によってわが軍の消耗をはかることにある」
「ミンツ中尉のしてきしたとおりだ」(ヤン)
「このまま前進するのは愚劣というものだが、停滞すれば時間をかせがれて」
「やはり彼の術中に陥ることになるだろう」(ヤン)
「したがって、敵の重厚きわまる布陣をいかにくずすか、唯一の勝機がそににある」(ヤン)
「故意に見せつけるような動きからすると、囮のように見えますが」
「案外、それこそが主力部隊かもしれませんな」(オーベルシュタイン)
「いずれにせよ、こちらが兵力を分けるのは愚策というものです」
「ご決断を、閣下」(オーベルシュタイン)
「全軍を左翼方面へ振りむけよ。囮と見せて実兵力を動かすのが敵の作戦と思われる」
「正面に立ちはだかって、奴らの鼻面をたたきのめせ」(ラインハルト)
「してやられたか…勝ちづつけて、勝ちつづけて、最後になって負けるのか」
「キルヒアイス、おれはここまでしかこれない男だったのか」(ラインハルト)
「閣下、すでにシャトルの用意ができております」
「どうか脱出のご決意を…」(アルツール・フォン・シュトライト)
「出すぎたまねをするな。私は必要のないとき逃亡する戦法を誰からも学ばなかった」
「卑怯者が最後の勝者となった例があるか」(ラインハルト)
「あえて申しあげます」
「ここで戦場を離脱なさっても、敗北を意味するものではありません」(シュトライト)
「諸提督の艦隊を糾合なさり、あらためて復讐戦をいどめばよろしいではありませんか」(シュトライト)
「ここでヤン・ウェンリーに殺されるとしたら、私はそのていどの男だ」
「何が宇宙の覇者か」(ラインハルト)
「私に敗死した奴らが、天上や地獄で私を嘲笑することだろう」
「卿らは私を笑い者にしたいのか」(ラインハルト)
「一個艦隊の加勢がついたくらいで逃げ出すほど」
「うちの司令官は負けっぷりはよくないはずだがな」(アッテンボロー)
「『奇跡のヤン』のお手なみをまた拝見したいものだ」(アッテンボロー)
「こいつはとんだ権威主義におちいっていたかな」
「ミュラーを無視していたとは…」(ヤン)
「良将だな」
「よく判断し、よく戦い、よく主君を救う、か」(ヤン)
「吾に余剰兵力なし。そこで戦死せよ」
「言いたいことがあればいずれヴァルハラで聞く」(ラインハルト)
「では、他の艦に司令部をうつす」
「もっとも近い距離にいる戦艦は何か」(ミュラー)
「運がよいのか、悪いのか」(ミュラー)
第九章 急転
「司令官! お話があります」(シェーンコップ)
「君の言いたいことはわかっているつもりだ。だから何も言わないでくれ」(ヤン)
「さあ、政府の命令など無視して、全面攻撃を命令なさい」
「そうすれば、あなたはみっつのものを手に入れることができる」(シェーンコップ)
「ラインハルト・フォン・ローエングラム公の生命と、宇宙と、未来の歴史とをね」
「決心なさい!」(シェーンコップ)
「あなたはこのまま前進するだけで歴史の本道を歩むことになるんだ」(シェーンコップ)
「…うん、その策もあるね」
「だけど私のサイズにあった服じゃなさそうだ」(ヤン)
「ええ、『疾風ウォルフ』の快足をもってしても」
「ローエングラム公を救うのにまにあわないでしょう」(ヒルダ)
「じつは、わたしは一度ローエングラム公にこの提案をして拒否されました」
「戦って勝つことにこそ意味がある、と」(ヒルダ)
「それは正しい価値観だと思いますが、負ければすべてが無に帰してしまいます」(ヒルダ)
「はい、今回このまま事態が推移すれば」
「ローエングラム公は生涯最初で最後のご経験をなさることになるでしょう」(ヒルダ)
「いまひとつ問題があります」
「ヤン・ウェンリーが政府からの停戦命令にしたがうかどうか、ということです」(ミッターマイヤー)
「彼にしてみれば目前に勝利の果実がみのっているのに」
「なぜその実を捨てて停戦しなくてはならないのか」(ミッターマイヤー)
「それを無視したほうが、彼のえるものは、はるかに大きいのではありませんか」(ミッターマイヤー)
