原作小説「銀河英雄伝説」ヤン・ウェンリーの名言・台詞をまとめていきます。
銀河英雄伝説1巻 黎明篇
序章 銀河系史概略
「できることと、できないことがある」
第一章 永遠の夜のなかで
「ですが、まだ包囲網が完成されたわけではありません」
「ひとつ狂うとすべてが狂うものだな」
「心配いりません。司令官が帝国軍の注意を引きつけてくれます」
「レーダー透過装置などつけず、太陽風に乗って悠々と脱出できますよ」
「要するに3,4000年前から戦いの本質というものは変化していない」
「戦場に着くまでは補給が、着いてからは指揮官の質が、勝敗を左右する」
硬直した固定観念ほど危険なものはない。
第二章 アスターテ会戦
「おそらく無益でしょう」
「いまから行っても、どうせ間に合いません」
「では結局、(このまま個別に助けに行けば)三艦隊いずれもが」
「敵の各個撃破戦法の好餌になってしまいます」
「心配するな。私の命令に従えば助かる」
「生還したい者は落着いて私の指示に従ってほしい」
「わが部隊は現在のところ負けているが、要は最後の瞬間に勝っていればいいのだ」
「心配ない、(作戦の連絡は)複数の通信回路を使って」
「各艦に戦術コンピューターのC4回路を開くよう、それだけを告げればよい」
「それだけなら、傍受したところで敵には判断できないだろう」
「無用になっていればよかったのだがね」
「頭をかいてごまかすさ」
「どうやら、うまく行きそうだな」
第四章 第一三艦隊誕生
「敗軍の将ですよ、私は」
「(負けたのは)首脳部の作戦指揮がまずかったからさ」
「行こう」
「ここはあなた(ジェシカ)のいるべき場所ではないと思う…」
本来、名将と愚将との間に道義上の優劣はない。
愚将が味方を100万人殺すとき、名将は敵を100万人殺す。
その差があるだけで、殺されても殺さないという絶対的平和主義の見地からすれば、
どちらも大量殺人者であることに差はないのだ。
「生意気言うな、子供のくせに」
「子供ってのはな、大人を喰物にして成長するもんだ」
「(軍人は)嫌いだよ」
「(理由は)決まってる。他に能がなかったからだ」
「ユリアン、今夜の事件は多分笑い話ですむだろう」
「だが近い将来、それではすまなくなるかもしれない」
「どうも少しずつ悪い時代になってきているようだ」
「(昇進は)負けたからでしょう」
「やたらと恩賞を与えるのは窮迫している証拠だと古代の兵書にあります」
「敗北から目をそらせる必要があるからだそうです」
「少数をもって多数を破るのは、一見、華麗ではありますが」
「用兵の常道から外れており、戦術ではなく奇術の範疇に属するものです」
「それと知らないローエングラム伯とは思えません」
「次は圧倒的な大軍を率いて攻めて来るでしょう」
「ボタン戦争と称された一時代」
「レーダーと電子工学が奇形的に発達していた一時代をはぶいて」
「戦場における用兵にはつねに一定の法則がありました」
「兵力を集中すること」
「その兵力を高速で移動させること、この両者です」
「これを要約すればただ一言、『むだな兵力を作るな』です」
第五章 イゼルローン攻略
「(方法は)秘密です」
「こういうことはもったいぶった方がありがたみが出ますから」
「予定通り事が運ぶことは、めったにありませんよ」
「といって予定をたてないわけにも行きませんしね」
「4000光年を24日。悪くないな」
「第13艦隊には(艦隊運用の)名人がいるから」
「なに、心配ない。もともと半個艦隊でイゼルローンを陥せというのが無理難題なんだ」
「(失敗して)恥をかくのはシトレ本部長と私さ」
「(イゼルローン要塞攻略に)どうしてそう自信満々なんだ?」
「そうか、謝る」
「しかし、君の記憶力はもっと有益な方面に生かすべきだね」
「先回りして言うとね、大佐、こいつはまともな作戦じゃない」
「詭計、いや小細工に属するものだ」
「しかし難攻不落のイゼルローン要塞を占領するには、これしかないと思う」
「これでだめなら、私の能力のおよぶところじゃない」
「貴官を信用しないかぎり、この計画そのものが成立しない」
「だから信用する。こいつは大前提なんだ」
「恒久平和なんて人類の歴史上なかった。だから私はそんなもの望みはしない」
「だが何十年かの平和で豊かな時代は存在できた」
「吾々が次の世代に何か遺産を託さなくてはならないとするなら」
「やはり平和が一番だ」
「要するに私の希望は、たかだかこのさき何十年かの平和なんだ」
「だがそれでも、その十分ノ一の期間の戦乱に勝ること幾万倍だと思う」
「私の家に14歳の男の子がいるが、その子が戦場に引き出されるのを見たくない」
「そういうことだ」
「…そう、その通りだな」
「帝国軍の悪いまねを吾々がすることはない」
「大佐、彼らに降伏を勧告してみてくれ」
「それが嫌なら逃げるように、追撃はしない、と」
「武人の心だって?」
こんな奴がいるから戦争が絶えないのだ。
「砲手! 敵の旗艦を識別できるか。集中的にそれを狙え!」
「これが最後の砲撃だ。旗艦を失えば、残りの連中は逃げるだろう」
「同盟本国に連絡してくれ」
「何とか終わった、もう一度やれと言われてもできない、とね」
「後を頼む。私は空いた部屋で寝るから」
「とにかく疲れた」
「どいつもこいつも全然、わかっていやしないのさ」
「魔術だの奇術だの、人の苦労も知らないで言いたいことを言うんだからな」
「私は古代からの用兵術を応用したんだ」
「敵の主力とその本拠地を分断して個別に攻略する方法さ」
「それにちょっとスパイスを効かせただけで、魔術なんぞ使ってはいないんだが」
「うっかりおだてに乗ったりしたら」
「今度は素手でたったひとり、帝国首都を占領して来い」
「なんて言われかねない」
「賞められるのは勝っている期間だけさ。戦い続けていれば、いつかは負ける」
「そのときどう掌が返るか、他人事ならおもしろいがね」
第六章 それぞれの星
傍にいるこの少年が、彼と同じ星を見上げる必要はいささかもない。
人は自分だけの星をつかむべきなのだ。たとえどのような兇星であっても…。
第七章 幕間狂言
「勝敗は結局、相対的なもので…」
「彼が犯した以上の失敗を我々が犯せば、彼が勝って我々が敗れる道理です」
「私は権力や武力を軽蔑しているわけではないのです」
「いや、じつは怖いのです」
「権力や武力を手に入れたとき、ほとんどの人間が醜く変わるという例を」
「私はいくつも知っています」
「そして自分は変わらないという自信が持てないのです」
第八章 死線
「(民衆を助けるのは)吾々がルドルフにならないためにさ」
「(撤退は)余力のあるうちにです」
「敵はわが軍の補給を絶って、吾々が飢えるのを待っています」
「それは何のためでしょう」
「おそらく全面的な攻勢です。敵は地の利をえており、補給線も短くてすむ」
「反撃の準備は充分に整える、それは大前提です」
「いまならそれが可能ですが、兵が飢えてからでは遅い」
「その前に整然と後退するしかありません」
「まったくみごとだ、ローエングラム伯」
自分にはここまで徹底的にはやれない。
やれば勝てるとわかっていてもやれないだろう。
それがローエングラム伯と自分の差であり、自分が彼を恐れる理由でもあるのだ。
──この差が、いつか重大な結果を招くことになるかもしれない…。
「よし、全艦隊、逃げろ!」
「つけこむ隙も逃げ出す隙もない」
