「キングダム」の名言・台詞まとめ

マンガ「キングダム」の名言・台詞をまとめていきます。

 

キングダム

1巻

上古より幾千幾万の時空(とき)が流れ、聖者の刻(とき)は終わった。(ナレーション)

 

その時代──人間の欲望は解放されていた。
五百年の大戦争時代、「春秋戦国時代」である──。(ナレーション)

 

「えーっとこれで…」
「333勝332敗587引き分けだな!」(漂)

 

「(聞かれても)かまうもんか! もう限界だ!」
「あいつらみんなぶんなぐって、こんな家出て行ってやる!」(信)

 

「まだ早い」
「二人だけで食っていけるほど、俺達には生活力がない」
「飢え死にするだけだ」(漂)

 

「信。そんなもん(盗賊)になるために今まで鍛えて来たんじゃないだろうが」
「バカか、お前」(漂)

 

「俺達は孤児です」
「二人とも戦争で親兄弟を亡くした」
「当然親から残された財などなく…」
「あるとすればこの頑丈な体だけ」(漂)

 

「だけどそれで十分!」
「剣さえ振れる体があれば、俺も信も十分なのです!」(漂)

 

「戦いで全てを奪われた分、俺達も戦いで奪い取る!!」(漂)

 

「俺達は早いうちに戦に出て武功をあげる!」
「これまで二人で鍛えてきた武で大功をあげる!!」(信)

 

「二人の名は中華全土に響きわたる!!」
「俺達は天下最強の大将軍になるのだ!!!」(信、漂)

 

 

「この出会い…わが秦(くに)の暗雲を切りさく出会いになるやもしれぬ」(昌文君)

 

「否!! 儂が連れて行くのは一人!!」
「漂! お前だけだ!!」(昌文君)

 

「俺は自分の力で一歩一歩踏み上がっていくために、ここまで鍛えてきた…」
「こんな裏道使うために、お前と切磋琢磨してきたわけじゃない…」(漂)

 

「なんて言わないぜ、信」
「俺は行くぞ」(漂)

 

「しばしの別れってやつさ!」
「とっとと追いついて来いよ!」
「二人の行き着く所は同じだぞ!!」(漂)

 

「痛みがない。医者は、もう……いい」(漂)

 

「(漂は)触らせねェし、一人も生かしちゃ帰さねェ!!」
「一人も!!」(信)

 

「その威勢が聞けてうれしいよ、信…」
「だけどお前に頼みたいことがある」(漂)

 

「いいな、信!! 託したぞ!!」(漂)

 

「(二人で大将軍?) なるさ!」(漂)

 

「信、俺達は力も心も等しい。二人は一心同体だ」
「お前が羽ばたけば、俺もそこにいる」(漂)

 

「信…俺を天下に連れて行ってくれ」(漂)

 

「だけど関係ねェ。何が起こっていようが…」
「そこがチンピラ共の巣窟だろうが関係ねェ」(信)

 

「漂は行けっつった。だから行くだけだ!!」(信)

 

「(化け物?) 当たり前だ」
「お前らチンピラの剣とは違うんだ」
「俺の剣は、俺達の剣は、天下に轟く剣だ!!」(信)

 

「一度(下僕に)おちるとずっとそうなんだ」
「抜け出すには剣しかない!」(漂)

 

「(漂?) 違う、政だ」(嬴政)

 

「ああ(秦王は)殺す、ぶっ殺してやる」
「だけどその前にお前だ」(信)

 

「漂を殺したお前の腹ワタ、引きずり出してやる!!」(信)

 

「何も考えるな」
「ただ──漂の無念を晴らすことだけを考えろ」(嬴政)

 

 

「ああ、下らねェ!!」
「俺たち底辺の人間には、誰が王かなんて興味ないんだよ!!」(信)

 

「二人で死合いをすると全くの互角です」
「しかし──私が勝てない猛者がいたとしても、信はその猛者に勝てます」(漂)

 

「(面倒くさい?) そうなんですよ!」
「しかし……本当に強いですよ、信は!!」(漂)

 

「大王様。もしも私が倒れた時は、信におつかまり下さい」
「あいつはきっと、誰よりも高く翔ぶ!!!」(漂)

 

「お前の罪(とが)とお前の子は、関係ない」(嬴政)

 

「次はどうする。俺を殺すか?」(嬴政)

 

「もしそうなら俺もだまってやられるわけにはいかない」
「俺を守るために死んでいった人間が、少なからずいるからな」(嬴政)

 

「漂も、そのうちの一人だ」(嬴政)

 

「(軍と戦う気?) 当たり前だ!!」
「こんな所で死ねるか!!」(信)

 

「(なぜ助ける?) あんたらの話をこっそり聞いてた。王様なんだろ、あんた」
「ってことは大金持ちだ」(河了貂)

 

「オレは秦人じゃない、はるか西の山民族だ」(河了貂)

 

「なぜか知らないけど、一族が山を追放になって黒卑村に流れ着いたらしい…」
「もう皆、死んじまったけどね」(河了貂)

 

「反乱を未然に防げなかったのは、俺にただ力が無かった」
「それだけのことだ」(嬴政)

 

「戦争をやってるんだ」
「それもかなり分が悪いな!」(嬴政)

 

「利用できるものはだましてでも利用するさ」
「下賤のガキならなおさらだ」(嬴政)

 

「自信はあっても絶対の確信がないから影を必要としている」
「はっきりそう言え」(嬴政)

 

「田舎村の下僕が一日にして王宮に仕えるなど」
「よほど大変なことが待っていると覚悟して参りましたが」
「まさかこれほどの大任をお受けできるとは夢にも思いませんでした!」(漂)

 

「(死ぬかもしれない?) 友と二人、身の程をわきまえぬ大望があります」
「もとより全てを懸ける覚悟です」(漂)

 

「お前は今、二つの岐路にある」
「里(り)に帰って下僕を続けるか」
「薄弱の王を援け、共に凶刃の野を行くか」(嬴政)

 

「お前らのバカげた夢にどちらが近いかは」
「言うに及ばんな」(嬴政)

 

「ああ、ついて行く」
「だが勘違いするなよ」
「漂のことを忘れるわけじゃない」
「王であるお前にひざまずくわけでもない」(信)

 

「俺と漂の”路”のために、お前を利用するだけだ」(信)

 

「どこへいくのォ、昌文君ン?」
「宴は城で始まったばかりでしょォォ?」(王騎)

 

2巻

「400年前の秦王”穆公”は、まれに見る”名君”だった」(嬴政)

 

「ある日、そんな穆公の軍馬が」
「山に住む野人達に殺され食われるという事件が起きた」(嬴政)

 

「(皆殺し?) いや、王は野人達に酒をふるまった」
「馬肉にあういい酒をな」(嬴政)

 

「それが穆公という王だ」
「人を愛でるのに、秦人も野人も区別ないのだ」(嬴政)

 

「しかしこの出来事は、秦国に大きな幸を呼びこむことになった」
「”山の民”の心を深くうったのだ」(嬴政)

 

「中華では一里の領土を争って数十万の人間が死んでいるとき」
「穆公は西に百里の地を開いたのだ」(嬴政)

 

「彼ら(山の民)は400年たった今も、穆公のことを忘れていない」(嬴政)

 

「仲間──か……バカ言ってんじゃないよ」
「こっちは物心ついた時から秦(平地)で育ったんだ」
「今さら山民族の仲間入りなんてできっこないだろ」(河了貂)

 

「いいのだ!」
「オレは政から大金せしめて、一人で贅沢三昧の生活を送るんだ!」(河了貂)

 

「(相手が強い?) 知ってるよ」
「だがこんなところで負けるようじゃ、この先いくつ命があっても足りないぞ」
「信」(嬴政)

 

「退がるな、信っ!!」
「不退こそがお前の武器だぞ!!」(嬴政)

 

「この王騎と戦ったら、たいていそういうクチャクチャな首になるでしょォ」
「うそだと思うんならァ、その辺の誰かで試してさし上げましょォか?」(王騎)

 

「(何を望む?) 血沸き肉踊る世界!」(王騎)

 

「なんちゃって!」
「そんな世界あるわけないじゃないっ」(王騎)

 

「だけど──もしこれからそんな世界が来るとしたら──」
「たまりませんねェ」(王騎)

 

「我が王に何の真似だ、貴様」(昌文君)

 

「脱出の手立ては万全と言っておきながら、この有様」
「全ての責任は、この愚臣に依るところであります」(昌文君)

 

「仰せとあらば今すぐこの岩で頭を砕いて果てまする」
「しかし……しかしまずは何よりも……よくぞご無事で!!」(昌文君)

 

「(なぜ参戦?) 熱き血潮、渦巻く戦いを求めて!!」(王騎)

 

「呂商の秦になってから、戦争は恐ろしくつまらないものになったわ」
「昭王の時代が懐かしくてたまらないわねェ」(王騎)

 

「ご冗談を。そんな不遜な戦争で私の血がたぎるとでも思ってるのォ?」
「私の心はとても繊細なのよォ」(王騎)

 

「あきらめるな!! 隊列を組み直せ!!」
「密集して突破をはかるぞ!!」(漂)

 

「漂殿の一声で絶望しかけた我らに、再び闘争の火が灯った」
「その姿はすでにもう──将であった」(壁)

 

「そう簡単にはいかないみたいだな」
「信、俺に力を!!」(漂)

 

「今の俺は何も分からないんだ、だから教えてくれ」
「俺はどうしたら将軍になれるんだ?」(信)

 

「ああ、分かったぜ」
「じゃあ政が玉座を取り戻した暁には、俺は土地をもらって、家を建ててもらって」
「財をもらえばいいんだな!!」(信)

 

「(敵しかいない?) だから言ったろう」
「凶刃の野をゆく薄弱の王だと」(嬴政)

 

「それでは……身分の高い者は皆弱いみたいじゃないか…」(壁)

 

「たしかに壁家は名家だが、金で地位を買ったことはない!」
「私は文武共に他より秀でていたため、殿のもとで副官を務めるに至ったのだ」(壁)

 

「文官になったとは言え、まだまだ現役武人のつもりであったが……」
「そうでもなかったようだ」
「老いとは怖いものだな」(昌文君)

 

「お前らの言い分は分かったぜ」
「次はこっちの言い分だ」(信)

 

「お前らこそ皆殺しにされたくなかったら」
「俺達を王の所までとっとと連れて行きやがれ!!」(信)

 

「話し合いに剣は必要ない」(嬴政)

 

「行け、信」
「口惜しいが、今の儂よりお前の方が役に立つ」
「王を追ってくれ、頼む」(昌文君)

 

「信、漂のことはすまなかった」
「こんなはずではなかった、許せ」(昌文君)

 

3巻

「秦人(われわれ)は山の民について考えを改めねばならんようだ」(壁)

 

「この国は外敵が近付けない天然の要害だ」
「これだけのものを造り出せる知恵と技術は決して野人と侮れるものではない」
「彼らの力は本物だ」(壁)

 

「秦国のすぐ背後にこれほど強大な世界が広がっていて」
「今まで気付かなかったとは背筋が凍る思いだ」(壁)

 

「今から四百年前、かの秦王穆公と山界が盟を結んだ刻(とき)──」
「我々の祖は友好のうちに新しい国の広がりに至る兆しを見た」(楊端和)

 

「しかし穆公が去りし後──」
「それが幻だったと気付かされた」(楊端和)

 

「祖霊の怨念を鎮めるために、現秦王のそなたの首をはねねばならん」(楊端和)

 

「非はこちらにある。過去の愚行、秦国の代表として心から謝罪する」
「だが、俺の首をはねるまでの理由にはならない」(嬴政)

 

「復讐よりも前にやるべきことは山ほどある」(嬴政)

 

「(一族の者が殺される痛み?) そんなことをする必要はない」
「俺はすでにその痛みを十分に知っている」(嬴政)

 

「山の王よ。恨みや憎しみにかられて王が剣を取るのなら、怨嗟の渦に国は滅ぶぞ」
「王ならば”人を生かす”道を拓くために剣をとるべきだ」(嬴政)

 

「全国境の廃除!」
「できないなら力づくでやるまでだ」
「戦国の世らしくな」(嬴政)

 

「(人を生かす道とは正反対?) 否」
「今まで五百年の騒乱が続いたならばあと五百年続くやも知れん」
「俺が剣をとるのは、これから五百年の争乱の犠牲をなくすためだ」(嬴政)

 

「玉座は”俺の路(みち)”の第一歩にすぎぬ」(嬴政)

 

「俺は中華を統一する最初の王になる」
「その協力を得に、山の王に会いに来た」(嬴政)

 

「我が年を重ねるごとに山界の防壁も幾重にも屈強になっていく」
「すると国の狭さを感じる」(楊端和)

 

「”戦”でも”和”でも何でもいい」
「我はただ──世界を広げたいんだ」(楊端和)

 

「無念無念って、うっせェんだよ!!」
「だいたい一番の無念は、夢見てたものが幻に終わったことだろうが!!」(信)

 

「……もしお前らが本気で死んだ奴らのことを想うのなら」
「奴らの見た夢を現実のものに変えてやれよ!!」(信)

 

「秦王よ、一つ質問がある……我らは手荒い!」
「玉座奪還の際、王宮は血の海になるやも知れぬが構わぬか?」(楊端和)

 

「…そうやって奪われた」
「何の躊躇があろうか」(嬴政)

 

「皆の者、よく聞け」
「山界の王・楊端和は、秦王・嬴政とかつてない強固な盟を結ぶ!!」(楊端和)

 

「その盟のためにこれより不当に追われた秦王の玉座を奪還しにゆく」
「周囲の山々からも兵を集めよ」(楊端和)

 

「全軍死闘の覚悟で出陣準備!!」
「目指すは秦国…王都咸陽也!!」(楊端和)

 

「あいつがいると緊迫感もなくなるね」(河了貂)

 

「昌文君の妻子を引き渡せと?」
「しかし彼の領土はすでに私のものですよォ」(王騎)

 

「つまり領内の人間は全て私の奴隷(もの)です」
「それを渡せとは、面白いことをおっしゃいますねェ」(王騎)

 

「”勢い”は戦に勝利する要素の一つだ」
「だがそれだけで勝てるのは、せいぜい小団隊の野戦程度」(楊端和)

 

「我らはこれから秦王都に攻め込むのだ」
「敵の軍容を知り、城壁を越える策が必要となる」(楊端和)

 

「帰るぞ、咸陽へ」(嬴政)

 

「王宮の中で漂は、お前の話ばかりしていた」
「まるで自分の宝物を見せるかのように目を光らせてな」
「漂を思い出すと、その光景ばかりが目に浮かぶ」(嬴政)

 

「決着の刻(とき)だ、信!」(嬴政)

 

「天下の大将軍への第一歩だ!」
「ンなとこでコケるかよ!!」(信)

 

「楊端和、共に戦ってくれることを感謝する」(嬴政)
「感謝の言葉は勝利の後に言うものだ」(楊端和)

 

「お前らについてって、オレも手柄を上げてやる!」
「そして大金持ちだ」(河了貂)

 

「黒卑村の河了貂様がそう簡単に死ぬかよ!」(河了貂)

 

「悪いな。漂の弔い合戦兼ねてっから容赦しねェぞ」(信)

 

「束の間の栄華は楽しんだか、丞相!?」
「もう十分だな?」(嬴政)

 

「健気な大王ではありませんか」
「面白くなって来ましたねェ、ンフフフフ」(王騎)

 

4巻

「大丈夫だ。大王には殿や山の王がついている」
「私たちは私たちの仕事をするんだ!」(壁)

 

「(気合いが入ってる?) 当たり前だ!」
「漂の脱出のときからここまで多くの犠牲が出た」
「副官としてその責任は言葉にできぬほど重い!」(壁)

 

「皆の死を無駄にせぬためにも、私の生命をかけて成蟜を討つ!」(壁)

 

「(一度退がる?) その必要はない」
「矢如きに屈する山の民(われら)ではない!」
「突撃態勢!!」(楊端和)

 

「調子に乗りすぎだよ、貴様ら」(左慈)

 

「調子に乗りすぎだよ、ハゲ!」(信)

 

「君が本当に大将軍になるのだとしたら」
「君は中華統一を目指す大王の片腕となって天下に羽ばたく!」(壁)

 

「ならば、ここで死なせるわけにはいかない」
「私は一人死なせている」
「この少年は絶対に殺させぬ!!」(壁)

 

「剣は力、剣は速さ」
「共に最上を極めるこの俺は──天下最強だ」(左慈)

 

「戦況は…すごく不利だよ。すごく……」
「でも大丈夫だ!」
「だってこっちには信がいる」(河了貂)

 

「あいつはどんなにボロボロになっても負けはしない」
「どんなにボロボロになっても絶対勝つ!!」(河了貂)

 

「誰が天下最強だって!?」
「さァ、立てよ」
「誰が天下最強か教えてやる!!」(信)

 

「馬上にふんぞり返っておる割には…随分と軽い剣だな」(昌文君)

 

「余力は一刀のみ、だがそれで十分だ」
「これは木剣じゃねェ、これは漂から受け継いた王の剣だ!!」(信)

 

「壁のおとしまえだ、しっかり受け取れ!!」(信)

 

「全軍聞けェィ!!」
「戦意を断つな!! 勝利は目前だぞ!!」(嬴政)

 

「俺たちは、ただ耐えしのげばいい」
「耐えしのげ!!」(嬴政)

 

「剣が折れても、腕を失くしても、血を流し尽くしても耐えしのげ!!」
「耐えしのげば、俺達の勝ちだ!!」(嬴政)

 

「本人ガ進モウトシテイルノダ、止メルコトハナイ」
「モシソノセイデ死ンダトシテモ、ソレハソレデイイ」(バジオウ)

 

「見ろよ、いよいよだぜ」
「全てがあそこから始まったんだ──」(信)

 

「終わりだ、悪党共!」(信)

 

「オイオイ、お前こそ頭おかしいんじゃねェか?」
「秦の大王は政だ!!」
「お前はただの反逆者(クソ)だ!!」(信)

 

「二人共退がっていろ、俺がやる」
「しばし昔に戻るぞ」(バジオウ)

 

「はっきり分かってることはよォ」
「どんなにお前が偉ぶってても」
「結局身を呈してお前を護ろうとする人間は一人もいねェってことだ!」(信)

 

「それが生の現実だ…気色悪ィんだよ、てめェら」(信)

 

「もっと”剣”を信じろ、信」(壁)

 

「剣とは500年の争乱が育んだ最強の武器だ!」
「剣で倒せぬ相手無し!」(壁)

 

5巻

「戦意のねぇ奴は、寝てろ!!」(信)

 

「おどしじゃ檄にはならねェよ」
「そいつはもう立たねェ、今度こそ終わりだ!」(信)

 

「(有り得ぬ?) あるんだよ、戦争だからな」
「しかもお前が始めたんだ!」
「大人しく観念しろ」(信)

 

「残念ながらここを通すわけには参りませぬ」
「我が殿の命により、扉に近づく者は斬り捨てさせて頂きます」(騰)

 

「降りそうで降らないこの曇天」
「嫌いじゃァありませんねェ」(王騎)

 

「(大王につく?) ンフフフ、ご冗談を」
「あまりに可愛いらしいじゃれ合いが続いていたので」
「少々場を濁しに来ただけですよォ」(王騎)

 

「貴方様はどのような王を目指しておられます?」
「じっくり考えてお答え下さい」(王騎)

 

「この宝刀は不遜な言葉を許しませんよォ」
「相手が誰でありましょうとねェ」(王騎)

 

「(どのような王に?) 中華の唯一王だ」(嬴政)

 

「昭王の名を二度と口にするな!」
「それがお前のためだ」(嬴政)

 

「もし俺と共に戦いたいと願うのなら、昭王の死を受け入れ一度地に足をつけよ」
「中華に羽ばたくのはそれからだ”秦の怪鳥”よ!」(嬴政)

 

「しかし(昭王が亡くなれば)熱き夢を求める戦場は無くなります」(王騎)

 

「(他にもいる?) 口だけですよ」
「目を見れば分かります、本気で夢を描いて恋焦がれているかどうかは」(王騎)

 

「……口おしい。あと20年生きていれば…」
「夢をつかめたやもしれぬ」(昭王)

 

「王騎よ、飛ぶのはやめても牙は磨いておれ」
「お前ほどの武人が地に埋もれるのは許せぬ」(昭王)

 

「今はいなくとも、この先ワシのような王が再び現れるやも知れぬ」
「王騎よ、その刻(とき)は今以上に大きく羽ばたくのだ」(昭王)

 

「昭王よ、また熱い時代が来ようとしているかもしれませぬ」(王騎)

 

「成蟜。お前は生まれの良さが人の価値の全てと勘違いした、ただのバカガキだ」
「お前のような愚か者には決して王などつとまらぬ」(嬴政)

 

「世を知らぬ、人を知らぬ」
「だからお前はいつも唯一人だ!」
「お前では王はつとまらぬ」(嬴政)

 

「成蟜、お前は少し」
「人の痛みを知れ」(嬴政)

 

「下らぬことで血を流しすぎた!!」
「これ以上の流血は無用!!」(嬴政)

 

「全員の命を保障してやる故、直ちに投降せよ!!」
「必要最低限の犠牲をもって、反乱の決着とする!!」(嬴政)

 

「聞こえなかったのか、とっとと武器捨てて投降しやがれ!!」
「この戦ァ、俺達の勝利だァ!!!」(信)

 

「まだ戦は終わっておらぬ!」(昌文君)

 

「大王の本当の敵は呂丞相だ」
「呂氏の反対勢力である竭氏の残党は、できうる限り残す必要がある」(昌文君)

 

「(王宮の衛兵?) 冗談だろ、そんな退屈なことやってられっかよ」(信)

 

「俺は戦場に出る!」
「一こ一こ積み上げてって将軍になる!」(信)

 

「加冠すれば必ず呂氏から権力をはぎ取る」
「そして中華に出る」(嬴政)

 

「信──その刻(とき)までには必ず登って来い」(嬴政)

 

「(ボロ小屋?) 十分だ」(信)

 

「漂──何も持ってなかった俺たちがついに土地と家を手に入れたぞ」
「こうやって武功をあげて土地も家もでっかくしていくんだ」(信)

 

「最初はボロ小屋でも何でもいいよな」
「これが俺たちの最初の城だ、最初の城だ!!」(信)

 

蛇甘平原編

「う~~む、まさに平穏」
「……三か月前のあの戦いがウソみたいだ」(河了貂)

 

「信は働いて少しゃ稼ぐし、オレも山菜とか採って食費助けるし」
「何かとふつーにやっていけてるよな」(河了貂)

 

「うん、ふつーにやっていけてる」
「いーよな、こーゆーの…」(河了貂)

 

「急ぐのと焦るのは違う、明日すぐに戦場へ行けるわけでもない」
「まずは身体を治すことに専念しろ」(嬴政)

 

「焦らずとも刻(とき)は来る」
「準備だけは怠るなよ」(嬴政)

 

「(歩兵募集) よかったな、信。いよいよ初陣だ」
「派手にぶちかまして来いっ」(河了貂)

 

「(墓参り?) いや、やめとく」
「行くのは二人の夢がかなってからだ」(信)

 

「(名は)羌瘣。嫌いなことはしゃべること、以上」(羌瘣)

 

「ちょっと想像してたら気持ち悪くなった」
「こんだけの人数(15万)が殺し合いをしたら、どんな光景になるのかなって…」(尾到)

 

「四君だの食客だの、あだ名はどうでもいい!」
「そんなイカレ野郎は、ただぶっ殺すだけだ!!」(信)

 

「(後処理が大変?) では反乱そのものをなかったことにしろ」(嬴政)

 

「(城の)援軍ではない」
「うす汚い侵略者が我が魏の地を踏むことは断じて許さぬ」(呉慶)

 

「いいですか皆さん、心の準備をしておいて下さい」
「攻めるはずの秦(こっち)が後手後手に回っている」
「こういうときは大勢死にます」(澤圭)

 

6巻

「新参だろうと関係ない」
「千人将同士、遠慮なく意見させてもらう」(壁)

 

「ここは、すでに戦場だ!!」
「理解したならばその場で荷を降ろせィ!!」
「荷を降ろすと同時に心を入れかえよ!!」(壁)

 

「魏兵の血で平原を朱く染めよ!!」
「諸君らの武運を祈る!!」(壁)

 

「(自信をつけた?) 逆だ」
「あの戦い──何より痛感したのは自分の無力さ……」(壁)

 

「殿と私は長く語りあった。そして決心した」
「殿は文官の極み、丞相へ」
「私は武官の極み、大将軍になる!!」(壁)

 

「私の伍はいつも最弱と言われていますが──」
「私の伍は今まで一人も死んでいません」(澤圭)

 

「弱者には弱者の戦い方があります」
「これは卑怯ではなく戦法です」(澤圭)

 

「五身一体。私たちは”伍の結束”で生き残りましょう」(澤圭)

 

「怖い?」
「……ああ…俺はずっとこの時を待ってたからな」(信)

 

「何だ? もう息が上がってきやがった」
「初陣で力んでんのか?」(信)

 

「それだけじゃねェな、いつもより体が重い」
「空気が重いんだ、これが戦場か」(信)

 

「(援軍?) そんなもん、最初から期待してんじゃねェよ」
「自分の生きる道は自分で切り開く、それだけだろ」(信)

 

「結局このままじゃ、いずれ全滅する」
「攻めねェと道はねェ!!」(信)

 

「いろいろと気を散らしすぎだ、さっき倒した一台を思い出せ」
「お前の相手は戦車そのものだ」(羌瘣)

 

「各地で同じように戦っておるように見えるが」
「それぞれは実に多様に盤上を揺り動かす」(麃公)

 

「一の働きが十を動かし、千につながり万を崩す」
「小から始まる連鎖が大火を呼びこみ、戦局は一気に終局に向かう」(麃公)

 

「そして今、異彩を放つ場所があった」
「そういうところには”何か”がある」
「戦とはそういうものじゃのォ、皆の者」(麃公)

 

「丘を下ってくる勢いにまかせ、敵の行軍は早い」
「その波を逆につき進むのは、想像を絶する過酷な路」
「だがその分、斬り結ぶ時間は短い」(羌瘣)

 

「お前と同じだ」
「こんなところで死ぬわけにはいかない」(羌瘣)

 

「退却? 今さら退いて何になる」
「すでに3万の兵を失ったんだぞ」
「勝たねば何も残らぬ!!」(壁)

 

「先陣も後陣も騎馬も歩兵も等しく死線の上にいる」
「全ては勝利のために」
「それが”軍”というものだ」(縛虎申)

 

「貴様の頭では何が起こっているか理解できまい」
「座して謀る兵法が、戦の全てと思っている貴様の頭ではな」(縛虎申)

 

7巻

「呼吸が尽きた」
「”戻る”までしんがり頼む」(羌瘣)

 

「勇猛と無謀は違う」
「そこをはき違えると、何も残さず早く死ぬ……」(縛虎申)

 

「誰も参戦するとは言ってませんよォ」
「私はただ、あの丘に登りたいと思っただけですよォ」
「途中邪魔なものは排除いたしますが」(王騎)

 

「さすが殿、完璧な言い訳です」(騰)

 

「殿がおっしゃっていた」
「将軍自ら先頭を行くとき、王騎軍は鬼神と化すと!!」(壁)

 

「オヤァ? もうお帰りですかァ?」
「せっかく面白くなってきたんですけどねェ」(王騎)

 

「解からねェ!? 強さも怖さも」
「こ……こいつ…でかすぎて解からねェ!!!」(信)

 

「私に剣を向けた者は一人残らずこの宝刀で両断されてますが」
「覚悟はありますか?」(王騎)

 

「分かってますかァ?」
「あなた、さっきからずっと死地に立ってるんですよォ?」(王騎)

 

「”知略”対”本能”!」
「これは武将の中の永遠の題目ですよォ」(王騎)

 

「永き戦乱で軍の規模は増大し、今では数十万の戦い」
「しかし軍が大きくなればなるほど」
「それを率いる将の才力が戦の勝敗を左右する」(王騎)

 

「結局、戦は武将のものです」(王騎)

 

「どちらが是か、どちらが非か」
「これはどちらか一方の首が飛ばねば分かりかねますねェ」(王騎)

 

「(麃公軍の突撃) ンフフフ。これには呉慶さんもビックリです」(王騎)

 

「今ここにある状況は全て、あの二人が勝つために描き導いたもの!!」
「そうそれが”将軍”という存在(もの)です」(王騎)

 

「王騎将軍。ウマを一頭貸してくれ、下さい」
「大将首が見えてんのに、行かない手はない」(信)

 

「大将自ら先頭をゆくという常軌を逸したあの突撃、敵は必ず先頭の一騎を狙います」
「当然です、その一騎さえ討てば戦が終わるのですから」(王騎)

 

「しかし討てないんですよ、その一騎が」(王騎)

 

「麃公の前に立つということは、麃公軍の前に立つということ」
「将が先に立つことで極限まで昂ぶった全軍の闘気が一丸となって襲いかかる」(王騎)

 

「……これだからやめられぬのだ、戦争は!」(呉慶)

 

「丸城の皆殺しから始まり、これまで両軍多くの血を流した」
「呉慶ェ、ようやく会えたのォォ」(麃公)

 

「これから先は”退く”計略、その数は五十ある」
「だが──この呉慶、侵略者に対し退くことは絶対にない!!」
「たとえこの身が砕け散ろうともだ」(呉慶)

 

「どんな下らぬ理由で、この儂に挑んで来たァ」
「殺す前に聞いておいてやろうぞォ」(麃公)

 

「武人の血などよりも熱きものが我の中にあることを」
「この剣をもって教えてやろォ」(呉慶)

 

「侵略者に対しここまで退くことができぬとは、正直自分でも驚きだ」
「人の感情とはままならぬものだな」(呉慶)

 

「家族だけではない」
「殺されたのは…国そのものだ!!」(呉慶)

 

「下らん負け犬の感傷だな!!」
「戦場にあって身の上話など、何の意味も持たぬ!」(麃公)

 

「将ならば、敵軍にどうやって勝つか!!」
「それ以外に心囚われることはない!!」(麃公)

 

「将の責務よりも私情を優先させた貴様に待つのは、敗北の二文字」(麃公)

 

「来い呉慶!」
「秦国大将軍の名において、引導を渡してやる!!」(麃公)

 

「久方ぶりにいいものを見せて頂きました」
「これ以上の延戦は、蛇足以外の何ものでもないでしょォ」(王騎)

 

「それとも先程の一騎討ち以上のものを」
「この王騎と繰り広げる自信がおありですか?」(王騎)

 

「一度昇華した大炎、すぐさま起こすは至難この上無し!」(麃公)

 

「伽は宮女にとって戦いなんだから」(陽)

 

「大王のお子を生むと、後宮の実権を握る一人になるの」(陽)

 

「そして幸運にも最初の男子を生む事ができたら」
「太后となり後宮の内外で権力をふりまくりなのよ、向ちゃん」(陽)

 

「これはもう女の戦争だわ!!」(陽)

 

「私ね、お声がかかる理由も、お手がつかない理由もどうでもいい」
「私はお隣りで大王様が穏やかに書を読まれるだけで十分幸せなの」(向)

 

「宮女・向は大王様の”お心の伽”をさせて頂きたく思います」(向)

 

「だが静かなら誰でもよかったというわけではないぞ」
「向が隣にいるときは、なぜか心地良く書が読めるのだ」(嬴政)

 

刺客急襲編

8巻

「二年続いた至極の戦があなたのせいで台無しです」
「死んで出直してきなさい、おバカさん」(王騎)

 

「私らは商人」
「熱くなるのは商売の話だけでしょうが」(紫夏)

 

「まずは政様に会わせて下さい」
「商人が運ぶ”品”を確認するのは当然ではありませんか」
「決めるのはそれからです」(紫夏)

 

「やめろ!!」
「あなた達がやっていることは、秦人以下です」(紫夏)

 

「養父(ちち)は言いました」
「”月がいつも以上に輝いているのは、くじけぬようにはげましてくれているのだ”と」(紫夏)

 

「18年前、敵国の兵に追われていた行商・紫啓は」
「たまたま通った荒野で餓死寸前の三人の孤児を見つけた」(紫夏)

 

「養父(ちち)のあの手が私達を死の淵から引き上げてくれた」(紫夏)

 

「そして今、我々の前には一人の少年がいる」
「私達が手を差伸べねば、すぐにも殺されてしまう少年が」(紫夏)

 

「何の迷いがあろう」
「我々がすることは明白ではないか」(紫夏)

 

「この仕事、引き受けましょう」
「”闇商紫夏”の名において政様を秦にお届けします」(紫夏)

 

「(関門を)五つくぐれば秦か……」
「これは現実か?」(嬴政、子供時代)
「もちろん現実ですよ」(紫夏)

 

「違法なモノを運ぶ闇商ですからね」
「常日頃から手回しを怠ってはいませんよ」(紫夏)

 

「(腕から)矢を抜け、出られぬ」(嬴政、子供時代)
「ちょっと待て…腕を射ち抜かれて泣かない子供がどこにいる」(紫夏)

 

「穿たれた矢を抜かれて、眉一つ動かさぬ人間がどこにいる」
「この子は一体……!?」(紫夏)

 

「月を見る政様の目が紫夏は好きですよ」(紫夏)

 

「時々、夢と現実の境が分からなくなる」(嬴政、子供時代)

 

「ここからは偽装の必要はない」
「適当な所で荷を捨て、全速で国境を目指す!」
「趙の騎馬隊は速いぞ!!」(紫夏)

 

「俺は、秦へは帰れぬ」
「帰れぬ理由があるんだ」(嬴政、子供時代)

 

「痛みがないんだ!」
「痛みだけじゃない! 味もっ、匂いも、暑さも、寒さも」
「俺はもう何も感じないんだ、何も」(嬴政、子供時代)

 

「壊れてるんだよ、もう……」
「そんな奴が王になどなれるわけがない」(嬴政、子供時代)

 

「俺だってなりたかったのに」
「民を導く王になりたかったのに……」(嬴政、子供時代)

 

「なれますよ!」
「なれますよ、私がならせてみせます」(紫夏)

 