「それはわたしも考えました。ですけど」
「やはりヤン・ウェンリーへの停戦命令は有効であろうとの結論に達したのです」(ヒルダ)
「もし彼が武力と軍事的才能を背景に権力をにぎろうとするなら」
「これまでに幾度も機会がありました」(ヒルダ)
「でも、彼はその機会のすべてを見のがし、辺境守備の一軍人に甘んじてきたのです」(ヒルダ)
「おそらくヤン・ウェンリーは、権力より貴重なものがあるということを」
「理念でなく、皮膚で感じている人物なのではないかと思います」(ヒルダ)
「それは賞賛すべき気質とは思いますけど」
「卑劣を承知で、この際は利用するしかありません」(ヒルダ)
「わかりました。フロイライン・マリーンドルフ、あなたの策にしたがいましょう」
「どうも、他に策がなさそうだ」(ミッターマイヤー)
「ですが、私ひとりでというわけにはまいりません」
「他に誰か、僚友の同行を求めたいのです」(ミッターマイヤー)
「明敏なあなたには、おそらく理由がおわかりでしょう」(ミッターマイヤー)
「隣の星系にいて連絡もとりやすく、力量も信頼に値する男です」
「オスカー・フォン・ロイエンタールです」(ミッターマイヤー)
「ロイエンタール提督はどうお考えでしょう」
「もしかして、帝国軍どうしが相撃つことになるのではありませんか?」(カール・エドワルド・バイエルライン)
「…卿は意外に文学的想像力が豊かだな」(ミッターマイヤー)
「ロイエンタールはおれの友人だし」
「おれはものわかりの悪い男と10年も友人づきあいできるほど温和な人間ではない」(ミッターマイヤー)
「卿が想像の翼をはばたかせるのは自由だが」
「無用な誤解をまねくがごとき言動はつつしめよ」(ミッターマイヤー)
「つねに敵の奇襲にそなえるのは、武人として当然のことではないか」
「ここは敵国のただなかであって、故郷の小学校の裏庭ではないぞ」(バイエルライン)
「教師の目をぬすんで午睡を楽しんでいるようなわけにはいかんのだ」(バイエルライン)
「権力者というものは、一般市民の家が炎上したところで眉ひとつ動かしませんが」
「政府関係の建物が破壊されると血の気を失うものです」(ミッターマイヤー)
「まあ私も平民出身ですから…」(ミッターマイヤー)
「なるほど、『アルテミスの首飾り』があれば、この惑星だけはたしかに守れたでしょう」
「しかし他の星系はどうなります?」(ビュコック)
「この惑星、そしてあなたがたの権力さえ無事なら」
「他の星系がどれほど戦禍をこうむろうと」
「平然として戦争をつづけるというわけですかな」(ビュコック)
「要するに、同盟は命数を費いはたしたのです」(ビュコック)
「政治家は権力をもてあそび」
「軍人はアムリッツァに見られるように投機的な冒険にのめりこんだ」(ビュコック)
「民主主義を口にとなえながら、それを維持する努力をおこたった」
「いや、市民すら、政治を一部の政治業者にゆだね、それに参加しようとしなかった」(ビュコック)
「専制政治が倒れるのは君主と重臣の罪だが、民主主義が倒れるのは全市民の責任だ」(ビュコック)
「あなたを合法的に権力の座から追う機会は何度もあったのに」
「自らその権利と責任を放棄し」
「無能で腐敗した政治家に自分たち自身を売りわたしたのだ」(ビュコック)
「そう、演説すべきときはすでに終わった」
「もはや行動のときだ」(ビュコック)
「よろしいかな、トリューニヒト議長」
「わしは力ずくでもあなたをとめてみせますぞ」(ビュコック)
「フロイライン・マリーンドルフ、あなたの智謀は一個艦隊の武力にまさる」
「どうか今後もローエングラム公のためによき智謀を発揮していただきたいものです」(ミッターマイヤー)
「正直に申して、ここまでうまくいくとは思いませんでしたな」
「おみごとです」(ロイエンタール)
「まったく、同盟の権力者どもが自己の生命をものともせず」