「ローエングラム伯は優秀な部下を持っているようだ」
「けれん味のない、いい用兵をする…」
第九章 アムリッツァ
「酒量が増えたと言ったって、これでやっと人並みだ」
「身体をそこねるまでには、たっぷり1000光年はあるさ」
「中尉、聞いての通りだ」
「生き残れたら、余生は栄養に心がけることにするよ」
ローエングラム伯の配下には何と人材が多いことか。
味方にもウランフやボロディンがいれば、せめて互角の戦いが挑めたであろうけれど…。
「(新たな敵?) へえ、そいつは一大事」
「どうも負けたらしいな」
「そうだな、逃げるにはまだ早いだろう」
「中尉…私は少し歴史を学んだ」
「それで知ったのだが、人間の社会には思想の潮流が二つあるんだ」
「生命以上の価値が存在する、という説と」
「生命に優るものはない、という説とだ」
「人は戦いを始めるとき前者を口実にし、戦いをやめるとき後者を理由にする」
「それを何百年、何千年も続けて来た…」
「このさき、何千年もそうなんだろうか」
「いや、人類全体なんてどうでもいい」
「私はぜんたい、流した血の量に値するだけの何かをやれるんだろうか」
「…ローエングラム伯は、もしかして第二のルドルフになりたいのだろうか…」
第十章 新たなる序章
「他人に言えるようなことじゃないよ」
「まったく、人間は勝つことだけ考えていると、際限なく卑しくなるものだな」
「私には(射撃)の才能がないらしい」
「努力する気もないんで、今では同盟軍で一番へたなんじゃないかな」
「司令官が自ら銃をとって自分を守らなければならないようでは戦いは負けさ」
「そんなはめにならないことだけを私は考えている」
2巻 野望篇
第一章 嵐の前
「もし私が銃を持っていて、撃ったとしてだ、命中すると思うか?」
「じゃ、持っていてもしかたがない」
「用心しても、だめなときはだめさ」
「地位が上がるにつれて、発想が不純になっていくのがよくわかるよ」
「しかし、じつのところ笑いごとじゃない」
「食わせるのが大変、という言葉には重要な示唆がある」
「捕虜を食わせるどころではない、という事態がくるのだろう」
「つまり、ローエングラム侯ラインハルトが、門閥貴族連合との武力抗争に」
「いよいよ乗りだす決意をかためた、と見てよいと思う」
「あの二時間で、一生分の忍耐心を費いはたしたような気がするよ」
どの時代にも狂信者の種はつきない。
それにしても、これはひどすぎる。
老衰した辺境の一惑星をうばいかえすために、何百万人もの血を流してよい、
という発想はどこからくるのであろう。
「皆さん、楽しくやってください」(二秒スピーチ)
「(不便?) 私はけっこう楽しみましたよ。士官学校時代を思い出しますね」
「門限破りの方法に、ない知恵をしぼったものです」
「ちかいうちにこの国でクーデターがおこる可能性があります」
「成功しなくてもよいのです、ローエングラム侯にとっては」
「彼にしてみれば、同盟軍を分裂させること自体に意義があるんですから」
「(クーデターが)発生すれば、鎮圧するのに大兵力と時間を必要としますし、傷も残ります」
「ですが、未然に防げば、憲兵の一個中隊で、ことはすみますから」
第三章 ヤン艦隊出動
「戦わずに降伏させることを考えてみよう」
「そのほうが第一、楽だ」
「ところが、世の中の半分以上は」
「兵士を多く死なせる司令官ほど苦労をしていると考えるのさ」
「君がいてくれないと困る」
「私はものおぼえが悪いし、メカにも弱いし、有能な副官が必要なんだ」
「私はベストよりベターを選びたいんだ」
「いまの同盟の権力がだめだってことはたしかにわかっている」
「だけど、救国軍事会議とやらのスローガンを君も見たろう」
「あの連中は、いまの連中よりひどいじゃないか」
「独裁者ヤン・ウェンリーか」
「どう考えても柄じゃないね」
「お前(ユリアン)に、スポークスマンとしての才能まであるとは思わなかったよ」
「私はだめだな。自由惑星同盟に、いささか深くかかわりすぎた」
「給料をだしてくれる相手にはそれなりの義理をはたさないとな」
「最終的にはハイネセンへ」
第五章 ドーリア星域の会戦
「未来のヤン・ウェンリーがいるかもしれないさ」
「平和な時代なら、まだ私は無名のままさ」
「歴史学者の卵で、まだひよこにすらなっていないだろう」
「ヤン・ウェンリーとかいう奴は、ずいぶんと偉い奴らしいな」
「あんたと同姓同名で、たいへんな差だ」
「やった! わかったぞ!」
「そうさ、勝つんだ。ヤン・ウェンリーは勝算のない戦いはしない、そうだろ?」
「喜んでくれ、作戦が決まったぞ」
「どうやら勝てそうだ」
「もうすぐ戦いが始まる」
「ろくでもない戦いだが、それだけに勝たなくては意味がない」
「勝つための計算はしてあるから、無理をせず、気楽にやってくれ」
「かかっているものは、たかだか国家の存亡だ」
「個人の自由と権利に比べれば、たいした価値のあるものじゃない…」
「それでは、みんな、そろそろ始めるとしようか」
「バグダッシュはきちんとした計算のできる男だ」
「私が勝ちつづけているかぎり、裏切ったりはしないさ」
「さしあたっては、それで充分だ。それに…」
「なるべく、お前に人殺しはさせたくないよ」
第七章 誰がための勝利
「人間は誰でも身の安全をはかるものだ」
「この私だって、もっと責任の軽い立場にいれば」
「形勢の有利なほうに味方しよう、と思ったかもしれない」
「まして他人なら、なおさらのことさ」
「信念で勝てるのなら、これほど楽なことはない」
「誰だって勝ちたいんだから」
「(惑星ハイネセンを初めて攻撃するのは)なんと、このヤン・ウェンリーなのさ」
「オーディンか? そちらはお前にまかせるよ」
「私はハイネセンだけでたくさんだ」
「さっさと引退して、あこがれの年金生活にはいりたいものさ」
「心配ない、グリーンヒル大尉」
「『アルテミスの首飾り』を破壊するのに、一隻の戦艦もひとりの人命も」
「犠牲にしないことを約束するよ」
「専制とはどういうことだ? 市民から選ばれない為政者が」
「権力と暴力によって市民の自由をうばい、支配しようとすることだろう」
「それはつまり、ハイネセンにおいて現に貴官たちがやっていることだ」
「貴官たちこそが専制者だ。そうではないか」
「政治の腐敗とは、政治家が賄賂をとることじゃない」
「それは個人の腐敗であるにすぎない」
「政治家が賄賂をとってもそれを批判することが出来ない状態を」
「政治の腐敗というんだ」
「人それぞれの正義さ」
第九章 さらば、遠き日
人間は死ぬ。恒星にも寿命がある。宇宙そのものですら、いつかは存在をやめる。
国家だけが永遠であるわけがない。
巨大な犠牲なくしては存続できないような国家なら、
さっさと滅びてしまって、いっこうにかまうものか…。
正論を吐く人間はたしかにりっぱであろう。
だが、信じてもいない正論を吐く人間は、はたしてどうなのか。
「今日は危なかった」
「トリューニヒトと会ったとき、嫌悪感がますばかりだったが、ふと思ったんだ」
「こんな男に正当な権力を与える民主主義とはなんなのか」
「こんな男を支持しつづける民衆とはなんなのか、とね」
「我に返って、ぞっとした」
「昔のルドルフ・フォン・ゴールデンバウムや、この前クーデターを起こした連中は」
「そう思いつづけて、あげくにこれを救うのは自分しかいないと確信したにちがいない」