「痛みが無いのなら、私が代わりに感じてあげます」
「味もっ、匂いも全部……」(紫夏)

 

「でも、大丈夫…あなたはちゃんと感じていますよ」
「あの晩一緒に、月の輝きに感動したじゃありませんか」(紫夏)

 

「大丈夫、私がついています」
「一緒に秦へ帰りましょう」(紫夏)

 

「しっかりしろ!」
「亡霊なんていやしない!!」(紫夏)

 

「全部まやかしだ、お前の前には私しかいない」
「全部ただの幻だ!!」(紫夏)

 

「無駄なあがきはよせ」
「おれは秦へ帰り王になる」(嬴政、子供時代)

 

「あきらめるな」
「矢も尽きていない、馬も走っている」
「まだうなだれる時ではないぞ!!」(嬴政、子供時代)

 

「今は一歩でも秦へ近付くことだけを考えろ!!」(嬴政、子供時代)

 

「(本当に目覚めた?) お前が手をさしのべてくれたおかげだ」(嬴政、子供時代)

 

「義父(父上)、あなたが我々を救ってくれたように」
「私もこの子を救おうと思ったのですが難しそうです」(紫夏)

 

「自分の力を過信していた」
「亜門と江彰を巻き込んで…やはり人の命を救うことはそんな簡単ではない」(紫夏)

 

「亜門が犠牲になった今、自分が助かろうなんて思いません」
「だけどせめてこの子だけでも、頂いた命を次につなげなければ…」(紫夏)

 

「最後まで力を尽くすんです」
「あきらめずに」(紫夏)

 

「恩恵は全て次の者へ」
「どんなに些細なことでもいい……受けた恩恵を次の者へ」(紫啓)

 

「あなたは生まれの不運により」
「およそ王族が歩まぬ道を歩まれました……」(紫夏)

 

「しかし逆に言えば」
「あなたほどつらい経験をして王になる者は他にいません」(紫夏)

 

「だからきっと、あなたは誰よりも偉大な王になれますよ」(紫夏)

 

「ああ、つきものは落ちましたな~」
「瞳が…何とも、美しい…」(紫夏)

 

「紫夏が息を引きとり、昌文君らと国境を越えたとき左手に激痛が走った」
「痛みが戻ったんだ」(嬴政)

 

「痛みだけじゃない、味覚も嗅覚も全て…」
「不思議なものだな、人の体とは」(嬴政)

 

「紫夏の話をしたのは初めてだ」
「一生他人に話すことはないと思っていた」(嬴政)

 

「また俺の中で何かが変わってきているのかもな」(嬴政)

 

「俺の隊はとんでもなく大変だぜ」(信)

 

「昌文君。先の反乱鎮圧に奮った手腕、貴様の才覚を疑う余地はない」(肆氏)

 

「だが文官に転身してまだ日が浅いお前は」
「『文官の戦場』の深さに気付いていない」(肆氏)

 

「文官の世界でのし上がる気なら、常に最悪の事態を想定して事にのぞめ」(肆氏)

 

「闇夜にかくれて寝首を狙うようなクソ共は」
「全員たたっ斬る!!」(信)

 

「いろいろ工夫してんだなァ、刺客ってのは」
「ひたすら剣ぶん回してきた俺とは大違いだ」(信)

 

「だが所詮、一発芸!」
「そんなもんは何百って敵と渡り合う戦場じゃ、何の役にも立たねェぜ?」(信)

 

「覚悟しろよ、てめェら」
「あいつ(政)を殺ろうって奴は、一人も生かして帰さねェからな!!」(信)

 

「あの時と全然違う」
「成蟜反乱の戦いでは、見ていて心臓が止まりそうになったけど…」
「今はどこか安心して見ていられる」(河了貂)

 

「相手が弱いわけじゃない」
「信が強くなったんだ」(河了貂)

 

「お前の居場所はやはり戦場だ」
「お前の剣は陽の当たるところでこそ、最大限の力を発揮する」(羌瘣)

 

「だからそれ以外の余計なところには足を踏み入れるな」(羌瘣)

 

「共に戦場で戦った誼(よしみ)で忠告に来た」
「王宮には絶対に近づくな」(羌瘣)

 

「行けば必ず…命を落とすぞ」(羌瘣)

 

9巻

「敵が定まらぬ時は、常に最悪のところに目を落とす」(肆氏)

 

「今度(こたび)の事の首謀者は、今の儂にとってあの”最悪”の男だ」(昌文君)

 

「今さらお前ら(朱凶)に用はねェ」(信)

 

「……ああ…もういいぜ、羌瘣」
「今すぐ失せろ。一緒に戦場行った誼(よし)みで見逃してやる」(信)

「分かった、今すぐ立ち去る」
「王の首を持ってな」(羌瘣)

 

「安心しろ、服を斬っただけだ」
「次は胴の上下、斬り離すぞ」(羌瘣)

 

「(忠義?) はぁ? バカか、お前」
「そんなもん、俺にあるわけねェだろ」(信)

 

「戦友(仲間)だからだよ」
「共に汗と血を撒き散らしながら戦ったなァ」(信)

 

「お前如きに…蚩尤の何が分かる」(羌瘣)

 

「シユウも何も、刺客はぜーんぶ下らねェ」
「腕に自信があんなら、戦場行って真っ向から剣ぶん回せってんだ」
「バーカ」(信)

 

「図に乗るな」
「その気ならお前は10回は死んでる」(羌瘣)

 

「策は一つ」
「お前一人であの10人の相手をしろ」(羌瘣)

 

「30秒だけでいい」
「30秒で可能な限り呼吸を戻す」
「だから一人で時間を稼げ」(羌瘣)

 

「あいつの考えてることなんて分かんねェよ」
「だが羌瘣の策に間違いはねェ」
「覚悟しといた方がいーぞ、てめーら」(信)

 

「一回り分の呼吸は戻った」
「十分だ…」(羌瘣)

 

「信」
「俺達の粘り勝ちだ」(嬴政)

 

「蚩尤じゃねェ」
「こいつは秦国麃公軍第4縛虎申隊歩兵、羌瘣」
「俺の伍の仲間の羌瘣だ!」(信)

 

「女が男のフリをして生きることは」
「”そんなこと”じゃないだろ!!」(河了貂)

 

「多少面倒そうだから女を明かさない、その程度だ」(羌瘣)

 

「別にバレたらバレたで、”対処”すればいいだけのこと」(羌瘣)

 

「私より強い人間はこの世にいない」(羌瘣)

 

「オレに蚩尤の技を教えてくれ!!」
「戦場に行く!!」(河了貂)

 

「イラつく」
「言い伝えだの語りつぐだの、あげくに技を教えろだの」
「何も分かってない奴らを見ると、皆殺しにしたくなる」(羌瘣)

 

「女同士、少しはマネゴトができると思ったのか?」
「残念だが万のうち一つも、不可能だ」(羌瘣)

 

「お前達と私達とでは、生まれ落ち育った世界が違いすぎる」(羌瘣)

 

「ちょっと待て、掟は絶対ではないのか?」
「そ…そんなに軽いものだったのか?」(羌瘣)

 

「……じゃあ…何でこんなことを……」
「何で象(しょう)姉は死ななくちゃいけなかった!!」(羌瘣)

 

「(自決? 掟?) バカにしてるのか?」
「貴様ら」(羌瘣)

 

「奴だけは絶対に許さない」
「……あれから里を捨てた私にはもう何もない」(羌瘣)

 

「今の私の命は、あの女を殺すためだけにある」(羌瘣)

 

「蚩尤とか掟とか関係なく」
「一番くやしいのはその時そこにいられなかったことじゃないのか」(河了貂)

 

「オレもそれが一番怖いから、だから戦場に行きたいんだ……」(河了貂)

 

「数じゃねェ」
「戦は”数”じゃねェ、”人”だ」(信)

 

「わずか一戦でそのことに気付いたお前の勘所は悪くない」
「じゃがな、信。その”人材”も向こう(呂氏陣営)がはるかに上なのだ」(昌文君)

 

「泣き言は言ってられん」
「もう始まってしまったからな」(嬴政)

 

10巻

「まずはともかく、ご無事で何よりでした」
「大王様」(呂不韋)

 

「早速ですが大王様」
「昨夜の大王様暗殺事件の黒幕は──」
「この呂不韋めにございます!」(呂不韋)

 

「(黒幕?) 冗談はよせ、丞相」
「そのようなこと、あろうはずがない」(嬴政)

 

「早う大きゅうなりなされィ、大王」
「この蔡沢は、強き者にのみお仕えいたしまするぞ」(蔡沢)

 

「俺もこんな茶番に付き合うために来たのではない」
「上奏だ」(蒙武)

 

「六将だ。秦の『六大将軍』を復活させてほしい」(蒙武)

 

「……見くびるな」
「俺の生き様に謀反などと下らぬものはない」(蒙武)

 

「武の証明だ」
「この蒙武こそ中華最強!!」
「その証明以外、一切の興味無し!!」(蒙武)

 

「(王騎?) 関係ねェ。奴の時代はとうに終わった!」
「今さら口出ししてくるようなら、この俺の手で粉々にしてやる」(蒙武)

 

「秦国の武の威厳!」
「この蒙武が昭王の世以上のものにしてみせる」(蒙武)

 

「どうかこの場ですぐ、俺に戦の自由を持つ大将軍の称号を!」(蒙武)

 

「なぜ刺客などに頼られました」
「この李斯に言って頂ければ確実でありましたぞ」(李斯)

 

「……李斯よ。確実(それ)のどこが面白い」(呂不韋)

 

「おかしければ笑うがいい」
「これが現秦王の現実だ」(嬴政)

 

「(戦意喪失?) バカを言え」
「相手にとって不足はないと言ってるんだ」(嬴政)

 

「そして気付いたんだ」
「あの時、オレは平穏を求めていたんじゃなく、孤独から抜け出したかったんだと──」
「あいつらと同じところにいたい」(河了貂)

 

「オレも戦場に行って、大金を稼ぐことにした」
「オレは『軍師』になるぞ!」(河了貂)

 

「じゃあとにかくがんばって軍師になれ、テン」
「そしたらまた一緒に戦場で戦おうぜ」(信)

 

「何をいきなりビビってんだ!」
「一日でも早く軍師になるんだろうが!」(河了貂)

 

「せっかく羌瘣が入り口を教えてくれた」
「ここから先は、オレしだいだ!!」(河了貂)

 

「天才を送る故、軍師に育てよ」
「其の子に何かあった場合、皆を殺しに行く故、気をつけよ」
「其の子の名は──河了貂也」(羌瘣の推薦状)

 

「それでは僕が聞くよ」
「大王側の君がここに来たのは、まさか諜報のためではないよね?」(蒙毅)

 

「吹き矢は僕には当たらないよ、河了貂」(蒙毅)

 

「君は僕のかわいい弟弟子だ」
「いや…妹弟子かな?」(蒙毅)

 

「戦に良い駒は不可欠」
「策を施す側からすると、特異な駒は大変貴重じゃ」(蔡沢)

 

「敵陣営の内情を詳しく知る駒──」
「無警戒に敵陣営と接触がとれる駒──」
「実にありがたい」(蔡沢)

 

「実は蚩尤よりも気になっている若者がいます」
「下僕の出身ながら、すでに百将の位を手に入れた少年──」(昌平君)

 

「信。若手の中で、私が今最も手に入れたい駒です」(昌平君)

 

「信」
「お前このままじゃ、いつか死ぬぞ」(羌瘣)

 

「お前の戦いぶりは”勇猛”ではなく”無謀”なんだ」
「今のままでは必ずお前は命を落とす」(羌瘣)

 

「言われなくたって、俺にも分かってる」
「調子に乗ってたってのも、このままじゃまずいってのもな」(信)

 

「お前にあれだけ遊ばれたんだ」
「それに気付かねェほどバカじゃねェ」
「その辺のことはちゃんと…考えてある!」(信)

 

「いいか、羌瘣」
「お前は同じ伍で魏戦を戦った仲間として」
「とっくにもう俺の百人隊の頭数に入ってんだからな!!」(信)

 

「だから次の戦までに絶対戻って来いよ」(信)

 

「どうしたらもっと強くなれるか、(王騎将軍に)教えを乞いに来ました」(信)

 

「先日、同じ伍だった奴にいいようにやられて気付いた」
「俺は自分が思っていたよりもずっと未熟で」
「しかもそれは一人で素振りしたり力仕事したりしても補えるものじゃないと」(信)

 

「しかし六将復活は無理な話です」
「残念なことに今の秦国に『六大将軍』の名に見合うほどの人物は」
「一人もいませんからねェ」(王騎)

 

「俺はあんたを超える」
「俺は天下で最強の大将軍になって、歴史に名を刻むんだ!!」(信)

 

「実際にこの目で戦場を見れることなんて、そうあることではない」
「盤上の勝負しか知らない僕にとって、学ぶことは大きいだろう」(蒙毅)

 

「我が師・昌平君もいつもおっしゃっているからね」
「実戦に勝る修行はないと」(蒙毅)

 

「まずはそこで学びなさい、童信」
「”率いること”の難しさと、”集”の強さを」(王騎)

 

馬陽防衛編

11巻

「急くな急くな、ゆるりと攻めればよいぞ」
「城は逃げはせぬ」(蒙驁)

 

「(趙の)兵は文句なしに強い」
「特に武霊王が初めてつくった騎馬隊は未だに中華最強だ」(蒙毅)

 

「だが率いる者がいなければ軍は興らない」
「趙は動けないんだ」(蒙毅)

 

「趙の目的は城取りだけではない、蹂躙だ」
「急がねば前線地域一帯から、秦人は一人もいなくなるぞ」(嬴政)

 

「両軍の兵力は数字以上に大きくひらいている…」
「こうなると秦軍はこの十万を誰が率いるかにかかってくる」(蒙毅)

 

「この兵力差は『将の力量』でしか埋まらないからね」(蒙毅)

 

「(状況は)承知している。全て任せろ」(蒙武)

 

「戦の強さには二種ある」
「”攻”と”守”だ」(昌文君)

 

「本土が手薄な中、前線地帯が崩壊しつつある今のこの戦いは」
「紛れもなく”守”を求められる戦い」(昌文君)

 

「その戦いに”守”のない蒙武が挑めば、大敗する恐れがある」(昌文君)

 

「(率いれる者が)一人だけおる」(昌文君)

 

「しばらく戦場を離れ、羽を休めてはおるが」
「”攻”と”守”双方の強さを兼ね備えた秦国最強の武将が一人」(昌文君)

 

「(王騎将軍は)私が呼んだのだ」
「『秦国総大将』を引き受けて頂くためだ」(昌平君)

 

「戦いに”攻”も”守”もない」
「あるのは目の前の敵を打ち砕くこと、それだけだ」(蒙武)

 

「お前など過去の遺物だ、俺は認めんぞ」(蒙武)
「私はあなたのことを認めていますよォ、ある程度は」(王騎)

 

「それでは皆さんにも退出して頂きましょうか」
「まだ大王ご本人より、正式に大将の任命を授かっていません」(王騎)

 

「古き作法にのっとり、大王と私の二人だけで任命式を行わねばなりません」
「これがなくては私が秦軍を率いることはありませんよォ」(王騎)

 

「実は秦軍総大将を受け出陣するにあたり」
「大王(あなた)にお伝えしておかねばならぬことを思い出したのです」(王騎)

 

「昭王より承っていた、大王(あなた)への伝言です」(王騎)

 

「馬陽を抜かれれば、惨劇は本土全てに広がるであろう」
「これは秦国存亡の危機と心得よ!」(嬴政)

 

「王騎将軍、そなたを秦軍十万の総大将に任命する!」
「馬陽を援(たす)け、我が国を踏みしだかんとする趙軍を殲滅せよ!」(嬴政)

 

「(総大将) しかと承りました」(王騎)

 

「あの大広間で大臣共の見ている中、お前に任命されるのは悪かねェ」(信)

 

「緑穂が苛立っている」
「過酷な戦いになる」(羌瘣)

 

「この部隊の大半が、あの蛇甘平原を生き残った猛者達だ!」
「俺達が力を束ねれば、どんな敵にも立ち向かえる!」(信)

 

「いいかてめェら、のこのこと攻めて来やがった趙軍をたたきつぶし」
「魏戦よりもさらにでっけェ武功をつかみ取るぞ!!」(信)

 

「昌文君、私はそろそろ昭王六将としての自分と決別しようかと考えています」
「この戦いを決着として……」(王騎)

 

「(前に進む?) そうできればと、自分に期待しているところです」(王騎)

 

「やかましい。(副将だが)前衛は俺がもらう」
「この戦、貴様の出番は無いと思え」(蒙武)

 

「ンフフ。全軍、前進」(王騎)

 

「太古の世、巫女体質の者が剣を触媒に荒ぶる神をおとし、舞い祭り」
「それを鎮めた」(羌瘣)

 

「だがいつしか蚩尤はそれを殺人の術に変化させた」
「神をおとし術者の意識は陶酔の中、舞って目につく人間を惨殺する」(羌瘣)

 

「それが蚩尤の奥義『巫舞』だ」(羌瘣)

 

「あの男(龐煖)は完全なる個」
「いや…あれはもっと……おぞましい程に純粋な──」
「『武』の結晶だ」(昌文君)

 

「あってはならんことだ」
「万にものぼる敵と戦うために、こちらも万を集め」
「高度な戦術をもって陣形・隊形を組む──それが軍だ」(昌平君)

 

「それを一人で打ち破るということは軍そのものを否定する」
「それはあってはならんことであり、起こり得ぬことだ」(昌平君)

 

「この戦いは、九年前に深く刻まれた因縁の戦いだ」(昌文君)

 

「兵も、軍も、趙も、秦も、取るに足らぬただの小事」(龐煖)

 

「在るのは天地が畏るる者が、今この地に二人居るということ」
「我の他にもう一人」(龐煖)

 

「それは天地が砕け散ろうとも許せぬこと」
「我、武神・龐煖也」(龐煖)

 

「率いれずとも大将が務まる場合はあります」
「しかもそういう変則的な戦い方は」
「万能な王騎将軍に対して極めて有効と考えられる」(昌平君)

 

「もうすぐまた戦が始まる」
「何万という人間同士が殺し合う」(羌瘣)

 

「それぞれの思いが命と重なり、想像を絶する速さで衝突し、砕け」
「朧(おぼろ)と消える」(羌瘣)

 

「思いが深いほどに、ぶつかり合う衝撃はより強く、より激しい……」(羌瘣)

 

「緑穂はそれをはかないと言うし、まばゆいとも言う」(羌瘣)

 

12巻

「甘く見すぎだ」
「蒙武という武将の力を」(蒙毅)

 

「蒙武の力は噂以上のようだが、単純な武力だけでは李白は抜けぬ」(李白)

 

「戦はまだ始まったばかりです」
「いきなり本陣など狙っても届きませんよォ」
「──まずは駒を減らすことです」(王騎)

 

「(苛烈な戦い?) お任せを」
「死闘は私が最も得意とするところです」(干央)

 

「戦を効率よく進めるためには」
「より有利に戦える地を相手より奪うことが定石です」(王騎)

 

「しかし場所獲り以外にも、良い方法があります」
「敵の有能な武将を殺していくことです」(王騎)

 

「……あの無国籍地帯での修行を通して気付いたことがある」
「何千何万という大軍勢の戦いの中で、百人って数はまさに豆つぶで小さい存在だ」(信)

 

「だが──豆つぶには、豆つぶなりの強さがある」
「すき間を抜く身軽さがあり結集すれば、決して砕けねェ石にもなる」(信)

 

「安心しましたよォ」
「ちゃんと成長しているようですね、童信」(王騎)

 

「宜しい、では褒美を一つ」
「『飛信隊』。この名をあなたの隊に与えます」(王騎)

 

「来おったな、勘違いした素人共め」
「皆の者、殺戮の刻(とき)だ」(馮忌)

 

「忘れたのか」
「この戦いに負けりゃ、趙軍は秦国内になだれこんでくる」
「そしたら馬央みてェに、そこら中で虐殺が起こるんだ」(信)

 

「馬央の赤子は一人残らず頭を叩きつぶされ」
「血の池に捨てられたそうだ」(信)

 

「お前ら、頭にたたき込んどけ」
「これはそういう戦いなんだ」(信)

 

「たかが矢の雨だ、いずれ尽きる」
「気を強く保て」(壁)

 

「今本当に恐ろしい状況にあるのは左軍です」
「背を見せて逃げる相手を撃つことほど容易なことはない」(蒙毅)

 

「退がるな!! これは敵の罠だ」
「退がっても皆殺しにあうぞ」(壁)

 

「活路は前だ!!」(壁)

 

「飛信隊の任務は、この場の敵を討つことでも百人全員が生還することでもない」
「趙将馮忌を討つことです」(渕)

 

「……そのための礎となるのなら、我々は喜んで残ります」(渕)

 

「私は残ります!」
「この場で戦う者にも将は必要ですからね」(渕)

 

「あやまるな……まだ終わってない」(羌瘣)

 

「手がらは俺がもらうが、恩賞は山分けにする」
「生きてる奴も死んでる奴もっ、全員まとめてきっちり百等分だ!!」(信)

 

「意外と私も嫌いじゃァありませんからねぇ」
「長距離戦が」(王騎)

 

13巻

「(笑って送ってやれ?) ンフフフ、その通りです」
「こういう時こそ大騒ぎですよォ」(王騎)

 

「この部隊に隊名を与えた意味が分かりますか?」
「憶えやすくするためです。味方も…敵も」(王騎)

 

「馮忌はそれなりに名の通った武将でした」
「その馮忌を討ったあなたの名はおそらく──」
「そのうち中華全土に広まります」(王騎)

 

「”守備”の……”李白”……か」
「笑わせる」(蒙武)

 

「大軍に奇策は必要ない」
「明日もこのまま主攻の左軍で打ち崩し、兵力差を拡大させる」(趙荘)

 

「(蒙武?) 別にどうということはない」
「たしかに力はある──が風評ほどではない」
「あの程度なら、十年かかろうと俺は抜けぬ」(李白)

 

「ここは俺の戦場だ」
「失せろ、王騎の犬が」(蒙武)

 

「歩兵共、昨日と同じだ。俺の背を追え」
「それだけだ」(蒙武)

 

「馬鹿が!!」
「貴様はただ相手に恵まれていただけだ」
「俺が本当の”武”というものを教えてやる」(蒙武)

 

「腕力で強わぬ相手を討つために武器を使う」
「強き武人を討つために人数を集める」
「大人数の戦いを有利にするために策を練る」(昌平君)

 

「万を超す規模の今の戦場では策が全てだ」(昌平君)

 

「だがそうあるが故に」
「全く逆のものを見て見たいと願うこともある」(昌平君)

 

「蒙毅よ、おそらくそれが体現できるのはお前の父だけだ」(昌平君)

 

「ひょっとしたらこの戦いで、お前は目の当たりにするやもしれぬ」
「”力”が”策”を凌駕するところを」(昌平君)

 

「李白よ、何を勘違いしている」
「貴様如きの首に興味はないわ!!」(蒙武)

 

「全軍に告ぐ、蹂躙しろ!!」(蒙武)

 

「あの人(父)にとっては親子なんて別に大したことじゃない」
「”中華最強”に至る」
「あの人の人生には、その一点しかない」(蒙毅)

 

「馬鹿げた話だ。今はもう戦略戦術が必須の時代だ」
「蒙武の戦い方は明らかに時代に逆行している」(蒙毅)

 

「”中華最強”という言葉自体も漠然とはしているが」
「もしそれに当てはまるような武将がいるとしたら──」(蒙毅)

 

「それは高度な知略を起こし、実践できる武将のはずだ」(蒙毅)

 

「もちろん応援してるよ」
「たった一人の父だからね」(蒙毅)

 

「僕が軍師を目指す理由もそこにあった」
「父の将としての欠けてる部分を補いたいと」(蒙毅)

 

「──が、しかしあの人には最初からいらぬ世話だったみたいだ」(蒙毅)

 

「さ──! 皆さん!」
「李牧が到着しましたよ!」(李牧)

 

「いずれにせよ、一向に姿を現さぬあちらの大将を」
「あぶり出しに行かねばなりませんからねェ」(王騎)

 

「ここにいると、たまに息がしづらくなる…」(羌瘣)

 

「ただ、みんな帰る場所があるんだな──と」(羌瘣)

 

「持ってるものは人それぞれだ」
「私は私で生きる目標は持っている」(羌瘣)

 

「仇討ちは大事だ」
「俺もそうだったからよく分かる」(信)

 

「だがな羌瘣、それで終いじゃねェぞ」
「仇討ちが済んだら、生きてるお前にはその先があるんだ」(信)

 

「お前は仇討ちほっぽって参戦してんだ」
「自分の意志でな」(信)

 

「……だったらお前はちゃんと持ってんだ」
「飛信隊っていう立派な帰る場所をな!」(信)

 

「……気にくわないことはない」
「いやむしろ、居心地は悪くない」
「だからきっと少しとまどっているんだ」(羌瘣)

 

「我は天の災い」
「ここにいるお前達はただ、運が悪かっただけだ」(龐煖)

 

「てめェ、何してくれてんだよ」
「ただで死ねると…思うなよ」(信)

 

「ほう、どうやら、我を呼んだのはお前のようだな」
「子供だが、命をもらうぞ」(龐煖)

 

「お前の意志ではなく、存在が呼んだのだ」
「我が内に潜む”荒ぶる神”は、他(た)の強者(つわもの)の存在を一切許さぬ」(龐煖)

 

14巻

「(呼吸の)”長さ”で勝てないなら、”深さ”で勝負すればいいだけ」(羌象)

 

「”超短期戦”。相手が”武神”だろうと何だろうと……」
「短期的な斬り合いなら、あんたは誰にも負けないよ」(羌象)

 

「さァ、舞うぞ緑穂」(羌瘣)

 

「そうか、そういうことか」
「お前は”神を堕とす”者か」(龐煖)

 

「あの男かと思い出て来たが…これも天の導きか」
「”神堕とし”の者よ、たしかにお前も我が敵の一人だ」
「この夜は我らのためにある」(龐煖)

 

「さァ、荒ぶる神、”宿す者”と”堕とす者”」
「どちらが天に選ばれし強者か存分に示そうぞ」(龐煖)

 

「恐れるな、緑穂」
「碧き神気を私に誘え。ただ深く、ただ激しく」
「さすればもはや、我らに敵う者は無い」(羌瘣)

 

「相手の動きを読む力は、当然お前だけのものではない」(龐煖)

 

「我より血を流せし者は久しぶりだ」
「そして刹那とは言え、死を傍らに感じたこの手応えは…」
「それこそ九年前の、あの二人以来か」(龐煖)

 

「龐煖…龐煖、お前は戦をなめるな!!」(干央)

 

「たしかにあいつはバカみてェに強ェし、武神だの何だのほざいてやがるが」
「同じ人間には変わりねェ」(信)

 

「思いっきりぶった斬れば、あいつは死ぬ」
「斬って死ぬんだったら、倒せる」(信)

 

「言われなくても危ねェことは分かってる」
「だがそれでも、戦るしかねェ」(信)

 

「ここで逃げてるようじゃ、天下の大将軍なんて夢のまた夢だ」(信)

 

「ただの油断、だが不思議な力を持つ子供だ」
「”我が神”に捧げる供物としては上出来だ」(龐煖)

 

「今夜けっこうな仲間が死んだかもしんねェが、下向く必要はねェ」
「戦争やってんだ、死人はでるさ」(尾到)

 

「いいんだよ信、みんなお前と一緒に夢を見てェと思ったんだ」
「それでいいんだ」(尾到)

 

「……これからもお前はそうやって」
「大勢の仲間の思いを乗せて天下の大将軍にかけ上がるんだ」(尾到)

 

「何でお前が謝るんだよ」
「泣くことはねェ、こいつはやり遂げた」
「立派に役目をやり遂げたんだ」(尾平)

 

「だから…涙はいらねェ」
「こういう時は……笑って…ほめてやるんだ」(尾平)

 

「ほ、本当に、よくがんばったなァっ…って……」
「到ォォォ」(尾平)

 

「少し反省だ」
「元々まじめな方ではなかったからな」
「里を出てから随分と修練をさぼっていた」(羌瘣)

 

「緑穂との巫舞で倒せなかったことが癇に障る」
「半年後には私が勝つ」(羌瘣)

 

「第4軍をやってくれたのは彼ではないようですが仕方ありません」
「我々が受けたこの悲しみ」
「とりあえずは今ここで渉孟さんに受け止めて頂きましょう」(王騎)

 

「渉孟も鱗坊も勘違いしている」
「強さの底が知れぬのは、我らが殿の方だ」(騰)

 

「今は深く考えねェようにしてる」
「今そこを考えると、この場にうずくまって足が前に出せそうにない」(信)

 

「だけど死んだ奴は、んなこと望んでねェんだ、絶対に」
「だから今は、この三十六人でどうやって武功をあげるか…」
「それしか考えてねェ」(信)

 

「武将への道は犠牲の道です」
「そこを乗り越える度に、人も隊もより強く、より大きくなるのです」(王騎)

 

「……そうならねばなりません」(王騎)

 

「本当に把握できないということが分かったのも発見ですよ」
「山間の戦いは、我々の想像以上に難しい」(蒙毅)

 

15巻

「この俺が冷や汗だと!?」
「面白い!!」(蒙武)

 

「そこが大きな間違いだ」
「”策”でこの俺は止められぬわ!!」(蒙武)

 

「ごっこじゃない」
「オレはちゃんと軍師になるんだ」(河了貂)

 

「多分お前はちゃんと理解していない」
「その本質」(カイネ)

 

「軍師とは前線で血を流す兵士よりも、はるかに苦しくつらいもの」
「そして、恐ろしいものだ」(カイネ)

 

「だがな、趙荘」
「驚くべきことだが、お前の計略よりも、俺の目利きよりも」
「蒙武の武はさらに上を行くぞ!」(隆国)

 

「今の趙軍の打てる手を網羅して考えても」
「ここから大技をくり出すことはできないと断定できます」(王騎)

 

「……しかし仮に私をおびやかす策があったとするなら」
「張り巡らされた策は恐ろしく深い」(王騎)

 

「(多くの諜報員?) だろうな、だがお前達は現に知らなかった」
「それは恐ろしいことだと思わぬか、政」(楊端和)

 

「なぜお前達は知らぬと思う?」
「何のために?」
「隠してどうする?」(楊端和)

 

「もし今、秦・趙両軍の力が拮抗しているとしたら」
「この見えぬ軍の出現で戦は一気に決着となるだろう」(楊端和)

 

「お前が本当に軍師になったなら、またどこかの戦場で出会うかもな」
「もちろん敵としてな」(カイネ)

 

「ンフフ。ここに至るまでに、けっこうかかりましたねェ」(王騎)

 

「龐煖、あなたも待ちわびたでしょォ?」
「五日……いや、九年」(王騎)

 

「決着をつけるとしましょうか」(王騎)

 

「(本陣への攻撃?) 決まっているでしょォ?」
「私ですよ」(王騎)

 

「気付きませんょ」
「現にあなた方も気付いていないでしょう?」(李牧)

 

「大丈夫ですよ、お二方」
「この戦は必ず勝てます」(李牧)

 

「どこのどなたか知りませんが、面白いしかけです」
「しかし少々、つめが甘かったようですねェ」(王騎)

 

「私がその気になれば、趙荘軍など瞬殺ですよ」(王騎)

 

「”手段”など小事」
「在るのは武神の証明、ただ一つ」(龐煖)

 

「王騎。貴様をここで殺して、我が武神たるを天にさし示す」(龐煖)

 

「それでは私もここで…」
「あなたを殺して過去のしがらみと訣別することを宣言しましょうか」(王騎)

 

「意外と軽いんですねェ、龐煖さん」(王騎)

 

「出し惜しみは無用、王騎」
「まだまだこんなものではないはずだ」(龐煖)

 

「身に受けた傷の痛みは刻(とき)と共に消え去る」
「だが魂魄に受けた傷の痛みは消え去ることはない」
「何年経とうとも」(龐煖)

 

「王騎、お前も同じはずだ」
「だからお前もここにいる」(龐煖)

 

「怒りは力、お前も思い出せ」
「九年前の奴の死に様を…」(龐煖)

 

「安心なさい、龐煖」
「あなたと同様、私の心の傷も癒えていませんよォ」(王騎)

 

16巻

「無骨な頑固じィは勝手にきっちり働くので楽チンです」(摎)

 

「私も同感です。あなた(昌文君)が摎の側にいれば安心できます」
「無骨な賢人は信頼できるというわけです」(王騎)

 

「…よく頑張ったの、摎よ…」
「王騎同様…お前も儂の宝だ」(昭王)

 

「怒りや悲しみはないよ」
「だって本当はすぐに殺されてた命だもんね」
「こうして生きてるだけで感謝だよ」(摎)

 

「(痩せ我慢?) ……うん、嘘。本当はすごく悲しい」(摎)

 

「剣は置かない」
「天下の大将軍になる!」(摎)

 

「私の戦う理由はね、本当にたわいもない、子供の約束なんだ」(摎)

 

「王騎様は天下の大将軍になって、お城をたくさんとるのですか」
「それでは摎も大将軍になります」(摎)

 

「そしてお城を百個とったら、摎を王騎様の妻にして下さい」(摎)

 

「私の居場所は戦場(ここ)だよ、じィ」
「仲間もいっぱいいる」
「それにこれからは父も見てくれる」(摎)

 

「私はやるぞ」(摎)

 

「摎、いよいよ最後の一つですね」(王騎)

 

「憶えていて下さったんだ…しかも数まで…」
「うん、そうなの。次の馬陽で百個目なんだ」(摎)

 

「天の畏るる者は地上に唯一人、我だけだ」(龐煖)

 

「なぜだ、なぜ敗れた…」
「先の戦いの傷のせいか……違う」
「傷など関係ない…あの男の方が上だったのだ……」(龐煖)

 

「我が武が及ばなかったのだっ、我が武が」(龐煖)

 

「来い、王騎」
「今の貴様を砕くために我は来た」(龐煖)

 

「傷を癒し、元の身体に戻るのに三年」
「そこから再び深山で修練を六年積んだ」
「そして李牧という男の使者が現れた」(龐煖)