「要求を拒否したらどうしようかと私も内心思っておりましたよ」(ミッターマイヤー)
「こんなことを言うのも妙なものですが、なさけない権力者どもですな」(ミッターマイヤー)
「一億人が一世紀間、努力をつづけて築きあげたものを」
「たったひとりが一日でこわしてしまうことができるのですわ」(ヒルダ)
「国が亡びるときとは、こういうものですかな」(ミッターマイヤー)
「ゴールデンバウム朝銀河帝国、自由惑星同盟、そしてフェザーン」(ロイエンタール)
「吾々は、宇宙を分割支配した三大勢力が」
「みっつながら滅亡するのを目のあたりにしたわけです」(ロイエンタール)
「後世の歴史家がさぞうらやましがるでしょう」
「トゥルナイゼン中将の表現を借りれば、ですが」(ロイエンタール)
「お気持ちはよくわかります」
「でも、そんなことをしたら、悪い前例が歴史に残ります」(ユリアン)
「軍司令官が自分自身の判断をよりどころにして政府の命令を無視することが許されるなら」
「民主政治はもっとも重要なこと」(ユリアン)
「国民の代表が軍事力をコントロールするという機能をはたせなくなります」
「ヤン提督に、そんな前例をつくれると思いますか」(ユリアン)
「そんなこと(民衆の虐殺)は、むろん許されません」(ユリアン)
「そんな非人道的な、軍人という以前に人間としての尊厳さを問われるようなときには」
「まず人間であらねばならないと思います」(ユリアン)
「そのときは政府の命令であってもそむかなくてはいけないでしょう」(ユリアン)
「でも、だからこそ」
「それ以外の場合には、民主国家の軍人としてまず行動しなくてはならないときには」
「政府の命令にしたがうべきだと思います」(ユリアン)
「でなければたとえ人道のために起ったとしても」
「恣意によるものだとそしられるでしょう」(ユリアン)
「ヤン提督には何よりもまず政治的野心がない」
「政治の才能もないかもしれない」(シェーンコップ)
「だが、ヨブ・トリューニヒトのように国家を私物化し、政治をアクセサリーにし」
「自分に期待した市民を裏切るようなまねは、ヤン提督にはできんだろう」(シェーンコップ)
「ヤン提督の能力は、歴史上の大政治家たちに比較するば、とるにたりないかもしれんが」
「この際、比較の対照はヨブ・トリューニヒトひとりでいいんだ」(シェーンコップ)
「銀河帝国は和平の代償として、ヤン提督の生命を要求するかもしれない」
「政府がそれに応じてヤン提督に死を命じたら、そのときはどうする?」(シェーンコップ)
「唯々諾々としてそれにしたがうのか」(シェーンコップ)
「そんなことはさせません、絶対に」(ユリアン)
「それは提督の問題です。これはぼくの問題です」
「ぼくはローエングラム公に屈伏した政府の命令になどしたがう気はありません」(ユリアン)
「ぼくがしたがうのはヤン提督だたおひとりの命令です」(ユリアン)
「提督が停戦を受けいれられたから、ぼくも受けいれねばならないんです」
「でもそれ以外のことはべつです」(ユリアン)
「ユリアン、失礼な言種だが、お前さんはおとなになったな」
「おれもお前さんに見習って受けいれるべきは受けいれるとしよう」(シェーンコップ)
「だが、どうしても譲れないところがある」
「それもまたお前さんの言うとおりだがな」(シェーンコップ)
「停戦はしかたありますまい」
「政府の決定ですから」(シュナイダー)
「ですが、もし、あなたがた自由惑星同盟が」
「自己保身のためにメルカッツ提督を犠牲の羊に供しようと考えているなら」(シュナイダー)
「私はそんなエゴイズムを甘受する気はありませんぞ」(シュナイダー)
「私には未来を予知することはできません」(ヤン)
「ですが、シュナイダー中佐が言ったように」
「同盟政府があなたを帝国軍にさしだして媚を売ることは充分に考えられます」(ヤン)
「私は同盟の人間で、政府の愚行につきあわねばなりません」
「ですが、あなたにそんな義務はない」(ヤン)