「まったく、逆説的だが、ルドルフを悪逆な専制者にしたのは」
「全人類に対する彼の責任感と使命感なんだ」
「なにをあわてている」
「世の中には、あわてたり叫んだりするにたるようなものは、なにひとつないぞ」
「私はおだてに弱いんでね」
3巻 雌伏篇
第一章 初陣
「抵抗できない部下をなぐるような男が、軍人として賞賛に値するというなら」
「軍人とは人類の恥部そのものだな」
「そんな軍人は必要ない」
「すくなくとも、私にはね」
「たしかにトリグラフはみばえのいい艦だ」
「だからこそ旗艦にしなかったのさ」
「自分がそれに乗ったら、その美しさを観賞するわけにいかないじゃないか…」
「安全だと思ったから送り出したんだがなあ…」
「一度も死んだことのない奴が、死についてえらそうに語るのを信用するのかい?」
「兵力の逐次投入は、この際、かえって収拾の機会を減少させ」
「なしくずしに戦火の拡大をまねくだろう」
「全艦隊をもって急行し、敵の増援が来る前に一戦して撤退する」
「(戦意を喪失して逃走?) いいさ、逃してやろう」(ヤン)
「(将来どれほど伸びるか?) なに、単に一生分の好運をまとめて費いはたしただけだろう」
「これで戦いを甘く見るようになったら、かえって本人のためにならない」
「真の器量が問われるのはこれからだ」
第三章 細い一本の糸
「傷ついてるんです」
「独身の間はお兄ちゃまと呼ばれたい、と思っているんですがね」
「生涯、独身で社会に貢献した人物はいくらでもいますよ」
「4、500人リストアップしてみましょうか」
「ですが、ただでさえ忙しいんですよ。そんなことまで考えていたら…」
「昼寝をする暇もなくなってしまう」
「それほど潔癖な人間じゃありませんよ、私は」
「めんどうくさいんです。ほんとうに、ただそれだけです」
「志を継ぐのは、べつに血を分けた息子である必要はないでしょう…」
「志があれば、の話ですがね」
「まあ、そう心配しないでください」
「私だって何も考えていないわけじゃありません」
「ミスター・トリューニヒトのおもちゃになるのはごめんですし」
「安定した老後を迎えたいですからね」
第五章 査問会
「超法規的存在ってやつかな」
「(法的根拠を持たない?) とは言っても、国防委員長が私に出頭命令を出すこと自体は」
「りっぱに法的根拠を持つからな」
「虚栄と背徳の都へ、赴かざるをえないらしいよ」
何十年かに一度出るかどうかという偉人に変革をゆだねること自体、
民主政治の原則に反する。
英雄や偉人が存在する必要をなくすための制度が民主共和制であるのだが、
いつ理想は現実に対して勝者となれるのだろうか。
「将兵の生命より無人の衛星が惜しいとおっしゃるなら」
「私の判断は誤っていたことになりますが…」
「それが非難に値するということであれば、甘んじてお受けしますが」
「それにはより完成度の高い代案を示していただかないことには」
「私自身はともかく、生命がけで戦った部下たちが納得しないでしょう」
「あれは私には珍しく見識のある発言だったと思います」
「国家が細胞分裂して個人になるのではなく」
「主体的な意志を持った個人が集まって国家を構成するものである以上」
「どちらが主でどちらが従であるか、民主社会にとっては自明の理でしょう」
「そうでしょうか」
「人間は国家がなくても生きられますが、人間なくして国家は存立しえません」
「無用な誤解とは、どういうものか、具体的に教えていただけませんか」
「何か証拠があっての深刻な疑惑ならともかく」
「無用の誤解などという正体不明のものに対して備える必要を、小官は感じません」
「それでは、ひとつ、お願いがあるのですが」
「模範解答の表があったら、見せていただけませんか」
「あなたがたが、どういう答えを期待しておいでか知っておきたいんです」
第六章 武器なき戦い
「すばらしいご意見です」
「戦争で生命を落としたり肉親を失ったりしたことのない人であれば」
「信じたくなるかもしれませんね」
「まして、戦争を利用して、他人の犠牲の上に自らの利益をきずこうとする人々にとっては」
「魅力的な考えでしょう」
「ありもしない祖国愛をあると見せかけて他人をあざむくような人々にとってもね」
「あなたがたが、口で言うほどに祖国の防衛や犠牲心が必要だとお思いなら」
「他人にどうしろこうしろと命令する前に、自分たちで実行なさったらいかがですか」
「人間の行為のなかで、何がもっとも卑劣で恥知らずか」
「それは、権力を持った人間、権力に媚を売る人間が、安全な場所に隠れて戦争を賛美し」
「他人には愛国心や犠牲精神を強制して戦場へ送り出すことです」
「宇宙を平和にするためには、帝国と無益な戦いをつづけるより」
「まずその種の悪質な寄生虫を駆除することから始めるべきではありませんか」
「いっそ退場を命じていただけませんか」
「はっきり申しあげますがね、見るに耐えないし、聞くに耐えませんよ」
「料金を払っていないといっても、忍耐には限度が…」
「わかりました。イゼルローンにもどりましょう」
「あそこには私の部下や友人がいますから」
「そうだ、たいせつなことを忘れていた」
「帝国軍が侵攻してくる時機をわざわざ選んで」
「小官をイゼルローンからお呼びになった件に関しては」
「いずれ責任のある説明をしていただけるものと期待しております」
「むろん、イゼルローンが陥落せずにすめば、の話ですが」
「では失礼…」
「ありがとう、大尉、何と言うか、その、お礼の言いようもない」
「…ちょっと待ってください。レベロ閣下、私は権力者になる気はありません」
「その気があるなら、昨年のクーデターの際にいくらでも機会はありました」
「私も権力を手に入れたら変質するだろう、と、お考えなんですか」
「ローエングラム公ラインハルト自身ならともかく」
「彼の部下にまで負けてはたまらないからな…」
「何にしても、わが同盟政府には」
「両手をしばっておいて戦いを強いる癖がおありだから、困ったものですよ」
「おっしゃるとおりです。何と言ってもイゼルローンは私の家ですからね」
「じゃあ、大尉、わが家に帰るとしようか」
第八章 帰還
「(孤立無援?) 私がいますよ」
「(皇帝を殺す?) いや、殺さないと思うね」
「歴史上、簒奪者は数かぎりなくいる」
「王朝の創始者なんて、侵略者でなければ簒奪者だものね」
「だけど、すべての簒奪者がそのあと先君を殺したかというと、けっしてそうじゃない」
「貴族として優遇した例がいくらでもある」
「しかし、その場合、旧王朝が新王朝を倒して復古した例は絶無だ」
何百年かにひとり出現するかどうか、という英雄や偉人の権力を制限する不利益より、
凡庸な人間に強大すぎる権力を持たせないようにする利益のほうがまさる。
それが民主主義の原則である。
「奇襲? 私は最初からそんなものする気はなかったよ」
「帝国軍が吾々を見つけてくれて、じつは安心しているんだが…」
「つまり、帝国軍の指揮官は、敵の援軍を、というのは吾々のことだけどね」
「発見して選択に迫られることになる。彼はさぞ迷うだろう」
「このままイゼルローン要塞を攻撃しつづけて、吾々の攻撃に背を向けるか」
「その逆に吾々と戦って、イゼルローンに後ろを見せるか」
「兵力を両方向に分散して二正面作戦をとるか」
「時差をつけて各個撃破するという賭に出るか」
「勝算なしと見て退去するか…」