 

「話に乗ったのは、この男など足元にも及ばぬ極みに達した自負があったからだ」
「およそ人の到達できぬ武の極みに」(龐煖)

 

「だがなぜに…この男の刃ははじき返すことがかなわぬ程に」
「こうも重い!!」
「この男のどこにこんな力が」(龐煖)

 

「武将とはやっかいなものなのですよ」(王騎)

 

「……十三の頃より数えきれぬほどの戦場を駆け回り」
「数万の戦友(とも)を失い、数十万の敵を葬ってきました」(王騎)

 

「命の火と共に消えた彼らの思いが、全てこの双肩に重く宿っているのですよ」
「もちろん、摎の思いもです」(王騎)

 

「山で一人でこもっているあなたには理解できないことでしょうねェ」(王騎)

 

「語るに足らぬ」
「いつの時代も、お前達は同じ思い違いをしている」(龐煖)

 

「死人の思いを継ぐなど、残されたお前達の勝手な夢想」
「人は死ねば土くれと化す」(龐煖)

 

「敗者は地に落ち、勝者は天に近づく」
「在る理(ことわり)は、ただそれだけだ」(龐煖)

 

「奴らは強さを求めるために、あらゆる欲求を斬り捨てている」
「そんな人間に勝てる者などいないと思っていたが…」(羌瘣)

 

「なぜ王騎将軍はあれほどに強いのだ…」(羌瘣)

 

「敗れた理由は、あの世で摎に教えてもらいなさい」(王騎)

 

「国を代表する大将軍の首というのは」
「その国の軍事の象徴ですからね」(李牧)

 

「それを失わば秦の武威は失落し」
「逆に趙の武威は列国の脅威となります」(李牧)

 

「これほどの死地に落とし込まれたのは二十年ぶりくらいですか」(王騎)

 

「ココココ。久しぶりですよォ、この感じ」
「本当に久しぶりに、血が沸き立ちます」(王騎)

 

「我、正に、死線に在り」(王騎)

 

「策がなければ力技です」(王騎)

 

「皆、ただの獣と化して戦いなさい」
「いいですか、ここからが王騎軍の真骨頂です」(王騎)

 

「この死地に力ずくで活路をこじあけます」
「皆の背には、常にこの王騎がついてますよ」(王騎)

 

「さすがです、龐煖」
「しかしその消耗した体では、私は倒せませんよ」(王騎)

 

「龐煖…幕です!!」(王騎)

 

「水をさされた……だから戦などはつまらぬと言うのだ」
「だがこれがお前の土俵だ、文句は言わせぬ」(龐煖)

 

「お前の負けだ、王騎」(龐煖)

 

「武器を落とすとは何事ですか」
「たとえ何が起ころうと、死んでも諦めぬことが王騎軍の誇りだったはずですよ」(王騎)

 

「将軍とは、百将や千人将らと同じく役職・階級の名称にすぎません」
「しかし、そこにたどりつける人間はほんの一握り」(王騎)

 

「数多(あまた)の死地を越え、数多の功を挙げた者だけが達せる場所です」
「結果、将軍が手にするのは千万の人間の命を束ね戦う責任と絶大な栄誉」(王騎)

 

「故にその存在は重く、故にまばゆい程に光輝く」(王騎)

 

「(何者?) ンフフフ、決まっているでしょォ」
「天下の大将軍ですよ」(王騎)

 

「王騎が死ぬと分かっていても、それを脱出させるために全員必死ですね」(カイネ)
「……亡骸を趙が手にすれば、辱めの限りを尽くすことは分かりきっていますからね」(李牧)

 

「……今の秦軍が一番怖いかも知れませんね」
「逆の立場なら、私達も死など惜しまず鬼となって戦います」(カイネ)

 

「胸の奥が痛いですね、だから戦は嫌いです」
「しかし、感傷的になって道を開けてやるわけにはいきません」(李牧)

 

「凰は正に将軍の馬です」
「あなたは今、この戦場の中で将軍の馬に乗って走っているのです」(王騎)

 

「理解したらゆっくり目を開き、目にするものをよォく見てみなさい」
「敵の群を、敵の顔を、そして味方の顔を、天と地を」(王騎)

 

「これが、将軍の見る景色です」(王騎)

 

「亡骸を辱めるより」
「これ以上味方に犠牲を出させぬことの方が大事ではないのか!」(李牧)

 

「この戦の目的は秦の侵攻でもなく、王騎軍の壊滅でもありません」
「目的は王騎の死」(李牧)

 

「これが達せられた今、これ以上血を流すことに全く意味はない」
「無意味な死だけは絶対に許しません」(李牧)

 

「戦はここまでです」(李牧)

 

「いつの時代も、最強と称された武将達はさらなる強者の出現で敗れます」(王騎)

 

「しかし、それもまた次に台頭してくる武将に討ち取られて」
「時代の舵を渡すでしょう」(王騎)

 

「果てなき漢(おとこ)共の命がけの戦い」
「ンフフフ、全く」
「これだから乱世は面白い」(王騎)

 

「…死んだのは王騎だが、勝ったという手応えはない」(龐煖)

 

「戦に慈悲は無用なれど、奪い取った地にある民は奴隷に非ず」
「虐げることなく、自国の民として同様に愛を注ぐこと」
「──以上が昭王より承っていた、現秦王への遺言です」(王騎)

 

「遺言は昭王の意志を継ぐ資質のある秦王にのみ残されたものです」
「私が仕えるに値すると思う王にのみ伝えよと」(王騎)

 

「共に中華を目指しましょう、大王」(王騎)

 

山陽平定編

17巻

「行かぬも命がけです」
「──それに…これは咸陽と呂不韋という人間をこの目で見るいい機会です」(李牧)

 

「…儂は韓の陽翟に生まれ、一介の商人から始まりここまで登って来た」
「品を定める目は確かだ…」(呂不韋)

 

「さてさて、李牧はどんな男かのォ」(呂不韋)

 

「丞相の本意は私にも分からぬ」
「だが準備はしておけとのことだ」(昌平君)

 

「二人には会見の間の衛兵にまぎれ込んでもらう」
「そして私の合図があった時──李牧を斬るのだ」(昌平君)

 

「断る。そんな卑怯でクソみてェなマネ、誰がするか」
「そんなんで奴を殺しちまったら、王騎将軍に合わせる顔がねェだろうが」(信)

 

「子供じみた感情は捨て去れ」
「奇妙な形ではあるが、こうなってはもはやこれは戦だ」(昌平君)

 

「ではそろそろ本題に入ろうか」
「やはり李牧殿にはここで死んでもらう」(呂不韋)

 

「貴殿に限って、これが不測の事態ということはなかろう」
「さァ、天才李牧はどうやってこの死地を切り抜けるつもりかのォ」(呂不韋)

 

「もちろん無策に、ここへとびこんでくるほど度胸はありません」
「我々が無事に帰れるよう、私は手土産を持参しました」(李牧)

 

「ええ、秦趙の間で同盟を結ぶということです」(李牧)

 

「場をわきまえぬか、下郎が」
「これは茶番ではないぞ」(呂不韋)

 

「そなた達(王騎配下)の気持ちは十分分かるが」
「今この場は武人の出る幕ではない」(呂不韋)

 

「(同盟は)断る」(呂不韋)

 

「同盟を持って来た李牧殿はさすがとしか言いようがない」
「今この時期に趙と盟を結ぶことは、国に大きな利益を生む」(呂不韋)

 

「しかし、これを持って来た李牧という人間」
「やはり間違いなくそなたは趙国の唯一無二の宝だ」(呂不韋)

 

「その李牧殿の首と今回の同盟の話の値踏みをしてみたところ──」
「ほんのわずかだが、そなたの首の方が値が張ると儂は見た」(呂不韋)

 

「だが本当にごくわずかだ」
「それ故に交渉の余地はある」(呂不韋)

 

「では李牧殿、城を一つおまけしてくれぬか」(呂不韋)

 

「言っておくが李牧殿」
「儂はこれまで商談で一度口にした値からは、ビタ一文まけたことがない男だぞ」(呂不韋)

 

「残念ながら……値切れる気が全くしません」(李牧)

 

「酒が尽きた、帰るぞ」(蒙武)

 

「ひょっとして飛信隊の信ですか?」
「……知らないはずないでしょう」
「趙将・馮忌を討った特殊部隊とその隊長の名を…」(李牧)

 

「…なるほど、だったら先程の目つきの悪さは理解できます」
「私を死ぬほど殺したいということですよ」
「王騎将軍の仇ですからね」(李牧)

 

「残念でしたね、今回私がここで死ぬことがなくて」(李牧)

 

「俺はでかくなるぞ」
「だからいいか、李牧。この顔とこの言葉をしっかり頭にたたきこんどけ」
「お前をぶっ倒すのは、この飛信隊の信だってな」(信)

 

「しかし私を倒すのは至難の業ですよ」
「それこそ王騎将軍を超える男にならねば無理です」(李牧)

 

「(カイネ) 無事に帰れるんだってね、よかった」
「敵でも一緒に飯食って寝泊まりした奴には死んでほしくねーの!」(河了貂)

 

「そう見えたのなら成功だ」
「あれはあえて愚者を演じた」(嬴政)

 

「何も気にすることはないだろ、貂」
「俺は成蟜の反乱で共に死線を超えた絆は、そう容易く切れはしないと思っている」(嬴政)

 

「俺に残された猶予は五年しかない」(嬴政)

 

「呂不韋は必ずそれ(加冠の儀)までにこちらを潰しに来る」
「俺はそれをはね返し、五年後に奴から実権を奪い取る」(嬴政)

 

「これは遊びじゃねェんだ」
「十年待ってくれって言って相手が待つかよ」
「向こうが五年で決めに来るっつーなら、そこが勝負だ」(信)

 

「やれるかどうかじゃねェ! やるんだよ!!」(信)

 

「では信、お前の方はどうだ?」
「五年で将軍になれるか?」(嬴政)

 

「なれれば五年後、俺の最初の号令で出陣する将軍はお前だ、信」(嬴政)

 

「……ほう、驚いたな」
「我々の他にも本陣を狙う者がいたとは」
「しかし残念だが一足遅かったな」(王賁)

 

「……そもそも一般歩兵の君達が特殊部隊をやっていること自体、大きな勘違い」
「戦場において君達の正しい存在価値は”蟻”であることだぞ」(王賁)

 

「軍の基礎力は君達であり、その存在無しに戦はできない」
「ただし蟻は蟻」(王賁)

 

「独立遊軍など高度なことは我らに任せて、君達は本来の持ち場で力を尽くせ」
「分をわきまえぬ夢を見ると不幸になるぞ」(王賁)

 

「路傍の雑草の如き君が、そこ(将軍)に入り込む余地など微塵もないぞ」
「君はよくて千人止まりだ」(王賁)

 

「正直ずっと目障りだった」
「こういう輩には、きっちり示しておく必要がある」
「力の差を、身分の差を」(王賁)

 

「飛信隊隊長、憶えておけ」
「我が名は王賁」(王賁)

 

「ああ、お前の大好きなあの王騎の一族」
「分家の王騎と違い、王一族の総本家を継ぐ王賁だ!」(王賁)

 

「夏の末喜、商の妲己、周の褒姒」
「三人とも大后ではなく王妃ではあったが」
「この三人が朝廷に悪影響を与えたことで三王朝とも滅んだといわれている」(昌文君)

 

「政(まつりごと)の素人である女人が朝廷にからむと凶事が起こる」(昌文君)

 

「(味方に?) 儂は反対だ!」
「大后様は猛毒です」(昌文君)

 

18巻

「(後戻りは出来ない?) 後宮(ここ)まで乗り込んで来て、踵を返すつもりはありませぬ」(呂不韋)

 

「”邯鄲の宝石”──彼女を知る貴人達は」
「その娘を手に入れようと列をなしてやっきになった」(呂不韋)

 

「清純と気品に満ちた美貌を持つ絶世の美女は」
「”美姫”という愛称で皆に愛された──」(呂不韋)

 

「もはや面影すら残っておらぬ…」
「全て儂の仕打ちのせいか…」(呂不韋)

 

「やはりこの女…深入りは危ないのォ…」(呂不韋)

 

「涙をふけ、陽」
「向を助けに行くぞ」(嬴政)

 

「……よく教えてくれた、向」
「俺はお前のおかげで命拾いしたやもしれぬ」(嬴政)

 

「俺は邯鄲を出た時に変わった」
「迷いなく信を置ける戦友(仲間)がいる」(嬴政)

 

「今さらあなたの行う事柄に、心揺れることはない」(嬴政)

 

「無理をしてないと言えば嘘だ」
「あんな母でも、一応血を分けた親だからな」(嬴政)

 

「だが、それがどうした」
「俺達は戦争をやっているんだ」(嬴政)

 

「”戦るからには絶対に勝たねばならん”」
「俺達はすでに多くの者を失った」
「今さらひるむ俺ではない」(嬴政)

 

「思いの外、早く奴と正面から向き合うことになった…」
「もはや後には退けぬ」
「この攻勢で一気に呂不韋をたたき落とす!!」(嬴政)

 

「賭けに危機的代償はつきものだ」
「凡人の目に勝ち目薄く、負ければ全てを失する大博打であればこそ」
「得るものは大きいのだ」(呂不韋)

 

「奇貨居くべし」
「あの賭けに出たから今の儂がある」
「あれに比べれば気楽なものよ」(呂不韋)

 

「しがない一介の商人だった儂が一国の主に…」
「受けて立とうぞ」
「いついかなる時も賭けに勝つのは、この儂だからな」(呂不韋)

 

「これから始まる戦いは、今まで小競り合いをやってきた前線はもとより」
「昨年の趙戦より規模の大きい正真正銘の大戦だ」(王賁)

 

「その中で蟻があまり背伸びすると、全員死ぬぞ」(王賁)

 

「(何者?) だから楽華隊の蒙恬だってば」
「俺も君や王賁と同じく、『天下の大将軍』を目指す者さ」(蒙恬)

 

「なっ、何だこりゃあ!!」
「こ…これが実戦で見る城壁」(信)

 

「いざ真下まで来てみっと…すげェ迫力だぞ」
「……つか、こんなもんどこをどう攻めりゃいいんだ!?」(信)

 

「若者は血気盛んでほほえましぃのォ」
「あまり無茶しすぎて、命を落とさねばよいがのォ」(蒙驁)

 

「初めから……お前の首など眼中にない」(王賁)

 

「剣の才を持つ者が剣をふるうのは卑怯じゃないように」
「俺は井闌車(せいらんしゃ)を持っていたから使っただけだ」(王賁)

 

「妙な難クセをつけるな」
「生まれの良さも才能の一つだ」(王賁)

 

「俺だって分かってる…戦がきれいごとじゃねェことくらい…」
「だけど、だからって…こんなクソ共の暴行を黙って見過ごせるかよ」(信)

 

「やめろ、信!」
「分かってるだろうが、千人将なんか斬ればお前は全てを失うぞ」
「全てをだ」(蒙恬)

 

「信…お前の大将軍への思いはそんなものか」(蒙恬)

 

「俺はてめェみたいな現実現実つって、クソみてェなことまで正当化する奴が」
「一番ムカつくんだよ」(信)

 

「みんなやってるからなんて、何の言い訳にもなってねェ!!」
「外道は外道だ!!」(信)

 

「飛信隊の信はどんな理由があろうと、クソヤロォは絶対許さねェ!!」
「相手が千人将だろうが将軍だろうが王様だろうが関係ねェ!!」(信)

 

「それがこれまでもこれからも、ずっと変わることのねェ俺の戦り方だ!!」(信)

 

「処罰が怖ェからって、こんな状況を見て見ぬふりなんざして」
「何が天下の大将軍だ!!」(信)

 

「俺はお前と違って、祖父や父の威光を利用することに何ら抵抗ないからね」
「この位、強引に事を収めるのは簡単簡単」(蒙恬)

 

「一人二人暴走する千人将を斬ったところで何も変わらぬ」
「本気で変えたいなら自分が軍の頂上に立つしかない」(王賁)

 

「悼襄王(あれ)はダメじゃ」
「前の王も相当じゃったが、今度はたまらぬ」(廉頗)

 

「バカの下で働くほど、バカなことはないぞ」(廉頗)

 

「(趙国への思い?) 戦への思いの方がはるかに重い!」
「戦が廉頗の全てだ」(廉頗)

 

「楽乗。うぬの戦、なかなかよかったぞ」
「この儂がヒヤリとする場面が何度かあった」(廉頗)

 

「まァそれでもしかし、秦のあ奴らに比べれば腹六分目と言ったところだがのォ」
「やはり奴らの消えた戦場は淋しいということか」(廉頗)

 

「るせェ。ちんけな誇りなんて持ち合わせてねェのが、俺らの誇りだ!」(信)

 

19巻

「輪虎は己の力量を見誤らない」
「奴が三百と言えば三百で間違いない」(廉頗)

 

「一度、儂の手から放たれたあ奴は、もはや誰にも止められぬわィ」(廉頗)

 

「……変だな。この僕の殺気にもひるまずに、剣もかわされた」
「僕の腕が落ちたのか…それとも君がとっても強いのか」(輪虎)

 

「(リストに)載ってないね。飛信隊・信ってのは」
「だったら無理に殺すこともないか」
「はは、命拾いしたね、君」(輪虎)

 

「秦軍にもこんな若い芽が出てきてるのか」
「殿だったら成長が楽しみだとか言いそうだけど、あいにく僕にそんな趣味はない」(輪虎)

 

「悪いが目につく将は、根こそぎ狩らせてもらうよ」(輪虎)

 

「いくら才能や実力があっても”幸運”という天の働きがないと」
「武将なんて道半ばで命を落とすよ」(輪虎)

 

「そして本当に天に寵愛される武将は一握り」(輪虎)

 

「見逃してやるのは一度だけだ」
「次にもしどこかで出会えば、その時は必ず命をもらう」(輪虎)

 

「常人には理解しがたいか?」
「それまで何十万もの兵を動員して戦ってきた大将軍同士が」
「一つの部屋で酒を酌み交わすなど」(廉頗)

 

「刎頚の契りを交わした藺相如を”兄弟”とするなら」
「王騎ら六将は死ぬほど憎らしい最大の敵でありならが──」(廉頗)

 

「どこかで苦しみと喜びを分かち合っている”友”であった」(廉頗)

 

「だから六将筆頭の白起が自害した時は涙を流し」
「摎がどこぞの馬の骨に討たれた時は怒りに震えた」(廉頗)

 

「だってそれは、この期に及んでじーさんに一発逆転の好機が生まれたって話だろ!」
「ケンカってのは、最後に立ってた奴の勝ちだ」(信)

 

「次勝って、勝ち逃げしてやれよ」
「そうすりゃ、じーさんの総勝ちだ!」(信)

 

「だから言ってるだろう、そんなの悩む所じゃねェって」
「失敗が怖ェから後ずさりする奴は、最初から家で閉じ籠もってりゃいいんだ」(信)

 

「飛信隊、信が狙うのは総大将廉頗の首だ!!」(信)

 

「飛信隊(ここ)では士族も百姓も関係ねェ、古参も新参も関係ねェ」
「みんな色んなもんしょい込むだけしょい込んで戦えばいい」(信)

 

「俺たちはそうして一つのでっけェ塊になって、敵をぶっ飛ばす」(信)

 

「(最初のあいさつ?) 楽勝」
「だってお坊ちゃんだからね、黙っててもみーんな頭下げる」(蒙恬)

 

「臨時的ではあるが、この戦じゃ紛れもなく千人将だ」
「さすがに千人も兵を抱えると、武将の仲間入りしたって感じがするな」(蒙恬)

 

「千人隊は──もはや戦局を変えることができる軍隊だ」(王賁)

 

「お前には分からんだろが、名家に生まれた重責ってのもあるんだよ」
「特に、偉大すぎる父親を持ってしまうとな」(蒙恬)

 

「十中八九、魏軍の勝ちです」
「何しろ今でもあの方(廉頗)に正面から勝てる武将は」
「私を含めて天下に一人もいませんからね」(李牧)

 

「同規模の軍では、あの廉頗に勝てはせぬ」
「総司令は廉頗の恐ろしさが分かっていない」(昌文君)

 

「多少の無理は承知の上だ。趙との同盟が在る今しかない」
「秦が本気で中華を狙うのなら、何としてもこの戦で山陽をとらねばならん」(昌平君)

 

「私は地に足がついていない、だからお前達みたいに前に進めていない」
「それはやっぱり、象姉の仇を討ってないからだ」(羌瘣)

 

「何か月…何年かかるか分からないけど、きっちり仇を討つ」(羌瘣)

 

「そしてそれが終わってまた帰ってきたら」
「その時は私もちゃんとお前達と一緒に前に進めると思う」(羌瘣)

 

「久しぶりじゃのォ、廉頗…もう腹はくくったぞィ」
「最後に笑うのは、この儂じゃ」(蒙驁)

 

「加入組も精兵ではあったが、玉鳳三百人との力の差があることは分かっていた…」
「──がしかし、共に戦うことがこれほど枷になるとは…」(王賁)

 

「統率された隊とそうでない隊は、しばらく見てればすぐに分かる」
「もちろん前者は強く、後者は弱い」(輪虎)

 

「そしてそれは将狩りで急造隊を作らせた僕の功績ということで」
「命はもらうよ、新造千人将君」(輪虎)

 

「一騎討ちか」
「興味ないな。みんなさっさと終わらすよ」(輪虎)

 

「関係ない」
「兵がいかに強かろうと、隊長の貴様を討てば隊は崩れ」
「それで終わりだ」(王賁)

 

「知ってたかい?」
「大技の直後は必ずスキが生じるって」(輪虎)

 

「(援軍は)必要ない」
「不完全な軍を何度送ろうと、同じことの繰り返しよ」(廉頗)

 

「俺達は腕っぷしには自信あるが、頭使うのはあんま得意じゃねェ」
「いきなり連携技とかやろうとしても無理だ…本番じゃきっと大失敗する」(信)

 

「それよりも逆に個別に戦った方がまだましだ」(信)

 

20巻

「歯ごたえ、無しじゃな」
「全く…どこの国もバカばっかじゃ」(玄峰)

 

「つまらぬ」
「少しは脳みそのある奴はおらんのかィ」(玄峰)

 

「他に代え難い”快感”が戦にはある」
「軍略家にとってのそれは、己の脳一つで万人の戦いを操作し」
「一方的に敵を殺戮することじゃ」(玄峰)

 

「楚水、お前言ったよな」
「千人隊は…千人将は戦局を覆すことができる存在だって」(信)

 

「今がその時だ!」
「俺達の手で、この緒戦を勝利に導くんだ!!」(信)

 

「思い知れ」
「勢いだけでは戦はままならぬことを」(玄峰)

 

「バカ言えっ」
「俺が先頭を行くからっ、皆が走れるんだろうが!!」(信)

 

「恥ずべきことだ」
「お前ら如きに遅れをとっていたとは」(王賁)

 

「まァ、どんな相手でも風穴あけて、敵将の首を狩るのが僕の役目だけどね」(輪虎)

 

「奴は本陣が見つからぬと想定して今の作戦を展開している」
「こういうのは探しても見つからぬ」(玄峰)

 

「地形とこちらの軍の配置、奴らの攻撃してる位置から読むのじゃ」(玄峰)

 

「軍略? 知るかよ」
「俺はただ相手が嫌がることをやるだけだ」(桓騎)

 

「それと昔から得意なんだよ」
「留守中にしのび込むのがな」(桓騎)

 

「(弟子にしてやる?) いるかよ、雑魚が」(桓騎)

 

「許せ玄峰、つまらぬ死に方をさせた──」
「戦場(ここ)で生ぬるいことは言えぬが」
「あれだけ共に死線を越えてきた汝(うぬ)を失うとは」(廉頗)

 

「だが寂しがることはないぞ、玄峰」
「すぐに秦兵の骸で、そっちを溢れかえしてやるからな」(廉頗)

 

「討たれたからにはヘマをした玄峰様が悪いんだけど」
「”気持ちは分かる”なんて軽々しく横から言われると、正直イラッとくるなァ」(輪虎)

 

「心配いらない。この夜で殿は新しい戦略を固められる」
「僕らはそれに従うだけだ」(輪虎)

 

「桓騎将軍の才は知っていたが、正直ここまで大仕事をやってのけるとは思ってなかった」
「…上を目指す俺達のすぐ上には、でっかい壁がいるって話さ」(蒙恬)

 

「明日、楽華・玉鳳・飛信隊の三隊で打って出て、輪虎を討ち取ろう」
「輪虎を止めるには先に仕掛けて殺すしかない」(蒙恬)

 

「楽華隊!」
「この隊の長所は気高く冷静な戦い方と、血みどろの泥臭い戦い方両方ができることだ」
「そして今日は後者だ」(蒙恬)

 

「知っての通りこういう乗りは好きじゃないが」
「やっぱり俺達にしかできないことが今、目の前にある」(蒙恬)

 

「今日はひどい”死闘”になるぞ」
「悪いが宜しく頼むよ、みんな」(蒙恬)

 

「廉頗が出てきて、この魏攻略の最終戦は大きく意味が変わってきた」(蒙恬)

 

「俺達は今、あの廉頗と戦っている」
「廉頗が出てきたことで」
「この一戦は中華全土が固唾を呑んで注目するものになったんだ」(蒙恬)

 

「祖父である蒙驁の首をとられるわけにはいかない」
「こんな放蕩孫をいつも見守ってくれている、俺の大切なじィ様だからな」(蒙恬)

 

「いいぜ蒙恬、飛信隊はお前に乗っかってやる」
「いつまでも老兵達の時代じゃねェって、天下に教えてやらねェといけねェしな」(信)

 

「恬をまだ三百将に留めているのか」
「過保護は成長を妨げるぞ」(蒙武)

 

「……もう少し恬を信用してやれ」
「ナヨついたガキだが、あいつはそこらの千人将なんかより」
「はるかにものが見えている」(蒙武)

 

「恬を信じてやれ」
「死んだら死んだで、それまでの漢だったということだ」(蒙武)

 

「輪虎のような大物を討つには、攻めの組み立てが必要になる」
「輪虎を襲う時、必ず屈強な輪虎兵が大きな障壁となって立ち塞がる」(王賁)

 

「それを蒙恬は先に取り除こうとしているのだ」
「無論、容易なことではない」(王賁)

 

「だが、奴は自ら一番血を流すこのつぶれ役を買って出たんだ」(王賁)

 

「バカ、自己犠牲の聖者のつもりはないぞ」
「ただこの重要な役回りを、今の玉鳳も飛信隊もこなせっこない」(蒙恬)

 

「やれるのは楽華隊だけ、だからやる」
「全ては輪虎を討つために、俺達三隊でな」(蒙恬)

 

「今回の最大の痛手は、僕の私兵の大半を失ってしまったことだ」
「これは本番に向けて何か考えないといけなくなった」(輪虎)

 

「だけどそれだけだ、その他のことは別に大したことではない」
「敵に迫られたところで、僕が討たれることはないからね」(輪虎)

 

「今度は逃げてあげないよ」
「そっちの槍使い君も含めて君達は──相手の力量をきちんと推し量れていない」(輪虎)

 

「二人がかりでなら、この僕をどうこうできるとでも思ったのかい?」(輪虎)

 

「二人同時でもいいんだけど、少々効率よく戦らせてもらうよ」(輪虎)

 

「与し易そうな君は後回し」
「やはり先に叩いておくべきは、うるさそうなこっちの槍使い」(輪虎)

 

「力量読めてねェのはお前の方だ、輪虎」
「誰が一番強ェのか、きっちり教えてやるぜ」(信)

 

「俺か。俺は王騎将軍から矛と、その遺志を受け継いだ男」
「そしてその将軍らをも超える、歴代最強の大将軍になる男だ!!」(信)

 

「あんまり調子に乗らないでほしいな」
「君達の人生は今日ここで終わるんだから」(輪虎)

 

21巻

「…どうやら将軍ってな二種類いるみてェだ…」
「戦場内で自らも駒となる将軍と」
「敵味方から注目され、一人で戦局を動かしちまう将軍」(信)

 

「同じ将軍でもその二つの間には大きな”差”がある」(信)

 

「土門・栄備と王騎・廉頗の間には、でっけェ差があるんだ」
「輪虎もどっちかと言うと王騎将軍側で」(信)

 

「俺はそれよりもさらに上を目指してる」
「だから、こいつは俺が超えなきゃならねェ壁なんだ!!」(信)

 

「やってみなよ」
「廉頗の”飛槍”を、王騎の矛を受け取った男が砕けるかどうか」(輪虎)

 

「これだけの利を持つ地形はそうはない」
「捨てるにはあまりにも惜しいが…地に執着しすぎるのも、また愚将の条件か…」(壁)

 

「それら(五千)を率いる権限をそなたに授ける」
「壁、そなたはこれから五千の将となりて、魏将軍・姜燕を迎撃せよ!」(王翦)

 

「私の目に狂いはない」
「あ奴は、いい囮になる」(王翦)

 

「二人共、これが奇襲であることを忘れるなよ」
「そこは敵本陣のど真ん中だ」
「あまりモタつくと、ぶ厚い包囲に捕まり退路を失う」(蒙恬)

 

「もちろん輪虎の首が重要だが、退き際の判断だけは決して誤るなよ」(蒙恬)

 

「こいつらが強ェのは、単純に数をこなしたってだけじゃねェ…」
「多分戦いながら越えてきたんだ、何度も何度も」(信)

 

「そして俺も、もう少しで越えられそうな気がするんだ」
「限界って奴を!!」(信)

 

「間一髪防いだが…馬と左手を失った」(輪虎)

 

「不覚傷──…僕としたことが……」
「油断──少々たかをくくっていたか」(輪虎)

 

「──だけどそれだけじゃない」
「さっきの飛信隊・信は本当に強かった」(輪虎)

 

「崖上は全て制した」
「うぬの負けだ、姜燕」(王翦)

 

「敗軍の将には”死”を!」
「それが戦場の鉄則だ、姜燕」(王翦)

 

「……だが、私は慈悲深い」
「一つだけ助かる道をうぬに与えてやろう」(王翦)

 

「これよりこの私に仕えるのだ」
「私を主としてあがめ、忠を誓うならば」
「うぬの私兵も含めて全員命を助けてやろう」(王翦)

 

「私は本気で言っている」
「私の”領内(くに)”は、うぬのような戦の強い男を必要としているのだ」(王翦)

 

「悪いようにはせぬ、姜燕」
「…断るならばこれよりこの”囲地(いち)”が、血の湖と化すことになるぞ」(王翦)

 

「(八つ裂き?) ならん、生け捕りだ」(王翦)

 

「信じ難いことだ。相手の心理と戦局推移」
「わずかな手がかりを元に一体何手先まで読み解けばそうなるのか」(姜燕)

 

「もはや人の域を超えている」
「やはり怪物だな、あのお方は」(姜燕)

 

「やはり儂の読み通り動いたのォ、王翦」(廉頗)

 

「こちらの主軸が削られぬことだけ注意せよ」
「では全軍順次退却だ」(王翦)

 

「……悪いな、廉頗」
「私は”絶対に勝つ戦”以外、興味はない」(王翦)

 

「悠々と退がる王翦の姿がふと、白起を思い出させた」
「戦い方が似ているということは」
「近い世界が見えておるのやも知れぬということだ」(廉頗)

 

「己を第一とする武将は”信”が置けぬのだ」
「いかに戦が強かろうと、それでは人も貴様を英雄とは認めぬ」(廉頗)

 

「貴様は儂らとは違う道に立っている」
「あえて否定はせぬが興味も失せたわ」(廉頗)

 

「戦は大将を殺してなんぼ」
「できの悪い古き顔見知りに引導を渡しにいくかのォ」(廉頗)

 

「不思議とこの年になると分かるところがあるのじゃ」
「死力を尽くす戦いが近づいているとな」(蒙驁)

 

「今回狙うのは敵中央軍の後ろにいる大将・蒙驁の首だ」
「皆には死にもの狂いで働いてもらうよ」(輪虎)

 

「僕が昨日より弱まってるなんて勘違いしちゃダメだよ」(輪虎)

 

「片手が使えない戦いなんていくらでも通ってきたし──」
「それに何より今日はこの後”約束”があるんでね」(輪虎)

 

「うろたえることはない」
「奴の前ではいつでも儂は”敗者”だ」(蒙驁)

 

「廉頗よ、お主に負け続けた儂じゃ」
「こうなることも予想はしていた」(蒙驁)

 

「予想ができたということは、”対処”ができるということじゃ」(蒙驁)

 

「長年考えに考えを重ねた布陣じゃ」
「いつの日かお主と戦う羽目になった時、お主を討ち取るためにな」(蒙驁)

 

「さァて、行くぞ蒙驁」
「その首この手で叩き落としてくれる」(廉頗)

 

「強き武将が足をすくわれる時、そこには必ず”油断”があります」
「私などは戦う時、相手を油断させることに力を尽くします」(李牧)

 

「廉頗。儂は十分、知っておるのじゃ」
「お主がこの迷路の攻略図を脳裏に描ききり」
「それを狂いく実戦できる”天才”であることは」(蒙驁)

 

「よォく知っておる故に、儂はお主の賢しさを逆手に取る!!」(蒙驁)

 

22巻

「この砦は本当によく出来ているぞ」
「じゃが…四十年経っても儂の想像の枠を越えることはできなかったなァ、蒙驁ォ」(廉頗)

 

「儂との知恵比べとは百年早かったのォ」(廉頗)

 

「後ろで…本陣で何か起こってるのは分かるが、今はそんな所まで気を回せねェ」
「今……こいつから目をそらせば、即あの世行きだ」(信)

 

「無問題!」
「片足の(戦闘)状況もきっちりと漂と特訓済みだ」(信)

 

「死にはせぬ!」
「我らの隊長は、死にはせぬ!!」(渕)

 

「殿が…待っている、こんな所で負けられない」
「僕は…”天”の与えし”廉頗の剣”だからね」(輪虎)

 

「下らねェ」
「さっきから聞いてりゃ、それじゃまるで全部が天任せみてェじゃねェかよ」(信)

 

「そうじゃねェだろ」
「俺達はみんな、てめェの足で立って戦うんだ」(信)