「沈みかけた船から退去していただかねば、私がこまります」(ヤン)
「ありがたいお話です、ヤン提督。ですが、あなたが残って責任をおとりになるのに」
「私だけが逃亡して身の安全をはかれるとお思いですか」(メルカッツ)
「そうおっしゃると思っていまいた。ですがメルカッツ提督」
「私はあなたに楽をしていただこうとは思ってないのです」(ヤン)
「もっと不埒なことを考えているので、後日のために、同盟軍の一部」
「それももっとも濃いエキスを保存していただこうと思っているのですよ」(ヤン)
「つまり、大昔のロビンフットの伝説でいえば」
「『動くシャーウッドの森』をひきいていただきたいのです」(ヤン)
「その話、乗った」
「自由惑星同盟の自由とは、自主独立ということだ」(ポプラン)
「帝国の属領になりさがった同盟に、おれは何の未練もない」
「自尊心のない女に魅力がないのと同じでね」(ポプラン)
「軍閥化の第一歩だな、国家や政府でなく個人に忠誠を誓うというのは」
「こまったものだ」(キャゼルヌ)
「私は残る。というより残らざるをえん。将官が大量に消えては帝国軍の疑惑を招くだろう」
「ヤン司令官とともに処置を待つさ」(キャゼルヌ)
「私は亡命してきたとき、あなたにすべての未来をゆだねた」
「そうしろと言われるなら、喜んであなたのご希望にそいましょう」(メルカッツ)
「他人がこんなことをしたら、あほうにちがいないと私も思うだろう」
「だけど、私は結局こんな生きかたしかできないんだ」(ヤン)
「かえって、私の好きな連中に迷惑をしいるとわかりきっているのになあ…」(ヤン)
「わたしにはわかりません。あなたのなさることが正しいのかどうか」(フレデリカ)
「でも、わたしにわかっていることがあります」
「あなたのなさることが、わたしはどうしようもなく好きだということです」(フレデリカ)
「…私は勝利をゆずられたというわけか」
「なさけない話だな」(ラインハルト)
「私は本来、自分のものでない勝利をゆずってもらったのか」
「まるで乞食のように…」(ラインハルト)
第十章 「皇帝ばんざい!」
「四万隻の敵艦にかこまれて紅茶を飲むのは、けっこう乙な気分だな」(ヤン)
「貴官が銀河系の私たちと同じがわに生まれておいでであれば」
「私はあなたのもとへ用兵を学びにうかがったでしょう」(ミュラー)
「そうならなかったことが残念です」(ミュラー)
「恐縮です。私はあなたにこそ、銀河系のこちらに生まれていただきたかった」
「そうであれば私はいまごろ家で昼寝をしていられたでしょうに」(ヤン)
「卿にはぜひ一度会ってみたい、と、長いこと思っていた」
「ようやく望みがかなったというわけだ」(ラインハルト)
「どうだ、私につかえないか」
「卿は元帥号を授与されたそうだが、私も卿に与えるに帝国元帥の称号をもってしよう」(ラインハルト)
「今日では、こちらのほうがより実質的なものであるはずだが」(ラインハルト)
「身にあまる光栄ですが、辞退させていただきます」
「私はおそらく閣下のお役に立てないと思いますので…」(ヤン)
「私が帝国に生を享けていれば、閣下のお誘いを受けずとも」
「すすんで閣下の麾下にはせ参じていたことでしょう」(ヤン)
「ですが、私は帝国人とはちがう水を飲んで育ちました」
「飲みなれぬ水を飲むと身体をこわすおそれがあると聞きます」(ヤン)
「卿の忠誠心は民主主義の上にのみある、と、そういうことなのだな」
「それほど民主主義とはよいものかな」(ラインハルト)
「銀河連邦の民主共和政は」
「ルドルフ・フォン・ゴールデンバウムという醜悪な奇形児を生んだではないか」(ラインハルト)
「それに卿の愛してやまぬ──ことと思うが──自由惑星同盟を私の手に売りわたしたのは」
「同盟の国民多数が自らの意志によって選出した元首だ」(ラインハルト)
「民主共和政とは」
「人民が自由意志によって自分たち自身の制度と精神をおとしめる政体のことか」(ラインハルト)
「失礼ですが、閣下のおっしゃりようは」