「まあ、追いこまれたわけだ。これだけでも吾々が有利になったんだよ」
「私としては、ぜひ五番目の選択を彼にしてほしいね」
「そうすると、犠牲者が出ないし、第一、楽でいい」
「吾々に、それほど時間はないんだ」
「そうだね。私だったら、要塞に要塞をぶつけただろうね」
「どかんと一発、相撃ち。それでおしまいさ」
「何もかもなくなった後に、別の要塞を運んでくれば、それでいい」
「もし帝国軍がその策できたら、どうにも対策はなかったが」
「帝国軍の指揮官は発想の転換ができなかったみたいだ」
「もっとも、それですでにやられていたら、むろん対策はないんだが」
「これからその策で来る、ということであれば、ひとつだけ方法はあるけどね」
「気づいたな…だが、遅かった」
第九章 決意と野心
「これが名将の戦いぶりというものだ」
「明確に目的を持ち、それを達成したら執着せずに離脱する」
「ああでなくてはな」
「ああ、何にもいいことのない人生だった…いやな仕事は押しつけられるし」
「恋人はいないし、せめて酒でも飲もうとすれば叱られるし…」
「なあ、ユリアン。あんまり柄にない話をしたくはないんだが」
「お前が軍人になるというのなら、忘れてほしくないことがある」
「軍隊は暴力機関であり、暴力には二種類あるってことだ」
「支配し、抑圧するための暴力と、解放の手段としての暴力だ」
「国家の軍隊というやつは…本質的に、前者の組織なんだ」
「残念なことだが、歴史がそれを証明している」
「ルドルフ大帝を剣によって倒すことはできなかった」
「だが、吾々は彼の人類社会に対する罪業を知っている」
「それはペンの力だ」
「ペンは何百年も前の独裁者や何千年も昔の暴君を告発することができる」
「剣をたずさえて歴史の流れを遡行することはできないが」
「ペンならそれができるんだ」
「人類の歴史がこれからも続くとすれば」
「過去というやつは無限に積みかさねられてゆく」
「歴史とは過去の記録というだけでなく」
「文明が現在まで継続しているという証明でもあるんだ」
「現在の文明は、過去の歴史の集積の上に立っている」
「…だから私は歴史家になりたかったんだ」
「それが最初のボタンをかけまちがえたばかりに、このありさまだものなあ」
「まあ、なかなか思いどおりにはいかないものさ」
「自分の人生も他人の人生も…」
4巻 策謀篇
第四章 銀河帝国正統政府
「緊急だったら重大に決まっているだろう」
「分裂した敵の一方と手を結ぶ」
「マキャベリズムとしてはそれでいいんだ」
「ただ、それをやるには、時機もあれば実力も必要だが」
「今度の場合、どちらの条件も欠いているからな」
だが、いずれにしても、同盟政府は責任をとらねばなるまい。
原因ではなく結果に対して…。
盗賊に三種類ある、とは、誰が言ったことであっただろうか。
暴力によって盗む者、知恵によって盗む者、権力と法によって盗む者…。
ローエングラム公によって大貴族支配体制の軛から解放された帝国250億の民衆は、
最悪の盗賊と手を組んだ同盟を許すことはないであろう。
当然のことである。
やはり、かつて想像したように、自分は銀河帝国の「国民軍」と戦うことになるのだろうか。
そのとき、正義はむしろ彼らのがわにあるのではないのか…。
「ムライ少将…組織のなかにいる者が」
「自分自身のつごうだけで身を処することができたらさぞいいだろうと思うよ」
「私だって、政府の首脳部には、言いたいことが山ほどあるんだ」
「とくに腹だたしいのは、勝手に彼らが決めたことを、無理に押しつけてくることさ」
「思うのは自由だが、言うのは必ずしも自由じゃないのさ」
第五章 ひとつの出発
「必要がないなんて、そんなことがあるわけないだろう」
「必要がなくなったから傍に置かないとか、必要だから傍にいさせるとか」
「そういうものじゃなくて…」
「必要がなくても傍にいさせる、いや」
「必要というのは役に立つとか立たないとかいう次元のものじゃなくてだね…」
「(ユリアンと)話しあう必要があるな」
「お前をフェザーンにやるのは、何よりもそれが軍命令だからだが、私自身としても」
「信頼できる人間にフェザーンの内情を見てきてもらいたいという気持があるんだ」
「それでも、やはり、行くのはいやかな」
「誰でも、帝国軍はイゼルローン回廊から侵入してくるものと考えている」
「そんな規則や法則があるわけでもないのにな」
「ローエングラム公にとって、もっとも有効な戦略は」
「一軍をもってイゼルローンを包囲する一方で」
「他の軍をもってフェザーン回廊を突破することだ」
「彼にはそれだけの兵力があるし、そうすればイゼルローンは路傍の小石も同様」
「孤立して何の意味もない存在になる」
「現在の状況は古来から固定しているものと吾々は誤解しがちだ」
「だけど、考えてもごらん」
「銀河帝国なんて代物は500年前には存在しなかった」
「自由惑星同盟の歴史はその半分の長さだし」
「フェザーンにいたっては一世紀そこそこの歳月を経ただけだ」
「このままいくと、吾々はどうやらローエングラム公ラインハルトと」
「死活を賭けて戦わなくてはならないらしい」
「ところでユリアン、ローエングラム公は、はたして悪の権化なんだろうか」
「そりゃそうさ」
「悪の権化なんて立体TVのドラマのなかにしか存在しない」
「悪というなら、こんど自由惑星同盟は帝国の旧体制派と手を組んだ」
「すくなくとも現象面においては、歴史の流れを加速させるがわでなく」
「その流れを逆転させるがわに与したということだ」
「後世の歴史は、吾々を善ではなく悪の陣営として色分けするかもしれない」
「そういう観点も歴史にはあるということさ」
「絶対的な善と完全な悪が存在する、という考えは」
「おそらく人間の精神をかぎりなく荒廃させるだろう」
「自分が善であり、対立者が悪だとみなしたとき、そこには協調も思いやりも生まれない」
「自分を優越化し、相手を敗北させ支配しようとする欲望が正当化されるだけだ。
人間は、自分が悪であるという認識に耐えられるほど強くはない。
人間が最も強く、最も残酷に、最も無慈悲になりうるのは、
自分の正しさを確信したときだ。
「ユリアン、ノアの洪水の伝説を知っているだろう?」
「あのときノア一族以外の人類を抹殺したのは、悪魔ではなく神だ」
「これにかぎらず、一神教の神話伝説は、悪魔でなく神こそが」
「恐怖と暴力によって人類を支配しようとする事実を証明している」
「と言ってもいいほどさ」
「だから、ユリアン、お前がフェザーンにいって」
「彼らの正義と私たちの正義との差を目のあたりに見ることができるとしたら」
「それは、たぶんお前にとってマイナスにはならないはずだ」
「それに比較すれば、国家の興亡など大した意義はない」
「ほんとうだよ、これは」
「どれほど非現実的な人間でも、本気で不老不死を信じたりはしないのに」
「こと国家となると」
「永遠にして不滅のものだと思いこんでいるあほうな奴らがけっこう多いのは」
「不思議なことだと思わないか」
「国家なんてものは単なる道具にすぎないんだ」
「そのことさえ忘れなければ、たぶん正気をたもてるだろう」
「キャゼルヌ先輩はひとつだけいいことをしてくれたよ」
「お前を私のところへつれてきてくれたことさ」
「グリーンヒル大尉もそうだけど、どうして誰も彼も」
「ユリアンがいないと私が生活無能力者になってしまうと思うんです」