 

「出会いが重要だってことは分かる…」(信)

 

「お前が廉頗に出会ったってんなら」
「俺だって廉頗以上の大将軍になるはずだった男に出会い」
「そいつと共に育った」(信)

 

「漂──俺に夢をくれたそいつは…早々と死んじまったが」
「代わりに…俺はまたとんでもねェ奴と出会った」(信)

 

「俺は関わった奴らの思いを背負って、前に進むだけだ」
「自分のこの足で」(信)

 

「輪虎、お前と戦ったこともでっけェ糧にしてな」(信)

 

「時代はやはり、次の戦乱の世へ移ろうとしています」
「ひょっとしたら殿が亡命し、前線から退いたあの時…」
「僕の役目は終わっていたのかも知れませんね」(輪虎)

 

「お前は、何度も死を覚悟したくれェやばい奴だったぜ、輪虎」(信)

 

「行くべきじゃない」
「この戦力と今の自分では、あれは止められない」(羌瘣)

 

「死ねば象姉の仇は討てなくなる」
「ゴメン、象ねえ。やっぱり今は、私は飛信隊の副長だ」(羌瘣)

 

「くそっ……私ってこんなバカだったか?」
「”気をつけるんだぞ瘣。バカの側にいるとバカが移る”」
「フッ、それだ」(羌瘣)

 

「……何だ、お前か」(羌瘣)

 

「信、離せ…バカが移る」(羌瘣)

 

「前後の挟撃のつもりが、結局片側だけで攻略できるとは…」
「つまらぬ……やはりこんな戦では燃え上がらんのォ」(廉頗)

 

「弱すぎる」
「そんな腕前で何かできると思ったか、蒙驁」(廉頗)

 

「腕前ではない」
「今の儂の武器は心じゃ」(蒙驁)

 

「紆余曲折した我が長き戦歴の総決算の場に立ち、ふとこうも感じておる」(蒙驁)

 

「四十年前、祖国斉を捨ててまで立身出世を求め、秦国で何とか大将軍に登りつめたのは」
「今この刻(とき)のためであったのかもとな」(蒙驁)

 

「どうじゃ、四十年の熱き思いのこもった一撃は大層重かろう」(蒙驁)

 

「廉頗。今のお主の中には儂の激情を受けきる程、熱きものは無かろうて」(蒙驁)

 

「廉頗。本当はお主自身、気付いておるのだろうが」
「黄金の刻(とき)は去ったと」(蒙驁)

 

「最強の敵・六将が去った刻、お主の火も消えたのじゃ」(蒙驁)

 

「あの時代、秦六将と趙三大天は互いに数百万の人間の血肉を握り固め」
「全身全霊をかけてそれをぶつけ合う戦いに明け暮れた」(廉頗)

 

「その相手を失い熱きものが無くなったとは言え」
「あの黄金の時代を戦い抜いたこの金剛の身体」
「うぬのしみったれた四十年の思いとやらで砕き飛ばせるとでも思ったのか」(廉頗)

 

「あまり”儂ら”をなめるなよ蒙驁」(廉頗)

 

「時代の流れなどクソくらえだ」
「強者は最後まで強者」
「老いようが、病に伏せようが、戦場に出たならば勝つのが鉄則」(廉頗)

 

「名乗る名は持ってる」
「飛信隊の信!」
「あんたの四天王輪虎をこの手で討ち取った、飛信隊の信だ!!」(信)

 

「時代は確実に次の舞台へと向かっておるのじゃ」
「じゃがそれは決して、決してあの時代を色あせさせるものではない!!」(蒙驁)

 

「もういいではありませんか、将軍」
「あの時代はもうあれで”完成”しているのですから」(王騎)

 

「時代の流れなど知ったことか」(廉頗)

 

「(王騎将軍の死に際?) その姿は、誰もがあこがれる天下の大将軍の姿」
「堂々たる英雄の姿そのものだった」(信)

 

「全く…どいつもこいつも自分勝手に先に行きおって…」(廉頗)

 

「オイ、白亀西。この戦で両軍合わせりゃ万の人間が死んでるぜ」
「お前が大将って言うんなら、少しは痛みを分かち合わねェとな」(桓騎)

 

「介子坊!!」
「止めじゃ、帰るぞ」
「儂らの負けじゃ」(廉頗)

 

23巻

「ムダじゃっ、この戦はもう詰んでおる」(廉頗)

 

「(勝者?) やかましい、命があるだけありがたいと思え」(廉頗)

 

「大将軍になるために必要なものは、百の”精神力”!!」
「そして百の腕力、さらに百の知恵」
「あと百の経験と百の幸運っ…」(廉頗)

 

「それら全てを兼ね備えた趙国三大天と秦六将はかつて…」
「正に完璧な時代を築き上げた」(廉頗)

 

「そんな儂らと貴様は本気で、肩を並べるようになれると思っておるのか!?」(廉頗)

 

「肩を並べるんじゃねェ!」
「俺はあんたらをぶち抜いて”史上最強”の天下の大将軍になるんだ!!」(信)

 

「じゃが実は一つだけ儂らを抜く方法が存在する」
「伝説の塗替えじゃ」(廉頗)

 

「”儂らでも成し得なかった大業”をやってのければ、歴史は必ず貴様らをあがめる」
「ああ、中華の統一じゃ」(廉頗)

 

「バカを言え。死ぬまで儂は現役じゃァ」(廉頗)

 

「”山陽”を取られたか…」
「ここから秦の出方次第では、天下は大きく荒れますよ…」(李牧)

 

「今の私はどういう顔で、お前達と別れればいいか分からない」(羌瘣)

 

「……昔はふつうに泣いたり笑ったりしてたんだが」
「象姉の首を抱きかかえた時に、何かが私の中で壊れた」」(羌瘣)

 

「仇を討ったら元に戻るといいとは思ってるが…」(羌瘣)

 

「そんな心のか弱いお前に一つ言っておきてェことはよォ」
「どれだけ離れようとお前の小っせェ背中、俺達がガッチリ支えてるからなってこった」(信)

 

「俺はただ大将軍になるだけじゃ足らなくなっちまったぜ、政」(信)

 

「どうやら俺とお前の道が一つに重なったみてぇなんだ」
「”中華統一”だ」(信)

 

「……言っとくが、今の飛信隊なら楽華隊三百人で皆殺しにできるぞ」(蒙恬)

 

「千人隊はもはや勢いだけで戦える規模じゃない」
「作戦を組み立てる人間が必要不可欠なんだ」(蒙恬)

 

「やっぱり驚いたか」
「正直こういう形でお前の前に現れるのはずっと先のことだと思ってたから」
「オレ自身もちょっと驚いてんだけど…」(河了貂)

 

「そんなことも言ってらんない状況みたいだからな」
「助けに来てやったぞ、信」(河了貂)

 

「信(あいつ)と会うのも一年以上ぶりか…」
「この一年で成長しちゃったから…さすがにもう…バレるよな……」(河了貂)

 

「あいつ、オレが女だと知ったらどんな顔するかな…」(河了貂)

 

「新参軍師がやっかみに遭うってのは十分知ってるよ」
「だけど今、そんなこと言ってる場合じゃないだろ」(河了貂)

 

「今まで通りやってちゃ取り返しのつかない事になるからオレが来たんだろ」(河了貂)

 

「(能力はある?) それじゃあとは…軍師としての”適性”があるかどうかだな」
「これがないとどんなに才能があっても、軍師として活躍することはできない」(蒙恬)

 

「軍師は必ず初陣でその”適性”を試される」
「まだ机上だけの策士である我々は、実際に戦場に降り立つ恐怖を知らない」(蒙毅)

 

「こちらを殺さんと敵が迫り来る中、冷静でいられるか」
「冷徹に人と人を殺し合わせることができるのか」(蒙毅)

 

「日頃軽々しく扱っているこの一駒に今は、数百人もの生の人間の命が宿っている」(蒙毅)

 

「想像の上をゆく実戦の恐怖に呑まれ」
「何もできずに潰れる軍師見習いは数多くいるんだ」(蒙毅)

 

「そうか…これが戦場の空気か。戦る前からこれかよ…呑まれるものか」
「オレが戦場(ここ)を呑んでやるんだ」(河了貂)

 

「”ぶ厚く守る敵本陣を破る手段”は主に二つある」
「しかし実戦で使われる手段のほとんどは結局のところ」
「武の力に頼った強行突破だ!」(蒙毅)

 

「そして敵本陣を討つ二つ目の手段、それは…」
「巧みな仕掛けで敵守備に穴をあけ、一撃必殺の奇襲攻撃を加える戦術だ!!」(蒙毅)

 

「脱出経路くらい確保しとくよ、最初っからね」(河了貂)

 

「(明日でいい?) そうはいかない」
「オレの小さな誤りで数十人単位で人が死んでしまうんだ」
「策を練り上げておくことに越したことはない」(河了貂)

 

「(死人の数は)しょい込むに決まってるだろ」
「オレは戦場で指示するとき」
「あらかじめどのくらい死ぬか分かってて送り出してんだぞ」(河了貂)

 

「仲間の死のつらさは軍師も兵士も変わんねェ」
「そのつらさを乗り越える一番いい方法を俺達は知ってる」
「みんなで共有して薄めて、バカさわぎして吹っ飛ばすのさ」(信)

 

「今は中華の戦を活性化させる刻(とき)だ」(昌平君)

 

24巻

「大木斬れども未だに”王騎の幻影”を斬れぬのであれば、答えは必ず”戦場”にある」(李牧)

 

「”先(ま)ず隗より始めよ”」
「それではまず、この郭隗を厚遇することから始めて下さい」
「そうすれば、私よりも才覚ある人材が必ず他国より集まってまいります」(郭隗)

 

「心配いりませんよ、これは単なる序章にすぎません」
「圧倒的力の差を示して勝ってみせます」(李牧)

 

「劣勢の時こそ、敵の姿を知る好機ととらえよ」(楽毅)

 

「貴様らのやっていることに興味はない」
「俺は”本物の戦”に飢えているだけだ」(龐煖)

 

「(中華十弓?) オイ、その言い方はやめろ」
「俺の矢は今、中華三位だ」(白麗)

 

「儂は丞相を卒業するぞ」(呂不韋)

 

「俺は純血ではない身でありながら、王座につく嬴政がヘドが出るほど許せぬが」
「それ以上に庶民の分際で権力の座にある、あの男の方がさらに我慢ならぬ」(成蟜)

 

「王族として王国の秩序を正すのは義務だ」
「あのタヌキを叩き落とすぞ」(成蟜)

 

「呂不韋が自ら相国となった暴挙を逆手にとり」
「俺達もこの機に”権力”を取りに行く」(嬴政)

 

「昌文君」
「お前が俺を援(たす)けるために文官へと転じてくれたことが」
「今こそ大きな意味を持つ」(嬴政)

 

「(過去の犠牲者は)道が途中で潰える方が浮かばれぬ」(嬴政)

 

「勝負の別れ目は結局、俺とお前のどっちが強いかだ」
「無論、俺だがな」(嬴政)

 

「ガマンしろ、栄誉のキズだ」
「オマエの頑張りが国を救ったんだからよ!」(信)

 

「同盟とは実は、相手に手を出させないことが目的ではありません」
「重要なのは同盟の先に何を得るか、何をするかです」(李牧)

 

「戦いで得るものが土地だけと思っている内は」
「あなたは私に一生勝てなどしませんよ」(李牧)

 

「こんな所でお前を殺せるか」
「お前は俺が正面から越えなきゃなんねェ壁だからな」(信)

 

「私が今この場で与えられる警告は、戦歴を重ねてきているあなた達でも実際のところ──」
「戦争の本当の恐ろしさは分かっていないということです」(李牧)

 

合従軍編

25巻

「(指令?) 両将はすでに城を出て走っておろう」
「防衛戦を抜かれることがどれほど危ういか」
「現場の将達が最もよく分かっておるわィ」(昌文君)

 

「しかし…間に合うかどうかは咸陽(ここ)からでは分からぬがな…」(昌文君)

 

「この南部防衛は一刻を争う状況だ」
「故に一刻かせぐは大きな利益を生む」(騰)

 

「間に合わなくてスマネェ」
「それに今はお前らを埋葬してやるヒマもねェ」(信)

 

「今はお前らみてェな犠牲を一人でも出さねェように、走らなくちゃなんねェんだ」
「分かってくれ」(信)

 

「その代わり、ぜってえ仇をとってやる」(信)

 

「(三国同時?) 止めねばならん、全軍を使ってな」(昌文君)

 

「六国が…手を組んだとでも…?」
「何じゃそれは…何じゃそれはァァ」(呂不韋)
「”合従軍”だ!!」(嬴政)

 

「(合従軍が)形となり戦になったのは一度だけだ」
「今からおよそ四十年前…当時東の超大国であった”斉”」
「その暴威を止めるべく、秦も含めた六国が立ち上がった」(昌文君)

 

「ああ…(結果は)即墨と莒の二城だけを残し、他の全ての土地を失った!」
「あの時初めて中華は、合従軍の破壊力の凄まじさを知ったのだ」(昌文君)

 

「(笑顔がない?) 合従軍を描いた張本人として」
「この先に起きることも分かっていますからね」(李牧)

 

「今は最短・最速で侵攻して秦中枢を麻痺させます」(李牧)

 

「突如六国に同時に攻められ、なおかつその侵攻の足が早まれば」
「秦の本営は必ず混乱の極みに達し、思考停止となります」(李牧)

 

「そうすれば、早々に片がつきますから」(李牧)

 

「こんなもの…どこから手をつければよいと言うのじゃ…」(昌文君)

 

「立て」
「お前らの目は節穴か…?」
「お前らの頭は飾りか?」(嬴政)

 

「この地図をちゃんと見ろ」
「今この瞬間、国のいたる所で何千何万の民の命が奪われようとしているのだぞ」(嬴政)

 

「起こっている事態の全容を知るのは、ここにいる我々だけだ」
「対処を講じられるのも我々だけだ」(嬴政)

 

「分かってるのか」
「今ここにいる三十人程が、秦国全国民の命運を握っているのだ」(嬴政)

 

「強大な敵にも目をそらすな」
「刻一刻と国がっ…民が陵辱されていっているんだ」
「全身全霊をかけて対策・打開策を模索しろ」(嬴政)

 

「合従軍だろうといいようにはさせぬ」
「戦うぞ!!」(嬴政)

 

「今ならまだ敵の合従軍に、楔を打ち込む手が一つあります」
「まだ秦国に侵入していない──斉を狙います」(昌平君)

 

「結局”戦争”など所詮、大金を手にするための”仕事”だろうがよ」(王建王)

 

「李牧は怪物だ、密会した時そう思った」
「王騎・劇辛という大物喰いはまぐれではない」(王建王)

 

「はっきり言って斉が抜けても大した戦力低下にはならぬ」
「李牧の合従軍に、秦は万に一つ程度しか勝ち目はないぞ」(王建王)

 

「”外交”のできる仕事はここまで」
「後は本国の者達を信じるだけです」(蔡沢)

 

「斉離脱の狙いは敵の戦力減少だけが目的ではありません」
「合従軍の背後に奴らが憂う存在を出現させること──」
「これが最大の狙いです」(昌平君)

 

「全軍止まれェィ!!」
「これより先は臭くてかなわん、引き返すぞ」(麃公)

 

「長く戦地を往来しておるが、こんな巨大な侵攻は初めてだ」
「下手をすれば秦という国が無くなるであろう」(麃公)

 

「全ては咸陽・本営の対応次第じゃが」
「しかしそのためには刻(とき)をかせいでやる必要がある」(麃公)

 

「ここでこの兵力で魏軍の足止めをはかるぞ」
「それが今は前線の漢達の役目じゃァ」(麃公)

 

「それにしても噂通り変わった敵だ、麃公軍とは」(呉鳳明)

 

「各軍の置き方、戦い方、まるであべこべで」
「どの兵法書でも禁とするものが平気で目につく」
「現に無意味なほど兵を死なせている」(呉鳳明)

 

「しかし代わりに要所要所では有り得ぬような勝ちをおさめて」
「その差を帳消しにしてくる」(呉鳳明)

 

「あれが本当に全て”勘”だと言うのなら、軍略家にとっては笑えぬ相手だ」
「父が討たれたのもうなずける」(呉鳳明)

 

「李牧殿、先にまずはっきりさせておきたい」
「此度の合従軍の起案者は貴殿だが、別に我々はそれに従属したわけではない」(呉鳳明)

 

「魏軍・趙軍は互いに同列」
「上官でもない貴殿に、この軍のことをとやかく言われる筋合いはない」(呉鳳明)

 

「(どこまでやる?) もちろん秦国が滅ぶまでです」(李牧)

 

「元々詰んでいる盤面」
「対する上策など存在しませぬ」(昌平君)

 

「あらゆる策で模擬戦を行ったが、いずれも百戦すれば全て咸陽まで落とされました」
「しかし…ようやくわずかに光明を感ずる策が一つ…」(昌平君)

 

「(模擬戦の結果は) 百戦中、秦軍二十勝、合従軍八十勝」(昌平君)

 

「(勝率は) 五つに……一つか…」
「──フム! 上出来だ」
「賭けとしては十分成立する」(呂不韋)

 

「今配置の軍はそのままで、将軍達を咸陽(ここ)へ召集して下さい」
「秦の抱える名だたる将軍全員です」(昌平君)

 

「知っての通り総数五十万からなる合従軍に侵攻され、秦は正に国家存亡の危機にある」
「合従軍は強力であり、これを防ぐには──」(昌平君)

 

「秦の抱える全戦力」
「つまり今ここにいる大将軍級の貴公らの力を集結して戦う必要がある」(昌平君)

 

「これは文字通りの”総力戦”であり」
「失敗すれば秦はこの中華から消え去るであろう」(昌平君)

 

「この合従軍の中には上も下もなく、各国の軍同士は横並び対等です」
「しかし、軍である以上はそれを束ねる者が必要不可欠です」(李牧)

 

「楚の宰相にして軍総司令・春申君に合従軍の総大将を務めて頂きます」(李牧)

 

「この戦を描くのは、最初から最後まで合従軍参謀を務める李牧だ」
「俺はお前らのケツを蹴って回る役についただけだ」(春申君)

 

「(一番血を流させる?) ……望む所だ」(蒙武)

 

「(出し抜かれた?) 俺の落ち度だ、弁明の余地もない」(昌平君)

 

「情報戦の敗北もある」
「だが、それ以上に俺がたかをくくっていたことが大きい」(昌平君)

 

「まさか”山陽攻略の真意”を見抜く者がいるとはな…」(昌平君)

 

「そのことに気付いたのは、恐らく中華で俺と李牧くらいであろう」(春申君)

 

「大国楚は多少のことではビクともせぬが」
「お前らが秦に糾合されればさすがにやっかいだ」(春申君)

 

「詰みの手をうってきたなら、その盤上を叩きつぶすのが一番だ」(春申君)

 

「(上層部の失態?) いや……これが”戦国”だろ」(信)

 

「俺は五千将を目指す」
「そうすれば、もうその上は──”将軍”だ」(王賁)

 

26巻

「春申君。あなが楚軍の大将・汗明に揺るがぬ信を置いておられるように」
「私も全幅の信頼を置いています」
「趙軍の指揮官・副将慶舎に」(李牧)

 

「麃公自身もあのぶ厚い李白軍を、ただの突撃だけで抜けるとは思っていない」(慶舎)

 

「あれは闇雲に討って出たように見えるが、実は”火”の起こし所を探しに来たのだ」
「いや、作りに来たと言った方が正しいか」(慶舎)

 

「下手に動けば奴の思惑通りに戦が運び出す」
「ああいう連中を相手にする場合」
「序盤ではその爪のひっかかる所を作らせぬことが賢明だ」(慶舎)

 

「そうすれば奴らは必ず混惑の色を表に出す」(慶舎)

 

「弱まっている部分を攻めるのが自然界の鉄則だ」
「どうした麃公、この戦場に火は起こったぞ」
「お前の足元にだがな」(慶舎)

 

「”沈黙の狩人”」
「本能型の武将で私が最も恐ろしいのは彼(慶舎)です」(李牧)

 

「静かに、聞こえるか?」
「身動きとれぬ麃公軍に情けなき万極の牙が喰い込み、その肉をはぎ取ってゆく音が」(慶舎)

 

「目と耳を集中しろ、今が一番いいところだ」(慶舎)

 

「ここが俺らの正念場なんだ」
「寄っかかるもんが必要なら、この飛信隊・信につかまって奮い立ちやがれ、麃公兵!!」(信)

 

「童・信よ」
「己で気付いておるまいが、貴様、本能型の武将の才が目覚めてきておるぞ」(麃公)

 

「…しかし、王騎の矛を受け取った男が本能型とは笑えるわィ」(麃公)

 

「戦場が大きく動き揺らいでおる」
「この今、儂の獲物は奥で縮こまっておる趙将に決まっておろうが」(麃公)

 

「……このっ、たわけ者共が」
「そんなもの(井闌車)が、この函谷関に届くと思ったのか」(張唐)

 

「何も分かっておらぬ」
「函谷関が何物かが分かっておらぬ」(張唐)

 

「おびただしい程の秦人の血と汗と…”命”を費やして積み上げられた」
「この”高さ”と! この”屈強”さ!」(張唐)

 

「中華に比肩するものは一つもない!」
「故に函谷関は作られてより百余年、一度も敵に抜かれたことがない」
「一度もだ!!」(張唐)

 

「その歴史を貴様らが超えられると思うか」
「この壁に手が届くとでも思っているのか」
「たわけた夢だ」(張唐)

 

「今も、この先百年も、秦の敵は唯一人としてここを通れぬ」
「それが秦国門・函谷関だ!」(張唐)

 

「それが届くんだよ」
「対函谷関のために俺が設計したのだからな」(呉鳳明)

 

「騒ぐな、薄らバカ共」
「仕方ねェな、遊んでやるか」(桓騎)

 

「魏には…秦に大きな借りがある」
「魏のなめた辛酸を今ここで、この鳳明が清算する!」(呉鳳明)

 

「沈むがいい函谷関、その不落の伝説と共に」(呉鳳明)

 

「ちょーっとばかり魏は、でけェもん作りすぎたんじゃねェのか?」
「てめェは、はしゃぎすぎなんだよ」(桓騎)

 

「迷うな兵共よ、この場に奇策は必要ない」
「たとえ敵に登られたとはいえ」
「ただの地上戦と思えば断崖際に敵を包囲したようなものだ」(張唐)

 

「我が軍の優位は変わらぬ」
「一人残らず地べたに叩き落としてやれィ」(張唐)

 

「本当はこれを言いに来たんだよ」
「どうかご武運を、父上」(蒙恬)

 

「俺が狙うのは、楚軍総大将の首だ」(蒙武)

 

「恬、武運を祈る」(蒙武)

 

「貴様が臨武君か」
「そのおかしな頭切り刻んで、あの世の同金に喰らわせてやる!!」(録嗚未)

 

「録嗚未一人でつぶせるほど、楚軍一軍は甘くない」
「その他の力が必要だ」(騰)

 

「量より質。”量”で劣る秦軍が勝つには、”質”で上回る必要がある」
「現場に点在する、部隊長達の質だ」(騰)

 

「将自ら入り乱れる戦場にあって凄腕の狙撃手は…必殺の動きをする」(蒙恬)

 

「録嗚未の援護のため、また先の戦いのために」
「この脅威は早めに取り除いておく必要がある!」(蒙恬)

 

「将軍級だと? 笑わせる」
「貴様らと楚では、”将軍”の意味が違うのだ」(臨武君)

 

「大国楚で将軍になることがどれ程のことか、貴様らは理解(わか)っておらぬ!」(臨武君)

 

「貴様らと楚では国土の広さが違うが故に、人の数が違う!」
「つまりは競い合う底辺の数が違うのだ」(臨武君)

 

「(自信?) そんなあやふやなものを口にする意味はない」
「それよりも確定的なことを言っておいてやろう」(騰)

 

「蒙武。我が主であった大将軍王騎の死は、お前を強くした」
「そして──私は元から強い」(騰)

 

「それが紛れもなき事実」
「この戦に関して言うことがあるとするなら、これだけだ」(騰)

 

「あの男(騰)の力など知るか」
「ただ分かっていることは──」
「奴は王騎が認めていた男だということだ」(蒙武)

 

「(何者?) 天下の大将軍だ!」(騰)

 

「その(王騎の)傘を支え続けることの凄さは考えぬのか」(騰)

 

「お前は修羅場をくぐってきた己の力に絶対の自信があるのだろうが」
「私には、中華をまたにかけた大将軍王騎を傍らで支え続けた自負がある」(騰)

 

「(天下の大将軍は楚将だけ?) それは違う、お前にそんな器はない」(騰)

 

「しかし強かったのは認めよう、これほど血を流したのは久しい」
「あの世で同金・鱗坊・録嗚未と酒でも飲むがいい」(騰)

 

27巻

「乱戦が長すぎる」
「もはや隊の形なんてなく、中でバラバラになって戦ってるのに間違いない…」(河了貂)

 

「突入するぞ、中で隊を立て直す」(河了貂)

 

「(長平?) 知るかよ、それは俺が生まれる前とかの話だ」(信)

 

「ここは戦場だ」
「戦いの最中に、ふざけたもん見せんじゃねェ!!」(信)

 

「オレがいない間にお前らが全滅なんてしたら、軍師になった意味がないだろうが」(河了貂)

 

「何が同じだ」
「長平はたとえ投降しようとそれは、寸前まで兵士だったんだ」(河了貂)

 

「それとお前がこれまで手にかけてきた人間が、同じだなんて絶対に言わせるか」(河了貂)

 

「無力な女子供まで殺してんじゃねェよ、このクソヤロォが」(河了貂)

 

「子供に何の罪がある、赤子に何の罪がある」
「まだ何も分からないで、ただ一方的に…命を奪われてっ…」(河了貂)

 

「お前は長平の復讐と称して、虐殺目的で戦争をしてる最低の異常者だ」(河了貂)

 

「俺も戦争孤児で万極ほどひねくれちゃいねェが」
「戦争は”あるもん”だって思って生きてきた」(信)

 

「それがどうこうなんて考えが及ぶもんでもねェって感じで生きてきたんだ」(信)

 

「この出口のねェ戦争の渦を解く答えを持ってる奴を」
「実はおれは知ってたんだってなァ」(信)

 

「そいつの答えはこうだ」
「境があるから内と外ができ、敵ができる」
「国境があるから国々ができ、戦いつづける」(信)

 

「だからあいつは国を一つにまとめるんだ」
「そして俺は、その金剛の剣だ」(信)

 

「てめェの痛みはしょってやる」
「だからお前はもう、楽になりやがれ!!」(信)

 

「俺は長平みてェなことは絶対にやらねェし!」
「絶対やらせねェ!!」(信)

 

「飲むぞ、小童ァ」
「夜は勝利の美酒に酔いしれる」
「これが戦人の醍醐味じゃァ」(麃公)

 

「戦は生き物じゃァ、始まってみねば分からぬわ」
「展望などあるかァ」(麃公)

 

「重要なのは一つ──」
「”火つけ役”が”火の起こし場所”に出現できるかどうかじゃ」(麃公)

 

「どこの戦場も同様だが」
「秦軍の今ある力だけで、この合従軍をはねのけるのは至難の業じゃ」(麃公)

 

「成すためには、”中”からの新しい力の台頭が不可欠じゃろう」(麃公)

 

「つまらぬ感傷に浸っている場合ではないぞ」
「今は国が生きるか死ぬかの瀬戸際じゃろ」
「この大戦(おおいくさ)で化けてみろ、童・信」(麃公)

 

「(第二将軍) …一言で言うなら、”性格に問題あり”といった所だ」
「それは無論、戦いの天才だからだ」(春申君)

 

「秦将なんてチンケなもの討つ作戦じゃありませんよ」
「函谷関を落とす作戦ですよ」(媧燐)

 

「全軍大いなる凡戦を連ねて十日後に函谷関を落とすべし」(媧燐)

 

「老将には老将にしか務まらぬ役目がある」(蒙驁)

 

「才能という面なら、王翦や倅の武がおる」
「彼らのそれは六将に決してひけをとらぬ」(蒙驁)

 

「じゃがあの二人では函谷関は守れぬよ」
「それはなぜか」
「”重み”が足りぬ」(蒙驁)

 

「親父達……か」
「極端に単純明快な蒙武と、何を考えてるかさっぱり分からん王翦」(蒙恬)

 

「どっちも困ったもんだよなァ」
「結果、子もひねくれるって…」(蒙恬)

 

「一緒にするな」
「お前の不真面目さは父親とのことに起因する」
「俺はお前みたいに逃げはしない」(王賁)

 

「待て、野盗」
「貴様に国を守る覚悟はあるか?」(張唐)

 

「この国をしょって立つ武将になる覚悟が、貴様にあるかと聞いている」
「野盗・桓騎」(張唐)

 

「恐らく長期戦に出ているのではない」(昌文君)

 

「全ての戦場で等しく秦軍(こちら)の弱体化をはかり、機を見て一気に全軍総攻撃をかける」
「長期戦ではなく、逆に最短の短期戦をしかける気だ」(昌文君)

 

「ここからでは(総攻撃が)いつとは申せません」
「しかし現場の鋭い人間達は、すでに感じ取っているはずです」(昌平君)

 

「…わざわざ集める必要もなかったようですね」
「ならば皆さんに伝える言葉は一つだけです」
「明日の夜は函谷関の上で祝杯をあげましょう!」(李牧)

 

「俺の号令に従い、全力で戦え」
「以上だ、解散」(蒙武)

 

「俺が全中華最強の男・蒙武だ!!」(蒙武)

 

「この俺を止める者など天下に存在せぬ」
「楚将・汗明よ、貴様の頭はこの蒙武自ら叩きつぶす」(蒙武)

 

「最強の男が率いる軍勢も最強だ」
「この蒙武軍は無敵である!!」(蒙武)

 

28巻

「私自身も蒙武の檄に乗せられているのだ!」
「乗せられたまま暴れてやるぞ!」(壁)

 

「この兵力差──何か工夫をせねばと考えたのなら、それは大きな誤りだ」
「不器用は不器用に戦うのが一番強い」(貝満)

 

「蒙武は誰よりも勝ちにこだわる男だ」
「俺は信じるぞ、我らの将を」(壁)

 

「戦ってのは始め方が大事なんだよ」
「そこでその将が何を大切にしているかが分かる」(媧燐)

 

「私の場合は、”華やかさ”と”恐怖”」
「そしてひとそえの”かわいらしさ”だ」(媧燐)

 

「(退げる? 援軍?) ……いや、どちらも必要ない」
「獣ごときに遅れをとる二人ではない」(騰)

 

「戦は人を魅了してなんぼだろ?」(媧燐)

 

「そういう意味では戦象さん達は、いい仕事をした」
「その大きさ、もの珍しさに敵は、はしゃぎにはしゃいだからな」(媧燐)

 

「だが、戦場でそれはとても恐ろしいことだ」(媧燐)

 

「なぜならおっかない奴ほど」
「一緒にはしゃいどいて、気付かれないうちに首に手を回す」(媧燐)

 

「つまりは、華やかな最初の演目が風に消えた時──」
「ほぼ詰みの布陣が姿を現すってわけさ」(媧燐)

 

「ここから畳み込まれる中で一つでも対処を誤れば」
「お前ら、昼のお日様は拝めないぜェ?」(媧燐)

 

「援軍は送らぬ」
「この劣勢配置の中、もはや全ては救えぬ」(騰)

 

「今は二軍を見殺しにしてでも、本陣の崩壊を防ぐ刻(とき)だ」(騰)

 

「(大抜擢?) いや、そんなことはない」
「客観的に見て今この状況下で戦えるのは、騰軍内では俺と王賁くらいだ」(蒙恬)

 

「(じィ) 無茶はよせよ」
「俺の子を抱くまでは死ねないんだろ」(蒙恬)

 

「作戦通りだ」
「ここを守る歩兵が主力だが、命運を握るのは我ら騎馬隊であること忘れるな」(蒙恬)

 

「これは長期戦になる、一騎の損失も軽く考えるな」
「騎馬隊(我々)こそが、この戦いの生命線だ!」(王賁)

 

「巨大井闌車に巨大床弩」
「色んな天才がいるものだな、天下には」(春申君)

 

「国を守る覚悟だと? クク、笑わせる」
「秦が滅びようがどうしようが、俺の知ったこっちゃねェんだよ」(桓騎)

 

「(なぜここにいる?) …そうだな」
「一言で言やァ…戦が抜群に強ェからだろ」(桓騎)

 

「武将だ何だと偉そうにしてるバカ共の何倍もなァ」(桓騎)

 

「函谷関(ここ)を守りきれるかどうかは」
「この俺の才覚にかかっているからな…」(桓騎)

 

「今はそれ所じゃねェ」
「あのでけェ弩の出現で、潮目が完全に向こうに行っちまっただろうが」(桓騎)

 

「笑えねェ流れだ」
「のまれたくなけりゃ、こっちも今すぐでけェ手が必要だ」(桓騎)

 

「身を切ってエサを差し出すから、でけェ魚が釣れんだろうが」(桓騎)

 

「心配すんな、雷土。全部上手くいく」(桓騎)

 

「齢(よわい)十五にして初陣を飾った」
「そこから五十年、矛と共に泥と血にまみれて戦場を渡り歩いて来た」(張唐)

 

「今では秦軍でも最長の戦歴を持つ老将の一人だ」
「我ながらわるくない道のりであった」(張唐)

 

「あとはどう儂なりの”花道”を飾るかだ」
「別にそれが戦場で死ぬのなら、それでも構わぬ」(張唐)

 

「だが……毒は…ない。毒はなかろうが」
「こんなもの武将の死に方ではないわァ」(張唐)

 

「何をさらしてくれとんじゃ、このゲス共がァ」(張唐)

 

「……下らぬ。毒は人を殺す効率化を求めた歴(れつき)とした”武器”だ」
「老いぼれの下らぬ武将論でそこを歪めるでないわ」(成恢)

 

「やはり分かっておらんな、成恢」
「いや、分かるはずがない」(張唐)

 

「貴様のように己で戦うこともなく、姑息な毒と戯れてきた男には」
「人の力がっ、武将の力が分かるものか」(張唐)