「火事の原因になるという理由で、火そのものを否定なさるもののように思われます」(ヤン)
「私は(専制政治を)否定できます」
「人民を害する権利は、人民自身にしかないからです」(ヤン)
「正義は絶対ではなく、ひとつでさえないというのだな」
「それが卿の信念というわけか」(ラインハルト)
「これは私がそう思っているだけで、あるいは宇宙には唯一無二の真理が存在し」
「それを解明する連立方程式があるのかもしれませんが」(ヤン)
「それにとどくほど私の手は長くないのです」(ヤン)
「私は真理など必要としなかった」
「自分の望むところのものを自由にする力だけが必要だった」(ラインハルト)
「逆にいえば、きらいな奴の命令をきかずにすむだけの力がな」(ラインハルト)
「私には友人がいた」
「その友人とふたりで、宇宙を手に入れることを誓約しあったとき」
「同時にこうも誓ったものだ」(ラインハルト)
「卑劣な大貴族どものまねはすまい」
「必ず陣頭に立って戦い、勝利をえよう、と…」(ラインハルト)
「私はその友人のために、いつでも犠牲になるつもりだった」
「だが、実際に、犠牲なったのは、いつも彼のほうだった」(ラインハルト)
「私はそれに甘えて、甘えきって」
「ついには彼の生命まで私のために失わせてしまった…」(ラインハルト)
「その友人がいま生きていたら」
「私は生きた卿ではなく、卿の死体と対面していたはずだ」(ラインハルト)
「ヤン提督、私は復讐者ではない。帝国の大貴族どもにとってはそうだったが」
「卿らに対しては互角の敵手であったと思っている」(ラインハルト)
「軍事の最高責任者たる統合作戦本部長を収監するのはやむをえないが」
「戦火がおさまって後、無用な血を流すのは私の好むところではない」(ラインハルト)
「ところで、卿を自由の身にしたら、卿は今後どうするか」(ラインハルト)
「退役します」(ヤン)
「同盟を形式の上でも完全に滅亡させ」
「直接支配下におくことは時期尚早との意見が多うございます」(オーベルシュタイン)
「私も賛成です」
「ですが、同盟の財政をさらに悪化させる処置はとっておくべきかと存じます」(オーベルシュタイン)
「何しろ、軍事支出が激減する分、財政は健全化するものですから」
「何も彼らをして第二のフェザーンたらしめる必要はありますまい」(オーベルシュタイン)
「首に縄をかけられて、爪先だけは床についているといったところだね」
「レベロも大変だろうな」(ホワン・ルイ)
「私は地上で最大の権力をえたはずなのに、会いたくもない男と会わねばならないのか」(ラインハルト)
「フロイライン・マリーンドルフ、私は心の狭い男だ」
「あなたに生命を救ってもらったとわかっているのに、いまは礼を言う気になれぬ」(ラインハルト)
「すこし時を貸してくれ」(ラインハルト)
「こちらこそ、出すぎたまねをいたしまして」(ヒルダ)
「どんなお叱りをうけても当然のところですのに」
「そんな風におっしゃられては赤面の至りです」(ヒルダ)
「ただ、ご寛容に甘えまして、お願いいたします」(ヒルダ)
「ミッターマイヤー、ロイエンタール、おふたかたの功績に対しましては」
「どうか充分に酬いてやってくださいますよう」(ヒルダ)
「ロイエンタールは猛禽だ。遠方に置いておいては危険きわまりない」
「あんな男は目のとどく場所で鎖につないでおくべきなのだ」(オーベルシュタイン)
「どこへでも行くがいい。滅びるべきときに滅びそこねたものは」
「国でも人でも、みじめに朽ちはてていくだけだ」(ラインハルト)
「ゴールデンバウム家再興の夢を見たいというのであれば」
「いつまでもベッドにもぐりこんで現実を見なければよい」(ラインハルト)
「そんな奴らに、なぜこちらが真剣につきあわねばならぬ」(ラインハルト)
最後まで読んで頂きありがとうございました。
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