軍事が政治の不毛をおぎなうことはできない。
それは歴史上の事実であり、
政治の水準において劣悪な国家が最終的な軍事的成功をおさめた例はない。
「酒は人類の友だぞ。友人を見捨てられるか」
「いや、困るんだ。感心すればいいのか」
「私より上というていどなら大したことはない、と不安がればいいのか…」
「いいか、ユリアン、誰の人生でもない、お前の人生だ」
「まず自分自身のために生きることを考えるんだ」
「うん…つぎに会うときは、もうすこし背が伸びているだろうな」
第七章 駐在武官ミンツ少尉
「敵だってまだ寝てるさ、後世の歴史家なんて、まだ生まれてもいないよ」
「おやすみ、せめて夢のなかでは平和を…」
第八章 鎮魂曲への招待
「まあ、ものは考えようさ、ユリシーズを哨戒に出したときは」
「通常より一レベル高い警戒態勢をしくことにすれば、かえって効率的だろう」
まったく、世のなかには、未発に終わる計画や構想がどれほど多く存在することか。
ひとつの事実は、それに1000倍する可能性の屍の上に生き残っている。
ロイエンタールのような一流、あるいはそれ以上の有能な将帥の足もとをすくうには、
むしろ二流の詭計をしかけて虚をつくべきではないか。
「そいつは惜しかった」
「歴史を変えそこなったということかな」
「あのまま、しつこく攻撃をつづけてくれればよかったのだが」
「さすがに帝国軍の双璧とも言われる男はちがう」
「君が思いこむのは自由だが」
「主観的な自信が客観的な結果をみちびき出すとはかぎらないよ」
5巻 風雲篇
第二章 ヤン提督の箱舟隊
「世のなかは、やってもだめなことばかり」
「どうせだめなら酒飲んで寝よか」
「持つべきものは話のわかる上司だね」
「くえない親父さんだ…給料分以上に働かせようっていうんだな」
「イゼルローン要塞を放棄する」
「そのときは、帝国側の講和の条件として」
「イゼルローン要塞返還の件が持ち出されること疑いないね」
「そして同盟としてはその条件を呑まざるをえないだろう」
「結局のところ、イゼルローンは失われる」
「だとすれば、その前にくれてやっても大差はないさ」
「…せっかく費用と人手をかけて要塞をつくりながら」
「他人にそれを奪われた帝国軍のほうが、よほど無念だっただろうね」
「それでは遅い」
「帝国軍に対する勝機を失ってしまう」
「シェーンコップ少将の言いたいことはわかる」
「吾々は戦略的にきわめて不利な立場にあるし」
「戦術レベルでの勝利が戦略レベルの敗北をつぐないえないというのは軍事上の常識だ」
「だが、今回、たったひとつ、逆転のトライを決める機会がある」
「ローエングラム公は独身だ。そこがこの際はねらいさ」
「(何か大胆な作戦?) うん、まあ、なるべく期待にそいたいと思っているけどね」
「私にとっては政治権力というやつは下水処理場のようなものさ」
「なければ社会上、困る。だが、そこにすみついた者には腐臭がこびりつく」
「近づきたくもないね」
「その疑問には、誰も解答できないだろうね」
「だけど…人類が火を発見してから100万年」
「近代民主主義が成立してから2000年たらずだ」
「結論を出すには早すぎると思う」
「目前の急務があるわけだから、まずそれをかたづけよう」
「夕食の用意ができてもいないのに、明日の朝食について論じてもはじまらない」
「必要なものを必要な間だけ借りた」
「必要がなくなったから返すだけのことさ」
「(また必要になったら?) また借りるさ」
「その間、帝国にあずかってもらう。利子がつかないのが残念だが」
「貸してくださいと頼めば、当然、拒絶されるだろうな」
「相手はロイエンタールだ。帝国軍の双璧のひとりだ」
「ひっかけがいがあるというものさ」
「あまり悪い知恵をつけないでくれよ、大尉」
「それでなくてさえ面倒なことが多いんだから」
「戦略および戦術の最上なるものは、敵を喜ばせながら罠にかけることだろうね」
「智謀だなんて、そんな上等なものじゃないさ。悪知恵だよ、これは」
「まあ、やられたほうはさぞ腹が立つだろうがね」
「…それに、罠をかけた結果が必ず生かされるとはかぎらない」
「吾々は二度とイゼルローンを必要としなくなるかもしれないしね」
第三章 自由の宇宙を求めて
「テロリズムと神秘主義が歴史を建設的な方向へ動かしたことはない」
第四章 双頭の蛇
個人が勝算のない戦いに挑むのは趣味の問題だが、
部下をひきいる指揮官がそれをやるのは最低の悪徳である。
「それにしても半日遅かった」
「やきがまわったとは、こういうことを指すのかな」
「あぶない、あぶない」
自分がこうしていれば事態を変えることができた、と思いこむのは、
自己過信というべきではないか。
今回はこれで充分と言わねばなるまい。
最悪の場合、ビュコックらが完全に潰滅させられた後、
のこのこ戦場にあらわれて各個撃破の標的となる醜態をさらすという可能性もあったのだ。
「(むざむざ生き残った?) 何をおっしゃいます」
「生きて復讐戦の指揮をとっていただかなくてはこまります」
第五章 暁闇
「(元帥を)返上するほど無欲にもなれないからもらっておくが」
「いまさら大してありがたくもないな」
「まあ、ビュコック提督のおすそわけと思うことにしようか」
「民主主義の成果を守るために微力をつくすつもりです」
「さしあたり、負けた後のことだけを考えておいていただきましょう」
「勝ったら、しばらくは安心できるはずです」
「その後、平和外交をおこなうなり軍備を再建するなり、それは政治家の領分で」
「軍人の口出しすることではありません」
「約束して勝てるものなら、いくらでも約束したいのですが…」
「もし戦術レベルでの勝利によって戦略レベルの劣勢をおぎなうことが可能であるとすれば」
「方法はただひとつです」
「その方法とは、ラインハルト・フォン・ローエングラム公を戦場で倒すことです」
「ラインハルト・フォン・ローエングラム公は独身です」
「私のねらいはそこになんです」
「彼らを何らかの方法で分散させ、各個撃破をかさねていけば」
「鋭気と覇気に富むローエングラム公のことです」
「私を討伐するために自ら出馬してくるでしょう」
「その機会をつくらねばなりません」
「それが唯一の勝機です」
「まあ戦略や戦術というより心理学の問題ですがね、こいつは」
「まあ、ミッターマイヤーとロイエンタールのふたりは、なるべく避けて通るとしよう」
「彼らにこだわっていては全体の効率が悪くなる」
「やあ、ユリアン、見てくれよ」
「わが心のごとく、かつ現今の世情のごとし、さ」
「当然だろう」
「せっかくの年金も、同盟政府が存続しないことにはもらいようがない」
「したがって、私は、老後の安定のために帝国軍と戦うわけだ」
「首尾一貫、りっぱなものさ」
「帝国軍の駆逐艦を、どんな魔法を使って乗っとったんだ?」
「軍事機密とはいっても、私になら教えてくれるだろう?」
「ふむ、応用か。特許をとっておくべきだったかな」
「年金プラス特許料で…」
「なに、(イゼルローンに)罠をしかけはしたがね、ごく簡単なことさ」
「(人が悪い?) けっこう、最高の賛辞だ」
「それは正論だ」
「だが、正しい認識から正しい行動が生み落とされるとはかぎらないからね」
「ユリアン、吾々はチグリス・ユーフラテスのほとりにはじめて都市を築いた人々とくらべて、それほど精神的に豊かになったわけではない」