 

「このたわけがっ」
「大将が背を見せて逃げるなァ!!」(張唐)

 

「貴様は戦が楽しいのだ」
「己の力で戦に勝つ快感にはまっておる」(張唐)

 

「…そしてそれは…名武将の持つ気質そのものだ」(張唐)

 

「腹立たしいが才能も…ある」
「土下座などせぬが…儂と約束せィ」(張唐)

 

「秦国一の武将となれ、桓騎」
「秦を…頼むぞ」(張唐)

 

「寝言は死んで言えよ、ジジイ」(桓騎)

 

「戦況を見るということは自軍の余力を見ることも含む」
「そこを抜かすと味方を多く殺すぞ、愚か者」(麃公)

 

「もうこうなったら、これも”戦国の女の常”として腹をくくるしかないよ」
「私達は出来る限りの備えをしておいて、後は男達の勝利を祈るだけだよ」(陽)

 

「この愚か者が」(王翦)

 

29巻

「矢の残数を考えず射ちまくれ」
「敵は山岳族の寄せ集めだ」
「すでに統制はなく、退却には時間を要する」
「今が討ち刻(どき)だ」(王翦)

 

「ハゲの第一軍の中で一番見込みがあるのはお前だ」
「ガキだがここで男見せろよ」(媧燐)

 

「騰の首を挙げたなら、今晩寝所に呼んでやるよ」(媧燐)

 

「盛り上がって来たねー」
「さァて、私も久々に見せてやるかなァ」(媧燐)

 

「場所を変えるぞ」
「いーや、もっと面白そうな所へ行くんだよ」(媧燐)

 

「全て作戦通りだ」
「あいつのな」(蒙武)

 

「待たせたな、貴様ら」
「俺並に血の気の多い貴様らの出番が一番最後になった」
「だがその沈黙も、全て今この時のためとしれ!!」(蒙武)

 

「全軍、突撃だァ!!」(蒙武)

 

「力を示してみよ」
「この汗明本陣は、ただの一万ではないぞ」(汗明)

 

「蒙武よ、この策は後戻りがきかぬ」
「四万全軍を使いきって、お前を敵本陣に向かわせるからだ」
「失敗は許されぬ」(昌平君)

 

「溜め込んだ力を爆発させろ」
「何が何でもこの一撃で合従軍の武の象徴、楚軍総大将の首を獲るのだ!」(昌平君)

 

「いんや、このままでいい」
「何でも早けりゃいいってもんじゃないんだよ」(媧燐)

 

「媧燐の狙いは恐らく蒙武だ」
「隣の戦場が敗北すれば、今度は汗明軍がこっちに流れ込んで敗北する」(蒙恬)

 

「それに…父が死んだら……弟が悲しむからな」(蒙恬)

 

「奇遇だな、俺も中華最強の自負がある」
「貴様もそうだと言うのなら、決めねばなるまい」(汗明)

 

「中華の注目する今この地で、どちらが本物の漢かをな」(汗明)

 

「思ったより口数が多い男だ」
「どっちが本物かは決まっている、さっさと来い」(蒙武)

 

「その武器に剣ではさすがに刃が欠けそうだ」
「十数年ぶりだぞ、俺に”大錘”を持たせる者はな」(汗明)

 

「どうした、思ったより軽いではないか」(汗明)

 

「この汗明は失望はせぬ」
「もはや自分が最強であることを知っているからだ」(汗明)

 

「なぜならとっくに悟っていたからだ」
「この汗明は天の気まぐれで人の枠を越えて生まれ落ちた者」
「超越者であることを」(汗明)

 

「つまらぬ……か」
「俺は逆だ」(蒙武)

 

「汗明、俺は貴様ほどの強者と戦うのは初めてだ」
「故に高揚している」(蒙武)

 

「好敵手に出会えたなどと感傷的なことではない」
「俺がうれしいのは、ようやく、生まれて初めて」
「全力を引き出して戦う刻(とき)が来たからだ」(蒙武)

 

「汗明、貴様は超越者などではない」
「…ただ、昨日まで相手に恵まれていただけだ」(蒙武)

 

「大将同士の一騎討ちとは、単純な武力のぶつけ合いではないと言う」
「積み上げた武将としての”格”の力を双肩に宿して戦うそうだ」(仁凹)

 

「汗明様の双肩には中華の大将軍の力が宿る」
「武才が等しくても、一騎討ちで蒙武が汗明様に勝つことはない」(仁凹)

 

「蒙武」
「積み重ねた戦歴、大将軍としての”格”、それらが力となって双肩に宿るとするならば」
「汗明の武は今の中華で正に最強やも知れぬ」(昌平君)

 

「その時、お前であっても汗明は揺らがぬ山に見えるだろう」
「汗明はお前よりも強い」(昌平君)

 

「だが俺は信じている」
「それを打ち破るのが蒙武という漢だと」(昌平君)

 

「お前に理屈は必要ない」
「この一戦で天下に示せ、誰が最強の漢であるかを」(昌平君)

 

「汗明ェ!! 中華最強はこの俺だ!!」(蒙武)

 

「一騎討ちなんてバカな男の酔狂に付き合う気はない」(媧燐)

 

「死にはせぬ」
「この蒙武の倅だ、その程度で死にはせぬ」(蒙武)

 

「なーに、おっ死んでんだよ、あの大男は」
「これじゃあ、私の位が一つ上がっちまったじゃないかよ」(媧燐)

 

「しかし驚いたな…」
「私の他にも世に名の通っていない怪物がいたとはな」
「蒙武…」(媧燐)

 

「お気持ちは分かりますが、冷静になって下さい」
「敗戦の地ですぐに何かやろうとしても、ロクなことはありませんよ」(李牧)

 

「騰や蒙武の首がこの戦いの目的なら、最初から媧燐様はそうしてんだよ」
「この戦いの目的は函谷関の突破だ」(媧燐)

 

「裏を取るのが目的なら、秦軍を倒すのはその手段だ」
「手段は別に一つじゃねェだろ」(媧燐)

 

「お前らはみんな全っ然見えてねェんだよ」
「戦象さんから始まり、包囲し、私自ら打って出て、隣の戦場に赴いた」(媧燐)

 

「全部まやかし、全部ただの目くらましさ」
「本命は今頃もう、目的地に着いてるってお話さ」(媧燐)

 

30巻

「終わりだ」(媧燐)

 

「平(ひれ)伏せよ」
「函谷関も、春申君も、李牧も、全員まとめてこの媧燐様に平伏せェェ」(媧燐)

 

「(命拾い?) ああ、秦国全部がな」(桓騎)

 

「(戦う力がない?) いや、姿を見せて圧力をかけるだけで十分だ」(壁)

 

「我々は王翦将軍に救われた」
「将軍は”盾”の役目を果たしてくれたのだ」(昌文君)

 

「(休め?) オレはいいよ」
「みんなみたいに血を流して戦ってるわけじゃないんだから」
「これくれいどうってことない……」(河了貂)

 

「事態の深刻さを理解しているのか」
「これ程大がかりな戦争を仕掛けておいて、咸陽はおろか函谷関すら抜けずに手ぶらで帰ることになるとしたら、正に天下の笑い者だ」(呉鳳明)

 

「……史に愚将として名を刻むぞ」(呉鳳明)

 

「もはや我々に残された手は二つのみ」
「この軍力で咸陽を死守するか、南道という狭路に討って出て李牧を倒すか」(昌平君)

 

「(李牧の) やること全てに意味がある!」
「私と考え方が似てんな、あんにゃろー」(媧燐)

 

「咸陽守城戦に活路はない」
「この城に李牧軍を受け止める度量はない」(昌平君)

 

「無駄ですよ」
「この流れは単純そうに見えて複雑です」
「仕掛けている私以外に見切れる人は決していません」(李牧)

 

「いかに本能型と言うても、目印の旗から離れるくらいの小細工はするぞィ」(麃公)

 

「だがまァそれはそれとして、なかなか楽しい濁流であったぞォ」(麃公)

 

「貴様が”大炎”李牧か、思ったよりヒョロイのォ」
「さァて、首をもらおうか」(麃公)

 

「麃公、私が剣を抜くことはありませんよ」
「私の戦いはあくまで知略によるものです」(李牧)

 

「ここが終着地であることにも意味はあったのですよ」(李牧)

 

「流動を破ったのは見事です」
「しかし残念ですが、ここで死ぬのはあなたです」(李牧)

 

「我は”荒ぶる神”を宿す者」
「我は天の唯一畏るる者、天の災い」
「我武神龐煖也」(龐煖)

 

「そうか貴様か…王騎を討った阿呆は」(麃公)

 

「王騎のような天才が敗れるとしたら…」
「貴様のような”異物”が持ちこまれた特異な戦場であろうよ」(麃公)

 

「こ奴が貴様の最後の刃というのなら叩き折ってやろう」
「王騎の借りもあることだしのォ」(麃公)

 

「名などいらぬ」
「貴様が本物かどうか、この俺が判断するだけだ」(龐煖)

 

「戦場(ここ)に来たのは、求道者でもない王騎の力が何だったのか知るためだ」(龐煖)

 

「そうか、龐煖」
「ようやく少し貴様のことが分かってきたわィ」(麃公)

 

「貴様はおそらく、己の中の大いなる矛盾に気付かず」
「一人もだえておるただのど阿呆じゃ」(麃公)

 

「よせ、麃公…あんな寡兵をここへ呼び込んでも、絶対に何も覆らない!」
「私に子供を殺させるな、麃公」(李牧)

 

「童(わっぱ)信、前進じゃァ」
「ここは貴様の火を燃やし尽くす場所に非ず」
「咸陽へ行け、童・信」(麃公)

 

「(弱者?) 何も分かっておらぬな、このど阿呆が!!」(麃公)

 

「龐煖。やはり貴様は、全く何も感じておらぬのだのォ」
「わき上がってくる力を、つむがれていく炎を!」(麃公)

 

「じゃから貴様は王騎に勝てなかった」(麃公)

 

「戦場に甘美な夢を描いていた王騎らと違い」
「戦場に生まれ落ち、そこで育ち、ただただ戦いに明け暮れてきたこの儂の刃は」
「王騎らよりもっ、大分荒々しいぞォ!!」(麃公)

 

「首を持って行くぞ、龐煖」(麃公)

 

「童・信、火を絶やすでないぞォ」(麃公)

 

「(六大将軍に入らなかった理由?) それは簡単な話じゃ」
「そういうものに儂が興味がなかったというだけじゃ」(麃公)

 

「儂から見れば奴らは全員”夢追い人”であった」
「戦場にどこか甘美な夢を抱いて臨んでおった」(麃公)

 

「それが戦神・昭王の夢と共鳴し、強烈な力を発していた」(麃公)

 

「儂は戦場に生まれ落ち、そこでそのまま育った」
「儂にとって戦場が家であり、戦いが生きることであった」(麃公)

 

「儂には六将のような華やかな光も夢も必要なかった」
「儂はただ、戦場で戦い、勝利し、その夜うまい酒を飲めれば」
「それで満足じゃったからのォ」(麃公)

 

「ここは戦場じゃ、重要なのは何を思うかではない」
「どれだけ大炎を巻き起こし、どれだけ多くの敵を葬るかじゃ」(麃公)

 

「道違えど漢なら、強者同士ひかれ合うのは当然であろうがァ」(麃公)

 

「六将(奴ら)との酒よりうまい酒ときたか」
「それはちと、楽しみじゃのォ」(麃公)

 

「将軍が前進とおっしゃったのが聞こえなかったのか!!」
「盾を投げられた意味が分からなかったのか!!」(壁)

 

「ここで我らが脱出し、その意志をつがねば、咸陽を守らねば」
「麃公将軍の死すら、その意味を失ってしまうのだぞ、信」(壁)

 

「いや、まだ一つだけ手は残っていると思う」
「”蕞(さい)”」(嬴政)

 

「大王様!」
「どうか、ご武運を」(向)

 

「(できる武将はいない?) いや、まだ一人だけ残っている」
「武将ではないがな」(嬴政)

 

「ああ、俺が行く!」(嬴政)

 

「準備は整ったか」
「出陣だ」(嬴政)

 

31巻

「暴走とも呼べるこの行動…」
「一人の決断にしては思いきりがよすぎる…」(呂不韋)

 

「昌平君」
「よもや何か助言のようなものをしたわけではあるまいのォ」
「我が四柱の一人、昌平君よ」(呂不韋)

 

「状況をお考え下さい、相国」
「私は秦軍の総司令でもあります」(昌平君)

 

「今──それ以外のことは、取るに足らぬ小事です」(昌平君)

 

「それでは儂は空席となった玉座にて、この先の物事を考えるとするかのォ」(呂不韋)

 

「何を血迷っておるか、呂不韋!」
「いついかなる時も玉座というものは、王族のものと決まっておろうが」
「この不届き者が」(成蟜)

 

「(何でこんな所に?) もちろんお前達と共に戦いに来たのだ」(嬴政)

 

「そうか…でもまだ戦えるんだ…俺達は…」(信)
「ここで敵をくい止めるんだ、信」(嬴政)

 

「……政。ちょっとだけ、つかまらせてもらっていいか…」(信)
「……気にするな。俺はもう何度もお前につかまっている」(嬴政)

 

「無謀に近いことは分かっている」
「だがわずかでも道が残っているのなら、そこに飛び込むしか今はない」(嬴政)

 

「兵士じゃなければ戦えないというのならば…全員を兵士と化すのが俺の役目だ」(嬴政)

 

「咸陽にはこれ(敵軍)を迎え撃つ準備がない」
「つまりこの蕞が敵軍を止めることが出来る最後の城だ」(嬴政)

 

「もう一度言う」
「蕞(ここ)で敵を止めねば、秦国は滅亡する」(嬴政)

 

「(咸陽に?) 戻るものか」
「秦の命運を握る戦場に、共に血を流すために俺は来たのだ」(嬴政)

 

「心の準備は整ったか」
「530年続いてきた、秦の存亡をかけた戦いだ」
「必ず祖霊の加護がある」(嬴政)

 

「これまで散っていった者達も必ず背を支えてくれる」
「最後まで戦うぞ、秦の子らよ」
「我らの国を絶対に守りきるぞ!!」(嬴政)

 

「やはり…私の直感は間違いではなかった」
「このお方は戦神・昭王を超える…」
「越えるぞ…!! 王騎よ──」(昌文君)

 

「初実戦がこれ(死地)とは自分でも驚きだよ」(蒙毅)

 

「泣くな、河了貂」
「お前の涙はこの戦に勝利した時と、お前が男を知った時にこそふさわしい」(介億)

 

「趙三大天・李牧である」
「蕞の人間に告ぐ」
「一般人でありながら武器をとった勇気、この李牧敵ながら感服致す」(李牧)

 

「だが、蛮勇だけで戦が出来ると思っているのなら、勘違いも甚だしいぞ!」(李牧)

 

「万に一つも勝ち目はない」
「ならば、勝ちのない戦で無駄に命を落とすな」(李牧)

 

「降伏せよ、蕞よ」
「さすればこの李牧、ただの一人も殺させはせぬ」(李牧)

 

「残念だがお前の揺さぶりは俺達には通じねェぞ」
「なぜなら、全員が命をなげうっても戦う理由が蕞にはあるからだ」(信)

 

「ひるむなァ」
「恐怖に顔を下げるな、これが戦いだ」(嬴政)

 

「立ち向かえ!!」
「これがっ…国を守るということだ!!」(嬴政)

 

「飛信隊は本当に白兵戦で叩き上げられてきた隊だ」
「騎馬もないこの単純な歩兵の戦なら、あの玉鳳にも楽華にも負けない自信がある」(河了貂)

 

「今回の守城戦は、ただ守るだけじゃ正直厳しいと思う」
「守りの中でもこちらから何かしかけて敵戦力を削りたい」(河了貂)

 

「そうすれば戦力補給が困難な孤軍である李牧軍には嫌な打撃となる」(河了貂)

 

「蕞は落ちない…たとえ落ちたとしても」
「その時はオレも仲間と一緒に死ぬ」(河了貂)

 

32巻

「…どうせ寝つけぬのなら、ねぎらいの言葉をと思ってな」
「この二日間の奮戦、皆大義であった」(嬴政)

 

「皆の者、覚えておけ」
「明日の夜も語らうぞ!」(嬴政)

 

「(決死隊?) それは許さん」
「そなた達が生きてここにいるのは決してしくじりではない」
「大きな役目を天が授けたのだ」(嬴政)

 

「この蕞を守る大きな力となること」
「そして、英雄・麃公の生き様を後世に伝える役目だ」(嬴政)

 

「(しのぐのは) 八日だ」
「…根拠と呼べるほどのものはない…」
「とにかく…八日だ」(昌文君)

 

「明日しのぐだけでも奇跡と呼べるかも知れぬ」
「それをさらに五度続ける…」(昌文君)

 

「ここまで追いつめられたのじゃ」
「我々の活路はいよいよ奇跡の先にしか…」(昌文君)

 

「(下に降り) 王自ら前線に立ち、民兵達を奮い立たせる」
「限界を超えた彼らを立ち上がらせるにはこれしかない」(嬴政)

 

「危険だから意味があるのだ」
「これが俺の打てる最後の手だ」(嬴政)

 

「民兵達よ、死して楽になることをさせぬ王を許せ…」(嬴政)

 

「秦王がいるとなれば、かえってこの戦いは単純になった」
「この蕞の戦いが秦国滅亡、最後の戦いである」(李牧)

 

「嬴政様はただの王ではない」
「お前も見たであろう、蕞の民の変貌を」
「あんなことは昭王ですらできなかった」(昌文君)

 

「ここで嬴政様を死なせてはならんのだ、決して!!」(昌文君)

 

「(脱出?) 死んでも断る」(嬴政)

 

「大将・政が最後まであきらめねーつっってんだ」
「だったら俺達は、とことん付き合うだけだ!」(信)

 

「民兵達は十持ってるうちの二十を出しきった」
「だったら俺達は十持ってるうちの三十を出す」(信)

 

「ちなみに俺は百を見せてやる!」(信)

 

「飛信隊っ、敵を殲滅せよ!」(河了貂)

 

「天が覗いておる、この城を」
「”畏れ”ではない、”興味”だ」(龐煖)

 

「喜べ、昴」
「奇跡が起きたぞ」
「俺達の粘り勝ちだ!」(信)

 

「全軍、血祭りだ」(楊端和)

 

「退くべきだ…」
「咸陽を取れぬのであれば、この戦に意味はない」
「即座に退却すべきだ」(李牧)

 

「……だが、この軍が退くということは」
「此度の合従軍が敗北に終わるということだ!」(李牧)

 

「待て、楊端和。悪ィがゆずってくんねーか」
「そいつ(龐煖)とは俺が戦んなきゃならねェんだ」(信)

 

「(何で?) そんなの決まってんだろ」
「俺が天下の大将軍になる男だからだ」(信)

 

「ただの有象無象に天がざわつくは、許し難いことだ」
「天の恐るるものは唯一人!」(龐煖)

 

「ここに集う虫ケラ共をバラバラにして、それを今一度指し示してやろうぞ」(龐煖)

 

「大丈夫だ。今のお前(愛馬)にはこの俺と大将軍の盾がついてる」
「だから何も恐れずいつも通り、前へ進め」(信)

 

「武神さんよォ…それ(大将軍の一撃)に比べりゃ、お前の刃は軽いんだよ」
「小石みてェになァ」(信)

 

「効かねェなァ、そんなんじゃ」(信)

 

「ただのまぐれにしても、この龐煖が三度も戦う者とは珍しい男だ」
「しかし、四度目はない」(龐煖)

 

「今すぐその魂魄ごと真っ二つにして、王騎の元へ送ってやる」(龐煖)

 

33巻

「武神・龐煖」
「今のお前は麃公将軍の置き土産のせいで、片腕にしか力が入ってねェ」(信)

 

「そのお前にこの俺のしょってるもの全部をっ、この俺の全てをっ」
「叩きつける!!」(信)

 

「有り得ぬ、あんな小僧にこの俺が深手を…」
「そもそもなぜ俺が力負けを」
「起こり得ぬことが起こっている」(龐煖)

 

「何だ……何なのだ、貴様らは…!!」(龐煖)

 

「今一度だけ見逃す」
「だが名を覚えておくぞ、信」(龐煖)

 

「(中華の歴史?) 当然理解している!」
「だがこれは気まぐれな干渉などではない」(楊端和)

 

「四百年前の秦王・穆公の生んだ盟」
「そして現秦王とこの楊端和の結んだ同盟によるものだ」(楊端和)

 

「それ以上さえずるな、平地の老将よ」
「黙って貴様らは敗者として史に名を刻め」(楊端和)

 

「(楊端和) ありがとう」
「本当に救われた、ありがとう」(嬴政)

 

「(無駄死にじゃない?) その通りだ」
「だが…たきつけて万の死者を出させた張本人としては」
「やはり胸に突き刺さるものがある」(嬴政)

 

「やはり違うものだな」
「王宮にて報告で知る戦争と、実際に目の当たりにする戦争は」(嬴政)

 

「民もバカじゃねェ」
「連中も乗せられてることに気づいてんだろうなって」(信)

 

「気づいてなお、あんな目ェ輝かして最後まで戦ってくれたんだと思うぜ」(信)

 

「(気に食わぬ?) 別に。ただやっぱ守りはつまんねーっつー話だ」(桓騎)

 

「運が無い…首級を挙げるに足る敵将に出くわさなかった」(王賁)

 

「(三千人将) 嬉しいさ、飛び上がるほどな」
「だが…見えてきちまったから、はしゃぐっつーより興奮してんだ」(信)

 

「四千、五千、あと三つで”将軍”だ!」(信)

 

「私は別に怖くなかった」
「連中と戦うことも、死ぬことも」(羌瘣)

 

「私はあの時……象姉が死ぬことだけが…」(羌瘣)

 

「羌明…外へ出ることを夢見て”祭”で死んだ象姉のことを思うと…」
「やっぱりあんたはすごくズルいと思う」(羌瘣)

 

「これは許すとかとは違うかもしれないけど、あなたみたいにガムシャラに生きる道も」
「あっていいんじゃないかって思うよ、本当に」(羌瘣)

 

「(侮るな?) 大丈夫」
「私さえ出ていれば、あの女が蚩尤だなんて有り得なかった」(羌瘣)

 

「幽族の者達、一度だけ警告する」
「私の狙いは幽連だけだ、お前らに用はない」(羌瘣)

 

「だが邪魔をするなら容赦なく斬り捨てる」(羌瘣)

 

「(巫舞の時?) 見えてるよ、何となく」
「でも、そのうちだんだん周りのものの動きが遅くなってって」
「最後は飛んでる虫が止まってしまう」(羌瘣)

 

「その次は、真っ青な水の中にいる」
「すごーく透き通ってて奥まで青くて、下の方は深くて全然底は見えない」(羌瘣)

 

「それからゆっくりと下へ下へ沈んでいくの」
「歌を口ずさみながらゆっくりと、ゆっくりと深く深く、ただ深く」(羌瘣)

 

「考えるまでもない」
「超短期戦が私の戦い方、一気に最深の巫舞で決める」(羌瘣)

 

「卑怯な手を使う私は弱いとでも思っていたのか?」
「それとも姉への愛が力になると思ったか?」
「怒りが力になると思ったか?」(幽連)

 

「そんなままごとが蚩尤に通じると思ったか、クソガキ」(幽連)

 

「今の私は助走なしに巫舞と同じ領域まで落とせる」
「”祭”をくぐったからだ」(幽連)

 

「生まれ持った才能は、お前が一番なのだろう」
「だが肝心の”祭”をくぐっていない」(幽連)

 

「お前は本物の蚩尤になり損ねたんだよ、間抜けが」(幽連)

 

34巻

「お前達の道が至強に至っていないように感じるのは…」
「それを否定する対極の力が存在するからだ」(羌瘣)

 

「思い出した…」
「象姉はそのことに…ずっと前に気付きかけてた…」(羌瘣)

 

「くらうがいい、幽連」
「これは象姉が私を殺すためにあみ出そうとしていた術(わざ)だ」(羌瘣)

 

「闇…完全なる…もう緑穂すら感じない」
「何も見えない、何も聞こえない……」(羌瘣)

 

「でも背中に感じるこの一条の光…」
「魄領の底だろうと、この光さえあれば私は戻れる」(羌瘣)

 

「偶然…だ」
「たまたま私は…私を外とつなぎとめる連中と出会った」(羌瘣)

 

「(次の蚩尤が殺しに?) のぞむ所だ」
「私は絶対に負けない」(羌瘣)

 

「ごめん、象姉」
「象姉のことをここに置いていくわけじゃない」
「傍らにいつも感じながら私は進むよ」(羌瘣)

 

「あなたが夢みた外の世界で、あなたの分も」
「私は精一杯生きるよ、象姉」(羌瘣)

 

「里へは戻らない」
「私の帰る場所は…もう他の所にあるんだ…」(羌瘣)

 

屯留編

「(羌瘣) 終わったのか」
「そうか…それじゃやっと、飛信隊(ここ)で一緒に進めるな」(信)

 

「私は二つの目標を立てた」
「私も将軍を目指すぞ、信」(羌瘣)

 

「戦いの道に身を置くなら、そこの頂上を目指すべきだ」
「象姉もきっとそうする」
「だから私も大将軍になる!」(羌瘣)

 

「二つ目は…お前の子を産む」(羌瘣)

 

「そして今、英雄を目指す若者二人に、英雄になれなかった老人からの金言じゃ」
「蒙恬と信と王賁、三人で一緒に高みに登れ」(蒙驁)

 

「いや…それにしても……長い旅じゃったのォ…」(蒙驁)

 

「戦はそんなに軽いものではない」
「あれだけ苦労したのだ、それは蒙驁が一番分かっている」(蒙武)

 

「すさまじい長旅であったな…親父殿…」(蒙武)

 

「(政の子?) 死んでく人間もいりゃ、生まれてくる人間もいる…か」(信)

 

「選べ」
「ここで配下共々斬首となるか。私を主とあがめ、永劫の服従を誓うか」(王翦)

 

「敗戦の後は蛆がわくんだよ」
「くっせー文官共にとっては好機だろうが」
「朝廷の勢力図を塗り替える」(媧燐)

 

「(失敗の重さ?) 分かっています」
「だからこうしてまだ生きながらえているのです」(李牧)

 

「内乱期を抜けたそれぞれの国が弱くなるか逆に強くなるのか」
「そこが最大の注目点です」(李牧)

 

「(国の財源?) そんなセコイことするかい」
「儂の蔵を少し開いてやっただけじゃ」(呂不韋)

 

「大王は儂の思っていた以上にでかくなりおった」
「大王暗殺未遂事件──五年前のあのお遊びの時とは違う」
「今は真(まこと)に食い甲斐がある」(呂不韋)

 

「王を暗殺しても国は盗れん」
「その後に儂が立っても、民が納得せぬからだ」(呂不韋)

 

「民が納得する形で儂が国を盗るには、大きなカラクリが必要だ」
「全国民が目にする大きなカラクリが」(呂不韋)

 

「『加冠の儀』じゃ」
「李斯よ。そこで儂は大王ごと、この国を余さず平らげるぞ」(呂不韋)

 

「亡国をくい止める責を全うすることがまず、第一の王の道ではないか」
「無謀に見えようと一縷の望みがある限り、俺は座して滅びを待ちはしない」(嬴政)

 

「”宿願”のためだ、俺は中華を統べる王になる」
「こんな所でつまずくわけにはいかない」(嬴政)

 

「成蟜様が打倒・嬴政様を目論むとしたら、呂不韋を叩きつぶしてから」
「その後、正面から堂々とです」(瑠衣)

 

「嬴政様! どうかご兄弟、力を合わせて実権を王族の手に」
「そして、我らが国の繁栄を末永く」(瑠衣)

 

「もし本当に成蟜が謀略にはめられているのなら」
「この戦いは成蟜救出の戦いとなる」(嬴政)

 

「(難しい判断?) だから頼めるのはあいつしかいない」
「大至急、飛信隊に早馬を送れ!」(嬴政)

 

35巻

「大丈夫じゃ、何もできはせぬ」
「それよりもこれは大王派と王弟派の仲間内での同士討ちとなり」
「相手陣営は著しく力を失う」(呂不韋)

 

「儂らは何の痛みも伴わず、連中の四苦八苦する姿をただ眺めておればよいのじゃ」(呂不韋)

 

「大丈夫大丈夫、このくらいの敵ならね」
「壁が将軍に昇格したように、この二年でオレ達も成長したんだよ」(河了貂)

 

「でもね、壁」
「やっぱりこの二年で一番大きく成長したのは、信(あいつ)だよ」(河了貂)

 

「武将には二種類いる」
「常に本陣に構えて全体に安心を与える武将と」
「自ら先陣にて矛をふるい軍の士気を高める武将」(河了貂)

 

「もちろん信の目指す武将の姿は後者だ」(河了貂)

 

「信はもう、受けついだ王騎将軍の矛を使う準備に入ってるんだ」(河了貂)

 

「何とかやってやるさ」
「政(あいつ)が俺に頼み事なんて、意外と珍しいからよ」(信)

 

「本来二人を同じ所で戦わすのは得策じゃないけど、今回は例外」
「”早さ”が勝負」(河了貂)

 

「(大金をもらう?) それは無理だ」
「お前達もお前達の家族もこの反乱の後、必ず皆殺しになる」(成蟜)

 

「奴が俺をはめた悪事は、外に知られれば奴の命に関わる秘密事項だ」
「反乱後、奴は必ず関わった者達を粛清する」(成蟜)

 

「それは三族に至るまで徹底的に行われるだろう」
「かつて俺も謀略を目論んだ身、奴の考えはよく分かる」(成蟜)

 

「俺をここから出せば、お前らの家族も粛清されず」
「本当に大金を手にすることができるぞ」(成蟜)

 

「さあ時がない、今すぐ決めろ」
「お前達とお前達の家族の運命を!」(成蟜)

 

「瑠衣は離れたくありません…」(瑠衣)
「案ずるな。お前が戻るまでくたばりはせぬ」(成蟜)

 

「瑠衣、よく聞け」
「この後、俺の一派はお前がまとめ上げろ」(成蟜)

 

「俺がいなくなって半分は…去るだろうが、残った半分をお前がまとめろ」
「そしてその後、政の下に一本化しろ」(成蟜)

 

「お前は頭がいいし、心も強い」
「女だが十分にやれるだろう」(成蟜)

 

「な…何をおっしゃっているのですか…」
「瑠衣を、一人にしないで下さい」(瑠衣)

 

「奴が”蕞”へ出陣する前に、”中華統一”の話を聞いた」
「五百年の争乱に終止符をうち、世を正す」(成蟜)

 

「響きは美しいが、そうするには今の世に凄まじい血の雨を降らせ」
「中華を悲劇で覆わせることになる」(成蟜)

 

「正に血の業(わざ)。はね返ってくる怨念は、長平の比ではないぞ」
「奴も覚悟の上であろうが…それでも一人で受け止められる代物ではない」(成蟜)

 

「…奴が膝から崩れるようなら、俺がとって代わって成してやるかとも思っていたが」
「それも叶わぬ」(成蟜)

 

「飛信隊・信、貴様が奴の”剣”にして”盾”であることを忘れるな」(成蟜)

 

「この先きっと貴様の存在自体が、奴の支えとなる…」
「そこで貴様が倒れるようなら嬴政は…」(成蟜)

 

「大丈夫だ、俺は絶対に倒れねェ」(信)

 

「瑠衣…」
「許せ。また…苦労をかける」(成蟜)

 

「俺はお前と初めて会った時…」
「あの時からずっと、お前にほれている」(成蟜)
「……知っています」(瑠衣)

 

「そうか。それなら、いい…」(成蟜)

 

「過去の罪を帳消しにすることはできぬが」
「俺もあいつ(成蟜)と話すことはたくさんあった…」(嬴政)

 

「亡夫の遺言を受け、この瑠衣が一党をとりまとめ」
「兄王様の支えとなりまする」(瑠衣)

 

「成蟜様の時と同じように兄妹力を合わせて」
「必ず呂不韋を打倒致しましょう」(瑠衣)

 

「世に言う『正義』とは、その人柄に宿るのではなく」
「勝った者に宿るのだ」(呂不韋)

 

著雍攻略編

35巻

「お前らは単に頭数に呼ばれただけだ」
「援軍の本命は俺達だ」(王賁)

 

「乳くり合うのは本番が終わってからだ」
「待っていたぞ、二人共」(騰)

 

「(私情?) 馬鹿を言うな」
「俺は今、戦略の話をしている」(王賁)

 

「私は古い人間だ」
「戦争とは土地の奪(と)り合いではなく、武将の殺(と)り合いだと見る」(霊凰)

 

「私は著雍(ここ)を守りに来たのではない」
「騰を殺しに来たのだ」(霊凰)

 

「三軍それぞれ独自に戦い、決め事は一つのみ」(王賁)

 

「三日目の昼、日が天の真上に昇る刻(とき)」
「三軍それぞれ目前の敵軍・予備軍を撃破し、魏軍本陣に突入する」(王賁)

 

「それがこの著雍の攻略策だ」
「いいな、一刻のずれも許さぬぞ!」(王賁)

 

「それ(魏火龍七師の3人)が十四年も獄につながれていたのだ」
「その”渇き”を癒すのは、目の前の秦軍に他ならぬ」(呉鳳明)

 

36巻

「我が名は”魏火龍”凱孟!! 貴様らが相対す軍の大将也!!」
「貴様も相当な腕前らしいが、儂も相当な腕前である!」(凱孟)

 

「そこを踏まえて! この凱孟と一騎討ちをする度胸があるなら」
「我が両の眼にその面(つら)を見せィ!!」(凱孟)

 

「俺を呼んだ大馬鹿はてめェか」(信)

 

「儂は廉頗や王騎らと、一対一(サシ)で互角に渡り合った過去を持つ男だ」(凱孟)

 

「凱孟様は廉頗らと一対一(サシ)は一度もやってない」
「でもそれは賢い廉頗らは凱孟様との一対一(サシ)をことごとく避けたからだ」(荀早)

 