「だが、よしあしは別として、知識は増え、手足は伸びた」
「いまさら揺籠(ゆりかご)にもどることはできない」
「これが成功したとしても、それが歴史に対してどのような意義を持つのか」
「私には疑問なんだ」
「つまり、ラインハルト・フォン・ローエングラム公を武力によって倒し」
「帝国軍を分裂させることは、さしあたり自由惑星同盟にとっては有益だ」
「だが、人類全体にとってはどうだろう」
「帝国の民衆にとっては、あきらかにマイナスだ」
「強力な改革の指導者を失い、その後は政治的分裂」
「悪くすれば、いやほぼ確実に内乱がおきるだろう。民衆はその犠牲になる」
「まったくひどい話さ」
「こうまでして、同盟の目先の安泰を求めなきゃならんのかな」
「ユリアン、戦っている相手国の民衆なんてどうなってもいい」
「などという考え方だけはしないでくれ」
「いや、あやまることはないさ。ただ、国家というサングラスをかけて事象をながめると」
「視野がせまくなるし遠くも見えなくなる」
「できるだけ、敵味方にこだわらない考えかたをしてほしいんだ、お前には」
第六章 連戦
「後背(に敵)というと、どのていどの距離だ? 時間的距離でいい」
「では二時間で敵を破り、一時間で逃げ出すとしようか」
「ミスター・レンネンか」
「敵が射程距離にはいる直前に、主砲を三連斉射」
「その後、ライガール星系方面へ逃走すること」
「ただし、ゆっくりと、しかも整然と」
「これでまた私を憎む未亡人や孤児が何十万人かできたわけだ」
「すべてを背おいこむのは、ちと私の肩には重いな」
「地獄へ一回堕ちただけですむものやら…」
「ばかなことを言うんじゃない」
「お前には天国へ行ってもらって、釣糸で私を地獄からつりあげてもらうつもりなんだ」
「せいぜい善行をつんでおいてほしいな」
「ローエングラム公の怒りと矜持も、そろそろ臨界点に達しただろう」
「物資も長期戦をささえるほどの量はない」
「近日中に、全軍をあげて大攻勢に出てくるはずだ」
「おそらく、これまでにない苛烈な意志と壮大な戦法をもって…」
第七章 バーミリオン
「(ローエングラム公は)おそろしい男だな」
「(勝率は)五割もあるかな…?」
「勝たねばならない、か…」
「それにしても、えらいことだ。誰かかわってくれないものかな」
「お前にむけて閉ざすドアは私は持っていないよ」
「はいりなさい」
「やれやれ、ふつうは年少者が突進を主張して」
「年長者がそれを抑えるがわにまわるものだが、どうも逆になってるようだな」
「私がローエングラム公に負けると思うのかい?」
「なあ、ユリアン、私は勝算のない戦いをしないことをモットーにしてきた」
「今度もけっしてそのモットーにそむいているわけではないんだ」
「(勝算?) 正直なところ、多くはない」
「これは唯一の機会なんだ」
「ローエングラム公は私のねらいを正確に読みとった上で、私に誘いをかけてきている」
「純粋に打算だけで考えれば、私の存在など無視して首都ハイネセンを衝いてもよいのだ」
「いや、そちらのほうがおそらく効率的だろう」
「なのに彼はそうせず、いわば私の非礼な挑戦を受けてくれたわけだ」
「いや、私はそれほどロマンチストじゃないよ」
「私がいま考えているのは」
「ローエングラム公のロマンチシズムとプライドを利用していかに彼に勝つか」
「ただそれだけさ」
「じつはもっと楽をして勝ちたいんだが」
「これが今回は最大限、楽な道なんだからしかたない」
「大丈夫だよ。無理するのは私の趣味じゃない」
「心配してくれてありがとう」
「大尉…少佐…ミス・グリーンヒル……フレデリカ」
「フレデリカ、この戦いが終わったら…」
「私は君より七歳も年上だし、何というか、その、生活人として欠けたところがあるし」
「その他にも欠点だらけだし」
「いろいろと顧みてもこんなことを申しこむ資格があるかどうか疑問だし」
「いかにも地位利用をしているみたいだし」
「目の前に戦闘をひかえてこんな場合にこんなことを申しこむのは不謹慎だろうし…」
「だけど言わなくて後悔するよりは言って後悔するほうがいい…」
「ああ、こまったものだな、さっきから自分のつごうばっかり言ってる」
「要するに…要するに、結婚してほしいんだ」
「…返事をまだしてもらってないんだが、どうなんだろう」
「ありがとう」
「何と言うか…何と言ったらいいのか…何と言うべきか…」
「ローエングラム公は、いまさら言うまでもないが比類ない天才だ」
「正面から同兵力で戦ったら、まず勝算はすくない」
「あれは運がよかったのさ」
「それだけではないが、とにかく運がよかった」
「勝てると思うかい、中将」
「私は心の底から勝ちたいと思っているんだがね」
「…私は最悪の民主政治でも最良の専制政治にまさると思っている」
「それにしても、最悪の専制は、破局の後に最善の民主政治を生むことがあるのに」
「最悪の民主政治が破局の後に最善の専制を生んだことは一度もないのは奇妙なことだ」
「そんなことは敵と相談してやってくれ」
「こちらには何の選択権もないんだから」
第八章 死闘
「何とまあ、まずい戦いをしたことか」
「もっと兵力があればなあ」
「あと1万隻、いや、5000隻、いやいや、3000隻でいい」
「そうすれば…」
「突進!」
「薄すぎる…すぐつぎの敵がくるぞ」
「表現は正確にすることだ。ローエングラム公が何を考えているかということと」
「何をやっているかということ、この両者の間には一光年からの距離があるよ」
「ローエングラム公の戦術は」
「極端なまでの縦深陣によってわが軍の消耗をはかることにある」
「ミンツ中尉のしてきしたとおりだ」
「このまま前進するのは愚劣というものだが、停滞すれば時間をかせがれて」
「やはり彼の術中に陥ることになるだろう」
「したがって、敵の重厚きわまる布陣をいかにくずすか、唯一の勝機がそににある」
「こいつはとんだ権威主義におちいっていたかな」
「ミュラーを無視していたとは…」
「良将だな」
「よく判断し、よく戦い、よく主君を救う、か」
第九章 急転
「君の言いたいことはわかっているつもりだ」
「だから何も言わないでくれ」
「…うん、その策もあるね」
「だけど私のサイズにあった服じゃなさそうだ」
「私には未来を予知することはできません」
「ですが、シュナイダー中佐が言ったように」
「同盟政府があなたを帝国軍にさしだして媚を売ることは充分に考えられます」
「私は同盟の人間で、政府の愚行につきあわねばなりません」
「ですが、あなたにそんな義務はない」
「沈みかけた船から退去していただかねば、私がこまります」
「そうおっしゃると思っていまいた。ですがメルカッツ提督」
「私はあなたに楽をしていただこうとは思ってないのです」
「もっと不埒なことを考えているので、後日のために、同盟軍の一部」
「それももっとも濃いエキスを保存していただこうと思っているのですよ」
「つまり、大昔のロビンフットの伝説でいえば」
「『動くシャーウッドの森』をひきいていただきたいのです」
「他人がこんなことをしたら、あほうにちがいないと私も思うだろう」
「だけど、私は結局こんな生きかたしかできないんだ」
「かえって、私の好きな連中に迷惑をしいるとわかりきっているのになあ…」
第十章 「皇帝ばんざい!」
「四万隻の敵艦にかこまれて紅茶を飲むのは、けっこう乙な気分だな」
「恐縮です。私はあなたにこそ、銀河系のこちらに生まれていただきたかった」
「そうであれば私はいまごろ家で昼寝をしていられたでしょうに」
「身にあまる光栄ですが、辞退させていただきます」
「私はおそらく閣下のお役に立てないと思いますので…」
「私が帝国に生を享けていれば、閣下のお誘いを受けずとも」
「すすんで閣下の麾下にはせ参じていたことでしょう」
「ですが、私は帝国人とはちがう水を飲んで育ちました」
「飲みなれぬ水を飲むと身体をこわすおそれがあると聞きます」
「失礼ですが、閣下のおっしゃりようは」
「火事の原因になるという理由で、火そのものを否定なさるもののように思われます」
「私は(専制政治を)否定できます」
「人民を害する権利は、人民自身にしかないからです」
「これは私がそう思っているだけで、あるいは宇宙には唯一無二の真理が存在し」
「それを解明する連立方程式があるのかもしれませんが」
「それにとどくほど私の手は長くないのです」
「(今後?) 退役します」
6巻 飛翔篇
第二章 ある年金生活者の肖像
「仕事をせずに金銭をもらうと思えば忸怩たるものがある」
「しかし、もはや人殺しをせずに金銭がもらえると考えれば」
「むしろ人間としての正しいありかたを回復しえたと言うべきで」
「あるいはけっこうめでたいことかもしれぬ」
「私の人格は、かくて陶冶されたのさ」
「いいかげんにしてくれんかな」
「私みたいに平和で無害な人間にいやがらせをして何が楽しいんだか訊いてみたいものだよ」
「まったく」
「誰しも給料に対しては相応の忠誠心をしめさなくてはなりませんからね。私もそうでした」
「あれは紙でなくじつは鎖でできていて人をしばるのですよ」
「レンネンカンプという人は規律の信徒であるらしい」
「規律に反するものは善でも認めないし、規律どおりであれば悪でも肯定するんだろう」
「嫌いじゃない、気にくわないだけだ」
「だからレンネンカンプの野郎を…」
「レンネンカンプ氏にご退場いただくのはいいが、問題は後任だ」
「無責任で物欲が強く」
「皇帝の目がとどかないのをいいことに小悪にふけるような佞臣タイプの人物が」
「こちらにとっては、いちばん利用しやすい」
「だが、皇帝ラインハルトはいままでのところ、そんな人物をひとりも登用していない」
「吾々は敵の堕落を歓迎し、それどころか促進すらしなくてはならない」
「情けない話じゃないか」
「政治とか軍事とかが悪魔の管轄に属することだとよくわかるよ」
「で、それを見て神は楽しむんだろうな」
「これ以上、働いてたまるか」
「私は頭を使った。身体はべつの誰かに使ってほしいね」
「信念とは、あやまちや愚行を正当化するための化粧であるにすぎない」
「化粧が厚いほど、その下の顔はみにくい」
「信念のために人を殺すのは、金銭のために人を殺すより下等なことである」
「なぜなら、金銭は万人に共通の価値を有するが」
「信念の価値は当人にしか通用しないからである」
「ほしいと思うのは、身体がそれを求めているからだ」
「だからほしいものをすなおに食べたり飲んだりするのが、いちばん健康にいいんだよ」
第三章 訪問者
「運命は年老いた魔女のように意地の悪い顔をしている」
「野に火を放つのに、わざわざ雨季を選んでする必要はない」
「いずれかならず乾季がくるのだから」
「メモなんてとる必要はないんだ」
「忘れるということは、当人にとって重要でない、ということだ」
「世のなかには、いやでも憶えていることと、忘れてかまわないことしかない」
「だからメモなんていらない」
第五章 混乱、錯乱、惑乱
「世のなかには達眼の士がいるものだ」
「ちゃんとわかっている」
「そのとおり、私はなまけ心で寝ているのじゃなくて」
「人類の未来に思いをはせているのだ」
「戦争の90パーセントまでは、後世の人々があきれるような愚かな理由でおこった」
「残る10パーセントは、当時の人々でさえあきれるような、より愚かな理由でおこった」
「心配しなくてもいいよ」
「何の罪やら見当もつかないが、まさか裁判なしで死刑にもしないだろう」
「ここは民主主義国家だ」
「すくなくとも政治家たちはそう言っている」
「ほう、もしかして私は何らの証拠もなく、風聞によって逮捕されたのですか」
「法にしたがうのは市民として当然のことだ」
「だが、国家が自らさだめた法に背いて個人の権利を侵そうとしたとき」
「それに盲従するのは市民としてはむしろ罪悪だ」
「なぜなら民主国家の市民には、国家の侵す犯罪や誤謬に対して異議を申したて」
「批判し、抵抗する権利と義務があるからだよ」
「自分自身の正当な権利が侵害されたときにすら闘いえない者が」
「他人の権利のために闘いうるはずがない」
第七章 コンバット・プレイ
「生命のさしいれ、ありがとう」
「ああ、ああ、せっかくの美人が台なしだ」
「ほら、泣きやんで…」
「超過勤務、ご苦労さま」
「君は以前から私をけしかけてきたな。権力を私の手でつかむべきだ、と」
「もし権力をにぎったとして、その後私の人格が一変したらどうする?」
「君たちは楽観的すぎる」
「帝国と同盟を相手にして生き残れると思っているところが度しがたい」
「明日は葬式自動車に乗っているかもしれんのに」
「要するに、自由惑星同盟政府が存在するかぎり」
「私や私の友人たちに安寧の日はおとずれないというわけですか」
「だとすると、私もエゴイズムの使徒になるしかありませんね」
「必要とあれば私の属していた国家を、二束三文で帝国に売りわたすかもしれませんよ」
「エンターテイメントとしての夫婦生活か」
不本意な死にかたをしいられることと、不本意な生きかたを強制されることと、
どちらがまだしも幸福の支配領域に近いと言えるのだろうか…。
第八章 休暇は終りぬ
「二ヶ月、たった二ヶ月!」
「予定どおりならあと五年は働かないで生活できるはずだったのになあ…」
7巻 怒濤篇
第二章 すべての旗に背いて
「宇宙はひとつの劇場であり、歴史は作者なき戯曲である」
「最高指導者は文民でなくてはならない。軍人が支配する民主共和制など存在しない」
「私が指導者なんかになってはいけないんだ」
「さあてね、両手に贈物をかかえたところにナイフを突き出されたら」
「よけようがないからね」
「…しかし、もしキャゼルヌの娘とシェーンコップの娘がユリアンをとりあって争うということになると観物だな」
「不肖の父親どうし、どうはりあうやら」
「私はあいつ(トリューニヒト)のシェークスピア劇風の演説を聞くと」
「心にジンマシンができるんだよ」
「イゼルローンに帰るか…」
第四章 解放・革命・謀略その他
「鷹と雀では視点がちがう」
「金貨の一枚は、億万長者にとってとるにたりないが、貧乏人には生死にかかわるさ」
「いずれ必ず枯れるからといって、種をまかずにいれば草もはえようがない」
「どうせ空腹になるからといって、食事をしないわけにもいかない」
第八章 前途遼遠
「何が智将だ」
「私は救いがたい低能だ」
「司令長官のお人がらからいって、こうなる可能性は小さくなかったのに」
「それを予測もできなかった」
「それでは彼らは自分自身の処刑命令書にサインしたことになる」
「皇帝ラインハルトは彼らの醜行をけっして赦さないだろうよ」
「陰謀やテロリズムでは、結局のところ歴史の流れを逆行させることはできない」
「だが、停滞させることはできる」
「地球教にせよ、アドリアン・ルビンスキーにせよ」