「それは即ちあの廉頗らさえも、凱孟様との一騎討ちは”死”を意味したからだ」(荀早)

 

「指揮官…あいつか…届くか?」
「すまない。私ができるのは、ここまでだ」(羌瘣)

 

「いくら軍師とは言え河了貂一人のために、何百何千の命を失う賭けに出んのかよ」(我呂)

 

「古参のお前らにとっちゃ馴染みの深い奴なんだろうが」
「一、二年の付き合いの俺らにとっちゃ納得しずれェー」(我呂)

 

「それにそもそも女の身で戦場に来てる時点で」
「こうなる覚悟は本人にも周りにもあったはずだろうが」(我呂)

 

「あいつはもう俺の身内…たった一人の妹みたいなもんだ」(信)

 

「テンのために特別無茶やってるようにうつってるかもしれねェが」
「俺は何もせずにテンを見殺しにするような真似は絶対に出来ねェ」(信)

 

「貴様にとって信とは何者か、貴様は心の奥底で奴に何を求めている」(凱孟)

 

「女軍師として命懸けで戦場などにいる貴様の”全欲望”をここにぶちまけてみろ」
「その内容次第で──貴様を”殺す”か”返す”か決めてやる」(凱孟)

 

「欲望とか分からない」
「ただオレは、信の夢がかなってほしいと願ってる」(河了貂)

 

「いや、それと…オレもあいつと一緒に幸せになりたい」(河了貂)

 

「だったら今すぐ飛信隊をやめて家に帰れ」
「やはり貴様の欲は女の欲よ」(凱孟)

 

「好いた男と共に戦場にあって添いとげようなどとはムシがよすぎる」
「このままいけばお前は必ず最悪の結末を迎えることになるぞ」(凱孟)

 

「オレは戦場(ここ)で戦って、そして幸せになるんだ」(河了貂)

 

「槍を極めんとする者で、魏の”紫伯”の名を知らぬ者はない」(王賁)

 

「ただで俺達を逃がす相手ではない」
「俺が”殿”を務める」(王賁)

 

「明日のためでもある」
「明日討ち取るために、奴の槍をもう少し見ておく必要があるのだ」(王賁)

 

「退路確保を続けるより、一度作らせて裏から崩す方が楽なんでね」(関常)

 

「日にちごとにチマチマ計算を立てて戦うことは性に合わん」(録嗚未)

 

「俺の軍は走り出せば目的地まで止まることはない」
「明日昼きっちり敵本営に攻め入ってやる」(録嗚未)

 

「私はこの著雍は、呉鳳明と私の対決の場とは見ていない」(騰)

 

「私は、これから秦軍の武威の一角を担うべき若き才能達が」
「傑物・呉鳳明に挑み、その力と名を中華に響かせる戦いだととらえている」(騰)

 

「不思議と才能が結集する時代がある」
「かつての”六将”しかり」(騰)

 

「確信はない、だから示してみよと言っているのだ」
「まずはこの戦で──」(騰)

 

「ひっとしたらこの戦が”第一歩”なのかもな」
「ああ、天下の大将軍への”本格的”な第一歩」(羌瘣)

 

37巻

「(俺?) 紫伯が現れるまで、お前達の後ろに隠れている」(王賁)

 

「そもそもこの俺ではなく、あいつらの名を知らしめるという乗りが胸クソ悪い」(録嗚未)

 

「頃合いか。ったくガキ共め」
「来ぬ時は分かっておるであろうな」(録嗚未)

 

「”槍の紫伯”──」
「伝説の名に違わぬその槍さばきに敬意を払いつつ、今度こそ貴様を打ち倒す」
「玉鳳隊隊長・王賁、参る!」(王賁)

 

「そういう危険を冒し、無理に見える戦局を覆してこそ名があるがのだ」
「それに勝手に紫伯にかなわぬと決めつけるな」(王賁)

 

「(玉砕?) バカを言え。道は始まったばかり…絶対に…」
「何が何でも魏軍大将軍にして”槍の紫伯”をこの手で討ち、ここ著雍を取る」(王賁)

 

「そしてその先も…」(王賁)

 

「後退などしている暇はない。易い戦の勝利でも足りぬ…」
「大いなる勝利を手にし続けねば…中華に名を刻む大将軍には決して届かぬ」(王賁)

 

「”夢”だ何だと浮ついた話ではない」
「これは…”王”家の正統な後継ぎとしての、この王賁の責務だ」(王賁)

 

「紫伯、貴様の敗因は俺に長く槍を見せたことだ」(王賁)

 

「紫伯…貴様には弱点がある」
「それは…貴様が”生”を拒絶している人間だということだ」(王賁)

 

「死人の分際でっ、道をふさぐな貴様っ」(王賁)

 

「他軍と連動すんのはお前らだけじゃねぇ」
「軍師の差が出たな、凱孟!」(信)

 

「戦に”光”などない」
「”意義”だの”夢”だのと語るのは無知なバカ共をかき集めるための、ただのまやかし」(凱孟)

 

「戦は強者が欲望のままに弱者を屠る単なる殺戮の場」
「それ以上でも以下でもない」(凱孟)

 

「(敵の反応が遅い?) このために少し遅れた」
「飛信隊(我々)で呉鳳明の首を取るぞ」(羌瘣)

 

「六将や火龍の時代は過ぎた」
「これから中華戦国の舵をとるのは、李牧や俺の世代だ」(呉鳳明)

 

「魏国のためだ」
「大師・霊凰の力は十四年前で止まっている」(呉鳳明)

 

「だが俺はあと一年で霊凰に並び、次の一年で大きく引き離す」
「強き者が残らねば、これからの戦国を魏は勝ち残ることはできぬ」(呉鳳明)

 

「戦国七雄。かつて百を超えた国々が七つの大国に収まって二百余年」
「いよいよその均衡が崩れる時が近付いている」(騰)

 

「滅びる国が出てくるということだ」(騰)

 

毐国反乱編

37巻

「”山陽”と”著雍”」
「強固な双子軍事都市として、魏国胸元への大きな楔とする」
「ここを足場に侵攻していくんだ、最後までな」(信)

 

「時代が次の幕へと移ろうとしています」
「戦国七雄”崩壊”の幕です」(李牧)

 

「その鍵を握るのは唯一人」
「この切迫した時の中、ついに来年加冠の儀を迎える秦王・嬴政」(李牧)

 

「やはり傑物じゃな、相国・呂不韋」
「この乱世に、そなたは”文の道”でも名を残すぞ」(蔡沢)

 

38巻

「醜態だ」
「かつての三晋のように国が分離したわけでもなければ」
「五百年前の幼稚な国家乱立時代とも違う」(李斯)

 

「今この大国秦の中で一勢力による独立国家誕生など、恥以外の何ものでもない」(李斯)

 

「棘だらけだ」
「棘が刺さり続け、その痛みで出会った二十一年前の光輝く面影は消え去った」
「”邯鄲の宝石”は、もはやはるか昔の話だ」(呂不韋)

 

「弱き者、愚かな者は食われる時代だ」
「男であっても女であっても」(呂不韋)

 

「そなたこそ笑わせる」
「燃え上がったかつての二人の大情炎に比べれば」
「今の逃避行など豎子達の戯言に過ぎぬ」(呂不韋)

 

「(用件?) そんなものはない」
「政治的な話なら他の者をよこす」
「儂はもっと大切な話をしに来たのだ」(呂不韋)

 

「恋人としての別れ話だ」
「恐らくこれが、本当の別れとなる」(呂不韋)

 

「実はな、美姫よ」
「舞台でそなたを見て花を贈ったあの時から」
「儂は変わらずずっとそなたを愛している」(呂不韋)

 

「後にも先にもそなた一人であろう、真に我が心を奪った女は」(呂不韋)

 

「我が美姫よ、さらばだ」
「どうかここで静かに余生を過ごせ」(呂不韋)

 

「別れではあるが、儂は最後まで愛しているぞ、美姫よ」
「たとえこれからさらに、そなたに恨まれることになろうともな」(呂不韋)

 

「五千人将は、三千・四千とはまるで違う」
「将軍のすぐ一つ下の五千人将の目を通してこそ」
「将軍の存在がいかなるものかより見えてくる」(騰)

 

「五千はただの踏み段に非ず」
「ここでしっかり甘えを落とし、成果を上げよ」(騰)

 

「俺はずっと打倒・呂不韋のことばかり考えていたが」
「母の苦しみを止めてやるのも俺の役目なのかも知れぬ」(嬴政)

 

「血を分けた、実の子としての…役目だ」(嬴政)

 

「独立はない、私は最後まで飛信隊だ」(羌瘣)

 

「呂不韋の一挙手一投足、この儂が決して見逃さぬぞ!!」(昌文君)

 

「よく考えれば恐ろしいことだ……」
「この私がいつの間にか、王などと呼ばれている…」
「何のとりえもなかった、この私が……」(嫪毐)

 

「破滅の道かい」
「言ってくれるじゃないか嫪毐」(趙姫)

 

「我が人生はとっくの昔にその道にある」
「今さら破滅が何だってんだい」(趙姫)

 

「これは破滅を急ごうって話じゃない」
「このガキを宿して、なぜか私の中に真逆の願望が生まれた」(趙姫)

 

「心を休めるって願望さ」(趙姫)

 

「役者はそろったな…」
「いよいよ、二十三年前の”奇貨”の実りを回収する刻(とき)が来たな」(呂不韋)

 

「王族が姿を消し拠り所を失った秦の民草は、この先に誰を頼りにする」
「誰にすがる、誰にこの国を託す」(呂不韋)

 

「この呂不韋をおいて他にあるはずがない」(呂不韋)

 

「私はこの中の誰よりも覚悟を決めている」
「悪名を…歴史に悪名を刻む覚悟までだ」(嫪毐)

 

「勘違いするな」
「俺は何もあきらめていないし、あがく必要もない」(嬴政)

 

「たしかに咸陽に兵力はない」
「だが…一つだけ教えてやろう、呂不韋──」
「反乱軍を止める軍は、すでに向かって来ているのだ」(嬴政)

 

39巻

「いよいよあの二人の最後の戦いだ」
「何が何でも勝って、政のもとに秦を一つにするぞっ」(信)

 

「舟だからってびびんじゃねェ」
「こうなりゃいつも通り強行突破だ!!」(信)

 

「政の危機だ」
「(無許可でも)駆けつけねぇわけにはいかねぇ」(信)

 

「永きに亘った王宮の権勢争いにようやく、大いなる決着がつこうとしている」
「故に想定外のことも起こるやも知れぬ」(嬴政)

 

「だが何が起ころうと、信じて待て」(嬴政)

 

「この呂不韋が反乱を成功させると言っておるのだ」
「ならば成功するに決まっておろうが!!」(呂不韋)

 

「左丞相・昌文君と共に咸陽へ行き反乱を鎮めてまいります」(昌平君)

 

「……相国、余計な問答は必要ない」
「察しの通りだ、世話になった」(昌平君)

 

「あえて泥舟に乗り換えたいと言うのなら、行かせてやればよいではないか」(呂不韋)

 

「しかし全く、こんなことで一喜一憂する愚か者ばかりよ」
「やはり何も分かっておらぬのだな」(呂不韋)

 

「”四柱”とは儂を華やかに彩るためのただの”装飾”にすぎぬ」
「”装飾”は所詮”装飾”」(呂不韋)

 

「それが一つや二つ身からはがれ落ちようと」
「この呂不韋という人間の強大さは一切揺らぐものではないぞ」(呂不韋)

 

「大王様、場所をかえませぬか」
「加冠の儀も終わり、今まさに”刻”は満ちようとしています」
「どこか二人きりで、”天下”などについて語らいませぬか」(呂不韋)

 

「正直…百の勢力を招き入れるよりも」
「貴公(昌平君)を味方にできることの方が、万倍の力になると確信する」(昌文君)

 

「十年以上、彼の下についてきた…」
「元商人という異質な経歴ではあるが」
「秦史における二大丞相”商鞅””范雎”に肩を並べる大人物であることは間違いない」(昌平君)

 

「信、この戦いは…絶対に”屯留”の二の舞にしてはいけない」
「あの時は…成蟜救出にギリギリ間に合わなかった…」(河了貂)

 

「今度は絶対にそんなことがあってはいけない」
「今回救わなくちゃいけないのは、政の子供だ」(河了貂)

 

「よりによって政のガキを狙うなんざ」
「そんなふざけたマネは地が裂けようとこの俺がやらせねェ!!」(信)

 

「あん時みたいに力を貸せ、飛信隊! 蕞兵!」
「死力を尽くして秦国大王の御子を助けに行くぞォ!!」(信)

 

「今子供に関して思うことは、時に不安と苛立ちと、多分に笑いを誘う困った存在だ」(嬴政)

 

「(席を対等?) あえてそうした」
「咸陽の戦いによって、明日どちらが玉座に座るかが決まる」(嬴政)

 

「ならばこれが最後の対話、対等に座して語ろうではないか」
「俺もお前に話したいことは多くある」(嬴政)

 

「ずっと妙な噂を聞く」
「”中華統一”という馬鹿な噂だ」
「天人にでもなるおつもりか」(呂不韋)

 

「夢想の中の物語ならばよしとするが」
「本気なら、およそ血の通った人間の歩む道ではござらぬぞ」(呂不韋)

 

「俺はずっと裁けなかった」
「俺は一度も背後にいたお前を裁けなかった」(嬴政)

 

「だが今度は違う」
「今行われている咸陽の戦いでこちらが勝った暁には」
「いかなる言い逃れも許さず、必ずお前まで罪を波及させ、大罪人として処罰する」(嬴政)

 

「そうしてお前を権力の座から引きずり降ろし、二人の戦いに終止符をうつ!」(嬴政)

 

「この呂不韋が”天下”を語る上で”国”や”民”や”王”」
「それらの前に大切なことを明らかにせねばなりません」
「”天下”の起源です」(呂不韋)

 

「答えはこれ(貨幣)です」
「これこそ、人の歴史における最大の”発明”にして”発見”」
「全てはここから始まったのです」(呂不韋)

 

「御すのは金ではなく、人の”欲望”です」
「金を使って”欲望”を操り、国を大きくするのです」(呂不韋、商人時代)

 

「”貨幣制度”が”天下”を作った」
「”金”が人の”欲”を増幅させたからです」(呂不韋)

 

「金のもたらした最大の発見は別の所にありました」
「裕福の尺度」
「当然生まれたのは、”他より多く得たい”という強烈な『我欲』」(呂不韋)

 

「(醜悪な世?) 戦争を第一手段とする世の中よりはるかにマシでしょう」(呂不韋)

 

「”暴力”ではなく”豊かさ”で全体を包み込む」
「それが私の考える正しい『中華の統治』です」(呂不韋)

 

「ええ、なくなりませぬ。なくなりませぬとも」
「いかなるやり方でも、人の世から戦はなくなりませぬ」(呂不韋)

 

「若き頃、儲けのために武器の商いにも手をつけ、広く戦を見てきたからです」(呂不韋)

 

「命懸けで戦う者達の思いはそれぞれ」
「しかし誰も間違っていない」(呂不韋)

 

「どれも人の持つ正しい感情からの行動だ」
「だから堂々巡りとなる」(呂不韋)

 

「違う、お前達は人の”本質”を大きく見誤っている」(嬴政)

 

「たしかに人は欲望におぼれ、あざむき、憎悪し殺す」
「凶暴性も醜悪さも人の持つ側面だ」
「だが決してその本質ではない」(嬴政)

 

「その見誤りから争いがなくならぬものと思い込み、その中で最善を尽くそうとしているが」
「それは前進ではなく、人へのあきらめだ!」(嬴政)

 

「そこに気付かぬが故に、この中華は五百年も戦争時代を続けている」(嬴政)

 

「人の持つ本質は──光だ」(嬴政)

 

40巻

「人が闇に落ちるのは,己の光の有り様を見失うから」
「見つからず、もがき、苦しみ…悲劇が生まれる」(嬴政)

 

「その悲劇を増幅させ、人を闇へ落とす最大のものが戦争だ」
「だから戦争をこの世から無くす」(嬴政)

 

「武力でだ。俺は戦国の王の一人だ」
「戦争からは離れられぬ運命にある」
「ならば俺の代で終わらす」(嬴政)

 

「暴君のそしりを受けようが、力でっ…中華を分け隔てなく、上も下もなく一つにする」
「そうすれば必ず俺の次の世は、人が人を殺さなくてすむ世界となる」(嬴政)

 

「しかし…それにしても…」
「大きゅうなられましたな……大王…」(呂不韋)

 

「下がってろ、根性宮女」
「もう大丈夫だ」(信)

 

「俺のこと知ってるか?」
「お前の父ちゃんの一番の友達の信だ」(信)

 

「くそっ。どこかに、オレがどこかに活路を見ィ出さないと」
「せっかく政が加冠し秦国が生まれ変わろうとしてるのに…」
「全てが無に帰してしまう」(河了貂)

 

「(昌平君を)誇張して言うなら武力は蒙武級、そして誇張なしに頭脳は李牧級」(介億)

 

「ゾッとするであろう」
「あの御方が『秦』ではなく生国の『楚』で立っていたとしたら」(介億)

 

「昌平君(先生)が将を務める一戦、中で見ぬ手はありませんよ」(蒙毅)

 

「オレは飛信隊の軍師でもあるけど、総司令・昌平君の弟子でもある」
「今はオレを…昌平君を信じてくれ」(河了貂)

 

「皆の者いよいよだ、この包囲は二度と作れぬ」
「今が正に我らに与えられた唯一の勝機だ」(昌平君)

 

「一撃必殺、命にかえても戎籊公の首を取るぞ!」(昌平君)

 

「蛮勇だ、追う手間が省けた」(昌平君)

 

「私も中華を統べることを夢に描く男の一人だ」
「そして、現秦王はその夢を預けるに足る器の王だからだ」(昌平君)

 

「これは我々の、いや…大王様の……」
「これは…即位されてから、き、九年に及ぶ……呂不韋との長き戦いにおける…」
「だ、大王様のっ…完全勝利だ!!」(昌文君)

 

「大王。結果はともかく、ようやく決着がつきましたなぁ」(呂不韋)

 

「そうか…この儂が負けたのか」
「いや……正に完敗だ……」(呂不韋)

 

「実はそれ程大事だったのさ、今回失敗した反乱ってのが」
「それが敗れた。王賁、秦国はこれから新しい時代に突入するぞ」(蒙恬)

 

「二度とこのような反乱が起きないよう──」
「国家の禍(わざわい)となる火種は完全に消しておかねばなりません」(嬴政)

 

「どうかっ、どうか二人の子の命だけは助けてくれ!」
「母からお前への最初で最後の頼みだ!」(趙姫)

 

「母上…残念ですが、それでも救えません」
「理由は…先程も言った通りこの国に、反乱の芽を残してはならないからです」(嬴政)

 

「あ、あなたこそふざけないで下さい」
「今…そんなに命懸けで二人の御子を助けようとしている熱意を…愛情をっ…」
「どうして政様に向けることが出来なかったのですか」(向)

 

「どんなにつらい世界であったとしても…」
「大王様にとっては、大后様がたった一人の母親だったんですよ」(向)

 

「(これから?) 正直…それが分かる人間は唯一人としていない」(呂不韋)

 

「しかし不思議と…心の隅でどこか高揚しているのも事実です」
「さすが私の息子です」(呂不韋)

 

「知っての通り、美姫…大后様は私の元恋人」
「──しかし蓋を開けてみれば、出産した日がどうやっても計算が合わなかった」(呂不韋)

 

「…今のは、本当にそうであったならばと」
「実はごくたまに思う時もあったという話です」(呂不韋)

 

「お互いに…よく生きてここまでこれたものです…」
「あなたは全てを失ってしまったが…どういう形であれ…旅が終わったのです」(嬴政)

 

「裸足で棘だらけの道を歩まされた、あなたの旅が……ようやく…」(嬴政)

 

黒羊丘編

41巻

「(裁くまで)半年……まァ、しょうがねェか」
「打ち倒した相手はそれだけでかかったって話だ」(信)

 

「覚えてるか、政」
「初めて会った時、俺はお前に王なんて誰でもいいって言ったの」(信)

 

「あれは俺の間違いだ」
「誰でもよくはねェ、王こそ大事だ」(信)

 

「お前しかいねェ」
「中華を統一して、戦国を終わらせれる王はお前だけだ、政」(信)

 

「国内統一でも数えきれぬ程の犠牲と苦痛を伴った」
「それが中華となれば、その比ではない」(嬴政)

 

「だが秦国内の争いは無くなったぜ」
「そういうことだろ」(信)

 

「それに、苦痛しかなかったわけじゃねぇよ」(信)

 

「その(一丸となる)極限状態を秦国が持続できる限界の年数が”十五年”」
「つまり、ここから十五年で六国全てを滅ぼして、中華を統一する」(嬴政)

 

「昌平君も俺も本気でやるつもりだ」(嬴政)

 

「ゆくゆくは、秦の六大将軍が復活する」
「信。お前はそこに割って入り、必ず六将の一席を掴み獲取れ!」(嬴政)

 

「……いよいよ待ったなし、雄飛の刻(とき)だ!」(嬴政)

 

「列国にとっては絶好の攻め時だ」
「儂が趙で現役なら一時的に魏と和平し」
「一気に大軍で南下して大いに領土を削り取るがのォ」(廉頗)

 

「失せろ。私は宮廷とかでブヒブヒやってるブタ共が大嫌いなんだよ」(媧燐)
「同じく私も武将の類の人間が心底嫌いだ」(李園)

 

「だが、国家瓦解の危機にあるこの時、私は貴殿に頭を下げねばならぬ」
「──私と共に宰相の席に座り、新しい大国楚の土台を築いてくれ、媧燐」(李園)

 

「(剣?) どうした? 俺は味方だぞ?」(桓騎)

 

「黒羊はでかい、実力のあるお前達の援軍は本当に嬉しく思っている」
「ただ一つだけ、青臭ェ戦(や)り方やってるっつー話だけはがっかりだ」(桓騎)

 

「……だが桓騎軍(ここ)に来たからには、桓騎軍(ここ)の戦り方に従ってもらう」(桓騎)

 

「ここでは略奪・虐殺、何でもやるからそのつもりでいろ」
「やりたいことは全部やる」(桓騎)

 

「勝つためだ、全ては」(桓騎)

 

「お前らも一皮むけるいい機会だ」
「ここで大人の戦いを覚えていけ、飛信隊」(桓騎)

 

「重要な役目の片方をお前に与えてやってんだ、しっかり期待に応えろよ」
「失敗したらただじゃすまないぜ? お前」(桓騎)

 

「これ(樹海)に似た所で育った、問題ない」(羌瘣)

 

「…少しだけ、二人とも頭の片すみに入れておけ」
「きっとここは、丘の取り合いだけの単純な地じゃない」(羌瘣)

 

「退がるな、飛信隊!!」
「背を見せるのは今は危ねぇ、はさまれてんなら背を助けあってその場で戦え!!」(信)

 

「秦国のアホ共よ、うちらの大将・紀彗が出陣前に言っていたぞ」
「この”黒羊”では、相手を翻弄した方が勝つってな」(馬呈)

 

「……この黒羊では、強引にでも先に戦の主導権を手にすることが重要です」(紀彗)

 

「博打ではない!」
「私はあの二人の力を信頼している」(紀彗)

 

「さっそく仕事だ、ゼノウ」
「お前の”力”で盤上を叩き壊してこい」(桓騎)

 

「用心深いからではない」
「まだ下で桓騎の匂いを嗅いでいないからだ」(慶舎)

 

「無用な口出しだ、紀彗」
「今は私と桓騎の間に割って入るな」(慶舎)

 

42巻

「戦で最も恐ろしいことは──」
「優位に立っていると思っていた状況が、知らずに己の死地へと変わっていることだ」(岳嬰)

 

「(敵を)止めに行くのではない、”狩り”に行くのだ」(慶舎)

 

「そこで静かにしていろ、紀彗」
「桓騎の片腕が砕ける音を聞かせてやる」(慶舎)

 

「(後続?) 全て叩きに行け、一隊も前に通すな」
「ここで完全に頭と後続を”分断”する」(慶舎)

 

「もう出した手は引けぬぞ、桓騎…」(慶舎)

 

「趙の奴らには素人丸出しの逃げに見えてるだろうな」
「だが何だかんだであの逃げ方が一番多く助かるんだよなァ」(桓騎)

 

「元野盗団の桓騎軍はどんな下手うったとしても」
「ぜってェ手ぶらじゃ帰らねェんだよ!」(雷土)

 

「今私達は敵の後ろにいる」
「こんな好機はめったにない」(羌瘣)

 

「オイ伝者、帰って桓騎将軍に伝えろ」
「やらかしちまった責任の重大さは俺達が誰よりも重く受け止めてる!」(信)

 

「だから二日目以降で必ず目前の敵を撃破し」
「俺達飛信隊が戦局を覆すきっかけを作る!」(信)

 

「そして最後はこの俺が敵将・慶舎の首をとって」
「黒羊の戦いを勝利に導いてやるってなァ!!」(信)

 

「今日一日の苦戦の中で、やれることやれないこと、この樹海地での戦い方が大体分かった」
「この首にかけて明日は前線を突破して、隊を中央丘横まで持って行く」(河了貂)

 

「三千将とかになると」
「さすがに敵を討つのにどのくらい味方に犠牲が出るかを少しは考える」(羌瘣)

 

「そして今、万の軍の敵将の首を、犠牲無しで討てる好機がある」(羌瘣)

 

「そうだな」
「つまり、飛信隊のために無茶をやるんだ」(羌瘣)

 

「確かに難しくはあるが勝算がないわけじゃない……」
「仮にも、千年前からこういう仕事をやってきてる一族の出ではあるからな」(羌瘣)

 

「偶像崇拝か」
「珍しいな、軍の将にしては」(羌瘣)

 

「別に笑いはしない」
「ただ、命をもらうだけだ、趙将」(羌瘣)

 

「これ(人形)はすがるものではなく、奮わせるものだ」(劉冬)

 

「昔、唯一のものを失くした」
「そして今はまた…別のものを持っている」(羌瘣)

 

「副長自らのこの無謀」
「お前の決意の深さの現れとして、あえて敬意を払おう」
「だが、俺も倒れられぬ理由がある」(劉冬)

 

「お前達秦軍を、黒羊の先へ行かすわけにはいかん」(劉冬)

 

「川辺の陣の強さは、通常の陣のそれの”十倍”らしいぜ?」
「つまりここがお前らの進軍の”終着地”てわけだ、飛信隊」(馬呈)

 

「今は全て軍師にかかってる。オレを信じて待ってて、信」(河了貂)

 

「対岸を陣取られた渡河の戦いは、野戦の中で一番の難題だ」
「突破口となるのは”橋”か”船”」(昌平君)

 

「しかしもしこの二つが無い場合は”無手”の状況」
「つまり打開策がないということだ」
「この場合は長期戦に切り替えるしか道はない」(昌平君)

 

「あきらめちゃダメだ。たとえ昌平君が”無手”と言った状況であっても」
「そこに道を切り開くのが飛信隊の軍師だ!!」(河了貂)

 

「どんだけ模擬戦をやっても、やっぱり舟か橋がないとこの川は攻略できない」
「でも舟を作る時間なんて当然ない」(河了貂)

 

「だから橋をかけるしかない」
「これから飛信隊流の橋をかけて、この川を攻略する」(河了貂)

 

「川如きにひるむなっ、ここのために仲間達は血を流しているのだ」
「っ私に続けっ、ここに飛信隊の橋をかけるぞ!!」(渕)

 

「この渡河には”武力”も”知略”も必要ない。必要なのは”別のもの”だ」
「そして、それは誰よりも渕さんが強く持ち合わせているものだ」(河了貂)

 

「”責任感”だ」(信、河了貂)

 

「たった百人から始まったこの隊の…結成当初から副長を七年務めてんだ」
「信頼を置けるのは武力や知略にだけじゃねェんだよ」(信)

 

「やってくれ、渕さん」
「この場を一番に任せられんのは──渕さんだ!」(信)

 

「信殿、あなたはアホそうに見えて…意外と策士だ」
「そんな目で、そんな風に言われたら…為し遂げぬわけにはいかぬじゃないですか!!」(渕)

 

「…テン、ひょっとして超えたか?」
「昌平君をだよ」(信)

 

「バッ、バカなこと言うな。先生はオレの十倍凄いんだぞ」
「でも、今日ので九倍くらいにはいけたかもしれない」(河了貂)

 

「安心して待ってろ、お前達の力を使う時が必ず来る」
「そん時は、俺達桓騎軍が勝つ時だ」(桓騎)

 

43巻

「今、右の戦場の”主導権”は完全にオレ達が手にしてる」
「これからそれを桓騎軍全体のものに広げる」(河了貂)

 

「音を立てるな」
「今…いいところだ」(慶舎)

 

「来い、桓騎」
「早くお前の匂いをかがせろ、足音を聞かせろ」
「そうすれば鼓動も伝わり、お前の心臓を握りつぶせる」(慶舎)

 

「お頭は基本フザけてるが、無駄なことは好まない人だ」(那貴)

 

「だから、今回はすっぽかした方が”得”するって思ったってことなんだろ?」(那貴)

 

「逆だよ、強敵ならなおさら仲間達の元に戻らないと」
「……どんな相手だろうと負けるわけにはいかないんだ……」(羌瘣)

 

「その矛の若い男が信だ」
「李牧様が桓騎と並べて名指しであげた標的だ」
「確実に首を狩り取れ」(慶舎)

 

「そういう奴に限って、最後は俺の手の平の上でクリクリ踊って」
「ぶっ殺されて大グソ漏らすって話だろ?」(桓騎)

 

「”沈黙の狩人?”」
「あっさり血相変えて動きやがって、ザコが」(桓騎)

 

「実戦で慶舎を討つのは私でも至難のワザでしょう」
「なぜなら慶舎は常に自分の張り巡らせたアミの中で相手の失敗を”待つ”からです」(李牧)

 

「彼を討つにはその”アミ”の外に、何とか彼を出さないといけない」(李牧)

 

「胸に留めておきなさい、副官金毛」
「慶舎がもしその”アミ”の外に出た時は」
「いくら慶舎と言えど討たれる恐れがあることを」(李牧)

 

「しっかりと目に焼きつけて死ね、慶舎」
「それが、狩られる奴の見る景色だ」(桓騎)

 

「ひるむな、離眼兵」
「こ…これほどの暴力、こんな獣の如き奴らだからこそ」
「何があっても黒羊を抜かせるわけにはいかんのだ!!」(紀彗)

 

「今回はその見落としがこちらに”吉”と出て、お前の方に”凶”と出ただけのことだ…」(慶舎)

 

「お前の”恐ろしさ”は十分に分かった…」
「そしてお前の”弱点”もよく分かったぞ」
「桓騎…首を洗って待っていろ……」(慶舎)

 

「全てを出し尽くさねば、この敵は止められぬ……」
「だが、三人が力を合わせれば必ず勝てる」
「馬呈、劉冬、離眼の力を侵略者に叩きつけるぞ」(紀彗)

 

「敵の視界から消えてるんなら丘の乱戦なんか無視して、もっとでけェもんが狙えるはずだ」
「俺達の手で敵の総大将・慶舎の首を取るぞ!!」(信)

 

「この戦いは、かつての六将級と言われる桓騎と」
「三大天の最後の一席につこうとしている私」
「二人の傑物の戦いだ」(慶舎)

 

「その間に割って入れると思ったか」(慶舎)

 

「李牧様が脅威としているのはお前達の成長後の力、今ではない」
「来るには五年早かったな、飛信隊」(慶舎)

 

「よく聞け、慶舎」
「昔、王騎ってすげェ人がいた」
「その人が先頭を走る時、後ろの兵は鬼神と化し、いつもの十倍強くなった」(信)

 

「そういう”力”が大将軍にはありやがる」
「それを今からてめェに見せてやる」(信)

 

「ヤロォ共、へばってんじゃねェぞ」
「苦しいんなら俺の背を見て戦え、俺の背だけを見て追いかけて来い!!」
「続け飛信隊っ!!」(信)

 

44巻

「趙将・慶舎、別にあんたの落度ってわけでもない」
「皆が騙されてる」
「周囲の想像以上に飛信隊とその隊長・信は強い」(那貴)

 

「だよな……俺らが新六将の席を狙ってるように」
「趙で三大天の席を狙ってるお前の刃が軽いわけがねェよな」(信)

 

「侵略者じゃない」
「私達は…飛信隊だ…」(羌瘣)

 

「妙だな……この男のことはずっと前から見ている……」
「李牧様と同じように、その成長を注視していた」(慶舎)

 

「しかし……この男は想定していたよりも…はるかに大きい」
「いつの間にこれ程の成長を」(慶舎)

 

「……おのれ…今度はこちらにっ…”凶”と──……」(慶舎)

 

「無縁……恩を返しきれなかった……」(慶舎)

 

「ただの口約束だが、お前が恐れるようなことは離眼では起こさせない」(羌瘣)

 

「(敵は)紀彗…なるほどねェ──……」
「この戦…勝ったな」(桓騎)

 

「長くやってるせいでお前ら最近、考え方が”軍”に染まってきてねェか?」(桓騎)

 

「理由だの、戦術だの、どうでもいいだろが」
「四の五の言わずに、昔みてェに俺を信じろ」(桓騎)

 

「俺のやってることはいつも、完全勝利の結果につながっている」(桓騎)

 

「次は、久々に俺達らしいやり方で存分にやる」
「”弱者をいたぶる”」(桓騎)

 

「……生きてやがったか、面倒くせーのが」(桓騎)

 

「いちいち喚くな、ただの凌辱と虐殺だ」(桓騎)

 

「最初に言ったの忘れたのか?」
「俺は何でもやると」(桓騎)

 

「(全て勝つため?) ああ、だからこうやって勝つんだよ」(桓騎)

 

「そいつも同じことを言った、これが”戦争だ”と」
「だがそれは戦争じゃねェ!!」(信)

 

「俺ももう五千将だ、侵攻がどういうもんか昔よりさらに分かってる」(信)

 

「だが、敵や制圧した地での反乱に対する刃と」
「無力・無抵抗の人間に向ける刃は決して違う」(信)

 

「それを同じだと…それが戦争だと言い切る奴は、武将・兵士じゃなくただの略奪者だ」(信)

 

「そんな奴らがどれだけ強かろうと、どれだけ勝ち続けようと」
「”中華統一”なんてできるわけがねェ!!」(信)

 

「参った、お前が一番だ」
「俺が今まで会った中で、お前が一番の悪党だと言ってんだよ、信」(桓騎)

 

「中華統一……」
「お前のその目…為しとげりゃ戦がなくなる平和な世が来ると言いてェんだろ?」(桓騎)

 

「極悪人が」
「中華統一ってのは強大な軍事力をもって」
「敵国が抵抗できなくなるまでとことん殺しまくって」
「その国の土地と人と物、全部をぶん捕っちまうことだ」(桓騎)

 

「”大殺戮”・”大略奪”」
「それをやって平和な世界が来たって喜ぶのは秦人だけだ」(桓騎)

 

「誰が言い出したか知らねェが、たまにいるんだよ」
「狂気じみた正義ふりかざして、しでかしちまうバカが」(桓騎)

 

「オイ。斬られないと思っているのか、お前」
「相応の覚悟で来ているぞ、私達は」(羌瘣)

 

「俺を殺って、その後飛信隊が皆殺しにあう覚悟だよな」
「面白ェ。見せてもらおうか、その覚悟」(桓騎)

 

「自業自得だろうが、今までやってきたことは何だったんだ!!」
「何年飛信隊をやってるんだ」(羌瘣)

 

「お前は同郷で…古参で一番長い人間のくせに…」
「全く信のことが…全く飛信隊のことが分かってないじゃないか!!」(羌瘣)

 

「目障りだ、失せろ」
「俺の気が変わる前にな」(桓騎)

 

「分かってるだろうが、俺がキレたら雷土よりおっかねェぞ」
「今のうちに消えろ」(那貴)

 

「でもそこは譲りたくない」
「ガキ二人で胸高鳴らせた、誰より強くてかっこいい天下の大将軍に…」
「俺は本気でそういう将軍になりたいと思ってる」(信)

 

「そして、飛信隊もそういう隊でありたいと思ってる」(信)

 

「桓騎軍に入ってて分かったんだ、飛信隊と桓騎軍の決定的な違いに!」
「桓騎軍と違って飛信隊は、渇いてねェんだ」(尾平)

 

「心が渇いてねえから、略奪も凌辱も必要ねェんだ」(尾平)

 

45巻

「こんなの…軍略でも戦術でもない…」
「こんな勝ち方…昌平君でも李牧でも決して真似できやしない」(河了貂)

 

「結果だけを見れば、大軍略家の出せる以上の結果を叩き出したことになる…!」(河了貂)

 

「だがその(止める)ためには、奴の上に行く必要がある」
「桓騎より先に大将軍になる」(信)

 

「悩むことはないだろ信」
「お前は尾平に言ったように、お前のやり方で天下の大将軍になればいいんだ」(羌瘣)

 

「……ただの気まぐれですよ、いつもの」
「ただ、まー強いてあげるなら」
「飛信隊(あっち)で食う飯ってうまいんスよね、意外と」(那貴)

 

「ここで慶舎に誓っておきます」
「私がこの手で仇(あだ)を討つと」(李牧)

 

「あれ(合従軍)程、大がかりなものを興せる人物は今の中華には見当たらぬし」
「そもそも──あんなものはこの俺が二度と作らせはせぬ」(昌平君)

 

「(大逆罪?) じゃがな、かつて東帝・西帝と中華に恐れられた時代もあった」
「東の斉王と西の秦王が直接会って対話する意味を考えると」
「この干からびた首など蝶の羽より軽いものだぞ」(蔡沢)

 

「大王、この蔡沢の最後の仕事としてお引き受け頂けませぬか」
「列国を滅ぼさんとする王として」
「それを東の玉座で受けて立つであろう斉王と舌鋒をお交わし下さい」(蔡沢)

 

「密室でただしゃべるだけならわざわざ秦まで足を運ばぬわ」
「儂は秦という国と王を感じに咸陽(ここ)まで来たのだ、丞相よ」(王建王)

 

「あの時合従から離脱した本当の理由は」
「合従が秦を滅ぼしてその土地と人間を六国で取り合った後の世が」
「見るにたえぬ汚濁になると思ったからだ」(王建王)

 

「……だが、あろうことかそこで救われたお前達が今度は」
「六国を滅ぼし全てを手に入れて、それ以上の汚濁を示そうとしている」(王建王)

 

「中華統一を汚濁と断ずるならば、俺は断固としてそれを否定する」(嬴政)

 

「だがな秦王、”六国征服”と”人を殺さぬ世”」
「この間にはとてつもなく重い現実が抜け落ちている」(王建王)

 

「”国”を滅ぼされ、その日より仇敵国の人間に──」
「強制的に”秦人”にならされる六国の人間達の苦しみだ」(王建王)

 

「”国”とは民にとって”根”をはる大地のようなものだ」
「その国が失われれば、人は必ず心身共に朽ち果てる」(王建王)

 

「即ち、今の六国の人間全てが朽ち果てる」(王建王)

 

「それを聞くためにはるばる咸陽まで足を運んだ」
「もし答えが用意されていないままの六国征服だと言うのなら…」
「その前に第二の合従軍で秦を滅ぼさねばならぬぞ」(王建王)

 

「これが征服戦争ではなかったことを説いて、理解してもらう必要がある」(嬴政)

 

「違う。中華統一は、新国建国の戦争だ」(嬴政)

 

「この中華統一の成功は、全中華の民を一手に実行支配するものにかかっている」
「だがそれは絶対に”人”であってはならない!」(嬴政)

 

「”法”だ」
「”法”に最大限の力を持たせ、”法”に民を治めさせる」(嬴政)

 

「”法”の下には元斉人も秦人も関係ない」
「王侯貴族も百姓も関係なく、皆等しく平等とする!」(嬴政)

 

「斉王よ。中華統一の後に出現する超大国は」
「五百年の争乱の末に”平和”と”平等”を手にする”法治国家”だ」(嬴政)

 

「それではもはや、”王国”とも言えぬぞ」(王建王)
「小事だ」(嬴政)

 

「その(戦う)時──秦王の目の色が今と変わって汚く濁っていたならば──」
「斉も死力を尽くして国を守るとするかのォ」(王建王)

 

「この中華はもううんざりするほど血を流してきたが、泥沼からの出口が見つからぬまま」
「これからもずっと血を流すのだろうと──」(王建王)

 

「儂はもはや、出口はないものと思っていた…」
「──がひょっとしたら出口の光を今見つけたのやもしれぬ」(王建王)

 

「秦王よ、そなたにならこの全中華の舵取りを任せてもよいぞ」(王建王)

 

「李牧が化物であることは承知している……」
「そしてその奴を倒さねば六国制覇がかなわぬことも重々承知だ」(嬴政)

 

「これより出ずる秦の大将軍達が必ず李牧の首を取る!」(嬴政)

 

「最後に為して行った仕事は真に大きかったぞ、蔡沢」(王建王)

 

「歓迎されておらぬのは百も承知です」
「──が、間に合ううちに何としても大王様に上奏したきことがあり参上しました」(李牧)

 

「秦王様、どうか手遅れになる前に中華統一の夢をあきらめて頂きたい」(李牧)

 

「大王様。私は正直、あなたのことを心から尊敬しております」
「──本当なら、あなたのような王にお仕えしたかった」(李牧)

 

「そこから先は正に、血で血を洗う凄惨な戦が待っています」(李牧)

 

「統一後の理想の世など、そこで倒れていく者達に何の慰みになりましょう」
「流れる血も、大量の死も、紛れもなく悲劇そのものです!」(李牧)

 

「(手を取り合っての平和?) ない。統一以外に道はない」(昌平君)

 

「この戦で全中華を悲劇が覆うことなど百も承知だ!」
「だがそれをやる」(嬴政)

 

「綺麗事など言う気はない!」
「よく聞け李牧と趙の臣達よ」
「秦は武力を以って趙を含む六国全てを攻め滅ぼし、中華を統一する!!」(嬴政)

 

「血を恐れるなら、お前達は今すぐ発ち帰り趙王に完全降伏を上奏するがいい!」(嬴政)

 

「残念ですが”宣戦布告”、しかと承りました。」
「しかし最後に後悔するのは秦国の方ですよ、大王様──」(李牧)

 

「本気で秦が六国制覇に乗り出すと言うのなら」
「この中華七国で最初に滅ぶ国こそ”秦”だと言っているのだ」(李牧)

 

「そうなる前にこちらはお前を討つと言っておるのだ、李牧」(昌平君)

 

「今いる秦将全員がまとめてかかってきても、この李牧の相手ではない!!」
「それでもやると言うのならかかってくるがいい!!」(李牧)

 

「だがこれだけは覚えておけ」
「趙は絶対に落ちぬ」
「この戦いで滅びるのは秦であると!」(李牧)

 

46巻

「よくあんな苦しい選抜を残ったな、お前ら」
「大したもんだ」(信)

 

「だがここまできたら絶ってェやり遂げて、さっさと一人前の兵士になりやがれ!!」
「お前ら全員もう、大武功めがけて走り続ける飛信隊なんだからよ」(信)

 

「”法の番人”の異名は伊達じゃない」
「李斯──奴こそ”法”の化物だ」(肆氏)

 

「法家は法学書を読み、新しき法の草案を考えるものだ」(李斯)

 

「俺に来ずともよい」
「俺が死んでもお前が死んでも、法は生き続ける」
「成長をとげながらな」(李斯)

 

「法とはそういうものだ」(李斯)

 

「中華を一国とした法治国家」
「お前のしゃべっていることは、法家の真髄に触れている」
「お前如きの理解が届く所ではない」(李斯)

 

「──中華を統一できたと仮定し」
「そこで単純に国民が増えたという認識で法作りに入ると大失敗に終わる」(李斯)

 

「(敵国の人間だから?) 違う、文化形成が違うからだ」(李斯)

 

「そもそも”法”とは何だ?」(李斯)

 

「馬鹿な!」
「刑罰とは手段であって、法の正体ではない!」(李斯)

 

「”法”とは願い!」
「国家がその国民に望む、人間の在り方の理想を形にしたものだ!」(李斯)

 

「統一後、この全中華の人間にどうあって欲しいのか、どう生きて欲しいのか」
「どこに向かって欲しいのか、それをしっかりと思い描け!」(李斯)

 

「中華統一の話を聞いた」
「統一後に制定される法についても…」(李斯)

 

「とてもここにいるお前達の手におえる代物ではない」
「それに着手できるのは、この中華でも俺と韓非子くらいだ」(李斯)

 

「かつての政争で恨みを抱いたのはお互い様だ」
「だがその時期は過ぎたと心得よ」(嬴政)

 

「誠に秦国一丸となって立ち向かわねば、中華統一の宿願は形も残らず崩れ去るぞ!」(嬴政)

 

「力を入れているということは、気を取られているという見方もできます」
「よって我々は西部攻略を”囮”にして南を抜け」
「一気に邯鄲の喉元”鄴”を攻め落とします!!」(昌平君)

 

「鄴と邯鄲は目と鼻の先」
「手前の攻略を無視しての鄴攻めが、童の夢想の如き話であることは重々承知です」(昌平君)

 

「しかしこれ程、突飛な作戦でなくては、あの李牧を出し抜くことはできません」(昌平君)

 

鄴攻略編

「誰にも見えておらぬ道を探すのだ」
「必ずどこかに答えにたどり着く道の入り口がある」(昌平君)

 

「正気の沙汰じゃないけど面白いね」(蒙恬)

 

「鄴攻めの”可否”はともかく、西部攻略を”囮”にして一気に鄴を落として」
「趙王都・邯鄲に王手をかける策は恐らく、あの李牧をも欺く恐るべき一手だ」(蒙恬)

 

「三人を召還したのは作戦に自信がないからではなく」
「戦略上お前達三隊の動きが重要になってくるためだ」(昌平君)

 

「想定していない事態が必ずふりかかる」
「故にそこで重要になってくるのが、瞬間瞬間での的確な現場判断だ」(昌平君)

 

「鄴攻めは…これまでにない重大な戦い、かつ過酷な戦いとなる」
「だがあえてこれは中華統一への難関の一つにすぎぬと言いたい!」(嬴政)

 

「この先も三人の力が必要となる!」
「よいか、必ずこの戦で大功をあげ、三人そろって”将軍”へと昇格しろ!」(嬴政)

 

「間違っても、死ぬなよ」(嬴政)

 

「たしかにこの三隊は、そこらの大隊より重要なのは分かる」
「…でも、やっぱり一番重要なのは、鄴攻めの全権を担う総大将だよ」(河了貂)

 

「六将胡傷こそ、俺の軍略の師だ」
「その胡傷が、昔俺に言ったことがある」
「王翦は……その”軍略の才”だけで、六将の席に割り込んでこれる逸材だと」(昌平君)

 

「授けた鄴攻めの攻略は、戦局の流れによっては捨てていい」
「適宜、判断を将軍に任せる」(昌平君)

 

「(気負いがない?) 別に遅かれ早かれ」
「こういう勝負かける大戦は何度か来ると思ってたからな」(信)

 

「政、そんなことよりあれは!?」
「ああ、王騎将軍の矛だ」(信)

 

「今、改めて持ってみると…やっぱすっげェ重いし、すっげェ熱い」(信)

 

「敵の兵糧の量と流れをしっかり追うように」
「それで敵の意図が分かります!」(李牧)

 

「鄴攻めを知る中で昌文君とお前が一番力が入りすぎている」
「その不自然な緊張は下の兵にも必ず伝わる」(楊端和)

 

「そして、それがそのまま敵にも伝わる」(楊端和)

 

「いつもの戦と変わらぬ気配を装え」
「これだけの大軍、敵の間者も必ず紛れ込んでいる」(楊端和)

 

「相手はあの李牧だ」
「戦はすでに始まっているぞ、河了貂」(楊端和)

 

「雨ン中の行軍は、バカみてェに疲れるからな、体力温存しとけってことだろ」
「ま──逆に言えば…走る時はとことん走らすぞってことだ」(桓騎)

 

「軍の体力調整…王翦将軍の本番への助走はもう始まっているんだ…」(河了貂)

 

「兵糧中継地が隠すものなら決まってるだろ」
「それは──二十万の兵が何十日も食える分の兵糧だ」(舜水樹)

 

「フッ、”戦国”か」(王翦)

 

「対秦で西に軍を固めすぎれば東が手薄になる」
「それを黙って見守る程、お人好しではないぞ」(オルド)

 

「李牧、俺とも少しは遊ばんかい」(オルド)

 

「(夜営せず)すぐ発つ故、手短に話す」
「全軍この金安より進路を変え、”鄴”へと向かう」(王翦)

 

「各将責任を持って己の軍・隊を動かせ」
「もたつく小隊が一つでもあれば、その上に立つ者、つまりここにいる誰かの責任となり」
「容赦なくその者の首をはねる」(王翦)

 

「よいな」(王翦)

 

「……欺かれている──!?」
「二十万もの連合軍を興して、どこを攻めに向かう」(李牧)

 

「南へはすぐに黄河に道を阻まれる」
「そこから東へ向かっても、その先にあるのは鉄壁の王都圏──!?」(李牧)

 

「”鄴”か──!!」
「正気か、秦軍(お前達)は!!」(李牧)

 

「少しでも早く気付いてくれたおかげで、逸早く鳥を邯鄲に飛ばせました」
「その”差”が、勝敗を大きく分けるかも知れません」(李牧)

 

47巻

「──城の作りはともかく、まずは何より厄介なのはあの士気の高さだ」(蒙恬)

 

「合従軍の蕞でもそうだったように」
「守る人間の士気しだいで、城は何倍にも強くなる…」(蒙恬)

 

「(二日以内?) 半日で落とす」(楊端和)

 

「城攻めは単純だ」
「城壁を登って裏に回って内から門を開け、部隊を突入させて中を制圧する」
「それ以外に何か手があるのか?」(楊端和)

 

「心配無用だ」
「山の民には山の民の戦い方がある」(楊端和)

 

「見ていろ」
「楊端和は、いつも敵を真正面からねじ伏せる」(バジオウ)

 

「あんな小城が、この山界の王の刃を受け止めきれると思うか」
「あんなものでっ、山の刃をふせげると思うかっ」(楊端和)

 

「平地に見せつけてやれ、百の山界の戦士達よ」
「山の民の力を!」
「恐ろしさを!!」(楊端和)

 

「者共、血祭りだァァッ」(楊端和)

 

「(殺られる?) 気にするな」
「うちは大体、こんな感じだ」(楊端和)

 

「俺達は、ちゃんと分かって来たはずだ」
「ちゃんと……!」
「だけど、予想外のことが二つ起こった」(蒼仁)

 

「一つは、覚悟が少し足りてなかったこと」
「そしてもう一つは、手の震えが止まらないってことだ」(蒼仁)

 

「大丈夫だ。覚悟を今決めればいいし」
「俺達にとってこの距離の弓なら、多少の手の震えなど何の問題でもない」(蒼仁)

 

「俺達が撃てない間に、敵の矢が梯子を登る味方を一方的に殺してる」(蒼仁)

 

「それを止める、今は…それだけだ」
「それだけを考えて、兄ちゃんに続け」(蒼仁)

 

「お前らみたいなはねっ返りは、初陣で舞い上がってよくすぐ死ぬ」(崇原)

 

「だからこの乱戦じゃ、生き残ることだけ考えて戦え」
「生き残ったら、後で少しだけ褒めてやる」(崇原)

 

「何言ってんの」
「列尾はここ(落として)からが忙しいんだよ」(河了貂)

 

「一生に一度の初陣の夜の酒だ」
「どんな味かしっかりと味わっとけ」(松左)

 

「それにね、震えてこその飛信隊だよ、仁」
「その優しさと弱さは、これから強くなれる証だ」(河了貂)

 

「だから…この手の震えは、決して恥じるものではないよ、仁」(河了貂)

 

「勢いでどうにかなる戦いではない」
「不用意にこのまま王都圏に侵入して行けば、この二十万本当に全滅するぞ」(王賁)

 

「やっぱ若ェな、ザコ共は」
「何でそこに第四の選択肢がねェんだよ」(桓騎)

 

「逆にこっちからこの列尾を捨てて、全軍で王都圏に雪崩れ込み」
「兵糧が尽きる前に”鄴”をぶん捕っちまうって手だ」(桓騎)

 

「(鄴) 完璧だ」
「完璧な城だ、あの城は攻め落とせぬ」(王翦)

 

「昌平君の授けた鄴攻略の策は、この列尾で潰えた」
「よって、この連合軍は私の策をもって列尾を越える」(王翦)

 

「つまりここからは、この王翦と李牧の知略の戦いだ」(王翦)

 

「全ての兵糧を持ち、全軍で出陣だ」
「鄴を奪うぞ」(王翦)

 

「総大将の決定だ」
「俺達は持ち場で命をかけるだけだ」(王賁)

 

「別に興味はねぇが一応王翦とは、白老の下で副将やってた時からの付き合いだ」
「俺の知る限りあの野郎は、負ける戦は絶対に始めねェ」(桓騎)

 

48巻

「兵糧攻めを受けときながら、相手の民を使って兵糧攻めで返すのかよ…」
「やっぱお前ぶっ飛んでんな、王翦」(桓騎)

 

「王国を滅ぼすのは敵に非ず──と言います」
「商の紂王然り、周の厲王しかり」
「現趙王がその類に入らぬことを願うばかりです」(李牧)

 

「しのいでみせる」
「この暗闇をしのげば…嘉太子の時代が来た時、趙に真の光がさす……」(李牧)

 

「(偏りすぎ?) 閼与が”本命”だからだ」
「李牧は必ず閼与軍に入って攻めて来る!」(王翦)

 

「……ここからは、いよいよ力と力の勝負です」
「鄴の”陥落”か”解放”かは」
「どちらが相対す敵を討ち破るかどうかにかかることになりました!」(李牧)

 

「……着きましたか」
「では将校らを今すぐここへ、勝利までの作戦を伝えます」(李牧)

 

「(まともに来た?) だったら仕方がない、こっちも行こーか」
「……いつも通りだよ、また後で会おう」(蒙恬)

 

「狩り場へようこそ」(蒙恬)

 

「(策?) 必要ありません」
「心配せずとも楽華隊の戦い方で、きっちり麻鉱軍の”波状攻撃”につなげますよ」(蒙恬)

 

「最高の形を作って待っているので、そこからはしっかり頼みますよ、麻鉱将軍」
「もたついたら”主攻”の座をうちがもらいますからね」(蒙恬)

 

「一度、敵の視界から消えようか」
「次の一手で大将・紀彗の首を取る」(蒙恬)

 

「(俺を幕僚に?) 笑えないな」
「俺を入れるくらいなら…その前に入れるべき男がいるのではありませんか?」
「王翦将軍」(蒙恬)

 

「誰の練った策だ」
「愚策だ、今から練り直すぞ」(王賁)

 

「奴らはこの一国を滅ぼすつもりで来ている……」(馬南慈)

 

「道を踏み外す程に思い上がった愚か者共に」
「実はずっとこの馬南慈の怒りの鉄槌を喰らわしたく思っておったのですよ」(馬南慈)

 

「(馬南慈?) 知らぬ名だな、それに覚えるまでもない」
「この玉鳳隊・王賁が一撃で貴様の眉間に風穴をあけてやる」(王賁)

 

「名を知らぬか。まァ、そうであろうな」
「それに本物の修羅場では、飾られた名など何の意味も持たぬ」(馬南慈)

 

「互いの思いの折り合いがつかぬから、”力”で是非を決するこの戦場がある」(王賁)

 

「来い、馬南慈」
「秦王の刃として、貴様をここに沈めてやる」(王賁)

 

49巻

「この趙峩龍軍の出陣は敵がもっと弱ってからだ」
「十分に弱ってから食しに行く」(趙峩龍)

 

「隊内で足の速い八百騎を選りすぐって、今すぐ出陣せよ」
「左の戦場へ割って入り…お前が趙将・紀彗の首を取って来い!」(王翦)

 

「この戦いで勝つにしても奴らを深く引き込んで」
「一人残らず息の根を止めたいと思っている」(舜水樹)

 

「そのまさかだ…”橑陽の牙”で、あの秦軍の肉を引き裂く」(舜水樹)

 

「敵が退がる理由として考えられるのは二つだ」
「一つは、この先に趙軍に有利な戦場があるのか」
「もう一つは、強力な援軍が待っているかだ」(楊端和)

 

「この城には…橑陽城には、趙人とは異なる人種の人間が巣くっているのだ」(舜水樹)

 

「”犬戎”だ」
「かつて中華の周王朝をその手で滅ぼした、大犬戎族の末裔が城を占拠している」(舜水樹)

 

「分かっている」
「我らと同じく──連中からも獣の気配がする」(楊端和)

 

「(山民族?) 存じておる、我らこそ西戎の祖だ」
「”山の王”などとのぼせあがった小娘の生皮を、この手で全てはぎとってくれるわ」(ロゾ)

 

「我らがここで勝ち、向こうの戦場でも李牧様が勝つ──」
「それで秦は終わりだ」(舜水樹)

 

「テン、旗を掲げさせろ」
「この数で突っ込んで紀彗が気付かねェはずがねェ」
「だったら堂々とっ…てか、飛信隊の力を知らしめる」(信)

 

「そしてっ…俺はこの戦いで”将軍”になる!」(信)

 

「(本命は飛信隊?) 我が殿の策は、そう浅いものではない」
「戦は”流れ”だ」(麻鉱)

 

「どれでも本命になりうる流れ」
「これが敵にとって最も恐ろしい戦局よ」(麻鉱)

 

「無論、左(ここ)の主役はあくまで、この麻鉱であるがな」(麻鉱)

 

「今のこの形を崩すわけにはいかぬ!」
「窮地にあるのは…我々だけではない」(紀彗)

 

「目を光らせているのは、王翦だけではない…」
「”必殺”の別働隊を用いるのは…王翦だけではない!!」(紀彗)

 

「この戦いは、両翼の戦いと言っても過言ではありません」(李牧)

 

「その左右の戦いで相手に”隙”があれば」
「私が介入するということだけ頭に入れておけば十分です」(李牧)

 

「私がそういう手を使うと知らない相手には、必ず成功します」(李牧)

 

「この初日で必ず、決して覆らぬ程大局をこちらに傾ける決定打を私が打ち込みます」(李牧)

 

「(殺る?) 無用です」
「(馬の)脚で引き離せばいいだけの話です」(李牧)

 

「諸事情があったとしても、いずれの時もあなたの刃は私に届きませんでした」
「そして今も」(李牧)

 

「結局最後まで、あなたの刃が私に届くことはありませんよ」(李牧)

 

「李牧、よく目に焼きつけとけ」
「これがお前の策で討たれた王騎将軍の矛!!」(信)

 

「最後の六大将軍・王騎から俺が受け継いだ矛だ!!」
「これでお前を討つ!!」(信)

 

「李牧が自ら麻鉱を討ったんだ。あの流れは、もう止められない…」(河了貂)
「いや止めないと、この戦そのものが負けてしまう」(蒙恬)

 

「本当にここで会えて嬉しいよ、信」
「俺達で麻鉱軍を復活させるんだ」(蒙恬)

 

「失われた士気の回復」
「全てはそこにかかっている」(蒙恬)

 

「次の言葉で、麻鉱兵を復活させるんだ」
「麻鉱と共に練兵に明け暮れた日々の中で、麻鉱があんたらに一番多くかけた言葉だ」
「それを皆に伝えてもらいたい」(蒙恬)

 

「立って、戦え」(麻鉱)

 

「士気が戻っても、正しい軍略の下で兵を動かさねば意味はない」
「日没まで麻鉱軍が生きていられるかは、その”軍略”にかかっている」(蒙恬)

 

「躊躇も失敗も許されない」
「これからが本陣の本当の戦いだ」(蒙恬)

 

「蒙恬……あの昌平君(先生)ですら、その才能の底が見えなかったと言われた男」(河了貂)

 

「私に話しかけるな」
「今は、機嫌が悪い」(楊端和)

 

「誰が死のうが、あの人にとっては駒の一つを失ったにすぎぬ」(王賁)

 

「下手な感傷を一切持たぬという強み」
「何が起ころうとその中で冷静に策を組み重ねて、勝つために戦略を練り上げていく」(王賁)

 

「それが王翦だ、そう簡単に崩れはせぬ!」(王賁)

 

「若いが蒙恬は、私と李牧の間に割って入る程、戦が見えておる」(王翦)

 

「それに左ではない」
「明日以降火がつくのは、右翼だ!」(王翦)

 

「初日に左翼の将・麻鉱が死んだ」
「二日目は右翼で一人死ぬという流れだ」(趙峩龍)

 

「優秀な将を討つには策を積み重ねて追い込み、終盤に討つ方法と」
「初日に相手慣れする前に仕掛けて討ち取る方法がある」(趙峩龍)

 

「(二日目?) 私に対しては初日だ」(趙峩龍)

 

「数も質も完璧なる挟撃」
「勘の鋭いお前なら分かるであろう、王賁」
「助かる術(すべ)は一つもない」(趙峩龍)

 

「間違いなく、一つもだ」(趙峩龍)

 

50巻

「逃げ場など必要ない」
「俺達は攻めに行っているのだ」(王賁)

 

「王賁。六将とかの類の大将軍ってのは、どんな戦局どんな戦況にあっても常に」
「主人公である自分が絶対に戦の中心にいて」
「全部をぶん回すっていう自分勝手な景色を見てたんだと思うよ」(蒙恬)

 

「(真逆の作戦?) 仕方なかろう、今よい案を思いついたのだ」
「敵味方全てを掌で転がして勝つ、それが大将軍というものだ」(藺相如)

 

「中央軍の…大将・王翦の最終決戦のために、ひたすら血を流し敵を屠り続けるぞ」
「よいな、玉鳳ォ!!」(王賁)

 

「相手のことより、まずは己だ」
「見えざる敵を相手に練兵はしてきたが、実戦は久しぶりだ」
「それこそ本気の戦いとなると十数年ぶり」(尭雲)

 

「気付いておるか、峩龍」
「この地こそ、偉大なる主が最後に我らに予言された朱海平原だ」(尭雲)

 

「夢を…見た…お前達二人が…」
「朱き地に勇ましく立ち、大いに敵を屠っておったわ」(藺相如)

 

「二人には、まだ…役割が残っている」
「故に、絶対に俺を追ってはならん」
「よいな」(藺相如)

 

「尭雲。その時は…朱き平原を…敵の血でさらに深き朱に染めてやれ……」(藺相如)

 

「危ういな……」
「尭雲に趙峩龍…王都圏にまで来れば、寝ていた虎も目を覚ますか…」(王翦)

 

「(矛に熱が?) 当然だ……」
「主を失ってなお生き長らえたこの年月が無意味でなかったと、今知った」(趙峩龍)

 

「燃え上がらぬはずがない」
「なァ、そうであろう、尭雲」(趙峩龍)

 

「お前は全っ然嬉しくねーだろうが」
「助けに来てやったぜ、王賁」(信)

 

「力業(わざ)はあの二人の本流に任せる」
「私達は周りを援護するぞ」(羌瘣)

 

「あの二人は嫌な臭いだ」
「玉鳳隊・王賁と飛信隊・信……」(尭雲)

 

「二人はかつて列国に禍(わざわい)をなした」
「あの六人と同じ臭いをすでに発している……」(尭雲)

 

「俺はあの二人を討ちに行く」
「化ける前にここで沈めておく」(尭雲)

 

「蒙恬の覚醒で左は膠着する」
「つまり右翼で勝ち、全体の勝利に繋げねばならぬ」(王翦)

 

「想定より早いが…飛信隊(お前達)の主戦場もこれで確定した」
「行け、飛信隊。いよいよお前達の本戦だ」(王翦)

 

「(援軍?) 待て、テン」
「直感だが、その”揺らぎ”が起きるのを、あの敵は待ってる気がする」(信)

 

「それに、この飛信隊はそんなに”ヤワ”じゃねェ」(信)

 

「まさか飛信隊(うち)の歩兵団に突入して来て」
「生きて帰れるなんて思ってないよなァ」(崇原)

 

「かっての”英雄”だ。強ェのは、見ただけで十分分かるが…」
「奴をぶっ倒して、俺達が今の”英雄”になる!」(信)

 

「この大戦はきっと永く語り継がれる」
「史に名を刻みなよ、信」(河了貂)

 

「小隊・中隊同士の力が拮抗しているなら、勝敗を決めるのは──」
「用兵術、つまり戦術の差だ」(羌瘣)

 

「ダメだ…さっきから何をやっても裏目に出る」
「オレの意図が全て見透かされてるみたいに…」(河了貂)

 

「なのにオレは相手の考えが全く読めてない…」
「読めないから受けきれず、隊がやられていく…」(河了貂)

 

「何で読めない」
「相手は基礎戦術から変化をつけてくるだけなのに…」
「その変化が全く読めない……」(河了貂)

 

「一体何なんだ、この敵は……」(河了貂)

 

「(通じぬ?) いや、優秀な軍師であるからこそはまるのだ」(趙峩龍)

 

「奴も私も大軍師・藺相如の弟子」
「最上級の戦術までしっかり叩き込まれている」(趙峩龍)

 

「だが尭雲の強さは、それとは別の所にあるのだ」(趙峩龍)

 

「(敵の考え?) ああ、分かる」
「ただの”直感”だ」(信)

 

「これまでと気配が違っている、指揮官が代わったか」
「しかも”同型”か」(尭雲)

 

「面白い…どこまでついて来れるか見物だ……」(尭雲)

 

「……俺に見えたってことは、向こうにも見えたってことだ」
「なァ、そうだろう? 尭雲!!」(信)

 

「”怪鳥”王騎の矛だ」
「半信半疑だった故一刀試したが、どうやら本物の王騎の矛のようだ」(尭雲)

 

「いきなりその矛に出くわすとは、これも我が主の誘(いざな)いか」
「俺はかつてその矛を叩き折るために戦っていた」(尭雲)

 

「いや…その矛だけではない」
「秦六将全員の首を飛ばすために戦っていた」(尭雲)

 

「秦の人間共よ」
「今のお前達はある”幸運”の上に立っているに過ぎぬことを知っているか?」(尭雲)

 

「”寿命”だ」
「我が主・藺相如が短命でなかったならば、中華の歴史は…」
「ことさら秦の歴史は大きく変わっていた」(尭雲)

 

「藺相如さえ永くご健在であれば」
「廉頗との両輪で貴様ら六将など、全員地の底に沈めていた」(尭雲)

 

「死んだ奴が生きてたらこうなってたなんてのは、戦場じゃ下らねェ寝言だ」(信)

 

「大昔に死んだ主人の影にしがみついていてェなら」
「ンなとこに出て来ねェで家ン中でそのまま朽ち果てとけ」(信)

 

「俺も無様に朽ちると思っていた…だがそうもいかなくなった」
「なぜなら、お前達が”約束の地”に来てしまったからだ」(尭雲)

 

「止まっていた俺の刻(とき)が動き出したのだ…」(尭雲)

 

「その程度で我が主を侮辱したのか、飛信隊・信」
「矛の嘆きが聞こえるようだ」(尭雲)

 

「その矛は多くのものを宿す、正に名刀」
「だがお前は違う、ただの”勘違い”だ」(尭雲)

 

「幸運なる秦人が、さらに幸運を重ねただけの人間」
「お前は運よく王騎の死に居合わせ、ただ矛をもらっただけ」(尭雲)

 

「ただ運がよかっただけの男だ」(尭雲)

 

「もらっただけだと…!?」
「あ……あれが……ただもらっただけだと!?」
「ふざけるなっ!!」(信)

 

51巻

「言ってみろ、尭雲」
「この矛のどこに、そんな軽さがある!!」(信)

 

「強いな、飛信隊・信」
「少し安心したぞ」
「どうやら貴様は、その矛を手にとる資格はあるようだ」(尭雲)

 

「(当たり前?) 当たり前のようで当たり前ではない」
「単純な武の話ではなく、重要なのは貴様が”人の強さ”が何かを知っていることだ」(尭雲)

 