「そんなことをさせるわけにはいかない」
「ユリアン、吾々は軍人だ」
「そして民主共和政体とは、しばしば銃口から生まれる」
「軍事力は民主政治を産み落としながら、その功績を誇ることは許されない」
「それは不公正なことではない」
「なぜなら民主主義とは力を持った者の自制にこそ真髄があるからだ」
「強者の自制を法律と機構によって制度化したのが民主主義なのだ」
「そして軍隊が自制しなければ、誰にも自制の必要などない」
「自分たち自身を基本的には否定する政治体制のために戦う」
「その矛盾した構造を、民主主義の軍隊は受容しなくてはならない」
「軍隊が政府に要求してよいのは、せいぜい年金と有給休暇をよこせ、というくらいさ」
「つまり労働者としての権利。それ以上はけっして許されない」
8巻 乱離篇
第二章 春の嵐
民主共和政治の建前──言論の自由のおかげである。
政治上の建前というものは尊重されるべきであろう。
それは権力者の暴走を阻止する最大の武器であり、弱者の甲冑であるのだから。
「皇帝ラインハルトは、私と戦うことを欲しているらしいよ」
「その期待を裏切るような所業をしたら、彼は私を永久に赦さないだろうな」
「運命というならまだしも、宿命というのは、じつに嫌なことばだね」
「二重の意味で人間を侮辱している」
「ひとつには、状況を分析する思考を停止させ」
「もうひとつには、人間の自由意志を価値の低いものとみなしてしまう」
「宿命の対決なんてないんだよ、ユリアン」
「どんな状況のなかにあっても結局は当人が選択したことだ」
「半数が味方になってくれたら大したものさ」
「いや、お前はべつに未熟じゃないよ」
「いわばまあ半熟だな」
「キャゼルヌ中将がなげいていたよ」
「おれには息子と酒を飲みかわす楽しみがない、とね」
「善良な後輩を長い間いびってきた応報だろうさ、いい気味だ」
「おとなになるということは、自分の酒量をわきまえることさ」
第三章 常勝と不敗と
「帝国軍は不世出の皇帝と多くの名将を擁している彼ら全員にとって」
「イゼルローン回廊はせますぎる」
「吾々の活路は、そのせまさにある」
「せいぜい利用させてもらうとしよう」
第四章 万華鏡
「いや、べつに大した影響はないだろうね」
「今回はアムリッツァやバーミリオンのときとはちがう」
「私が根性悪く穴にひそんでいるものだから」
「皇帝といえども戦場をほしいままに設定するわけにいかないのさ」
「さすがに疾風ウォルフだ」
「あの用兵は奇をてらわないが、凡将のよくするところではない」
「ああ、その指揮官は鉄壁ミュラーにちがいないよ」
「異名にふさわしく、主君を守ろうとしているのだ」
「彼を部下に持ったという一事だけで」
「皇帝ラインハルトの名は後世に伝えられるだろうな」
「つまりは、人は人にしたがうのであって」
「理念や制度にしたがうのではないということかな」
第五章 魔術師、還らず
「脳細胞がミルク粥になってて、考えごとどころじゃない」
「とにかく、すこし寝ませてくれ」
「最初は皇帝をイゼルローン回廊に引きずりこむ」
「つぎに会談のテーブルに引きずりだす」
「事態をうまく運ぶために、皇帝の両足に銀のスケートでもはかせたいところだな」
「作戦をたてるだけでは勝てない」
「それを完全に実行する能力が艦隊になくては、どうしようもない」
「ここで会談の申しいれを拒否して」
「短時日のうちに再戦することになっては自殺行為だよ」
「フレデリカ、ちょっと宇宙一の美男子に会ってくるよ、二週間ぐらいで還ってくる」
「ごめん、フレデリカ」
「ごめん、ユリアン」
「ごめん、みんな…」
第六章 祭りの後
「生きるということは、他人の死を見ることだ」
「戦争やテロリズムは何よりも」
「いい人間を無益に死なせるからこそ否定されねばならない」
「きらいな奴に好かれようとは思わない」
「理解したくない人に理解される必要もない」
第九章 八月の新政府
「戦略は正しいから勝つのだが、戦術は勝つから正しいのだ」
「だから、まっとうな頭脳を持った軍人なら」
「戦術的勝利によって戦略的劣勢を挽回しようとは思わない」
「いや、正確には、そういった要素を計算に入れて戦争を始めたりはしないだろうよ」
「戦術は戦略に従属し、戦略は政治に、政治は経済に従属するというわけさ」
9巻 回天篇
第一章 辺境にて
「歴史とは、人類全体が共有する記憶のことだ、と思うんだよ、ユリアン」
「思いだすのもいやなことがあるだろうけど」
「無視したり忘れたりしてはいけないのじゃないかな」
「自分がこれまで死なせてきた人間の数を考えると、ほんとうに怖いよ」
「一回死んだぐらいでは、償えないだろうね」
「世のなかって、けっこう不均衡にできているんだとう思う」
第二章 夏の終わりのバラ
「偉人だの英雄だのの伝記を、子供たちに教えるなんて、愚劣なことだ」
「善良な人間に、異常者をみならえというも同じだからね」
第三章 鳴動
「平和の無為に耐えうる者だけが、最終的な勝者たりうる」
「ことばで伝わらないものが、たしかにある」
「だけど、それはことばを使いつくした人だけが言えることだ」
「正しい判断は、正しい情報と正しい分析の上に、はじめて成立する」
「何かを憎悪することのできない人間に、何かを愛することができるはずがない」
第八章 剣に斃れ
「いうなれば、宇宙はひとつの劇場だよ」
第九章 終わりなき鎮魂曲
「私の指揮で、何百万人という将兵が死んでいったよ」
「死にたくなんてなかったろうに」
「誰だって平和で豊かな人生を送りたかったろうに」
「私だってそうだったさ」
「惜しむべき人間が死なずにすむなら」
「戦争もそれほど悪いものじゃないかもしれないけどね…」
10巻 落日篇
第二章 動乱への誘い
「ユリアン、陰謀だけで歴史が動くことはありえないよ」
「いつだって陰謀はたくらまれているだろうが、いつだって成功するとはかぎらない」
敵をして、その希望がかなえられるかのように錯覚させる。
さらに、それ以外の選択肢が存在しないかのように、彼らを心理的に追いこみ、
しかもそれに気づかせない。
第七章 深紅の星路
「戦術レベルにおける偶然は、戦略レベルにおける必然の、余光の破片であるにすぎない」
「皇帝ラインハルトは、自分の理想と野心、さらには愛憎のために」
「自らを焚いて悔いることのない人だ」
「そして、それだけに、敵に対してすらそれを要求する」
「皇帝ラインハルトが」
「亡くなった友人のジークフリード・キルヒアイスを愛惜してやまぬのはそのためだ」
「そして、われらが元首ヨブ・トリューニヒト氏を軽蔑するのも、そのためだろうね」
「吾々がイゼルローンに拠り、大きな兵力を有しているかぎり」
「皇帝ラインハルトはともかく、帝国政府や軍の不安を消すことはできないだろうね」
「いつか彼らではなく、吾々自身にとってイゼルローンは重い荷物になるだろう」
「イゼルローンに固執しては、結局のところ」
「かえって政治的、戦略的な選択の幅をせばめてしまう」
「そういうことだ」
「相手の予測が的中するか、願望がかなえられるか、そう錯覚させることが」
「罠の成功率を高くするんだよ」
「落とし穴の上に金貨を置いておくのさ」
最後まで読んで頂きありがとうございました。
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