「……自覚はなさそうだがな」
「まァいい、どうせ貴様はここで死ぬ」(尭雲)

 

「横でおきた”大炎”は貴様らを余さず焼き尽くす」
「そして貴様は俺に討たれ、飛信隊の光はこの朱海平原の野に消える!」(尭雲)

 

「飲み込まれる前に”策”を使うぞ」
「(一瞬でやられる?) それは分かっている」
「でも何かやらないとこのままじゃ必ず負ける」(羌瘣)

 

「(一網打尽されるのはこっち?) だが何か行動に出ないとふつうに負ける」
「だったら、歩兵の”最大火力”を集めて勝負に出た方がまだ光がある、と思う」(羌瘣)

 

「共に戦って勝利を摑むぞ!」(羌瘣)

 

「(羌瘣はもっと強い?) 当たり前だ」
「あいつが本気出せば、もう…人じゃない」(尾平)

 

「分かってるよ、緑穂」
「わざと早めに休んでこまめに呼吸を戻してるんだ」(羌瘣)

 

「そっちの方がより長く戦える」
「つまり、より多くの敵を斬れる」(羌瘣)

 

「一人でも多く私が敵を倒さないと、この乱戦は勝てない!」(羌瘣)

 

「(嫌な報告?) 情けなくも”勘”が鈍っておるのか…それとも…」
「我が矛も復帰戦で力半分というところだ」(尭雲)

 

「朱海平原が開戦してまだ三日だけど、緑穂が日に日に緊張を増していく」
「きっと……この戦いは…私達が死力を尽くしきらないと勝てないんだと思う」(羌瘣)

 

「(五千将如き?) 侮るな」
「あの”六将”達も、かつては五千将であり、三千将であり、百将であった」(尭雲)

 

「我ら二人は、秦の暴威をくじかんとあの時代に放たれた必殺の矢だ」(尭雲)

 

「だが、俺も趙峩龍も単なる刃の一つ」
「この戦いを勝利に導くのは無論、歴代最強の三大天・李牧様だ」(尭雲)

 

「今さらうろたえるな!」(嬴政)

 

「これまでで最も難しい戦だと分かってしかけたのだ」
「故にあらゆる苦境をはね返す人選も準備もしっかりして送り出した」(嬴政)

 

「あとは戦場にいる者達を信じるだけだ!!」(嬴政)

 

「よく見とけ、平地のバカ共」
「飢えが進むとこうやって戦どころじゃなくなるんだからな」(キタリ)

 

「難しいのは重々承知!」
「故に明日からは大いなる”犠牲”…我らの身を切る作戦で挑む必要がある」(楊端和)

 

「(どうして?) 今さらそれを聞くのか、壁」
「とうの昔に、お前を戦友(とも)と思っていたが」(楊端和)

 

「……端和殿」
「ならば我が軍も等しく命を…いや当然それ以上に命を捧げて明日戦いまする」(壁)

 

「ゆっ、故に、大将・楊端和様どうかっ…どうか私に挽回の機をお与え下さいっ」(壁)

 

「明日三軍の一角を、どうか私の軍にお任せ頂きたい!!」
「この壁もう決して、あなたを失望させることは致しませぬ!!」(壁)

 

「兵糧の切れかかってきた敵は、まずはこちらの三将を狙ってくる」
「猿共の考えることなどお見通しだ!」(舜水樹)

 

「(入れ換わる?) 心遣い感謝する。しかし無用な申し出だ、カタリ殿」
「この壁、端和殿と約束したのだ、男を見せると!!」(壁)

 

「大丈夫だ!」
「この八日でさすがに敵には慣れた、ならば次は我らの力が発揮される!」
「ああ、”基本戦術”だ」(壁)

 

「私同様に、我が軍には派手さはない」
「だが、あらゆる基本戦術は何百回と繰り返した」(壁)

 

「修復と防衛、我々はどの軍よりも素早く的確に実行する」
「数にものいわせる騎馬の突撃など、繰り返し何度でも返り討つ」(壁)

 

「はまれば崩れぬ”基本戦術”ほどやっかいなものはないぞ、犬戎軍よ!」(壁)

 

「久しぶりだな」
「この後の無い感じは……」(楊端和)

 

「(さっさと退散?) ……ああ、本気(マジ)でそう(兵糧切れに)なったならな」(桓騎)

 

「一手で趙左翼は討てぬ」
「理由は向こうには討ち取れば勝ちとなる大将がいないからだ」(王賁)

 

「だが上下がない故の弱みもある」
「上から総監する者がいない故、”各個撃破”されやすいという点だ」(王賁)

 

「いくらでも攻めてくるがいい、趙三将」
「王翦様より授かったこの防陣、貴様ら如きに破られるわけがない」(亜光)

 

52巻

「この右翼において亜光将軍の代わりはきかぬ」
「玉鳳本隊は左に反転、亜光将軍の救出に行くぞ!」(王賁)

 

「岳嬰には飛信隊・信が迫っている」
「岳嬰の首は信(あいつ)に託す」(王賁)

 

「岳嬰を討てど亜光が討たれ、その首をさらされては右翼は終わる」
「何としてもそれだけは避けねばならん」(王賁)

 

「亜光…生還を期待するが、もし無理であっても」
「せめて骸(むくろ)だけは必ず連れ帰るぞ…」(王賁)

 

「キタリ殿を置いて逃げるわけがないだろうが」
「先に助けてくれたのはキタリ殿達だ」(壁)

 

「何度も何度も我々は助けてもらってばかりでっ…」
「今度は我々が体を張ってキタリ殿だけでもっ…」(壁)

 

「お前達を絶望の淵に追いやるのは、犬戎王の軍だけじゃない」
「忘れてはおるまいな」(舜水樹)

 

「私が族長で本当にいいのか!?」
「ならば新族長キタリの言葉として全員に伝えろ」
「今この時よりカタリの仇を討つまで、一切の涙を禁ずる」(キタリ)

 

「顔を上げろ、山界の雄達よ」
「この戦いは盟友・秦国の夢と存亡をかけた戦いだ」
「我らがしくじるわけにはいかない」(楊端和)

 

「これまでの山界の力の結集は、この戦いのためであったと思い最後まで戦え」
「明日の太陽は、我らの勝利を祝う太陽だ」(楊端和)

 

「(降伏?) まだそうはいかない」
「お前達が私の居場所を知らせるために笛を吹きまくってるせいで、駆けつけてしまったぞ」
「最強の戦士がな」(楊端和)

 

「ずっと綱渡りみたいなものだ」
「梟鳴族もメラ族も強かった…」(楊端和)

 

「だが今まで戦った中で一人の戦士として一番手強いと感じたのは」
「バジオウお前だった」(楊端和)

 

「いいか」
「お前がこのまま獣でいる気なら、今この場でお前を殺す」(楊端和)

 

「だがそうじゃなく人に戻るのなら、今からお前を私の家族に迎え入れる」(楊端和)

 

53巻

「(厄介な軍?) 笑わせるな」
「雑魚が何人湧こうが、このロゾの相手ではないわ」(ロゾ)

 

「私がカタリの仇ブネンを討ち、楊端和を助ける」
「壁将軍、お前は…犬戎王ロゾの首を取りに行け!!」(キタリ)

 

「壁将軍。お前は戦いもパッとしない上に、兵糧も焼かれた最低の男だ」
「だがここで敵の大将ロゾの首を取れば、全部帳消しにしてやる」(キタリ)

 

「楊端和に…我々の将軍・壁が男であることを見せてみろ!!」(キタリ)

 

「カタリは私の十倍速かった」
「カタリは私の百倍強かった」
「なのにお前なんかに…お前なんかにッ…」
「死んで詫びやがれ、クソヤロォ」(キタリ)

 

「(覚えてない?) それだけ必死だったということだ」
「男をみせたな、壁。本当によくやった」(楊端和)

 

「ムダじゃねェよ」
「あいつは今、やれることをやってんだ」(信)

 

「……坊ちゃんくせに、あがいてやがる」
「テン…俺らも今、やれることをやるぞ」(信)

 

「本当に飢えが始まると、人は違った闘志が生まれる」
「その前に全滅させるか、戦力をほとんど潰しておく」(趙峩龍)

 

「もはや戦術でどうこうなる状況ではない」(王賁)

 

「もはや必要なのは戦術ではない」
「明日までに必要なのは…隊の”覚醒”だ!」(王賁)

 

「隊士一人一人をさらなる高みに進化させて」
「隊そのものを一気に今より強くするのだ」(王賁)

 

「援軍も指示も来ぬのなら、この右だけで戦えというのなら、これ以外に道はない」(王賁)

 

「中心となる亜光軍が頼みとならぬ今、玉鳳と飛信隊が一夜で覚醒し」
「敵より強くなる以外に勝つ道はない!」(王賁)

 

「こんな所で終わってたまるかよ」
「力を貸してくれ、飛信隊」
「俺はっ、お前達と一緒に天下の大将軍まで突っ走るんだ」(信)

 

「力をっ、力を貸せ、飛信隊!!」(信)

 

「今の戦況は、これまでの中で最も厳しいものだ」
「打開策も見出せぬ程の苦況だ」(王賁)

 

「だが勝たねばならぬ」
「他を頼らず、この玉鳳の力で勝たねばならぬ」(王賁)

 

「友よ、力を貸してくれ」(王賁)

 

「出るぞ玉鳳」
「我らが道をっ、切り開く!!」(王賁)

 

「(隊形?) 構わない!!」
「……理屈じゃない。今がっ…」
「恐らく、飛信隊は今この瞬間が、今までで一番強い…!!」(河了貂)

 

54巻

「この(兵糧の)絶対的有利がある限り、我らが敗れることはありません」(李牧)

 

「尭雲の左翼が抜ければ打って出て、王翦を討つもよし」
「そうでなければただ守って、連中が骨と皮になるのを待つもよし」(李牧)

 

「いずれにせよ、この戦いの勝者は私達です!」(李牧)

 

「そうか、お前がカイネか」
「己の命を主に捧げる覚悟の忠誠ぶりは、この尭雲と趙峩龍によく似ている」(尭雲)

 

「せめて願うは、その先まで我らに似ることがなきよう…」
「──ということだ」(尭雲)

 

「お前達と私を一緒にするな…」
「私はお前達とは違うんだ…」(カイネ)

 

「絶っ対にありえぬが、もし李牧様が死ぬことがあったら、その前に私が盾となって死ぬ」
「それが叶わなくても、李牧様が死ねば私も死ぬ、絶対に!」(カイネ)

 

「お前達みたいに自分だけ生き永らえるなんて、私は絶対にしない!!」
「分かったか!!」(カイネ)

 

「我らは主に殉死を止められ、趙国存亡をかけるこの朱海平原での戦いを託された」
「今は多くのことに感謝している」(尭雲)

 

「無論、主に」
「そしてこれまでのこのたぎる思いを全力でぶつけることができる相手…」
「覚醒した飛信隊と玉鳳の存在に感謝している」(尭雲)

 

「全力でいくぞ、若き虎達よ」
「列国の大将軍達と渡り合っていた、我らの力を教えてやる」(尭雲)

 

「飛信隊の覚醒は分かっていたが、玉鳳は半分賭けであった」(王翦)

 

「愚問だ、倉央」
「越えると読むから、ここまで前に出て来たのだ」(王翦)

 

「尭雲が自ら来るなら来るで私が討つ」
「馬上は難しいが、下に降ろせば私が勝つ」(羌瘣)

 

「大丈夫」
「今は圧倒的に私達の方が強い!」(羌瘣)

 

「”魏火龍”紫伯を討ち取った俺の槍が、尭雲を討てぬ道理はない」(王賁)

 

「しっかりしろ、あいつ(王賁)は大丈夫だ」
「(心臓が?) それでも大丈夫だ」(信)

 

「あいつは死なねェ、死んでたまるか」(信)

 

「俺はあいつを見舞いにここに来たんじゃねェ」
「俺は明日どうやって趙左翼に勝つか、玉鳳と話し合いに来たんだ」(信)

 

「(まだ?) 当たり前だ」
「俺達は勝つために戦ってんだ!!」(信)

 

「多分今日、大勢死ぬ…死なせてしまう…!!」
「でも、それでも…」(河了貂)

 

「いつも通りの感じでいけ」
「あんまり色々考えすぎると、躊躇して判断を間違うぞ」(信)

 

「分かってるだろうが手加減は全くいらねェからな」
「俺達は全員で命をかけて勝利をつかみ取る、飛信隊だ」(信)

 

「ありがとう、信」
「俺も今日が一番勇気が必要だった」
「もらったよ」(河了貂)

 

「(援軍を遅れぬ?) 逆もまた然りだ」(王翦)

 

「お互い様ですよ」
「私が尭雲以降援軍を送らないから、紛糾している秦右翼に王翦は援軍を送れません」(李牧)

 

「しかしこうした王翦との見えない攻防も、もうすぐ終わります」(李牧)

 

「現場の兵を二人の判断で動かして…助けるべきところだけを助けて」
「助からないと思うところは最初から助けに行かないで」(河了貂)

 

「小隊ごとに戦術を使いこなす我が兵を相手に」
「守備を捨ておくのは致命的だぞ、飛信隊!」(趙峩龍)

 

「うちが趙峩龍軍と戦うのは初めてだ」
「だから驚いているはずだ、この攻めの力に」(河了貂)

 

「そしてこれが…このくらいが飛信隊の力だと勘違いさせるんだ」(河了貂)

 

「本命が最前線に出た時、飛信隊の力は趙峩龍の読みを上回る」
「それで一気に趙峩龍の首を取る!!」(河了貂)

 

「戦は”流れ”だ」
「”流れ”が変わるぞ、飛信隊」(趙峩龍)

 

「……あれが本当の趙峩龍の防陣だ」
「尭雲があの元三大天・藺相如の”剣”だったならば、趙峩龍は”盾”だったんだ」
「つまりあれは、趙三大天の鉄壁の守り」(河了貂)

 

「抜くに決まってる」
「だってあいつは…三大天や六将らと並ぶ…いやそれを追い抜くっ…」
「大将軍になる男だから!!」(河了貂)

 

55巻

「新人のバカたれ共が足手まといは当然だろうが」
「お前らは俺達と…信が見てる景色を一緒に見たいから」
「飛信隊(うち)に来たんだろうが」(松左)

 

「だったら俺なんかのために命捨てるなんて、口がさけても言うんじゃねェ」(松左)

 

「飛信隊がこの朱海平原で奇跡を起こして勝つって信が言っただろうが」
「それが大将軍の道につながるって言っただろうが」(松左)

 

「それを支えんのが、俺やお前達なんだ」
「ここはまだ、お前達の死に場所じゃない」(松左)

 

「悪いが…俺を…できるだけ…前の方に運んでこれねェか」
「信のいる前の方に…」(松左)

 

「わがままで悪いが、最後はできるだけ信(あいつ)の近くに…」
「信(あいつ)の…」(松左)

 

「将自ら先陣を行く列将達とは、嫌という程戦ってきた」
「故によく知る」(趙峩龍)

 

「お前達は前を阻む敵には無類の強さを見せるが」
「得てしそうでない敵には気の当て場を失う」(趙峩龍)

 

「この趙峩龍の戦い方は一見単純にうつるが、中身は攻守が混在する複雑なものだ」(趙峩龍)

 

「正直防陣を抜かれるとは思っていなかったが」
「最強の徐兵団を後方に置いていたということは」
「そこが用意されていた狩り場だったということだ」(趙峩龍)

 

「無論、別働隊もお前達の手薄な本陣を狙って動いている」(趙峩龍)

 

「嫌な相手で悪かったな、飛信隊」
「俺は尭雲と違い、相手の刃が体に触れることなく、常に勝つ」(趙峩龍)

 

「”目的”を変える」
「私が限界まで力を使えば脱出は出来るだろうが、それではその先がつながらない」
「だから脱出はしない」(羌瘣)

 

「この包囲を作っているのは、趙峩龍の精鋭兵ばかり」
「いわば敵の主力部隊が結集してる」(羌瘣)

 

「だから、斬って斬って斬りまくって、趙峩龍軍の主力をここに消す!」(羌瘣)

 

「崇原」
「楽しかったな…」(松左)

 

「色んな隊を渡り歩いた俺達は、よく分かるよな…」
「この…飛信隊は本当に最高だ」(松左)

 

「ちょっとばかし先にいくが、隊を…信を…頼んだぞ」
「本当に、楽しかった…」(松左)

 

「会ってお前の顔を見てみたかった、秦六将・王騎……」
「思っていた通り、やはりお前達は良くも悪くも大いに”無邪気”だ」(藺相如)

 

「その無邪気さがお前達をここまで強くしていることは間違いない」
「だがそれだけでは届かぬ」(藺相如)

 

「届かぬということは、その刻(とき)ではないということだ」
「やはり中華はまだ、熟しきれていない…」(藺相如)

 

「……お前も少しは分かっているはずだ」
「もう随分と前からずっと、中華はかの日が来るのを待っていると」(藺相如)

 

「(私が)弱いわけがなかろうが」
「思いを紡いでいくのが”人”ならば、我が双肩には先に逝った八将と…」
「病という不運で黄金の時代を去った主・藺相如の思いが宿る」(趙峩龍)

 

「故にっ…砕け散れ、飛信隊・信!!」(趙峩龍)

 

「俺は…負けねェ、俺は…砕けねェ」
「俺は…中華を統一する王・嬴政の……金剛の剣だ」(信)

 

「そして俺は、俺はっ、天下の大将軍になる男だっ!!」(信)

 

「そういうのはやめろ、羌瘣」
「皆で勝つんだ、ちゃんと生き残ってな」(信)

 

「あんなものは何でもありませんよ」
「ただ”守る”だけなら、いくらでも守れます」(李牧)

 

「たとえ左から秦右翼が抜けて攻めて来ようと守りきれます」
「兵糧が尽きた彼らが骨と皮になるまで、何回もただ守って勝てばいいだけです」(李牧)

 

56巻

「猶予はあります」
「今日のこの一日をかけて王翦軍を倒し、返す刀で鄴へ一日へ行き」
「取り巻く桓騎軍を討つ!」(李牧)

 

「(間に合うか?) 他に道はない」(李牧)

 

「やってくれましたね、王翦」(李牧)

 

「列尾を越える時、あの時描いた勝機がようやく形を成して浮かび上がった」
「あとは手に取るだけだ」(王翦)

 

「李牧を討つ!」
「こちらも全面攻撃の陣に移れ」(王翦)

 

「人はものをつかむ時、手を動かす」
「だが同時だが、わずかに先に肩が動く」
「もっと言うと対になる腰に先に力が発している」(王翦)

 

「それが”起こり”だ」
「軍にもその”起こり”がある」(王翦)

 

「武を極めると”起こり”を察知し、相手の動きを読む」
「読めば敵の技は通じず、さらに返しの技を出せる」(王翦)

 

「認めざるを得ぬな、李牧」
「私と同じ怪物と」(王翦)

 

「面倒だ」
「まとめて一気に決着をつける」(王翦)

 

「落ちませんよ」
「鄴は趙の喉元を守る盾です」
「鄴を失えばあなた方の狙い通り趙国は傾きます」(李牧)

 

「──が、趙国百六十年の歴史の重みにかけて、そんなことにはなりません」
「鄴は決して軽くありませんよ、王翦」(李牧)

 

「下らんな、歴史の重みで国が救われるものではない」
「上に立つ者共が馬鹿の集団であれば、それだけで国は亡ぶ」(王翦)

 

「虚しくならぬか、李牧」
「お前達が命がけで尽くしても、上のせいでそれはどこにも実を結ばぬ」(王翦)

 

「その才覚を虚しくするなと言っておるのだ」(王翦)

 

「私と一緒に来い、李牧」
「お前が私と組み力を貸すなら、二人で全く新しい最強の国を作ることが出来る」(王翦)

 

「私の直感ですが、あなたは国を亡ぼすことはできても」
「国を生み出すことはできない人間です」(李牧)

 

「王翦、あなたは恐らくこの場にいる誰よりも愚かな人間だ」(李牧)

 

「私の双肩には、趙国の命運がのしかかっている」
「だからどんな苦境でも、全てをかけて戦うのです」(李牧)

 

「……”大義”です」
「己を最上に置く歪んだあなたには、理解できないでしょうが」(李牧)

 

「私はある時から、守るものがあった方が燃えるようになりましたので…」
「趙国を滅ぼすことは私が決してさせませんよ、王翦」(李牧)

 

「(後悔する?) あなたの方です」(李牧)

 

「李牧、程なくして右翼が抜けてくる…」
「お前に勝ち目はない!」(王翦)

「王翦…秦右翼を頼みとしてもムダですよ…」
「あなたに勝ち目はない!」(李牧)

 

「来るな、来なくていいい」
「俺を信じろ」(王賁)

 

「中華のうねりは今、極限に向かっているのだ」
「一度”応え”を出せと」
「一つになるのか、そうでないのかの応えだ」(尭雲)

 

「分かっているか、王賁」
「お前達が立っている場所が」(尭雲)

 

「我はお前達を抹殺すべく送り出された藺相如の刃だ」(尭雲)

 

「お前達に俺の立つ場所をとやかく言われる筋合いはない」
「俺はただ、敵を貫いて前へ進むだけだ」(王賁)

 

「我が主・藺相如から、お前達に向けて預かっていた言葉だ…」
「お前達が本当に中華を一つにする刃足らんと願うのならば、胸に深く刻んでおけ」(尭雲)

 

「何があろうと必ず、振り上げた刃は必ず最後まで振り下ろせ」(尭雲)

 

「李牧…”答え”をもらいに来たぞ」(龐煖)

 

「約20年前──我々が初めて会った刻にかわした”約束”」
「その約束を果たす日が今日です」(李牧)

 

「龐煖、私は”答えに導く者”だったはず」
「あなたの求める”答え”を今持っているのは別の人間です」(李牧)

 

「そしてあなた自身も気づいているはずです」
「それが……誰であるのかを」(李牧)

 

57巻

「さすがに後がない敵も必死になって守ってる」
「でもいわばこれは最後の砦…」
「力でねじ伏せろ、ここを抜ければ本当にもう李牧本陣だっ」(河了貂)

 

「いや、李牧は決して無意味なことはせぬ」
「李牧は本気でこの本陣を討つ気だ」(王翦)

 

「……何かがある」
「いや、何かが来る!」(王翦)

 

「”挟撃”には…”挟撃”で返す!」(李牧)

 

「……絶対絶命の窮地だから…行かねばならんのだ」
「助けに行かねば…父を」(王賁)

 

「理解に苦しむ」
「お前がその数で入って来ても、この死地は何も変わらぬ」
「……愚か者が」(王翦)

 

「幕ではない」
「総大将・王翦には、指一本触れさせぬ」(王賁)

 

「さすが王賁、あっち(馬南慈)は俺がやる」(蒙恬)

 

「知ってるよ、報告にあった趙左翼の剛将・馬南慈」
「状況からして間違いなく、この男を止めない限り王翦将軍は助からない」(蒙恬)

 

「かと言って、百回戦って一回勝てるかくらいの武力の差がある」
「こっちにある”利”は、馬南慈は俺のことを知らないこと」(蒙恬)

 

「最初の一刀で仕留め損ねたら俺は負ける」(蒙恬)

 

「ここはガキ共の、夢追い場ではないぞ」
「せっ、戦場に夢を見る貴様らのような奴らがいるから、戦争は無くならぬのだっ!!」(金毛)

 

「それは違う!」
「戦争が無くならない原因の源は、あんた達の方だっ」(河了貂)

 

「でも…それは否定はしない、思いはそれぞれだ」
「オレ達の思いも決して子供じみたものじゃない、本当に……」(河了貂)

 

「ただ今は戦争だから互いにぶつかり合うしか仕方がない…」
「仕方がないから信はいつもこう言うんだ…」(河了貂)

 

「金毛、お前の思いもオレ達が背負っていくって……」(河了貂)

 

「(思いは)分かるよ」
「ちゃんと分かるから信は強いんだ」
「そして飛信隊も…」(河了貂)

 

「しっかり見届けますよ、龐煖」
「あなた達の……結末を!」(李牧)

 

「まだ足りない」
「もっと速く、もっと深く」(羌瘣)

 

「ごめん緑穂、命を貸して」(羌瘣)

 

「戦わせない」
「信(あいつ)が来る前に、龐煖(お前)を仕留める!」(羌瘣)

 

「今の龐煖はもう極みの淵に立つ」
「奴を倒すには今までで一番深いところまでいかないと…」(羌瘣)

 

「命を投げ出すほどに深いとろこまで……」(羌瘣)

 

「ふざけるな」
「吠えるな、”神堕とし”の分際で」(龐煖)

 

「貴様こそ所詮は”器”、宿す者ではない」
「今の貴様の境地など、とうに踏みしだいたわ」(龐煖)

 

「我…武神龐煖也」(龐煖)

 

「土に還れ、神堕とし」(龐煖)

 

「龐煖。お前は……何なんだっ」
「お前は……マジでっ…っ」
「何なんだ、龐煖っ!!」(信)

 

「言っても信じないと思いますが」
「龐煖は、我々”人”の代表です」(李牧)

 

「貴様(李牧)の”役目”は、まだ何も果たされていない」(龐煖)

 

「貴様らには、聞き取れぬ声が俺には聞こえる」
「”地”の声だ」
「その声が、俺と貴様を会わせた」(龐煖)

 

「貴様は俺の道を答えに”導く者”だと」(龐煖)

 

「李牧、覚えておけ」
「俺の名は”求道(ぐどう)者”龐煖だ」(龐煖)

 

「”求道者”とは、文字通り”道”を求める者」
「そしてその道とは、”人の救済”です」(李牧)

 

「我らの考える”愛”を求道者は持ち合わせませんよ」
「人の”情”を否定したのが求道者」(李牧)

 

「彼らにはただ、道があるのみ」
「龐煖には武神への”道”があるだけです」(李牧)

 

「龐煖が人の代表ならば、彼(信)も…いや彼らも」
「人の代表です」(李牧)

 

「私が龐煖の道を答えに導く者」
「そして、信はその答えを持つ者」(李牧)

 

58巻

「あれが龐煖の対極にある力……龐煖が理解できない力です」(李牧)

 

「……個で、武の結晶となった龐煖とは真逆…」
「関わる人間達の思いを紡いで束にして戦う力です」(李牧)

 

「分かってる」
「みんなが…力を貸してくれてるのはちゃんと分かってるぜ、漂」(信)

 

「でも龐煖にはそれがねェ」
「それがねェから龐煖の刃は…痛ェだけで重くねェんだ」(信)

 

「蕞で戦った時と変わってねェ」
「龐煖、お前の刃は重くねェんだよ」(信)

 

「何度も何度も同じことを」
「それがそもそもの誤りだと」(龐煖)

 

「その連なりこそが人を人に縛りつける鎖」
「その暗き鎖を打ち砕くのが我が刃」(龐煖)

 

「その矛盾こそが、龐煖につきつけられた”答え”」(李牧)

 

「人を上の存在に引き上げるべく超越者たらんとその力を天に示す龐煖が」
「正に人の力を体現する者達に勝てぬという現実」(李牧)

 

「つまりそれは…誰がどう足掻こうが人が人を越える存在には成り得ぬ」
「所詮は人は人でしかないという天からの残酷な”答え”です」(李牧)

 

「大丈夫、ちゃんと聞こえてるぜ」
「漂…ああ、分かってる」(信)

 

「お前達だけじゃない」
「俺には仲間が…俺には生きてる仲間が大勢いる」
「大勢いるんだよ、龐煖」(信)

 

「なぜだ、なぜこんなことが起こる……」
「お前は…お前達はなぜ我が刃に抗える……」
「道を極めし我が刃に…なぜ」(龐煖)

 

「道が……間違っていたとでも言うのか……」
「いや……そもそも道そのものが無かったのでは」(龐煖)

 

「人にそんな道など」(龐煖)

 

「いや、そんなことはない」
「道が無いなど、そんなことは断じてない」(龐煖)

 

「早く起きないと、全部終わっちゃうよ?」
「飛信隊も、信の夢も」(河了貂)

 

「だ…だって…なってないじゃん…」
「まだ天下の大将軍になってないじゃん、信っ」(河了貂)

 

「どけ、河了貂」
「どいてろ…私が…助ける…!」(羌瘣)

 

「(寿命を半分?) そんなの即決だ、全部やる」(羌瘣)

 

「どうしても死なせたくない信を、私の命全部やるから」
「あいつを助けに行かせてくれ」(羌瘣)

 

「覚えてないのか」
「……別に、大したことはしてない」(羌瘣)

 

「準備は出来たか」
「行くぞ、鄴へ」(王翦)

 

「李牧と俺の軍略はほぼ互角であったと見る」
「何がどう大きく勝ったというものはない」(王翦)

 

「むしろ先に両腕・亜光と麻鉱を失った戦局を見ると」
「鋭さは奴の方が一枚上手であった」(王翦)

 

「手駒の差だ」(王翦)

 

「若き三人の駒が台頭し軍の力は失墜するどころか」
「結果神がかった粘りと強さを見せた」(王翦)

 

「あの三人の戦いぶりが、李牧の描いた戦いの絵を大きく狂わせたことは間違いない」(王翦)

 

「(遅かった?) やはり、そう容易い相手ではなかった」(王翦)

 

59巻

「王都本軍が動くならそもそもこうはなっておらぬ」
「我らの王はクソだ」(扈輒)

 

「(李牧様が斬首になる?) 我らの王はどこまで愚かなのか」(舜水樹)

 

「李牧殿を救わねばならぬ」
「あの方を失えば、趙は終わるぞ」(扈輒)

 

「王を殺してでも李牧様を助ける」(舜水樹)

 

「将軍になる前にお前は姓を持つ必要がある」
「よって姓を与えるから何がいいか考えろ、信」(嬴政)

 

「そっか、漂は姓をもらってたのか」
「へへへ、じゃ──俺も李信にする」(李信)

 

「(犠牲は)たくさん出たよ、大切な仲間を大勢失った」
「だから……立ち止まらず前に進まないと!」(河了貂)

 

「急な大移住が不安と言っておきながら、軍隊の軍師としての考えは…全く別…」
「李牧が欠けゴタついている趙には、今こそ攻め刻(どき)だ」(河了貂)

 

「……俺は(死罪に)なってほしくねー」
「俺は王騎将軍を倒した李牧をこの手で討ちてェ」(李信)

 

「李牧を討って、天下の大将軍になるんだ!」(李信)

 

「李牧がこのまま死ねば、恐らくこっちは数万の兵の命が救われる」
「わかってるなら、そんなことを軽々しく声を大にして言うな」(蒙恬)

 

「俺だって李牧には敬服しているよ、信」
「今この中華で李牧は誰より国のために戦っている」(蒙恬)

 

「それでもしこのまま死罪となれば…あまりにもかわいそうな人だ」(蒙恬)

 

「舜水樹…私は中の小隊(決死隊)に入れてくれないか…」
「私が李牧様を救い出す…何があっても私が…」(カイネ)

 

「手足を失っても、腸(はらわた)を引きずってでも私が…」
「全てをかけて私が李牧様を救い出す!」(カイネ)

 

「とにかく生き延びるのです」
「嘉様が死ねばこの国の光も消えてしまいます」
「どうか再起の日が来るまで何としても……」(李牧)

 

「それまで我々が守り抜きます故、太子はお気持ちを強く……」(李牧)

 

「何でだっ」
「こんなのおかしいだろ、趙人同士で…」(カイネ)

 

「しかも、よりによって李牧様に刃を向けるなんて……っかしいだろ」
「こんなのおかしいだろ」(カイネ)

 

「こんな時期にこの国は…私達は一体何をしているのか…」(李牧)

 

「……さすがに、ちょっと疲れましたね」(李牧)

 

「カイネ、もう少しだけそこに居てくれませんか」(李牧)

 

「……も…もちろんです」
「カイネは……李牧様の側にずっと居ます」
「何があってもずっと…ずっと側に居ますよ」(カイネ)

 

60巻

「やばいやばい」
「あ、あんなに落ち込まれた李牧様を初めて見たから」
「つ…つらすぎてよく分からなくなって…」(カイネ)

 

「つい…つい変な感じで抱きついてしまったー!!」(カイネ)

 

「私は何か越えてはならない一線を越えたのでは…」(カイネ)

 

「き、気のせいか?」
「てかあの場にもっと居たかった」
「なぜ飛び出した、私」(カイネ)

 

「くそォ、私の臆病者ォ」(カイネ)

 

「消去法で逃げるのではありません」
「秦軍に打ち勝ち、この趙を亡国の危機から救うには、必ず我々の力が必要です」(李牧)

 

「私が軍総司令に戻るまでの間、この軍は雌伏するのです」(李牧)

 

「今の何倍もの力になって復帰できるよう、ここから立て直していきますよ!」(李牧)

 

「話は分かった、肆氏…」
「だがまずは俺が会ってこよう」
「直接会って話してくる…呂不韋と」(嬴政)

 

「お前は変わってないな、呂不韋」
「あの時と同じ、蘄年宮で俺に負けを認めたままの目をしている」(嬴政)

 

「ああ、俺はその目を確かめるために足を運んだ」(嬴政)

 

「終わったと思っても終わってない」
「かつての内乱の平定ですら、思った以上に難しいということです」(呂不韋)

 

「これが”中華”となれば、やはり想像を絶しますぞ」(呂不韋)

 

「性懲りもなく反乱の徒が湧いて集まる原因は私にではなく…」
「あなたに問題があるのです、大王」(呂不韋)

 

「あなたは優しすぎるのです、大王」(呂不韋)

 

「しかし、本当に覚えておいて下され」
「その優しさは大王様の武器でもあるが、先々唯一の弱点と成り得ますぞ」(呂不韋)

 

「夢々、お忘れにならぬように」
「これが呂不韋の最初で最後の進言です」(呂不韋)

 

「今も人の正体は”光”だと信じていますか?」
「そうですか……では心からご武運を祈っております」(呂不韋)

 

「私はこの河南の外に出れば死罪となるため叶いませんが」
「惜しむらくはあなた様の中華統一の様」
「そして作られるであろう新世界をこの両の目で見て回りたかった」(呂不韋)

 

最後まで読んで頂き、ありがとうございました。

 
 
 
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